複雑・ファジー小説

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ANIMA-勇者伝-【完結】
日時: 2014/12/23 17:00
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)

 古くから残る書物が一つある。
それは神が誕生し、この世界が出来るまで、そして大きな事件まできっちりと書かれている。
 擦り切れた表紙からは魂の温かみを感じ、生きとし生ける者たちはそれを学び、記し、語って行く。
そう、これは歴史だ。
多くの者が血を流し、繁栄した時代に生きる影響者達の一生が描かれている。
そんな歴史書の数ページが何者かにより失われていた。空白の歴史が語る事実はなんだろうか?

その時——世界が動いたのだ。

◆◆◆◆
初めましての方は初めまして、そうでない方はありがとうございます愛深覚羅と申します
もう投稿して何回目でしょうか……懲りずにまたやって行きたいと思います
今回は王道ファンタジーを久々に書いて行こうと思ってます
そして今度もゆっくり更新ながら完結目指して頑張って行きたいと思います!
オリキャラも募集していますのでよければご参加ください

※御指摘・御要望があれば遠慮なく言ってやって下さい。

◆本編
登場人物/用語 >>4
プロローグ >>5

□第一章
第一話 不思議な黒猫〝リーブル〟 >>23
第二話 樹の中に…… >>27 >>28 >>33
第三話 守る者達 >>37 >>40 >>41
第四話 出発の朝 >>46 >>54 >>55
第五話 桜は血を吸って美しく咲き誇る >>63 >>66 >>70
第六話 例えば…… >>71 >>74
第七話 笑顔 >>77 >>78
第八話 無邪気 >>86 >>95
第九話 藪の中 >>96 >>97
第十話 七色の蝶 >>101 >>106
第十一話 遭い会い逢い >>110 >>113 >>114 >>115
第十二話 魅入られる >>119 >>120 >>121
第十三話 犬猿の仲 >>125 >>129 >>130
第十四話 意味 >>135 >>140
第十五話 噂の真相 >>147 >>154 >>157
第十六話 彼はなんだ? >>160
第十七話 秘宝を賭けて >>163 >>167 >>168
第十八話 ここはどこですか? >>173 >>178 >>179
第十九話 家出少女と旅芸人 >>187 >>191 >>192
第二十話 強くなりたいか? >>197 >>201
第二十一話 怪盗と追いかけっこ >>202 >>203
第二十二話 怪盗の回答 >>204 >>205
第二十三話 道端 >>211 >>212 >>213
第二十四話 海へ! >>216 >>221
第二十五話 船の上の生活 >>224 >>232 >>233
第二十六話 幻の島ヒストリア島 >>236 >>237 >>243 >>246 >>252
第二十七話 いざ行かん、戦場の地へ >>255 >>259 >>260
第二十八話 放浪の末 >>264 >>270 >>275
第二十九話 エターナル王国へ >>276 >>277 >>278 >>279
第三十話 探し人、見つかる >>283 >>287
第三十一話 女王と国王 >>294 >>297
第三十二話 列車の旅 >>300 >>303 >>304 >>305
第三十三話 パルメキア王国の策略家 >>308 >>309 >>310
第三十四話 罠 >>313 >>317 >>318 >>321
第三十五話 対面 >>323
第三十六話 パルメキア王国の王女 >>324 >>325 >>326
第三十七話 合間 >>327 >>330 >>331 >>332
第三十八話 最前線基地 >>336
第三十九話 ゼルフ・ニーグラスと言う男 >>339 >>340
第四十話 終焉の狼煙 >>343
第四十一話 あの場所 >>344
第四十二話 戦後 >>345

□第二章

第四十三話 リベンジ >>367 >>368 >>369
第四十四話 ダンジョン探索 >>370 >>371 >>372
第四十五話 勝利の行方 >>375 >>376
第四十六話 伝説の魚人 >>381 >>382
第四十七話 噂の人魚 >>383 >>386 >>387
第四十八話 全ての元凶がそこに >>388 >>389 >>390 >>393 >>394
第四十九話 動く >>395
第五十話 走る >>396 >>397
第五十一話 レイヤル王国 >>401 >>402 >>403
第五十二話 世界を覆う >>406 >>407
第五十三話 意志と意思 >>410 >>411
第五十四話 境界線にある真実 >>412 >>413 >>414 >>415
第五十五話(最終話) 空白の歴史は動き始めた >>422 >>425 >>426 >>427

□エピローグ

とある国に伝わる歴史書 >>428

□特別番外編
EPISODE1 生命の息吹 >>349 >>350
EPISODE2 神々の…… >>355
EPISODE3 砂漠と恋の風 >>356 >>358
EPISODE4 桜吹雪 >>362
EPISODE5 幻と共に >>365

□お知らせ
>>348 >>366

□アトガキ
>>431

◆オリキャラ様

オリキャラ募集用紙 >>6

檸檬さん >>7 >>43 キコリさん >>8 芳美さん >>10
コッコさん >>11 >>25 >>34 >>42 >>44 >>61 >>72 >>99 >>108 >>149 >>158(仮) >>171 >>188
不死鳥 >>12 七竈さん >>13 010さん >>14
ばっちゃさん >>15 ブルーさん >>20 はるさん >>21
紫蘭さん>>24 大関さん >>29 凡さん >>49
モンスターさん >>52 calgamiさん >>56 >>174 >>175 トールさん >>58
モンブラン博士さん >>79 >>89 >>117 >>145 >>169
恒星風さん >>82 サニ。さん >>87 >>152 珈琲さん >>91

.オリキャラ募集一旦〆切です。

Re: ANIMA-勇者伝-【11/6更新】 ( No.403 )
日時: 2014/11/06 18:52
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: rdOgUgjF)



 しばらく歩いていると疲れてきたので、広場へ向かう。広場には沢山の食べ物にあふれているらしく、食べ歩きでもしながら今後を考えようと話した。
広場は丁度国の中央にある。その真ん中に影ノ皇の仰々しい銅像が厳めしい顔をして飾られていた。その銅像の傍を通るたびに銅像に向かって様々な人が礼をしている。グライト達も習って頭を下げた。
ふと広場の向こう側から何か声が聞こえてくる。盛り上がっているらしい。グライト達もそちらへ足を運んだ。

「我らが影ノ皇はもうすぐ誕生する! 祝え! 宴だ! 宴だ!」

盛り上がっている中心で何やら演説をしていたのは女性だった。女性は修道女のような格好に大きな黒い羽、よく見ると何処かで見たような気がするのは気のせいだろうか。
修道女はそのまま乱暴に酒を担ぎ、まき散らした。さらに盛り上がる会場。客はほぼ半狂乱で楽しんでいる。
修道女にあるまじき行為、言動。グライト達はポカンとそれを眺めていた。そんなグライト達に気付いた一人の客が訝しげな顔で話しかけてきた。

「ん? 何だお前等、楽しめと言っただろう? 影ノ皇が再びこの地をおさめるのだ。嬉しくないのか?」

疑うような声色に、周りの客達もざわめき立つ。グライト達は突然の視線に驚き、何と言っていいものか迷う。
そんな三人の前にズカズカと現れた男は言った。酔っ払っているらしい。グライト達の胸倉を乱暴に掴むとまくしたてる。

「反逆者だろう! お前達、そのフードをとってみろ! この国の者ならば笑みをたたえ我らの輪に加わる事だろう」

その男の意見に同調した周りがそうだ、そうだと捲し立てる。さて困った。この危機をどう乗り越えるべきか。
そう思っていた時、客を割って二人の人が現れた。男と女、女の方は先ほど真ん中で演説をしていた修道女だ。隣に立っている男にこっぴどく怒られたのか、ムスッとした顔でグライト達を睨んでいる。
男は黒い帽子をかぶってコートを着ていた。背中には修道女と同じような黒い大きな羽がある。

「おいおい落ち着け。この者達は私が引き取ってやろう。お前達、私に続きなさい」

男はそう言ってグライト達の腕を引っ張った。野次馬は始め文句を言っていたが、国王ではないかと言うその言葉がたちまち広がり、集まっていた者たちはそそくさとその場を散って行った。
国王、そう聞いた三人は始め当惑していたが、国王と言う言葉を信じ、ついて行く事にした。

Re: ANIMA-勇者伝-【11/6更新】 ( No.404 )
日時: 2014/11/06 20:35
名前: コッコ (ID: td9e1UNQ)

お久しぶりです。男に絡まれたグライト達は危機を乗り越えましたねこれからの物語でのグライト達を待ち受ける運命は光か闇か気になってきました。頑張ってください

Re: ANIMA-勇者伝-【11/6更新】 ( No.405 )
日時: 2014/11/07 21:35
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: rdOgUgjF)

>>コッコさん
お久しぶりですどんどん最終話に迫ってきてますよ!
この調子で頑張りたいです

Re: ANIMA-勇者伝-【11/6更新】 ( No.406 )
日時: 2014/11/07 22:51
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: rdOgUgjF)

第五十二話 世界を覆う

 連れてこられた場所は宿屋だった。どこにでもありそうな宿屋だ。グライト達はきょろきょろしながら辺りを見渡す。
そんな三人を客間の様な所へ案内した男は帽子をとって丁寧にお時期した。

「私はゼルファ・セルリオス。こっちはリン・クロスフォード。どうやら君達は旅人さんらしいね。どう言った目的だろうか?」

グライト達はそう言われピクリと反応する。一瞬にして見抜かれた三人がドギマギとしていると、ゼルファは穏やかに笑った。

「大丈夫だよ、安心なさい。私達は旅人を歓迎する方針だから、ばれた所で袋叩きになんてしないさ。それより旅人さん弁解をしていいかい? 私達レイヤル王国は他種族が来てもあまり軽蔑はしないんだよ。周りでは何を言われているのか知らないけれど、君達が正体を隠すと言う事は良いようには言われてないようだ。私達は他にも共和政を取り入れ、国民の代表が国を治めるという形式をとっている。だから、私は国王なんて言われているけど正式に言えば代表者だ。かしこまらなくていい、私もただの一般人なのだから」

ゼルファはそう言い終え、隣に座っているリンをちらりと見た。リンはグライト達を睨みつけている。何も言わないリンに変わってゼルファはもう一度口を開いた。

「彼女は影ノ皇を崇拝している私達の教祖様だ。心優しい子だから、軽蔑しないでやってくれ。君達は影ノ皇が悪い奴だと決めつけているんだろう? そんな奴を崇拝するなんて頭がおかしいんじゃないかって思っているだろう? でもね、私達は影ノ皇が我らの神だと信じているんだよ。影ノ皇だって色々歴史があるんだ」

その言葉を聞き、訝しげな顔をしたグライト達に、ゼルファは穏やかに笑った。

「少し昔話でもするか」

ゼルファはそう前置きをしてから穏やかな視線をグライト達に向けた。グライト達は何の話をするのかと尋ねる。それは影ノ皇にまつわる話だとゼルファはそう言った。
ゼルファの話しに耳を傾けたのはグライト達だけじゃない。今まで一言もしゃべっていないリンも穏やかな表情を見せた。どうやらこの話が好きらしい。グライト達はその話を聞いてみることにした。

「あれは……今から数世紀前かな、影ノ皇はこの地に生を受けた。影ノ皇は噂では戦闘民族だったらしい。影ノ皇率いる一派はそれはそれは強かった。ただし、その強さは弱き者を踏みにじる強さでは無く、全ての種族に敬意を払って接して行ける——そんな強さだ。

そんな影ノ皇達はとある日を境に差別の対象になってしまった。元々穏やかな性質なのもあっただろう。影ノ皇は嘆いた。〝何故我らが……他の種別と変わりのない我らがこのような不当な扱いを受けなければならないのか? 何故だ? 何故、生物は皆我らを敵視するのだ?″影ノ皇はそう言って数ヶ月間、外界との接触を絶った。そのおかげで影ノ皇が支配していた魔物たちが暴れ出したのだ。ソレイユは荒果て、廃れ、廃頽した。数ヶ月間影ノ皇はどこに身を潜めていたのかは分からない。数人の仲間を連れて遠征でもしていたのかもしれない。

とある日、影ノ皇は突然自分の拠点に帰ってきた。その時、自分の拠点を見て影ノ皇は驚き、悲しんだ。なぜなら自分たちの作り上げた家も、農場も、牧場も全て荒らされていたからだ。影ノ皇の仲間は自分の連れて行った数人しか残っていなかった。影ノ皇は初めて怒りを覚えた。恨みも憎しみも……それまでに無かった負の感情を覚えた。
影ノ皇は綿密に調べ上げた何者がこの地を荒らしたか。そして浮かび上がった事実、それは自分たちを迫害していた生物全てが徒党を組み、この地を荒野に変えたと言う事だ。影ノ皇は言った〝恨みがましい……何たる野蛮な種族であろうか……″影ノ皇はその日以来、復讐のために生きた。自分の胸の内を、胸の闇をさらけ出すように。影ノ皇は侵略に侵略を重ねた。そして悟る〝世界を闇で覆ってやろう。さすれば、生物は己の過ちに気付くだろう″影ノ皇は瞬く間に国を潰し、人を殺した。

後にだんだん目的を見失い、ただただ恨みだけが募り、発散される毎日。そして世界はとうとう壊れた。高らかに笑い声を上げたのは影ノ皇ただ一人。そして影ノ皇に新たなる力が芽生える。それは膨大な魔力だ。恨みを糧にした魔力はとうとう影ノ皇という器から流れ出し、ついには世界を黒き雲で覆うようになった。ソレイユの民はその雲を見て過ちを嘆き、悲しみだした。影ノ皇はそれを見て再び高らかに笑った。

——そこへ一人の男が現れるまで、影ノ皇は笑った」

終わり、そう言ってゼルファはほほ笑んだ。グライト達はその話を聞き、首を傾げる。

「影ノ皇は結局悪い人なの?」

その質問に何も言わず黙っていたリンが口を開いた。

「お前はバカなのか。……今の話しの何を聞いていた? その質問は愚問と言うものだ」

リンのきつい言葉にグライトはムッとした。

「だって人を殺したらダメだ。黒雲が出来たのも影ノ皇のせいだ。リンさん、貴方はなぜそんな影ノ皇を信仰している? 世界を再び黒雲で覆ってもいいと言うの? 悲しみに包まれていいと言うの?」
「バカめ。何故影ノ皇は影ノ皇になったのか、そんな事もわからないのか。お前たちの様な者がいるからだとなぜわからない。お前達が影ノ皇を生んだ。お前たちの闇が影ノ皇を悲しみに突き落としたんだ。生き物は何故弱きものを作らなければ生きていけない? 差別の対象を作らなければ自分の強さを保っていられない? 全てが影ノ皇——我らが主のせいだと言うのは筋違いも甚だしい」

リンはそう言ってフンとグライトを鼻で笑った。グライトはそれでも引かない。

「だからって人を殺すのはおかしい。世界を悲しみで覆うのはおかしいじゃないか」

勢い込んでグライトはそう言った。リンはその言葉にムッとしてさらに言い返す。

「その悲しみを作ったのはお前達だ! 何故それがわからない? よくしてやってたやつに裏切られた、言葉で言えば簡単だが心では簡単に理解できるものじゃない。協和を先に乱したのはお前たちの方だ」

グライトとリンはそのまま少し睨みあった。慌てるリュウとユーノ。
睨みあって今にも喧嘩を始めようとする二人の間に割って入ったのはゼルファだ。「まぁまぁ」と言って二人の視線を集める。

「どちらの主張も正しい。ソレイユの民は皆間違っていたんだ。一からやり直して今がある。そういがみ合うな」

「でも」二人はそう言ってまだ討論を続けようとする。
そんな二人を横目に、リュウとユーノはゼルファに尋ねた。アンブラーの言っていた「ルォータ デラ フォルトーナ」とはどこにあるのかと。ゼルファは少し考えて、思い出したように手を打った。

「このレイヤル王国の少し行った所に不思議な森がある。迷路の森って言われていて、そこに入れば迷っている間に異界へ足を踏み入れられることがあるそうだ。それに賭けては如何かな?」

ゼルファの助言にいがみ合っていたグライトも同意する。

「じゃあ明日そこへ行ってみよう。今日はここに止めてもらいたいんだけど……良いかなァ、おじさん?」
「あぁいいよ、可愛いお譲さん。では私達はお暇しよう。あぁそうだ、リン、客がもうすぐ来る。お前の客だ、可愛いお嬢さんだったよ。会ってきなさい」

ゼルファはそう言ってリンと共に客間を後にする。グライト達は指定された部屋へと移った。外は相変わらず真っ黒な雲が覆っていて時間がわからない。疲れた事もあり、三人は少し眠る事にした。久しぶりの安息に気を抜いていたせいか、三人は数秒後には眠りについた。

Re: ANIMA-勇者伝-【11/7更新】 ( No.407 )
日時: 2014/11/17 20:28
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: c6/fJCmS)



 待合室を後にしたリンはとある宿泊部屋に来ていた。ゼルファに連れられてそこまで来てみたものの、誰がそこに居るのかわからない。
リンは困惑していたが、背中を押されて中に入る。そこにいたのは同じ大きな翼を持った、しかし真っ白な彼女だ。リンはその人物を見て驚きに目を見開ける。

「ゼルファッ!!」

リンが怒鳴るもののゼルファはそのまま扉を閉めた。沈黙が部屋を支配する。口を開いたのはリンの方だった。不機嫌を身に纏い、白い彼女……リンの大切〝だった″人レイラ・ローレラムを静かに睨みつける。

「……何をしているレイラ。ここはお前のいる場所じゃないのは分かっている事だろう?」

レイラはその言葉に不安そうに瞳を揺らした。リンの気持ちはもっともだ、だがここで引くわけにはいかない。レイラは大切な話しを伝えにここまでやってきた。

「話を聞いてリン……」

レイラの弱々しい声にピクリと眉を跳ねあがらせたリンは苛立ちのままに叫ぶ。

「うるさいっ! 裏切り者が何の用だ? お前はこの場にふさわしくない。自分の居何処へ帰ればいい。私の前には一生姿を現すな。不愉快だ!」

リンはそう言って憎悪の瞳でレイラを射抜いた。レイラはそんなリンを見て哀しそうな顔をするばかりだ。

「お前のその顔も、笑顔も、もう見たくはない。お前は私をバカにして蔑んで……お前なんて大っ嫌いだ! 今更……今更どの面を下げてここまでやってきた? さっさと帰れ!」
「そんな事言わないでリン……。あの時のことは本当に申し訳ないと思っているわ、今はとても反省してもうそんな事は無いようにと常に気をつけているの。ねぇ話しをしましょう?」
「……嘘くさい。ベラベラベラベラと綺麗事を並べて……そんなにしてまで私をバカにしたいの? ホント、軽蔑すべき存在よね……白竜族なんて」

鼻で笑ったリンに今度はレイラが叫ぶ。流石に自分の種族をバカにされるというのは耐え難かった。

「種族は関係ないわ! 私と貴方は大切な家族だったじゃない!」
「ハッ……家族ぅ? 私に家族なんていたかしら? 家族なんて個人が思っているだけでは空しいだけよ。貴方、今、すごく滑稽よ」

リンは強気な姿勢でそう言った。そんなリンの瞳は不安と苛立ちで渦巻いていた。
何故リンがこうなってしまったのか、それはレイラに原因があると言って間違いはない。レイラの住む天空の大陸で一人だけ翼が黒かったリンは侮辱され、蔑まれ生きてきた。唯一の友であるレイラはそんなリンを憐れみ、彼女を救うため様々な手を尽くしていた。
そんな生活が数年続いた。問題は無かったのだ。しかしレイラはとある事情によりリンを匿っていられなくなってしまった。——結果、彼女を裏切る事になってしまった。
リンは唯一、絶対信頼が置ける友人レイラに裏切られた事により悲しみに暮れた。そのうち心を閉ざしていき、ついには心と体、全てがチグハグになってしまったのだ。
人前では気を良く、温和に努めているリンだが、その心の内は残酷で、人を寄せ付けない。周囲の者を拒み続け、自分以外を信じないようになってしまった。
とうとう天空の大陸を飛び出してしまったリンをレイラは探し続けていた。そして今、そのリンが目の前に居る。だが昔とは違う、レイラに向ける瞳は冷たく、鋭くとがっていて、まるで子供がごねている時のように融通が利かない。

「私のせいだとわかっているの、謝らせてほしいの。謝って許してもらおうなんて思って無い、ただ貴方に昔のような笑顔と温かい心を思い出してほしいだけなの。
私はここまで来るのに様々な経験をした。貴方を探して様々な大陸を周り、大切な経験をした。……ねぇ貴方も外を見てみない? 私と一緒に世界を見て見ない? 外に目を向ければぐちゃぐちゃになった心も少しは癒されるかもしれないわ。貴方は一人じゃない、私は償いたいの。貴方を傷つけた事を……一生を持って償いたいの。ねぇ、一緒に行きましょうよ。ここも悪い土地では無いけれど、危ないでしょう? 私は心配なの。貴方は昔から危なっかしいから……」

不安で声が震えるレイラ。少し攻めれば泣き出してしまいそうな、壊れてしまいそうな雰囲気だ。
その雰囲気を感じ取ったリンは鬱陶しそうに眉をしかめ、怒りで顔を赤らめた。

「勝手な事言わないで!! 貴方がどれだけ償いたいと言っても私にとっては迷惑なだけ! 過去は取り戻せないの。教えてくれる? 貴方が壊した日常をどうやって取り戻せと言うの? 傷が癒えても仕方がない。癒えたところで何になるって言うの? 生物は繰り返すもの、また新しい傷を作っては意味がない。
それならば私は一人で生きて行く。誰の力も借りず、ただ私と同じように蔑まれた生物を助ける。それだけよ。無益なことはやめなさい。貴方が償いたいと言っている傷は一生かかっても償えないものなのよ。なぜわからないの? あれから貴方は何も学んでいないのね。愚かで可哀想なのは貴方なの」

リンは修道服に仕込んでいたナイフを構えた。それがどこに仕込まれていたものなのかは分からない。
レイラは「ごめんなさい」と繰り返してそのナイフの勢いを止めようとしない。刺されてもいい、そんな思いがレイラに浮かんだ。刺されても仕方がない事を私はしたのだ、と。
そんなレイラの態度にさらにリンは憤った。ナイフをレイラの首に押し付けて歯ぎしりをした。

「最後に聞いて、私はもう一つ伝えに来たの……」
「なに? またつまらない事を抜かすのならば、話の途中でも貴方を躊躇なく殺すわ」
「世界が黒雲で覆われたの。もう誰も止められない。早く逃げて、何処か遠くの結界が利いた所へ。出ないと貴方達は呑みこまれてしまう。それを伝えに来たの」
「黒雲に呑みこまれる? おかしなことを言わないで。黒雲は空を覆うだけでしょう? それに……私の崇拝している影ノ皇様の一部となるのなら喜んでこの身を捧げるわ」
「黒雲が空を覆うのは昔の事。今度の黒雲は人を石像に変えてしまう。きっとアンブラーが何らかの作用を施したのよ。貴方達の様な傷を負った者達は過去に捕われ続け、ただそこからは動けず、石のまま暮らさなければならない。そんな事になる前に逃げなさい。後は私達がどうにかするから」

レイラは胸の前で両手を合わせ、じっとリンを見上げた。その真剣な表情からは到底嘘をついているとは思えない。
リンはそんなわけないと言いつつも、ここではあまり情報が入ってこないと言う事が引っ掛かり、反論を戸惑う。

「信じて、本当よ。貴方達が讃えている影ノ皇がもうすぐ復活する。でももう彼は彼で無い。彼はアンブラーと言う男の手により動かされる。ただの操り人形なの。きっとアンブラーの事だから貴方達の影ノ皇は暴れ出すわ。アンブラーの魔力では彼を扱えないからよ。お願い、出来れば遠くへ。この土地以外にも沢山土地はあるわ。海を越えれば沢山。貴方達の翼ならば簡単に越えられるでしょう。……もう一度信じてもらえないかしら? 私を信じてほしいの」
「そんな事を言って……私達が邪魔だから、貴方達からは憎むべき異教徒だから、この土地から追い出そうって言う魂胆でしょう? お見通しよ。アンブラー? そんな男、知らない。私達は此処で私達の生活を全うするの」
「だめよ!! アンブラーはもうこの土地に入りこんでいる。影ノ皇を解き放つため呪詛を唱えている。ねぇ、お願い、お願いよ。私の言葉を信じて。ここが良いなら、問題が解決したらまた貴方達を呼びに行くわ。約束。もう一度私に貴方を守らせて」

レイラはそう言って哀しく笑うとリンの力の抜けたナイフを横へ避け、窓から出て行った。残されたリンはレイラの言葉を頭の中で反芻し、唇をかみしめた。血が流れるのなど気にせず乱暴に部屋を後にしたリンはきっと伝えに行ったのだろう。

「……別にレイラの言葉を信じたわけじゃない。私の大切な教え子たちを危険にさらしたくないだけ」

自分に言い聞かせるように呟くレイラの言葉を、影からこっそり聞いていたゼルファは苦笑を洩らした。

「さて、私は旅人さんたちを避難させようか……」

ゼルファは爆睡しているだろうグライト達の部屋へ向かった。静かにノックする音が廊下に空しく響いた。


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