複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

(リメ)陰陽呪黎キリカ 
日時: 2013/02/12 12:20
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: 修復断念(オイ……

 「第一章 序幕」(エロ描写注意)

  
 時は平安。策謀渦巻き、人々の感情が絡み合う時代。京の都には多くの妖怪が百鬼夜行をなし、跋扈していた。
 妖怪とは、人間達のが持つ不の感情と恐怖が、形を成した者達。
 人々に不幸と災いをもたらし、時には命を奪う。人間達にとって、害悪でしかない輩だ。
 文官として、天候を読み取り未来を占うかたわら、そんな人智を超えた神妙不可視の徒輩を、日夜調伏する影の英雄たちがいた。

 その者達の名は陰陽師。力にて陰を打ち破り、聖なる光を都に注ぐことを職務とする、文武両道の者達だ。

 ——今宵、丑三つ時を過ぎたころ。貴族の男を連れた牛車が、不可視の化け物すなわち妖怪に襲われた。
 恐らくは深夜に姫君と、逢瀬を楽しんでいたのだろう。
 慌てふためく男の前に、地味な濃紺の狩衣を着た人物が舞い降りる。
 髭面で筋骨隆々とした大男だ。彼が現れた瞬間に、貴族は慌てふためくのをやめた。目の前の男の実力を知るがゆえだ。  

 「この程度の妖に、私が負けるはずがあるまい!」
  
 目の前にいる妖怪を雑魚と断じた巨漢は、奇怪な術を発動させ、一瞬にして土の蛇を作り、標的を滅ぼす。
  
 「うっうむ、芦屋道満よ大儀で……って、これいくでない!」

 貴族の男の謝礼など聞きもせず、道満と呼ばれた男は駆け抜けて行く。
 彼こそが稀代の大陰陽師と謳われる、都最強の官人陰陽師安倍清明最大の好敵手。
 民間陰陽師の雄、芦屋道満(あしやどうまん)だ。
 今日もどうやら清明と妖怪退治で、競っているらしい。

 「おらおらぁ、私の前に立つ妖怪共は、全て排除するぞぉ! これで二十体ぃ!」

 風を足に纏(まと)わせ、韋駄天(いだてん)の如く速度で夜の平安京を走る。
 術の効力を高める符(ふ)を使い、大量のカマイタチを発しながら、妖怪の群れを蹴散らしていく。
 そのさま正に一騎当千。
 彼以外に清明の相手は務まらないだろうと言わしめるほどの、苛烈(かれつ)な霊力を道満はみなぎらせていた。
 
 貴公子を助けてから数十分、目的の場所へと向って、彼は都を疾走し続ける。
 疲れて足を止めると、生活感を微塵(みじん)も感じさせない廃墟(はいきょ)が、視界に広がっていた。
 道満は、ここで安倍清明と落ち合い、勝負の結果を言い合う約束をしている。
 彼が居ないか、周りを見回す。
 清明は勝負事に余り興味がなく、適当に煙(けむ)に巻くことが有るのだ。
 幾ら探しても、清明の姿が見当たらず、忌々しげに道満は舌を打つ。
 
 「逃げたか」
  
 対戦相手が居なくなったのでは、勝負は成り立たない。
 道満はこれ以上粘っても意味がないと、踵(きびす)を返す。
 夜も遅い。そろそろ寝ないと、明日の業務に支障が出るだろう。
 今回の勝負は水入りとなった。良くある事だ。
 そう、己の心に言い聞かせ、清明等という適当で身勝手な男を、好敵手と認めた自分を責める。
 道満が歩き出して、数秒後。突然、強大な気配を背後に感じたのは。

 「相変わらず、あつっくるしいのぉ道満よ?」
 「清明? お前は相変わらず、透かした腹立たしい顔だな?」

 道満が振り返ると。崩れ落ち、蜘蛛の巣掛かった家屋の屋根上に。紫色の着物を着た男が立っている。
 切れ長で、異性を誘うような優しげな瞳。理知的な雰囲気をかもし出す甘いマスク。非の打ち所のない、絵に描いたような美男子だ。
 彼こそが安倍清明。道満が、唯一の好敵手と認めた男だ。  
 
 清明は暑苦しい道満に、冷やかな視線を送りながら、あくびをする。
 そんな彼の態度に、業を煮やした道満がいきり立つ。 

 「まぁまぁ、夜も遅いし、勝負の結果を発表しないか? 私はここに到着するまでに、四十三体滅ぼした」
  
 道満と清明が行った勝負。
 それは、目的の場所まで到達するのに、何体の妖怪を討伐したかという、単純明快なものだ。
 清明の提示した数に、道満は押し黙る。
 力を押し隠し潜んでいただけで、本当は自分より速く目的地に到着した居たのだろう。
 霊気の出現の仕方から、容易く推測できることだ。だというのに、自分より十体近くも多く滅している。
 彼自身は、清明とさして実力差がないと思っていたのだから、愕然とするのも当然だろう。

 「くくっ、はっはっはっはっは! それでこそ超え甲斐があるというものよ清明!」
 「私も、お前のような強者がいないと詰まらないからな。お前が播磨(はりま)の国から上京してきたこと嬉しく思うよ?」

 道満は怒鳴っても仕方ない事と心を律し、鬱屈した感情を吹き飛ばすように、大声で笑った。
 そんな盟友を見て、清明もまた嬉しそうな表情で、彼を賞賛した。
 清明と彼以外の陰陽師との実力の壁は、当時果てしなく大きかったのだ。

 これは清明と道満の馴れ初めの頃である。

 それから数年間、彼等は常に研鑽し賞賛しあい、高めあった。しかし、その関係は次第に悪化していく。
 いくら修行しても、全く清明に追いつくことができないという、道満の焦り。
 常に二位というのは、気持ちの良くないものだ。
 次第に成長が遅くなっていき、彼は悶々とした日々を送るようになる。
 彼自身も、清明に劣らぬほどの華々しい経歴をいくつもうちたてたが、実力ではいまだに全く及ばない。そんなある日だった。

 "安倍清明は妖怪の血を引いているから、人間離れした霊力を持っているのだ”

 という推論が、都内に伝播したのは。それが道満には許し難かった。
 話によれば、金だけの大した才能も無い父親が、圧倒的な妖力(ようりょく)を誇る妖狐を、優秀な陰陽師を何人も雇い、捕縛したそうだ。そして、その妖狐に子種を植えつけたのだという。

 その事を耳にしてから更に月日は経過し、彼の中の嫉妬心や憎悪は育っていった。
 そして、ある時清明に道満で会う。

 「清明、私はお前を見損なったぞ」
 「何を言っている道満!? お前、あんな戯言を信じているのか!?」

 道満は自分の思いのたけを、憤懣やるかたなし、といった風情で語り、清明に背を向けた。
 清明は止めようとしたが、二度と彼の言葉に道満が答えることはしなかったという。
 長年の友を、些細ないさかいで失った道満は、嘆き続けた。
 自分の愚かさと、そんな清明に勝ちたいという、愚劣な情念を捨てきれない弱さを——

 「清明! 清明ぃ!」
 「まるで、呪うような口調だな。その怨嗟、凄まじい強さだ。知っているか、それが魔道の入り口ぞ、陰陽師?」

 十年前に娶(めと)った妻はすでに家を出て、道満は一人空しく泣き続けた。
 そんな日夜悲嘆に泣き暮れる彼に、掛けられる綺麗だが感情の無い空虚な声。道満は振り向く。
 そこには当時大妖怪として、都内に名を轟かせる大物が立っていた。
 茨木童子。半分に割れた仮面で、左顔面を覆った、鋭い目付きの男だ。

 魔道か、それも良いと思いながらも、道満は陰陽師の理念に従い、茨木を滅そうと、印を結ぶ。
 
 「何用だ!? 貴様知っているぞ、確か茨木童子といったな! 私の家に土足で踏み入るとは、自殺志願者か!?」

 だが、すぐに術を発動させることは無く、用件を道満は問う。
 茨木童子ほどの大物が、こうやって一人で赴(おもむ)くのだから、それなりの理由があると思ったのだ。

 「げーんげん! そんなことないよぉ? 茨木童子は強いんだぞぉ優秀な陰陽師さん?」

 強い声で恫喝(どうかつ)する道満の言葉に、妙な挨拶とともに現れた女が答える。
 女の服装は露出度が高く、そこから覗く透き通るような白い肌は、挑発的な色香をかもし出す。
 更に唇の下にあるほくろが、性欲をそそる。顔は少し幼いが、間違いなく美人だ。
 聞き慣れない名前と、妖気の高さに、何者だと道満はいぶかしむ。
 実力のある妖怪は、大半把握しているはずなのに、と。
 
 「彼女の名は言々(げんげん)。強き渇望(かつぼう)に囚われし者よ。お前は正しい。安倍清明など妖狐の霊力が無ければ、何もできぬ平凡な術者に過ぎないはずだ。そんな邪道の輩がのさばり、人の身でここまで至ったお前がが日陰者とは、何と悲しいことだ?」

 女の紹介を簡潔に済ませ、茨木童子が流れるような口調で話し出す。
 言葉を切り出す場所が無く、道満は黙り込む。
 そして、彼の言葉を聞いているうちに、清明への怒りが、再び沸々(ふつふつ)と湧き上がってくる。
 彼の言っていることは、今の道満の心の全てに当てはまり、道満はそれが正しいことだと思い込む。
 清明は、朝廷に恩を売り、全幅の信頼を得ることにより、裏から平安京を掌握せんとする悪逆の徒だと、自分に言い聞かせる。

 “滅ぼさねばならない。友だなどと、最大の悪を見逃していた自分の罪滅ぼしのためにも”

 彼はそう心に誓った。
 その心情の変化、いや正確には覚悟の芽生えを敏感に察した茨木が、更に言葉を続ける。

 「安倍清明は、帝を甘言でおだて、君等の愛する平安京を手中にせんとす悪逆非道の輩だ。正義を信奉(しんぽう)し、世界を光に満たさんとする、お前なら許すべからずはずだ。強くならねばならん。芦屋道満よ、お前は今までより、遥かに高みに至れる」
 「それはっ! それは一体、どうすれば叶うのだ!?」

 道満が掛けてもらいたかった言葉の数々が、茨木の口から、吐き出されていく。
 すべてを見透かしているような態度に、本来の彼なら絶句し、疑念を抱くはずだが。
 今の彼に、そんな余裕は無い。
 ただ強くなれるという望みが目の前にあることを、疑いもせず手を伸ばす。
 どこまでも暗い絶望の海で、初めて見付けた光明に。

 「簡単だ。言々と性をまじわすだけでいい」
 「えっ、そんな馬鹿な! 私に安倍清明の父親と同じ業に、手を染めろと言っているようなものではないか!?」

 方法を問う道満に、言々と秘め事をしろと茨木は躊躇(ちゅうちょ)なく言い放つ。
 それに彼は驚く。
 いかに美女とはいえ、妖怪に手を出すなど、陰陽の者として有ってはならぬことだ。
 そして、清明を超えた力を手にするために、その父と同じ罪を背負うなど、言語道断だ。
  
 「断じて違うぞ、芦屋道満よ? 言々との間に、子を成すのではない。彼女は交わった相手に、妖力を受け渡す力を持っているのだ」
 「なーに、迷ってるの素敵な叔父様? あ・た・し、もうアソコずぶ濡れだよぉ?」

 逡巡する道満に、先程の覚悟に満ちた目はどうしたと、言外に口にしながら、茨木童子は本旨を説明した。その説明を聞いて道満は思い直す。
 妖怪と交わること自体、陰陽師としては業深きことだが、今の彼にはそれはどうでも良かった。
 安倍清明の父親と同じにさえならなければ良いと、思ったのだ。

 なおも悩む彼を見て、一応の申し訳のために迷っているふりをしているだけだと、見抜いた言々が歩み寄る。
 そして、彼女はピンク色の着物の上着を脱ぎ、上半身をさらけ出す。
 大き目ながら綺麗な形をした乳房。桜色をした綺麗な乳首。
 言々はそれをひけらかせながら、扇情的(せんじょうてき)な仕草で道満に絡みつく。
  
 「あぁ、綺麗だ。もう、どうでも良い。力が欲しい」

 道満は男の本能をあらわにして、獣のように言々を押し倒す。
 強く胸を揉みながら、言々の小振りな桜色をした唇をむさぼる。

 「あっ、あぁん。うっ、はぁはぁ。道満様ったら、野性的な容姿通り激しい人っ」
 「言々よ。入れるぞ? 良いか? 良いと言わずとも、お前は濡れているといっていたではないか!」

 猛々しく女の体などお構いなしに、道満は言々を犯し続けた。
 下の履物を破りさり、一物を彼女の恥部にねじり込む。
 そして、野獣のように激しく、後ろから彼女を突く。
 十数分間の行為の末、彼は彼女の中に射精し儀式は終わった——

 「はぁはぁ、道満様、素敵ぃ」
 「堕ちたな。ふっ、我々はお前を歓迎するよ芦屋道満」

 疲れきって倒れこむ道満を見下ろし、茨木は無感動な声で告げる。
 息は荒く、立ち上がることもできない道満だが、確かに霊力の総量は言々を抱く前より、大きく上昇していた。

 「これにて新たなる同士、芦屋道満の“呪黎(じゅれい)”の儀を終了する。言々、行くぞ」
 「はぁはぁ、駄目、腰が抜けて……道満様本当に激しすぎて。凄い」

 力無く倒れる裸の二人を背負って、茨木童子は闇の中に消える。
  
 そして、物語は現代へと移ろう。

  
 ————————————————

「お終い」

次は、「第一章 第一話、幼き刃達 第一節」です



〜作者状況〜

執筆中【】
申し訳ありませんが執筆中に〇が付いている時は書き込まないで下さい。



題名、読み方は「オンミョウジュレイ キリカ」です。前スレで発言した通りリメイクします。
始めましての方は、初めまして。
いつも来てくださっている方々は有難う御座います^^

グロ要素やエロ要素は、ふんだんに入ると思います。
苦手な方や不快に思う方は、見ない事を推奨します。
最後に、更新速度は、亀以下になると思いますがお許しを。



お客様

旬様(雑談の方でお世話になってます! お客様第一号♪)
Walker様(まだまだ、小説の実力は高くないですが順調に成長しそうな人です^^楽しみ!)
羽風様(黒白円舞曲の方にもコメントくださって感謝です!)
白波様(凄く上手な文章を書くお方です! Fateシリーズは私も好きだぜ!)
いちご牛乳。様(自分の事を変体と評す辺り親近感を感じます! ビバ変態★)
檜原武甲様(格好良い名前ですな^^ 最近結構見かけるお方ですね)
火矢 八重様(ファジーの銀賞だか銅賞を取ったお方です! パチパチパチパチィ★)
月那様(プロローグに力を入れると言うのはいいことだと思いますよ!)
紫様(文才に秀でた真摯なお方です!)
猫飼あや様(一芸に秀でるものは多芸に秀でる……朔様と言い適用される言葉なのでしょうなぁ)
日向様(えっと、軍事系の小説を書いていられる珍しいお方です^^中々文章もお上手ですよ!)
トレモロ様(我が心の兄弟にして変態紳士です! 結構な有名人さんなので知ってる人居るかも?)
陽様(私の大事な友達です! いつも嬉しいコメントくれて有難う!)
朝倉疾風様(有名な方ですので知っている人も多いのでは? 凄く真面目なコメントを書いてくれます)
葵様(様を付け辛いよ……僕のストーカーさん★)
茜崎あんず様(陰陽師物書くんですか? 私も暇が有ったら覗いて見ますね?)
狒牙様(BLEACH仲間です! そして、同士です!)
汽水様(結構良く見かけますよね? 主戦場はコメディ?)
柚子様(柑橘系男子。長らく女だと思っていたと言ったら長らく男だと思ってたと意趣返しされた)
ゆぅ様(白黒円舞曲も読んでくださった方です!)
凛様(鑑定してくださいました!)
琥珀様(奇抜なキャラクタを主人公に面白い物語を展開しています★)
藤田光規様(同じく陰陽師系の小説書いてます!)
バンビ様(更新速度が速くて一話一話が短くて簡潔で憧れます!)
白月様(素敵で綺麗な文章をお持ちのお方です♪)
野宮詩織様(絵も上手で小説も上手で、趣味のよろしい楽しいお方です!)
世移様(パラノイアのほうはいつも感想ありがとうございます! 最近は更新滞ってましてすみません)
葉月涼花様(色々な漫画など知っている人です。コメントが何だか雰囲気あります)
黒雪様(私の企画板でお世話になっている人です。なかなかに素敵な小説を書いていますよ!)
柴犬様(ファジー版で書いていた作品は中々に奥深く共感できる良い作品でした!)
デミグラス様(久方ぶりの新規のお客様です! 軍記物を書いたいらっしゃるそうです!)
伯方の塩様(真面目な鑑定有難うございました! 大変ためになりました)
ルリ様(ずいぶん遅くなってしまい申し訳ありません。鑑定士さんです)
冬ノ華 神ノ音様(BLEACHを知っている友人として……お世話になりました!)

34名様

閲覧して下さったお客様方! 真に感謝です!

目次

 第一章

【第一章 第一話 愛せ愛せ 第一節】 >>1 
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第二節】 >>5
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第三節】 >>9
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第四節】 >>13
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第五節】 >>23
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第六節】 >>29
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第七節】 >>33
【第一章 第一話 愛せ愛せ 第八節】 >>46 
 
 第一章第一話 終了
 
 第一章第二話 開幕

【第一章 第二話、迷え迷え 第一節】 >>53
【第一章 第二話、迷え迷え 第二節】 >>62
【第一章 第二話 迷え迷え 第三節】 >>73


設定資料及び小休止及び貰い物等
キネリ様作 キリカ絵 >>36
魔ん堂様作 蘭樹絵 >>42
キャラクタプロフィール >>52 随時更新
羽月リリ様作 言々絵 >>54
読者様投稿オリキャラプロフィール >>63 随時更新
月森和葉様作 魅剣クラン&夢氷絵 >>66
風マ様作 天月絵 >>67
月森和葉様作 天月絵 >>76

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一章 一ノ八執筆中 ( No.46 )
日時: 2012/07/16 22:53
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: fr2jnXWa)

  「げーんげん」

  どこまでも暗い洞が横に穿たれている。現世と異界をつなぐ通路。通称“異回廊(いかいろう)”だ。どちらが上でどちらが左かも分らなくなるような、不可解な空間に一つ人影があった。透き通るような綺麗な肌をした幼顔の美女だ。女は妙な挨拶をして、茨木童子を見つめる。

  「言々か。何のようだ?」
  「ぷーっ! 何のようだとは失礼なぁ! あんまり帰りが遅いので心配したんだぞ!」

  不機嫌そうに馬鹿らしくて歯の浮くような、女の奇声に答える茨木。どうやら既知の中のようだ。ただ彼自身呆れているのは、微妙に険の滲んだ表情を見れば明らかだろう。

  そんな素っ気ない茨木の態度に本気で心を痛めたように、言々と呼ばれた女は頬を膨らませて怒りだす。

  「お前は俺の母親か? そもそも、俺がお前に心配されるなど心外だ」

  盛大にため息をつき、適当に流す茨木。

  「ひどーぃ! 通神機(つうしんき)で何度も呼んだのにでないから、まさか魅剣家当主様に喧嘩でもうったんじゃないかと」
  「待て。何で貴様、俺の通神機に通電したのだ?」

  茨木の言葉にさらに気分を害したらしく、言々が声を荒げる。彼女の愚痴に反応し、茨木はついと目を細めて問う。
 
  「そんなの決まってんじゃなーぃ! 芦屋道満(あしやどうまん)様が天将会議を開くって言ってるのぉ! 絶対来いって!」
  「何? まさか——」

  天将会議というのは妖漣檜所属の幹部妖怪が、一同に介する集会のことだ。総勢十二人いて、水火雷土風木の属性から、それぞれ二人の強者が選出されている。その会を執行する権限を有するのは妖漣檜でもただ一人。彼等の将たる芦屋道満ただ一人だ。

  当然ながら言々と茨木童子もその幹部の一角を握っている。突然の召集に彼は心底驚く。それと同時に、身勝手な気質の者が多い幹部連に絶対参加義務を課すとは、ただ事ではないと茨木は鼓動を高鳴らせた。

  「そう、そのまさか。今はまだ何の力も無い魅剣家次期当主なんてどうでもよくなるでしょう?」
  「…………」

  言々の誘惑の言葉に、沈黙という茨木は返す。芦屋道満は果たしてどのような怪物を見つけたのか。それを考えると強者との戦闘を何よりも渇望する彼は、高揚感を催さずにはいられなかった。 

  

  
      
              陰陽呪黎キリカ【第一章 第一話、愛せ愛せ 第八節】



  

  「逃したか。蘭樹の掛けた結界も解けて、騒ぎになり始めたな」

  大敵を逃したことに苛立ちを覚え忌々しげにアザリは舌打ちをする。まともに戦っていても甚大な被害がでていただろうと、言い聞かせ無理やり心のさざなみを打ち消す。そして少し冷静になった目で、惨状を改めて見渡した。

  茨木童子の圧倒的な力により紙切れのように切られた、蘭樹が張った不可視と防音を司る結界。霊力を遮断する結界も当然張っていたようで、今までは周囲に騒ぎは気づかれていなかったのだが。

  戦闘後とはいえいまだ紅蓮に燃える空と、凄まじい妖気が残っている。酔いを醒まして、すぐに多くの者が招来するだろう。幸いに茨木童子という大妖怪が出現したこともあって、幾らでも言い訳は立つが、速いうちに直さなければとアザリは嘆息する。

  「どうなさいます? アザリ様?」

  突然響くアザリの名を呼ぶふわふわとした優しげな声。
  
  「とりあえず、呼んでも無いのに勝手に姿を現すのは止めてくれないか悦瑛(えつえい)」

  新たな悩みの種が現れたでもい言うように、アザリは嫌悪感をあらわにした顔で、声のほうへと振り向く。現在で言う魔女のような服装をした色黒の、勝気そうな顔立ちの少女が立っている。名を悦瑛というらしい。彼女もまた十二神将の一人だ。

  「それは無理ですよぉ? だって、あたしこんな時しか出番ないもーん?」
  「そう言うな。お前だって十分強いんだからさ」

   諦観的な悦瑛の言葉に、それは違うぞと頭を振るい否定するアザリ。そっぽを向く彼女に諭すように、彼は彼女が十分強いのだということを、真摯な顔でつたえようとするが。

  「慰めなんて要らないよアザリ様。あたしは貴方に使われたいの。使って使ってこき使って、ボロ雑巾にして欲しっ……キャッ!」

  小さな体を震わせて悦瑛は、子供らしいおねだりのしぐさをしながら、我侭を言う。自分自身身勝手だと理解しているが、彼女のアザリに対する忠誠心と、尽したいという気持ちがきえることはない。

  「分った分った。私が言いたいのは最初から君を出そうとしていたのに、というだけの話だ」

  アザリは悦瑛の細い体を抱き寄せ、心の発露を掬い取るように彼女の唇を奪った。

  「アザリ様ぁ」

  頬を赤らめて悦瑛は猫なで声を出す。

  「まぁ、そういうことだから再生の姫君よ。頼まれてくれないか?」
  「あっ、うぅっ、あっあたらっ! 当たり前だよぉ!」

  このやり取りを見ただけの人間ならどういうことだ、と突っ込みたくなる状況だが、悦瑛は素直にアザリの言葉に従う。

  「蘭樹……お前も手伝え」
  「分った」

  焼け焦げた柱に横たわりブツブツと意味の無い言葉を並べ立てながら、煩悶する蘭樹にアザリは声を掛ける。その声音は一切の怒りの念は無く優しげだ。木造建築を直すには、木属性後からは役に立つ。当然ながら再生の姫君と呼ばれた悦瑛も木属性の力の持ち主だ。蘭樹は独り言を止め何度か瞬きして了承する。ここで反論しても無意味と判断したのだろう。

  「何々ぃ? ずいぶんと派手に暴れたわりには素直だねぇ?」
  「十分や。今の時点でこれだけ戦えるって知っただけで、僕は満足やから」

  異界から主君たるアザリと第二子である蘭樹の戦いを見ていた悦瑛は、あまりにも聞き分けの良い彼に疑念を抱いたのか、挑発するような口調で問う。にべも無く彼女の質問に蘭樹は答える。

  「…………」

  その言葉の意図がつかめず悦瑛は少し逡巡するが、些事と決め付け思案することを止め息をつく。

  「そっ、まぁ、ちゃっちゃと終わらせましょう。蘭樹君とあたしの力ならすぐだよ」
  「うん」

  そうして蘭樹に向き直った悦瑛は微笑む。本当なら一人でやって自分だけアザリに褒められたいのだが、主君が息子に命令したのだから仕方ない。そう、心に言い聞かせてつとめて彼女は笑顔を作る。その微笑みは完璧で演技とは思えない。女性は皆女優であるという言葉は本当なのだろう。

  長い一日が終わりを告げた。だがそれは、本当に永い物語の始まりに過ぎないということを、誰も知らない——

  

  ————————————————

【第一話 愛せ愛せ お終い】

次は、【第一章 第二話、迷え迷え 第一節】です


Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一章 一ノ八更新 7/14 ( No.49 )
日時: 2012/07/14 23:21
名前: 黒雪 (ID: tyHe3Nhg)
参照: 合作でいつもお世話になってます。

こんばんわ。

風猫様の小説は『パラノイア』しか読んだことが無かったのですが、こちらも面白いですね!
和風がとにかく大好きな黒雪なのです。
着物とか袴とかww

これからも更新頑張ってください!

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一章 一ノ八更新 7/14 ( No.50 )
日時: 2012/07/15 01:59
名前: 柴犬 (ID: iCfJImSu)

こんにちは。
風猫さんの小説、読ませていただきました。

まず、文の情景描写や人物の気持ちの変化の表し方の上手さに、驚きました!
それに陰陽師という主題の難しさ…。
私も見習わないとな、と感じました(^_^;)

個人的に言々が何だか可愛くて好きです!

あと、和風な雰囲気も好きです!

更新頑張ってください。
これからも応援しています^^

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一章 一ノ八更新 7/14 ( No.51 )
日時: 2012/07/16 22:58
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: fr2jnXWa)

葉月涼花様へ

知らない作品だったので調べてみたのですが確かに少し似ていますね。
まぁ、妖怪とかでる作品なので少し雰囲気が似るのは仕方ないかな、と。
言い訳はせずに頑張っていきます。

黒雪様へ

此方では初めまして! 
企画の方ではお世話になっています。早く本格始動させたいですね。本格始動できるようになるべく積極的に私も参加したいのですが……

パラノイアの方は最近全く更新できず。
まぁ、本作は和風というわけではないのですがね。時代は現代ですし(苦笑
こちらこそ応援しています^^

柴犬様へ

人物の心情描写を褒められるのは初めてかもしれないですね。
まだまだ、語彙も足りていないし表現力も乏しいですが精進していきます!
陰陽師を主題にしているわけではないので悪しからず(笑

言々は馬鹿可愛い感じですが実際はおばさんで色魔だったりvv
此方こそ応援しています^^

Re: (リメ)陰陽呪黎キリカ 一章 一ノ八更新 7/14 ( No.52 )
日時: 2012/07/21 20:18
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: fr2jnXWa)

             【設定資料 A.キャラクタ紹介】

【陰陽師】
一.魅剣家

1.魅剣キリカ(仮想CV:水樹奈々 幼少時:釘宮理恵)
性別:女 初出年齢:零 本格活躍年齢:十八 誕生日:四月四日 身長:百六十八センチ(本格活躍時) 体重:五十四キロ(本格活躍時) 血液型:BB型  
容姿:紅のロングストレート。スレンダーだが凹凸に富んだ女性らしい体つき。二重瞼で優しげで無邪気な顔つき。紫と金のオッドアイ。長身痩躯。
性格:分け隔てなく優しく真面目だが、食いしん坊でマイペース。ただ、出自の関係も有ってか誰とも深く関わらない所がある。
得意属性:火・風
備考:魅剣式呪黎を受け不死に近い体を持つ次期当主。

2.魅剣アザリ(仮想CV:櫻井孝宏)
性別:男 初出年齢:九十八 本格活躍年齢:百二十六 誕生日:十二月二十五日 身長:百七十五センチ 体重:六十三キロ 血液型:BB型 
容姿:赤の普通くらいの長さの整った髪形。紫と金のオッドアイで穏やかな顔立ち。
性格:普段は思慮深く子煩悩で真面目だが、手強い相手との戦闘時は豹変する。
得意属性:火・雷
備考:現魅剣家当主。

3.魅剣カルマ(仮想CV:斉賀みつき)
性別:女 初出年齢:??? 本格活躍時年齢:??? 誕生日:三月十五日 身長:百六十六センチ 身長:五十八キロ 血液型:BO型
容姿:漆黒の腰まで届きそうな長髪をしている。肉付きの良い体つきで思慮深げな表情。
性格:表面上は母性的で世話好きだが内面的には他人の行動を制御して楽しむ癖がある。
得意属性:水・土
備考:アザリの妻。昔は魅剣家内で馬鹿にされていたらしい。

4.魅剣アイゼン(仮想CV:大塚芳忠 若い頃:中井和也)
性別:男 初出年齢:百五十八 誕生日:一月十四日 本格登場時年齢:没後 身長:百六十二センチ 体重:五十六キロ 血液型AB型
容姿:手入れの行き届いた蓄えられた長い髭が特徴。髪の色は赤だが脱色気味で目は黒のコンタクトをつけている。
性格:厳格で暴力的なところがあったらしいが、今は好々爺然としている。飄々とした人物。
得意属性:雷・火
備考:先代の魅剣家当主。盆栽とチェス、音楽鑑賞、温泉めぐりが趣味。

5.魅剣幹也(仮想CV:松風雅也 仮想CV:沢城みゆき)
性別:男 初出年齢:十 本格活躍時年齢:二十八 誕生日:十一月十九日 身長:百八十四センチ(本格登場時) 体重:七十五キロ(本格登場時) 血液型:BO型
容姿:赤の短髪で眼鏡。厳しそうな顔立ち。ポロシャツにジーンズというラフな格好。
性格:硬くて冗談が通じない。融通が利かない。ルール絶対主義。
得意属性:雷・火
備考:キリカの兄。蘭樹と仲が悪い。

6.魅剣蘭樹(仮想CV:羽多野渉 若い頃:小林早苗)
性別:男 初出年齢:七 本格登場時年齢:二十五 誕生日:八月二十三日 身長:百七十七センチ(本格登場時) 体重:六十二キロ(本格登場時) 血液型:AB型
容姿:紅く染めた長髪。サングラスをかけていて顔つきは軽薄そうな感じ。柄シャツなどを多く着ている。
得意属性:木・火
備考:キリカの兄。幹也と仲良くなりたいと考えている。陰陽師の古いルールを忌々しく思っている。キリカを溺愛している。


まだまだ、増量予定。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11