複雑・ファジー小説

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(リメ)陰陽呪黎キリカ 
日時: 2013/02/12 12:20
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: 修復断念(オイ……

 「第一章 序幕」(エロ描写注意)

  
 時は平安。策謀渦巻き、人々の感情が絡み合う時代。京の都には多くの妖怪が百鬼夜行をなし、跋扈していた。
 妖怪とは、人間達のが持つ不の感情と恐怖が、形を成した者達。
 人々に不幸と災いをもたらし、時には命を奪う。人間達にとって、害悪でしかない輩だ。
 文官として、天候を読み取り未来を占うかたわら、そんな人智を超えた神妙不可視の徒輩を、日夜調伏する影の英雄たちがいた。

 その者達の名は陰陽師。力にて陰を打ち破り、聖なる光を都に注ぐことを職務とする、文武両道の者達だ。

 ——今宵、丑三つ時を過ぎたころ。貴族の男を連れた牛車が、不可視の化け物すなわち妖怪に襲われた。
 恐らくは深夜に姫君と、逢瀬を楽しんでいたのだろう。
 慌てふためく男の前に、地味な濃紺の狩衣を着た人物が舞い降りる。
 髭面で筋骨隆々とした大男だ。彼が現れた瞬間に、貴族は慌てふためくのをやめた。目の前の男の実力を知るがゆえだ。  

 「この程度の妖に、私が負けるはずがあるまい!」
  
 目の前にいる妖怪を雑魚と断じた巨漢は、奇怪な術を発動させ、一瞬にして土の蛇を作り、標的を滅ぼす。
  
 「うっうむ、芦屋道満よ大儀で……って、これいくでない!」

 貴族の男の謝礼など聞きもせず、道満と呼ばれた男は駆け抜けて行く。
 彼こそが稀代の大陰陽師と謳われる、都最強の官人陰陽師安倍清明最大の好敵手。
 民間陰陽師の雄、芦屋道満(あしやどうまん)だ。
 今日もどうやら清明と妖怪退治で、競っているらしい。

 「おらおらぁ、私の前に立つ妖怪共は、全て排除するぞぉ! これで二十体ぃ!」

 風を足に纏(まと)わせ、韋駄天(いだてん)の如く速度で夜の平安京を走る。
 術の効力を高める符(ふ)を使い、大量のカマイタチを発しながら、妖怪の群れを蹴散らしていく。
 そのさま正に一騎当千。
 彼以外に清明の相手は務まらないだろうと言わしめるほどの、苛烈(かれつ)な霊力を道満はみなぎらせていた。
 
 貴公子を助けてから数十分、目的の場所へと向って、彼は都を疾走し続ける。
 疲れて足を止めると、生活感を微塵(みじん)も感じさせない廃墟(はいきょ)が、視界に広がっていた。
 道満は、ここで安倍清明と落ち合い、勝負の結果を言い合う約束をしている。
 彼が居ないか、周りを見回す。
 清明は勝負事に余り興味がなく、適当に煙(けむ)に巻くことが有るのだ。
 幾ら探しても、清明の姿が見当たらず、忌々しげに道満は舌を打つ。
 
 「逃げたか」
  
 対戦相手が居なくなったのでは、勝負は成り立たない。
 道満はこれ以上粘っても意味がないと、踵(きびす)を返す。
 夜も遅い。そろそろ寝ないと、明日の業務に支障が出るだろう。
 今回の勝負は水入りとなった。良くある事だ。
 そう、己の心に言い聞かせ、清明等という適当で身勝手な男を、好敵手と認めた自分を責める。
 道満が歩き出して、数秒後。突然、強大な気配を背後に感じたのは。

 「相変わらず、あつっくるしいのぉ道満よ?」
 「清明? お前は相変わらず、透かした腹立たしい顔だな?」

 道満が振り返ると。崩れ落ち、蜘蛛の巣掛かった家屋の屋根上に。紫色の着物を着た男が立っている。
 切れ長で、異性を誘うような優しげな瞳。理知的な雰囲気をかもし出す甘いマスク。非の打ち所のない、絵に描いたような美男子だ。
 彼こそが安倍清明。道満が、唯一の好敵手と認めた男だ。  
 
 清明は暑苦しい道満に、冷やかな視線を送りながら、あくびをする。
 そんな彼の態度に、業を煮やした道満がいきり立つ。 

 「まぁまぁ、夜も遅いし、勝負の結果を発表しないか? 私はここに到着するまでに、四十三体滅ぼした」
  
 道満と清明が行った勝負。
 それは、目的の場所まで到達するのに、何体の妖怪を討伐したかという、単純明快なものだ。
 清明の提示した数に、道満は押し黙る。
 力を押し隠し潜んでいただけで、本当は自分より速く目的地に到着した居たのだろう。
 霊気の出現の仕方から、容易く推測できることだ。だというのに、自分より十体近くも多く滅している。
 彼自身は、清明とさして実力差がないと思っていたのだから、愕然とするのも当然だろう。

 「くくっ、はっはっはっはっは! それでこそ超え甲斐があるというものよ清明!」
 「私も、お前のような強者がいないと詰まらないからな。お前が播磨(はりま)の国から上京してきたこと嬉しく思うよ?」

 道満は怒鳴っても仕方ない事と心を律し、鬱屈した感情を吹き飛ばすように、大声で笑った。
 そんな盟友を見て、清明もまた嬉しそうな表情で、彼を賞賛した。
 清明と彼以外の陰陽師との実力の壁は、当時果てしなく大きかったのだ。

 これは清明と道満の馴れ初めの頃である。

 それから数年間、彼等は常に研鑽し賞賛しあい、高めあった。しかし、その関係は次第に悪化していく。
 いくら修行しても、全く清明に追いつくことができないという、道満の焦り。
 常に二位というのは、気持ちの良くないものだ。
 次第に成長が遅くなっていき、彼は悶々とした日々を送るようになる。
 彼自身も、清明に劣らぬほどの華々しい経歴をいくつもうちたてたが、実力ではいまだに全く及ばない。そんなある日だった。

 "安倍清明は妖怪の血を引いているから、人間離れした霊力を持っているのだ”

 という推論が、都内に伝播したのは。それが道満には許し難かった。
 話によれば、金だけの大した才能も無い父親が、圧倒的な妖力(ようりょく)を誇る妖狐を、優秀な陰陽師を何人も雇い、捕縛したそうだ。そして、その妖狐に子種を植えつけたのだという。

 その事を耳にしてから更に月日は経過し、彼の中の嫉妬心や憎悪は育っていった。
 そして、ある時清明に道満で会う。

 「清明、私はお前を見損なったぞ」
 「何を言っている道満!? お前、あんな戯言を信じているのか!?」

 道満は自分の思いのたけを、憤懣やるかたなし、といった風情で語り、清明に背を向けた。
 清明は止めようとしたが、二度と彼の言葉に道満が答えることはしなかったという。
 長年の友を、些細ないさかいで失った道満は、嘆き続けた。
 自分の愚かさと、そんな清明に勝ちたいという、愚劣な情念を捨てきれない弱さを——

 「清明! 清明ぃ!」
 「まるで、呪うような口調だな。その怨嗟、凄まじい強さだ。知っているか、それが魔道の入り口ぞ、陰陽師?」

 十年前に娶(めと)った妻はすでに家を出て、道満は一人空しく泣き続けた。
 そんな日夜悲嘆に泣き暮れる彼に、掛けられる綺麗だが感情の無い空虚な声。道満は振り向く。
 そこには当時大妖怪として、都内に名を轟かせる大物が立っていた。
 茨木童子。半分に割れた仮面で、左顔面を覆った、鋭い目付きの男だ。

 魔道か、それも良いと思いながらも、道満は陰陽師の理念に従い、茨木を滅そうと、印を結ぶ。
 
 「何用だ!? 貴様知っているぞ、確か茨木童子といったな! 私の家に土足で踏み入るとは、自殺志願者か!?」

 だが、すぐに術を発動させることは無く、用件を道満は問う。
 茨木童子ほどの大物が、こうやって一人で赴(おもむ)くのだから、それなりの理由があると思ったのだ。

 「げーんげん! そんなことないよぉ? 茨木童子は強いんだぞぉ優秀な陰陽師さん?」

 強い声で恫喝(どうかつ)する道満の言葉に、妙な挨拶とともに現れた女が答える。
 女の服装は露出度が高く、そこから覗く透き通るような白い肌は、挑発的な色香をかもし出す。
 更に唇の下にあるほくろが、性欲をそそる。顔は少し幼いが、間違いなく美人だ。
 聞き慣れない名前と、妖気の高さに、何者だと道満はいぶかしむ。
 実力のある妖怪は、大半把握しているはずなのに、と。
 
 「彼女の名は言々(げんげん)。強き渇望(かつぼう)に囚われし者よ。お前は正しい。安倍清明など妖狐の霊力が無ければ、何もできぬ平凡な術者に過ぎないはずだ。そんな邪道の輩がのさばり、人の身でここまで至ったお前がが日陰者とは、何と悲しいことだ?」

 女の紹介を簡潔に済ませ、茨木童子が流れるような口調で話し出す。
 言葉を切り出す場所が無く、道満は黙り込む。
 そして、彼の言葉を聞いているうちに、清明への怒りが、再び沸々(ふつふつ)と湧き上がってくる。
 彼の言っていることは、今の道満の心の全てに当てはまり、道満はそれが正しいことだと思い込む。
 清明は、朝廷に恩を売り、全幅の信頼を得ることにより、裏から平安京を掌握せんとする悪逆の徒だと、自分に言い聞かせる。

 “滅ぼさねばならない。友だなどと、最大の悪を見逃していた自分の罪滅ぼしのためにも”

 彼はそう心に誓った。
 その心情の変化、いや正確には覚悟の芽生えを敏感に察した茨木が、更に言葉を続ける。

 「安倍清明は、帝を甘言でおだて、君等の愛する平安京を手中にせんとす悪逆非道の輩だ。正義を信奉(しんぽう)し、世界を光に満たさんとする、お前なら許すべからずはずだ。強くならねばならん。芦屋道満よ、お前は今までより、遥かに高みに至れる」
 「それはっ! それは一体、どうすれば叶うのだ!?」

 道満が掛けてもらいたかった言葉の数々が、茨木の口から、吐き出されていく。
 すべてを見透かしているような態度に、本来の彼なら絶句し、疑念を抱くはずだが。
 今の彼に、そんな余裕は無い。
 ただ強くなれるという望みが目の前にあることを、疑いもせず手を伸ばす。
 どこまでも暗い絶望の海で、初めて見付けた光明に。

 「簡単だ。言々と性をまじわすだけでいい」
 「えっ、そんな馬鹿な! 私に安倍清明の父親と同じ業に、手を染めろと言っているようなものではないか!?」

 方法を問う道満に、言々と秘め事をしろと茨木は躊躇(ちゅうちょ)なく言い放つ。
 それに彼は驚く。
 いかに美女とはいえ、妖怪に手を出すなど、陰陽の者として有ってはならぬことだ。
 そして、清明を超えた力を手にするために、その父と同じ罪を背負うなど、言語道断だ。
  
 「断じて違うぞ、芦屋道満よ? 言々との間に、子を成すのではない。彼女は交わった相手に、妖力を受け渡す力を持っているのだ」
 「なーに、迷ってるの素敵な叔父様? あ・た・し、もうアソコずぶ濡れだよぉ?」

 逡巡する道満に、先程の覚悟に満ちた目はどうしたと、言外に口にしながら、茨木童子は本旨を説明した。その説明を聞いて道満は思い直す。
 妖怪と交わること自体、陰陽師としては業深きことだが、今の彼にはそれはどうでも良かった。
 安倍清明の父親と同じにさえならなければ良いと、思ったのだ。

 なおも悩む彼を見て、一応の申し訳のために迷っているふりをしているだけだと、見抜いた言々が歩み寄る。
 そして、彼女はピンク色の着物の上着を脱ぎ、上半身をさらけ出す。
 大き目ながら綺麗な形をした乳房。桜色をした綺麗な乳首。
 言々はそれをひけらかせながら、扇情的(せんじょうてき)な仕草で道満に絡みつく。
  
 「あぁ、綺麗だ。もう、どうでも良い。力が欲しい」

 道満は男の本能をあらわにして、獣のように言々を押し倒す。
 強く胸を揉みながら、言々の小振りな桜色をした唇をむさぼる。

 「あっ、あぁん。うっ、はぁはぁ。道満様ったら、野性的な容姿通り激しい人っ」
 「言々よ。入れるぞ? 良いか? 良いと言わずとも、お前は濡れているといっていたではないか!」

 猛々しく女の体などお構いなしに、道満は言々を犯し続けた。
 下の履物を破りさり、一物を彼女の恥部にねじり込む。
 そして、野獣のように激しく、後ろから彼女を突く。
 十数分間の行為の末、彼は彼女の中に射精し儀式は終わった——

 「はぁはぁ、道満様、素敵ぃ」
 「堕ちたな。ふっ、我々はお前を歓迎するよ芦屋道満」

 疲れきって倒れこむ道満を見下ろし、茨木は無感動な声で告げる。
 息は荒く、立ち上がることもできない道満だが、確かに霊力の総量は言々を抱く前より、大きく上昇していた。

 「これにて新たなる同士、芦屋道満の“呪黎(じゅれい)”の儀を終了する。言々、行くぞ」
 「はぁはぁ、駄目、腰が抜けて……道満様本当に激しすぎて。凄い」

 力無く倒れる裸の二人を背負って、茨木童子は闇の中に消える。
  
 そして、物語は現代へと移ろう。

  
 ————————————————

「お終い」

次は、「第一章 第一話、幼き刃達 第一節」です



〜作者状況〜

執筆中【】
申し訳ありませんが執筆中に〇が付いている時は書き込まないで下さい。



題名、読み方は「オンミョウジュレイ キリカ」です。前スレで発言した通りリメイクします。
始めましての方は、初めまして。
いつも来てくださっている方々は有難う御座います^^

グロ要素やエロ要素は、ふんだんに入ると思います。
苦手な方や不快に思う方は、見ない事を推奨します。
最後に、更新速度は、亀以下になると思いますがお許しを。



お客様

旬様(雑談の方でお世話になってます! お客様第一号♪)
Walker様(まだまだ、小説の実力は高くないですが順調に成長しそうな人です^^楽しみ!)
羽風様(黒白円舞曲の方にもコメントくださって感謝です!)
白波様(凄く上手な文章を書くお方です! Fateシリーズは私も好きだぜ!)
いちご牛乳。様(自分の事を変体と評す辺り親近感を感じます! ビバ変態★)
檜原武甲様(格好良い名前ですな^^ 最近結構見かけるお方ですね)
火矢 八重様(ファジーの銀賞だか銅賞を取ったお方です! パチパチパチパチィ★)
月那様(プロローグに力を入れると言うのはいいことだと思いますよ!)
紫様(文才に秀でた真摯なお方です!)
猫飼あや様(一芸に秀でるものは多芸に秀でる……朔様と言い適用される言葉なのでしょうなぁ)
日向様(えっと、軍事系の小説を書いていられる珍しいお方です^^中々文章もお上手ですよ!)
トレモロ様(我が心の兄弟にして変態紳士です! 結構な有名人さんなので知ってる人居るかも?)
陽様(私の大事な友達です! いつも嬉しいコメントくれて有難う!)
朝倉疾風様(有名な方ですので知っている人も多いのでは? 凄く真面目なコメントを書いてくれます)
葵様(様を付け辛いよ……僕のストーカーさん★)
茜崎あんず様(陰陽師物書くんですか? 私も暇が有ったら覗いて見ますね?)
狒牙様(BLEACH仲間です! そして、同士です!)
汽水様(結構良く見かけますよね? 主戦場はコメディ?)
柚子様(柑橘系男子。長らく女だと思っていたと言ったら長らく男だと思ってたと意趣返しされた)
ゆぅ様(白黒円舞曲も読んでくださった方です!)
凛様(鑑定してくださいました!)
琥珀様(奇抜なキャラクタを主人公に面白い物語を展開しています★)
藤田光規様(同じく陰陽師系の小説書いてます!)
バンビ様(更新速度が速くて一話一話が短くて簡潔で憧れます!)
白月様(素敵で綺麗な文章をお持ちのお方です♪)
野宮詩織様(絵も上手で小説も上手で、趣味のよろしい楽しいお方です!)
世移様(パラノイアのほうはいつも感想ありがとうございます! 最近は更新滞ってましてすみません)
葉月涼花様(色々な漫画など知っている人です。コメントが何だか雰囲気あります)
黒雪様(私の企画板でお世話になっている人です。なかなかに素敵な小説を書いていますよ!)
柴犬様(ファジー版で書いていた作品は中々に奥深く共感できる良い作品でした!)
デミグラス様(久方ぶりの新規のお客様です! 軍記物を書いたいらっしゃるそうです!)
伯方の塩様(真面目な鑑定有難うございました! 大変ためになりました)
ルリ様(ずいぶん遅くなってしまい申し訳ありません。鑑定士さんです)
冬ノ華 神ノ音様(BLEACHを知っている友人として……お世話になりました!)

34名様

閲覧して下さったお客様方! 真に感謝です!

目次

 第一章

【第一章 第一話 愛せ愛せ 第一節】 >>1 
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第二節】 >>5
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第三節】 >>9
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第四節】 >>13
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第五節】 >>23
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第六節】 >>29
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第七節】 >>33
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第八節】 >>46 
 
 第一章第一話 終了
 
 第一章第二話 開幕

【第一章 第二話、迷え迷え 第一節】 >>53
【第一章 第二話、迷え迷え 第二節】 >>62
【第一章 第二話 迷え迷え 第三節】 >>73


設定資料及び小休止及び貰い物等
キネリ様作 キリカ絵 >>36
魔ん堂様作 蘭樹絵 >>42
キャラクタプロフィール >>52 随時更新
羽月リリ様作 言々絵 >>54
読者様投稿オリキャラプロフィール >>63 随時更新
月森和葉様作 魅剣クラン&夢氷絵 >>66
風マ様作 天月絵 >>67
月森和葉様作 天月絵 >>76

Re: (リメイク)陰陽呪黎キリカ 第一章第一話第一節 執筆中 ( No.1 )
日時: 2012/10/03 23:55
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: aiiC5/EF)

 「はぁはぁはぁはぁ」

 四車線になっているまっすぐな道路沿いの歩道を、必死に走る影がある。
 どうやら中校生程度の少年のようだ。彼は必死な形相で、走り続けている。
 心臓は早鐘を打ち、体中の筋肉が悲鳴を上げているが、足を止めない。
 恐怖に駆られ、後ろを振り返る少年。その視線の先には、人界にいるとは思えない怪物がいた。
 街路灯に照らされたそれは、西洋の神話やゲームに出てくる、小鬼のような姿をしている。

 「クケケケケケケケッ!」

 顔の面積に反して、異様に裂けた口をニィっと吊上げ、化物がけたたましい笑い声を上げた。
 それと同時に、小鬼の移動速度が、一気に上がる。少年は涙目ながらに、走り続ける。
 “駄目だ。追いつかれる”そう、自分の人生を諦めかけたときだった。
 彼と化物の間に、赤を基調とした絢爛豪華(けんらんごうか)な和服に身をつつんだ美女が現れたのは。
  
 「遅れてゴメンね?」
 「えっ、誰?」
  
 ここは京都。平安京が置かれていた場所だ。
 古き時代、そこには神妙不可視な輩を相手取り、朝廷から多大な信頼を得ていた、退魔の眷属がいた。
 科学万能主義により、とうに廃れたとされる彼らだが、今もなお魑魅魍魎が跋扈する京都を中心に、妖怪の調伏に勤しんでいる。
  少年は、ただ見詰め続けた。奇怪な怪物に、一人で向っていく存在。
 そんなもの彼には、一つしか心当たりが無かった。そして目の前の女性は彼の中にある、それの理想に近くて。息を飲む。  

 「大丈夫。心配しないで。私は陰陽の者です」
 「陰陽の者って、まさか——」
     
 女は笑みを浮べ、優しげに答えた。
 ”陰陽の者”すなわち陰陽師。やはりそうかと思ったとき、少年の意識は飛んだ。
 その女性の掌より発せられる術によって。彼のぼやけた視界には、美しい銀の長髪をはためかせた、女の姿が映っていた。
 それは彼がその日見た、最後の光景。
 
 今もなお闇夜の中で、百鬼夜行を滅さんとする者達、陰陽師。
 これは彼等のつむぐ、激動の物語である。


              陰陽呪黎キリカ「第一章 第一話、幼き刃 第一節」
 

 京都市。情緒溢れる町並みが特徴的な、大都市だ。
 そんな市街地の一角。どっしりとした雰囲気の、大きな屋敷が建っている。
 家名を魅剣(ミツルギ)家というらしい。魅剣家とは、この時代における陰陽師の最大勢力である五大家に連なる家系だ。
 その名家群において、最も政府に認可された一族でもある。
  
  三百メートル以上に及ぶ、長大な塀がぐるりを囲む。
 門をくぐると、すぐに正四角形をした建造物が現れる。居住区だ。
 その建物の中央には、広大な庭が設えられている。
 外角を覆うような形で、等間隔に並んでいる手入れが行き届いた、美しい桜の木々。
 更に中心には、鯉が放たれている池。恐らく接客は、この庭園が見える場所で行うのだろう。
    
 そんな魅剣家の、広大な敷地の一室。三十畳一間の、理路整然とした部屋だ。
 厳正な雰囲気が、空間を包んでいる。
 
 和室の中央には、一組の男女。女性の方は、下半身裸の状態で横たわっていた。
 その恥部からは、赤子の頭と思われる物が姿を晒している。

 出産の風景のようだ。
 陰陽の一族から生まれる赤子は、この世に姿を現す瞬間、不可思議な力を発する。
 それを無効化する術を持たない、普通の病院での出産はできない。 

 女性は、腰まで届きそうな、漆黒(しっこく)の長髪をしている。肉付きが良く、思慮深げな美女だ。
 対して男性は、十代後半程度にしか見えない、幼さを残しているが。優しげで、整った顔立ちをしている。
 炎のような紅蓮の頭髪。紫と金のオッドアイという、人間離れした配色が特徴的だ。上位の陰陽師一族には、良くある現象らしい。
 血筋によって現れる色素の特徴が違い、魅剣家の直系は、紅蓮の頭髪が基本だ。

 「ぐっうぅぅぅ」
 「…………」  

 女性は下半身裸で痛みに絶えながら唸り声を上げている。
 男のほうはただ祈るように彼女の手を強く握り締めていた。
   
 「頑張れ! あと少しだ!」
 「はぁっはぁっ、うっ、生まれた、わよ。あっ、貴方」
 
 苦悶の表情を浮かべる妻の手を必死で握りながら、男は祈るような表情を浮べ、応援の言葉を送り続けた。 
 出産は成功したようだ。女の伴侶と思しき男性が、赤ん坊を抱かかえる。
 どうやら子供は女の子らしい。薄らと生える、男と同じ赤髪が特徴的だ。
 出産の疲れでぐったりとする女性に、彼は優しげな表情で賛辞を送る。

 「頑張ったねカルマ。元気そうな女の子だ」
 「ありがとう貴方。ところで、名前決めてあるの?」

 冷静そうな容貌を赤らめながら、カルマと呼ばれた、長髪の麗人は男に問う。
 男が優柔不断であることを、如実(にょじつ)に現しているような言葉。それを聞いて男性は、顔を背けて黙り込む。

 「…………」
 「やっぱり決まってないのね?」
  
 苦笑して、カルマはつぶやく。それは呆れているようではなく、むしろ楽しそうな表情だった。
 どうやら、自分で名前を付けたいらしい。カルマは「じゃぁ、私が決めて良い?」と小首を傾げながら強請る。
 その妻の姿は、恥じらいに満ちた少女のようで可愛らしく。男は頬を赤らめながら、優しげな口調で了承した。
 
 「あぁ、頼むよ」

 男は、上に跳ねた真紅の髪を掻き揚げながら、満面の笑みを浮かべる。
 カルマは、彼の綺麗な紫と金色をした両眼をしばらく見詰め、もったいぶったように間を置いて言う。
  
 「そうね、キリカ……キリカという名前は、どうかしら?」  
 「キリカ。良い名前だ」
   
 恥じらいの色で頬を染めるカルマに、愛情に満ちた声で男は応える。
 彼女は満足げな表情をして、露出した恥部を隠すためにバスタオルを羽織り、子供を抱かせてくれと、目で訴えた。

 「分った」
  
 そう言って男性は妻に赤子を預け、立ち上がる。そして部屋の端の方で静かに成行きを見守っていた、老人達がいる方へ向う。  

 「無事、次世代の当主が生まれたのアザリ? お前も居るし魅剣家もしばらくは安泰かな?」
 
 年老いた者達の中でもいっそう威厳(いげん)のある、長い髭が特徴的な老人が、安堵に染まった声で言う。
 アザリは、長髭の老人に会釈(えしゃく)し跪(ひざまず)く。
 
 「はい、父上。苦節十年、ようやくでございます。カルマも若くないのに、良く頑張ってくれました」

 幾つもの苦杯を、飲んできたのだろう。アザリの声は震えている。
 そんな中でも妻の心配をする愛妻家ぶりが、彼の人となりを示しているようで、老父は感心した様子だ。

 少しの間、長老である父に頭を下げていたアザリは、再び立ち上がり、カルマの方へと向かう。
 嬉しそうに子供を抱かかえる彼女を見て、先に妻に抱かせてやるべきだったと、後悔する。
 その微笑ましい雰囲気を壊したくなくて、声を掛けあぐねていると、カルマが先に声を掛けてきた。

 「そろそろ、子供達も呼ばないとね? キリカを紹介しなくっちゃ」
  
 アザリは沈痛(ちんつう)な面持ちで、頷く。そして彼女にキリカの世話を言い渡し、歩き出す。

 「やはり、彼女を傷つけねばならぬのか」
 
 途中で足を止め、細々と嘆くアザリ。
 カルマは指を立て、言外に静かにしろと告げる。
 子供は親の感情に敏感だから、そういう顔はキリカの前でするなということだろう。
 彼は自分の短慮さに、小さく溜息をつく。

 「そう、悲観なさらないでください。彼女の未来のために、今は心を鬼に」
 「…………」
 
 妻であるカルマの、一族と娘を心底愛した言葉が痛い。
 心に刃が突き刺さったようにズキズキと苦痛が続く。だが結局は仕方の無いことだ。
 魅剣一族の当主は代々、陰陽師最強の肉体を手に入れるために、体を傷つけ術で再生させることの繰り返しを行ってきた。
 呪黎。強力過ぎる上に危険が伴うため、陰陽師発足以来から存在しながら、禁術とされ続けてきた、三種類の呪術だ。

 当然ながら、次期当主たるキリカも、その苦行を耐えなければならない。
 その儀式を少女に執り行うのは、他でもない現当主アザリだ。
 哀愁(あいしゅう)に満ちた瞳で、彼はしばらく愛娘であるキリカを見詰めていた。
 そして息子達を呼びに歩き出す。

 『未来というのは一人の人間を、決められたレールの上に置くことなのか。娘の意思を排除して、集団の利を求めるのが正しいとは思えない? キリカにとって、それはただの大人の都合にしか映らないはずだ! そもそも、今は退屈な陰陽の職に捕らわれ一生を過ごすなど、誰が望む?』

 かねてよりアザリの中に鬱積していた疑問。
 疑念は抱いても、親の用意した道筋の上から逸れたことはなかった自分。彼の胸中に隠しきれない複雑な、本音が浮かび上がっていた。

 『いや、仕方の無いことなのだ。ここに生まれてしまったのだから、私も娘も……』

 アザリは無理矢理に安い言葉で、鬱屈とした感情を、心の深奥へと追いやった。

————————————————

「お終い」

次は、「第一章 第一話、幼き刃達 第二節」です





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