複雑・ファジー小説

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ANIMA-勇者伝-【完結】
日時: 2014/12/23 17:00
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)

 古くから残る書物が一つある。
それは神が誕生し、この世界が出来るまで、そして大きな事件まできっちりと書かれている。
 擦り切れた表紙からは魂の温かみを感じ、生きとし生ける者たちはそれを学び、記し、語って行く。
そう、これは歴史だ。
多くの者が血を流し、繁栄した時代に生きる影響者達の一生が描かれている。
そんな歴史書の数ページが何者かにより失われていた。空白の歴史が語る事実はなんだろうか?

その時——世界が動いたのだ。

◆◆◆◆
初めましての方は初めまして、そうでない方はありがとうございます愛深覚羅と申します
もう投稿して何回目でしょうか……懲りずにまたやって行きたいと思います
今回は王道ファンタジーを久々に書いて行こうと思ってます
そして今度もゆっくり更新ながら完結目指して頑張って行きたいと思います!
オリキャラも募集していますのでよければご参加ください

※御指摘・御要望があれば遠慮なく言ってやって下さい。

◆本編
登場人物/用語 >>4
プロローグ >>5

□第一章
第一話 不思議な黒猫〝リーブル〟 >>23
第二話 樹の中に…… >>27 >>28 >>33
第三話 守る者達 >>37 >>40 >>41
第四話 出発の朝 >>46 >>54 >>55
第五話 桜は血を吸って美しく咲き誇る >>63 >>66 >>70
第六話 例えば…… >>71 >>74
第七話 笑顔 >>77 >>78
第八話 無邪気 >>86 >>95
第九話 藪の中 >>96 >>97
第十話 七色の蝶 >>101 >>106
第十一話 遭い会い逢い >>110 >>113 >>114 >>115
第十二話 魅入られる >>119 >>120 >>121
第十三話 犬猿の仲 >>125 >>129 >>130
第十四話 意味 >>135 >>140
第十五話 噂の真相 >>147 >>154 >>157
第十六話 彼はなんだ? >>160
第十七話 秘宝を賭けて >>163 >>167 >>168
第十八話 ここはどこですか? >>173 >>178 >>179
第十九話 家出少女と旅芸人 >>187 >>191 >>192
第二十話 強くなりたいか? >>197 >>201
第二十一話 怪盗と追いかけっこ >>202 >>203
第二十二話 怪盗の回答 >>204 >>205
第二十三話 道端 >>211 >>212 >>213
第二十四話 海へ! >>216 >>221
第二十五話 船の上の生活 >>224 >>232 >>233
第二十六話 幻の島ヒストリア島 >>236 >>237 >>243 >>246 >>252
第二十七話 いざ行かん、戦場の地へ >>255 >>259 >>260
第二十八話 放浪の末 >>264 >>270 >>275
第二十九話 エターナル王国へ >>276 >>277 >>278 >>279
第三十話 探し人、見つかる >>283 >>287
第三十一話 女王と国王 >>294 >>297
第三十二話 列車の旅 >>300 >>303 >>304 >>305
第三十三話 パルメキア王国の策略家 >>308 >>309 >>310
第三十四話 罠 >>313 >>317 >>318 >>321
第三十五話 対面 >>323
第三十六話 パルメキア王国の王女 >>324 >>325 >>326
第三十七話 合間 >>327 >>330 >>331 >>332
第三十八話 最前線基地 >>336
第三十九話 ゼルフ・ニーグラスと言う男 >>339 >>340
第四十話 終焉の狼煙 >>343
第四十一話 あの場所 >>344
第四十二話 戦後 >>345

□第二章

第四十三話 リベンジ >>367 >>368 >>369
第四十四話 ダンジョン探索 >>370 >>371 >>372
第四十五話 勝利の行方 >>375 >>376
第四十六話 伝説の魚人 >>381 >>382
第四十七話 噂の人魚 >>383 >>386 >>387
第四十八話 全ての元凶がそこに >>388 >>389 >>390 >>393 >>394
第四十九話 動く >>395
第五十話 走る >>396 >>397
第五十一話 レイヤル王国 >>401 >>402 >>403
第五十二話 世界を覆う >>406 >>407
第五十三話 意志と意思 >>410 >>411
第五十四話 境界線にある真実 >>412 >>413 >>414 >>415
第五十五話(最終話) 空白の歴史は動き始めた >>422 >>425 >>426 >>427

□エピローグ

とある国に伝わる歴史書 >>428

□特別番外編
EPISODE1 生命の息吹 >>349 >>350
EPISODE2 神々の…… >>355
EPISODE3 砂漠と恋の風 >>356 >>358
EPISODE4 桜吹雪 >>362
EPISODE5 幻と共に >>365

□お知らせ
>>348 >>366

□アトガキ
>>431

◆オリキャラ様

オリキャラ募集用紙 >>6

檸檬さん >>7 >>43 キコリさん >>8 芳美さん >>10
コッコさん >>11 >>25 >>34 >>42 >>44 >>61 >>72 >>99 >>108 >>149 >>158(仮) >>171 >>188
不死鳥 >>12 七竈さん >>13 010さん >>14
ばっちゃさん >>15 ブルーさん >>20 はるさん >>21
紫蘭さん>>24 大関さん >>29 凡さん >>49
モンスターさん >>52 calgamiさん >>56 >>174 >>175 トールさん >>58
モンブラン博士さん >>79 >>89 >>117 >>145 >>169
恒星風さん >>82 サニ。さん >>87 >>152 珈琲さん >>91

.オリキャラ募集一旦〆切です。

Re: ANIMA-勇者伝-【10/27更新】 ( No.393 )
日時: 2014/10/30 22:04
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)



 中に居たアルベラ・カガリと言う人物は女性だった。資料や本が床から壁にかけて大量に収容されているこの部屋のキッチンは奥にあったため、フィーはそちらへさっさと行ってしまった。
特にグライト達を紹介すると言う事も無く、居なくなったフィーを困ったような視線で追ったグライト達だが、カガリがこちらを振り返った事でフィーを追うのをやめた。
振り返ったカガリは髪がボサボサで眼鏡をかけていた。きっときっちり身だしなみを整えたら美人だろうとグライトは勝手に予想する。

「……で、聞きたいことがあるのでしょ? 聞きたい事、なぁに?」

眠そうな彼女の底抜けに碧い両目が謎めいた輝きを纏っている。それとは反対に、顔に纏わりつく髪をうっとおしそうに払う仕草はなんだか怠惰に映った。
当のグライト達はその瞳に委縮してしまいどう話しを切り出していいものか迷っていた。
暫くの間、迷っているグライト達を興味なさげに眺めていたカガリは、とうとう机へ向き直ってしまった。
カガリが原稿にペンを走らしていると、邪魔をしてはいけない気がしてならない。しかし声をかけなければ始まらない。そう迷っていると、唐突にカガリは思い出したようにもう一度振り返った。

「あなた、グライト?」

突然名前を呼ばれたグライトは驚き、返事が裏返る。カガリはそんな事気にも留めず、まじまじと遠慮なくグライトを見る。

「ふぅん、面白いわね。とうとうこの時が来たってわけ?」
「え?」
「困惑は後で、貴方達は秘宝を探しているんでしょう?」

図星をつかれた三人は驚きで目を見開く。

「わかる、わかってるのよ。さぁ連れてってあげる、守護神ドーバの元に。最後の秘宝、見つかるといいね」

そう言ったカガリは奥の厨房から料理を運んできたフィーに耳打ちする。フィーは心得たとばかりに笑顔になった。

「フィーについて行きなさい」

カガリは出来たての料理にありつきつつ、適当に指をさす。この部屋の奥だ。そこに何があると言うのだろう? グライト達はフィーを見た。

「私についてきて、案内するから」

フィーは楽しそうに奥の部屋の扉を引っ張る。堅いのか、何度かドアノブを引っ張り、とうとう明いた扉。埃が舞う事など気にせずフィーは進む。
めまぐるしく導かれる三人は先ほどの疑問など何処かへ追いやり、ついて行く事しかできなかった。



 部屋の中は書斎のようだ。長年使われていないのか、薄暗く、ジメジメとしていて気持ちがいいものではない。
本が足元に散らばり、絨毯のようになった場所をフィーは遠慮なく進んだ。

「さてここかな」

フィーはそう言って一つの本棚の前に立つ。埃っぽいそれはよくわからない文字で書かれた本がびっしり詰まっていた。
フィーが本棚の丁度7段目らへんを触る。すると、カチッと言う音が聞こえた。

「えぇっと、トールク・ビルト!」

フィーがそう唱えると本棚がすぅっと半透明になって行った。驚くグライト達、本棚が完全に消え去った時、石の階段が出てきた。フィーが一歩足を踏み入れると壁一面に蝋燭の炎が灯る。完全に浮き彫りになった階段、これがドーバの元に本当に続くのか……不安になったが行くしかない。怖じ気づく事無く歩きだすフィーの後をグライト達もついて行った。

Re: ANIMA-勇者伝-【10/30更新】 ( No.394 )
日時: 2014/10/30 22:09
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)



 石の階段を下りる音が響くだけの時間。特にしゃべったらダメだと言うわけでもなさそうだが、なんだか緊張して三人はぎこちない。そんな三人の先頭をフィーは軽い足取りで進んで行く。
この階段がしばらく続くのだろうかとグライトが思っていると、目の前に金色のプレートがかけられた扉が現れた。

「ついたのかな」

フィーがそう呟きドアノブに手をかける。三人は顔を見合わせた。

「なんか緊張するなァ」
「そうだね」
「こんな所に本当に守護神がいるのか?」
「うーん、嘘はついていないだろうけど……」

始まった会話をよそに、フィーは扉を開けた。



 一瞬真っ白な光に包まれたかと思うと、図書館のような場所が現れた。その奥の方で一人の女性が本を片手に優雅に紅茶をすすっている。まるで御話の中に入ってきたようだ。
もしかして、あのカガリと言う女性の話しへ入ってしまったのだろうか? そう錯覚するほど現実味が無い場所だった。

「あの、ドーバ様でしょうか?」

大きな声でフィーが呼びかける。女性はその声に反応し、顔をこちらに向けた。女性は小さく頷いた後、口の前に一本指を立てる。

「静かになさい」

小さく呟かれた言葉は驚くほど鮮明に聞こえる。フィーは慌てて口を押さえ、声を小さくした。

「あの、グライト君達が秘宝を探しているらしいので、話しを聞いてあげて下さい」

フィーはそう言ってグライト達の背中を押す。にこやかに送り出すフィーにグライトは小さな声でありがとうと告げ、ドーバの元へ歩いた。
ドーバは歩いてくるグライトを値踏みするように眺める。細めの瞳が彼女を神経質だと語るようだ。
美しく長い艶やかな黒の髪はさらさらと肩から流れ、つい目を奪われてしまう。そんな彼女の神秘的で引き締まった雰囲気はこの図書館に異様に溶け込んでいた。

「秘宝、あなた六個も集めたの」

落ち着いた口調でそう言うドーバにグライトは頷いた。

「最後、後一つで黒雲が祓えるんです。どうか、俺に譲ってくれないでしょうか?」

真剣なまなざしでそう言ったグライト。ドーバは「そうね」と短く言って視線を外す。そして、告げられた言葉はグライトを衝撃させるのに十分な威力があった。

「できないわ」
「……ッ! どうして……?」

てっきり譲ってもらえるものだと思っていたグライトは、言葉を詰まらせた。
ドーバはその反応を予測済みだとばかりに説明を始める。

「この土地の秘宝は数年前、アンブラーによって奪われたのよ。同時に私の守護神としての力も奪われて行った。……私は今、ただの殻。幻想にすぎない」

ドーバの語る事実はグライト達が知る由もない突拍子な事。グライト達は声も無く、黙って聞いている事しかできなかった。

「始まりは数年前、災害でソレイユがぐちゃぐちゃになった時、アンブラーはその実力をソレイユの民に見せ、この国の王として選ばれた。そしてさまざまな発展を促した。
それは魔力であったり、建物であったり、技術であったり——様々な事よ。アンブラーはこの土地のため、身を削って働いてくれた。だけど、それは全て自分の目的のためだった……。アンブラーはずっとこの世界を支配しようと考えていたのよ。そのための準備も同時に進められていた。でも、自分の力の限界を知った彼はとうとう神の力を使おうと考えた。秘宝を探し出し、その力を奪おうと……でもね、秘宝は七つ集まらなければその力を発揮しない。だから、私の力も奪い去って行ったの」

哀しく眉根を下げるドーバはゆらゆらと揺れて、本当に幻想になっているようだった。

「あぁ、私があんな奴、信頼なんてしなければ……。この事は誰にも言えてないの。カガリにも、この土地の民にも……。なぜ? そう思ったでしょ? 応えるわ。そんな事を言えばパニックになるからよ。守護神が守っていない土地なんて滅ぶだけなのよ」

あぁ、あぁ、と嘆きだすドーバはアンブラーを責めていると言うより、自分を責めているようだった。
グライトはその話を聞き、どう言葉を紡げばいいのか分からなかった。慰める? 罵る? 自分が何とかすると言えばいいのだろうか?
だが、なんとかすると言ったところでアンブラーの居場所もわからないようならそれは無責任な発言になってしまう。
そもそも神の力をも手に入れたアンブラーに自分が勝てるのか? 自分の言葉が通じるのか? ここにきて再び無力を感じなければならないと言う事にグライトは歯軋りを覚えた。

Re: ANIMA-勇者伝-【10/30更新】 ( No.395 )
日時: 2014/10/31 21:21
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)

第四十九話 動く

 重々しい空気がその場を支配する。目の前のドーバは嗚咽を漏らし、泣くだけだ。自分達にはどうしようもない問題が現れてしまった。無力と悔しさと憤りが混じる感情でグライトは立ちつくすばかりだ。気付けばリーブルが足元にすり寄ってきていた。この猫はいったいどこから現れるのだろう? 何のために自分の元に居るのだろう?
リーブルの存在をうすうす認知しながらグライトは考えないようにしていた。認めてしまえばリーブルに八つ当たりをしてしまうかもしれない。いつも迷った時、傍に居てくれたこの猫にそんな態度はとれまい。

グラグラと揺れる感情の中、その空気を破ったのは一つの爆発音だった。

空間でさえ揺れるその爆発音にグライト達は驚き、音の元を探す。
音の元は壁、棚の本は瓦礫のように崩れ、煙の中から一つの影を浮かび上がらせる。

「誰だッ!!」

グライトは力いっぱい叫んだ。突然の訪問に気が動転しながらも、態勢を整える。グライトの目配らせが分かったのか、リュウとユーノもグライトの後ろに控えた。フィーはドーバを守る様に端の方へと移動する。
壁を割って現れた男はゆらゆらと一歩前へ踏み出し、口を聞く。

「秘宝くれ」

声は低く冷たく、無機質なものだ。聞いた事のない声のはずなのだが、何処かで会ったような、そんな思いがグライトの中に生まれる。
一体だれだ? どこであった?
今まであった人物を全て思い浮かべるのはたやすい。しかしその中にこのような横暴に出る人物はいない。

「ん? 先客ですか……? 秘宝の気配がしたんだけど気のせいだったかな?」

コツコツと音を立てて近寄ってくる姿、グライトは驚き声をあげる。

「は、薄利さん……?」

恐る恐る尋ねると薄利は頷いた。

「なんで……」

なんでここに? その質問を遮る様にドーバがグライトを押しのけ飛び出してきた。
アンブラーはもう一度その人物を確認した。それから怒り狂ったように髪を乱し、唇を青くして震わせ始める。

「アンブラー!! 何しに此処へきた? お前に渡すものなどもう無い! さっさと消え失せろ!」

消えてくれ! 泣きわめくような声でそう言ったドーバはその場にまた崩れた。無念を泣く様に八つ当たり気味に叫ぶドーバを、薄利……元いアンブラーは鼻で嘲笑う。

「おやおやドーバ様、まだ存在してらしたのですね? ご無沙汰してます。一時期、御世話になりました。私は貴方のおかげで……貴方の力のおかげで若々しく体力のあるままで存在出来ております。本当に感謝感激ですよ」
「うるさい……!! お前なぞ……お前なんて私がこの手で!!」

ドーバはタカが外れたように袖から取り出した短刀を持ち、アンブラーの元へと飛びついて行く。その表情は憎悪と憤り、そして哀しみが混じっていた。
二人の様子を唖然と見ていたグライト達だが、ハッとし、慌てて止めようと走り出す。

「危ない!!」

グライト達の叫びは反響するだけ、ドーバの姿は気付けば半分吹き飛んでいた。ドーバの甲高い声が響きだす。

「——あぁぁあぁ!! おのれ……アンブラー……!! おのれ……!!」

悔しさをかみしめるような叫び声にグライト達は顔を歪めるばかりだ。吹き飛ばされたドーバを救出すべく、グライトはアンブラーに近寄る。
アンブラーは何も感情を顔に乗せずドーバを眺めていた。グライトはそんなアンブラーを睨みつけつつ、ドーバを労わる。

「薄利さん……いや、アンブラー。こんな事をして全ての神に許されるとでも思っているのか?」

低く、唸るような声のグライトにアンブラーはにこやかに答える。

「いやぁ許されないでしょう。私は一生神殺しの罪を背負い続けるでしょう。でもそれでもいいと思うから、こんな事をするのでしょう?」

なんで? グライトの返答は弱々しい。アンブラーは先ほどの能面のような表情から一転、嬉々として話し始めた。

「その問いに答えるのは簡単です。何故なら私が神になるから。私が神になれば格が与えられ、罪も流せるかもしれない。そのために秘宝が必要なんですよね」

真面目にそう言うアンブラーにグライトはモヤモヤした気持ちになる。はたして、秘宝にそんな力があっただろうか? もしかするとアンブラーは秘宝の全てを知っているかも知れない。しかし、なぜ? 一度もその姿を現す事のない神からの贈り物、何故アンブラーが存在を確認しているのだろうか?
そんなグライトの思いとは別にアンブラーは話し続けた。

「グライト君、見る限り貴方秘宝を六個持ってますね? それ私に譲りなさい。あぁ、最後の一個を探すのは無駄ですよ、なぜなら私が呑み込んでしまったから」
「……呑み込む?」
「食べたんです」

何でもなくそう言うアンブラー。グライトは驚き、声を失う。

「あれ? そんなに衝撃的でした? 普通でしょう。大切なものはいつも身近に……ほら、貴方もそうでしょう? 大切なものを身近に置くために秘宝なんて託したりする」

ニヤニヤと底意地悪く笑ってユーノを見るアンブラー。突然視線を受けたユーノは緊張したように体が動かない。グライトはそれを庇う様前に前に出た。

「秘宝は渡せない。アンブラー、あんたこそ腹の中にある秘宝を渡せ。秘宝は私利私欲のために使うものじゃない! 秘宝は、このソレイユに安定と秩序をもたらすために使うものだ。私利私欲のために神は力を与えない!」

食ってかかるグライトにアンブラーは「それはどうかな」と呟く。

「君は、自分が私利私欲のために使わないと言い切れるか? 君だって人間だ。人間は欲深いもので、力を手に入れれば狂ったように自己中心的な考えに陥るんだよ」

諭すようなアンブラーの声にグライトは強く首を横に振った。

「俺は、ソレイユに平和を取り戻したいだけ。自分のために使うなんてそんな恐れ多い事するわけがない」
「どうかな。君だって自分の村を助けたいだろう?」

アンブラーはそう言って鏡のようなものを空中に浮かびあがらせる。そこにグライトの故郷からリーフ、サブリア、セントリアまで黒雲が広がっている映像が映った。
黒雲に呑みこまれた国は暗く、陰鬱で、どうしようもないぐらい廃れている。人々も映った。自分の故郷、親しかったお婆さん、御爺さん、少し移動すると親しかった友人達が皆暗く、石像のように表情が無い。

「君の持っている秘宝を使えば、君の大切な友人や家族が助かるんですよ? でも、そのためには世界を諦めなければならないね。なぜなら秘宝は一つの願いしか聞き入れないから。黒雲を封じ込め、世界を救うか、自分の家族、友人、関わった人達皆助けるか、君はどちらを選びますか?」

グライトはそう言われて初めて意志が揺らいだ。確かに、この力を使えば自分の帰る場所、友人達が救える。
皆よくしてくれた人たちで、知らない人達を救うよりそちらの方がいいんじゃないか? ——いや、それはだめだ。ソレイユ全土を救えば友人や家族も喜ぶだろう。
だが、彼らが元に戻らなかったら? もし、世界を救い、ソレイユに青空を取り戻したとしても友人や家族がこのままならどうする? 自分なら能面のような彼らを見て心を痛めるだろう。彼らは闇に呑まれるかもしれない。
人間は弱い。トラウマや心の傷に侵されれば簡単に崩れてしまう。
忘れてはならないのだ、黒雲は人の闇をえぐり出していると言う事を。嫌な思い出や、どうにもならないコンプレックスを黒雲はよみがえらせているんだということを。

「さあどうするのかな」

アンブラーの声がグライトの選択を急かせる。グライトは眉間に皺を寄せてアンブラーを睨むばかりだ。

「まぁゆっくり考える時間をあげましょう。私はこれから影ノ皇再び誕生を祝い準備を始めます。私のいる場所はルォータ デラ フォルトーナ。グレゴラ大陸、レイヤル王国の奥にある幻魔境です。まぁそのうち巻き込まれるでしょうが、一応伝えておきますね」

アンブラーはそう言って煙のように消えた。最後に悪寒が走るような笑顔を残し、その場を去った彼を誰も止めはしない。
グライトは冷や汗をかいていたが、手の中のぬくもりが徐々に失われているのがわかり慌ててドーバを見た。ドーバはくちびるを紫に震わせながら苦しんでいる。

「誰か、回復を……!!」

グライトはそう言って振り返るが、リュウもユーノもフィーも首を横に振るばかりだ。

「どうして!?」
「そんな大怪我を治せるような治癒師はボク達の中にはいない……」
「クソッ! ドーバさん! しっかり!」

舌打ちをつきつつ、グライトはドーバをどうする事も出来ずただ揺する。ドーバはうっすら目を開けてグライトに微笑む。安らかな表情とは言い難い。悔しさがにじんだ笑顔だった。

「ドーバさん!!」

ドーバはグライトの声に応えることは無く、手は力なく地面に放り出された。顔からは精気が抜け、淀んだ瞳は虚空を見つめ続けている。
グライトは唇をかんだ。大粒の涙を一粒だけ流し、ドーバの肩を持つ手に力を入れる。
ドーバはそのまま光の粒となり空間へ弾けた。淡い光はいつまでも、まるでドーバの心残りを現すかのように地面に広がっていた。

Re: ANIMA-勇者伝-【10/31更新】 ( No.396 )
日時: 2014/11/02 12:34
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)

第五十話 走る

 あれから数週間、グライト達はグレゴラ大陸を目指し、調達した車を走らせていた。
ドーバが消えた事をカガリに伝えるとカガリは「そっか」と言ったきり口を開かない。フィーは心配するような顔でカガリを見て、その後グライトたちを見送った。そしてフィーはいつものように厨房へ、いつもと違う暗い顔をして向かった。

色々な事が一気に起こってしまった、その上守護神の一角がいなくなったとなると、グライト達は心もとない。
黒雲の進行も早まった事により、きっともうこの土地以外全て呑まれているだろう。
車の中には沈黙が重くのしかかっている。
唯一呑気なのはグライトの足の上に乗っているリーブルぐらいだろうか。リーブルの呑気さを見習いたいとグライトは不覚にも思う。
そうしている間に車が丁度森に差し掛かろうとしていた。その時リーブルは鳴いた。

「どうしたの?」

グライトはリーブルを見る。リーブルは窓にへばりつき、何かを見ていた。視線の元を探るとそこに茶色の髭を蓄えた中年の男性が、切り株の上に座っている。
疲れたのか、しきりにため息を吐きだしていた。

「リュウ、止めて」

グライトはそう言って助手席から飛び出す。

「あの、大丈夫ですか?」

グライトは男性に話しかけた。男は微笑み、何も答えず頷いた。

「何処へ向かうんですか? よければ乗せて行きますよ。えっと……名前は?」

グライトの問いに男はゆっくり応えた。

「わしはバードン。鳥を捕るため、その名で呼ばれています」

穏やかな表情はなんだか妖精のような雰囲気だ。この森によく似合っている。グライトは頷き、リュウにバードンを乗せてあげるよう頼んだ。リュウは快く乗せてくれる。

「いや、面目ない。わしはグレゴラ大陸の手前の森まで行きたいのです。大丈夫ですか?」
「丁度いいや、俺達グレゴラ大陸のレイヤル王国目指してるんですよ。」

にこやかに答えたリュウに、バードンは驚きの顔を向ける。

「あそこに行くのですか?」

正気か? とでも問いたげな口ぶりでバードンは腰を下ろした。リュウは「え?」と言いながら車を走らせる。

「あの大陸は闇と氷に閉ざされた隔離的大陸ですよ。他の大陸の者を呑みこむような魔物がわんさか消息していて、そこにたどり着いた者はいないとか。探索隊が何回か探索に出かけたのですが、誰一人戻らなかったらしいです。そんな所へ行くつもりですか?」

バードンはそう言って心配そうな表情になる。

「でも、行かなきゃならないから。そこに目的地があるから」

応えたのはグライトだ。リーブルを撫でながらほほ笑む姿は迷っているようだった。バードンはそれを鋭く察知し、言葉を続けようとしたが呑み込んだ。
車内につかの間の沈黙が広がる。その沈黙を破ったのはユーノだった。明るい声で隣に座ったバードンに話しかける。

「おじさん何してる人なの?」

にこやかに尋ねられたバードンは緩く笑みを作り「菓子職人です」と答えた。

「お菓子作ってるの? すごいね! ボクお菓子好き! ねぇ一番簡単なお菓子って何かなぁ? 作ってみたいんだ」

目を輝かせてそう言うユーノ。バードンは小さく笑い、簡単なレシピを説明しだす。ユーノはそれを熱心にメモした。
話しを聞いているとグライトとリュウもお腹がすいてくる。何かないかとリュックを探り出し、出てきたチョコレートを皆で分け合って食べた。



 グレゴラ大陸へ間もなくたどり着こうと言う時、先にバードンを目的地へと送った。
バードンは最後まで穏やかに微笑んでいた。
ふと気付いたようにリーブルに視線を送るバードン。「これは珍しい」そう小さく呟いたのをグライトは聞き逃さなかった。
何が珍しいのか、尋ねようとした時バードンは言った。

「縁があったらまたあいましょう」

微笑みをグライトに向け、森の奥へ消えて行くバードン。グライト達はそれを見送ってからグレゴラ大陸へと向かった。

Re: ANIMA-勇者伝-【11/2更新】 ( No.397 )
日時: 2014/11/02 12:48
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)



 案外すんなり入れたグレゴラ大陸。リーブルの導きにより、氷の隙間から入ったグライト達は黒い雲が空を覆った大陸を見て、黒雲の姿を思い出す。
苦々しい気持ちのまま車を進めた三人。しかし、運悪く車は途中でオーバーヒートしてしまった。一体何がダメだったのか、いくら修理を試みても直る事は無かった。
仕方なく歩く三人。
バードンはここに魔物がいると言っていた。その存在に怯えながら早足で進む。
暫くそうしていると、魔物は出てこなかったが、妙に静かな事に気付いた。魔物どころか、小物の獣でさえも見当たらない。一体どうなっているのだろうか?
グライト達がそう疑いだしたとき、空から鳥の甲高い鳴き声が降り注いだ。
その煩さに耳を押さえつつ、降り立ったであろう鳥の姿を確認する。
それはまるで、伝説の火の鳥。赤く燃えたぎるその体、ルビーのように輝く瞳。真っ暗な世界では目立つ。その鳥が放つ紅の炎の美しさにグライト達は息を飲んだ。

「綺麗……」

グライトの呟いた言葉により、鳥はこちらを向いた。鋭くつり上がるそのルビーの瞳は得物を見つけた獣のように激しさを帯びている。全身で危険を察知した三人、逃げ出そうと足を動かすが、動かなかった。

「どういうことだ!?」
「足が……!」
「ボクも動かないよぉ!」

口々にそう言ってどうにか動こうと体を捻ってみるが、足は地面に縫い付けられたように微動だにしない。
その間にも鳥はゆっくり一歩ずつグライト達と距離を縮める。

「キィエェェエェ——————!!」

鼓膜を割る勢いでそう鳴いた鳥は、くちばしから炎を吐きだした。勢いよく炎はグライト達を取り囲む。
逃げ場を失ったグライト達、今更になって体の自由が利くようになった。

「まさかあの鳥、魔法を使うんじゃ……」

リュウの予想は運悪く的中した。鳥は翼をバサバサと広げながら、グライト達を取り囲む炎のグラウンドの中へ入ってきた。鳥はにやりと笑ったような気がした。

「応戦するしかないよ! リュウ、ユーノ、援護をお願いしていい?」
「任せろ」
「わかったよ!」

グライトは蒼剣を構えた。鳥はその蒼剣をみて目の色を変え、もう一度鳴くと炎の渦を生み出した。
当たれば即火傷。グライト達三人はペースを乱されながらもその竜巻を必死で避ける。
鳥は面白がるようにそんなグライト達を見て、くちばしを鋭くし、地面を割る様につついてくる。

「いッ……!!」

グライトは鳥のくちばしに気を取られ、竜巻を忘れていたのか、避け切れず肩を火傷した。
じゅわっと言う音を立て肩は肉の焦げた臭いを放った。その隙をついてか、鳥は追い打ちをかけるようグライトに鋭いくちばしを突き立てた。

「あぶない!」

くちばしを避け切れないかと思われた時、リュウがその間に割って入る。雷を纏った双剣で受け止めると、雷が伝線したのか鳥は「ぎゃっ」と声を上げ後ろへのけ反った。

「気をつけろグライト!! 油断してたら死んじまうぞ」

怒鳴る様にそう言ったリュウにグライトは頷く。再び気を張り直したグライトは恨みがましく見てくる鳥に斬りかかった。
鳥は軽がるそれを避けたが、横からやってきたユーノにより片目を失う。悲鳴を上げて頭を揺する鳥に、今度はリュウが斬りかかった。
雷はバリバリと音を立て鳥に落ちる。

「ぎゃあぁぁあ!!」

鳥は悲痛な悲鳴を上げその場に伏せた。グルグルと唸るように鳴らした喉も、息を引き取ると共に聞こえなくなる。
同時にグライト達を囲っていた炎がゆらゆらと揺れて消えて行く。まるでこの鳥の命を現しているような消え方に、グライトは少し哀しげな表情になった。
そんなグライトの元にリュウとユーノが集まってくる。ユーノは心底ほっとした様子で呟いた。

「よかった、死ぬかと思った……」

「そうだね」とグライトは生返事を返した。いつもとは違う雰囲気のグライトにユーノは眉根を寄せて心配そうに瞳を泳がす。

「いくぞ」

リュウの声と共にグライトとユーノは再び歩き出した。
今度はどんな獣が襲ってくるのだろうか? 出来れば会いたくはない。片時も油断を許さないこの大陸に、グライトは恐怖を覚えた。


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