複雑・ファジー小説
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- ANIMA-勇者伝-【完結】
- 日時: 2014/12/23 17:00
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
古くから残る書物が一つある。
それは神が誕生し、この世界が出来るまで、そして大きな事件まできっちりと書かれている。
擦り切れた表紙からは魂の温かみを感じ、生きとし生ける者たちはそれを学び、記し、語って行く。
そう、これは歴史だ。
多くの者が血を流し、繁栄した時代に生きる影響者達の一生が描かれている。
そんな歴史書の数ページが何者かにより失われていた。空白の歴史が語る事実はなんだろうか?
その時——世界が動いたのだ。
◆◆◆◆
初めましての方は初めまして、そうでない方はありがとうございます愛深覚羅と申します
もう投稿して何回目でしょうか……懲りずにまたやって行きたいと思います
今回は王道ファンタジーを久々に書いて行こうと思ってます
そして今度もゆっくり更新ながら完結目指して頑張って行きたいと思います!
オリキャラも募集していますのでよければご参加ください
※御指摘・御要望があれば遠慮なく言ってやって下さい。
◆本編
登場人物/用語 >>4
プロローグ >>5
□第一章
第一話 不思議な黒猫〝リーブル〟 >>23
第二話 樹の中に…… >>27 >>28 >>33
第三話 守る者達 >>37 >>40 >>41
第四話 出発の朝 >>46 >>54 >>55
第五話 桜は血を吸って美しく咲き誇る >>63 >>66 >>70
第六話 例えば…… >>71 >>74
第七話 笑顔 >>77 >>78
第八話 無邪気 >>86 >>95
第九話 藪の中 >>96 >>97
第十話 七色の蝶 >>101 >>106
第十一話 遭い会い逢い >>110 >>113 >>114 >>115
第十二話 魅入られる >>119 >>120 >>121
第十三話 犬猿の仲 >>125 >>129 >>130
第十四話 意味 >>135 >>140
第十五話 噂の真相 >>147 >>154 >>157
第十六話 彼はなんだ? >>160
第十七話 秘宝を賭けて >>163 >>167 >>168
第十八話 ここはどこですか? >>173 >>178 >>179
第十九話 家出少女と旅芸人 >>187 >>191 >>192
第二十話 強くなりたいか? >>197 >>201
第二十一話 怪盗と追いかけっこ >>202 >>203
第二十二話 怪盗の回答 >>204 >>205
第二十三話 道端 >>211 >>212 >>213
第二十四話 海へ! >>216 >>221
第二十五話 船の上の生活 >>224 >>232 >>233
第二十六話 幻の島ヒストリア島 >>236 >>237 >>243 >>246 >>252
第二十七話 いざ行かん、戦場の地へ >>255 >>259 >>260
第二十八話 放浪の末 >>264 >>270 >>275
第二十九話 エターナル王国へ >>276 >>277 >>278 >>279
第三十話 探し人、見つかる >>283 >>287
第三十一話 女王と国王 >>294 >>297
第三十二話 列車の旅 >>300 >>303 >>304 >>305
第三十三話 パルメキア王国の策略家 >>308 >>309 >>310
第三十四話 罠 >>313 >>317 >>318 >>321
第三十五話 対面 >>323
第三十六話 パルメキア王国の王女 >>324 >>325 >>326
第三十七話 合間 >>327 >>330 >>331 >>332
第三十八話 最前線基地 >>336
第三十九話 ゼルフ・ニーグラスと言う男 >>339 >>340
第四十話 終焉の狼煙 >>343
第四十一話 あの場所 >>344
第四十二話 戦後 >>345
□第二章
第四十三話 リベンジ >>367 >>368 >>369
第四十四話 ダンジョン探索 >>370 >>371 >>372
第四十五話 勝利の行方 >>375 >>376
第四十六話 伝説の魚人 >>381 >>382
第四十七話 噂の人魚 >>383 >>386 >>387
第四十八話 全ての元凶がそこに >>388 >>389 >>390 >>393 >>394
第四十九話 動く >>395
第五十話 走る >>396 >>397
第五十一話 レイヤル王国 >>401 >>402 >>403
第五十二話 世界を覆う >>406 >>407
第五十三話 意志と意思 >>410 >>411
第五十四話 境界線にある真実 >>412 >>413 >>414 >>415
第五十五話(最終話) 空白の歴史は動き始めた >>422 >>425 >>426 >>427
□エピローグ
とある国に伝わる歴史書 >>428
□特別番外編
EPISODE1 生命の息吹 >>349 >>350
EPISODE2 神々の…… >>355
EPISODE3 砂漠と恋の風 >>356 >>358
EPISODE4 桜吹雪 >>362
EPISODE5 幻と共に >>365
□お知らせ
>>348 >>366
□アトガキ
>>431
◆オリキャラ様
オリキャラ募集用紙 >>6
檸檬さん >>7 >>43 キコリさん >>8 芳美さん >>10
コッコさん >>11 >>25 >>34 >>42 >>44 >>61 >>72 >>99 >>108 >>149 >>158(仮) >>171 >>188
不死鳥 >>12 七竈さん >>13 010さん >>14
ばっちゃさん >>15 ブルーさん >>20 はるさん >>21
紫蘭さん>>24 大関さん >>29 凡さん >>49
モンスターさん >>52 calgamiさん >>56 >>174 >>175 トールさん >>58
モンブラン博士さん >>79 >>89 >>117 >>145 >>169
恒星風さん >>82 サニ。さん >>87 >>152 珈琲さん >>91
.オリキャラ募集一旦〆切です。
- Re: ANIMA-勇者伝-【11/17更新】 ( No.408 )
- 日時: 2014/11/17 21:32
- 名前: コッコ (ID: DgEDzvxC)
リンとレイラが仲直りしてほしいですね。影ノ皇の生んだ黒雲に飲み込まれると石になってしまうのがものすごく怖いです。
- Re: ANIMA-勇者伝-【11/17更新】 ( No.409 )
- 日時: 2014/11/22 22:07
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: c6/fJCmS)
>>コッコさん
あぁそこら辺はまた考えておきます!
とりあえず最後まで亀の如く更新出来たらいいなと思っております
黒雲はやっぱり脅威でないとと思い少し初期設定からいじらせてもらいました
明確な設定は決めていなかったので戸惑うかと思われますが、脅威と言う目で見ていただければと思います
- Re: ANIMA-勇者伝-【11/17更新】 ( No.410 )
- 日時: 2014/11/23 22:24
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: c6/fJCmS)
第五十三話 意志と意思
グライト達が目を覚ました時はすっかり夜になっていた。ゼルファが起こしに来たのだ。晩御飯だと言うゼルファにそう言えば何も食べていないと思いたったグライト達は大人しくついて行く。
そのゼルファから聞いた言葉に、グライト達は目を見開いた。
「黒雲が……?」
「どういうことだよッ!?」
「ボク達の友達はみんなのまれちゃったってわけ……?」
一瞬で顔を蒼白にさせ、少しうろたえるグライト達。そんなグライト達とは対照に、ゼルファは穏やかだ。
「まぁまぁ……今更急いでも仕方ありません。ご飯、用意したので食べて行きなさい」
諭すようなゼルファの言葉に、唖然としたグライト達は従うしかなかった。
拙い足取りで食堂に向かうグライト達を、ゼルファは少し心配そうな目で見ていた。
カチャカチャと食器が擦れ合う音しか響かない食堂。そう言えば周りに人がいない。閑散とした食堂は何処か寂しく見えた。一体皆はどこへ行ったのだろう? はたまた、ここはそんなに売れない宿なのだろうか? 見る限り綺麗に掃除されていて、後者の可能性は低かった。
不思議に思ったグライトは料理を運んでくるゼルファに尋ねることにした。
「他の皆はもう寝ているの?」
「いや、もうみんな逃げたんじゃないか? 我々は野性的本能と、しっかりした教祖様がいるからね」
穏やかな口調でそう言うゼルファに焦りは一切感じられない。
逃げたのか、グライトは納得して目の前の人物が此処に居ることに違和感を今度は覚えた。もしかして、自分たちを待っていたのだろうか? それならば悪い事をした。自分達に逃げると言う選択肢はないからだ。
そんなグライトの気持ちを代弁するようにユーノが口を開いた。
「ゼルファさんは逃げないの? ボク達を待っていたの?」
「そうだねえ……この年になると国から出る、家から出ると言うのはなかなか踏ん切りがつかないモノがあってね、私は大丈夫だよ。もう随分トラウマとは会っていないからね……たまにはそう言う気分もいいかもしれないだろう?」
ゼルファは感慨深そうにそう言った。遠い昔を思い出し、懐かしむような穏やかな表情で、まるでトラウマなど無いと言わんばかりの態度だった。
しかし、そうではないだろう。こういう時代だ、誰であれ何かしらのトラウマを抱えているはずだ。もしくは何かしらの劣等感、嫌悪感、その他負の感情を持っていないわけがない。
グライト達は首を捻った。どうして彼はこんなにも余裕があるのだろうと。一体彼は何を考えているのだろうかと。
「黒雲に飲み込まれたらたまにとかは言っていられない状況になるぞ? それでもいいのか?」
気遣うような、心配するような口調でリュウが再度そう言った。
そのリュウの気遣いでさえゼルファは頑なに首を横に振る。
「それでもいいさ。どうせ短い命。トラウマと過ごす時間はすごく短い」
「それでもやっぱり逃げた方がいいんじゃないのか? 俺達がどうにかするって言っても勝算は100%じゃない。むしろ50%を切っているかも知れないんだ。実質、秘宝を持っているのはグライトだけだから、俺達はお荷物になるかもしれない」
「じゃあ残りの半分に賭けるよ。私は此処でリン達が帰ってくるのを待っていなければならないからね」
ゼルファはそう言って遠い瞳をした。
そこでグライト達は思った。一体リン達はどこへ行ったのだろう? そんなに遠くへ行ったのか、新しい世界へ行ったのだろうか? 三人は生憎この大陸以外知らない。この大陸以外でこのように陸続きになっている所があるというのは、どうも違う世界へ足を踏み込むような気持ちになる。
ゼルファが食堂から去り、キッチンへ戻った。ガチャガチャと慣れない音で皿を洗っている。じっとその背中を見ていた三人だが、腹をくくった。この国を出て、アンブラーを止めよう、そしてゼルファが待っている国民を呼びもどし、自分達の国を覆っている黒い雲を追い払おう。再び美しい青色が広がるまで、がんばってみようと。
そうと決まったグライト達は、ゼルファに感謝の言葉を告げ挨拶を済まし、この国を出ることを告げた。ゼルファはほほ笑んで「いってらっしゃい」と言う。そして思い出したように手を叩いた。
「そうだ、地下道がある。そこをつかいなさい。この宿からつながっているよ、ほら角を曲がった所の……確か045号室、だったはず……がんばりなさい」
グライト達はゼルファの言った通りの部屋を通る。045号室は扉を開けた瞬間から階段になっていた。よそ見をしていたら落ちるかもしれないというぐらい急な階段だ。
グライト達は慎重に降りた。そして数分後、外へ出た。外へ出ると小物の魔物たちが怯えて身を寄せ合っていた。
——あぁ、果てが近づいている。
直感的にそう思ったグライト。リュウやユーノもそれを感じ取ったらしく眉根を下げてらしくない表情をしていた。
そんな二人を元気づけるようグライトは笑顔で言った。
「すんなり通れそうだね」
「あぁ、そうだな」
「うん」
二人はグライトの笑顔につられて少し口の端を上げた。
三人がどちらへ行こうか迷っている所にリーブルが現れた。どこから現れたのかわからないが、リーブルは三人についてくるよう意思を見せる。三人は大人しく従った。何故だかそうしなければならないような気がしたからだ。
氷山がごつごつとした道。アンブラーがいる洞窟までは多分、そこまで長い道のりでは無いはずなのに、妙に圧迫感が付きまとい、足が自然と遅くなる。
先頭を歩くリーブルだけが軽快に滑るよう進んでいた。そんなリーブルにおいて行かれそうになるものの、三人は心持早歩きで歩く。
何度かそれを繰り返していると、とある石の塊が出てきた。ぱっくりと開いた入口は闇の根源とばかりに暗かった。リーブルはそこに迷わず入った。グライト達は足が止まりそうになるのを気のせいにしてリーブルの後を歩いた。
- Re: ANIMA-勇者伝-【11/23更新】 ( No.411 )
- 日時: 2014/11/24 22:58
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: c6/fJCmS)
◆
洞窟は入り口と中では大層差があった。
青と紫の水晶が続く美しい道を進んで行くと、唐突に行き止まりにたどり着く。どうやらこれ以上奥は無いようだ。水晶が綺麗に反射するそこの足元には大きな魔法陣が書かれており、周りを見渡すと壁全体が透明度の高い水晶だった。
反射する光を通じて浮かび上がらせる二つの影。一つは体の半分を禍々しいものと化した人間の影。もう一つは大きく、筋肉質だがごつごつした感じでは無い、黒いマントを羽織った男の影。共通点と言えばどちらも顔を蒼白として病的なところだろうか。
一つの影がにやりと笑っている、半身を闇へ同化させた男だ。その男がグライト達の姿を捕えた。
「よくぞ辿り着きました。さて……ここが噂の影ノ皇の墓場です。そこにでかいのがあるでしょう? それが影ノ皇です」
クツクツと卑しく笑う怪物。その人物を見ていると腹のあたりがザワザワと気持ち悪くなってくる。
険しい雰囲気のせいかピリピリと体が緊張する。だがなんとかそれを振り払いグライトは問いかけた。
「薄利さん……いやアンブラー……君はどう言うつもりでこのような事を始めたのか、教えてほしい」
重い口調でそう言ったグライトに、薄利はまた卑しくクツクツと笑った。
「それより先に俺の質問に答えてもらえたら嬉しいです。さぁさぁ貴方の願いを聞かせていただきたい。あぁ、それと最後の宝石は俺自身です。ついさっき秘宝が体に溶け込みました。この為、我が半身はこのような醜い姿になりましたが、まぁいたしかたなし。俺の質問覚えていますか?」
にこにこと笑うアンブラー。機嫌の良いアンブラーにグライトは静かに告げた。
「黒雲を封印するか、自分の大切な人達を救うか……だったよね」
「それです、それ。答えは出ましたか? いや、答えが出たからこの場に居ると言ったところでしょう。教えてください、貴方の答えを」
「俺の答えは——」
グライトは一呼吸置いた。後ろでユーノが心配そうにグライトの名前を呟いた。グライトはぐっと口に力を入れて、宙で停止しているアンブラーを下から睨む。アンブラーは期待を込めた瞳でグライトを見ていた。
「俺は——黒雲を封印し、大切な人達を助けると言う答えを出した……。ディザイアは正しい方向へと導く唯一無二のソレイユの財宝だ。俺は俺の中で一番正しいと思った答えを選んだつもり。我儘だと言うのは分かっている。でも、どちらも俺の中で大切なものなんだ」
グライトはそう言ってアンブラーの居る方向へ歩いて行く。二人の距離が近づくにつれグライトの持っている五つの宝石と、アンブラーの半身が共鳴し始めた。後一つはユーノの首で淡いながら光を放っている。
アンブラーはそれを酷く不快な目で見ていた。自分の期待した答えでは無かったことと、半身が光る事により落ち着かないのだろう。
アンブラーは先ほどとは打って変わって無関心な瞳で言った。
「……あぁつまらない……」
ため息と共に低く呟いた声は洞窟に反響して大きくなる。美しい音楽を聞いているような綺麗な音だった。
それに応えたのは後ろで見ていたリュウだ。眉根を寄せてアンブラーを見ている彼の表情からは、不安が窺えた。
「何がつまらないんだ?」
その心配そうな瞳はグライトだけに向けられているわけでは無かった。不安定なアンブラーを見ていると自然とそうなってしまった。敵であるのだけれど、同情をしてしまったのだ。何に同情したのかは自分でもわからなかった。
とたんアンブラーの瞳孔が開いた。口を釣り上げ、下衆で、なにも映していない瞳で三人を見る。
「とりあえず、緊迫感でも演出しますか? そうだね、リュウ君、君、もう離脱してもらうね。君はあまりに邪魔だから。見る限り、一番腕が立ちそうだし……出る芽は摘まなきゃ」
アンブラーはそう言うとパチンと指を鳴らした。一体何をしたのかグライトはリュウを振り返る。リュウは一歩遅れて自分の体の変化を感じ取った。全身から力が抜け、体が重い。立っていられない。腹がグルグルとして胸のあたりがもやもやとしてくる。頭は霞がかり、正常に動いてくれない。
「……ッ!!」
リュウは膝を折って地面に沈んだ。だんだん顔から血の気が引いて行く。がたがたと震えだすリュウ。隣に立っていたユーノはそんなリュウの異変を感じ取り、声をかける。
「リュウ!? 大丈夫? 何をされたの? ねぇ、返事をして!」
ユーノの呼びかけにリュウは応答しない。当惑した目でアンブラーを見上げている。いや、正式には見ていないのだろう。今のリュウの瞳には何も映っていなかった。
心配と不安でユーノは焦る。
「リュウ! リュウ!!」
呼びかけ、肩を揺するが意味は無い。暫くするとリュウは何かを呟いた。小さな声だ。耳を澄まさなければ聞こえない、そんな弱々しい声だった。ユーノは呼びかけを止め、その声を聞き取ろうと耳を近づける。
リュウの声はだんだん大きくなってきた。聞取れるぐらいになった時、ユーノはリュウを覗きこんだ。
「俺は……認められたい……父に、母に、国に……。俺は……認めてもらえない。み、とめてもらえない……? 認めてもらえない……! なんで……どうして? どうして、どうして、どうして、どうして、どうして————?」
「ちょっとリュウ! 何言ってるの? リュウ!! しっかりしてよ!!」
リュウ、リュウ、ユーノはそう呼びかけ続けるが、リュウは何故? どうして? と繰り返してユーノを見ようとしない。リュウは自分の世界へ、過去へ戻ってしまったようだった。
グライトはこのリュウを知っている。リュウが何について悩んでいるのかも知っている。知っているからこそ怒りが湧き出てくる。
「なにをした!!」
グライトは怒りに震えた。これはきっと黒雲に作用した力。人を絶望に突き落とす力だ。
アンブラーは高らかに笑った。タガが外れたように、糸を切った人形のように笑った。
「彼には離脱してもらった。ちょっとした催眠術と魔術ですので、すぐ解けます。——最も、解けるのは俺だけなんですけどね!」
アハハハ、そう言って笑うアンブラーは何がおかしいのか、心底不気味でしかない。アンブラーと同化した秘宝——半身の浸食は心なしか広がっているような気がする。
速く止めなければ、そうグライトは思った。
その後ろではまだリュウがぶつぶつと何かを呟き大粒の涙をダラダラと流していた。その姿は見ている事が辛くなるぐらい哀しみに呑まれている。
「緊迫感をさらに煽りましょう。——ルータ デラ フォルトーナ!!」
アンブラーはそう言って両手を広げた。両手には碧と紫の光が集まる。二つの光は水晶に反射してどんどん増幅していく。アンブラーの両手から溢れ出したそれはとめどなく、全てを呑みこもうと天へと登り、破裂した。
そして、洞窟の天井が崩れた。
水晶が雨のようにグライト達に流れ込んでくる。大きな石から小さな石まで、波のように荒れ狂う水晶と壊れた壁に、気付けばグライト達は巻き込まれていた。
「グライト!!」
「ユーノ!! リュウ!!」
慌ててグライトはユーノとリュウに駆け寄ろうとした。だが——遅かった。
ユーノとリュウの足元は見事に崩れ、雪崩に飲み込まれていく。リュウは気が狂ったように半狂乱で取り乱し、落ちている事にさえ気づいていない。ユーノはそんなリュウを支えつつ、自分の首にぶら下がっている秘宝を握りしめる。
「グライト……助けて……」
その声が深い闇に吸い込まれていく。最後に延ばされた手を掴もうとグライトは腕を伸ばすが、届かない。
空を切る自分の手を心底恨んだ。
「ユーノ!! リュウ!! なんで……なんでだよ!!」
グライトは伸ばした拳を振るえるぐらい握りしめた。悔しそうに唇を噛み、噛み過ぎて血が出る始末だ。
そうこうしている間に自分の足元も無くなった。驚き、慌てるグライトだが、どうにもできそうにない。
妬みがましくアンブラーを見上げると、彼は卑劣な笑顔をたたえ歌を歌うように何か唱えている。呪文だろうか? だがグライトは雪崩れる水晶の反射音でその声が聞こえない。
必死で耳を澄ませてみるものの無駄な努力だ。
グライトは悔しさを噛みしめるようアンブラーを睨みつけた。きっとアンブラーから見れば滑稽なのだろう。だがそれでも構わない。渾身の怒りとばかりに睨みつけるグライトを見てアンブラーは何を思ったのか、その笑顔からは読み取れない。
「おち……るッ!!」
グライトはとうとう闇に取り込まれた。
無力と憤り、悔しさと哀しみを噛みしめてグライトの世界は暗転した。
- Re: ANIMA-勇者伝-【11/24更新】 ( No.412 )
- 日時: 2014/12/13 14:31
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: QBvEkUjp)
第五十四話 境界線にある真実
四角い世界だった。何故かそう分かった。
目は明いているはずなのに視界は真っ暗で何も見えない。自分が立っているのか座っているのか、生きているのか死んでいるのか、わからなかった。
ただぼーっと黒を眺めている。
心配事があったはずなのに、脳みそはまだ覚醒してはくれない。早くしなければならないはずなのに体は石のように動かない。
しばらくすると目の前に光るものが現れた。強い光で始め認識できなかったそれは、どうやら扉らしい。大きな扉だ。金色の淵にステンドグラスがはめ込まれている。ただ、ドアノブは無かった。もしかしたら窓かもしれない。だが、それは扉だと頭の中で強く思った。
扉はグライトの目の前で浮いている。気付けば足元に黒い猫がちょこんと座っていた。リーブルだ。
リーブルは前足でその扉をつついた。すると扉はそれに反応し、光を放ちながら解かれた。そしてグライトにどんどん近づいてくる。グライトはその場から一歩も動かずにして扉を潜った。リーブルも勿論扉の向こう側に居る。
グライトを呑みこんだ扉はまた塞がれた。残ったのは黒い闇だけだった。
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