複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

頑張りやがれクズ野郎
日時: 2012/02/03 19:33
名前: トレモロ (ID: Au8SXDcE)

どうも、トレモロです。
恐らく知らないでしょうが、いろんなところで小説書いてます。
この物語は、【外道成分】【非社会性】【吐き気を催す描写】。
などが含まれます。
嫌な予感がした人は、退去するのをお勧めします。
それでも「俺をみるぞぉっ!!」な人はぜひ見てやってください。
それでは、この物語があなたの反感を買う事を願って。
物語紹介を終了します。



≪目次 番号控え≫


第一部【題尾ですよ編】

>>1』『>>2』『>>9』『>>10』『>>15』『>>20』『>>25-26』『>>27-28』『>>30-31』『>>32-33』『>>35』『>>48-50』『>>61-67



≪感動なる挿絵一覧≫

びたみん様 画
>>42】 
びたみん様の御友人 画
>>40




≪トレモロ他作品≫

複雑・ファジー  『釈迦もキリストも奴等の事はシカトする』
(本作品からの完全派生作品) 
*【】

コメディ・ライト 『萩原さんは今日も不機嫌』
*【】

シリアス・ダーク 『殺す事がお仕事なんです』
*【】

Re: 頑張りやがれクズ野郎 ( No.78 )
日時: 2012/03/11 19:18
名前: トレモロ (ID: QxOw9.Zd)

【治せないんですよ】壱



ここは暗いんだ。
色がないんだ。酷く孤独で。酷く無残で。酷く凄惨な。
悲しい。誰かも存在を感じたいのか? 存在を認めてほしかったのか?
暗闇だ。
闇だ。
何もない。ないという事もない。
ないんだよ。ないんだないんだないんだないんだ。
無なんだ。夢なんだ。無なんだ。夢なんだ。
無なんだ。
無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無。
無限の無。
だから手を伸ばす。
伸ばした先には感触があった。
狂喜した。心の底からこみあげてきた。
喜び。
そしてソレを握った。握って握って握って。
だけど。
その握ったモノは。
握った先には。


引き金の先には無の代わりに朱があった。




———世界最高峰の享楽殺人鬼サンドレフェリー
        死後出回った生前の日記の一部より抜粋
           記載された日付から逮捕される一月前のモノだと思われる











何時からだ?
何時から俺はこうなったんだ?
一年前? 二年前? 十年前? 二十年前? 生まれた時から? 初めの始めのはじめから?
何時から俺は自分のする事の意味が解らなくなった?
何時から自分で自分が理解できなくなった?
そしてそれは何故だ? 何故そうなった?

『守られるだけが私じゃないよ。私だって傷を負える。背負っていける』

ああ、声が聞こえる。
懐かしい。懐かしい声……。
女の声。
俺の【  】した奴の声。

『君が苦しむのを止めることはできない。だけど一緒に。一緒に苦しんでいこう。そうすれば、少しは傷も少なくて済むんだよ』

そうだな。
そうだよな。
お前は。【お前は】。
何時だってそうだった。
何時だって。【そうだった】。

『だから生きよう。生きて。生きて行こう。歩いて行こう。一緒に、私が支える。あなたが支える。そうやって、生きていこう』

お前は何時も悲しそうに笑って。
その顔を見るたびに俺は……。
俺はお前に。お前は俺に。
そうやって……。

『大丈夫。絶対になんとかなる。私がしてみせる。あなたがしてみせる。私はもう分かってるんだから。だって私は——』

お前の言葉は刺さるんだ。
俺の心に。心なんてあの時から有ったかわからないけど。
酷く喰い込んで。刻んでいくんだ。
だって俺はお前の事。
心の奥底から。臓腑の底から。



『——あなたの事が好きなんだから』



お前の事が好きなんだ。

Re: 頑張りやがれクズ野郎 ( No.79 )
日時: 2012/03/11 19:17
名前: トレモロ (ID: QxOw9.Zd)

【治せないんですよ】弐



「……」
夢を見た。
久々に彼女の夢を見た。
「嫌な……夢」
ポツリの口に呟いてみる。
もう少し。夢の続きがみたい気分だった。例え悪夢でも、続けて見ていたかった。
あと少しだけ声を聞きたかった。それが幻想でも。聞きたかった。
彼女の声が聞きたかった
「……くだんね」
「そだそだ、下らん。貴様の存在全てが私様にとっては下らない。心底だ」
と、俺が先程まで見ていた夢について想いを馳せていたのを、邪魔するかのように声がかかる。
いや、実際邪魔されている。
「そもそも貴様の様な屑が何故夢を見る。夢とはまっとうな人間が抱く事のできる、大切な至宝だ。例えば私様のよーな!!」
「どこがまともだクソ野郎」
べらべらと勝手な事を呟く声。その声のする方に視線を向けると、そこには白衣を着た【化物】が簡素な椅子に座ってる。
椅子の周り。といううか、今俺がいる場所はそれなりに見慣れた場所だった。
【都市】の隅の方に細々と経営されている、小さな【診療所】。
その診療所の部屋の一つ……といっても、この診療所は規模が先程まで俺がいた【病院】とか比べモノにならないほどチンケなモノなので。
患者部屋が四つに、ベットが三つだけという。およそまともな治療が施せない寂れた所だ。
事実俺がいまいるこの部屋。
白いベットに白いシーツが敷かれた病院用のベット。上半身を軽く起こして、周りを見ると。壁はどこか薄汚れていて不衛生だし、殺風景な部屋には【化物】が座っている椅子とその前にある机だけ。
後は脇の方の棚に、色々医療器具関係があるくらいだ。
器具や、ベットなど。最低限なモノには気を使っているのか清潔だが。壁等の汚れや、どこか退廃的な雰囲気はおよそヒトの治療をするにふさわしい場所とは思えない。
いや、壁が汚れている次点で、最早最低限も守れていないか……。汚れもなんか血痕の後とか、無意味に紫色に染まっている壁とか。想像したら嫌な予感が止まらなくなるような色合いの汚ればかりだ。
「まとも過ぎて泣けてくるくらいまともだ! さて、そんなまともな私様からお達しだ。ガキ、治療代寄越せ」
【化物】は体を本来の椅子の座り方から反して、背もたれの方に体を向け、【片腕】をだらりとぶら下げて、こちらに目を向けてくる。
いや、【目】というのは少し語弊があるだろう。
「お前が俺の治療を? 何故?」
「【死神】の野郎に金を払われたんでな。それで引き受けた」
「じゃあ、俺が払う必要ねェじゃねーか」
「あぁ? 【死神】が治療費を払ったなら、貴様は私様にその他の理由で金を払うべきだ。なにせこの【診療所】に来て、金を払わずに出ていく奴なぞ私様が認めん! 断じて!!」
意味のわからない、論理破綻している言葉を口から次々と生み出す存在。そいつには【目】という概念が無い。
何故なら、本来目がある場所に【包帯】が巻いてあったからだ。
いや、それだけならまだ【化物】じゃない。問題なのは、その包帯が所々酸素に触れて黒くなった血のような色で染まっている事。
そして、包帯の隙間から見える地肌が、何か形容しがたい醜く爛れた傷を負っていることだ。
頭だけでは無い。体は右手が存在せず、着ている服の右袖が中身が無い事を強調するように、しぼんでいる。
左腕には頭同様、血の様な色で汚れた包帯が巻いて有り、垣間見える地肌には、顔の傷後とはまた違った、爛れた火傷のあとが見える。
【化物】。
人目見たら、そいつのことをどう形容するか直ぐに思いつく事は出来ない。唯一言【化物】ということしかできない。
そしてその【化物】であり、医者であるという単語から、取れられたあだ名。
【傷者ドクター】。
それが白衣を着た【化物】の、【都市】の中の彼の患者達付けた通り名だ。

Re: 頑張りやがれクズ野郎 ( No.80 )
日時: 2012/04/04 11:05
名前: トレモロ (ID: NPMu05CX)

【治せないんですよ】参


「守銭奴の拝金主義者が。医者なら少しは患者に気を使え」
「貴様の様な屑に気をつかえぇ? フハハハハッ!! 馬鹿がっ! 貴様なぞの最底辺オガグズ野郎に何を使えというのだ!! メスを脳みそに叩き込んでやろうかっ!?」
【傷者】は包帯に巻かれていない口元を、哄笑の形に歪めながら狂ったように肩を盛大に揺らす。
目元が包帯に巻かれて見えない上に、顔も殆ど包帯で隠れているので、表情の判断が口元でしかできない。
だが、こいつは感情表現が途轍もなくわかりやすいので、大して困りはしない。
尤もほとんどがこちらに、不快な印象を与える感情表現ばかりだが……。
「ブラッド・ドクター。その減らず口は相変わらずうぜぇな。さっさと口も包帯で隠せ。うるさくて、かなわねぇ」
「うるさいのなら耳でも削ぎ落してやろうか? 今なら止血もしてやる!! ただし有料だ!!」
【傷者】は不敵に口を歪めながら、椅子から立ち上がりこちらに寄ってくる。
恰好が恰好だけに、なんだかホラーゲームでゾンビに迫られているような感覚だ。正直寄ってこないでほしい。
「さて屑と問答していても仕方が無い。さっさと本題に移ろう、金は本当に払ってもらうがな!!」
仕方が無いというのはこっちのセリフだ。そして金は払わん。
「ではでは。ふむ、怪我の調子はどうだ? 真木の血は中々にうまく作用している様だったが」
言われ、そういえば重傷を負っていた事を思い出す。
ガキに刺された腹の傷。
視線を下に向けて確かめてみると、【傷者ドクター】のモノとは違い、真っ白な包帯が巻かれてあった。
「体に違和感はあるか? 動かし辛かったりするか?」
「いやほぼ問題ない。流石ドクター。もう治ったようなもんだな」
「阿呆。貴様が規格外なだけだ。本来なら即死だ。そして、できれば死んでほしかった」
何気にこいつ俺に殺されても文句言えねェよな? 
何の気負いも無く俺に暴言吐いてきやがる。だが、俺はこいつを殺せない。
こいつが死んだら、俺みたいな【存在】を治療する奴がこの世からいなくなる、って事だ。
【人屑】なんて【化物】じゃないと治そうとも思わない。それに個人的にこいつには借りがある。
まあ返すつもりなんてないがな。
「まあ、しばらく安静にしてろ。【真木の血】は唯の一種の【治癒方法】だ。【不死】やら【不老】やらとは関係ない。あんまり過信するな」
「だれに言ってんだよ。てめぇのことはてめぇが一番分かってるさ」
「ふん。貴様は自分の事なんて気にしてないだけで、分かってなんてないさ。だからクズなんだよ」
「言いたい放題だな。あんたこそ、そんな不衛生極まりない包帯巻いて、医療に携わるのはどうなんだ? それ血だろ?」
「馬鹿が。包帯に血を付けたままにしている訳ないだろう!! これはわざとそういう風に塗っているだけだ!! 馬鹿クズがっ!!」
どっちが馬鹿だ。
そうだったのか。てっきり傷口から血が染み出てるのかと思ったが。……わざとって事はファッションって事だよな?
「……趣味わりィな」
「自覚はあるっ!!」
断言しないでほしいんだが……。
まあそんな事は置いておこう。
とりあえず、【病院】からは無事に脱出できたようだ。
だからこそ、俺はこの【診療所】にいるし、ガキも共に……。ん?
「……オイドクター。ガキは? 俺と一緒にここに来たんだろう?」
「ガキ? ん、ああ、あの金髪の嬢ちゃんか……」
白衣の化物はそれまでの傲岸不遜な態度を改め、どこか疲れた雰囲気になる。
「何か問題があったのか? まさかガキに何か……」
「そう結論を急ぐな阿呆。違う。違うさ。この名医たる私様が子供の一人助けられないとでも?」
そんなアホな一人称を使う名医はいねぇ。
「唯……そうだな。暫くは満足に動けんだろうな。今は別室の治療室で初瀬君が様子を見てくれているよ」
「……そうか」
成程。矢張りあの傷は相当なものか。
あいつが俺を助けた為に負った傷……。
でも、命に別状はないと……。
……ちっ、らしくねぇ。らしくねぇぞ【人屑】。ここはこんな声だすところじゃねーだろーがよ。
らしくねぇ……。
畜生。ちょっと安心しちまったじゃねえか。クソが。
「……貴様。あの嬢ちゃんに入れ込みすぎじゃないのか?」
と、そこで【傷者ドクター】が包帯だらけの顔で、こちらを覗き込むようにして見てくる。
目というモノが無いくせに、【見られている】という感覚を強く感じる。
そういやこいつ、どうやってモノとかを見てるんだろうな? アレか、目が見えなくなると他の器官が鋭敏化するって奴か?
そんな俺の思考を無視して、医者は言葉を続ける。
「別にそれが悪いとは言わんが。似合わぬな。貴様は目に着いた奴は片端から殺す様な享楽殺人者の気があると思っていたが?」
「そんな変態的な趣味はねェ。俺がムカついた奴を殺してるだけだ。それに殺しは基本一日一回位だ」
「それは唯の自己制約だろう? 何時でも破れるモノだし、事実貴様は【病院】で派手に殺しまくったそうじゃないか。そのショックで一時的にナーバスになっているようだが?」
ナーバス……ね。
確かに殺しの後はテンションが異様に低くなる。
冷める。
覚めた後に冷める。
一種のショック症状だろう。
「なんだよドクター。カウンセリングでもしてくれんのか? あんま俺の中に踏み込んでほしくはねェンだが?」
「私様だって踏みこみたくは無い。だがな、貴様の様な存在が何故か……と疑問に思ったのさ。疑問に思ったら口を衝いて出てくるのが私の美点の一つでね」
「そりゃ、汚点だと思うぜ」
「見解の相違だ」
「けっ、下らねェ」
全く持って下らない。
似合わない? 分かってる。そんな事は先刻承知の百も承知さ。
何でだろうな。何で助けたんだろうな。いや、何で助けられてんだろうな?
そんなの、わからねぇよ。
自分で自分の事を本当に理解している奴なんて、この世に要るのか?
少なくとも俺はわからねぇし、分かるように努力もしてない。
じゃあ不明。って事でいいじゃねえか。ソレじゃ駄目なのか? もっと奥まで。奥の奥まで暴かなきゃいけねェのか?
「本当に……下らねェ」
再度意味も無く呟く。
そんな俺の独白をどう感じたのか、ドクターは何も言わずに背中を向けて、部屋の出入り口であるドアへと歩いていく。
「少し出る。一応虹路達が此処にいるから声を掛けておこう。奴がいれば、ボディーガード位には成るだろう」
ボディーガード。確かに【人屑】がベットに大人しく寝てるなんてなったら、俺を恨む連中がこぞって殺しに来るだろう。
あれだけ派手に事をやらかしたんだ、噂くらいになっていても不思議ではない。
尤もこの【診療所】の存在を知っている奴が、その中に何人いるかは解らないが。
「仕事か?」
「ああ、私様は名医だからな。休む暇が無い」
ドクターは言いつつ、片腕が無いからかバランスの悪い動きをしながらドアノブに手を掛ける。
そこで、今思い出したかのようにこちらに振り向くと、包帯だらけの顔をこちらに向けて言った。
「【死神】も一応ここにきている、後で話をしに来るだろう。どうやら何か厄介事の様だが。一つ、医者として言っておく」
「なんだ?」
ふざけた調子を一切消し去り、白衣の化物名医は神妙な顔で言葉を紡いだ。


「死人は治せんからな。幽霊になって私様の【聖域】に来るなよ」


医者にあるまじき非科学的な。
そして患者に対しての態度としてあるまじき盛大な皮肉を残して。
ドクターは部屋を出て行った。
ふらふらと。
ふらふらと。
出て行った。






俺が死ぬなんて【救い】を。求めている筈が無いのを知りながら……。

Re: 頑張りやがれクズ野郎 ( No.81 )
日時: 2012/05/13 22:43
名前: トレモロ (ID: z9uqPrLL)

【情報は命ですよ】壱


さぁああさぁあさぁあああっ!
死体を始めようぜ? 死体を死体を死体をおおおおっ!!
喰い散らかしてやるよぉ! 壊し乱してやるよぉ!!
く、くとぁこっがががこががこあっ!!
てめえらぁみんなぁ! イカレタにんげんだぁよぉおうおくか!
くひゅアハははははああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
痛みがとれねえぇえええええええっ!
さいっこうじゃねえぇかぁ! 最強じゃねえかぁ!!
月が俺を俺を俺をおおおおおおおっ!!



———精神崩壊した一般人・【壊し者】リンデリアの手記より抜粋
          この手記を記したすぐ後、彼はとある【一家】を壊滅させる







「さて、初めに言っておくよ。俺が【間違えた情報】。それはね。彼女、ホムサイドの女の子の【都市に来た理由】だ。まあ、情報を商品とする者としては恥ずかしい事ながら、あの子を見て勝手に思い込みをしてしまったようだね」
包帯医者の出て行った時と同じく、ベットで上半身だけ起き上がりながら、俺は目の前の【死神】の話に対して、視線を適当に向けながら、口を挟まず静かに耳を傾ける。
視線を向けた先の【死神】の容姿は何というか。【普通】だ。
【死神】なんて御大層な、その上嫌なイメージしかない字名の癖に、高い身長に長い手足。人に好意的なイメージを与える顔の造形と、笑顔。
【外】の世界でこいつがまともに生きていたとしたら、人当たりのいい営業マンと言ったところか。
フレームの青いメガネをかけている事で、さらに爽やかない雰囲気を振りまいている。恰好が青のジャージの上下というのが、残念なほどだ。
こんな、ちょっと爽やかな好青年の様な奴が、この【都市】の至る所の事情に精通している途方もない存在などと、だれが思うだろうか?
俺だっていまだに信じきれないさ……。

そんな普通の外見の、普通ではない【力】を持った男は、話を続ける。
「なんというか。大前提から間違えたというかね。今日君が情報を求めるために僕にした電話。いや、俺にした電話。うーん。……どっちの一人称がいい?」
話を逸らすなよ。つか、どーでもいーっつーの。
「おおっ、怖い目で見ないでよ。解った解った。えーと、僕にした電話ね? あの時君と僕は同じ結論にたどり着いたよね?」
「結論?」
「そう。結論だ。『彼女は一人前になるために、この都市に来た』って。覚えてる?」
確かに。
あいつは【ホムサイド】の一員であり、【都市】には【殺し屋】として認められる為に来た。
要するに正式な【ホムサイド】になるための、試練。
その為の殺人をしに来た。そういう事のはずだ。
だが、【死神】がこういう風に言うという事は……。
「違うのか?」
「ああ、違う。恐ろしく違う。といううか、全てが間違いだらけだった。勝手に僕が間違えただけで、騙されたわけでもなんでも無いけど。断片的な情報をつなぎ合わせて、憶測だけで会話するのは良くないって事かな」
……まあいい。
料金を払わないで、正確な情報を手に入れられるとは思っていない。
だが、無意識に【死神】は情報の知識は完璧だと思っていた。過信は良くないというわけか。
「まあ、【都市】の外の事はうまく把握しきれないって事さ。でも、君から話を聞いた後に、気になって色々調べたんだ。そしたら、結構面白い事が解ってね。ついでに君を襲ったチンピラ連中とその【背後】の事もよぉーく解ったよ」
と思ったが、やはりコイツの情報力は過信にたるようだ……。
だったら、初めからしっかり調べてほしかったが……。
まあ、突然の電話にあれだけ素早く大量の情報を寄越してきただけでも、称賛には値するんだろうな。
それに、背後組織の事も解ったというのは僥倖だ。
今から俺が【潰す】のは、あんなチンケなチンピラ共じゃないんだからな。
あんな戦争でもおっぱじめようとするかのような銃装備をそろえられる連中。
底が知れない【何か】だ。
故に、非常に危険といえる。
「それで? 続きは? 早く聞かせろ」
「うん、そう急かさないでよ。一つずつ説明させてもらうから」
言いながら二コリと笑う【死神】。
【死神】という名に全力で反対するかのように、その笑顔は不気味なほどに爽やかだ。同性にとっては唯うざったいだけだが、異性にはこんな笑顔にイカれちまう奴もいるかもしれない。
全く。顔ごと潰してやりたいな。考えたらコイツ朝、俺の私生活覗き込んでたんじゃねえか。
なんか、俺の行動を全部把握してたみてぇだし。
そんなことしてるんだから、俺に殺されても文句は言えねぇよな。
まあ、本当に【殺されたら】。文句なんて、はなっから言えねぇけどよ。

「そしたら、私が文句を言うッスよ!」

と、俺の思考を呼んだかのように突っ込みを入れる声が、俺のベット横に立つ【死神】の、横側から聞こえてくる。さっきからずっと黙っていたのに、反応すべきところでは反応するようだ。
つーか、実際に俺の考えを読みやがったな……。読心術とかやめてほしいんだが。
「お前の場合文句の代わりに銃弾が飛んできそうだがな」
「そんな野蛮なことしないっスよ! RPGをケツにぶち込んでやるだけです!」
野蛮の極致じゃねえか。
「あー、虹ちゃん。今大事な話をしてるから、ちょっと黙ってて。そこで林檎でも剥いてて」
「解ったッスよ九例君!」
「いや、本名呼ばないで……って、まあいっか」
本等 九例(ほんら くれい)。
【死神】の本名であり、こいつがあまり外に出したがらない【情報】の一つ。
まあ、自分の事はあんま人に知られたくないよな。本名一つで色々ばれることがあるのかもしれんし。こういう奴なら尚更だ。
そんな【死神】が守ってる【情報】の一つを、あっけらかんと明かしながら。
先ほど結果的に俺を救った【黒猫】虹路は、【死神】に言われたようにダークスーツの懐に手を突っ込み、リンゴと果物ナイフを取り出し。さっき【傷者ドクター】が座っていた椅子に座りながら、スルスルと皮をむき始めた。
って、一息に状況を観察思考したが、ちょっと待て!
なんで、スーツの中に林檎が入ってるんだよ!
どうやって入れた? あんなまんまるいもん、よくそのスーツの中に違和感なく入ってたな!
「戦闘屋の嗜みですよ!」
どんな嗜みだよ! つか、また俺の心をっ!! ……いや。もういいか。
どうせ、辞めろと言われても、読まれちまうもんは仕方がない。
人生あきらめが肝心だ。

Re: 頑張りやがれクズ野郎 ( No.82 )
日時: 2012/05/13 22:43
名前: トレモロ (ID: z9uqPrLL)

【情報は命ですよ】弐

「あのさ。いい加減話戻していいかい?」
「ん? あ、ああ。スマン」
電話口なんかじゃウザい言動が目立つ【死神】。本等だが。
実際に対面して会話する時は、割かし落ち着いて話が出来る。
こいつ電話弁慶か? メール弁慶は聞いたことあるが、電話弁慶ってあんまし聞いたことないな。
「えーとどこまで話したっけ?」
「手に入れた情報を一つずつ話すって所だろ?」
「ああ、そうだった!」
二コリとまた笑いながら、本等は言う。
そんなこいつの爽やかな笑顔を、隣で林檎剥いている虹路がうっとりした様子で眺めている。
刃物持ちながら余所見すんじゃねえよ。指でも斬り落とされやがれ。
「僕としたことが、うっかりちゃんだったね。さて、君が最も知りたい情報。それは今は【背後組織】についてだろう? だが、とりあえず、ここはあの【ホムサイド】の子について語らせてもらおうか。こちらのほうが面白い話になるからね」
人の良い笑みを浮かべつつ、本等はこちらを見据え、あのガキについて語り始める。
「さて。僕も君も彼女を半人前と断定した。そこはいいだろう? だがね、そこからすでに【間違え】なのさ」
「……そこがわからねぇ。どういうことだ?」
「単純さ。彼女はすでに【一人前】だ。それも【ホムサイド】の中でも最強クラスの殺し屋。もっとも、経験が浅いってのは僕らの推測通りだ。彼女は【ホムサイド】の中では一番人を殺していない。同時に、一番殺しに長けている」
どういうことだ?
殺しの経験がない奴が、一番殺しに長けている?
「矛盾してるだろソレ」
人を上手く殺すのに必要な条件の一つ。それは【経験】だ。
どんな状況に置かれても、対応し、殺すことができる。
そんな【存在】になるには、どうやったって殺人経験が多量に必要になる。
【腕のいい殺し屋】とは、同時に【大量殺人者】でなくてはならない。
「確かに矛盾してると思うけどね。彼女は多分常人より【殺しのセンス】が高いんじゃないかな? どんな世界にも天才ってのはいるからね」
詰まり、【殺しの天才】ってことか?
常人が十人殺す事で、学ぶ事柄を、一人殺す事で学びとる。
ましてや生粋の、国際警察組織お抱えのジョブキラー。職業殺人者の中でも性質の悪いサラブレットが集まる家系で、尚抜きんでた才能。
それは最早俺には想像できない。
殺しの神様に愛された少女。
それがあのガキって事なのか?
って、待てよ?
今の会話可笑しい所があったよな?
「オイ、お前『多分』っつったな? どいうことだ?」
「ん? ああ、確かにちょっと断定はできないかな。【直接彼女を育てた人間】からの情報じゃないからね」
は? 益々意味が解らない。
「……その情報の出所はどこだ? 信頼できるんだろうな?」
俺の疑念の言葉に、本等は笑みを段々濃くしていきながら、言う。
「信頼できるよ。【ホムサイド】の人間から聞いた訳じゃないけど、彼等ととても密接な関係のある人間から聞いたからね」
「前言ってた【SPM】とか言う、あのガキどもの雇い主の所からの情報か?」
「いーや。違うさ。寧ろ対極の存在だよ」
「対極? ガキどもの一族の敵である連中ってことか?」
確かに敵対している何らかの【存在】なら、自分と対立している奴等の事は隅々まで調べるだろう。
あのクソガキの事も詳しく知っていてもおかしくない。
だが、本等はその考えを、首を横に振り否定しながら、説明を続ける。
「いーや。ホムサイドの一族は徹底的な秘匿主義だからね。他に情報が漏れることはまずないんだよ。だから彼等の商売敵なんかにも情報は一切漏れない。ホムサイドを知るのは、ホムサイドの一族達自身か、雇用主の【SPM】の連中か。僕の様な優秀な限られた情報屋か。あと一つだけさ」
優秀な情報屋だと言う事は認めるが、自分で言うのはどうだろうな?
まあいい。
あと一つ。
成程。つまりだ。
「実際に殺し合った経験のある奴だな」
「YES!」
パンッ、と手を打ち鳴らして正答の意思表示をする本等。
その様はどこか、自分の思い通りの答えを生徒から貰い喜ぶ教師のようだ。まともな教諭なんて知らない俺が言っても、比喩として十分じゃないかもしれんが。
そんな、楽しそうな本等を無感動に眺めながら、俺は続きの言葉をため息と共に口にする。
「つまり、お前は偶々【ホムサイド】とやり合って、生き残る事が出来た奴から話を聞いたってことだな? それなら信用はできそうだ」
実際に遣り合い、そして勝ったか引き分けたかした奴の言葉なら、信用もできよう。
「いいや、違うよ」
だが、本等はまたもや俺の思考の末の推測を、真っ向から否定する。
「じゃあ誰から話を聞いたんだよ? 秘匿主義の連中の分析なんて、実地で戦わないとわからないだろ?」
「確かにね。俺が話を聞いた奴は確かにホムサイドと戦ったよ。そこまでは合ってる。だけどね、君の言い方だとまるで、そいつが【ホムサイドと善戦したかのように思える】。けど、それは全然違うんだよ」
「あ? それじゃあ負けて命からがら逃げてきたってことか? そんな奴の言葉信用できるの——」
「【違う】」
妙に言葉を強くして、本等は俺の言葉を否定する。
わけがわからない。さっきから否定ばかりで、何が本当かわからない。
「じゃあなんだよ? そいつはあのガキの一族とどういう関係だ?」
「そうだね。あの少女にとって彼は仇かな……」
「仇?」
そう、と【死神】は人好きのする笑みを絶やすことなく発する。
楽しそうに。楽しそうに。
だがほんの少し。憐れみを足した表情で。
その憐れみの向かう先は誰なのか? 俺は次の言葉で理解する。
あのガキと戦ったからこそわかる。
奴の一族は相当の血統だ。いくら天才とはいえ、あの年であの動きをさせるまでに育てる連中は、殺人一族の中でも最高峰のレベルであると言える。
それがほめられることではないのは分かっているが、素直にそう認めることができる。
だが、【死神】の言葉で、一つの事実で。その前提が揺らぎを見せる。
「そう仇だ。にっくきにっくき仇だよ。あの少女が【彼】に会ったら、すぐに殺意が芽生えるはずさ。そして同時に【殺せない】とあきらめるはずだ」
「紛らわしい。早く結論を言え」
「ふふっ。つまりだよ。僕に情報を提供してくれた男。リンデリアという狂った【一般人】はね——」
あっけなく。
そして。
驚愕を伴って……。



「——ホムサイドの一族を。あの少女の家族を。彼女自身を除いて【皆殺しにしたんだよ】」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。