複雑・ファジー小説
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- ANIMA-勇者伝-【完結】
- 日時: 2014/12/23 17:00
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
古くから残る書物が一つある。
それは神が誕生し、この世界が出来るまで、そして大きな事件まできっちりと書かれている。
擦り切れた表紙からは魂の温かみを感じ、生きとし生ける者たちはそれを学び、記し、語って行く。
そう、これは歴史だ。
多くの者が血を流し、繁栄した時代に生きる影響者達の一生が描かれている。
そんな歴史書の数ページが何者かにより失われていた。空白の歴史が語る事実はなんだろうか?
その時——世界が動いたのだ。
◆◆◆◆
初めましての方は初めまして、そうでない方はありがとうございます愛深覚羅と申します
もう投稿して何回目でしょうか……懲りずにまたやって行きたいと思います
今回は王道ファンタジーを久々に書いて行こうと思ってます
そして今度もゆっくり更新ながら完結目指して頑張って行きたいと思います!
オリキャラも募集していますのでよければご参加ください
※御指摘・御要望があれば遠慮なく言ってやって下さい。
◆本編
登場人物/用語 >>4
プロローグ >>5
□第一章
第一話 不思議な黒猫〝リーブル〟 >>23
第二話 樹の中に…… >>27 >>28 >>33
第三話 守る者達 >>37 >>40 >>41
第四話 出発の朝 >>46 >>54 >>55
第五話 桜は血を吸って美しく咲き誇る >>63 >>66 >>70
第六話 例えば…… >>71 >>74
第七話 笑顔 >>77 >>78
第八話 無邪気 >>86 >>95
第九話 藪の中 >>96 >>97
第十話 七色の蝶 >>101 >>106
第十一話 遭い会い逢い >>110 >>113 >>114 >>115
第十二話 魅入られる >>119 >>120 >>121
第十三話 犬猿の仲 >>125 >>129 >>130
第十四話 意味 >>135 >>140
第十五話 噂の真相 >>147 >>154 >>157
第十六話 彼はなんだ? >>160
第十七話 秘宝を賭けて >>163 >>167 >>168
第十八話 ここはどこですか? >>173 >>178 >>179
第十九話 家出少女と旅芸人 >>187 >>191 >>192
第二十話 強くなりたいか? >>197 >>201
第二十一話 怪盗と追いかけっこ >>202 >>203
第二十二話 怪盗の回答 >>204 >>205
第二十三話 道端 >>211 >>212 >>213
第二十四話 海へ! >>216 >>221
第二十五話 船の上の生活 >>224 >>232 >>233
第二十六話 幻の島ヒストリア島 >>236 >>237 >>243 >>246 >>252
第二十七話 いざ行かん、戦場の地へ >>255 >>259 >>260
第二十八話 放浪の末 >>264 >>270 >>275
第二十九話 エターナル王国へ >>276 >>277 >>278 >>279
第三十話 探し人、見つかる >>283 >>287
第三十一話 女王と国王 >>294 >>297
第三十二話 列車の旅 >>300 >>303 >>304 >>305
第三十三話 パルメキア王国の策略家 >>308 >>309 >>310
第三十四話 罠 >>313 >>317 >>318 >>321
第三十五話 対面 >>323
第三十六話 パルメキア王国の王女 >>324 >>325 >>326
第三十七話 合間 >>327 >>330 >>331 >>332
第三十八話 最前線基地 >>336
第三十九話 ゼルフ・ニーグラスと言う男 >>339 >>340
第四十話 終焉の狼煙 >>343
第四十一話 あの場所 >>344
第四十二話 戦後 >>345
□第二章
第四十三話 リベンジ >>367 >>368 >>369
第四十四話 ダンジョン探索 >>370 >>371 >>372
第四十五話 勝利の行方 >>375 >>376
第四十六話 伝説の魚人 >>381 >>382
第四十七話 噂の人魚 >>383 >>386 >>387
第四十八話 全ての元凶がそこに >>388 >>389 >>390 >>393 >>394
第四十九話 動く >>395
第五十話 走る >>396 >>397
第五十一話 レイヤル王国 >>401 >>402 >>403
第五十二話 世界を覆う >>406 >>407
第五十三話 意志と意思 >>410 >>411
第五十四話 境界線にある真実 >>412 >>413 >>414 >>415
第五十五話(最終話) 空白の歴史は動き始めた >>422 >>425 >>426 >>427
□エピローグ
とある国に伝わる歴史書 >>428
□特別番外編
EPISODE1 生命の息吹 >>349 >>350
EPISODE2 神々の…… >>355
EPISODE3 砂漠と恋の風 >>356 >>358
EPISODE4 桜吹雪 >>362
EPISODE5 幻と共に >>365
□お知らせ
>>348 >>366
□アトガキ
>>431
◆オリキャラ様
オリキャラ募集用紙 >>6
檸檬さん >>7 >>43 キコリさん >>8 芳美さん >>10
コッコさん >>11 >>25 >>34 >>42 >>44 >>61 >>72 >>99 >>108 >>149 >>158(仮) >>171 >>188
不死鳥 >>12 七竈さん >>13 010さん >>14
ばっちゃさん >>15 ブルーさん >>20 はるさん >>21
紫蘭さん>>24 大関さん >>29 凡さん >>49
モンスターさん >>52 calgamiさん >>56 >>174 >>175 トールさん >>58
モンブラン博士さん >>79 >>89 >>117 >>145 >>169
恒星風さん >>82 サニ。さん >>87 >>152 珈琲さん >>91
.オリキャラ募集一旦〆切です。
- Re: ANIMA-勇者伝-【9/30更新*お知らせ】 ( No.368 )
- 日時: 2014/10/05 16:28
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)
◆
「エース君、俺と戦ってくれないかな?」
グライトは門を開けるなりそう言った。エースはそんなグライトを待っていたように笑顔で迎える。
「君ならそう来るだろうと思ってもう準備してるよ」
エースは慣れた手つきで銃の安全装置を外す。エースの後ろにはグレイシアが立っていた。
「グライト君、どうせなら一瞬で決めないか?」
「一瞬で?」
首を捻るグライト。エースは説明した。それはとても簡単な事。まず後ろを向く。向いた方向に五歩歩く。5……4……3……2……1……バン、そこで勝負は決まる。まぁ言わば西部の町の勝負と言ったところだろう。サブリア大陸にとてもマッチしている勝負だとグライトは思った。
勝負の説明を終えた頃、リュウは呑気なグライトに変わってエースに質問する。
「その場合の武器はどうなる? グライトは銃を扱った事がない。まさか、剣で戦えって言うのか? 明らかにグライトの方が不利だろ?」
リュウの言葉を聞いたエースは含み笑いをした。
「グライト君なら大丈夫だよね? 噂はかねがね、帝王であるゼルフまでもを倒したのだから、僕の速さについてこれないわけがない」
そうだよね? そう言ってグライトを見るエース。グライトは戸惑ったが、承諾した。それ以外方法が思い浮かばないのだからしかたがない。一刻も早く秘宝を集め、伝説の宝「ディザイア」を手に入れなければならない。
ディザイアとは七つの秘宝が集まった時に現れる神からの授けモノ。黒雲を封じ込めるにはこれしかないとグライトは思っている。
「本当に大丈夫なの? グライト……」
「大丈夫、ユーノ。心配しなくても秘宝は手に入れる」
強く頷くグライト。ユーノは心配でならない。小さな声で呟いた「グライト、死なないで」と言う言葉はグライトには届かなかった。あぁどうしても自分は無力な子供なのだろうか? もう止めてしまえばいい、これ以上好きな人が死に急ぐのは見てられない。ユーノは胸の前で両手を握りしめた。守護神を前にして神に祈ると言うのはおかしな話だが、こうしていなければ心が落ち着かない。
そんなユーノを見た守護神グレイシアは優しく微笑み、ユーノの頭を撫でる。
「心配しないで、グライト君は死なないわ。エースだってそれぐらいわかっている。だからって手を抜くつもりはなさそうだけど……エースは治癒もできる。私もいる。心配しないで」
グレイシアはそう言ってもう一度ユーノの頭を撫でた。
そんな事をしている間にグライトとエースは位置についたらしい。反対方向へ歩き出す二人、その顔は険しく足取りはゆっくり、踏みしめるように進む。
グライトはこのたった五歩が妙に長く感じた。脂汗が一筋、とたんに不安にかられる。息も荒く、もしかしてダメかもしれないと嫌な想像ばかりが膨らむ。
そんな時、頭に声が響いた。
……私の力を使うか?
その言葉はグライトにしか聞こえない。なぜならそれは影のものだから。グライトは拒否した。これは自分の実力で勝ち取りたいと思ったから。
だが、影は嘲笑うばかりで、力を使えと迫る。
約束しただろう? 力を発散させろ……私はお前を乗っ取らない。
影は確かにそう言った。だがグライトはまだ信じられないでいる。共生しようと、影はそう言うがグライトは不安でたまらない。乗っ取られるのではないか? そうでなければこのざわつきはなんだ。彼が傍に居るだけで不安と焦燥に駆られる。
「ダメだ……ダメだ……」
ブツブツそう言うグライト。もう後2歩と迫っているのに、このままでは集中できない。
使え。後悔はしない。このままでは死んでしまうぞ。
とうとうグライトは受け入れた。意志をしっかり持つんだ。そうでなければ一瞬で意識が吹っ飛ぶ。落ち着け、いや、妙に落ち着いている。先ほどまでの不安はすっかり無くなった。あぁこれが影の力か。そう意識した時、手に持っていた昼の空の様な蒼を纏った愛刀が静けさを持った夜空のように輝く。グレイシアは綺麗なその色に、何故か見覚えがあった。
首を捻るグレイシアだが、次の瞬間、空間を破る一発の銃声が鳴り響く。銃声はエースのものだ。二人は五歩、歩き終わっていた。思わずグライトの居た場所を見るが、そこには誰もいなかった。
「……ッ!!」
エースは驚き、目を見開く。グライトは夜空の様な色を纏った剣を持ち、エースの後ろに居たのだ。大きく振り被ったグライトはそのまま無慈悲に剣を振り下ろした。一瞬の出来事だ。エースは息を飲み、斬られた背中を庇う様グライトの真正面を向く。
「ハッ……ハハ、やるな、グライト君」
擦れた声、あまりにも綺麗な切り口だったのか、不思議と痛みは感じない。
グライトの表情はと言うと、何故か驚いたような顔をしていた。
「……やった……俺、勝った……?」
グライトは一気に息を吐きだした。とたん、今までの落ち着きが嘘のように無くなり、残ったのは荒い息使いだけだ。
エースはそんなグライトを見て微笑んだ——そして、倒れた。エースの背中からはとめどなく血が流れる。
「エース君ッ!!」
真っ青になったグライトは剣を捨て、エースに駆け寄る。グレイシアも駆け寄った。グライトを押しのけ、すぐさまエースの背中に手を当てるグレイシア。緑色の光が傷口をあっという間にふさいだ。エースは険しい顔から穏やかな顔になり、静かに寝息を立てた。それを見届けたグレイシアはグライトを見て告げる。
「勝者、グライト。貴方に、秘宝を授けます」
グライトは唖然と突っ立ったままだ。その背中にユーノが飛びついて来た。態勢を崩しかけるグライトだが、なんとか踏ん張る。
「やった!! グライト、怪我がなくて、よかった……」
ユーノはグライトの背中に顔をうずめた。グライトの服を強く握りしめる手は震えている。グライトは思わずユーノを抱きしめた。
「ごめん、心配しないで」
小さく呟いたグライトをユーノは見上げた。そっとユーノの体を放したグライトはグレイシアの前に立ち、頭を深く下げる。
「ありがとうございます。秘宝、大切にします。黒雲を祓います。エース君には悪いけど、俺たち急いでるんで起きるまで待てません。ごめんなさい」
苦い顔で告げたグライトにグレイシアは微笑みを向ける。
「ふふ、気になさらないで。私が面倒をみるから。秘宝は託したわ、貴方のその腕輪、剣、弓を見る限り、これで四つ目ね。後三つ、速く集めて私の妹を助けてあげて。お願い」
そう言ってグレイシアはエースを大事そうに抱えた。
「お願いよ、グライト」
最後そう言い残しグレイシアの洞窟はグライト達の前から姿を消す。一度瞬きをすればそれは完全に無く、代わりに視界に広がるのは砂漠だった。
- Re: ANIMA-勇者伝-【9/30更新*お知らせ】 ( No.369 )
- 日時: 2014/10/05 16:30
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)
◆
あぁ終わった。四つ目を手に入れた。あと三つ、時間をかけてられない、そう思うのだが、どこに秘宝があるのか分からない。さて、困った。
首を捻っていると遠くからグライト達を呼ぶ声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。声のする方を見ると、そこに居たのはライガン・ヴェルドーだった。
「グライト! エースに頼まれて情報を伝えに来たぞ!!」
ライガンは元気よく声を張り上げながら走ってくる。相変わらず大きな声で、遠くに居てもビリビリと体が痺れた。リュウは初めて会うライガンの声に思わず耳をふさいだ。
「なんだ? あいつ……」
「ライガン・ヴェルドーさん、サブリアの周辺を一掃しているすごい人だよ。声が大きいけど、悪い人じゃないから」
リュウはそれでも眉をしかめている。
当のライガンはグライトの傍まで走ってきて豪快に笑った。
「久しぶりだな少年!! で、手早く済ませるが、次の秘宝のありかを突き止めた!! どうだ、すごいだろ!」
豪快に笑うライガン。グライトは耳寄りな情報を貰えるとわかり、感謝を告げる。
エースに頼まれて、そう言っていた。やっぱりエース君はいい人だ。今度会うときはゆっくり話したい。そう思いなおし、足元に視線を落とす。
「ん? 少年、元気がないな。俺を見習えよ! まぁいい、そうそう次の秘宝のありかだが……ソリア大陸だ!!」
「ソリア大陸?」
「あぁそうだ。お前の今の実力でなら簡単に辿り着くだろう! ソリア大陸と言うのはダンジョンが多く存在していて、そのダンジョンの一つがなんと守護神の居場所とつながっているそうだ! 細かな特定まではできなかったが、とにかくそこへ行けば秘宝は手に入るだろう!! あ、言っておくが海の向こう側だ、心して航海をするんだな!」
ライガンはそう言ってグライトの肩を力強く叩いた。その力強さにグライトは少しよろめくが、感謝を告げる。
そんな二人にユーノが近づいてきた。
「海の向こう? どうやっていくの、グライト。もうレイさんはいないよ」
そう言ったユーノに、ライガンは「久しぶりだな小娘!」と挨拶をする。
「大丈夫だ、船は俺達の国で用意させてもらった!! 俺達は全力でお前たちを支援しよう! 国王に感謝するんだ、国王がわざわざ船を買って下さったのだからな!」
ライガンはそう言って国へと歩いて行った。その後ろをグライト達は追う。まさか、船までくれるとは、なんだか申し訳ない。ただ、この言葉に甘えないわけにもいかない。頭が上がらないグライト達はそのまま国王へ一度挨拶に行き、深く礼を告げて、船に乗り込んだ。大々的に見送ってくれた国民の人達にも礼を告げ、改めて自分のなすべき事を確認し、覚悟を決めて航海へでた。これから待ち受ける荒波に負けない様、胸を張る。そんなグライトを見てリュウとユーノは気を引き締めた。
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/5更新】 ( No.370 )
- 日時: 2014/10/05 18:28
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)
第四十四話 ダンジョン探索
ソリア大陸へ入ったグライト達は船を降りて洞窟の前に立つ。どうやら、ソリア大陸と言うのは全てが洞窟になっているらしい。高く聳え立つそれはピラミッドの如し。
中へ入れば出てこられるかもわからない。地図なんてものも当然ない。グライト達は船の皆からもらった食べ物を背負い、万全の準備をして中へ入った。
案外暗くなくて、まだ入り口付近は人の手が加えられている。灯篭の通りに進むとそこに見覚えのある人が立っていた。
あの人は、そう思ったグライトは声をかける。
「スターさん、隼人君だよね?」
声をかけられた二人は(隼人はビクリと肩を鳴らしていたが)ゆっくり振り返る。
「やあまた会ったね、えっと……グライト君だったかな? 後ろの二人も覚えているぞ、ユーノ、リュウだったな? ん? 一人人数が足りないようだが?」
スターはそう言ってキョロキョロとあたりを見渡す。
「ソラは途中で別れたんだ」
「あぁそうか。で、きみたちは何をしにここへ? まさか、また私達の芸術を奪うつもりか?」
スターはさっと顔を険しくしてグライトを睨む。グライトはその睨みに負けない様スターの目をみる。
「貴方達の目的は?」
「質問を質問で返すのは無礼だよ。でも応えてあげよう、当然、秘宝だ」
一体どこからその情報を手に入れたのか、スターは何でも無く言い放った。面倒な事になりそうだ、リュウがそう感じたのもつかの間、スターはグライト達の目的を推測したのか、また「勝負をしよう」と言いだした。
やっぱり、リュウはため息を吐きだした。
「俺達はそんな暇は無いんだ。とっとと秘宝を諦めて帰れ。お前は秘宝がどんなものかしっているのか?」
リュウは険悪にそう言うと、さっさとグライト達を引っ張り歩きだそうとする。スターはそんな姿を見て楽しそうな笑顔をつくる。
「勝負は簡単、先に女神の待つ洞窟にたどり着いた方が勝ち。先にたどり着いた方が秘宝を手に入れられるんだ。私達は負けたらちゃんと秘宝から身を引くつもりだ。のるだろう?」
まるでそれが当然だとでも言いたげなスター。戦わなくて済むというし、たどり着けば諦めると言うのだから面倒につき纏われるより楽かもしれない、そう考えたグライトは振り返り、頷く。
「決まりだ。では行こうか、軽井沢くん」
「は……はい! 師匠。ついて行きます」
二人はそう言ってグライト達に軽く挨拶を告げ、別の方向へ歩いて行った。
「面倒なもんに関わるんじゃねえよ」
「でも向こうで戦って時間を食うよりましだよ。急ごう」
不満顔なリュウを置いてグライトはさっさと歩きだす。リュウは考え、それもそうかもしれないと納得しグライトに続いた。いつたどり着けるかもわからない、もしかしたら此処で飢え死にでもしてしまうかもしれない、だが、諦められない。
グライトは力強く歩く。そこで、見知った黒猫と出会う。それはリーブルだった。
なんでリーブルが? そう感じたグライトは黒猫に駆け寄り、抱き上げる。
「なんでいるの?」
「にゃあ」
リーブルはいつものようにつんと顔を反らす。そのままグライトの腕を飛び降りて、一つの洞窟の前に座った。
「にゃあ」
グライト達を振り返り誘導するように歩き出す。ユーノはそんなリーブルを見て「ついてこいって事じゃないの?」とグライトの腕をつついた。
「そうみたいだね。まぁ着いてって見よう。どうせ、道わからないし」
グライトは少し戸惑いながらもリーブルの後を追った。ユーノ、リュウと続いて入って行く。なんだか薄暗い道だ。ここから松明も灯篭も無いらしい。と言う事は、電気が必要だ。
「ちょうどいいや、ライト、持ってきたからそれつかうか?」
リュウはそう言って背負っている鞄から取り出し、スイッチを入れた。広い洞窟ではままならない電気の量だが、今はこれに頼るしかない。こんな時、リーブルみたいに夜目を使えたらとグライトは羨ましく思う。
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/5更新】 ( No.371 )
- 日時: 2014/10/05 18:30
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)
◆
しばらく歩くと、道幅もだいぶせまくなってきて、とうとう匍匐前進で進まなければならない場所も出てきた。
「本当にこっちであってるの、リーブル。間違ってたらどうすんの」
グライトは前を優雅に歩くリーブルにそう言って訴えてみるが、リーブルは前へと進むばかりだ。
ムスッとしつつもグライトはここまで来たのだからと文句を呑みこんだ。
しばらく匍匐前進で進むと、今度は広い場所へ出た。
「はぁやっとだよ、大丈夫? ユーノ、リュウ」
グライトは体を伸ばしつつ、後ろからのろのろと出てくる二人を見た。
「体がいてぇ」
「ボクもう無理ぃ……」
二人は散々だと言いたげな様子だった。
三人で体を伸ばすと、さっさと先を歩くリーブルを慌てて追う。薄暗い所だった。
広い道だと言うのになんだか圧迫されるような気持ちだった。
「なんかちょっとさむいね」
ユーノはそう言って腕をさすりながら体を縮ませた。確かに、洞窟の奥に来たからか、なんだか寒いような気がする。
リュウはそんな二人に鞄から取り出した適当な服を渡す。
「ありがとうリュウ」
「ちょっとマシになったかも。その鞄、何でも入ってるね」
「まぁな、船で色々もらったから」
三人はそんな軽い会話をしつつ、前歩を見た。一つの扉の前でリーブルは座っている。
「ここ?」
「にゃあ」
リーブルはとっとと中へ入れとばかりにグライトの足を頭で押す。
グライトは扉に手をかけ、息を飲んだ。石の扉は重々しい音を立てながらゆっくり開いた。
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/5更新】 ( No.372 )
- 日時: 2014/10/05 18:39
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)
◆
中へ入ると薄着の女性が座っていた。気の強そうな赤い瞳を爛々と輝かせ、にこりと笑う女性は豪快にビール樽を飲み干すと、グライト達を値踏みするように見た。
「ようこそ、あたしがこの大陸の守護神ダーダラ。よく辿り着いたな、小僧ども。で、あたしになんかようかい?」
ダーダラはおおよそ守護神に似つかわしくない態度でグライト達を手招いた。
グライトは呼ばれるがままそちらへ行く。気付けばリーブルはダーダラの足元で寝ころんでいた。役目を終えたと言うような態度に、グライトはやはり導かれたんだと自覚する。
グライト達がダーダラの前に立った頃、石の扉は大きな音を立てて倒れた。
「ここが女神の間か!!」
騒々しい彼はグライトと勝負をしていたスター、その後ろに隼人がオドオドとあたりを見渡している。
「ん? な、なんて言う事だ……私より先にたどり着いているとは!!」
スターはグライトの姿を捕えるなりそう言ってがっくりと肩を下ろす。「気を落とさないでください」と隼人はスターを慰めるが、あまり意味はなさそうだ。
リュウはそんなスターを見てニコッと笑う。
「俺達の勝ち、さっさと諦めて違う宝でも探しに行くんだな」
そんなリュウの挑発にスターはムッとした。
「まて、まつんだ。秘宝はまぁ諦めておこうか、だが君は少し気に入らない。言葉がトゲトゲしていて美しくない。……そうだ、私の弟子軽井沢隼人君と勝負をしてみないか?」
スターの申し出にリュウは眉根を寄せる。まさか、こんなオドオドしている子供と戦えと言うのだろうか? 蚊も殺せなさそうなこの子供に、俺が負けるわけないだろう。 もしやすごい奴なんだろうか? 探るような視線を隼人に向けると、隼人はビクリと肩を鳴らし、スターの後ろに隠れる。
「ぼ、ぼく、むりですよぉ」
小さな声でそう言った隼人に、スターは無情にも前へと引き摺りだした。
「軽井沢くん、そんな事を言っていればいつまでたっても強くなれないだろう? 君はすばらしい能力を有しているんだ。自信を持ってもいいぞ。それに、これは軽井沢くんのための試練の旅、最後の結果などどうでもいい。全力を出して彼と戦うんだ。そうすればこの旅は終わるだろう」
スターはそう言ってリュウを見る。リュウは嫌な予感しかしない。
「少し我々の旅の終わりにつきあってくれ。ここは私達が生まれたソリア大陸。旅の終わりは、華々しい終わりと決まっている。わかるだろう? 美しく終わるんだ。ここは丁度いい。美しい壁、あの青い宝物はサファイアかな? その隣はルビーだ。美しい!」
そう言って手を広げ、勝手な事をつらつらと述べるスター。何故俺なんだとリュウは頭を押さえた。まったく今になって不幸が襲ってくるとは思いもしない。急いでいると言うのに、だ。
「俺を選んだ理由も教えてくれ。お前等の余興につきあうのは嫌だけど、理由によっちゃあ受けてやるよ」
「あぁこたえてやろう! リュウ君、君の双剣は雷を纏い、稲妻を発生させる芸術性の高い双剣だろう? この薄暗さなら君の双剣は美しく舞う、そのはずだ。君の言葉使いは少々荒っぽく、美しくないが、君のそれは誇るべきものだろう。そんな君の双剣と軽井沢くんが戦うすがたは美しいはずだ。わかってくれたかな?」
あぁやっぱり碌な理由じゃない。面倒だし、時間を食うのも嫌だと思ったリュウはその申し出を断ろうと口を開こうとした、その時傍で聞いていたダーダラが口を挟んできた。
「なんだ、面白そうじゃないか。いいね、あたしは見たい。どうせお前達の目的は秘宝だろう? 戦いを見せてくれるのなら渡してやるよ。あたしはこの洞窟で随分暇を持て余した。久しぶりにそう言うのも見たくなってきた。さぁリングはここだ。何を使ってもいい。戦え! 楽しませてくれよ、小僧共」
ダーダラは実に愉快そうに笑う。リュウはとうとう断れなくなってしまった。グライトはそんなリュウを見て苦い顔だ。
「リュウ、嫌なら断っていいよ、どうにか秘宝を譲ってもらうようにするし」
「……いや、時間が無いんだろ? なら、やるしかない。交渉にかかる時間が惜しいからな。大丈夫だろ、あいつ弱そうだし」
「気をつけてね、なんせスターさんの弟子、隠し玉を持ってるかもしれないから」
「あぁ、油断大敵、わかった」
そう言いつつもリュウは何処か余裕な表情だ。グライトは心配だが、なんども言うのもどうかと思い、大人しくダーダラの隣に並ぶ。スターはグライト達と逆の方向へ並んだ。
「よし決まりだ、二人とも位置につけ、遠慮せず存分に暴れるといいぞ。ここはあたしの力でいくらでも修復可能だからな」
ダーダラは上機嫌でもう一樽を取り出し、観客になったつもりで座る。隣の床にリーブルと座っている不安げなグライトの顔を見て、ダーダラは快活な笑みを浮かべた。
「危険だと判断した時、ちゃんと指示を出すから安心しな」
頼りがいのあるその笑みに、なんだか安心をおぼえたグライトは微笑を浮かべ、頷いた。
「さぁて……じゃあ、始め!!」
ダーダラの掛け声で二人は構える。じりじりと距離を詰める二人、隼人の方は少し不安そうだが、どうなるのか予想もつかない。そもそも、隼人は何を武器に戦うのだろうか? まさか、素手で戦えるほどあのひ弱な体に力があるとは思えない。何か策があるのだろうか、グライトはやはり少し心配になった。
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