複雑・ファジー小説
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- ANIMA-勇者伝-【完結】
- 日時: 2014/12/23 17:00
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
古くから残る書物が一つある。
それは神が誕生し、この世界が出来るまで、そして大きな事件まできっちりと書かれている。
擦り切れた表紙からは魂の温かみを感じ、生きとし生ける者たちはそれを学び、記し、語って行く。
そう、これは歴史だ。
多くの者が血を流し、繁栄した時代に生きる影響者達の一生が描かれている。
そんな歴史書の数ページが何者かにより失われていた。空白の歴史が語る事実はなんだろうか?
その時——世界が動いたのだ。
◆◆◆◆
初めましての方は初めまして、そうでない方はありがとうございます愛深覚羅と申します
もう投稿して何回目でしょうか……懲りずにまたやって行きたいと思います
今回は王道ファンタジーを久々に書いて行こうと思ってます
そして今度もゆっくり更新ながら完結目指して頑張って行きたいと思います!
オリキャラも募集していますのでよければご参加ください
※御指摘・御要望があれば遠慮なく言ってやって下さい。
◆本編
登場人物/用語 >>4
プロローグ >>5
□第一章
第一話 不思議な黒猫〝リーブル〟 >>23
第二話 樹の中に…… >>27 >>28 >>33
第三話 守る者達 >>37 >>40 >>41
第四話 出発の朝 >>46 >>54 >>55
第五話 桜は血を吸って美しく咲き誇る >>63 >>66 >>70
第六話 例えば…… >>71 >>74
第七話 笑顔 >>77 >>78
第八話 無邪気 >>86 >>95
第九話 藪の中 >>96 >>97
第十話 七色の蝶 >>101 >>106
第十一話 遭い会い逢い >>110 >>113 >>114 >>115
第十二話 魅入られる >>119 >>120 >>121
第十三話 犬猿の仲 >>125 >>129 >>130
第十四話 意味 >>135 >>140
第十五話 噂の真相 >>147 >>154 >>157
第十六話 彼はなんだ? >>160
第十七話 秘宝を賭けて >>163 >>167 >>168
第十八話 ここはどこですか? >>173 >>178 >>179
第十九話 家出少女と旅芸人 >>187 >>191 >>192
第二十話 強くなりたいか? >>197 >>201
第二十一話 怪盗と追いかけっこ >>202 >>203
第二十二話 怪盗の回答 >>204 >>205
第二十三話 道端 >>211 >>212 >>213
第二十四話 海へ! >>216 >>221
第二十五話 船の上の生活 >>224 >>232 >>233
第二十六話 幻の島ヒストリア島 >>236 >>237 >>243 >>246 >>252
第二十七話 いざ行かん、戦場の地へ >>255 >>259 >>260
第二十八話 放浪の末 >>264 >>270 >>275
第二十九話 エターナル王国へ >>276 >>277 >>278 >>279
第三十話 探し人、見つかる >>283 >>287
第三十一話 女王と国王 >>294 >>297
第三十二話 列車の旅 >>300 >>303 >>304 >>305
第三十三話 パルメキア王国の策略家 >>308 >>309 >>310
第三十四話 罠 >>313 >>317 >>318 >>321
第三十五話 対面 >>323
第三十六話 パルメキア王国の王女 >>324 >>325 >>326
第三十七話 合間 >>327 >>330 >>331 >>332
第三十八話 最前線基地 >>336
第三十九話 ゼルフ・ニーグラスと言う男 >>339 >>340
第四十話 終焉の狼煙 >>343
第四十一話 あの場所 >>344
第四十二話 戦後 >>345
□第二章
第四十三話 リベンジ >>367 >>368 >>369
第四十四話 ダンジョン探索 >>370 >>371 >>372
第四十五話 勝利の行方 >>375 >>376
第四十六話 伝説の魚人 >>381 >>382
第四十七話 噂の人魚 >>383 >>386 >>387
第四十八話 全ての元凶がそこに >>388 >>389 >>390 >>393 >>394
第四十九話 動く >>395
第五十話 走る >>396 >>397
第五十一話 レイヤル王国 >>401 >>402 >>403
第五十二話 世界を覆う >>406 >>407
第五十三話 意志と意思 >>410 >>411
第五十四話 境界線にある真実 >>412 >>413 >>414 >>415
第五十五話(最終話) 空白の歴史は動き始めた >>422 >>425 >>426 >>427
□エピローグ
とある国に伝わる歴史書 >>428
□特別番外編
EPISODE1 生命の息吹 >>349 >>350
EPISODE2 神々の…… >>355
EPISODE3 砂漠と恋の風 >>356 >>358
EPISODE4 桜吹雪 >>362
EPISODE5 幻と共に >>365
□お知らせ
>>348 >>366
□アトガキ
>>431
◆オリキャラ様
オリキャラ募集用紙 >>6
檸檬さん >>7 >>43 キコリさん >>8 芳美さん >>10
コッコさん >>11 >>25 >>34 >>42 >>44 >>61 >>72 >>99 >>108 >>149 >>158(仮) >>171 >>188
不死鳥 >>12 七竈さん >>13 010さん >>14
ばっちゃさん >>15 ブルーさん >>20 はるさん >>21
紫蘭さん>>24 大関さん >>29 凡さん >>49
モンスターさん >>52 calgamiさん >>56 >>174 >>175 トールさん >>58
モンブラン博士さん >>79 >>89 >>117 >>145 >>169
恒星風さん >>82 サニ。さん >>87 >>152 珈琲さん >>91
.オリキャラ募集一旦〆切です。
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/18更新】 ( No.423 )
- 日時: 2014/12/18 22:13
- 名前: コッコ (ID: aAxL6dTk)
お久しぶりです。ついにアンブラーとの最終決戦が始まろうとしてますね。全知全能の神が降臨しどうなるかドキドキしてます。
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/18更新】 ( No.424 )
- 日時: 2014/12/21 16:57
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
>>コッコさん
とうとう最終決戦ですよ!
この話で最終話になりますが、どうぞおつきあいください!
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/18更新】 ( No.425 )
- 日時: 2014/12/21 22:52
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
◆
降りてきた天女はその優雅で雄大な姿を惜しげもなく魅せた。キラキラと輝く様な髪は海の様に碧く、美しい肌は陶器の様に儚げで脆い。
天女は言った。
<——ディザイア、それはわたくしが授ける唯一絶対な宝石。その力は天を割り、地を裂き、時にはソレイユに平和をもたらすでしょう——。>
第一声、天女は穏やかな声でそう告げた。
その言葉を聞き、にやりと笑ったのはアンブラーだ。アンブラーは彼女の前に立ち、問う。
「そのディザイアは絶対的な力も与えるのでしょうか?」
天女はその問いに微笑をこぼすと頷いた。
<——ディザイアにはかなえられない願いは無いのです。貴方の望むものはなんでしょう? ディザイアはその願いを素直に従います——。>
天女はそう言って両手を広げた。真っ白な光が集まりだす。ボロボロになっていた水晶はその光に反応し、吸い込まれていった。
真っ白な光は全てを吸い込んでいく。洞窟の壁、地面、空、全てを吸い込み始めた白い光にアンブラーは目を怪しく輝かせ、見入っていた。
グライトは一体何が起きているのかわからなかった。全てを呑みこみ始めた天女の光、穏やかだが、なぜかそれはおぞましいものに思えたのだ。
——その時だった。
鋭い地響きが真っ白な地面を割った。地響きはその黒々とした穴を広げ、天女を呑みこもうと蛇のように這う。その異変に気付いた天女はうろたえ、音の主を探すように周りを見渡した。
その音の主は先ほどまで壁を壊して回っていた影ノ皇だった。影ノ皇は苦しげな唸り声を上げながら猛り狂い、真っ黒で鋭い大剣を天女へ向かって振り下ろした。
ブオンと強い風が真下へ響く。
<——キャアアアアァアアァァァァッァアッァァアアア——……!!!!>
天女はヒステリックな悲鳴を上げてその体を真っ二つにした。集まっていた光が四方八方へ散漫して行く。
そして……跡形もなくその姿を打ち消した。
残された物は何もない。空間も空も、そこだけぽっかりと穴が開いたように何もない。
アンブラーはここに来て初めて焦りを見せた。うろたえ、空中で体を揺する。禍々しい半身をだらりと垂らしたままだが、そこから魔力があふれ出てきた。どうやら彼の感情に反応しているらしい。
「おい!! 何をしてるんだ! クソッ!!」
汚く罵り、影ノ皇を睨みつけるアンブラー。影ノ皇はそれに気付いたのか、アンブラーに向かって大剣を振り下ろそうと重々しい剣を持ち上げる。
瘴気に当てられたその剣は魔力があふれかえっていて当たればアンブラーも存在ごと消えるだろうと簡単に予想できる。
「チッ、これだから野蛮な民族は嫌なんだ!」
アンブラーは影ノ皇の勢いのある剣をギリギリでかわすと上へと舞い上がる。
アンブラーの目の前にいたグライトは反応が遅れ、暴風により後ろへ飛ばされた。背中に鈍い痛みが走る中、起き上がろうともがくグライト。
それを目敏くとらえた影ノ皇は大剣を横へ薙ぎ払った。大剣は不思議な事にその身長を伸ばしグライトに襲いかかる。
「ッ!! え!! まって!!」
グライトは情けなくもう一度転がった。影ノ皇はそのままグライトを追おうと一歩踏み出し、だがそれは拒まれた。
後ろへまわっていたアンブラーの放った火の玉により態勢を崩したのだ。
アンブラーは苛立ちのまま魔力を暴走させだす。秘宝の半身により、アンブラーの魔力は増加しているようだ。
「あぁもう! 計画が台無しだ!! お前なんてもういらない!!」
アンブラーは取り乱したようにそう叫ぶと無数の大きな岩を構えた。岩は全て鋭く尖っていて当たれば貫かれるだろう。アンブラーはその岩を容赦なく発射させた。
岩は勢いを増して影ノ皇を貫こうと向かってくる。このままいけばグライトも確実に貫かれるだろう。
だがそんな事よりもグライトは影ノ皇を気遣った。テオに言われた言葉を思い出したからだ。
「大変……!!」
どうにもならないのだが、足は止まらない。大きな影ノ皇を全て守ることはできないのだが、それでも少しでも助けなければとグライトは岩の前に立ちはだかっていた。
蒼剣を構え、岩を斬ろうと力を込める。その力に反応した蒼剣は輝きを増した。そしてグライトは叫んだ。
「どうにでもなれぇええ!!!」
グライトは蒼剣を振るう。蒼剣は鋭く光り、岩にぶつかった。金属が擦れ合うような嫌な音が数秒続いた。一瞬であるはずなのに、グライトにはその数秒が長く感じる。
力を込める腕がビリビリとして耐えれそうになかった。グライトはそれでも力を緩めない。
そんなグライトの態度にアンブラーは心底面倒そうな顔をした。
「邪魔しないでもらえますか?」
魔力のこもった岩がグライトの方に集まった。ただでさえ耐えられそうになかったと言うのに増えた岩に耐えられるわけもなく、グライトは悲鳴にならない悲鳴を上げ岩に呑まれそうになった。
その時、金色の腕輪が輝きだす。
輝きはグライトの腕を伝って登っていき、グライトの前に集まった。その光にはじかれた様に岩はバラバラに粉砕された。
あまりの光景にグライトは驚く暇もない。暫く唖然としていると後ろに気配を感じ、反射的に飛びのいた。
その気配は影ノ皇のものだった。グライトは体をこわばらせた。すぐさま大剣が振り下ろされると思っていたのだが、いつまでたっても衝撃は無く、影ノ皇はただ黙ってグライトを見下げていた。
「?」
グライトは首を傾げる。それでも力は抜かない。影ノ皇はグライトを見ながら重そうな口を開いた。
「——……なぜ、助けた?」
低い声だ。だが思った以上に穏やかで、先ほどまで暴れていたとは思えない。影ノ皇はそのままグライトを睨みつけている。グライトは言葉がうまく出てこない。
「お前はあいつとよく似た気配を持っている。……お前は誰だ?」
影ノ皇の言葉にグライトは驚いて、目を見開く。
「え……? えっと、ぐ、グライト。俺はグライト。……貴方の言っているのはテオさんの事ですか?」
神妙な面持ちで応えたグライトに、影ノ皇は頷いた。期待でグライトは顔を輝かせる。覚えていたんだ、理性があったんだ、そんな思いが一気に駆け巡り、テオからの言葉を伝えるには今しかないと思った。
「あの! テオさんから伝言が!!」
グライトがそう言って伝言を言いかけた時、爆発音が耳元でした。一瞬何処で爆発音がしたのか分からなかった。
だがそれはすぐにわかる。前の——影ノ皇の顔がアンブラーの放った炎に弾かれた音だった。
弾かれ後ろへとバランスを崩す影ノ皇。アンブラーはそんな彼を見てペッと唾を吐きだした。
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/21更新】 ( No.426 )
- 日時: 2014/12/21 23:23
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
◆
不機嫌をあらわに空中で半身を禍々しく変形させたアンブラーは二人を見て問いかけた。
「いつまでちんたら話しているんですか? もう貴方はいらない。もう自分の力で世界を終わらせてやる」
アンブラーは半ばやけくそでもう一度唱えた。
「ルォータ デラ フォルトーナ!!」
今度は黒い渦が天に向かって伸びた。空は真っ暗になり、嵐が激しくなる。近くに海があるのか、津波の音までしてくる。
流石にグライトは焦った。
どうしようかうろたえていると、グライトの後ろにいた影ノ皇が起き上がる。額に血管を浮かび上がらせ、目が真っ黒になった影ノ皇。殺気がグライトを呑みこむようで慌てて横へと道を外れた。
「お前……あの時の男だな?」
「あぁ、覚えていたのですね。お久しぶりです。あの時は素晴らしい最期でしたねぇ、まぁ最終封印されていましたけど」
「五月蠅いっ……黙れ!! ……お前はまだこんな事をやっているのか?」
「当たり前でしょう? だってまだディザイアを手に入れていませんから。私はディザイアを手に入れ神になり創造主になるのです」
アンブラーはフンと鼻を鳴らした。影ノ皇は苛立ちをさらに募らせる。
「お前は何故そこまでしてディザイアにこだわる?」
影ノ皇は地を這うような声で問いかけた。ゴォゴォとなっている風はさらに力を増した。アンブラーはその声に少し緊張を走らせ、しかし全くの無表情で答えを渡す。
「この腐った世界を潰すためですよ。貴方はわかるでしょう? この世界は腐っている。……腐っているんだッ」
悔しそうに、憎らしそうにそう言ったアンブラーは顔をひきつらせて、せせら笑った。
「この世界は昔、とても平和な世界だった。人々は平等に生まれ、平等に死んでいく。輪廻の歯車の一部となり、誰も人を怨まず、憎まず、まるで真っ直ぐ伸びる一本の木のようだった。
だが、それも数世紀経てば終わる。木は枝分かれをしすぎたんだ。枝分かれを起こした木はあちらこちらで芽が生まれ、どんどん、どんどん広がり、その体を大きくした——そして、一人の悪魔を生みだした。そいつは人を憎み、恨み、壊していく」
アンブラーは続けた。
グライトと影ノ皇は一体急に何を言い出したのかわからなかったが、聞く事にする。聞かねばならない気がしたからだ。
「……だがそいつが生まれたのは何故でしょう? そう、答えは簡単。周りの人間のせいだ。周りの人間はそいつが秀でて優秀だったから、少しの嫉妬を心の片隅に産み出した。人は弱い。だからその嫉妬を肥やす羽目になった。
嫉妬に狂った人間は迫害を始め、そいつを捕え、思いつく限りの罵倒と蔑みの目をくれてやった。
そして迫害された人間は本物の悪魔になるのです。
悪魔は人を騙すのが大好きです。悲惨な結果が大好きです。悪魔は欲望に忠実です。
自分を貶めた人間をこの手でつぶす快感は忘れられない……。そして悪魔は快感を得るため外へと飛び出した。あっちこっちでイタズラを始めた。……悪魔はどうしてそんな事をしたのでしょうね?」
アンブラーの質問にグライトは応えた。
「仲間に入れてほしかったから?」
アンブラーはその答えに頷き大袈裟に呆れた。
「まさか、そんなものは原動力にならない。全ての原動力は負の感情。寂しさなんて一時のもの。一生残るものは辛み、嫉み、僻み……。誰かが言った愛の反対は無関心。それは愛を知っているからの発言で、愛を知らない人はその言葉を理解できない。何故愛と定義し、何故無関心と定義する? それを教えてくれる人物はどこに居る? 聖女はもういないんだ」
アンブラーはそう言って自虐的に笑った。
「全て無に返し、私が神となれば新しい木が生まれる。その木は真っ直ぐ伸び、また枝を広げるでしょう。そして再び廻中間の時、素晴らしい指導者がいれば、素晴らしい信仰があれば世の中平等に、皆が幸せになれると思うんです。……今更、この世界で信仰を広げられないので私はそちらに賭けることにしたんです。そのためにはこの世界はもういらない。古いものは消えてもらわなければ新しいものは生まれない、そうでしょう?」
アンブラーはそう言って何やら難しい言葉を重ねて唱えた。
グライトには理解できない、魔法の呪文だろう。止めようにも上に浮かんでいる彼をどう降ろせばいいのだろうか?
そんなグライトの少し先で影ノ皇は黙ってアンブラーを見上げていた。彼が何を思っているのかは分からないが、遠い目をしてアンブラーを見ている。
影ノ皇は小さく口を開いた。だがしっかりした声色だった。
「お前は昔の俺と同じ過ちを繰り返そうとしている」
影ノ皇の言葉にアンブラーはピクリと反応を示した。心底不快だと言うような表情でアンブラーは影ノ皇を見下ろす。影ノ皇はそんな視線に臆さず睨み続けた。
「お前のような野蛮なものと同じ? はぁ? わけがわからない」
「いや、同じだ。お前は俺と同じ考えを持っている」
影ノ皇は自身の思いを語りだす。それはアンブラーのものと一致しているような、そうでないような事だった。
「我々もそう思い、お前と同じ様に新しい世界を創ろうとしたんだ。ただお前とは違う所は、我々はこの世界でそれを実行したと言う事だ。
我々は全てを終えた時、気付いた……悟ったんだ。人は同じである必要があるだろうかと……」
「……どう言う事だ? 何が言いたい!」
アンブラーは影ノ皇の言葉につっかかりを覚え、喚いた。うるさい、うるさいと言うアンブラーは子供のようで、半身の禍々しさはさらにましていく。
アンブラーは半身に呑まれかけていた。秘宝を宿した体はその膨大な魔力に耐えられず、ボロボロと皮膚が砂のように落ちていく。
影ノ皇はそんなアンブラーを見て哀しげな顔をした。
「我らの時代はもう終わったんだ」
影ノ皇はそう言って飛躍した。
一踏みでアンブラーの居る所まで飛びあがると黒い剣を振り下ろす。ブォンと音を鳴らして剣はアンブラーを真っ二つにする。
唖然と見守るグライトは振ってきた血に顔を青ざめ、目を見開いた。
——アンブラーはそのまま悲鳴も上げずに地面に帰す。その最期はあまりにあっけな過ぎた。
影ノ皇は地面に戻り、アンブラーの死体に向かって手を合わせる。
アンブラーが死んだ事により、中途半端な魔法陣は暴走を始めた。影ノ皇はその中心で立ち暗雲立ち込める空を見上げていた。
放心していたグライトは、その空の異変にいち早く気付き、ユーノ達がいるであろう穴へ走った。
暴走を始めた魔法ほど危険なものは無い。洞窟の残りの壁はみるみる魔力により崩れていく。
グライが慌てて穴を覗きこむと金の腕輪が再び光る。ホッとしたのもつかの間、グライトは迷わず飛びこんだ。
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/21更新】 ( No.427 )
- 日時: 2014/12/23 16:20
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
◆
真っ暗な闇が眼前に現れたと同時に手に暖かなぬくもりを覚えた。生きている人間の温かさだ。
「う……うぅ……」
左側に居たぬくもりが声を出した。それはユーノだ。ユーノはうっすら目を開けて自身の上に乗っている人を見る。
「グライト……!」
ユーノは慌てて起き上がり、グライトを揺すった。グライトはそれに反応し、目を開きユーノの肩を掴む。
「……大丈夫だった!!?」
「うん、グライトは? 上はどうなっているの?」
ユーノの質問にグライトは暗い顔で首を振った。
「諦めちゃだめだよ! 魔法が暴走してもグライトなら制御できる。ボクは信じるよ!」
「でも秘宝の力もあわさって巨大になり過ぎている! その上全知全能の神が降り立って大半が吸い込まれていったんだ。もう俺たちには手が出せないよ……」
もう駄目だ、そう首を振るグライト。
ユーノはそんなグライトの頬を思い切り叩いた。パシンと言う音が何もない空間に広がる。
「しっかりして!! あのね、グライトはまだまだ未来を生きてもらう! この世界もまだ終わらせない! だって……だってボクとまだ付き合ってもないんだもん!!」
真っ赤になって怒るユーノに、グライトは目を見開いた。
「まだ始まってない。始める前に終わるなんてそんなの……ボクが許さないから!!」
フンと鼻息を荒くしてユーノは立ちあがった。
「ボクはリュウを探しに行くから、グライトは上の魔法陣の止めてきてね。大丈夫、だってグライトは秘宝を五つも持っているんだよ?」
ね、そう言って穴の中を元気よく走り出したユーノ。グライトは頷き、力強く立ちあがった。
そうだ、負けていられない。自分しかいないんだとグライトは自分を鼓舞した。
だが気合を入れても崖は越えられない。どうやって登ろうかと思っていた時、足元にたまたまロープが落ちていた。グライトはこれを使って登ろうと思った。
背中の弓を取り出し、矢の先にロープをきつく縛るとおぼつかない型で弓を放った。何度か繰り返すといい感じに岩と岩の間に引っ掛かった矢、グライトはその先につながったロープを引っ張り、なんとか上に登った。
「わぁ……!」
崖の上は壮観だった。なにせ周りには何もない。美しかった水晶の洞窟も、空を闇で覆っていた黒雲も何もかもがなかった。
ただ一つあるものは中心でそれらを吸い込み続けている魔法陣だけ。魔法陣は黄金色に輝き、歪に歪みを繰り返しながら吸い込み続ける。
あの魔法陣を止めなければ、グライトはどうやってあそこへ近づくか模索する。ふと視界の端にまだ吸い込まれていない人物が立っていた。あのアンブラーにとどめを刺した影ノ皇だ。
彼はじっと魔法陣を見ながらその筋肉がついた二本の足でどっしりと地面に立っていた。
「……少年。この世界は終わるのか?」
影ノ皇はそう悲しそうに言ってグライトを見てきた。グライトはそんなことないと首を横に振る。すると影ノ皇はフンと鼻で笑い何かを言った。小さな声でグライトには聞こえなかったが、影ノ皇は満足そうに口をニヤリと釣り上げる。
「少年、内に秘めたる影を解き放て。さすれば我の剣は答えよう。我はもうすぐ砂となり消えるだろう。あいつには悪いが、奴の居る場所まで持ちそうにない。少年、速くしろ。影を解き放つのだ」
グライトはその言葉にカゲの事を思い出した。カゲは相変わらずグライトの内側に潜んでいて、その時をずっとまっている。
そう言えば膨大な力がたまっているとぼやいていた、自分にその力を操れるだろうか?
迷っている暇は無かった。やらねば進まない。グライトは影ノ皇に黒い剣、影ノ皇が使っていた伸縮自在の剣を受け取った。何だか自分の持っている蒼剣と感じが似ていて、自分の蒼剣ももう片方の手にもつ。
「少年、あの魔法陣をそれで斬り裂けばいい。全てが元に戻るかは分からないが、少なくとも形を取り戻すだろう。やれ、少年」
「うん。でも一つお願いがあるんだ」
「なんだ?」
「お願い、テオさんの場所まで実態を保ってね。テオさんは今希望を失ってダメになっている。そんな彼が望んだ事だから、彼のために叶えてほしい。彼は貴方と戦いたがっている。あの頃のように」
グライトの言葉に影ノ皇はフッと笑った。
「ならば少年。お前が我を奴の元まで届けろ。もう我には力は残っていない。お前ならできるだろう? テオの願いを叶えたいのだろう?」
影ノ皇の言葉にグライトは「わかった」と頷いた。あの時のように、テオが魔力を集め、空間に亀裂を入れた時のようにすれば大丈夫だ。きっとあの魔法陣を斬れば魔力は発散される。その時が狙い目だ。
グライトはそう心に言い聞かせ、両手に力を込めた。碧い剣と黒い剣は体をうねらせ、大きく、大きくなり、そのうち融合を始めた。膨大な魔力が今グライトの手にある。
剣の魔力に当てられて秘宝も光り出す。秘宝はそのまま粒子となり、居場所を求めて剣に集まってきた。キラキラと輝く剣は美しい麟紛をまきちらしながらその魔力を誇った。
グライトはその剣を強く握りしめ、カゲに呼びかける。
今、君の力が発散できる。力を貸してくれ。
グライトの呼びかけに応え、カゲはその姿を剣に映した。任せとけ、そう言わんばかりにニコッと笑う自分と瓜二つの影。
グライトは魔法陣を見上げ、狙いを定めた。
——済世の時だ。
誰かの声がそう言ったと同時にグライトは舞い上がった。まるで蝶のように優雅に魔法陣まで飛びあがる。だがその手に持った剣に容赦はない。力強く振りさげられたそれは見事歪な魔法陣を空間ごと斬り裂いた。
「いまだ!!」
グライトはそう言うと同時に影ノ皇まで一気に急降下した。
「行くよ」
グライトがそう言う。影ノ皇は驚き、目を小さく見開いた。影ノ皇はそのまま空間の裂け目へと吸い込まれる。グライトは先導を統べく、一緒にその中に飛び込んだ。
……——何もない空間に残ったのは静寂。そして最盛の狼煙だった。
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