複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

(リメ)陰陽呪黎キリカ 
日時: 2013/02/12 12:20
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: 修復断念(オイ……

 「第一章 序幕」(エロ描写注意)

  
 時は平安。策謀渦巻き、人々の感情が絡み合う時代。京の都には多くの妖怪が百鬼夜行をなし、跋扈していた。
 妖怪とは、人間達のが持つ不の感情と恐怖が、形を成した者達。
 人々に不幸と災いをもたらし、時には命を奪う。人間達にとって、害悪でしかない輩だ。
 文官として、天候を読み取り未来を占うかたわら、そんな人智を超えた神妙不可視の徒輩を、日夜調伏する影の英雄たちがいた。

 その者達の名は陰陽師。力にて陰を打ち破り、聖なる光を都に注ぐことを職務とする、文武両道の者達だ。

 ——今宵、丑三つ時を過ぎたころ。貴族の男を連れた牛車が、不可視の化け物すなわち妖怪に襲われた。
 恐らくは深夜に姫君と、逢瀬を楽しんでいたのだろう。
 慌てふためく男の前に、地味な濃紺の狩衣を着た人物が舞い降りる。
 髭面で筋骨隆々とした大男だ。彼が現れた瞬間に、貴族は慌てふためくのをやめた。目の前の男の実力を知るがゆえだ。  

 「この程度の妖に、私が負けるはずがあるまい!」
  
 目の前にいる妖怪を雑魚と断じた巨漢は、奇怪な術を発動させ、一瞬にして土の蛇を作り、標的を滅ぼす。
  
 「うっうむ、芦屋道満よ大儀で……って、これいくでない!」

 貴族の男の謝礼など聞きもせず、道満と呼ばれた男は駆け抜けて行く。
 彼こそが稀代の大陰陽師と謳われる、都最強の官人陰陽師安倍清明最大の好敵手。
 民間陰陽師の雄、芦屋道満(あしやどうまん)だ。
 今日もどうやら清明と妖怪退治で、競っているらしい。

 「おらおらぁ、私の前に立つ妖怪共は、全て排除するぞぉ! これで二十体ぃ!」

 風を足に纏(まと)わせ、韋駄天(いだてん)の如く速度で夜の平安京を走る。
 術の効力を高める符(ふ)を使い、大量のカマイタチを発しながら、妖怪の群れを蹴散らしていく。
 そのさま正に一騎当千。
 彼以外に清明の相手は務まらないだろうと言わしめるほどの、苛烈(かれつ)な霊力を道満はみなぎらせていた。
 
 貴公子を助けてから数十分、目的の場所へと向って、彼は都を疾走し続ける。
 疲れて足を止めると、生活感を微塵(みじん)も感じさせない廃墟(はいきょ)が、視界に広がっていた。
 道満は、ここで安倍清明と落ち合い、勝負の結果を言い合う約束をしている。
 彼が居ないか、周りを見回す。
 清明は勝負事に余り興味がなく、適当に煙(けむ)に巻くことが有るのだ。
 幾ら探しても、清明の姿が見当たらず、忌々しげに道満は舌を打つ。
 
 「逃げたか」
  
 対戦相手が居なくなったのでは、勝負は成り立たない。
 道満はこれ以上粘っても意味がないと、踵(きびす)を返す。
 夜も遅い。そろそろ寝ないと、明日の業務に支障が出るだろう。
 今回の勝負は水入りとなった。良くある事だ。
 そう、己の心に言い聞かせ、清明等という適当で身勝手な男を、好敵手と認めた自分を責める。
 道満が歩き出して、数秒後。突然、強大な気配を背後に感じたのは。

 「相変わらず、あつっくるしいのぉ道満よ?」
 「清明? お前は相変わらず、透かした腹立たしい顔だな?」

 道満が振り返ると。崩れ落ち、蜘蛛の巣掛かった家屋の屋根上に。紫色の着物を着た男が立っている。
 切れ長で、異性を誘うような優しげな瞳。理知的な雰囲気をかもし出す甘いマスク。非の打ち所のない、絵に描いたような美男子だ。
 彼こそが安倍清明。道満が、唯一の好敵手と認めた男だ。  
 
 清明は暑苦しい道満に、冷やかな視線を送りながら、あくびをする。
 そんな彼の態度に、業を煮やした道満がいきり立つ。 

 「まぁまぁ、夜も遅いし、勝負の結果を発表しないか? 私はここに到着するまでに、四十三体滅ぼした」
  
 道満と清明が行った勝負。
 それは、目的の場所まで到達するのに、何体の妖怪を討伐したかという、単純明快なものだ。
 清明の提示した数に、道満は押し黙る。
 力を押し隠し潜んでいただけで、本当は自分より速く目的地に到着した居たのだろう。
 霊気の出現の仕方から、容易く推測できることだ。だというのに、自分より十体近くも多く滅している。
 彼自身は、清明とさして実力差がないと思っていたのだから、愕然とするのも当然だろう。

 「くくっ、はっはっはっはっは! それでこそ超え甲斐があるというものよ清明!」
 「私も、お前のような強者がいないと詰まらないからな。お前が播磨(はりま)の国から上京してきたこと嬉しく思うよ?」

 道満は怒鳴っても仕方ない事と心を律し、鬱屈した感情を吹き飛ばすように、大声で笑った。
 そんな盟友を見て、清明もまた嬉しそうな表情で、彼を賞賛した。
 清明と彼以外の陰陽師との実力の壁は、当時果てしなく大きかったのだ。

 これは清明と道満の馴れ初めの頃である。

 それから数年間、彼等は常に研鑽し賞賛しあい、高めあった。しかし、その関係は次第に悪化していく。
 いくら修行しても、全く清明に追いつくことができないという、道満の焦り。
 常に二位というのは、気持ちの良くないものだ。
 次第に成長が遅くなっていき、彼は悶々とした日々を送るようになる。
 彼自身も、清明に劣らぬほどの華々しい経歴をいくつもうちたてたが、実力ではいまだに全く及ばない。そんなある日だった。

 "安倍清明は妖怪の血を引いているから、人間離れした霊力を持っているのだ”

 という推論が、都内に伝播したのは。それが道満には許し難かった。
 話によれば、金だけの大した才能も無い父親が、圧倒的な妖力(ようりょく)を誇る妖狐を、優秀な陰陽師を何人も雇い、捕縛したそうだ。そして、その妖狐に子種を植えつけたのだという。

 その事を耳にしてから更に月日は経過し、彼の中の嫉妬心や憎悪は育っていった。
 そして、ある時清明に道満で会う。

 「清明、私はお前を見損なったぞ」
 「何を言っている道満!? お前、あんな戯言を信じているのか!?」

 道満は自分の思いのたけを、憤懣やるかたなし、といった風情で語り、清明に背を向けた。
 清明は止めようとしたが、二度と彼の言葉に道満が答えることはしなかったという。
 長年の友を、些細ないさかいで失った道満は、嘆き続けた。
 自分の愚かさと、そんな清明に勝ちたいという、愚劣な情念を捨てきれない弱さを——

 「清明! 清明ぃ!」
 「まるで、呪うような口調だな。その怨嗟、凄まじい強さだ。知っているか、それが魔道の入り口ぞ、陰陽師?」

 十年前に娶(めと)った妻はすでに家を出て、道満は一人空しく泣き続けた。
 そんな日夜悲嘆に泣き暮れる彼に、掛けられる綺麗だが感情の無い空虚な声。道満は振り向く。
 そこには当時大妖怪として、都内に名を轟かせる大物が立っていた。
 茨木童子。半分に割れた仮面で、左顔面を覆った、鋭い目付きの男だ。

 魔道か、それも良いと思いながらも、道満は陰陽師の理念に従い、茨木を滅そうと、印を結ぶ。
 
 「何用だ!? 貴様知っているぞ、確か茨木童子といったな! 私の家に土足で踏み入るとは、自殺志願者か!?」

 だが、すぐに術を発動させることは無く、用件を道満は問う。
 茨木童子ほどの大物が、こうやって一人で赴(おもむ)くのだから、それなりの理由があると思ったのだ。

 「げーんげん! そんなことないよぉ? 茨木童子は強いんだぞぉ優秀な陰陽師さん?」

 強い声で恫喝(どうかつ)する道満の言葉に、妙な挨拶とともに現れた女が答える。
 女の服装は露出度が高く、そこから覗く透き通るような白い肌は、挑発的な色香をかもし出す。
 更に唇の下にあるほくろが、性欲をそそる。顔は少し幼いが、間違いなく美人だ。
 聞き慣れない名前と、妖気の高さに、何者だと道満はいぶかしむ。
 実力のある妖怪は、大半把握しているはずなのに、と。
 
 「彼女の名は言々(げんげん)。強き渇望(かつぼう)に囚われし者よ。お前は正しい。安倍清明など妖狐の霊力が無ければ、何もできぬ平凡な術者に過ぎないはずだ。そんな邪道の輩がのさばり、人の身でここまで至ったお前がが日陰者とは、何と悲しいことだ?」

 女の紹介を簡潔に済ませ、茨木童子が流れるような口調で話し出す。
 言葉を切り出す場所が無く、道満は黙り込む。
 そして、彼の言葉を聞いているうちに、清明への怒りが、再び沸々(ふつふつ)と湧き上がってくる。
 彼の言っていることは、今の道満の心の全てに当てはまり、道満はそれが正しいことだと思い込む。
 清明は、朝廷に恩を売り、全幅の信頼を得ることにより、裏から平安京を掌握せんとする悪逆の徒だと、自分に言い聞かせる。

 “滅ぼさねばならない。友だなどと、最大の悪を見逃していた自分の罪滅ぼしのためにも”

 彼はそう心に誓った。
 その心情の変化、いや正確には覚悟の芽生えを敏感に察した茨木が、更に言葉を続ける。

 「安倍清明は、帝を甘言でおだて、君等の愛する平安京を手中にせんとす悪逆非道の輩だ。正義を信奉(しんぽう)し、世界を光に満たさんとする、お前なら許すべからずはずだ。強くならねばならん。芦屋道満よ、お前は今までより、遥かに高みに至れる」
 「それはっ! それは一体、どうすれば叶うのだ!?」

 道満が掛けてもらいたかった言葉の数々が、茨木の口から、吐き出されていく。
 すべてを見透かしているような態度に、本来の彼なら絶句し、疑念を抱くはずだが。
 今の彼に、そんな余裕は無い。
 ただ強くなれるという望みが目の前にあることを、疑いもせず手を伸ばす。
 どこまでも暗い絶望の海で、初めて見付けた光明に。

 「簡単だ。言々と性をまじわすだけでいい」
 「えっ、そんな馬鹿な! 私に安倍清明の父親と同じ業に、手を染めろと言っているようなものではないか!?」

 方法を問う道満に、言々と秘め事をしろと茨木は躊躇(ちゅうちょ)なく言い放つ。
 それに彼は驚く。
 いかに美女とはいえ、妖怪に手を出すなど、陰陽の者として有ってはならぬことだ。
 そして、清明を超えた力を手にするために、その父と同じ罪を背負うなど、言語道断だ。
  
 「断じて違うぞ、芦屋道満よ? 言々との間に、子を成すのではない。彼女は交わった相手に、妖力を受け渡す力を持っているのだ」
 「なーに、迷ってるの素敵な叔父様? あ・た・し、もうアソコずぶ濡れだよぉ?」

 逡巡する道満に、先程の覚悟に満ちた目はどうしたと、言外に口にしながら、茨木童子は本旨を説明した。その説明を聞いて道満は思い直す。
 妖怪と交わること自体、陰陽師としては業深きことだが、今の彼にはそれはどうでも良かった。
 安倍清明の父親と同じにさえならなければ良いと、思ったのだ。

 なおも悩む彼を見て、一応の申し訳のために迷っているふりをしているだけだと、見抜いた言々が歩み寄る。
 そして、彼女はピンク色の着物の上着を脱ぎ、上半身をさらけ出す。
 大き目ながら綺麗な形をした乳房。桜色をした綺麗な乳首。
 言々はそれをひけらかせながら、扇情的(せんじょうてき)な仕草で道満に絡みつく。
  
 「あぁ、綺麗だ。もう、どうでも良い。力が欲しい」

 道満は男の本能をあらわにして、獣のように言々を押し倒す。
 強く胸を揉みながら、言々の小振りな桜色をした唇をむさぼる。

 「あっ、あぁん。うっ、はぁはぁ。道満様ったら、野性的な容姿通り激しい人っ」
 「言々よ。入れるぞ? 良いか? 良いと言わずとも、お前は濡れているといっていたではないか!」

 猛々しく女の体などお構いなしに、道満は言々を犯し続けた。
 下の履物を破りさり、一物を彼女の恥部にねじり込む。
 そして、野獣のように激しく、後ろから彼女を突く。
 十数分間の行為の末、彼は彼女の中に射精し儀式は終わった——

 「はぁはぁ、道満様、素敵ぃ」
 「堕ちたな。ふっ、我々はお前を歓迎するよ芦屋道満」

 疲れきって倒れこむ道満を見下ろし、茨木は無感動な声で告げる。
 息は荒く、立ち上がることもできない道満だが、確かに霊力の総量は言々を抱く前より、大きく上昇していた。

 「これにて新たなる同士、芦屋道満の“呪黎(じゅれい)”の儀を終了する。言々、行くぞ」
 「はぁはぁ、駄目、腰が抜けて……道満様本当に激しすぎて。凄い」

 力無く倒れる裸の二人を背負って、茨木童子は闇の中に消える。
  
 そして、物語は現代へと移ろう。

  
 ————————————————

「お終い」

次は、「第一章 第一話、幼き刃達 第一節」です



〜作者状況〜

執筆中【】
申し訳ありませんが執筆中に〇が付いている時は書き込まないで下さい。



題名、読み方は「オンミョウジュレイ キリカ」です。前スレで発言した通りリメイクします。
始めましての方は、初めまして。
いつも来てくださっている方々は有難う御座います^^

グロ要素やエロ要素は、ふんだんに入ると思います。
苦手な方や不快に思う方は、見ない事を推奨します。
最後に、更新速度は、亀以下になると思いますがお許しを。



お客様

旬様(雑談の方でお世話になってます! お客様第一号♪)
Walker様(まだまだ、小説の実力は高くないですが順調に成長しそうな人です^^楽しみ!)
羽風様(黒白円舞曲の方にもコメントくださって感謝です!)
白波様(凄く上手な文章を書くお方です! Fateシリーズは私も好きだぜ!)
いちご牛乳。様(自分の事を変体と評す辺り親近感を感じます! ビバ変態★)
檜原武甲様(格好良い名前ですな^^ 最近結構見かけるお方ですね)
火矢 八重様(ファジーの銀賞だか銅賞を取ったお方です! パチパチパチパチィ★)
月那様(プロローグに力を入れると言うのはいいことだと思いますよ!)
紫様(文才に秀でた真摯なお方です!)
猫飼あや様(一芸に秀でるものは多芸に秀でる……朔様と言い適用される言葉なのでしょうなぁ)
日向様(えっと、軍事系の小説を書いていられる珍しいお方です^^中々文章もお上手ですよ!)
トレモロ様(我が心の兄弟にして変態紳士です! 結構な有名人さんなので知ってる人居るかも?)
陽様(私の大事な友達です! いつも嬉しいコメントくれて有難う!)
朝倉疾風様(有名な方ですので知っている人も多いのでは? 凄く真面目なコメントを書いてくれます)
葵様(様を付け辛いよ……僕のストーカーさん★)
茜崎あんず様(陰陽師物書くんですか? 私も暇が有ったら覗いて見ますね?)
狒牙様(BLEACH仲間です! そして、同士です!)
汽水様(結構良く見かけますよね? 主戦場はコメディ?)
柚子様(柑橘系男子。長らく女だと思っていたと言ったら長らく男だと思ってたと意趣返しされた)
ゆぅ様(白黒円舞曲も読んでくださった方です!)
凛様(鑑定してくださいました!)
琥珀様(奇抜なキャラクタを主人公に面白い物語を展開しています★)
藤田光規様(同じく陰陽師系の小説書いてます!)
バンビ様(更新速度が速くて一話一話が短くて簡潔で憧れます!)
白月様(素敵で綺麗な文章をお持ちのお方です♪)
野宮詩織様(絵も上手で小説も上手で、趣味のよろしい楽しいお方です!)
世移様(パラノイアのほうはいつも感想ありがとうございます! 最近は更新滞ってましてすみません)
葉月涼花様(色々な漫画など知っている人です。コメントが何だか雰囲気あります)
黒雪様(私の企画板でお世話になっている人です。なかなかに素敵な小説を書いていますよ!)
柴犬様(ファジー版で書いていた作品は中々に奥深く共感できる良い作品でした!)
デミグラス様(久方ぶりの新規のお客様です! 軍記物を書いたいらっしゃるそうです!)
伯方の塩様(真面目な鑑定有難うございました! 大変ためになりました)
ルリ様(ずいぶん遅くなってしまい申し訳ありません。鑑定士さんです)
冬ノ華 神ノ音様(BLEACHを知っている友人として……お世話になりました!)

34名様

閲覧して下さったお客様方! 真に感謝です!

目次

 第一章

【第一章 第一話 愛せ愛せ 第一節】 >>1 
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第二節】 >>5
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第三節】 >>9
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第四節】 >>13
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第五節】 >>23
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第六節】 >>29
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第七節】 >>33
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第八節】 >>46 
 
 第一章第一話 終了
 
 第一章第二話 開幕

【第一章 第二話、迷え迷え 第一節】 >>53
【第一章 第二話、迷え迷え 第二節】 >>62
【第一章 第二話 迷え迷え 第三節】 >>73


設定資料及び小休止及び貰い物等
キネリ様作 キリカ絵 >>36
魔ん堂様作 蘭樹絵 >>42
キャラクタプロフィール >>52 随時更新
羽月リリ様作 言々絵 >>54
読者様投稿オリキャラプロフィール >>63 随時更新
月森和葉様作 魅剣クラン&夢氷絵 >>66
風マ様作 天月絵 >>67
月森和葉様作 天月絵 >>76

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一章 一ノ八更新 7/14 ( No.53 )
日時: 2012/08/16 23:50
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: 2KAtl1AZ)

  全ての光を取り払ったような漆黒に染め上げられた、平衡感覚を失いそうな長い穴を言々と茨木童子は黙々と進んでいく。すると小さく明滅を繰り返す、砂粒のような光が見えた。茨木童子より先に言々がそれに触れる。

  彼女の細く白い指先に接触した明滅する結晶は、儚かった先ほどまでの光より遥かに強く輝きだす。そして、瞬く間に黒い絵の具で塗りつぶされたような異界廊(いかいろう)を、眩い輝きで満たした。

  異界廊と呼ばれていた洞は、異界への道では無い。本当は妖怪達の総本山のある世界へ進入することを阻む幻影なのだ。この幻術を破る方法は基本的に一つ。無限に続く暗闇の道を真っ直ぐ走り続け、光に辿り着き大量の霊力を注ぎ込むしかない。妖怪でない多くの者はそこまで付く前に、闇の深さに絶句し絶望に打ちひしがれたりする。更にはその砂粒の如き輝石を見つけても、並の術者では霊力が足りず、異界への扉を開くことは適わない。

  眼前にそびえる幾層にも重ねられ、中央が塔状になった黒い瓦屋根の巨大木造建築物。妖蓮檜総本山月冥楼(ようれんかいそうほんざんげつめいろう)を無感動な目で眺めながら茨木童子は厳かに口を開く。

  「そう言えば、今回の呪黎の依代(よりしろ)は誰だったか?」
  「…………」
 
  言々は茨木の言葉に反応し肩を震わせるが、言葉を発せない。彼女の気持ちを察し茨木は嘆息する。彼女の事情を知る彼は、ことの重大さを鑑み言葉ではなく行動で語ることを瞬時に選ぶ。自らの肩を叩き、言々にしがみ付けと命じる。

  依代とは呪詛や儀式のために、霊力や生命力を捧げる媒体のことだ。当然ながら対象の難易度や危険度により依代は高級なもので無ければならず、最大級のものともなれば最高の依代だとしても尋常ではない損傷を受ける。それこそ、命を失うほどに。

  「あたし……さ。今回の呪黎ばかりは、本当は茨木を恨んだよ? 
  あの娘、霊力は凄いけど体力は全然じゃん? 最強の霊力を持つ貴方が居なかったら!」
  「分った。もう、喋るな。俺が悪かった。行くぞ。失態は行動で返す! 
  雪女檜頭領夢氷(ゆきめかいとうりょう・むひょう)を救う!」

  何時もどおりの心強い男の背中を見て、言々は一筋の涙を流す。そしてぽつりぽつりと、したたどたどしい口調で思いを吐露する。それはまるで愛する人のやさしさに触れ、心の防壁が決壊したかのようだ。茨木はわずかに優しさを含んだ笑みを浮かべ、言々が喋り終わるのを待つ。

  東北を中心に大勢力を広げる雪女達の頭目である女が今回の触媒、すなわち依代だ。その女は古より言々と親交が深く、仲が良いことは茨木童子も良く知っている。一妖怪集団を束ねる大妖怪だけあり膨大な霊力を誇るが、彼女は霊力不相応に体力が低かった。

  だが、妖蓮檜の呪黎を行うには依代として巨大な霊力を持った女性妖怪が不可欠だ。そんな都合の良い存在など指物妖蓮檜と言えど、そうそう居るわけでもなく行使数と女性大妖の数を比すれば、むしろ夢氷が今まで選ばれていなかったのは奇跡なのだが。覚悟するのと本当に起るとでは違うものだ。

  これ以上喋ると泣き崩れてしまうと察し、茨木は彼女に手を差し伸べる。そして乙女のように恥らう言々を無視して強引に跳躍した。呪黎の儀式が行われている部屋のある最上層へと——

  
  
      
              陰陽呪黎キリカ【第一章 第二話、迷え迷え 第一節】



  「言々、強く肩を掴め。振り落とされるなよ?」
  「うん!」

  言々を背負った上で、人飛び百メートルに達する跳躍を三度ほど繰り返し、茨木は最上階へと到達する。その時だ。とつぜん、安定していた苛烈な霊力がはなはだしく揺らぐ。尋常ではないその霊力の変動に、遅れてきた二人は顔を引きつらせる。
  
  「うっ、あっがあぁぁぁぁぁあっいやっあ゛あぁっ! あぁがはぁっ!」

  三十畳に及ぶだろう巨大な和室の中央。氷の様に美しく透き通る肌をした、青いエナメル質の長髪女性が全裸でのたうつ。彼女が今回の触媒である夢氷だ。彼女は血の泡を吹き出しながらもはや喘ぎ声などとは呼べない奇声を上げ続ける。それはまるで死から逃れようと全力で抗っているようだ。次第に網膜まで青かった目が充血し、血涙を流しだす。  
  
  苦しみもがく夢氷を妖蓮檜幹部達が囲む。彼等にも仕事はある。妖怪は基本的に、空気中にある妖気で回復を行う。つまり周りの妖気の濃度が濃いほど回復力が強まるのだ。それは、強大な妖怪達が揃うということの大きなメリットを表している。

  しかし、元々の回復力が劣る彼女は見る見るうちに弱っていく。透き通る柔肌は土気色に変わり、相貌は色をなくす。

  「夢氷ちゃん死んじゃうの? 最高じゃん!」
  「おい、澪采(れいざ)。新参の小僧が安いことを言うなよ?」

  ボディースーツの襟の出た和服を着た、幹部勢では小柄な部類に入る若者が口を開く。少しおどおどした顔立ちのながら、歯に衣着せぬ口調のようだ。自分よりも明らかに年嵩の歴戦の勇に、軽口を叩く様はさすがは大物といえるだろう。

  しかし、澪采と呼ばれた青年はすぐに口をつむぐことになる。突然、彼の横に現れた白刃によって——

  「やぁ、言々さん。茨木童子さん? 遅れてやってきた割には良い気なものですね?」
  「…………」

  その剣の主を見詰め、冷や汗を流しながら澪采はささやく。彼の言葉を事実と認め、茨木は刀を鞘に納める。そして、無駄と断じそれ以上は男の相手はせず、自席へ移動し霊力を放出し始める。普段なら嫌味な若造に摂関の一つでもするところだが、今はそれどころではない。言々も引き締まった顔つきで力を注ぐ。

  「はははっ、馴れ合っちゃって気持ち……」
  「それ以上言うなよ小僧。新参が古参に言う言葉か? もう一つ言わせてもらえれば夢氷はお前より優先度は高いぞ?」
  
  真剣な眼差しの茨木と言々を見て、彼らと夢氷の関係を上辺ながら知る澪采は、舌を出し嘲笑しながら非難した。

  しかし、業を煮やした古参がついに彼を黙らせるために、重い口を開く。深く落ち着いた声。その主は上背だけで二メートルはありそうな筋骨隆々の巨躯。手入れされていない縮れた長髪。赤い鬼の仮面。それらの全てが威圧的な彼の名は崇徳天皇(すとくてんのう)という。幹部勢の中で唯一茨木童子を上回る権利を持つ男だ。

  彼の威圧感のある叱責に肩をすくめ、澪采は黙り込む。しかし、まったく答えた様子は無く、両眼は炎を宿していた。

  夢氷の悲鳴がか細くなり、耳で聞き取れないくらいの小ささになり始めた時だった。彼女の腹部が巨大な何かが蹴破るかのように、ブクブクと膨れ上がり裂け出したのは。夢氷の腹を強引に破って、一本の腕が出現する。それを皮切りにして彼女の子宮に入っていたとは思えない大きさその人間が姿を現す。

  「冗談だろ?」
  「魅剣クラン、また偉い怪物を召還したものだ」

  それは、目が覚めるような真紅のツインテールをした、綺麗な肌のエイチカップはありそうな大きな胸の冷めた表情をした女性だった。一番驚いているのは入れ替わりで幹部勢に参入した呪黎初参戦の澪采だ。茨木や崇徳天皇といった大幹部に睨まれても、軽く受け流せた彼でさえ唖然とする人物が目の前にはいた。騒然となる幹部勢ほどではないが、珍しく動揺はしているのか崇徳天皇は珍しく驚愕の色を含んだ声を上げる。

  「んー? むにゃむにゃ、ここはどこだい?」
  「あっ……あ゛っ!」
 
  寝ぼけ眼を擦りながら、クランと呼ばれた女性は周りを見回す。自分が裸であることに気づいても、大して驚いた様子は無く、小首をかしげる程度だ。彼女により強引に裂かれた腹部から、内臓を散乱させおびただしい量の血を流しながら、ビクンビクンと痙攣する夢氷をクランは睨む。そして厳かに口を開く。

  「あれぇ、何でこんなところに大妖怪の夢氷さんがいるのかなぁ? あれあれ?  
  澪采ちゃんやら言々ちゃんやら茨木っちまで? あはぁ、分った! 
  こかぁ、妖蓮檜総本山月冥楼ってことかぁ」
  「やっ、やめて!」  

  まだ息のある夢氷に、こんなになってもまだ生きていられるなんてと不死身の苦痛を知っているクランは彼女に哀れみの目を向ける。そして、風の剣を精製し彼女の頭部めがけて振り下ろす。他の者達は唖然として見守ることしかできず、言々は口を覆って悲鳴を上げるしかできない。だが、そんな中疾風の如くクランの剣戟を止めるために疾駆した者がいた。
  
  「言ったろう? 俺は行動で示すと……」
  「あれぇ? 茨木っちってそんな熱い性格だったっけ?」

  疾風の如き剣捌きでクランの風の刃を打ち払う茨木。そして、クランにではなく茨木は言々に言い放つ。言々は親友が息の根を止められる瞬間を見ずにすんだと、嬉し涙を流す。そんな二人の微妙な関係を読み取ったクランは心底忌々しげな表情で吐き捨てる。

  「黙れ。いかに貴様と言えどこの数の幹部を相手にするのは無理なはずだ。俺達に従え!」
  「ちぇっ、陰陽師として勇名轟かせたこの俺様が妖怪の軍門に落ちるなんてなぁ」

  クランの喉元に剣先を当て、茨木は投降し下僕となれと脅す。周りを見回し、戦力差を理解した彼女は肩を竦め、彼らの部下になることを承服した。その契約の証として彼女は、大量の霊力を夢氷に譲渡する。見る見る夢氷の腹部の損傷が塞がっていく。

  「まぁ、妖怪の相手も飽きていたし、陰陽師と戦いまくるってのも悪くないかな?」

  そして、クランは子供のように屈託ない笑みを浮かべた。まるで全ての成り行きを楽しむように——
    
  
  
  ————————————————

【お終い】

次は、【第一章 第二話、迷え迷え 第二節】です

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一章 一ノ八更新 7/14 ( No.55 )
日時: 2012/08/05 15:17
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 2KAtl1AZ)
参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/524jpg.html

本レス参照は羽月リリ様作の言々です!
優しい色彩と幼さの中に大人らしさのある言々! 私好みです★

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ  ( No.60 )
日時: 2012/08/27 08:06
名前: 風猫  ◆Z1iQc90X/A (ID: ejIoRkVP)

1000突破しました。
旧スレと含めると二千突破ですね……
何か企画でもしましょうか、と考え中です!
(そんなことする暇有ったら更新しろという閲覧者の声が聞こえる)

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ  ( No.62 )
日時: 2012/09/13 15:47
名前: 風猫  ◆Z1iQc90X/A (ID: aiiC5/EF)

  
      
              陰陽呪黎キリカ【第一章 第二話、迷え迷え 第二節】





 『無理だろう、ねぇ? しっかし、壮観壮観ッ! 一人も殺せねぇっつぅの』

  クランはガシガシと頭をかき回しながら、総勢十人に及ぶ大妖怪群を見回す。凄まじい霊力が渦巻いていて、肌に幾億の針が突き刺さっているような痛みを感じ、彼女は顔を歪める。実際、十二神将もいない今の彼女では、一人も仕留めることはできないだろう。傷一つつけることもできない可能性もある。しかし、本来なら十二人いろはずの幹部連がなぜか二人足りない。訝しげにクランは目を細める。

  「所でさぁ、竜神さんと朱雀さんはどこいったのかなぁ? こんな大掛かりな儀式で呼ばれないはずないと思うんだけど?」

  わざとらしく周りを見回しながら、クランは問う。配下として使われるのだから、隠し事をされては堪らないという忠告だ。幹部達の半分以上は、彼女の意図を読みかね首を傾げる。返答が遅れる中、茨木が重い口を開く。

  「すまんが奴等がいない理由は俺たちも分らん。まじめな部類の奴等だから無視を決め込んだとも思えんが」
  「ふーん、崇徳天皇様も知らなさそうだし、そういうことで良っか」

  淀みの無い歌うような茨木の口調に、一切の迷いは無い。周りの面子も同様だ。クランは表情や霊力の揺らぎをつぶさに確認して、嘘ではないことを確信する。幹部連の纏め役で、最も彼らの中で権力が高いはずの崇徳天皇でさえ本当に知らないようだ。小さく彼女は嘆息し無理やり納得させる。何か裏で命令を受けていることは確実だろうが、これ以上粘ったところで情報は収集できないのは明らかだからだ。

  「も一つ聞きたいことあんだけどー」
  「ちょっち、その前にさぁ! 服着ろって! ってか、ほら夢氷ちゃんも儀式終わって体力回復したんだしっ!」

  クランは気を取り直して次の質問を始めようとする。しかし、そこで話の腰を折るように、澪采が声を上げた。その声は、悲鳴と懇願がない交ぜになったような感じで。先程まではふてぶてしい態度を取っていたが、実は見慣れないのだろう女性の裸を何分も見たことで、意外と精神的なダメージを受けていたのだろうことが分かる。何百年と生きている者が多い幹部勢の中で、その初心な反応は微笑ましいものがあったらしく、何人かは噴出すように笑った。

  「笑う所じゃないだろう!?」と、必死に抗弁する澪采の様が、余計に幹部たちの笑いを誘う。クランもまた、やれやれと手を広げ笑いながら、妖連檜の面々に服を所望する。夢氷は立ち上がり予め用意してあったガウンを同じ水属性の力を持つ幹部の天鳶 龍(あまとび りゅう)から貰う。本来の姿は天候すら操る強大な竜なのだが、普段は青色の中華服を着ているだけの、目立たない風貌の男だ。

  彼に少し遅れて、茨城とは違うもう一人の木属性を司る幹部、天月(あまつき)が服をクランに渡す。前髪をそろえた紫髪の控え目そうな童顔美少女は、甲斐甲斐しく「急増なのでサイズが合うか分かりませんが」などと、妖連檜の幹部らしからぬ気遣いをみせてゆったり目の振袖を渡す。

  「あの、いかがでしょうか!?」
  「ふむぅ、落ち着いた紫にシンプルな装飾。悪くないぞ天月ぃ!」

  そわそわして様子を伺う天月に、満面の笑みを浮かべながらクランは楽しそうに着替えを始める。一先ずは安心だと、天月は息をつく。甲斐甲斐しく衣擦れを直したり帯を結ぶ様子は、知らぬものが見れば親子や姉妹のようだが。

  彼女等は昔は殺しあった関係だ。主君が戦力として蘇らせた存在だから、共闘するために足並みを正そうとはするが、気を許せるはずはない。天月自身も自らの部下を何人も消されている。彼女とて内心では辛酸をなめる気分だ。

  いつだって、呪黎によって蘇る存在は怨敵であった魅剣系陰陽師で。この辛苦も何度も味わってはいるが。それでも慣れることはできないと、彼女は思う。彼らに人生の全てを奪われた部下や仲間のためにも受け入れ許してはならないとも。

  ——そんな幹部勢全体にある共通の感情を読み取り、個人的に解釈しながらクランは思う。

  『あぁ、この世の中は本当に滑稽で面白いなぁ』と。

  立場や関係があるから、自分の思い通りになど行くはずがない。手に入れたものを簡単に手放すことができないのは、人間も妖怪を問わず同じだ。真の自由を掴むというのは、本当に難しい。仲間のため。友のためと、それは何かに縛られているに他ならない。妖怪は独立を望み孤高を尊ぶのに、今や組織として体系化され自由の権利は何処あるや。

  魅剣クランは考える。本来の姿を体裁や義の情で固め込んだ彼等は、それでもなお心の深奥で自由を渇望しているのだ。その自然とはとても言い難い状況を逆手に取ることにより、この上なく面白い茶番劇を開くことはできないか。

  命を絶って三百年以上になる彼女には最早、妖怪から人々を護などという義務感はない。唯有るのは死ぬ寸前に真実を知って、絶望を味わった後に湧き上がってきた、どす黒い好奇心。変質した憎しみを他者にぶつけ尽くしたいという感情だ。

  妖連檜。そこは彼女にとって実に楽しそうな場所だ。できうる限り利用してやろう。蘇ってすぐにそう心に決めた。

  「どうだ? 似合うかな?」
  「すっすごく似合ってます! クラン様は体つきが宜しいので、どっどのようなお服でもっ」

  黙考しているうちに、すっかり着物姿を整えていることに気付き、クランは天月に会釈して幹部の面々に向かい直り、笑みを浮かべる。皆が首肯する中、近くにいた天月は小間使いように持て囃しクランを褒めちぎった。

  「所でさ、これで良いわけだよね澪采君?」
  「あっ、あぁっ! で、あんたは何が聞きたいわけよ?」

  一頻り周りの反応を見回して、少し初心そうな澪采をわざと胸をはだけさせてからかったりしながら、彼女は改めて澪采に問う。いい加減に話を進めて良いのか、というクランの性格を現した短気なニュアンスの入った言い方だ。澪采は冷や汗を流しながら、首を振る。

  「じゃぁ、聞くけどさぁ。幹部全員が揃っていないのは、まぁ妖怪らしいから良いとしてさ? 何で君達の首領たる芦屋道満がいないのかなぁ? 新たなる同胞を迎え入れるってんならさー、リーダーが立ち会うのが普通じゃないーぃ? そもそも、何で三人も重鎮いない状態で何で夢氷ちゃんは生き延びれてるわけぇ? 気になりすぎて夜も眠れないー的なぁ?」

  間延びした口調で、しかし全く息継ぎなどせずクランは質問を畳み掛けていく。別段親身に答えて貰わなくても彼女自身としては良いのだが、興味のあることははやくに知りたいのが、彼女の本質だ。

  陰陽師歴代随一の天才の一角として数えられる芦屋道満は、今や物の怪の類となりて妖怪たちを纏める復讐の王と化している。その怨敵を彼女はついぞ見たことがない。今やその男の部下となるのだ。すなわち彼女の人生に深く関わっているといって良い。どのような凄烈な力に満ちた人物なのだろうかと、否応なく気になるのはしかたないだろう。

  そして第二の疑問。彼女が自分の先代から聞き及んでいる話によれば、本来妖怪流の呪黎は最低でも十三体以上大妖怪がいなければ人柱は死んでしまうらしい。つまり、十人だけで夢氷の命を繋ぎ止めるのは、彼女の生命力の高さいかんに関わらず、無理ということだ。

  「…………」
  「はぁ、誰も知らないかぁ。がっかしですわぁ」

  一通り気になったことを吐き出、しクランは周りを見回す。誰も答えられる者がいないようで、案外幹部たちも信頼されていないのだなと内心毒づき嘆息するクラン。しかし、その時だった。隣伝いに有った部屋から強大な霊気が湧き出したのは。

  「あー、うぜぇ! うぜぇぜ、本当に姉貴は! んなの、呪黎で蘇った俺っち達が霊力送ってるからに決まってんだろうが!?」
  「あららぁ? ハイドも生き返らせられてたってわけぇ? エイダ様や紅王(こうおう)様までぇ! 道満ってば随分欲張りね?」
  
  膨大な霊圧の発生とともに、襖が勢いよく開かれる。クランの視界の真ん中には、頭にバンダナを巻いた赤いボサボサの短髪をした精悍な男がいた。見覚えのある男だ。それも当然、彼女と同世代で実の弟なのだから。周りにも歴代の魅剣家の戦士が揃っている。これを見るに、どうやら最強の陰陽師の名をもつ男は、随分用心深い男でもあるようだ。強大な力を有してなお驕らない男。間違えなく手強い存在といえよう。クランは自然に戦闘狂としての笑みを見せていた。

  「我侭で悪かったな? お前と会うのは初めてだなクラン?」
  『いつの間に!?』

  その時だった。突然、深い声が耳朶に響く。本能が警鐘を鳴らし、心の臓が張り裂けそうなほどに鼓動する。心音が自棄に大きい。初めて聞く声のはずなのに、それが何者なのか明確に分かる。陰陽師達にとっての最大の裏切り者にして、最強の敵として広く浸透している存在。圧倒的な存在を醸し出しているのに、自分の感じられる力の限界を超えていて霊力を感じ取ることもできないような感覚。彼の名は“芦屋道満。

               陰陽師史上に永遠に名を残すだろう男——

  「成程、彼らの性能を試すために竜神と朱雀をあえて……」
  
  崇徳天皇(すとくてんのう)が、慣れた口調で道満に問う。それに対し彼は一つ頷くだけだったが、崇徳天皇はそれを肯定と取って、それ以上言及はしなかった。未だに道満はクランの近くにいる。彼は彼女の耳元に口付けし囁いた。

  「お前が一番欲しかったのだ」と。
  クランは道満の言葉の意味が分からず、立ち尽くすしかなかった——

   
  
  
  ————————————————

【お終い】

次は、【第一章 第二話、迷え迷え 第三節】です





  

  

      

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一ノニノニ 8/29更新! ( No.63 )
日時: 2012/08/31 22:58
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: xhrme0sm)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=6126

本レスのURLにて、読者様投稿オリジナルキャラクタプロフィール掲載されてます!

現時点で出ているキャラ

黒雪様作 澪采(れいざ)

襤褸様作 天鳶 龍(あまとび りゅう) ※名前と容姿のみ登場


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11