BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- GL 『宿縁』(完結)
- 日時: 2013/07/20 16:35
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
参照してくれてありがとうございます。あるまです。
タイトルは「シュクエン」と読みます。
主人公のナナミ視点で、女子中学生どうしの、清らかな恋愛を描いていきます。
着想から完成まで半年ほどかかり、途中でしばらく中断し、前半と後半で雰囲気もだいぶ変わりましたが、なんとか完結までアップできました。
参照数を見る限り、何人かは読んでくれたと思います。
本当にありがとうございました!
______あらすじ______
ナナミは真面目な優等生で、いつもカエの面倒ばかり見ていた。しかしそれが幸せだった。
ところが学校の制度はどんどん厳しくなり、受験を意識して、成績優秀な者とそうでない者を分けたクラス編成にすることが、検討されていた。
冬のテストでナナミは成績上位に入ったが、カエは圏外だった。
ナナミは将来もカエとずっと一緒に居たいと思い、カエに勉強を教えようとするが……。
______プロローグ______
「きっと何かの因縁だよね、あたしたちが惹かれ合ったこと」
カエの表情が弾けるように明るくなった。
一瞬、わたしの背筋に電流が走る。
因縁。
おそらくそれは、生まれる前から、わたしたちが結ばれると決まっていたってことだろう。
屋上の空気はいっそう冷えて、昼間だというのに、やたらと静まり返っていた。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.32 )
- 日時: 2013/04/07 18:33
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
十五
今ある現実が信じられない。
わたしの両肩に兄の手が乗っかり、両脚は兄の腰を左右から挟む形になっている。
「ちょっと兄さん。やっていいことと悪いことが」
頭から血の気が引いていく。
わたしは現実に対処しようと、なるべく落ち着いて喋った。
「俺はもうダメだ」
「え?」
暗がりの中、気の小さそうな兄の顔が見えた。
息もかかるほど近い距離で、こんなのはもう、何年ぶりか分からない。幼い頃以来だ。
頼りない、生きる気力を感じさせない目で、ヒゲも伸ばしっぱなしの兄。
こんな顔は見たくない。
でもお酒のにおいはせず、正気みたいだった。
「俺はもういい。こんな世界に未練なんかない。でも、でも最後に一度だけでも、若い女の香りを嗅いで死にたい」
「お願いだから落ち着いて。わたしなんか、ちっとも美味しくないってば」
悪夢でも見ているようで、頭の中が、どろっと濁った血液がめぐっているみたいにグラグラ来た。
「お前でいい。こんなダメな兄でも、お前は今の今まで、心配してくれていただろ。母さんとか、よその他の連中と違う。お前だけが、本当にダメな俺にでも優しくしてくれたんだよ。他の人間はみんな無理解だ。無慈悲だよ。もうそんな人間とは絶縁したいんだ。でもナナミ、お前だけは」
「わたしの名前を、そんな恋人みたいに呼ばないで……」
わたしは起き上がろうと全身に力を入れる。
無理だ。男の腕力にかなうはずがない。
「最後の最後に、誰かと結ばれたい。その記憶を向こうの世界にも持っていきたい。お前しか居ないんだ。な? 受け容れてくれ。お願いだ!」
兄の、すべてを捨てた、もう失うものなど何もないというような目を見て、わたしは抵抗をあきらめた。
数分後の二人は、どうなっているだろう。
そうなってしまったら、取り返しがつかない。一生の傷になりそうだ。
こんなことなら、迷ってないで、本当に好きなひとに自分の気持ちを伝えればよかったんだ。
自分の身なんか、いつどうなるか分からない。
今が良くたって、後になって、もっとも輝いていたのはあの時だけだった、あの瞬間しかなかったんだって、思うかもしれないじゃないか。
カエ——他の男に汚されるなら、わたしはあなたと一緒に死んでもいいって思うよ。
「わたしには好きなひとが居るのおおぉぉーーーーーーっ!」
わたしは大声でそう叫んだ。
目の前の兄に言うのでもなく、悲鳴をあげて助けを求めようというのでもなく、もっと遠くの誰かに向かって、そう叫んでいた。
目尻に浮かんだ涙が、すうっと下の方へ流れていき、耳たぶを濡らした。
部屋に静寂が戻り、身体が軽くなった。兄が消えている。
「兄さん」
わたしが布団から起き上がり、あたりを見渡すと、部屋の外に、兄の寂しそうな後ろ姿が見えた。
「ごめん。もう絶対にこんなことしない。本当にごめん」
兄は背を向けたまま言うと、自分の部屋に戻っていった。
夕飯の時間にも、わたしは兄と顔を合わせたが、兄はもちろん何も言ってはこなかった。
わたしも全くそのことを話さなかった。
ショックだったとか、兄の報復が怖いとか、そういうんじゃなく、ただ兄がどうしてあんなことをしてきたのか、それが謎だった。
わたしはそれを知りたい気もしたが、まさか聞き出すこともできず、つまらないテレビに時々目をやりながらご飯を食べていた。
「今日も家に居たの? 何してんのよ。就職活動しなさいって」
母が不機嫌をあらわに言う。
「もう三十社も受けたんだって。それでもダメだったんだ」
兄は母の方は見ず、テレビに目を向けたまま言った。
「そんなの、百社受けても一つも内定取れないひとだって居るのよ。それでもあきらめずにがんばってるじゃないの」
「そういうヤツは、文字通り、死ぬほど働きたいってことなんだろ」
「何よその言い方! ああ……もう言ってることが幼稚だわ。どうせ悔しいからそんな言い訳してるんでしょ。だったら結果を出して見返してみなさいよ」
こんな会話を聞かせられ、わたしはご飯が喉を通りにくくなり、お茶をぐいぐい飲んで流し込んだ。
その夜、兄は行方をくらまし、数日後、遠くの土手の傍にある森林の中で首を吊って死んでいるのが発見された。
わたしはその知らせを聞いても、そんなに驚かなかった。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.33 )
- 日時: 2013/04/08 17:16
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
十六
兄の葬式はあっという間に終わり、兄の使っていた部屋は片付けて空き部屋にすることになった。
「兄さんの部屋、わたしに片付けさせて」
わたしは母に言った。
「そう。だったら任せるけど、物が多くて大変だと思うわよ」
「でも兄さんきっと、見られて困る物もあるだろうから……」
兄の部屋は雨戸もずっと閉めっぱなしで埃っぽく、カーペットにはこぼした酒が染み込んでいてアルコール臭かった。
棚から雪崩をおこしたままになっている本や雑誌、ビデオテープ、ゲームソフトなど、わたしは捨てる物と残しておく物とに分けていった。
その中には、妹のわたしや、末っ子の里奈に見られてまずい物も含まれていた。
でも親に見られるより、兄はわたしに片付けてもらった方が喜ぶだろう。
大学で使っていたらしいノートは、ほとんど白紙のままで、捨てるのはもったいなかった。
「落書きばかり……しかも下手な美少女のイラストばっか。兄さんたら、ろくに勉強してなかったのね」
わたしは綺麗なノートをぱらぱらめくる。
ノートには日付けが記されているが、大学時代にはほとんどノートを取っていないようだった。
そう思ってぱらぱらめくっていると、途中から、字がびっしり書き込まれたページが続いていた。
『今日は夕方に起き、酒を買いに行くついでに西野書店で雑誌を二冊買った。明日は大学にリポートだけ届けに行く予定だ。また一歩、卒業に近づいてしまう。四月から俺はどうすればいいんだ』
なんだろうこれは。
『俺の青春はもうとっくに終わっている。これから先、何が楽しくて生きていけばいいのか分からない。こんなことならもっと好き放題にやっておけばよかった。せめて死ぬ前に、熱い恋をしてみたかった』
どう考えても大学の授業ノートではない。
数行下には余白の部分があり、日付けが書き込まれていた。
『2月Y日(水)。今日は大学をサボり、駅前のベンチに座って時間をつぶした。夕方になると女学生たちがたくさん通りかかった。紺色のセーラーに、胸もとの青いワッペンの制服は、KK学園だろうか。それらを眺めながら酒を煽っては溜息をついた。一瞬だけ、生きる苦しみから解放された。良い気分で飲んでいたが、バス亭の所にナナミが居て少し焦った。いつもの茶色い髪の子とではなく、男子と一緒だった。まさか、彼氏じゃないだろうな』
茶色い髪の子っていうのは、おそらくカエのことだ。
そして男子というのは成瀬君のことだろう。
間違いない、これは兄の日記だ。
兄の自殺について、親戚のおじさんと母が話していたっけ。
——日本では年間三万人が自殺していると聞いたことはあったけど、まさか身内に起こるなんてな。一体、なにが原因なんだろう。
——さあ……。でもあの子、昼間から飲んだくれて、だいぶすさんだ生活をしていましたわ。
——やっぱり、頭が少し変になっていたんだろうな。
わたしはおじさんと母がそう話しているのを聞いて、思わず口をはさんだ。
——兄さんは変になんかなってなかったよ。そりゃ、少しは変に見えたかもしれないけど、わたし知ってるもの。兄さんは家を出るその日まで、おかしくなんかなってなかった。
——おかしいさ。自殺なんて、普通の人間の発想じゃない。
——兄さんは普通よ。普通のひとでも、生きるのが辛いって思うひともいるんだよ。
——だから、そう思うことが既に普通じゃないのさ。
大人のひとたちの顔は一様だった。
誰もが、兄の自殺を、たまたま運が悪くて起こった事故、とでも思っているみたいだった。
自殺をただ「普通じゃない」だけで片付けたら、本当の答えには辿り着けないんじゃないか。
わたしは兄の日記をゆっくり読んでみようと、そばにあった椅子に腰かけた。
兄の勉強机は薄い本(表紙には、どこかで見た覚えのある有名アニメのキャラクターが、身体の一部を露出して描かれている。このアニメは妹の里奈もテレビで見ていた、と思う)がたくさん積まれている。
わたしは適当にそれらをどかし、机の上に日記の書かれたノートを置いて、読み始めた。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.34 )
- 日時: 2013/04/08 23:40
- 名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)
どうも、ゴマ猫です。
兄が自殺したのには、日記の中に理由が書いてありそうですね。
身内が亡くなってるのに、悲しいとかじゃなく、さぁとか、変だったからな、なんて言う親にちょっと驚きです。
またコメントしに来ます。
ではでは……。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.35 )
- 日時: 2013/04/09 18:19
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
コメント、ありがとうございます。
親や親戚からすれば、兄の自殺は、ただの「例外」でしかないのでしょう。
それ以上、深く考えようとはしないのです。
自分の作品の解説するのって恥ずかしいんですが笑
続きはいきなり兄の日記です。
予告になりますが、それが2回続いて、また現在に戻ってきてクライマックスです。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.36 )
- 日時: 2013/04/09 18:25
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
十七
僕は、母親には三十社の就職試験を受けたと言ったけれど、あれは嘘で、本当はなんにもしていなかった。
ただ母親を試すために、そう言ってみただけだ。
そして、半ば予想通りというか、三十社受けてもダメだったと聞いて母は、それならもっと頑張れ、みたいなことを言うだけだった。
世の中には僕みたいに居場所のない若者がたくさん居ると思う。
もちろん誰もそんなやつに手を差し伸べてなどくれない。強くなるしかないんだ。
でも僕にはどうしても、他のひとを押しのけてまで自分だけ助かろうとする鈍感さは持ち得ない。
こんなこと言っても弱者の負け惜しみとか、逃避だとか言われるだけだろう。
そういうひとたちとは永遠に分かり合えそうもない。
僕はもともと頭も良くないのに、どうにか頑張って、高校卒業までは平均的な成績をあげていた。
それでもついていくのが大変だった。
競争社会というのは、学校を卒業しても同じで——いや、もっともっと厳しいものだ。
学生の頃なら、いくら自分がダメでも、それは自分で責任をとればよかった。
しかし仕事となると、自分がダメなら他のひとにも迷惑をかけ、足を引っぱり、そして切って捨てられるに決まっている。
就職試験だって、僕なんかよりよっぽど優秀で、やる気のあるひとがたくさん集まっている。
そんな中で僕が成功できるはずがない。勝ち目なんかない。
やろうと思えば、すぐに自分の限界を超えてパンクするだろう。
もし仮に就職できても、仕事が辛くてすぐに辞めてしまうか、精神の負荷に耐えられずにホームから線路へ飛び込む自分の姿が目に浮かぶ。
先日、高校時代の友人と久しぶりに会い、酒を飲んだ。
その友人は家が貧しいため大学へ行くことができず、高校を出た後は働いていた。
僕は高校卒業して大学へ進む時にも、この友人に対し、自分の家が裕福で恵まれていることを後ろめたく思っていた。
残念ながら友人は仕事に忙しくて遊びとか趣味どころではなく、久しぶりに会っても、話題は、仕事や、生活、女や恋愛、結婚願望、家を持ちたいことなどで、少し難しいところでは、近隣諸国との領土問題(それもテレビやネットで聞きかじった程度の知識に過ぎないが)の話が出るくらいだった。
楽しい話などなかった。
友人は仕事の朝早いこと、残業時間の長いこと、給料がなかなか上がらないことなど、その大変さを僕に長々と喋った。
要するに自分の苦痛の量を僕に自慢したかったんだ。
そして僕の大学での話しは何も聞こうとせず、こちらから話しても、興味のなさそうな生返事ばかりなので、僕は喋る気がなくなった。
まるで、僕が今していることの価値などいっさい認めず、故意に無視するかのようだった。
——お前は大学を出たらどうするんだ。何か仕事の当てはあるのか。
そういう、わざわざ話すまでもない話をふられた。
——まあ、お前を採用する会社はないと思うよ。俺が人事担当だったら採用しないなあ。
友人は僕の高校時代の、うすのろで、ドジばっかりで、協調性に欠ける性格をよく知っていた。それでこう言ったのだろう。
——俺も自分で無理だと分かっている。俺にはきっと、仕事とかは向いてないんだ。
僕はこう言い返した。
——向いてないって、そんなこと言っても働かないわけにいかないじゃないか。どうやって生きていくんだよ。
友人は冷ややかに言った。その通りだった。
どうやって生きていくんだろう。
というよりも、この先に生きていく意味はあるのだろうか。
友人と会ったのはそれが最後だし、もう会うつもりもなかった。
言えなかったけれど、こう言いたかった。
注意しろよ、そういう言葉が、友人を自殺に追い込むこともあるんだぞ、と。
僕がもし本当にこう言ったら、非常にタチの悪い脅しだ、死ねるもんなら死んでみろ、と返ってくるかもしれない。
大多数のひとにとって、自殺なんてものは、テレビの中だけとか、そういう、フィクションまがいのことだろうから。
自分が本当に死んで証明してみせる。その死ぬ勇気がないのが腹立たしかった。