BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- GL 『宿縁』(完結)
- 日時: 2013/07/20 16:35
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
参照してくれてありがとうございます。あるまです。
タイトルは「シュクエン」と読みます。
主人公のナナミ視点で、女子中学生どうしの、清らかな恋愛を描いていきます。
着想から完成まで半年ほどかかり、途中でしばらく中断し、前半と後半で雰囲気もだいぶ変わりましたが、なんとか完結までアップできました。
参照数を見る限り、何人かは読んでくれたと思います。
本当にありがとうございました!
______あらすじ______
ナナミは真面目な優等生で、いつもカエの面倒ばかり見ていた。しかしそれが幸せだった。
ところが学校の制度はどんどん厳しくなり、受験を意識して、成績優秀な者とそうでない者を分けたクラス編成にすることが、検討されていた。
冬のテストでナナミは成績上位に入ったが、カエは圏外だった。
ナナミは将来もカエとずっと一緒に居たいと思い、カエに勉強を教えようとするが……。
______プロローグ______
「きっと何かの因縁だよね、あたしたちが惹かれ合ったこと」
カエの表情が弾けるように明るくなった。
一瞬、わたしの背筋に電流が走る。
因縁。
おそらくそれは、生まれる前から、わたしたちが結ばれると決まっていたってことだろう。
屋上の空気はいっそう冷えて、昼間だというのに、やたらと静まり返っていた。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.22 )
- 日時: 2013/03/31 18:23
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
七
「とにかく学校に戻りな。急いで戻れば、今日最後のテストぎりぎり間に合うよ」
「うん……カエがそうして欲しいなら、そうする」
「そう。だったら、明日から見舞いにも来ないで」
「だから、なんでそんなこと言うの」
「なんでって、今の話、聞いてなかったのかよ! いいよもう! あたしは休みたいんだ。帰ってくれ!」
言い捨てるような態度に、わたしもだんだんイライラしてきた。
しかしこの子は事故にあったばかりで、体力も落ちているんだと思う。
「じゃあ、帰るね。また見舞いに来るから」
そっと言い残して、わたしは病室を跡にした。
部屋を出たところで、カエのお母さんに会った。
二人の言い争いが終わるまで、離れて待っていたのかもしれない。
「すみません。帰ります」
「あら、もっと一緒に居てあげればいいのに。じゃあ、これだけ持ってって」
カエのお母さんがペットボトルのお茶をくれた。
わたしは軽くお礼を言って、歩き出す。
「あ、ちょっと待って。ナナミちゃん」
カエのお母さんが、思い出したようにわたしを呼び止めた。
「ナナミちゃんって、生まれた時からこの町に住んでるの?」
「はあ。そうですけど」
「誕生日はいつ?」
「九月十日。カエと同じ日です」
「ああ……」
カエのお母さんは、何が言いたいのか、合点がいったように頭をこくこく縦に揺らした。
「生まれた病院の名前とか、分かる?」
「さあ……それは聞いたことないです」
気にしたこともなかったし。
でもなんでそんなこと聞くんだろう。
わたしは、まさか学校を抜け出してきたとも言えず、やや強引に「では失礼します」と話しを切り上げて、今度こそその場を跡にした。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.23 )
- 日時: 2013/04/01 19:55
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
八
次の日の放課後、わたしは茶道室での講習を終えると、誰も居ない教室にカバンを取りに戻ってきた。
病院に居るカエのことを考えると、気持ちが焦った。早く見舞いに行こう。
「土谷さん」
自分の名前を呼ばれて振り向く。
教室のドアのところに、なんとなく顔に見覚えのあるような男子が立っていた。
「急に声をかけてすみません。B組の成瀬っていいます」
低くて大人びた声だった。
横分けされた長い前髪の下、黒縁眼鏡のクールな目がわたしの目と合い、そのひとはやんわりと笑みをたたえた。
「ちょっと、お話ししたいんだけど、いいかな」
よくはないのだが、わたしは慣れない相手で緊張してしまい、「はぁ……」と、肯定とも取れる返事をしてしまった。
するとそのひとはわたしにどんどん歩み寄ってくる。
わたしはびくっと肩がせばまり、カバンを胸に抱きしめ、窓を背にした。
「真面目な話なんだ。俺、今日こそはって思ってさ。土谷さんが一人でここへ来るまで、ずっと待ってたんだ」
成瀬君が窓の外を見つめながら言った。
普段聞いているカエの声とは違う、男のひとの声。がっちりした首に、真っ赤なネクタイ。
「俺、土谷さんのことずっと見てた」
わたしは「え……」と声を発したきり、口を押さえて固まった。
「いや、変な意味じゃなくってさ。土谷さんにその……惹かれてるっていうか。できればその……俺と付き合ってくれないかっていう。まあそういう。告白なんだけど」
クールだった成瀬君の表情が軟化して、彼は恥ずかしさを誤魔化すように、首すじをぽりぽり掻いた。
「でもわたし」
好きな子が居ますから、と言おうとしたら、成瀬君が先に喋った。
「倉沢さんに聞いてみたんだけど、土谷さんは今のところ、付き合ってる男子は居ないって言ってた」
カエの名前が出てきた。成瀬君は、いつなのか知らないが、カエに相談していたのだ。
「俺、倉沢さんに頼んでみたんだよ。俺の気持ちをそれとなく伝えてくれって。でもあのひと、本気で好きなら直接言えっていうんだ」
確かに、カエはわたしにそんなこと一言も言ってこなかった。
「だから直接言います。俺と付き合ってくださいって」
成瀬君は緊張をやわらげるためなのか、あえてわたしと目を合わさず、さらっとこう告げた。
更に続ける。
「もちろん、今すぐ返事してくれなくていい。でも俺、三年生になったら土谷さんと同じクラスになれると思うんだ。土谷さんも成績いいじゃん? きっと次の学年から一緒のクラスだよ。それなら、ライバルに先駆けて、今のうちに告白だけしとこうと思って」
わたしは一瞬、成瀬君と仲良さそうにしている、三年生の自分を想像した。
『もう、置いてって欲しい。あたしのこと、見放して欲しい』
昨日の病院で聞いた、カエの言葉が頭をよぎる。
『あたしなんかじゃなくて、他にもっと、いいひと居ると思うんだ』
悲しげだけれど強い意志のこもった、カエのあの瞳を思い出した。
「どうかな?」
成瀬君が不安げにわたしを見る。
その語調には、悪いようにはしないから、という優しさが感じられなくもなかった。
わたしは答えに詰まり、何かにすがるように窓の外を見た。
冬のさびしげな桜の木がそこにあった。
木枯らしが吹いて、ひゅーひゅーと音を立てながら木々を揺らしていた。
桜の木は春が来れば綺麗な花を咲かせる。
そしてすぐに散り、今度は緑の葉でいっぱいになる。
そうやって季節は移ろいでいく。
わたしはふと、入学して間もない頃、夕焼けの教室で、カエと一緒に窓の景色を眺めた時のことを思い出した。
カエの真新しい制服。大きく見えるブレザーに、緑系のチェックのスカート。
わたしが着ているのと同じ制服。
カエの横顔を見ているうちに、キスってどんな味がするんだろうって、思ったっけ。
胸がドキドキした。
「嫌なら、いいんだよ。急にこんな話して、ごめん」
隣に立つ成瀬君が小さな声でささやいた。
春が近づいてもまだまだ日は短く、教室には夕日が差し始めていた。
「いいよ」
わたしは成瀬君の顔を見上げて、これだけ言った。
「いいって、俺と付き合ってくれるってこと?」
「うんん」
わたしは首を横に振ってから、こう答えた。
「まだ分からないけど、一緒に居るくらいなら」
友達から始めましょう。
そういう意味を読み取って、成瀬君は「そっか。よかった。よかった……」と言って、小さくガッツポーズした。
わたしたち以外、誰も居ない教室。
その中の、窓際の後ろから二番目の席で、あくびに目を濡らしながら待っていてくれたカエのことを、思い出した。
この日から、わたしはカエの見舞いに行かなくなった。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.24 )
- 日時: 2013/04/01 20:59
- 名前: ゴマ猫 (ID: 2qC9xcD7)
どうもゴマ猫です。
初めから読んでますが、最近アップされた部分凄く良いと思います。
気持ちの揺れ動きとか、告白シーンのとことか、分かりやすくてスッと情景が入ってきました。
更新頑張って下さい。
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.25 )
- 日時: 2013/04/02 17:37
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
コメント、ありがとうございます。
コメライで好評を博しているゴマ猫さんに言われると、余計にうれしいです(^^
風景描写や心理描写など、もっともっと上手くなるよう勉強させてもらいます笑
- Re: GL 『宿縁』(毎日更新予定) ( No.26 )
- 日時: 2013/04/02 17:42
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
九
成瀬君とはクラスも違うし、いつも一緒に居るわけではなかった。
でも廊下で時々すれ違うと、こちらに目を向けて、ニコッと微笑んで見せてくれた。
そういう男子は今までなかったから、わたしはなんだかドキドキして、うれしかった。
カエが居ないとわたしは一人ぼっちであると気づいた。
同級生の女子は、話し相手とは言えるけれど、友達というほどではなかった。
だからわたしは自然、成瀬君と帰ることになった。
最初は彼の方が下駄箱のところで待っていてくれて、「もし一人なら、一緒に帰ってもいい?」と聞いてくる。わたしは「いいよ」と答えた。
わたしの方が先に下駄箱に着いてしまう時もあった。
わたしは彼を待っていたと思われたくないため、適当に校舎内をぶらぶら歩いてから、再び下駄箱へ向かった。
そうすると彼は来ていた。「一緒に帰ってもいい?」と聞いてくるから、わたしは「うん」とうなずく。
成瀬君は真面目なひとで、その日は本屋に参考書を買いに行くのでわたしも付き合った。
「土谷さんは、検定試験とか受けないの? 俺、卒業までに英検二級は取りたい」
書棚から抜き取った英語の参考書をぱらぱらめくりながら成瀬君は言った。
中学生で英検二級は、かなりすごい方だと思う。
「そういうの、考えたことなかったから……」
「こつこつ勉強してれば、そのうち取れちゃうもんだよ。なんなら今度、一緒に勉強する?」
「でも、成瀬君は勉強よくできるじゃない。一緒にやる必要あるの?」
わたしたちは個人でも自主的に勉強している。
教えたり、教えてもらったりする必要はないんだから、一緒にやらなくてもいいのではないか。
そう思って言ったのだが、成瀬君は「そりゃ残念」とつぶやいて、後頭部を掻いた。
本屋を出て、広い道路をしばらく歩くと駅前に着く。
車の走る音が絶え間なくし、空気に時々排気ガスのにおいが混じった。
信号待ちをしている時、そばに設置された立て看板に水着の美女が何人も並んで映っていて、成瀬君と二人、それを見て見ぬふりをするのがちょっと気まずかった。
「じゃあここで」
バスターミナルに着くと、わたしは彼に手を振った。
「もうちょっと。バスが来るまで一緒に待ってていい?」
彼は電車で帰るのだが、わたしの乗るバスが来るまで待っていてくれた。
バス亭に備え付けられた小さな屋根の下、成瀬君と並んで立ち、会話も途切れたところでわたしはなんとなく止まっているバスの行先表示なんかを見ていた。
オレンジ色の文字で「矢田総合病院前」と映っている。
横に彼が居なかったら、わたしはそのバスに乗ってしまうかもしれない。
でも乗らなかった。
「土谷さん」
成瀬君が、少し大きめの声でわたしを呼んだ。
わたしは彼の方を向いた。
そうしたら、彼の背後、裸眼で顔が分かるくらいの距離に居る男性と目が合った。
それはうちの兄だった。
兄はもちろんわたしと同じ名字だから、ふいに自分の名を呼ばれたのかと思い、こっちを向いたのだろう。