複雑・ファジー小説
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- (リメ)陰陽呪黎キリカ
- 日時: 2013/02/12 12:20
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
- 参照: 修復断念(オイ……
「第一章 序幕」(エロ描写注意)
時は平安。策謀渦巻き、人々の感情が絡み合う時代。京の都には多くの妖怪が百鬼夜行をなし、跋扈していた。
妖怪とは、人間達のが持つ不の感情と恐怖が、形を成した者達。
人々に不幸と災いをもたらし、時には命を奪う。人間達にとって、害悪でしかない輩だ。
文官として、天候を読み取り未来を占うかたわら、そんな人智を超えた神妙不可視の徒輩を、日夜調伏する影の英雄たちがいた。
その者達の名は陰陽師。力にて陰を打ち破り、聖なる光を都に注ぐことを職務とする、文武両道の者達だ。
——今宵、丑三つ時を過ぎたころ。貴族の男を連れた牛車が、不可視の化け物すなわち妖怪に襲われた。
恐らくは深夜に姫君と、逢瀬を楽しんでいたのだろう。
慌てふためく男の前に、地味な濃紺の狩衣を着た人物が舞い降りる。
髭面で筋骨隆々とした大男だ。彼が現れた瞬間に、貴族は慌てふためくのをやめた。目の前の男の実力を知るがゆえだ。
「この程度の妖に、私が負けるはずがあるまい!」
目の前にいる妖怪を雑魚と断じた巨漢は、奇怪な術を発動させ、一瞬にして土の蛇を作り、標的を滅ぼす。
「うっうむ、芦屋道満よ大儀で……って、これいくでない!」
貴族の男の謝礼など聞きもせず、道満と呼ばれた男は駆け抜けて行く。
彼こそが稀代の大陰陽師と謳われる、都最強の官人陰陽師安倍清明最大の好敵手。
民間陰陽師の雄、芦屋道満(あしやどうまん)だ。
今日もどうやら清明と妖怪退治で、競っているらしい。
「おらおらぁ、私の前に立つ妖怪共は、全て排除するぞぉ! これで二十体ぃ!」
風を足に纏(まと)わせ、韋駄天(いだてん)の如く速度で夜の平安京を走る。
術の効力を高める符(ふ)を使い、大量のカマイタチを発しながら、妖怪の群れを蹴散らしていく。
そのさま正に一騎当千。
彼以外に清明の相手は務まらないだろうと言わしめるほどの、苛烈(かれつ)な霊力を道満はみなぎらせていた。
貴公子を助けてから数十分、目的の場所へと向って、彼は都を疾走し続ける。
疲れて足を止めると、生活感を微塵(みじん)も感じさせない廃墟(はいきょ)が、視界に広がっていた。
道満は、ここで安倍清明と落ち合い、勝負の結果を言い合う約束をしている。
彼が居ないか、周りを見回す。
清明は勝負事に余り興味がなく、適当に煙(けむ)に巻くことが有るのだ。
幾ら探しても、清明の姿が見当たらず、忌々しげに道満は舌を打つ。
「逃げたか」
対戦相手が居なくなったのでは、勝負は成り立たない。
道満はこれ以上粘っても意味がないと、踵(きびす)を返す。
夜も遅い。そろそろ寝ないと、明日の業務に支障が出るだろう。
今回の勝負は水入りとなった。良くある事だ。
そう、己の心に言い聞かせ、清明等という適当で身勝手な男を、好敵手と認めた自分を責める。
道満が歩き出して、数秒後。突然、強大な気配を背後に感じたのは。
「相変わらず、あつっくるしいのぉ道満よ?」
「清明? お前は相変わらず、透かした腹立たしい顔だな?」
道満が振り返ると。崩れ落ち、蜘蛛の巣掛かった家屋の屋根上に。紫色の着物を着た男が立っている。
切れ長で、異性を誘うような優しげな瞳。理知的な雰囲気をかもし出す甘いマスク。非の打ち所のない、絵に描いたような美男子だ。
彼こそが安倍清明。道満が、唯一の好敵手と認めた男だ。
清明は暑苦しい道満に、冷やかな視線を送りながら、あくびをする。
そんな彼の態度に、業を煮やした道満がいきり立つ。
「まぁまぁ、夜も遅いし、勝負の結果を発表しないか? 私はここに到着するまでに、四十三体滅ぼした」
道満と清明が行った勝負。
それは、目的の場所まで到達するのに、何体の妖怪を討伐したかという、単純明快なものだ。
清明の提示した数に、道満は押し黙る。
力を押し隠し潜んでいただけで、本当は自分より速く目的地に到着した居たのだろう。
霊気の出現の仕方から、容易く推測できることだ。だというのに、自分より十体近くも多く滅している。
彼自身は、清明とさして実力差がないと思っていたのだから、愕然とするのも当然だろう。
「くくっ、はっはっはっはっは! それでこそ超え甲斐があるというものよ清明!」
「私も、お前のような強者がいないと詰まらないからな。お前が播磨(はりま)の国から上京してきたこと嬉しく思うよ?」
道満は怒鳴っても仕方ない事と心を律し、鬱屈した感情を吹き飛ばすように、大声で笑った。
そんな盟友を見て、清明もまた嬉しそうな表情で、彼を賞賛した。
清明と彼以外の陰陽師との実力の壁は、当時果てしなく大きかったのだ。
これは清明と道満の馴れ初めの頃である。
それから数年間、彼等は常に研鑽し賞賛しあい、高めあった。しかし、その関係は次第に悪化していく。
いくら修行しても、全く清明に追いつくことができないという、道満の焦り。
常に二位というのは、気持ちの良くないものだ。
次第に成長が遅くなっていき、彼は悶々とした日々を送るようになる。
彼自身も、清明に劣らぬほどの華々しい経歴をいくつもうちたてたが、実力ではいまだに全く及ばない。そんなある日だった。
"安倍清明は妖怪の血を引いているから、人間離れした霊力を持っているのだ”
という推論が、都内に伝播したのは。それが道満には許し難かった。
話によれば、金だけの大した才能も無い父親が、圧倒的な妖力(ようりょく)を誇る妖狐を、優秀な陰陽師を何人も雇い、捕縛したそうだ。そして、その妖狐に子種を植えつけたのだという。
その事を耳にしてから更に月日は経過し、彼の中の嫉妬心や憎悪は育っていった。
そして、ある時清明に道満で会う。
「清明、私はお前を見損なったぞ」
「何を言っている道満!? お前、あんな戯言を信じているのか!?」
道満は自分の思いのたけを、憤懣やるかたなし、といった風情で語り、清明に背を向けた。
清明は止めようとしたが、二度と彼の言葉に道満が答えることはしなかったという。
長年の友を、些細ないさかいで失った道満は、嘆き続けた。
自分の愚かさと、そんな清明に勝ちたいという、愚劣な情念を捨てきれない弱さを——
「清明! 清明ぃ!」
「まるで、呪うような口調だな。その怨嗟、凄まじい強さだ。知っているか、それが魔道の入り口ぞ、陰陽師?」
十年前に娶(めと)った妻はすでに家を出て、道満は一人空しく泣き続けた。
そんな日夜悲嘆に泣き暮れる彼に、掛けられる綺麗だが感情の無い空虚な声。道満は振り向く。
そこには当時大妖怪として、都内に名を轟かせる大物が立っていた。
茨木童子。半分に割れた仮面で、左顔面を覆った、鋭い目付きの男だ。
魔道か、それも良いと思いながらも、道満は陰陽師の理念に従い、茨木を滅そうと、印を結ぶ。
「何用だ!? 貴様知っているぞ、確か茨木童子といったな! 私の家に土足で踏み入るとは、自殺志願者か!?」
だが、すぐに術を発動させることは無く、用件を道満は問う。
茨木童子ほどの大物が、こうやって一人で赴(おもむ)くのだから、それなりの理由があると思ったのだ。
「げーんげん! そんなことないよぉ? 茨木童子は強いんだぞぉ優秀な陰陽師さん?」
強い声で恫喝(どうかつ)する道満の言葉に、妙な挨拶とともに現れた女が答える。
女の服装は露出度が高く、そこから覗く透き通るような白い肌は、挑発的な色香をかもし出す。
更に唇の下にあるほくろが、性欲をそそる。顔は少し幼いが、間違いなく美人だ。
聞き慣れない名前と、妖気の高さに、何者だと道満はいぶかしむ。
実力のある妖怪は、大半把握しているはずなのに、と。
「彼女の名は言々(げんげん)。強き渇望(かつぼう)に囚われし者よ。お前は正しい。安倍清明など妖狐の霊力が無ければ、何もできぬ平凡な術者に過ぎないはずだ。そんな邪道の輩がのさばり、人の身でここまで至ったお前がが日陰者とは、何と悲しいことだ?」
女の紹介を簡潔に済ませ、茨木童子が流れるような口調で話し出す。
言葉を切り出す場所が無く、道満は黙り込む。
そして、彼の言葉を聞いているうちに、清明への怒りが、再び沸々(ふつふつ)と湧き上がってくる。
彼の言っていることは、今の道満の心の全てに当てはまり、道満はそれが正しいことだと思い込む。
清明は、朝廷に恩を売り、全幅の信頼を得ることにより、裏から平安京を掌握せんとする悪逆の徒だと、自分に言い聞かせる。
“滅ぼさねばならない。友だなどと、最大の悪を見逃していた自分の罪滅ぼしのためにも”
彼はそう心に誓った。
その心情の変化、いや正確には覚悟の芽生えを敏感に察した茨木が、更に言葉を続ける。
「安倍清明は、帝を甘言でおだて、君等の愛する平安京を手中にせんとす悪逆非道の輩だ。正義を信奉(しんぽう)し、世界を光に満たさんとする、お前なら許すべからずはずだ。強くならねばならん。芦屋道満よ、お前は今までより、遥かに高みに至れる」
「それはっ! それは一体、どうすれば叶うのだ!?」
道満が掛けてもらいたかった言葉の数々が、茨木の口から、吐き出されていく。
すべてを見透かしているような態度に、本来の彼なら絶句し、疑念を抱くはずだが。
今の彼に、そんな余裕は無い。
ただ強くなれるという望みが目の前にあることを、疑いもせず手を伸ばす。
どこまでも暗い絶望の海で、初めて見付けた光明に。
「簡単だ。言々と性をまじわすだけでいい」
「えっ、そんな馬鹿な! 私に安倍清明の父親と同じ業に、手を染めろと言っているようなものではないか!?」
方法を問う道満に、言々と秘め事をしろと茨木は躊躇(ちゅうちょ)なく言い放つ。
それに彼は驚く。
いかに美女とはいえ、妖怪に手を出すなど、陰陽の者として有ってはならぬことだ。
そして、清明を超えた力を手にするために、その父と同じ罪を背負うなど、言語道断だ。
「断じて違うぞ、芦屋道満よ? 言々との間に、子を成すのではない。彼女は交わった相手に、妖力を受け渡す力を持っているのだ」
「なーに、迷ってるの素敵な叔父様? あ・た・し、もうアソコずぶ濡れだよぉ?」
逡巡する道満に、先程の覚悟に満ちた目はどうしたと、言外に口にしながら、茨木童子は本旨を説明した。その説明を聞いて道満は思い直す。
妖怪と交わること自体、陰陽師としては業深きことだが、今の彼にはそれはどうでも良かった。
安倍清明の父親と同じにさえならなければ良いと、思ったのだ。
なおも悩む彼を見て、一応の申し訳のために迷っているふりをしているだけだと、見抜いた言々が歩み寄る。
そして、彼女はピンク色の着物の上着を脱ぎ、上半身をさらけ出す。
大き目ながら綺麗な形をした乳房。桜色をした綺麗な乳首。
言々はそれをひけらかせながら、扇情的(せんじょうてき)な仕草で道満に絡みつく。
「あぁ、綺麗だ。もう、どうでも良い。力が欲しい」
道満は男の本能をあらわにして、獣のように言々を押し倒す。
強く胸を揉みながら、言々の小振りな桜色をした唇をむさぼる。
「あっ、あぁん。うっ、はぁはぁ。道満様ったら、野性的な容姿通り激しい人っ」
「言々よ。入れるぞ? 良いか? 良いと言わずとも、お前は濡れているといっていたではないか!」
猛々しく女の体などお構いなしに、道満は言々を犯し続けた。
下の履物を破りさり、一物を彼女の恥部にねじり込む。
そして、野獣のように激しく、後ろから彼女を突く。
十数分間の行為の末、彼は彼女の中に射精し儀式は終わった——
「はぁはぁ、道満様、素敵ぃ」
「堕ちたな。ふっ、我々はお前を歓迎するよ芦屋道満」
疲れきって倒れこむ道満を見下ろし、茨木は無感動な声で告げる。
息は荒く、立ち上がることもできない道満だが、確かに霊力の総量は言々を抱く前より、大きく上昇していた。
「これにて新たなる同士、芦屋道満の“呪黎(じゅれい)”の儀を終了する。言々、行くぞ」
「はぁはぁ、駄目、腰が抜けて……道満様本当に激しすぎて。凄い」
力無く倒れる裸の二人を背負って、茨木童子は闇の中に消える。
そして、物語は現代へと移ろう。
————————————————
「お終い」
次は、「第一章 第一話、幼き刃達 第一節」です
〜作者状況〜
執筆中【】
申し訳ありませんが執筆中に〇が付いている時は書き込まないで下さい。
題名、読み方は「オンミョウジュレイ キリカ」です。前スレで発言した通りリメイクします。
始めましての方は、初めまして。
いつも来てくださっている方々は有難う御座います^^
グロ要素やエロ要素は、ふんだんに入ると思います。
苦手な方や不快に思う方は、見ない事を推奨します。
最後に、更新速度は、亀以下になると思いますがお許しを。
お客様
旬様(雑談の方でお世話になってます! お客様第一号♪)
Walker様(まだまだ、小説の実力は高くないですが順調に成長しそうな人です^^楽しみ!)
羽風様(黒白円舞曲の方にもコメントくださって感謝です!)
白波様(凄く上手な文章を書くお方です! Fateシリーズは私も好きだぜ!)
いちご牛乳。様(自分の事を変体と評す辺り親近感を感じます! ビバ変態★)
檜原武甲様(格好良い名前ですな^^ 最近結構見かけるお方ですね)
火矢 八重様(ファジーの銀賞だか銅賞を取ったお方です! パチパチパチパチィ★)
月那様(プロローグに力を入れると言うのはいいことだと思いますよ!)
紫様(文才に秀でた真摯なお方です!)
猫飼あや様(一芸に秀でるものは多芸に秀でる……朔様と言い適用される言葉なのでしょうなぁ)
日向様(えっと、軍事系の小説を書いていられる珍しいお方です^^中々文章もお上手ですよ!)
トレモロ様(我が心の兄弟にして変態紳士です! 結構な有名人さんなので知ってる人居るかも?)
陽様(私の大事な友達です! いつも嬉しいコメントくれて有難う!)
朝倉疾風様(有名な方ですので知っている人も多いのでは? 凄く真面目なコメントを書いてくれます)
葵様(様を付け辛いよ……僕のストーカーさん★)
茜崎あんず様(陰陽師物書くんですか? 私も暇が有ったら覗いて見ますね?)
狒牙様(BLEACH仲間です! そして、同士です!)
汽水様(結構良く見かけますよね? 主戦場はコメディ?)
柚子様(柑橘系男子。長らく女だと思っていたと言ったら長らく男だと思ってたと意趣返しされた)
ゆぅ様(白黒円舞曲も読んでくださった方です!)
凛様(鑑定してくださいました!)
琥珀様(奇抜なキャラクタを主人公に面白い物語を展開しています★)
藤田光規様(同じく陰陽師系の小説書いてます!)
バンビ様(更新速度が速くて一話一話が短くて簡潔で憧れます!)
白月様(素敵で綺麗な文章をお持ちのお方です♪)
野宮詩織様(絵も上手で小説も上手で、趣味のよろしい楽しいお方です!)
世移様(パラノイアのほうはいつも感想ありがとうございます! 最近は更新滞ってましてすみません)
葉月涼花様(色々な漫画など知っている人です。コメントが何だか雰囲気あります)
黒雪様(私の企画板でお世話になっている人です。なかなかに素敵な小説を書いていますよ!)
柴犬様(ファジー版で書いていた作品は中々に奥深く共感できる良い作品でした!)
デミグラス様(久方ぶりの新規のお客様です! 軍記物を書いたいらっしゃるそうです!)
伯方の塩様(真面目な鑑定有難うございました! 大変ためになりました)
ルリ様(ずいぶん遅くなってしまい申し訳ありません。鑑定士さんです)
冬ノ華 神ノ音様(BLEACHを知っている友人として……お世話になりました!)
34名様
閲覧して下さったお客様方! 真に感謝です!
目次
第一章
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第一節】 >>1
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第二節】 >>5
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第三節】 >>9
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第四節】 >>13
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第五節】 >>23
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第六節】 >>29
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第七節】 >>33
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第八節】 >>46
第一章第一話 終了
第一章第二話 開幕
【第一章 第二話、迷え迷え 第一節】 >>53
【第一章 第二話、迷え迷え 第二節】 >>62
【第一章 第二話 迷え迷え 第三節】 >>73
設定資料及び小休止及び貰い物等
キネリ様作 キリカ絵 >>36
魔ん堂様作 蘭樹絵 >>42
キャラクタプロフィール >>52 随時更新
羽月リリ様作 言々絵 >>54
読者様投稿オリキャラプロフィール >>63 随時更新
月森和葉様作 魅剣クラン&夢氷絵 >>66
風マ様作 天月絵 >>67
月森和葉様作 天月絵 >>76
- Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一ノニノ三 執筆中 ( No.73 )
- 日時: 2012/09/19 18:54
- 名前: 風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
緊張で硬直するクランの肩を一度叩き、芦屋道満は歩き出す。
十二天将達の人数より一つ分多い座布団の中央。どちらから数えても七番目の席に、彼はドカッと音を立てて座る。
その音を聞いて、クランは意思を現実に戻す。
崇徳天皇、茨木童子という幹部連の中でも最強の座を争う二人に挟まれて座る道満は、なお圧倒的な存在感を放っている。その尋常ではない力の脈動は、復活して間もない彼女には強烈過ぎた。
意識を集中しなければ気を絶えてしまいそうなほどだ。
いかに彼女が最盛期より随分と劣っているからとはいえ、尋常ではない。
何せ、現時点でもクランは十分に強いのだ。
「…………」
「どうしたクラン? もっと、気を楽にしていいぞ?」
緊張感で体をこわばらせたまま突っ立つクランを見て、道満は邪気のない笑みを浮かべささやく。
警戒する必要はない。同じ場所に立つ仲間なのだから、気負う必要はないのだ。そういうニュアンスだろう。
彼は微塵も彼女が裏切るとは思っておらず、完全に味方として受け入れる気のようだ。
それがクランには恐ろしかった。
なぜならその考え方はどのような裏切りをされても、力で容易く抑え込めるという自信の表れだからだ。
あるいは、反逆行為自体できないだろうと、高を括っているのかも知れない。
『嘗めたことを言いやがって! 俺様のプライドを逆撫でしたこと後悔させてやる!
時間はあるさ。すぐに全盛期の力を取り戻して、妖力に慣れて……』
しかし、道満の慢心とも取れる豪胆な態度にクランは腸を煮え繰り返していた。
怨敵でありながら神格視されるような怪物だが、彼女とて百戦錬磨の戦士としての自負がある。
生前は疾風怒濤のごとく戦場を駆け抜け、数多の怪異を薙ぎ倒してきたのだ。命を閉ざしたのも戦いの中。
初めの頃は、妖連檜の幹部をたぶらかしクーデターを起こすというのもただの暇つぶしのつもりだったのだが。
今は違う。陰陽師としてその透かした態度を崩壊させてやりたい。心の底からそう思う彼女がいる。
「お言葉ながら道満様。彼女が緊張感に飲まれているのは、貴方が過大な重圧を彼女に飛ばしているためかと」
「うむ? そうか、悪いな。仮にも我が十二天将と渡り合った一流陰陽師が、この程度のプレッシャーに負けるとは思わずつい、な? やはり、復活したてでは随分力が減退しているもなのだな」
道満の左隣に端座する崇徳天皇がクランの様子を敏感に察し、主君である道満から放たれる霊力を感じ取る。
そして、厳かな口調で道満に進言した。道満は顔を斜めに構え、顎に手を当て一時黙考すると頭を振るい口を開く。
どうやら、この程度は大丈夫だろうと計算した上で、クランの現時点の実力を計ったようだ。
しかして道満の読みは外れたことになる。彼にとってこれで何度目かの呪黎なのだが、随分とバラつきがあるようだ。
クランの現状の戦闘力をある程度理解した彼は、彼女に重圧を放つのを止める。
その瞬間、彼女はまるで重力に押し潰されたかのように、畳に倒れ込む。そして、過去急を繰り返し息を整えていく。
クランはある程度呼吸が正常になると、上体に力をいれ半立ちになり道満を強く睨む。
「知ったような口調だな!? 他の連中より俺様が劣っているって言ってるように感じるぜ!」
「勘違いしないでくれ? 力の低下に関しては、正直生前強かった者ほど激しいようだ。君は決して弱いほうではない」
そして道満に向い荒れた口調で不満を漏らす。
気位が高く、プライドを傷つけられるとすぐ怒る彼女の気質を知る道満は、鷹揚に欠ける口調で事実を述べていく。
その道満の言葉から、現状自分より強い者は呪黎により顕現されていないだろうことを、クランは察す。
彼女は魅剣家歴代当主において大した実力はない。
彼女らは呪黎により、長命と不死身の呪いを受けているため容易く死ねず家長の数自体少ないが。
その中でも彼女の力は、下から二番か一番といった程度だ。
それでも魅剣家当主であることには変わりなく、陰陽師としては規格外の力を誇っていたが。
道満が当主達の中から彼女を選んだのは、呪黎で上級陰陽師家の主君クラスの陰陽師を召喚できるかの実験だったのかも知れないと、彼女は今更に考える。その考察を脳内に浮かべたときだった。
しばしの間、クランを見詰めていた道満は、急に彼女に興味をなくしたようで目を逸らす。
「天月!」
「はっはひぃ!?」
そして、先程クランの服を用意した巫女装束の美少女の名を、強く叫ぶ。
まるで熊の雄叫びのように深く重い響きに彼女は心底驚いたのか、背筋をビシッと伸ばし悲鳴のような返事をする。
道満の若い美女の名を無遠慮に大声で呼び、品定めするように見上げて見下ろすを繰り返す様は、まるで性に狂った暴君のようで。同じ性別として敵対していた存在ながらクランは同情せずにはいられなかった。
それを証拠に額に手を当て、クランは深く悲しむそぶりを見せる。
「そう、気を張るな天月。幹部としてもっとシャンとしろ」
「すみません茨木童子さん」
同じ属性の集団を束ねる幹部である茨木に諭され、天月は心を強く保とうと唇を結ぶ。
天月は幹部税の中では若手だが、それでももう道満と対峙するようになって長い。
いつまでも名前を呼ばれるだけでびくついている様では、嘗められて困るという不安も茨木にはあるのだろう。
恐怖を紛らわすために、彼女が絡めてきたもみじのような小さな手を優しく握り、目で言外に自信を持てとエールを送る。
「そう緊張するな天月。まるで私が遊楽街で色目遣いする親父のようではないか?」
「いえっ、すみません。私、道満様に睨まれるとどうしても妖力が劣るもので竦んでしまって……」
茨木と天月の一部始終を見詰めていた道満が口を開く。
彼の比喩にに、多くの者達が笑いを漏らす。
特に澪采などは口にせずとも良いのに、例えが的を得すぎているとはっきり口にして、道満に本気の殺意を向けられた。
そんな様子を見て、生前自分が世界の歪みだのと揶揄してきたクランは取り乱す。
ただひたすらに敵だと叩き込まれてきた。
違った側面から見れば異なる見え方をするのは、当然のことなのにそれゆえ失念していたのだ。
笑いあい助け合う彼らを見て、彼女は黙り込む。その間も話は進んでいく。
色々な情報が飛び交っているがクランの耳には入らない。どうやら償還されて間もないようで、疲れが溜まり易いようだ。
そう、彼女は結論付ける。自分がこの程度で動じる弱い存在ではないと、昔から思い続けてきたから。
『あっ、やばい。目が霞んで……』
幹部たちが意見交換をしている間、クランはずっと無口を通した。
何もしゃべらないというのは存外に眠気を誘う行為だが、彼女に訪れた睡魔は凄まじい物だった。
音もなしに手を突いて倒れ込むクラン。
腕を突っ伏し、起き上がる気力はない。加速度的に、クランの意識が遠い退いていく。幹部連の声が掠れて消えて。
唐突に彼女は意識を失った——
陰陽呪黎キリカ【第一章 第二話、迷え迷え 第二節】
「あのクラン様? 魅剣クラン様?」
揺さ振られているのが分る。綺麗でか細い聞き覚えのある声が、自分の名前を呼んでいるのもだ。
どうやら随分深い眠りに襲われていたらしい。
幾ら名を叫ばれても、容赦なく揺さ振られても瞼を開ける気力が沸かないのだから。
「クラン様! もう、仕方ありませんね……目が覚めているのは霊力で分りますので、強引に運ばせてもらいますね?」
「ん、宜しく」
諦めた声の主はクランを担ぎ歩き出す。
撫肩の細い体に似合わず強力なのは、妖怪には良くあることだ。
容姿から怪異たちの腕力などは想像しづらい。何せ彼らは、本来妖力が大きければ大きいほど身体能力も高いからだ。
最も、女性型は筋力は乏しいなどという容姿的差異は妖怪にも多少はあるが。
女性の少し険が滲んだ声に気楽に返事するクラン。それに対して女性は「もう、図々しい方ですね」と愚痴を零す。
「ねぇ、天月ちゃん?」
「何ですか?」
そんな愚痴をやんわりと受け流し、クランは天月の名を呼ぶ。
呆れた風情で彼女は受け答えする。
「何で君が俺様を担いでるわけ?」
本当に素朴な疑問。
だが、天月が甲斐性に溢れた母性的な女性だからというだけでは、解決しないだろうクランにとっての不思議。
天月は何を非難するでもなく、優しい口調で理由を述べる。
「あぁ、クラン様は途中で気を失ってしまったのでしたね? 私、天月がこれからクラン様の身辺を任されたということですよ!」
「はい?」
クランは天月の言っていることが良く分らず、疑問符に溢れた返事を返す。
なぜ、そんなものが必要なのか全く理解できなかったからだ。
「理解しなくて良いのですよ? ただ、身を委ねるだけで……」
しかし、天月はそれ以上は答えない。まるで守秘義務でもあるかのように——
————————————————
【お終い】
次は、【第一章 第二話、迷え迷え 第四節】です
- Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一ノニノ三 更新 ( No.75 )
- 日時: 2012/09/22 11:59
- 名前: デミグラス (ID: .bb/xHHq)
初めまして!
この板で軍事物を書かせていただいてますデミグラスと申します。
この作品を読ませていただきましたが、語彙の豊富さ、情景描写がとにかく素晴らしく、ただ感服させられます!
自分自身、日本史より世界史、邦画より洋画を好む人間なのですが、この小説で初めて和風モノにハマりましたw
これからの展開非常に楽しみにしていますので、執筆頑張ってください!
- Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一ノニノ三 更新 ( No.76 )
- 日時: 2012/09/23 19:30
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: aiiC5/EF)
- 参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/715jpg.html
月森和葉様作の天月です♪
風マ様のほっこり可愛いマスコット風の天月と、月森様の現実テーストで美しい天月……
どちらもありですね★
____________
デミグラス様へ
お初にお目にかかります。
時々HNは拝見していました。軍事物ということで興味がわきますね♪
暇が有ったら読んでみたいと思います!
お褒め頂き有難うございます。
情景描写はさて置き感情描写はまだまだも良いところなのでこれから努力していきたいですね(苦笑
頑張ります!
- Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一ノニノ三 更新 ( No.79 )
- 日時: 2012/09/26 13:56
- 名前: 伯方の塩 ◆6tU5DuE3vU (ID: LcKa6YM1)
- 参照: 鑑定結果途中報告
ここでは、お初にお目にかかります。
私、この度鑑定のご依頼を受けた、伯方の塩と申します。どうぞお見知りおきを。
あなたのような大物を鑑定できること、まことに喜ばしく思っております。
早速ですが、途中までの結果をご報告致します。
・鑑定レベル…エキスパート
【>>0】
◆全体的に見て◆
気になったのは、段落が二つも空いている点ですね。癖ですかね?
描写が語彙に富んでいて、しっかりもしているのに、少し残念です。
しかし、逆に言えばそれ以外言うところなどあるのでしょうか……?
◆部分的に見て◆
>人間達の不の感情と恐怖が姿を成した者達。
「負」の感情ではないでしょうか。
>時には屠(ほふ)る人間達にとって害悪でしかない輩だ。
「屠る」とは、「鳥獣の体を引き裂くこと」で、本来人間に対して使えません。それとも妖怪にとって、人間は鳥獣程度でしかないのでしょうか?
もう一つの意味合いとしては、「敵を打ち負かすこと」なのですが、人間に害を成すにしては、意味合いがちょっと弱いような。
>日夜倒伏する影の英雄たちがいた。
「倒伏」とは、「農作物の地上部が倒れ伏す現象」です。妖怪たちは人間にとって、「農作物」の一つなのですか?
>貴族の貴公子を連れた牛車が不可視の化け物すなわち妖怪に襲われた。
「貴族の貴公子」では、「高貴な一族の高貴な生まれの男性」という二重表現になりますが。
また、「不可視の化け物、すなわち妖怪」とありますが、「化け物」自体が「妖怪」を意味し、これも無駄な二重表現となります。
>慌てふためく男の前に地味な濃紺の服を着た偉丈夫が舞い降りる。
この後の文に、「狩衣を着た髭面の筋骨隆々とした大男だ。」とありますよね? 「偉丈夫」とはそもそも、「体が大きくてたくましい男」なため、これはいらない表現です。
後文と組み合わせるといいでしょう。
>一瞬にして土の蛇を作り妖を滅ぼす。
地の文では「妖、即ち妖怪」「不可視の化け物、即ち妖怪」という風に、「妖怪」という表現をプッシュしていたのに、いきなり「妖」とは……。
>「うっうむ、芦屋道満よ大儀で……、ってこれいくでない!」
「…」の後に読点(、)は入れません。
>目にも留まらぬ速さで道満は疾駆する。
「疾駆」は人に対して使いません。
>切れ長で怜悧な瞳と甘いマスクの絵になる美男子だ。
少し疑問が。「怜悧」とは、「頭の回転が鋭いこと」でして、要は「賢そうな瞳」をしているという解釈で宜しいのですか? だとしても、「怜悧な雰囲気」などの方が分かりやすく、意味も通ると思いますが。
>という推論都内に伝播したのは。
「推論都内」? そんな言葉ありましたっけ?
>「何用だ!? 貴様知っているぞ、確か茨城童子といったな!
私の家に土足で踏み入るとは、自殺志願者か!?」
「」内で改行するのは、本来好ましいことではないのですが。
>清明は実は、朝廷に恩を売り手篭めにして、
「手篭め」は本来「強姦」の意。また、「腕力をふるって人に危害を加える」ことです。そもそも使い方が違います。
>いや正確には覚悟の結実を敏感に察した茨木が更に言葉を続ける。
「結実」とは「植物が実を結ぶこと」であり、転じて「良い結果が得られること」です。この時点で、道満は何の結果も得ていない気がしますが。
>皇帝を甘言でつるしたて君等の愛する平安京を手中にせんとす悪逆非道の輩だ。
皇帝? 日本では「帝」あるいは「天皇」でしょう?
>その父と同じ罪を背負うなど滑稽きわまる。
「滑稽」とは、「おかしかったり馬鹿馬鹿しかったりして、笑いの対象になること」でして、「蔑み」の意味合いは弱かったりしますが、いいのですか?
>疲れきり倒れこんむ道満を見下ろし、
「倒れこむ」ですか?
>茨城は無機質な声で告げる。
う〜ん、中級者がよくやる間違いを犯しておる。
「無機質」は「鉱物の持つ性質」の意味合いも持ちますが、本来は「栄養素として生体維持に不可欠の元素,またそれらの塩(えん)」の総称です。
「生命のような温かみがない」ということを指したいのでしょうが、比喩としても「無機質な」は本来持つ意味合いからして不適切です。
>疲れ切手息は荒く、
「疲れきって」ですか?
◆文章リズムについて◆
全体的に見ると風猫様の癖なのか、どうも読点が少なく、読みづらいです。
>そこには当時すでに大妖怪として名をはせていた、半分に割れた仮面を被った鋭い目つきの男、茨木童子が立っていた。
この文、「名をはせていた」「半分に割れた」「仮面を被った」「立っていた」と、「〜た」が多くありませんか? リズムが単調になりますよ。
>魔道かそれも良いと思いながらも、道満は陰陽師の理念に従い茨木を葬ろうと、印を結ぶ。
読点(、)がないせいで読みづらい文の、最たるもの。「魔道か、それも良い——」ならともかく、ダーッと一気に読むような文では、意味も通りづらいです。
また、「思いながらも」「葬ろうと」は、どちらも母音が「お」のため、これもリズムを狂わせがちです。
>肩やへそを出した、露出度の高い服装をした、
「〜した」が連続で続くのは好ましくありません。
>立ち上がることも無い道満だが確かに霊力の総量は、言々を抱く前より大きく上昇していた。
読点の入れ方が不適切な例。
入れるなら「立ち上がることも無い道満だが、確かに霊力の総量は、——」とでも。
アルティメットならば、文の配置そのものからダメだししましたが、エキスパートなので、まずはここまで。
語彙が幅広いのは認めますが、まずは意味合いを確認してから使用することをオススメします。
続きは後ほど。
意見などがあれば是非とも。
- Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ ( No.81 )
- 日時: 2012/10/28 21:54
- 名前: ルリ ◆y21Eb5Atcw (ID: O3XuDorI)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=6595
鑑定終了しました。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ございません!
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