複雑・ファジー小説

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朱は天を染めて 【第二部開始】
日時: 2014/09/04 11:36
名前: Frill (ID: yE.2POpv)

 【あらすじ】


 時は遥か昔、平安。
 
 悪鬼羅刹、魑魅魍魎が跋扈する逢魔の時代、一匹の鬼が太平の世で暴れまわる。 
 
 異色和風ファンタジー。※性的、残酷な表現あり。
 


 
初めまして。Frillという者です。
和風テイストな物語を始めてみました。
歴史上の登場人物や時間軸、ストーリー等が矛盾するところが沢山あると思いますが大目に見てください。
完全な知識不足ですが皆が楽しめる作品になる様に頑張ります。
コメントは御自由にどうぞ。但し、中傷、荒らし、宣伝広告等は御遠慮下さい。
返信はかなり遅れてしまうかもしれません。御容赦願います。
では、お楽しみください。
追伸・新たな小説『竜装機甲ドラグーン』を執筆しています。拙い小説ですが宜しくお願いします。
小説『World Crisis 〜with for you〜』は完結しました。まだファジー板にあります。宜しければどうぞ。

目次

人物紹介
>>3 >>6 >>13 >>26

第一部 蛇神胎動編

第壱話〜第十話
>>1 >>2 >>4 >>5 >>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12
第十壱話〜第弐十話
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23
第弐十壱話〜第参十話
>>24 >>25 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
第参十壱話〜第四十話
>>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43 >>44 
第四十壱話〜第五十話
>>45 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第五十壱話〜第六十話
>>55 >>56 >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64
第六十壱話〜最終話
>>65 >>66

第二部 鳴動魔道編

第壱話〜
>>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>72     

Re: 朱は天を染めて ( No.63 )
日時: 2014/03/24 12:59
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 5BfKe2TC)

 第五十九話 おおいなる力・中編


 宙に浮かぶ両面宿儺はゆっくりと地面に降り立つ。

 手に持つ血肉の塊を一別すると黒い煙がシュウシュウと上がり肉を溶かす。

 溶け去った肉の中から翡翠色に輝く勾玉が現れた。

 それを朱羅たちに見せつける様にかかげる。

 「やっぱりな、そいつは三種の神器『八尺瓊勾玉』か」

 宿儺は無表情で頷くと朱羅に言う。

 『ソウダ、朱天童子。力ガ弱マリ、アマツサエ『天叢雲剣』ヲ手放シタ貴様ニ勝目ハ、ナイ。大人シク私ニ従エ』

 だがそれを聞いても朱羅はふてぶてしく鼻で笑う。

 「あいにくだが、俺様は往生際が悪いんだぜ。それに、てめえ如きの奴に命令されたくねえぜ」

 朱羅の台詞に僅かばかり、黒色の双眼が細まる宿儺。

 『・・・ソウカ、ナラバ、ソノ四肢ヲ千切リ連レテ行クマデ・・・』

 ドス黒い殺気が湧き上がる。

 朱羅の前に守る様に立ちはだかる瑠華と黄猿。

 「まかせろ、朱天童子。こんな奴、あたしの伝説の前では何の障害にもならないのだ!」

 「ここはオイラが通さない。四天王の意地を見せてやる!」

 朱羅は二人に頷き目を閉じ、静かに呟きながら印を組む。

 「・・・悪いな、二人とも。少し時間を稼いでくれ」

 そして呪文を唱え始め、己の内なる力を高める。

 「・・・天地箔洛・・・流転界現・・・神魔混業・・・」
 
 宿儺はおもむろに、一歩その足を近づける。

 瞬間、瑠華と黄猿が跳躍し、宿儺に先手を仕掛ける。

 「させるか!喰らえ!!樹坤魔破拳じゅこんまっはけん!!!」

 拳を樹木化させ叩き込む瑠華。

 「朱羅様に指一本、触れさせない!脳天勝割り落とし(のうてんかちわりおとし)!!!」

 振り上げた戦斧で叩き斬る黄猿。

 鈍い打撃音と衝撃の波が辺りを覆い、突風を巻き起こす。
 

 だが宿儺はそれらを左右の拳で受け止めていた。

 大地に亀裂に走り、宿儺の足元が沈む。二人の攻撃はかなりの威力があった筈だが、宿儺は何も表情を変えない。

 『鬼神黒雷大兇殺きしんこくらいだいきょうさつ

 宿儺の腕から凄まじい黒い雷の閃光が放たれ、幾重にも瑠華と黄猿の身体を走り抜けた。

 「があああああああああっ!!!???」

 「ぎゃあああああああああっ!!!???」

 衝撃で吹き飛ぶ二人。辺りに肉の焦げる匂いが立ち込める。地面にたたきつけられ、倒れた瑠華と黄猿の身体から黒煙を上がり、数度痙攣していたが、動かなくなった。

 「!!!! 瑠華!?黄猿!?」

 朱羅が動こうとした背後から勢いよく二対の影が飛び出し、宿儺に攻撃を仕掛ける。

 「水鋼弾・五月雨撃ち(すいこうだん・さみだれうち)!!!!」

 印を組んだ幽魔から無数の水弾が放たれ、宿儺を襲う。 

 「凶爪・風裂連殺刃まがつめ・ふうれつれんさつじん!!!!」

 千璃の鋭い爪から風の刃が渦巻き現れ、巨大な竜巻となり宿儺を呑み込もうと迫る。

 迫る水と風の攻撃の前に宿儺は黒い両目を閉じる。

 すると額の鮮血の様な赤い瞳が大きく見開く。

 『鬼神滅光呪殺閃きしんめっこうじゅさつせん

 額の紅眼から赤黒い閃光がほとばしり、水弾と竜巻を一瞬で掻き消した。
 
 「「!!!!」」

 驚愕した一瞬の間に、幽魔と千璃の胸を赤黒い閃光が貫く。

 「ぐはぁっ!!!???」

 「あぐぅっ!!!???」

 吹き飛び大地に叩きつけられる二人。穿たれた胸からは黒い蒸気が立ち昇りピクリとも動かない。

 「!!!! 幽魔!?千璃!?てめえ!!調子に乗りやがって・・・!!!」

 朱羅は焦りながらも印を組んだまま動けない。

 宿儺が朱羅に歩みを近づけ、黒い波動を纏わせた手を翳す。

 その時、

 「おっと、俺の女に手をだすんじゃねえよ」

 宿儺の背後から男の声が聞こえた。

 振り返ろうとした宿儺に蒼い雷を纏った拳が直撃する。

 「紫電竜光雷撃拳しでんりゅうこうらいげきけん!!!!」

 蒼い雷の奔流が宿儺を打ち上げ、空の彼方に吹き飛ばした。

 「・・・ふうっ、女を殴るのは心が痛むぜ・・・」

 蒼い髪の男がキザったらしく髪を掻き上げて、白い歯をキラリと輝かせて苦笑いをした。
 

Re: 朱は天を染めて ( No.64 )
日時: 2014/03/24 16:05
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: d9r3SuxE)

 第六十話 おおいなる力・後編


 朱羅は男を見て、口元を吊り上げ言う。

 「俺様がいつ、お前の女になった?来るのが遅いぜ、竜星たつほし

 蒼い髪の男、朱天童子四天王、竜星は手をあげて、かぶりをふる。

 「おいおい、これでも急いできたんだぜ?山の上のデカい妖気に気付いてここまで飛びっぱなしだ。労ってくれてもいいだろう?」

 そう言って顎をしゃくり、後ろに指し示す。

 倒れた瑠華と黄猿に治療をしている黒い長髪に赤いメッシュがある美女が此方を見る。腕には鳥の翼が生えている。

 「・・・朱羅様、お久しぶりで御座います・・・!!」 

 「ああ、燕黒つばくろ、良く来てくれたぜ」

 隣で巨体の男が幽魔と千璃の治療をしている。虎縞の短髪で精悍な男が朱羅を見る。

 「・・・姉御!こっちは大丈夫だ!!問題ない!!」

 「すまねえ虎熊とらくま、皆を頼むぜ」

 彼等は朱天童子四天王。かつて朱羅に仕えていた妖魔。夜魔堕大蛇との戦いで傷ついた身体を癒しながら大和の国を渡り歩き朱羅を探していた。そして大江山の異変に気が付き駆け付けたのだ。

 彼等によって幽魔たちと頼光たちは離れた場所に移された。


 突然、空中から黒い稲妻が連続で幾つも放たれ、朱羅たちを襲う。
 

 竜星は朱羅を庇いながら、黒雷を蒼雷で撃ち落す。

 「ヒュー!なかなかキテる女だな!!」

 上空に宿儺が黒雷を纏い浮かんでいる。次の黒雷を放とうと手をかざすが、空を切り、無数の羽が降り注ぎ身体に突き刺さる。

 「あなたの相手はわたくしです。朱羅様に楯突く輩は許しません」

 飛翔する燕黒が優雅にその羽を広げ、振りかざす。

 「緋翼空翔羽針ひよくくうしょうはしん!!!!」
 
 燕黒が美しい翼を舞う様に煽ると無数の羽が螺旋を描き幾重にも宿儺に突き刺さっていく。

 宿儺は羽に穿たれながら燕黒に雷を放とうとするが、唐突に身体に刺さった羽が発光する。

 「鳥妖励起爆羽ちょうようれいきばくは!!!!」

 無数の羽が誘爆し、空中で大爆発が起こる。

 爆煙が立ち込める中から宿儺が飛び出し燕黒に襲い掛かる。

 「させるか!!!ボケが!!!鈍重万漢巨来石どんじゅうまんかんきょらいせき!!!!」

 上空から巨大な岩石を抱えた虎熊が飛来し宿儺を直撃し、そのまま大地に激突し押し潰す。

 「おまけだ!!鎚漢怒撥天ついかんどはつてん!!!!」

 轟音と地響きを立ててさらに召喚された巨大岩石が大地にめり込み、噴煙を上げる。

 「おおお!?こいつ、化け物か!!?」

 上に乗ったままの虎熊ごと巨石を抱え上げて立ち上がる宿儺。

 そこに竜星が蒼雷を帯びて飛び込む。

 「どけ!虎熊!!俺は割としつこい女は嫌いじゃねえよっっと!!!電光迅雷・龍極七星拳でんこうじんらい・りゅうきょくしちせいけん!!!!」

 七つの蒼雷が龍を描き、宿儺を穿つ。雷撃のスパークが巨石を打ち砕き、もろともに粉砕する。蒼い龍が咆哮し、光が周囲を呑み込む。




 辺りは煙が昇り、瓦礫の山が築かれている。

 蒼雷を身体にバチバチと走らせる竜星が険しい顔で積み上がる瓦礫を見る。燕黒と虎熊も後方で油断なく見ている。

 瓦礫の山が僅かに動き、揺れ出す。地震の様に大地が揺れ、瓦礫の山を爆散させて黒い影が姿を現す。

 噴煙の中から両面宿儺がゆるりと姿を現す。

 その身体は腕は吹き飛び、身体に穴が幾つも開き、足が片方消えていた。

 かなり攻撃は効いている様だが、まるで苦痛を感じている様子は無い。それどころか追い込まれている筈なのに底が知れない不気味さを醸し出している。

 「・・・どんだけ、根性ある女だよ・・・」

 竜星が呆れたように拳を構えて言う。後ろの二人も構える。

 宿儺は竜星たちを一別し残った片手に持った八尺瓊勾玉をかかげ、自分の胸に抉りこんだ。

 「「「!!!!」」」 

 宿儺は大きく眼を見開き、突然もがき苦しみ出す。
 
 『ウガアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』

 そして糸が切れた人形の様にガクリと後方に背中が曲がる。背を歪にうな垂れたまま動かないが、その身体は徐々に宙に浮きユラユラと上空に昇る。
 
 黒い光が揺らめき宿儺を包み、球体を形成する。

 「おい、朱天!まだか!!こっちはヤバイ事になってるぞ!!!」

 竜星が叫ぶ。

 朱羅は静かに印を組んでいた手を放し不敵な微笑みをたたえ、言った。


 「またせたな。こっちも準備が整ったぜ」
 

Re: 朱は天を染めて ( No.65 )
日時: 2014/03/24 21:31
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: mA4EHToO)

 第六十壱話 炎を御する者


 朱羅、竜星、虎熊、燕黒が上空の黒い球体を見上げる。

 暗黒の球体は、まるで蛾の繭の様に黒い波動の糸に覆われ禍々しい瘴気を放っている。邪気という邪気を喰らい、不浄の塊は膨れ上がり邪悪に形を歪ませて、その殻を突き破る。

 蝙蝠に似た四枚の巨大な翼をせり出し、六本の昆虫の様な節くれだった気味の悪い腕を伸ばし、さそりの鋭利な、毒々しい形をした尻尾を三本、しならせる。

 黒い被膜を食い千切り、二頭の醜悪な長い首がぞろりと顔を出す。それは鬼の様で、竜の様で、蛇の様な不気味で怖ましいものだった。ギョロリと二つの頭にある巨大な六つの目玉が回転しながら朱羅たちを捉える。

 双頭の巨大な顎が開き、ヌラっと長い触手の舌が細かく生えそろった牙を舐め上げる。



 
 「うげええええっ!!!なんだ、あれはっ!!!さっきの美女はどこだ!!?返せっ、馬鹿野郎!!!!」
 
 竜星が嘆く。

 「・・・なんて、醜い姿でしょう。吐きそうです・・・!」
 
 燕黒が嫌そうに翼で顔を覆う。

 「・・・何を組み合わせたらああなるんだ?」

 虎熊が興味深そうに見ている。



 巨大で醜悪な怪物、両面宿儺だったものは四枚の巨大な翼を広げ上昇すると、双頭の口を大きく開き黒い霧の様なものを吐き出した。

 「ん!?なんだ、これは・・・ !!?? 駄目だ!!!この霧に触れるな!!!!」

 虎熊が口を覆い叫ぶ。

 皆も口を防ぎ退避する。

 黒い霧が触れた森や植物、大地や岩が黒い泡を吹き出しながら腐り、溶けだした。


 大江山の上空で黒い霧を吐き出しながら飛び回る巨大な怪物。それはあらゆるものを腐食させていく死の吐息。

 しかし当の朱羅たちには目もくれず、手当たりに次第暴れるその様子は、すでに理性が消失してしまっている事を意味した。

 「竜星、お前たちは皆を山から連れて安全な場所まで逃げろ」

 竜星は悠然と立つ朱羅の背中を見て、何かを理解し頷く。

 「・・・ああ、わかった。死ぬなよ、朱羅」

 そして竜星たちは幽魔たちを連れてその場を去った。





 
 黒い霧が辺りを包み、すべてを腐らせていく。


 「さあて、色々好き勝手してくれたな、化け物」
 
 朱羅は大きく両手を広げ意識を集中させる。

 「現れろ!天地開闢てんちかいびゃく神火かみび!!悪しき闇を焼き払いやがれ!!!」

 両手を重ねる様に合わせると中心に光が集まり出し、炎となって大きく燃え上がりながら徐々にその形を創る。

 それは巨大な曲刀になり赤々と炎を纏わせる。

 かつての天叢雲剣とは違い、その炎の輝きは太陽のごとく雄々しく猛りを見せる。

 「神刀『火之迦具土命剣ひのかぐつちのけん』だぜ」

 現れた大剣を掴み、振りかざす朱羅。

 そして迫り来る黒い霧を切り裂く様に大きく薙ぎ払った。

 大剣から炎が吹き出し黒い霧をことごとく焼き尽くし浄化する。

 それに気付いた怪物は上空を旋回し、朱羅に向かって大きく口を開いて大量の黒い霧を吐き出しながら急降下する。

 「来やがれ、化け物。てめえの薄汚ねえ腹の中身もろとも、綺麗に焼き尽くしてやるぜ」

 朱羅は燃え上がる赤熱の大剣を両手に持ち、構える。

 「これで決めるぜ」

 大剣を握る拳に力を込める朱羅。
 
 紅蓮の焔を揺らめかせながら天を断ち切る様に大きく振りかざす。

 「天覇最終・神羅怒火斬滅剣てんはさいしゅう・しらぬいざんめつけん!!!!!」

 斬り下ろされた大剣は炎の嵐を巻き起こし、黒い霧を呑み込むと更に巨大な灼熱の渦となり、上空の怪物を覆い尽くした。




 山を降りた竜星たちは目撃した。

 頂上から巻き起こった巨大な炎の竜巻が黒い霧を、怪物を、すべてを呑み込みながら天に昇るのを。 

Re: 朱は天を染めて ( No.66 )
日時: 2014/03/27 03:15
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: OI3XxW7f)

 最終話 進むものたち  


 炎の渦は天に昇り、立ち込めていた暗雲をことごとく散らした。

 霧も怪物も消し飛ばされ、沈みかかった夕陽から洩れる黄昏の赤さだけが大江山の頂上を照らす。

 荒れ果てた大地に朱羅は火之迦具土命剣を肩に担ぎ、夕暮れの光に目を細める。

 「・・・これで終わった訳じゃないぜ」

 そう呟き、山を後にした。













 
 





 大江山を中心に起きた天変地異の数々は収束した。
  
 都では半死半生で帰還した頼光たちが朱天童子を倒したからだと密かに噂になった。

 それを裏付ける様に大江山から朱天童子の姿が消えた。

 相変わらず妖魔は現れるが、退魔師たちの活躍で事なきを得た。



 都外れの屋敷。

 安倍晴明が陽光麗らかな日差しの中、縁側で寝転がっている。

 それを松虫が膝枕で付き添う。

 すると、屋敷に聞きなれた男の声が届いた。

 「おーいっ、晴明!」

 源博雅が晴明のもとにやって来た。

 「どうした?博雅。頼光殿の意識が戻ったのなら、さっき式神で知ったぞ」

 晴明が寝たまま言う。

 「なんだ、相変わらず情報が早いな。それじゃあもうひとつも判ってるのか?」

 博雅は特に残念がることも無く話す。

 「ああ、記憶喪失なのだろう?」

 「うん、何もかも忘れてしまったみたいだ。さっき見舞いで逢ったのだが普通の女の子になってたぞ。可愛かったな〜」

 博雅は遠い目をしている。

 それを無視し晴明は考える。

 今回起きた様々な事象。

 都に巣食っていた妖魔の気配も消えた。

 大江山の大妖も姿を消した。

 一見平和になった様に見えるが・・・。

 「・・・これから始まるのか・・・」

 晴明の呟きは麗らかな日差しの中の子鳥のさえずりと共に消えた。














 街道を行く旅芸人の一団。男が二人、女が六人。

 男は精悍、男前。女は全員とびきりの美女揃い。誰もが振り返ってしまうだろう組み合わせだ。

 「くくくっ、両手に花どころか、酒池肉林だぜ!堪らんなあ〜♪」

 美女たちの後ろで大荷物を担いで、その尻を眺める残念なイケ面の男。その横で同じように荷物を背負う精悍な大男が呆れた風に言う。

 「竜星、お前も懲りないな。昨日も風呂を覗いて殺されかけたろ?」

 「馬鹿野郎、男は欲望に生きてなんぼだ。虎熊も興味あるだろう?」

 竜星が鼻息を荒くして聞くが虎熊はにべも無く言う。

 「いや、全然」

 「・・・お前、前から思ってたが、まさかアッチの・・・!」

 竜星は尻を押さえて虎熊から離れる。虎熊は何をいってるんだ?という顔をする。

 後ろで男どもが好き勝手話すのを無視し美女たちは会話をする。

 「あたしたちがこれから行くところは何処なのだ?」

 桃色の衣装のツインテール少女、瑠華が聞く。

 「日枝山ひのえやま比叡山ひえいざんとも言います。やっこさんの本拠地どすわ」

 白銀の衣装の銀髪の女性、千璃が言う。

 「うむ、『蛇』の根城じゃな」

 青い衣装の少女、幽魔が話す。

 「かつてわたくしたちが拠点としていた場所でしたね」

 黒い衣装の女性、燕黒が頷く。

 「あそこ、オイラは嫌いだ」

 黄色い衣装の少女、黄猿が溜息を吐く。

 「まあ、行ってみりゃわかるぜ」

 紅い衣装の女性、朱羅が背伸びをしながら言った。

 

 人間に扮した妖魔の一団は街道をゆく人の中に紛れ歩み去る。


 これより真の敵との戦いの幕が上がるのだ。




 第一部 蛇神胎動編 完 

Re: 朱は天を染めて 【第一部完結】 ( No.67 )
日時: 2014/03/30 22:17
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: HpE/sQXo)

 第二部 鳴動魔道編

 第壱話 そいつの名は朱天童子


 「ぶはははっ!大人しく俺様に従いな!!俺様はあの紅蓮の悪鬼『朱天童子』様だぜえぇ?」

 巨大で醜悪な赤い肌の赤鬼が人間の一団を脅していた。手にはごつい金棒を持ち、鋭い牙を覗かせる。

 「お頭〜!コイツらどれも極上のメスばかりですぜ!!ぐへへへっ!」

 「クエックエッ!いい匂いさせやがる!!早く犯してえ!喰いてえ!」
 
 とりまきの妖魔達が下卑た視線でねめつける。

 「落ち着けえ!野郎ども!!こんなに女共がいやがるんだぜえ、十分楽しめるってもんだぜえ!!」

 朱天童子を名乗る巨大な赤鬼はしどどに垂れる涎をぬぐい、女たちを見てから男を見て、顔をしかめる。

 「・・・男は殺せ。喰って構わん。だが、女は別だぜえ!俺様の金剛棒をブチ込んで、何度でも孕ませて餓鬼を生ませてやるぜえ!!!」

 そして出張った腹を撫で、いきり立つ股間のモノを掴む。



 醜くも恐ろしい妖魔たちに取り囲まれているにも関わらず、人間たちは恐れず、むしろ呆れているようだ。

 「だ、そうじゃ、朱羅。どうやらこいつがお主らしいのお?」

 蒼い髪の少女が朱い髪の女性に言う。

 「ぷぷぷっ!朱天童子!そっくりなのだ!!」

 「かわいそうに・・・。この御仁、地獄の業火で死んでも焼かれはれますわ。あと瑠華はんも」

 「!!?」

 桃色の髪の少女と銀髪の女性が話す。

 「・・・こんな奴が朱羅様を名乗るなんて・・・!!」

 「オイラ、こいつ嫌い。殺す」

 黒髪の女性と金髪の少女が殺気立つ。

 「・・・よし、避難するぞ、虎熊。巻き込まれる前に」

 「ああ、賛成だ、竜星。姉御は怒るとおっかないからな」

 青髪の男と虎縞の男が話す。
 

 朱髪の女性は俯き、拳を握り震わせる。

 巨躯の赤鬼は朱髪の女性の前に立ち、その美しくも凛々しい顔を覗き見る。

 「んん〜?どうした、女。俺様は紳士だからな、優しくしてやるぜえ。もちろんアッチのほうも・・・」

 赤鬼は台詞を言いきる前に頭が消し飛んでいた。

 朱髪の女性が鬼の頭を潰した拳を高く振り上げたまま言う。

 「・・・てめえら、八つ裂きだぜ・・・」

 そして、その拳から凄まじい炎が噴き上がった。


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