BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- GL 『宿縁』(完結)
- 日時: 2013/07/20 16:35
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
参照してくれてありがとうございます。あるまです。
タイトルは「シュクエン」と読みます。
主人公のナナミ視点で、女子中学生どうしの、清らかな恋愛を描いていきます。
着想から完成まで半年ほどかかり、途中でしばらく中断し、前半と後半で雰囲気もだいぶ変わりましたが、なんとか完結までアップできました。
参照数を見る限り、何人かは読んでくれたと思います。
本当にありがとうございました!
______あらすじ______
ナナミは真面目な優等生で、いつもカエの面倒ばかり見ていた。しかしそれが幸せだった。
ところが学校の制度はどんどん厳しくなり、受験を意識して、成績優秀な者とそうでない者を分けたクラス編成にすることが、検討されていた。
冬のテストでナナミは成績上位に入ったが、カエは圏外だった。
ナナミは将来もカエとずっと一緒に居たいと思い、カエに勉強を教えようとするが……。
______プロローグ______
「きっと何かの因縁だよね、あたしたちが惹かれ合ったこと」
カエの表情が弾けるように明るくなった。
一瞬、わたしの背筋に電流が走る。
因縁。
おそらくそれは、生まれる前から、わたしたちが結ばれると決まっていたってことだろう。
屋上の空気はいっそう冷えて、昼間だというのに、やたらと静まり返っていた。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.17 )
- 日時: 2013/03/29 16:46
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
コメント、ありがとうございます。
反応があったのは久しぶりなので、とても嬉しいです。
では続きの方もよろしくお願いします。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.18 )
- 日時: 2013/03/29 16:50
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
三
カエは通学途中、交差点を右折してきた軽自動車にぶつけられた。
そして救急車で運ばれた。
先生たちはそんなこと教えてくれない。
他のクラスの子が、朝その事故を目撃し、ひとからひとへと伝わって、わたしの耳にも届いたのだ。
交差点にカエをぶつけた車が止まっていた。
警察と救急車が来ていた。
カエはアスファルトの上に座り込んで、泣いているように見えた。
立つことができないように見えた。
事故の話を聞かされて、わたしは頭の中が暗転しそうになった。
そばにいた子がわたしの肩に手を置いて「でも、命に関わる事故ではなかったって聞いたよ」と言ってくれた。
でも不安で不安で仕方なかった。
わたしは、学校内では使用禁止の携帯電話の電源を入れ、カエに電話をかけた。
つながらなかったどうしようと思ったけれど、ぷるるるる、と発信音が鳴って安心した。
でも電話は出なかった。いくら鳴らしても出ない。
ついさっきまで、会ったらまず遅刻したことを怒ってやろうと思ってたのに、今はそんなことどうでもいい。
あの子が今どうしているか、それが知りたい。
始業のチャイムが鳴った。
次のテストが始まる。
教室に戻らないと——。
わたしは、もう一度だけ電話をかけてみた。
廊下のひんやりした空気が膝をなでるけれど、電話にくっつけた頬は熱くなっている。
『…………はい』
カエの声だ。わたしは思わず大きな声が出る。
「カエ、カエなのね?」
『そりゃそうだ。ナナミ、あんた電話なんかかけてくるんじゃないよ。今は学校に居るんでしょ』
「そんなこと……わたし、とにかくあなたが心配なのよ。今は、今はどこにいるの?」
『谷田総合病院だよ。ほら、バス亭の名前にもなってるじゃん。そこにいる。足、折れちった』
電話の向こうでカエは小さく笑った。
「足が折れたって……骨折?」
『そうだよ。左足だけね。でも他はなんともなかった。それよりナナミ、テスト中だろ、早く教室に戻れー!』
カエの元気な声を聞いて、わたしはその場に尻もちをついた。そして、
「うん。じゃあ、切るね」
と言って鼻をすすった。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.19 )
- 日時: 2013/03/29 20:01
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
四
バスに乗客はほとんどなかった。
普段はスーツ姿の大人の背中に囲まれて窓の外も見えず、近くの手すりにつかまって揺れに耐えているのに、お昼前のこの時間なら好きな席に座ることができた。
今頃、わたしは学校の保健室で休んでいることになっている。
二時間目のテスト中、わたしは気分が悪いと申し出た。
男性教諭はそれ以上は何も聞かず、ただ「途中入室はできないけど、大丈夫?」とだけ聞いてきた。
大丈夫だ。まだ開始十五分だったけれど、穴埋め式の解答用紙はすべて終わっていた。
ちょっとテスト勉強を頑張り過ぎたかもしれない。
カエも出席していれば、良い点が取れたと思う。
そしてわたしはカバンも教室に置いたまま、こっそり学校を抜け出し、息を切らしてバスに乗り込んだ。
もし学校側にバレたらどうしよう、という焦りはある。病院に着くまでの、バス亭の一つ一つが、遠く感じた。
カエはきっと、こういう大事な日に事故にあい、落ち込んでいるはずだ。
怪我なんかしているうちに、みんながどんどん先へ行ってしまう。
でもわたしはあの子を置いて行くなんてできない。
わたしはあの子の隣に居たいんだ。
初めてそう思ったのは、中学生になったばかりの頃。
わたしは週に二回受ける放課後講習として、お茶の稽古を取っていた。
まだ難しい授業にも慣れておらず、家でも夜遅くまで勉強していたわたしは、夕暮れ時まで学校に居て疲れたから早く帰りたいと思っていた。
やっと講習が終わり、軽く伸びをしながら静かな教室の前まで来ると、まだ誰かが残っていると気づき、わたしはそっと中をのぞいてみた。
カーテンから差す夕日に照らされて、カエが机に頬ずえをついていた。
カエの茶色っぽい髪と、夕日の色と、新しいブレザータイプの制服の袖についた金ボタン。
それらの色の明るさが、黒い制服と妙にマッチしていて、なんだかわたしは、このままずっと見ていたくて、声をかけるのがもったいないと思った。
「ん、誰?」
カエがこっちを振り向いて、わたしに気づいた。
「なんだよナナミ。黙って入ってくるなよ、驚くじゃないか!」
「ごめんなさい。あなたはどうして、こんな時間まで残ってたの?」
「いやー、ナナミが戻ってくるまで待ってようか、どうしようか、考えているうちに寝ちゃってたんだー」
カエはそう言って、大口を開けてあくびした。
くずれた表情が、すっと元に戻ると、長いまつ毛の下、潤んだ瞳が窓の外を向いた。
「もう、だいぶ暖かくなってきたね」
「そうね。桜も散っちゃった」
二人、並んで窓の外を見た。
ここから桜色の景色を眺めたのは、まだほんの数日前だと思ったのに、木々は緑色に変わって、次の季節を用意していた。
「この前ね、うちの近所で、同じ小学校の子たちに会ったよ」
カエが窓の方を向いたまま言った。
「みんなはジャージ姿で、肩から真っ白なカバンをかけてた。でね、あたしの制服を見て、チョーかわいいとか、羨ましいとかって言うの」
「わたしたちは私立だものね。平凡な子から見れば、カッコよく見えるんだと思うよ」
「平凡か……」カエは笑顔ひとつ作らず、どこか遠くを見ていた。
「あたし、ここの環境に慣れることができるか不安なの。この制服だって……好きになれるかな」
視線を落としてカエは胸元のリボンをいじった。
ちょっと前まで小学生だったカエにその制服は大きく見えた。
まだ真新しいブレザーに、緑系のチェックのスカート。
それはわたしが着ているのと同じ服。
そうだ、わたしには、カエの隣に居る資格がある。
きっとこの中学校にカエを誘ったのも、この子の隣を独占したかったからだ、と思った。
カエの横顔を見ていると、次の言葉が出てこない。
舌がざらつき、口の中が渇いていた。
わたしの心が潤いを求めると、なぜかカエの唇に目がいく。
キスの味って、どんなんだろう。
ふとそんな考えが浮かぶ。胸がドキドキした。
「何とか言えー!」
カエのピンク色の舌が見えたと思ったら、頭に軽い衝撃が走った。
「痛い」
わたしは頭を抱える。
カエがわたしの頭を軽くはたいたのだった。
「急に黙り込むなよ。会話しろ、会話」
カエは、沈黙が照れ臭い、というような表情をしていた。
「ごめんなさい」
わたしは笑った。胸のドキドキも消えて、平常に戻っていた。
「不安なのはわたしも一緒。だから好きになれるよう、これからがんばろ?」
その日の夜、わたしは自分の部屋で、どうにも勉強に集中できず、机の椅子に背をもたげては、カエのことを考えた。
すると自然、自分の唇に手が触れる。
自分の乾いた唇を、さわさわと、撫でてみる。
「ああ、潤いが足りない……」
わたしがつぶやくと、「お姉ちゃん、潤い欲しいの?」と声がする。
ドアのすき間から、妹の里奈がこっちを見ていた。
「ちょっ、ノックノック!」
わたしはのけぞって椅子から倒れそうになった。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.20 )
- 日時: 2013/03/30 17:48
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
五
病院の受付けでカエが入院している部屋がどこか聞いてみたら、教えてもらえなかった。
そりゃそうだ。
個人情報とか、安全上とか、問題あるだろう。ドラマのように簡単にはいかない。
どうしよう。
いきなり顔を出してカエをびっくりさせようと思っていたのに。
わたしは携帯をにぎりしめ、あの子に電話して聞きだそうか考えた。しかし——。
「お願いします。本当に、あの子と同じ学校で友達なんです」
わたしはもう一度、深刻さを表情に出し、懇願してみた。
「ダメです」
受付けのお姉さんはきっぱり言った。
「心配でたまらないんです。一目でも会わせてください」
「ダメだったら……。それよりこんな時間に。学校はどうしたの」
「早退してきました」
わたしは迷いのない目で言った。
何事かと、周りのひともじろじろ見始めていた。
それもあってか、お姉さんは「絶対、今回きりだからね」と教えてくれた。
階段をずっと上り、渡り廊下を二つ通過した。
天井は低くて、真っ白な壁に沿って部屋が並んでいた。角を一つ曲がるとまた同じような景色が見えて、表札の番号がなければすぐに迷ってしまいそうだった。
病室のドアは開いていた。
中には、保健室で見るようなカーテンで仕切られたベッドがいくつもある。
考えてみたら、一人部屋ってことはないのだ。
具合の悪そうなひとに声をかけるのもためらわれ、わたしは病室内をうろうろした。
パジャマ姿のおばさんがこちらをじろっと見た。
仕切りがあるとはいえ、知らないひとたちと同じ部屋だなんて。
こんなところに来ちゃって、やっぱり迷惑だったかな。
そう思っていると、ささやくように小さかったが、聞き慣れた声がした。
カエの声だ。
話し相手は、お母さんだろうか。
カーテンのすき間から、甘い匂いが漏れているみたいだった。
引き寄せられるように近づいて、カエもやっとわたしに気づく。
伏目がちにお母さんと話していたカエが、「え? ナナミ?」と驚いて、眉毛が円く跳ね上がった。
「えへへ、驚いた?」
わたしはカエにやっと会えたことで安心し、笑顔がこぼれる。
そばに居たカエのお母さんに軽く会釈し、自己紹介をした。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.21 )
- 日時: 2013/03/31 18:18
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
六
カエのお母さんは、わたしのことを大体は知っていた。でも会ったのは初めてだった。
「カエ、怪我の具合はどうなの?」
わたしはいちばん気になっていたことを尋ねた。
しかしそこにカエの笑顔はなかった。
ベッドのシーツをぎゅっとにぎり、黙ったまま、顔を伏せている。
「全治一ヶ月だってね」
カエのお母さんが代わりに答えた。
「少しの間は入院して、松葉杖でも歩けるようになったら、すぐに復学させるわよ」
カエのお母さんはそう言って、カエの足部分の布団をめくった。
真っ白な糸でぐるぐる巻いたみたいな包帯が、カエの足を包んでいる。
カエの少しぬくもった足の裏や、足の指がすき間から顔を出していた。
「見舞いに来てくれてありがとう。お茶でももらってくるわね」
カエのお母さんが席を外してくれた。
二人っきりになれたところで、わたしは小さな声で、
「大した怪我じゃなくてよかったね」
と声をかけた。カエは黙ったまま顔を伏せている。
「テストのことなら、きっとなんとかなるよ。わたしたち、三年生になっても絶対同じクラスになるんだもの。なんならわたし、毎日ここへ来てもいい。勉強教えるから」
「いいよ来ないで」
カエが視線も動かさず、無表情のまま言った。
ウェーブがかった横髪からのぞく視線は、ベッドの上で重ね合わせた自分の指を悲しげに見つめていた。
「さっきの電話。うっかり病院の名前なんて言うんじゃなかった。なんで来たんだよ。学校はどうしたんだ。テストがあるだろ」
カエは下を向いたまま、早口にまくしたてた。
「怒らないでよ。わたし、ものすっごく心配だったんだもの。学校どころじゃないよ」
「ナナミは、自分のことだけ考えてりゃいいんだって!」
イライラが弾け飛んだみたいに、カエが言い放つ。
「あたし……ほんと言うと、救急車で運ばれてる時、なんていうか、解放感があったよ。ああ、これで今日のテストは終わりだ。あたしの成績はめちゃくちゃになって、三年生になったら、劣った生徒だけ集めたクラスに入って、ナナミともお別れだ。もうナナミと一緒でなんか居られない。少なくとも対等でなんかいられない。残念だよ。残念だけど、もう成績のことで悩まないでいいんだ。自分がバカだってこと認めちゃえば、きっと楽になれるって、そう思った」
「何を言ってるの……」
カエがなんだか恐ろしいことを言い出すので、わたしは血の気が引いていた。
「ナナミは頭がいいから、要領がいいから、みんなについていくことができるんだよ。でもあたしはバカだから……辛いんだよ。ついていくだけで辛いんだよ。今の勉強だって自分のキャパ超えてるんだよ。もう、置いてって欲しい。あたしのこと、見放して欲しい」
「そんなことできるわけないじゃない。わたしたちずっと一緒だって、前にも話していたじゃないの」
「無理だよ」
カエはわたしを睨みつけて言った。
「ずっとって、つまり永遠にってこと? そんなことできるわけないじゃん。高校だって、大学だって、社会に出てからだって、今みたいなことは続くんだよ。ナナミとあたしとでは、できることが違うんだから。そんなんで、いつまでも対等に仲良くなんて、できっこない」
「カエ……。わたし、あなたと一緒でさえ居られれば、他には何も」
「甘えだよそれは!」
カエの、悲しげだけれど強い意志のこもった瞳に、わたしはたじろいだ。
「大人になったらそんなこと言ってられない。ナナミの言ってることは甘えなんだよ。それにさ、例えばあたしなんかじゃなくて、他にもっと、いいひと居ると思うんだ」
「いいひとって、誰よ」
「えっと……」
カエは視線をそらし、
「女の子以外で、とか」
わたしが「は?」とだけ言ったあと、沈黙が流れた。
廊下の方から、誰かの足音が聞こえた。
「女の子以外でって、それはつまり、男のひとってこと?」
「当たり前だろ……」
カエは頭をかきむしり、ぎゅっと目を閉じた。
「べつに、男性でわたしの大事なひとなんて居ないけど。誰のこと言ってるの?」
「だから……近いうちに来るかもしれないだろ。青い春が。ナナミだってすごく可愛いんだから」
「やだ……カエに可愛いって言われるなんて」
可愛いのはカエの方だ。
でもそんなの照れ臭くて言えない。
わたしはただ良い気分になって、頬に手を当ててうっとりするだけだ。