複雑・ファジー小説

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〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上【完結】
日時: 2021/02/25 23:52
名前: 狐 (ID: r9bFnsPr)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19508



 人間の住む国サーフェリアの次期召喚師、ルーフェン。
召喚師一族の運命に抗い続けた彼は、多くの出会いを経て、国の守護者として立つことを決意するが……。

 闇の系譜の物語が、今、幕を開ける──!

………………

 はじめまして、あるいはこんにちは! 銀竹と申します。

 本作は、銀竹による創作小説〜闇の系譜〜の二作目の前編です。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。

 今回は、ミストリア編より過去のお話です。
サーフェリア編だけ読んでも話は通じますが、ミストリア編を読んでから来ていただけると世界観は掴みやすいかもしれません。

〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!

…………………………

ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-350

〜目次〜

†登場人物(序章〜第二章)† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†序章†『渇望』 >>3-16

†第一章†──索漠たる時々

第一話『排斥』 >>17-30
第二話『再会』 >>31-37 >>41-49
第三話『曙光』 >>50-57 >>60-65
第四話『探求』 >>66-78
第五話『壮途』 >>79-93 >>97-101

†第二章†──新王都の創立

第一話『奈落』 >>102-129 >>132-137
第二話『落暉』 >>138-145 >>148-150 >>152-171
第三話『覚醒』 >>172-210
第四話『疑惑』 >>211-271
第五話『創立』 >>273-298

†あとがき† >>299

PV >>151

五分くらいで大体わかる〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上 >>272

作者の自己満足あとがきとイラスト >>302-304

……………………

基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy

……………………


【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる──。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは──。

【現在の執筆もの】

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の統治者、エイリーンとの繋がりを明かし、突如姿を消したルーフェン。
召喚師一族への不信感が一層強まる中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
憎悪と怨恨に染まった、アルファノル盛衰の真実とは──?

【執筆予定のもの】

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。

……お客様……

亜咲りんさん
てるてる522さん
ゴマ猫さん
マルキ・ド・サドさん
ヨモツカミさん

【お知らせ】

・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
>>16にとりけらとぷすさんによる挿絵を掲載いたしました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年夏の大会で銀賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年冬の大会で金賞頂きました!
・2021年2月1日、サーフェリア編・下が完結しました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上【二月中完結予定】 ( No.292 )
日時: 2021/02/24 12:26
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r9bFnsPr)


「ええい! こんな言い争いをしていても、話などまとまらぬわ! 王太妃様、ここは、古くからの慣例に習い、戦にて雌雄を決しましょうぞ! マルカン侯は、軍事が全てではないと申しておりましたが、国を守る力があってこその王都ではありませんか! 他の街の力を借りねば、自衛もできないような街に、王都は相応しくありません! 敵を打ち破る力があってこそです!」

 ぎらついた瞳でクラークとサミルを見つめ、バスカが提案する。
バジレットが、否定の意を表す前に、バスカは続けた。

「ご心配ありません。これは、厳正な決闘です! 我がセントランス、ハーフェルン、アーベリト、それぞれから腕の立つ者を、領主が一人選出し、その者を争わせ、勝った街が、次の王都となるのです。そうすれば、犠牲も最小限と留めることができます!」

「…………」

 慌てて反論を考えているであろう、面々を見渡して、バスカがほくそ笑んだ。

 死者を多く出してしまう戦を進言すれば、過激な思想を嫌うバジレットが、反対することは分かっていた。
だが、一対一の決闘となれば、死者は多くてもたったの三人。
この方法は、実際に古くからの存在している選定方法の一つであるし、バスカの発言は、決して的を外しているものではない。

 少し逡巡して、クラークは、鼻で笑った。

「決闘とは、なんと野蛮な……。強者が絶対などという考えは、獣がすることですぞ。沸点の低いセントランスの者共の常識を、我がハーフェルンにまで押し付けないで頂きたい」

 バスカは、ふんぞり返った。

「はっ、勝てぬ見込みがないからと言って、負け惜しみを言うでない! 野蛮だと? では、仮にハーフェルンが王都になったとして、大勢の敵が攻めてきたらどうするつもりなのだ! シュベルテに泣きついて、助けを求めるか? そのシュベルテにも、敵が攻め入っていたらどうする? ハーフェルンは、その野蛮の力とやらを持っていなかったばかりに、呆気なく滅ぼされることになるぞ!」

 怒鳴り散らすバスカに、クラークがぐっと黙りこむ。
サミルは、なだめるように言った。

「アルヴァン侯、貴殿の仰ることは尤もです。故に、協力体制をとりましょうと、私は申し上げているのです。貴殿の言う軍事力は勿論、国を治めるには、様々な力が必要です。だからこそ、それぞれの街が持つ長所を生かし──」

「聖人君子を気取るでない! レーシアス伯、貴様こそ、腹の底で一体何を企んでおるのだ! 大体、協力体制をとるというだけなら、アーベリトが王都になる必要はないだろう! 結局、他の街を利用して、王都の権力を得たいだけではないのか?」

 サミルは、疲れた様子で首を振った。

「私は、権力を得たいなどと考えてはおりません。先程も申し上げました通り、アーベリトが、王都に向いているとも思いません。……ただ、アーベリトが一時的に王位を預かるのが、一番穏便だと考えたまでです。ですから、何もなく事が済むのであれば、セントランスが王都になっても構わないのですよ。……周囲が認めた上での、決定ならば」

 横目でクラークを見て、サミルが言う。
クラークは、忌々しそうに顔を歪めると、吐き捨てるように言った。

「セントランスが王都になることだけは、絶対に認めませんぞ。あのような戦好きの街を王都にしてしまえば、侵略行為を繰り返し、国を疲弊させていくのが目に見えています」

「なんだと!? 脆弱な国造りしかできぬハーフェルンなんぞに言われたくはない!」

 食って掛かるバスカを制して、今度は、バジレットが口を挟んだ。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上【二月中完結予定】 ( No.293 )
日時: 2021/02/24 12:31
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r9bFnsPr)

「……レーシアス伯、先程、一時的に王位を預かる、と申したな。あれはどういう意味だ」

 クラークとバスカの視線が、サミルに向く。
サミルは、待っていたとばかりに表情を緩めると、すっと息を吸った。

「言葉通りでございます。シュベルテは、約五百年もの間、王都としてこのサーフェリアを支えて下さいました。その誇りは、今後も捨てずにいてほしいのです」

 バジレットの眉が、微かに動く。
サミルは、はっきりとした口調で続けた。

「……恐れながら、ハーフェルンが王都になることを、アルヴァン侯はお認めになりませんし、また、セントランスが王都になることは、マルカン侯がお認めにならないでしょう。私も、正直なところ、シュベルテが王都のままであったのならと、願わずにはいられません。ですから、もしアーベリトに、王位を預けて下されば、お約束致します。いずれ再び、シュベルテが王都となれる日が来たときに、アーベリトは、その王位をシュベルテに返還する、と」

 ざわ、と広間が揺れる。
王位をシュベルテに返還する、それはつまり、アーベリトは本当に王位を独占する欲などないのだ、という意思表示だ。

 無表情の奥で、わずかにバジレットの心が動いたのを感じると、慌ててバスカが口を出した。

「何を勝手なことを……! そのような言い分、信用できるわけがなかろう!」

 サミルは、静かに返事をした。

「信じるか、信じないかは貴殿の自由ですが、私の言葉に、嘘偽はありません。シュベルテの内情が安定し、王都として復帰できるまで、アーベリトが王都の権限を預かる。それが、今のサーフェリアにとって最善と思いましたので、私はこの場に参加させて頂いたまででございます」

「……っ」

 サミルの冷静な言い方に、腹を立てたのだろう。
バスカは、勢いよく椅子の肘置きを叩いて、立ち上がった。

「王太妃様! 先程の、決闘に関するお返事を頂いておりませぬ! 認めて下さるのか、下さらないのか、お答えを頂戴したく存じます……!」

 荒く呼吸しながら、バスカがバジレットに詰め寄る。
認めないと言うなら、相応の理由も寄越せ、と言わんばかりの、勢いのある声。
一方でバスカは、そんな理由など出ないだろうと、まだ余裕を持っているようにも見えた。

 何を考えているのか、望洋とした瞳で、バジレットは口を閉じている。
ルーフェンはしばらく、黙ってバジレットの顔を見つめていたが、やがて、彼女の横顔に疲れが滲んでいるのを見ると、ふと、立ち上がった。

「……アルヴァン侯、その決闘とやらは、貴殿方領主がそれぞれ選出した一人を戦わせて、勝敗を決するのですよね?」

「……ええ、その通りです!」

 いきなりルーフェンが出てきたことに、戸惑いつつも、バスカが頷く。
ルーフェンは、ふうと息を吐いた。

「……分かりました。では、アーベリトからは、私が出ます」

 瞬間、全員が凍りついた。
あんぐりと口を開けて、呆然としていたバスカは、はっと我に返ると、大きな声で反論した。

「何を仰るのですか! 召喚師様は、アーベリトの人間ではないでしょう!? そんなの認められませぬ!」

 ルーフェンは、ひょいと眉をあげた。

「そんな決まりは聞いていませんが。領主が選出した一人を戦わせる、というお話でしょう? ……ですから、レーシアス伯。私を選んでください」

 サミルが、はっと顔を上げる。
ルーフェンは、サミルに向き直ると、強気な笑みを浮かべた。

「俺を、選ぶって言ってください。サミルさん」

「…………」

 少し困ったように俯いて、サミルが沈黙する。
しかし、すぐに頷くと、サミルは、力強く言った。

「貴方様がそう望んで下さるならば、是非、ルーフェン様に。アーベリトは、いつでも貴方様を、お迎えします」

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上【二月中完結予定】 ( No.294 )
日時: 2021/02/24 12:43
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r9bFnsPr)


 深く頷き返すと、ルーフェンは、バスカに言った。

「……と、言うわけなので、決闘をなさるならば、アーベリトからは私が出ますね」

 絶句した様子で、バスカがルーフェンを見つめる。
納得が行かないといったように、拳を握りしめると、バスカは、サミルを指差した。

「召喚師様は、何故レーシアス伯に肩入れなさるのですか! 不公平ではありませんか!?」

 ルーフェンは、サミルの元まで歩いていくと、なに食わぬ顔で答えた。

「不公平もなにも、私は、この中で王都にするならば、アーベリトが一番良いだろうと思っただけです。アーベリトが、王都として相応しいかと問われれば、是とは答えにくい。ですが、先程のレーシアス伯の提案──協力体制をとり、それぞれが力を補いながら統治を行っていった上で、いずれ、シュベルテに王位を返還する……。その方法をとるならば、アーベリトが王都に向いているか、いないかという問題は、まあ、大したことではないでしょう。……何より、マルカン侯とアルヴァン侯は、ご自分の街のことばかり考えている。自分本意で醜い、罵詈雑言(ばりぞうごん)の浴びせ合いは、聞いていて疲れました」

 うっと言葉を詰まらせるバスカに、ルーフェンは言い募った。

「それに、レーシアス伯は、私の叔父です。先程、アルヴァン侯は『成り上がり分際で』と申されていましたが、サミル・レーシアスは、召喚師である私の父、アラン・レーシアスの弟です。成り上がりと侮辱されるほど、下の地位でもないと思いますが」

「お、おじ!?」

 すっ頓狂な声をあげると、バスカは、シルヴィアの方に振り返った。

「召喚師様のお父上がレーシアス家の者というのは、ほ、本当なのですか!?」

 シルヴィアは、俯いたまま、黙っていた。
だが、しばらくして、細くため息をつくと、ええ、と短く答えた。

 ルーフェンは、淡々とした口調で加えた。

「アーベリトの遺伝病の治療法がでたらめだ、などという言いがかりが出回ったせいで、私の父親に関する話は、世間から押し流されたようですが、私の父は、今は亡きアラン・レーシアスです」

 次いで、視線を動かして、ルーフェンは、矢継ぎ早に言った。

「それから、マルカン候。二十年前のノーラデュースにおいて、リオット病の症状が戻った原因を突き止めようとしたのは、レーシアス伯ではなく、私です」

「え?」

 クラークが、目を見開いたまま固まる。
声を震わせながら、クラークは、恐る恐る尋ねた。

「え……え? 召喚師様は、リオット族をノーラデュースから出し、王都に引き入れただけ、では……?」

 ルーフェンは、故意に冷たい声で言った。

「わざわざ公表しませんでしたが、それをやったのも私ですし、それ以外の、リオット族に関することは、大体私がやりました。リオット病再発の原因を、未練がましく探ったのも、アーベリトの過去の栄光にすがって、汚名返上に躍起になったのも、全部、私です」

 クラークの顔が、みるみる青くなっていく。
自分が先程、何を口走ったかを思い出して、どんどん絶望していくクラークを見ながら、ルーフェンは、追い討ちをかけた。

「すみませんが、具体的な数値で、というのは、少し難しい事柄のようなのです。なにしろ、二十年も前のことですから。しかし、かつて一度は、アーベリトの治療法で、リオット病の症状が改善しているわけですし、今、力を貸してくれているリオット族たちにも治療を施して、その効果が発揮されれば、アーベリトの医療魔術の信憑性に、もう問題はありませんよね?」

「え、ええ……仰る通りです……」

 クラークが、弱々しい声で返事をする。
知らなかったこととはいえ、召喚師であるルーフェンの行動を、散々貶していただなんて、とてつもない失態を犯したと思った。

 ハーフェルンは、シュベルテが優位な交易を行う代わりに、シュベルテの魔導師団に守ってもらっている街だ。
その魔導師団の筆頭である召喚師一族の機嫌を損ねることは、ハーフェルンにとっては、死活問題なのである。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上【二月中完結予定】 ( No.295 )
日時: 2021/02/24 12:44
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r9bFnsPr)



 悔しげに歯軋りしていたバスカが、再び口を開く。

「……召喚師様が、アーベリトを王都に望んでいることは、わかりました。ですが、先程貴方様は、決闘をするなら……と仰いましたよね。それはつまり、決闘を行うことを、お許しくださったということ! ならば、その決闘で勝った方が王都になるという選定方法に、異論はないのですね?」

「……ええ、ありませんが」

 微かに目を細めて、ルーフェンが返す。
何か秘策でもあるのかと警戒したルーフェンだったが、バスカが言い出したのは、苦し紛れの提案であった。

「でしたら、我らセントランスと決闘を! ただし、召喚術の使用はなさらないでください。厳正で公平な決闘にて、雌雄を決しましょう!」

 バスカの言い分に、ルーフェンは、思わず吹き出した。
くすくす笑って、息を吐き出すと、ルーフェンは言った。

「公平な、ですか。不公平だから、全力は出さずに戦おうというのでしたら、ハーフェルンの基準に合わせて、商人同士で戦いますか? もちろん、魔術も武器の所持も禁止で」

 瞠目して、バスカが息を飲む。
ルーフェンは、肩をすくめて見せた。

「アルヴァン侯は、決闘を行うことで、その街が王都になるに相応しい戦力を持っているのかどうか、見極めたいのだと思っていたのですが、違うのですか? いざ敵を討つとなれば、どうせ召喚師は引っ張り出されるでしょうし、その時は当然、召喚術を使います。それなのに、召喚術を使わずに決闘しよう、というのは、些か矛盾していませんか? 本気で決闘しないなら、実力なんて見られません。まあ、今後も召喚術を使わなくて良いと言うなら、どんな戦が勃発しようと、私は無視して帰りますが」

「…………」

 次は、どんな反論をしてくるだろうかと、ルーフェンがバスカの出方を伺っていると、どこからか、ぱちぱちと拍手の音が聞こえてきた。
悠然と笑って、手を叩いているのは、クラークである。

 ルーフェンが眉を潜めると、クラークは、打って変わった明るい声で、言った。

「素晴らしい! もう、認めざるを得ませんな。私は、少しアーベリトを見くびっていたようです。レーシアス伯の仰るような、協力体制なるものを敷くなら、我らハーフェルンは、ご協力致しましょう」

「…………」

 調子の良い手のひら返しに、内心呆れてしまう。
だが、ここでハーフェルンが味方についたのは、好都合であった。

 ハーフェルンにとって、最も重要なのは、王都になることではなく、召喚師一族と今後も友好的な関係でいることだ。
ルーフェンがアーベリト側にいる今、下手に反発して墓穴を掘るより、従属に徹した方が良いと判断したのだろう。

 だが、バスカは、へりくだりはしなかった。
わなわなと拳を震わせ、力任せに椅子を蹴ると、叫んだ。

「もう良い! セントランスは下りさせてもらう! 貴様らと協力なんぞしてたまるか!」

 そう吐き捨てて、バスカは、連れてきた家臣たちと共に、謁見の間を出ていく。
途端、バジレットの下手に座っていた政務次官、ガラドは、苛立たしげに舌打ちした。
彼はずっと、傍若無人なバスカの振る舞いに、腹を立てていたようだ。

 謁見の間が静かになると、バジレットは、ため息をついた。

「……マルカン侯。では、そなたも、王位争奪の場からは下りる、ということで良いのか?」

 クラークは、顎をさすりながら、首肯した。

「ええ。もう答えは出てしまったようですし。それに私は、領主であると共に、商人でもあります。アーベリトの医療魔術とやらに、俄然、興味が湧いてきてしまいました」

 鷹揚に微笑むクラークに、バジレットが、再度ため息をつく。
ガラドやモルティスの顔を見やり、それからサミルを見据えると、バジレットは述べた。

「……新たな王都の候補が、アーベリトだけになってしまったのだから、余からはもう何も言えぬ。元々、シュベルテ、ハーフェルン、アーベリトの間には、親交がある。疎遠になった間柄を回復させ、書面を以て正式に契約を結びたいというのなら、その条件を改めて伺おう。ひとまず期限は……我が孫、シャルシスが成人するまで──」

 バジレットは、一度目を閉じて、開くと、決心したように告げた。

「新たな王都として、アーベリトを認めよう……」

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上【二月中完結予定】 ( No.296 )
日時: 2020/12/11 15:37
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: 8NNPr/ZQ)


 王都の選定が終わり、退去が命じられると、サミルは、同じく謁見の間から出てきた、シルヴィアの元へと向かった。
長廊下にて、一度ひざまずき、シルヴィアと向き合う。

 ルーフェンは、そんなサミルの姿を、少し離れたところから見つめていた。

「……謁見のお許しを頂いておりませんのに、ご無礼をお許しください」

「…………」

 振り返ったシルヴィアは、何も答えない。
サミルは、シルヴィアの白い顔を伺いながら、問うた。

「……シルヴィア様は、このままシュベルテに残られるのですか?」

 すっと目を細めて、シルヴィアがサミルを見る。
薄い笑みを浮かべると、シルヴィアは、静かに答えた。

「それ以外に、どうしろと? ルーフェン共々、アーベリトにいらっしゃい、とでも言うつもり? 」

「はい、そうです」

 即座に答えて、サミルが頷く。
シルヴィアは、ふっと表情を消したが、やがて、くすくすと笑いだした。

「なあに? 私を哀れんでいるの?」

「…………」

 サミルの顔が、悲しそうに歪む。
シルヴィアは、微かに声を低くした。

「貴方、とても残酷ね……。渇いて、枯れ果ててしまった人間には、一滴の水もやらない方が、よほど幸せなのよ」

 シルヴィアが、ルーフェンをちらりと見る。
表情を固くしたルーフェンに、シルヴィアは、美麗に微笑んで見せた。

「さようなら、ルーフェン」

 それだけ言うと、シルヴィアは、身を翻した。

 長い銀髪が、シルヴィアの歩調に合わせて、ゆらゆらと揺れる。
その後ろ姿に、再び声をかけようとしたサミルを止めると、ルーフェンは、首を横に振った。

「……無駄だと思います。それに、シルヴィアをアーベリトに招いたら、またいつ俺達のことを殺そうとするか、分かりません。……危険です」

 冷たい口調で言うと、サミルが、そうですね、と沈んだ声で呟く。
ルーフェンは、むっとして、サミルに顔を近づけた。

「サミルさん、少し、お人好しすぎるんじゃありませんか。シルヴィアは、アランさんを殺したんですよ」

 サミルは、弱々しく息を吐いた。

「それは、そうなのですが……」

 困った様子で口ごもりながら、サミルが俯く。
その姿からは、先程謁見の間で見せた気迫は、一切感じられない。

 ルーフェンは、はあっと嘆息した。

「……なんか、サミルさんって、意外と無茶苦茶なんですね。すごく驚いたんですよ。いきなり王宮に突撃してくるし、まるでいつもと別人みたいに強気だし……。王太妃が、サミルさんを斬り捨てろって言い出したらどうしようかと、ひやひやしてたんですから……」

 そう言って、額を押さえたルーフェンに、サミルは苦笑を漏らした。

「いやはや、私も本当は、終始ひやひやしていたのです。うまく行く確証なんて、全くありませんでしたし、ここ最近で、一番汗をかいた気がしますよ」

 どこか照れ臭そうに笑って、サミルは続けた。

「それでもね、黙って見ているだけでは、いけないと思ったのです。いつだって私は、見ているばかりでしたから……。色々、私なりに考えまして、それで、考え付いたのです。召喚師様が、アーベリトを好きだと仰って下さるなら、もういっそ、アーベリトを王都にしましょう、と」

 まるで、楽しい遊びでも思い付いた子供のような無邪気さで、サミルが言う。
ルーフェンは、思わず拍子抜けして、ぱちぱちと瞬いた。

 サミルの無謀さに、少し怒っていたくらいなのだが、もう、そんな気も失せてしまった。
優しい微笑みと言葉で、相手の毒気をあっさりと抜いてしまうのも、サミルの才能なのかもしれない。

 シュベルテやハーフェルンと協力しながらとはいえ、アーベリトのような小さな街が、王都として国を支えるなんて、簡単なことではない。
きっとこれから、沢山の困難に見舞われることになるだろう。
しかもサミルは、いずれ王位を、シュベルテに返還することを約束したのだ。
全くもって、アーベリトには何の得もない話である。

 それなのに、サミルは来てくれた。
ルーフェンのことを考えて、王宮に駆けつけてきてくれたのだ。
そう思うと、本当は、とても嬉しかった。


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