複雑・ファジー小説

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ANIMA-勇者伝-【完結】
日時: 2014/12/23 17:00
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)

 古くから残る書物が一つある。
それは神が誕生し、この世界が出来るまで、そして大きな事件まできっちりと書かれている。
 擦り切れた表紙からは魂の温かみを感じ、生きとし生ける者たちはそれを学び、記し、語って行く。
そう、これは歴史だ。
多くの者が血を流し、繁栄した時代に生きる影響者達の一生が描かれている。
そんな歴史書の数ページが何者かにより失われていた。空白の歴史が語る事実はなんだろうか?

その時——世界が動いたのだ。

◆◆◆◆
初めましての方は初めまして、そうでない方はありがとうございます愛深覚羅と申します
もう投稿して何回目でしょうか……懲りずにまたやって行きたいと思います
今回は王道ファンタジーを久々に書いて行こうと思ってます
そして今度もゆっくり更新ながら完結目指して頑張って行きたいと思います!
オリキャラも募集していますのでよければご参加ください

※御指摘・御要望があれば遠慮なく言ってやって下さい。

◆本編
登場人物/用語 >>4
プロローグ >>5

□第一章
第一話 不思議な黒猫〝リーブル〟 >>23
第二話 樹の中に…… >>27 >>28 >>33
第三話 守る者達 >>37 >>40 >>41
第四話 出発の朝 >>46 >>54 >>55
第五話 桜は血を吸って美しく咲き誇る >>63 >>66 >>70
第六話 例えば…… >>71 >>74
第七話 笑顔 >>77 >>78
第八話 無邪気 >>86 >>95
第九話 藪の中 >>96 >>97
第十話 七色の蝶 >>101 >>106
第十一話 遭い会い逢い >>110 >>113 >>114 >>115
第十二話 魅入られる >>119 >>120 >>121
第十三話 犬猿の仲 >>125 >>129 >>130
第十四話 意味 >>135 >>140
第十五話 噂の真相 >>147 >>154 >>157
第十六話 彼はなんだ? >>160
第十七話 秘宝を賭けて >>163 >>167 >>168
第十八話 ここはどこですか? >>173 >>178 >>179
第十九話 家出少女と旅芸人 >>187 >>191 >>192
第二十話 強くなりたいか? >>197 >>201
第二十一話 怪盗と追いかけっこ >>202 >>203
第二十二話 怪盗の回答 >>204 >>205
第二十三話 道端 >>211 >>212 >>213
第二十四話 海へ! >>216 >>221
第二十五話 船の上の生活 >>224 >>232 >>233
第二十六話 幻の島ヒストリア島 >>236 >>237 >>243 >>246 >>252
第二十七話 いざ行かん、戦場の地へ >>255 >>259 >>260
第二十八話 放浪の末 >>264 >>270 >>275
第二十九話 エターナル王国へ >>276 >>277 >>278 >>279
第三十話 探し人、見つかる >>283 >>287
第三十一話 女王と国王 >>294 >>297
第三十二話 列車の旅 >>300 >>303 >>304 >>305
第三十三話 パルメキア王国の策略家 >>308 >>309 >>310
第三十四話 罠 >>313 >>317 >>318 >>321
第三十五話 対面 >>323
第三十六話 パルメキア王国の王女 >>324 >>325 >>326
第三十七話 合間 >>327 >>330 >>331 >>332
第三十八話 最前線基地 >>336
第三十九話 ゼルフ・ニーグラスと言う男 >>339 >>340
第四十話 終焉の狼煙 >>343
第四十一話 あの場所 >>344
第四十二話 戦後 >>345

□第二章

第四十三話 リベンジ >>367 >>368 >>369
第四十四話 ダンジョン探索 >>370 >>371 >>372
第四十五話 勝利の行方 >>375 >>376
第四十六話 伝説の魚人 >>381 >>382
第四十七話 噂の人魚 >>383 >>386 >>387
第四十八話 全ての元凶がそこに >>388 >>389 >>390 >>393 >>394
第四十九話 動く >>395
第五十話 走る >>396 >>397
第五十一話 レイヤル王国 >>401 >>402 >>403
第五十二話 世界を覆う >>406 >>407
第五十三話 意志と意思 >>410 >>411
第五十四話 境界線にある真実 >>412 >>413 >>414 >>415
第五十五話(最終話) 空白の歴史は動き始めた >>422 >>425 >>426 >>427

□エピローグ

とある国に伝わる歴史書 >>428

□特別番外編
EPISODE1 生命の息吹 >>349 >>350
EPISODE2 神々の…… >>355
EPISODE3 砂漠と恋の風 >>356 >>358
EPISODE4 桜吹雪 >>362
EPISODE5 幻と共に >>365

□お知らせ
>>348 >>366

□アトガキ
>>431

◆オリキャラ様

オリキャラ募集用紙 >>6

檸檬さん >>7 >>43 キコリさん >>8 芳美さん >>10
コッコさん >>11 >>25 >>34 >>42 >>44 >>61 >>72 >>99 >>108 >>149 >>158(仮) >>171 >>188
不死鳥 >>12 七竈さん >>13 010さん >>14
ばっちゃさん >>15 ブルーさん >>20 はるさん >>21
紫蘭さん>>24 大関さん >>29 凡さん >>49
モンスターさん >>52 calgamiさん >>56 >>174 >>175 トールさん >>58
モンブラン博士さん >>79 >>89 >>117 >>145 >>169
恒星風さん >>82 サニ。さん >>87 >>152 珈琲さん >>91

.オリキャラ募集一旦〆切です。

Re: ANIMA-勇者伝-【8/14更新】 ( No.323 )
日時: 2014/08/15 22:33
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)

第三十五話 対面

 「クソッ……! あっちこっち兵士が立ってやがる」

クウゴはそう言って悔しそうに顔を歪めた。時折背中に背負っているミキを気にして振り返ってはまた舌打ちする。

「あっち人いないんじゃない? あっちの方に移動しようよ」

クウゴの様子を気にしてユーノはそう言った。ユーノが指をさす方向は確かに人がいない。だが森の奥へとつながるであろう場所だ。
しかしそちらへ進む以外5人に道は残されていなかった。仕方なくそちらへ進むが、どうも迷いそうで不安になる。
グライトは先ほどから嫌な予感を感じていた。こちらは間違った道だ、本能がそう告げているが、そっち以外道が無いと言っても過言では無かった。兵士は先ほどから誰かの指示で自動的に動く。何処へ行ってもグライト達の視界へ入ってくるのだ。
グライトは前を歩くクウゴに呼びかけた。振り返ったクウゴは相変わらず焦ったような、怒ったような顔だ。

「クウゴ、誘導されてるよ」

グライトはそう言うが、クウゴは「わかっている」と短く返事をするだけだ。もう策が無い、そうもとれる。
やはり森の奥へと進むほか道は無いらしい。
自分達はいったいどこへ出るのだろうか? もしかしてパルメキア軍のど真ん中だったりするのだろうか? それはまずい……。
そう言った所で本能は嫌な方向へしか動かない。
結局見えてきたのはパルメキア王国直属の陸軍本拠地だった。



 「かかった! 捕えろ!!」

そんな声が無線機を通じて響いた。そして周りに居た兵士達は一斉に、グライト達を取り押さえるため動き出した。

 グライト達はあまりに統率された動きについて行けず、目立った反抗できずに抑えられた。
クウゴは背中に背負っていたミキが落ちそうになるのを必死で耐えるが、両手をふさがれている今の立場ではきっと逃げ出せはしないだろう。

 それからすぐの事だ。基地から一人の人間が兵士に守られながらも出てきた。緑の長髪を自慢気に揺らしながら、その表情は余裕そのものだ。
クウゴはまさか統率しているのが女性だと思わなかったため、驚き、だがすぐにしかめっ面になる。

「誰だテメェ」
「口のきき方を知らないのか? お前は今、私より弱い立場に居る。自覚を持て」

軍人らしい厳しい声で女性はそう言う。その女性に周りを囲っていた兵士の一人が近づいた。きっと隊長格なのだろう。報告も兼ねて、兵士は口を開く。

「セレン軍師、こいつらが犯人ですか?」
「……おそらくな」

軍師セレンはそう言ってグライト達をじっと見た。セレンはゆっくりとグライト達五人を眺め、見比べる。
値踏みされているのだろうか、グライトはそう思い気を引き締める。

「わかったぞ。お前だな、私の軍に手を出した輩は」

セレンはそう言ってクウゴを指差した。クウゴは諦めたように舌打ちする。どう言う事だろうか? グライトとリュウ、ユーノは同時に首を捻った。セレンは続けざまに質問を繰り出した。

「お前の目的はなんだ?」

その質問にクウゴは自嘲気味に笑うだけだ。
セレンはそんなクウゴの態度に腹が立ったのか、クウゴの腹を思い切り蹴った。苦い顔でクウゴは崩れて行く。
咳き込んだクウゴにもう一度、セレンは同じ質問を浴びせた。クウゴはそれでもうすら笑いを浮かべるだけだった。

「ゴホッ……なかなか、重い蹴りだな……俺の目的だっけか? フン、お前等にとっちゃくだらねぇ事だ。気にするな」
「そのくだらない事で私の軍は、兵士は殺されたのか? そんなんで納得すると思うなよ? さっさとそのくだらない理由を答えろ」
「ハハッ、目的達成のためだ。お前達もよくやるだろう? 捨て駒って奴だよ。お役御免、そいつらには引いてもらった。それだけだ」

クウゴが言い終わるや否や、セレンはもう一度クウゴを蹴った。鈍い音を立てて倒れるクウゴを、グライト達は抑えつけられながら見ていることしかできなかった。

「おい、もう一度問う。これに答えなければお前のツレ、そうだなぁ、とりあえずその背中の男でも殺すか。恨むなよ? お前の言うお役御免って奴だ」

セレンは厳しい表情でそう言った。すぐさま一人の兵士の男にミキを抑えられた。ミキは気を失っていて、まだ目が覚めないらしい。
クウゴは慌ててミキの名前を呼ぶが、反応が返ってくるはずもなく。兵士の持っている剣は今にもミキを貫きそうだった。
クウゴはその状況に悪態付く。悔しそうに歪められた表情に、セレンは冷笑を浴びせるだけだった。

「チッ……このアバズレ野郎! そんなに聞きたいなら聞かせてやる。そのかわりミキ達を放せ。俺達はお前の敵じゃない」

クウゴはそう言って膝をつき、立ちあがった。

「俺は……俺の目的は、戦争を無くす事だ。こんなくだらない、何の利益も無い戦争はやめるべきだ。お前等も知っているだろうが、ドラファーの目的はお前の国の秘宝らしいな? お前の国、本当に秘宝があるのか?」

クウゴは服の端を払いながらそう言った。先ほどの蹴りの痛みはひいたらしい。まだ腹をさすっているが、問題なさそうだ。グライトはそんなクウゴの様子を見てほっと息を吐いた。
クウゴの前に立っていたセレンは、目でわかるほどうろたえている。何をそんなにうろたえることがあるのだろうか? セレンはパクパクと何度か口を動かした後、やっとの事で声を紡いだ。

「な……何を言っているんだ、お前は? パルメキア王国に秘宝? そんなもの、聞いた事が無いぞ」

そう言ったセレンに、今度はクウゴが首を捻る。

「おかしいな、そう聞いたんだが?」
「だれに?」
「エターナル王国の王と姫、正しく言うとグライト達が聞いてきたんだが……」

おかしいなぁそう言うクウゴに、先ほどまでの緊張は感じられない。
クウゴはそのままミキの方へと歩いて行く。少しも躊躇わない足取りに、兵士の方が少し躊躇ってしまった。
クウゴはそんな兵士の心情を察してか、乱暴にミキをひったくった後、兵士の体を思い切り投げ飛ばした。
セレンはそんなクウゴの動きを瞬時に察した。

「動くなッ!!」

他の兵士に指示を出そうとして、クウゴがそれを止めた。にやっと笑ってセレンを見やる。

「だから俺はお前等の敵じゃねぇ。お前等も戦争は嫌だろ? 取引しようぜ。俺らをお前の国を治めている奴まで連れて行ってくれれば、俺がこの戦争を止めてやる。どうだ? 悪くないだろ?」

ミキを背負いなおしつつ、グライト達を解放させるためそちらへ歩くクウゴ。セレンは唖然と声も出ない。
しばらく沈黙の後、兵士を下がらせたセレンは、やっと絞り出した弱々しい声でクウゴの取引に答えた。

「……お前が、本当に戦争を終わらせれるのか?」
「あぁ、俺の目的はソレイユから戦争を消す事だからな」

自信に満ちた顔でそう言いきったクウゴ。セレンはそんな彼を見て、ふと笑った。バカらしい、そう呟いてニヤリと笑う。何だか彼女のその表情は妙にしっくりしていて、悪意は感じられなかった。

「なら賭けてみよう。お前がこの戦争を終わらせられなかったときは……お前の命を奪ってやる」
「……あー怖い怖い」

面倒そうにそう言ったクウゴ。セレンは笑って兵士達に次なる指示を出した。

Re: ANIMA-勇者伝-【8/15更新】 ( No.324 )
日時: 2014/08/16 21:23
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)

第三十六話 パルメキア王国の王女

 あれからグライト達は基地に一日泊めてもらった。ミキが目を覚まさないからだ。心配してうろうろと落ち着かなかったクウゴだが、よっぽど疲れたのか、そのまま眠りについた。

 次の日の朝、ミキは目を覚ました。初め基地に居たと言う事で驚いていたが、慣れたのか今は荷物を確認したり、魔力を確認したりといつも通りの行動をしている。
 セレンは「戦争を止めろ」と言った。そんな彼女も協力をしないわけではないらしい。実際、セレンももう戦争なんてしたくなかったらしく、クウゴと話しが意気投合し、とうとうパルメキア王国の王女にまで会わせてくれると言ってきた。
その申し出を受けたグライト達は荷物を持ち、現在軍用車にゆられていた。

「もうすぐ国が見えてくる。振り落とされるなよ、スピードを上げる」

セレンはそう言ってエンジンを思い切り踏んだ。車は砂をまきちらしながらどんどん進んで行く。
勢いよく門を通過した。門番は驚いていたが、いつもの事らしく簡単に通らせてくれた。
初めて入ったパルメキア王国はあまりに重苦しい雰囲気に呑まれていた。グライトはセレンを見る。先ほどまで軽口をたたきながら楽しく会話をしていたと言うのに、今は険しい顔で前だけを見つめていた。
そんなセレンにユーノが後ろの席から話しかける。

「ねぇ女王……エレーナ・サドミリア女王だっけ? どんな人なの?」

ユーノの質問にセレンは少し考えているようだ。

「……とても哀しい人だ」
「え?」

それ以上は何も言わなかった。そうこうしているうちに第二の大きな門を通り過ぎた。どうやらここが城へと続く道らしい。
入るとすぐ一人の兵士がオドオドと言った様子で駆け寄ってきた。まだ若い青年の様な佇まいで、彼はセレンを見るなりビシッと敬礼をする。

「……セレン軍師、どうかしましたか?」
「あぁアルト。ちょっと客人がいてな、エレーナ女王に会わせてやりたいんだ」
「どう言った客人ですか?」
「旅人だ。怪しい奴らじゃない。ちょっと女王と話しがしたいそうだ。内容はしっかり私が確認した。どれも問題のない物だった。通してくれるか?」
「わかりました。なら城門を開けます。橋を下ろしますので、そこをお通りください」

アルトと呼ばれた黒い鎧の青年はそう言って駆けだしていく。緊張した面持ちを見る限り、セレンより立場は低いらしい。
それからすぐ城門が開き、橋が降りた。セレンはその橋の上をゆっくり渡る。

 中はそれほど広くは無かった。庭があり、車が何台も泊まっている所がある。どれも戦車だった。
セレンは軍用車から降りた。続いてグライト達も降りる。そこへ先ほどのアルトと言う青年が門から戻ってきた。

「御帰還お疲れさまでした」
「あぁ。……こいつらが私の言っていた客人だ」

セレンはそう言ってグライト達を紹介する。アルトは休めの態勢でそれを一つ一つ漏らさず聞いた。

「ご紹介承りました。僕はアルト・ガーディアスと申します。現在はエレーナ女王のもとで護衛をさせていただいています。以後、お見知りおきを」

アルトはそう言ってにこりと笑う。その笑顔は何処か頼りのない笑顔で、本当に護衛が出来るのかとグライト達は少し疑った。

「よし、私は先に行こう。アルト、客人を客間へ案内しろ。私はエレーナ様をお連れする」
「わかりました。では僕の後に続いて下さい」

アルトはそう言ってグライト達を率先する。真っ直ぐ客間へ向かい、適当にお茶を入れた後、アルトは部屋の隅でグライト達を監視するように見ていた。



 現れた女性を見て息を飲んだのは何回目だろうか。

グライト達の緊張の糸が切れないうちに、セレンは一人の女性を連れて現れた。女性は金髪に、黒く大きな羽を携えた、何とも言えない不思議な雰囲気を持っていた。
グライトはこの雰囲気を一度感じた事があった。それはヒストリア島で出会ったあの女性、レイラの、似て非なる雰囲気だった。
たじろぐグライトを置いてクウゴは立ちあがる。

「こいつがエレーナ・サドミリアか?」
「……女王様をつけなさい、もしくは様だけでもいい。百歩譲って敬語は求めないで置いてあげる」

エレーナはそう言って顔を歪ませた。クウゴはそんなエレーナの態度に、失礼と一言述べた後、丁寧にお辞儀をする。
エレーナが座るころ、クウゴも座った。セレンは部屋の隅、アルトの立っている方向と逆の方向へと立つ。
重々しい雰囲気の中、エレーナは「で?」と続けた。

「私に話って何?」

ゆったりとしたしぐさで紅茶を一口飲み、グライト達の言葉を待つ。
真っ直ぐと見据えてくる瞳に光は無かった。これは長期戦になりそうだ、そう覚悟してグライト達は姿勢をただした。

「話、の前に……俺はクウゴ・O・デスサイズ。死神をしている。エレーナ女王、貴方はどう言った種族で?」

クウゴの軽い質問に、エレーナは淡々と答えた。

「私は黒竜族。貴方達……白竜族は御存じ? 彼らの対なる種族、いわば影ノ皇の気に共鳴した選ばれた種族よ。……まぁ、私はこんな種族、どうでもいいのだけれども」

フンと鼻を鳴らすエレーナは何か心に引っ掛かりでもあるのか、それ以上は言わなかった。

「……そうか、まぁいい。本題に入る。俺らが話をしに来た理由、それはこの戦争の事だ。ドラファー帝国との戦争、どうやら秘宝が絡んでいるらしいが……本当にこのパルメキア王国に七つの秘宝の内、一つがあるのか?」

クウゴの言葉にエレーナは眉を上げ、にこりと笑う。

「どうかしらね……クウゴさん、貴方はどう思うの?」

エレーナはそう言った。あくまで真実は漏らさないつもりらしい。
クウゴはそんなエレーナの質問に首を振る。

「俺はこの国には秘宝は無いと思う。誰かがそんなデマをでっち上げ、戦争を起こさせたんだ。何故だかは分からないが……」
「そう……話しはそれだけ?」

エレーナはそう言って立ち上がる。

「くだらない。それを知って貴方達はどうすると言うの? 説得でもする気? いい? 話し合いが通じれば戦争は起きないの」

くだらない、最後にもう一度そう言ってエレーナは部屋を出て行こうとする。そんなエレーナの腕をクウゴは掴んだ。

「まて、まだ話は終わっていない」

凄むクウゴに、エレーナは怯えるわけでもなくただ淡々と振り返るだけ。

「放しなさい」

冷たい言葉と視線をクウゴに向ける。彼女は何をそうまでして隠そうとしているのだろうか?
エレーナはなかなか放さないクウゴの手を睨みつけ、ぐっと奥歯を噛みしめる。

「放して!!」

クウゴの手を振りほどこうと手を振るエレーナ。だがクウゴの方が断然力が強く、その抵抗も空しく終わる。
エレーナはそんな状況を不快だと言いたげに顔を歪めた。

「こんな事をしてただで済むと思っているの? セレン、アルト……さっさとこの客人を放り出しなさい。私はもう話したくないの!」

エレーナの命令にアルトは素直にクウゴに掴みかかったが、セレンはためらう。
クウゴをアルトだけの力で止めることは無理だ。アルトは助けを求める様にセレンを見るが、セレンは俯いて何か考えているようだ。

「何をしているのセレン。私の命令が聞けないって言うの? まさか、また裏切るつもり?だから……だから人は嫌なのよ! セレン! いい、もう一度言うわ。この客人を放り出しなさい。早く、今すぐに!!」
「……お言葉ですがエレーナ様、もう少し、もう少しだけ……この客人の話を聞かれてはどうでしょうか? もしかしたら、貴方の求めている答えが見つかるかもしれません。もう少しだけでいいのです。そのあと、何しようが私は命令に従うだけ。どうぞ気を鎮めてください」

重々しくそう言ったセレンは、窺うようにエレーナをじっと見る。エレーナはムッとしているが、アルトを止め、クウゴを見た。

「貴方が何を考えているのか、ここで洗いざらい吐きなさい。これは命令。……アルト、紅茶のお代りを頂戴。さっきのは温かったわ。もうちょっと温めなさい」

エレーナはそう言って颯爽と黄色のドレスを翻して椅子へと戻る。アルトは慌てて紅茶の変えを用意するため部屋を出て行った。
不機嫌なエレーナを見て、クウゴは皮肉ににこりと笑う。

「ありがとうございます。では、命令通り俺の考えを吐かせてもらおう」

エレーナはそんなクウゴの態度に嫌な顔をした。

Re: ANIMA-勇者伝-【8/16更新】 ( No.325 )
日時: 2014/08/16 21:42
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)



 あれからクウゴは一時間にわたって自分の考えを提示した。戦争を無くしたい。このソレイユと言う国に安息を約束したい。それにはまず、この戦争を止めなくてはならない——……と。
エレーナはそれを否定するわけでもなく、ただ聞いていた。
グライト達もその時初めてクウゴの思いと信念を聞かされた。ミキはその事を大半聞いたのだが、それでもまだ序の口だと言う事が身にしみる。
クウゴは本気だった。
ソレイユと言う世界から戦争を消す。クウゴはその思いを遙か昔、そう、備兵の時代から掲げていたそうだ。備兵の頃のクウゴをグライト達は知らない。だが、今とそう変わらないんじゃないかと思った。きっと態度や雰囲気は違うのだろうけど、根本の部分は今と変わらない。

エレーナはクウゴの話を聞き終わり、フッと目を閉じた。何度か瞬きをしてそして真っ直ぐクウゴを見る。
クウゴは何を言われるのか覚悟を決めた。何を言われても自分の信念は歪めない、そんな意志を持ってエレーナを見返した。

「俺のためとはいわない。世界の……いや、ソレイユの未来のために力を貸してくれないか? 力と言っても無理は言わない。ただ、この戦争を終わらせてほしいだけだ」

クウゴは意志の強い光を瞳に燈し、エレーナを静かに見据えた。二人の間に、一瞬の緊張が走る。
しばらく間を置いた後、エレーナは考える様に首を捻った。そして口をゆっくり開く。

「……いやよ」

エレーナはそう言った。きっぱり、はっきりと部屋に響く声でそう言った。
グライト達は非難の目をエレーナに向けた。彼女が何を考え、その答えに至ったのかは分からない。だが、あれだけ熱意のこもった説得をいとも簡単に、三文字の言葉で否定した。
悔しさの様な物が込み上げてくる。ちょうどサブリア大陸で戦ったエースに負けた時の様な……そう、あの感覚だった。無力、憤り、悔しさ、そんな物が混ざっては消える。
一番悔しいのはクウゴだと言うのに……グライトは眉をハの字にしてクウゴを見た。答えを出すのは彼だからだ。
しかしグライトは次の瞬間目を大きく開く。クウゴはその答えを予想していたのか、へにゃりと笑っていたのだ。

「クウゴ、悔しくないの!? けして間違った事を言っているわけでは無いのに、否定されたんだよ? いやだって……エレーナ様の我がままかもしれないのに。腹が立たないの?」

グライトは思わず口をついてそんな言葉を言っていた。クウゴはグライトを横目で見て少し笑った後、ふっと息を吐きだした。

「否定されても俺の意志は曲がっていない。人それぞれ思いがあるんだよ」

優しい声で言った後、「なッ!」と軽くミキに言葉を投げかける。ミキは同じように笑って「そうですね」と肯定した。
あぁそうか、二人は目標があるのか。自分のために、自分だけの目標が。そう思ったグライトは「そっか」と小さく呟くだけだった。
そんな雰囲気を打ちつける様にエレーナはぴしゃりと言い放つ。

「話はそれだけ?」

冷たい声でそう言ったエレーナの本心はわからない。クウゴはそんなエレーナに「それだけだ」と頷く。

「……ならばもう用は無い。さっさと出て行って。私は、私だけの世界を作るの。誰も逆らわない。裏切らない。そんな世界。ねぇ、貴方はこれからどうするの?」

エレーナは問いかける。何も感情を映さない瞳だ。彼女も彼女なりの信念があるのだろう。
クウゴはそんなエレーナの問いかけに、少し考える。これからもなにも……パルメキア王国の力を、このエレーナと言う一人の王女の力を借りなければ戦争は止まらない。「そうだな」そう呟いてクウゴはチラリとアルトを見た。

「俺もこの国の兵隊になろうかな」

ついでにミキも、そう付け足してにこりと笑う。エレーナは目を見開き、「はぁ?」と呆れたような声を出してクウゴを見る。なにを言いだすんだ、そんな表情だった。

「俺はまだあきらめてねぇからな。お前の力が無かったら、戦争は終わらない。この戦争はお前の国とドラファー帝国の問題だが、俺はこれを大きくなる前に止める。そのためにはお前を口説かなきゃいけねぇ。近くで、それでいて口がきける距離。女王様の元に毎日通うのはちと辛い……。そうなったら答えは一つだ。俺もこのパルメキア王国の隊へ入隊する。この戦争が終わるまで……いや、終わらすまで」

勝ち誇ったように笑うクウゴに、エレーナは呆れてものも言えない。

「ミキも付き合ってくれるか?」
「えぇ、貴方の力になると決めましたからね。戦いはあまり好ましくないのですが、王家直属の兵隊なら戦場へ赴くことはしばらくないでしょう。今のうちは……ですが。時間の問題ですよ、クウゴ」
「わかってる。決まりだ。おい、アルト。お前どうやって入った? 教えてくれ」

クウゴはアルトに近づいた。意志の強そうな瞳に、アルトはたじろぐ。だが、アルトは挑戦的な瞳でクウゴを見た。

「エレーナ様に立てつくかもしれない不安分子を、軍に引き入れると思うのか?」

どうやらアルトはクウゴ達をエレーナの敵とみなした様だ。クウゴは困ったようにボサボサの髪を掻いた。

「別に敵じゃねぇよ。入ったからには毎日鍛錬に励むつもりだし、俺だって兵士をやった事があるんだ。ルールぐらいわかっているつもりだが? それとも、お前が嫌なのか?」
「は?」

アルトは目をパチクリしながらクウゴを見ている。

「お前、女王陛下様と恋仲かなんかだろ?」

何でも無くそう言うクウゴに、アルトはパクパクと口を金魚のようにしていることしかできない。
カッと赤くなった顔を見る所、どうやら本当らしい。
エレーナに恋人が!? 傍で話しを聞いていたグライトは俄然興味を示す。無言で視線を送るグライトに気が付いたのか、アルトはバツが悪そうに俯いたのち、しゃがみ込んでしまった。

「……ま、まて……ぼ、ぼ、僕に、過失があったのか? どこで、いつ、気付いた?」

気弱な声は先ほどまで張りつめていたアルトの雰囲気を壊す。どうやら否定をしない所を見ると付き合っているらしい。
クウゴはそんなアルトを見て愉快そうに口元を歪めた後、にやにやと笑い始めた。

「ばかめ。お前の熱のこもった視線を見ていたらすぐわかる事だ。異常にエレーナ女王陛下を見ていた事、自分では気づかないのか? あーぁ、若いって怖いねぇ」
「う、うるさい……! 僕は、ただ、女王陛下のナイトとして……って何言わせる気だよぉ!」
「別に。その様子を見るからに、周りに入っていないみたいだな? バラしてほしくなければさっさと俺とミキを軍に入れろ。これがバレたら後々怖いなァ……国民とか、兵士とか、綺麗な女王様だ、こいつに惚れている奴もいるかもしれない。夜道にビクビクする羽目になるかもな。気弱なお前の事だ。それは耐えられないだろうに」

意地悪く笑うクウゴ。アルトはその話を聞いてビクビクと目に見えてわかるほど怯えた。
グライトはその話を聞いて感心するばかりだ。クウゴは人の事をよく見ている。いや、観察していると言った方がいいのだろうか? グライトの思ったアルトとは程遠い素の部分が動揺により見えてくる。
アルトはどうも本当に気弱な人間らしい。そしてエレーナとは違い、人の事を大切にする想いが強いらしい。
もしかしたらエレーナも冷たい人間だけでは無いのかもしれない。グライトは表面だけ、取り繕ったエレーナを見て判断していたが、もしかしたら彼女も温かい心を持った一人の少女なのかもしれない。
そんなエレーナの心を見抜き、クウゴはこんな突拍子の無い事を言いだしたのだろう。
そこでふとグライトは思うものがあった。

「え、ってことは、俺達はどうなるの……?」

グライトの言葉に話の流れについて行けないリュウやユーノも反応する。

「そうだ、俺達はどうなる? クウゴさんの意志を手伝おうとここまで動いたのに、俺達は兵隊になれないのか?」
「えぇ!? じゃあボク達はまた訳の分からない土地で迷うしかないの? ねぇ、ボク達も兵隊になっちゃだめかな? ボクは女だけど、セレンさんも女の人だし、性別では問題ないよね?」

騒ぎ出すグライト達三人に、クウゴは呆れたようにため息を吐く。

「お前達は役割があるだろ? 手伝ってくれるのは嬉しいが、お前達は兵隊になっている暇はない。お前達にはドラファー帝国に行ってもらわなければならないからな」

クウゴの言葉にグライト達は「え」と言葉を漏らす。

「俺達、三人で……?」
「そうだ三人で。スパイをして来いって言っているわけじゃない。エレーナ女王は俺が説得するから、お前達はドラファー帝国のゼルフ・ニーグラスを説得してもらう。最終平和的に和解へ持ち込むため、頼んだぞ」

力強くグライトの肩を叩くクウゴ。じゃあなと言ってアルトとミキと部屋を出て行ってしまった。続いてエレーナはセレンに呼ばれた兵士達に連れられて客間を後にする。
残されたグライト、リュウ、ユーノは困惑する事しかできなかった。

Re: ANIMA-勇者伝-【8/16更新】 ( No.326 )
日時: 2014/08/16 21:48
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)



 とんでもない、客間で立ちつくして何分たっただろう。それぞれ思いがまとまらず、どうしていいのかわからないと言った様子だ。
三人は思った。ドラファー帝国のゼルフを説得するなんて自分達にはできない。子供の声なんて、聞いてくれる人ではないだろうし、クウゴの様な説得力のある言葉もきっと自分達には言えない。ヘタをしたら殺される可能性だってあるんだ。
そんな三人を見かねてセレンは戸惑い気味に声をかけた。

「お前たちならできる、きっと。裏列車を封じた今、私がドラファーへ連れて行ってやる事しかできない。クウゴに手伝うと申し出たんだろ? なら、覚悟を決めることだ。まぁ今日は休め。明日の早朝、この国を出る。少し遠回りをするから長くなるが、それでもいいか?」
「……大丈夫かな」

不安げに揺れるグライト達の瞳。まだまだ子供だ。セレンは初めてグライト達を見た時、しっかりしている子たちだと思った。だが、それは引っ張ってくれる存在がいたから。
その存在無き今、彼らは自分たちを疑い始めている。そう、迷子になっているのだ。
そう感じたセレンは年上らしく、貫禄のある笑顔でグライト達を元気づけた。

「お前達はもう少し自分を信じてみたらどうだ? お前達も目的があって旅をしていたんだろ?」

セレンのその言葉に、グライトとリュウはハッとしたが、ユーノだけ何だか浮かない顔で曖昧に頷いただけだった。
そんなユーノの表情を読み取れなかったが、グライトとリュウが元気になったのをしっかり感じた。

 それから三人はセレンに連れられて一軒の宿屋に着いた。外は夕方で、宿に入るとグライト達は緊張の糸がフッと途切れたように意識を手放した。

Re: ANIMA-勇者伝-【8/16更新】 ( No.327 )
日時: 2014/08/17 22:48
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)

第三十七話 合間

 グライト達はセレンの言った通り早朝にパルメキア王国を出た。軍用車で行くと餌食になってしまうので、セレンの自家用車でパルメキアの土地を横断する。
何日か泊りがけになるかもしれないと言う事で、自家用車と言ってもキャンピングカーだ。
キャンピングカーは大きく、ベッドが四つと水道、トイレなどがついていた。本当の家みたいだ、グライト達はそう思い快適な空間で……しかし、緊張を走らせていた。
なぜならクウゴに託された役割があまりにも重い物だったからだ。それに、先ほどから気がかりになっていたのだが、ユーノの調子がわるい。身体的には健康なのだが、何処か浮かない顔だ。
グライトはそんなユーノの雰囲気から逃れる様に、ソファに座っているリュウの所へ移動した。じっとリュウの方を見ているとリュウはグライトの視線に気づいたようだ。視線が合った時、グライトはリュウに耳を貸してくれと頼んだ。何かを決意したような顔に、重要な事なのかとリュウは一瞬気を張る。

「ねぇリュウ……ユーノの調子が悪い、と言うか醸し出す雰囲気が一段と重いんだけど……何かした?」
「え? 俺が?」
「うん、だって色々あり過ぎて忘れてたけど、リュウってロリコン……いや、年下が好きだったよね? 俺は常にユーノと一緒だったわけじゃないし、というか最近めっきり一緒になれないんだけど……その間にリュウがユーノにおそッ……い、イタズラでもしたのかなぁって」
「オイオイオイッ!!? 俺はロリコンじゃねぇよ! いや、厳密に言えば……って違う!! ただ小さい物とか子供とかが好きで……て言うか、一緒に旅してる仲間に手出すほど腐っちゃいねぇよ!? お前の中の俺ってどんな奴だよ!」

おずおずと切り出されたグライトの話しに、拍子抜けしたリュウはうなだれた。
何故グライトがそんな事を言いだしたのかは分からなかったが、それはリュウの名誉にかかわる問題だ。リュウはそう考えると、一段と肩を落とす。「俺に信用ないのか?」落ち込みつつそんな事を言うと、グライトは慌てて取り繕うように首を振った。

「そう言うわけじゃないよ! りゅ、リュウはいい人だと思うよ、うん。だってよく助けてくれるし、人の事を一番に考えれるし……ただ……いや、人の趣味趣向に口出そうなんて微塵も考えていないんだけどね! もしもっていう事がこの世には存在してて……魔が射したのかなァって……いや疑ってるわけじゃないよ、うん。疑ってるように言っちゃってごめん。ほんと疑って無いよ!」

目を泳がせるグライトにリュウは「ダウト!」と叫んだ。そのままムスッとしてそっぽを向いてしまったリュウに、グライトはあははと乾いた笑い声を上げるだけだ。

「ま、まぁリュウが関係ないならいいんだ! きっとユーノにも色々悩み事があるんだろう。思春期だし、色々あるんだね。力になれないかなァ?」
「……お前が聞きゃあ答えてくれるかもしれねーぞ?」
「何を?」
「悩みだろ! な・や・み!」

キョトンとするグライトに、リュウは「え」と一瞬固まった。

「お前、まさかユーノの気持ちに気付いてないのか? え、露骨なのに? そんな事ってあるか?」

リュウの言葉にグライトは少し考える。気持ち? なんだろう? そこまで考えてやっとハッと閃いたように顔を上げた。

「あぁ、ユーノが俺の事好きって奴? 気付いてるよ」

ハハハと笑うグライトに、今度はリュウがキョトンとする番だ。

「な、え? 気付いてたの?」
「そりゃあれだけ露骨にアピールされて気付かない男はいないよ。俺だって戦争とか平和とか毎日考えてるわけじゃないからね」

じゃあなんで、リュウはそう言いかけて、ふとグライトは困ったように笑っているのに気付く。
その真意を探るためじっと見てくるリュウの視線に、グライトは応じた。

「今はユーノの気持ちに応えられないから。たとえ応えたとしても中途半端な気持ちでしかないと思うよ。だって目の前にもっと重要な問題がわんさかあるからね。そっちに気を取られている間は当分無理かなァ。それに……今私情なんて必要ないでしょ?」

ニコッと笑うグライトは妙に大人びて見える。そんなグライトを前に、リュウは唖然と口を開けたままだ。
いつの間にそんな考えをするようになったのか、そう考えているうちもグライトの話しは続いた。

「全部終わってから、それでもユーノが俺の事好きって言うなら、全力で幸せにしてあげたいけど……今のままじゃあ役不足だし。きっとユーノと戦ったら俺負けるし……女の子って強い男の子に守られたいって思ってるんでしょ? クウゴが言ってたよ! 包容力が鍵だって!」

それで何人もの女の人を——と無邪気に言いだしたグライトに、リュウは呆れた風に肩を落とした。
コロコロと雰囲気が変わる奴だ、そう思ってリュウは声に出して笑う。

「なに、バカにしてんの? 言っとくけど、俺だって旅をしてきた中で色々見てきたんだよ! 皆だけが成長してるわけじゃないんだ! そりゃ今だってリーブルがいなかったらちょっと不安だなァって思ったりとかもするけど……そんなの慣れたし!」

強がってそう言ったグライトに、リュウはニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。

「べっつにぃバカにしてねぇよ。……あーあ……お前そんな事言ってたら何年かかるかわかんねぇぞ。子供は子供らしく自分の事だけ考えてればいいんだよ。前までリュウにぃちゃんなんて言って雛鳥みたいにピーピー鳴きながらついてきてたのにさ」

リュウはそう言った後、思い出したように吹きだした。グライトはそれを見てすね始める。
最後あまりに笑うリュウに、少し腹を立てたグライトは思い切り横腹をつねった。痛がるリュウをグライトはフンッとそっぽを向き、さらに力を強めた。

「いてーよッ! いつの間にこんな子に……!」
「リュウがいない間だよ。何年だっけ? 行方不明生活さぞ色々な経験を積んだ事でしょーねぇ、恋愛面でも」
「う、うるせぇよ! つ、積んでるさ……積んでるともさ! お前も困った事があれば俺を頼ってくれてもいいぜークウゴさんじゃなくて! このリュウにぃちゃんが力になってやるよ!」
「ふぅーん……クウゴさんの方が頼りがいありそうだけどなァ……リュウより」

ムスッとしながら告げられたグライトの言葉に、リュウは悔しそうに奥歯を噛みしめた。

「こうなったら俺がクウゴさんより頼りがいがあるって事思い知らせてやるからなッ!」
「がんばってね〜」
「何だその明らかに興味無いですって態度! ホント、いつの間にこんな意地の悪い弟分に……!!」

本気で落ち込みだすリュウに、グライトは溜まらず笑い声を上げた。
「冗談だよ」そんな事を言いながら、リュウをなだめだすグライト。久しぶりにこんな会話したなァと感傷に浸っている間もなく、リュウはトランプで決着をつけると言いだした。望むところだと好戦的にグライトは身を乗り出す。

数分後、結果的にはグライトの圧勝だったのだが、リュウは納得いかないと騒ぎ出し、最終運転しているセレンさんに怒られた。
そんな二人の雰囲気につられて奥で寝ころんでいたユーノが笑顔を見せる。グライトはそんなユーノに気付き、今度は三人でトランプしようと笑顔を向けた。
こんな日が続けばいいのに、グライトはそう思ってクウゴに頼まれた事を何が何でも成し遂げようと密かに決心した。


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