複雑・ファジー小説

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心を鬼にして
日時: 2016/11/03 22:09
名前: 凜太郎 (ID: uzSa1/Mq)

心に強い信念を持ち、だいじなもの、守りたいものをもつ者。
その者たちは、心に、≪鬼≫を持つと言われている。

その≪鬼≫を退治し、人間界を暗くさせようとする男、≪桃太郎≫とその一行

今宵、鬼と桃太郎との戦いが始まる
さぁ、心を鬼にして。

−−−

初めましてか何度目まして、凛太郎です
今日から書いていく作品は、鬼とか桃太郎とか、超有名昔話「桃太郎」の世界観を多少モチーフにしたバトル物の作品です
バトル物は今まであまり書かなかったので、ぎこちない部分があるかもしれません
でも、楽しんで読んでいただけるよう精一杯頑張ります
それでは、よろしくお願いします

目次
第1話「燃えろ熱血!赤鬼誕生」>>001>>002>>003>>004
第2話「冷静沈着?青鬼誕生」>>005>>006>>007>>008
第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」>>009>>010>>011>>012
第4話「青鬼の復帰!始動する期末テスト」>>013>>014>>015>>016
第5話「先輩の夢を叶えよう!県大会の始まりだ!」>>017>>018>>019>>020
第6話「魔の修了式!赤鬼、新しい力!」>>021>>022>>023>>024
第7話「鬼と人の絆?青鬼、新しい力!」>>025>>026>>027>>028
第8話「夏だ!海だ!合宿だ!サッカー部地獄の合宿開始!」>>029>>030>>031>>032
第9話「正体がばれちゃう!?鬼の決断!」>>033>>034>>035>>036
第10話「先輩の信念!緑鬼誕生」>>037>>038>>039>>040
第11話「夏の出会い!8月に咲く恋の花」>>041>>042>>043

Re: 心を鬼にして ( No.9 )
日時: 2016/06/16 21:47
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」1

「はぁぁぁ・・・・・・」

 ベッドの枕に顔を埋めながら、俺はため息を吐いた。
 氷空が鬼持ちで俺のように覚醒した。それは嬉しい。
 しかし・・・・・・。

『・・・・・・やめておくよ』

「だぁくっそ!一体なんでなんだよぉ!」

 俺が叫ぶと、アカトは不満げに「うるさいアカ!」と怒鳴ってくる。
 そんなに怒鳴らなくたっていいじゃんか・・・・・・。

「そういえば、あのそらとやらとりゅーとは、一体どういう関係なんだ?」

 気付けば枕元まで来ていたアカトはそう言って首を傾げてくる。
 俺は顔を上げて「幼馴染」と言ってやる。すると、目を輝かせた。

「じゃあ、そらとりゅーとは仲が良いのか?」
「まぁ・・・・・・前はな」
「ん?前は?」

 俺はそれで話を終わらせようと思ったが、頭をアカトにペシペシと叩かれた。
 仕方がないので座り直し、アカトに説明してやることにした。

「俺と氷空が出会ったのは小学4年生。近所のサッカークラブで一緒にプレイしてたんだ」

−−−

 ついに小学4年生になれた。
 サッカークラブに入るには、4年生以上じゃないとダメなんだって。
 でも、やっとなれた。
 俺は嬉しくて、すぐに走ってクラブの入団試験を受けに行った。

「このサッカーボールでドリブルをして、チームメンバーを2人かわして、シュートでゴールを決めれば合格だ」

 そんな説明を受ける。
 グラウンドに置かれたサッカーボール。これを蹴ってシュートをすればいいのか。

「それじゃあ、1番から」

 そんな感じで試験は始まった。
 番号順はどうやらあいうえお順らしく、俺は2番目だった。
 1番は蒼井とかいうやつらしく、黒髪の少年がサッカーボールを手に歩いて行っていた。
 このチームは小学生のジュニアチームは男女混同らしく、女子もちらほらとだがいる。
 彼女たちは蒼井とやらの顔を見てきゃーきゃー言ってる。
 確かにイケメンだとは思うが、サッカー上手くなきゃ意味ないだろ、と俺は鼻で笑っていた。
 そう、その時までは。

「うおぉ・・・・・・」

 まるで風のように素早く、5年生の二人をかわし、ゴールにシュートを決める。
 その速さに俺はつい、見惚れてしまった。
 コイツ・・・・・・スゲー・・・・・・。

「よし。合格だ。次」

 コーチの人はそう言って俺に目を向けてくる。
 俺は勢いよく立ち上がり、サッカーボールの前に立つ。
 深呼吸をすると、グラウンドの臭いが肺に溜まるような感覚がした。

「うっし」

 小さい声で言い、ボールを蹴ってドリブルをする。
 目の前に、すぐに5年生の選手が現れる。そこで考える。
 ゴールキーパーもいないのに、わざわざかわす必要なんてないんじゃないか?
 強引に蹴れば、入るんじゃないか?

「いっけええええええええ!」

 俺は叫び、ボールを思い切り蹴った。
 それは大きく弧を描き、静かにゴールネットに吸い込まれていった。

「うーん。合格にはするけど、ちょっと強引するかな」

 コーチは苦笑いをしながらそう言った。
 そうか。これはドリブル能力も見るテストだったのかもしれない。
 やってしまったと思いつつ、俺は列に戻る。

「一々叫んだり、力任せだったり、暑苦しいんだよ」

 番号の関係で隣だった蒼井は俺の顔すら見ずにボソッと呟くように言った。
 それを聞いた俺はイラッとしてしまう。

「これくらい強引なくらいがちょうどいいんだよ。サッカーっていうのは点を取った方が勝つんだから」
「止められたら意味ないよ。試合運びも完璧に、強引にいって失敗しないようにしなくちゃ」
「それで点取れなかったら元も子もねえじゃんか!」
「強引に行くよりは成功確率は高いよ」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」
「おーい。そこうるさいぞぉー」

 言い争いをしていたら、コーチに注意された。
 俺は口を閉じ、蒼井の顔を睨んだ。彼は不敵な笑みを浮かべた。

 それからは、二人で競い合いながら強くなっていった。
 いつしか、俺たち二人の言い争いなどはチームでは日常茶飯事のような扱いになっていた。
 中学に上がったら、二人でサッカー部に入り、2トップと呼ばれていた。
 氷空は頭もよくリーダーシップもあり、司令塔のようなこともしていたので、キャプテンになった。
 俺はキック力と強引さで得点力もあったので、エースになっていた。
 地区大会では優勝したが、全国大会では1回戦負けだった。
 俺たちは泣きながらも、約束した。

「高校でもサッカーやって、リベンジしような!」
「ああ・・・・・・!」

 俺たちは拳タッチをした後で、記念写真を撮った。

−−−

「じゃあ、アイツは約束を破ったのか?」
「そう、なるのかな・・・・・・でも、俺は信じてる。アイツなら、きっといつかはサッカーをしてくれるって」

 俺はそう言いつつ、窓の外の月を見た。
 丸い月の黄色の光が、今日はいつもより儚く見えた気がした。

Re: 心を鬼にして ( No.10 )
日時: 2016/07/02 22:00
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」2

 今日も病室に入れば、そこでは少女が一人、眠っていた。
 相変わらず、彼女は目覚めない。医者の話では、目覚める可能性は、低いらしい。
 もしもあの時、赤い髪の男の言うことを聞いていれば、彼女は・・・・・・陽菜は目覚めたのだろうか。

「陽菜・・・・・・」
「お前、いつもこんなところに来てたのか」

 その時、ドアの所から声がした。見るとそこには、龍斗と、手乗りサイズの赤鬼がいた。

「龍斗・・・・・・なんでここに?部活は・・・・・・」
「今日は休みだ。それより、この子って、中学時代のマネージャーの・・・・・・たしか、事故にあったんだっけ・・・・・・」

 龍斗はそう言いつつ、陽菜の顔を見る。
 陽菜は、相変わらず安らかに眠っている。

「あぁ・・・・・・うん。恋人なのに、守れなかった・・・・・・」

 僕はそう言いつつ花瓶の水を変えるために立ち上がった。その時、ドサリ、と鞄が落ちる音がした。
 見ると、龍斗がポカンとした顔をしていた。

「龍斗?」
「恋人って、お前等・・・・・・恋人同士だったのかよ!?」
「あれ?話したことなかったっけ?」
「ねぇよ!」
「そっか。中学二年生の頃からだったんだけど」
「結構前だな!」

 龍斗はわざとらしく大きなため息をつくと、ベッドの横に置いてあった折り畳み式の椅子を展開した。
 そしてそこにドカッと座り、僕の顔を睨みつける。

「まっ、流石に馬鹿な俺でも分かるよ。サッカーできねぇ理由って、この子なんだろ?」
「・・・・・・当たり」
「なぁ、氷空。せめて理由を教えてくれよ。隠されたままだと、俺だって良い気分じゃねぇ」
「・・・・・・」

 僕は手に持っていた花瓶を棚に戻し、椅子に腰かける。
 そして小さく、口を開いた。

「ちょっと、長くなるけど・・・・・・———」

−−−

 それはまだ、僕が中学生の頃だった。
 中学に上がって僕と龍斗は、もちろんサッカー部に入り、競い合いつつ仲良くやっていた。
 僕は、中学はサッカーと勉強一筋でいくことになるかと思ったが、そこで、一人の少女と出会った。
 サッカー部のマネージャーをしていた、同い年の水無月 陽菜だ。
 彼女はいつも明るく、活発な性格で、少し天然なところもあり、サッカー部のムードメイカーのような役割を果たしていた。
 互いに一目惚れで、一年生の頃などはぎこちない距離感が続いていた。
 ちなみに、聞いた話では、僕と陽菜の関係はそういう系に疎い龍斗以外のサッカー部員や一部の男子生徒からはニヤニヤ顔で見られるようなものだったらしい。

 そして二年生になってから、周りで少しずつではあるがカップルが増え始めた。
 僕もよく女子に告白されたが、断った。陽菜も男子によく告白されるようになり、僕たちの関係をニヤニヤしてみていた人たちからは、「このままじゃ盗られるぞ」とまで言われた。
 だから、夏の地区予選で優勝した日に、告白した。答えはもちろん、ОK。
 何人かの部員がそれを見ていたらしく、次の日にはほとんどの生徒がそれを知っていた。正直、なぜ龍斗が知らなかったのかが理解できない。
 とはいえ、部活や勉強で忙しかった僕たちは、あまりデートなどには行かずに、たまに図書館や双方の家で勉強したりする程度だった。

 そして、三年生になり、全国大会で負け、部活を引退し、高校受験に集中した。
 元々勉強ができた僕と陽菜は公立の名門校に推薦で受かり、ハッキリ言えば、余裕があった。
 そしてその時期に、僕の好きなサッカーチームの試合があり、僕たちはそれを見に行こうと話していた。
 その時に、事件が起こる。その時のことは、今でも忘れられない。

「陽菜・・・・・・遅いな」

 僕は右手首に付けた腕時計を確認しながら呟く。
 今日は、自分の中では割とオシャレをした方だ。
 グレーのコートに青と白のシンプルなシャツ。茶色のズボンに、黒い靴だ。
 あとは、アクセサリー的なもので白い腕時計に、イヤーカフとかも、安物ではあるが付けている。
 それにしても、遅い。駅前で午前十時に集合だと言っていたのに、もうすぐ十時半だ。
 彼女は、遅刻などはしない、時間には真面目な子なのだ。それなのに遅れるだなんて、何か用事でもあったのだろうか。
 そう能天気に考えていた時、ズボンのポケットの中の携帯が振動した。着信だ。
 携帯の画面を見ると、そこには陽菜の名前が出ていた。陽菜からだ!と、僕の体には血が駆け巡った。
 慌てて電話に出る。

「もしもし?どうしたのさ。遅くなって。もしかして何か急用でも・・・・・・」
『あの、水無月 陽菜さんの、知り合い、ですか?』

 聞き覚えの無い、男の声がした。
 一瞬で、頭の中がスッと、冷めたような感覚がした。

「・・・・・・アンタ、誰だ?陽菜はどうした?」

 冷ややかな声が出た。僕の口からだ。
 僕の声に戸惑った様子の男は、「えっと・・・・・・」と声を漏らす。
 僕はすぐに続けた。

「陽菜はどうしたのかって聞いてんだよ!」
『すいません。先に、貴方と水無月さんとの関係を教えていただけませんか?』
「・・・・・・恋人です」

 僕の返答に、男が息を呑んだのが分かった。
 少しの間で、だんだんと陽菜に何があったのか理解し始める。

『水無月さんは、事故に遭われまして・・・・・・』

 その後のことはよく覚えていない。ただ、搬送された病院名を聞いて、タクシーに乗って、病院に向かってもらった。
 気付けば病院で、見知らぬ男に事情を聞いていた。
 陽菜は、トラックに轢かれそうになっていた少年を庇って、轢かれたらしい。
 正義感の強い彼女らしいと言える。
 病室では、意識の戻らない陽菜が、機械に繋がれ、眠っていた。
 一命は取り留めたが、意識が戻らないらしく、聞いた話では、意識を取り戻す確率は、大体5%程度なのだとか。
 後で来た陽菜の両親もその話を聞かされ、泣いていた。
 しばらくして、陽菜が庇った少年とその親が謝りに来たが、正直、僕は彼らのことはあまり恨んではいなかった。
 彼らは悪くない。庇ったのは、陽菜の意思だ。

 それに、僕がデートなんかに誘わなければ、陽菜は死ななかった。
 僕が好きなものがサッカーなんかじゃなくて、別のものだったら、また違う結果になっていたのかもしれない。
 陽菜が眠る病室で、僕は泣きながら謝り続けた。謝っても、彼女は戻ってこないのに。
 そして僕は、決めた。彼女が目を覚ますまで、サッカーをしないと。
 彼女をこんな風にしてしまった僕のサッカーへの情熱を押さえつけることが、贖罪だと、思うから。

−−−

 無言で話を聞き続けた龍斗は、腕を組んだまま俯いていた。
 寝ているのかと思ったが、やがて顔を上げた龍斗は、ニカッと笑った。

「氷空。ちょっとだけ、俺に付き合え」

 そう言って強引に僕の腕を引っ張り、彼は病室を出た。
 僕はただ、付いていくことしかできなかった。

Re: 心を鬼にして ( No.11 )
日時: 2016/07/03 16:46
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」3

 龍斗に腕を引っ張られ連れていかれた場所は、小学生の頃一緒にプレイしていたサッカーチーム専用のグラウンドだった。
 そこは河川敷のような場所になっており、今日は練習が無い日なのか、だだっ広いグラウンドが広がっていた。

「ホラ、ここでさぁ、よく一緒に練習してたよなぁ」

 忘れ物のボールを拾いながら、龍斗は笑う。
 僕はグラウンドを見渡し、「・・・・・・そうだな」とだけ言っておく。
 とはいえ、確かに懐かしい。中学に入ってから全然来てなかったから、来るのは4年ぶりだ。
 その時突然、ボールが投げられる。咄嗟に胸で受け、何度かリフティングしてから、胸の前まで蹴り上げて掴む。
 顔を上げると、龍斗が白い歯を見せて笑っていた。

「やっぱ、好きなんだな。サッカー」
「・・・・・・まぁ、ね」

 僕は曖昧に答えることしかできなかった。
 龍斗は僕からボールを奪い取ると、リフティングを始めた。

「よっ、はっ、とっ・・・・・・ホラ。上手くなったと思わないか?」
「お前、何を・・・・・・」
「俺、上手くなったのをお前に見せつけたくて、ずっとリフティング頑張ってたんだ。中学の時までは、お前に負けっぱなしだったからな。リフティング以外にも、ドリブルだとか、ディフェンスだとか。シュートだったら、負けない自信あったけど。俺エースだったし」

 そこまで言うとボールを地面に落とし、足を乗せて、ニカッと笑った

「久しぶりに勝負しようぜ!ボールを奪ってゴールを決めた方が勝ちな」
「なっ、僕はサッカーをするつもりは・・・・・・」
「一回くらいいいじゃんか。ホラ、いくぞ!」
「おいっ・・・・・・」

 突然ボールをこちらに向かって軽く蹴ってきた。僕はそれを足で止める。
 その時、龍斗がこちらに向かって突進してきた。
 そしてボールを奪おうとタックルをしてくる。僕はそれを足でボールを転がしかわす。
 速度やパワーはあるが、やはり動きは単調で、強引すぎる。
 僕は体を捻ってそれをかわし、ゴールに向かってシュートを打つ。
 距離があったせいか、ボールは途中で何度かバウンドしつつ、最終的にはコロコロと転がってゴールに入っていった。
 僕と龍斗は肩で息をしている状態だった。

「んだよ。何か月もしてなかったくせに、なんでそんなに上手いんだよ・・・・・・」
「陽菜が目を覚ましたら、やるつもり、だったからね・・・・・・多少は練習もしてたさ」
「へっ、やる気満々じゃんか・・・・・・」
「・・・・・・まぁな」

 龍斗は疲れたのか地面にべたりと座り込むと、「はぁぁ〜」と大きく息を吐いた。
 そしてカッターシャツの胸の辺りをバフバフと扇ぐ。
 しばらく沈黙が続いた後で、彼は僕の顔を見て笑った。

「久々のサッカー。楽しかったろ?」
「・・・・・・あぁ」
「陽菜ちゃんもきっと、お前には楽しいことして欲しいと思うんだよ」

 龍斗の言葉に、僕は目を見開いた。
 彼はニッと歯を見せ笑う。

「俺が陽菜ちゃんだったら、そう思うな〜。俺のせいで大事な人が好きなこと我慢するとか、嫌だしな」
「お前女子じゃないのに、女子の気持ちなんて分かるのかよ」
「なっ・・・・・・今はそういうことにツッコんだらダメだ!」
「ダメってなんだよ・・・・・・はははっ」

 僕は龍斗が可笑しくて、笑ってしまった。
 笑う僕を見て、龍斗は不満げに唇を尖らせた。
 しばらく笑って満足した僕は、目尻に溜まった涙を指で拭い、「でも、そうだよな・・・・・・」と呟く。

「陽菜は多分、僕のこと一番、応援してくれてたと思う」
「な?だから、お前が頑張らないと、ダメなんだよ」
「まさか龍斗に諭される日が来るなんてなぁ。世も末だ」
「その言い方はねぇだろ!?」

 僕の言葉に大げさに反応する龍斗。
 それが可笑しくて、僕はクスッと笑った。

「でも・・・・・・うん。また、やってみるよ。サッカー」

 僕の返事を聞いた龍斗は立ち上がり、「よっしゃぁッ!」と叫んだ。
 それを見て頬が緩んだ時だった。

「友情ごっこがそこらへんにしてくれるかなぁ?虫唾が走る」

 突然、背後から声がした。
 振り返ると、この前襲ってきた、赤い髪の男が立っていた。

「お前は、あの時の・・・・・・えっと、誰だ?」
「いや、僕に聞かれても」
「桃太郎一行のクドツだアカ!」

 目の前に突然赤鬼が現れて、僕も龍斗も驚いてしまう。
 突然現れるなんて、卑怯だ。

「クドツ?変な名前だな」
「あれだよ。最近流行りのキラキラネーム」
「あー。納得」
「勝手に納得するな」

 クドツとやらは僕たちにツッコみを入れつつ、普通にサッカーグラウンドに入ってくる。

「まぁ良い。友情ごっこをしていたおかげで鬼を二匹同時に倒せるんだからな」
「キラキラネームが一人で何か言ってるよ」
「怖いね〜」
「勝手にキラキラネームとか言うな!」

 クドツは疲れた様子で額に手を当て、「はぁ〜」とため息をつく。
 よく分からないけど、お疲れさまです。
 その時、クドツの手元になにやら丸い塊が見えた。

「それは・・・・・・?」
「へぇ?君は観察力が高いようだね。これに気付くとは、な!」

 クドツの右手が動き、丸い物は凄まじい速さでゴールの中にあったボールにくっ付く。
 それは団子のようなもので、ボール全体を包み込み、やがて巨大なサッカーボールの化け物になる。

「ぁあ!サッカーボールが!キラキラネームのくせに生意気だぞ!」
「ここでキラキラネーム関係ないだろ。ダゴビキ!そこの餓鬼どもをやっちまえ!」

 クドツの言葉に、ダゴビキとやらは僕たちに迫ってくる。

「氷空、行くぞ!」
「おう!・・・・・・で、どうやって鬼になるの?」
「あぁ、手の甲に紋様みたいなもの、ないか?」
「紋様?そんなもの・・・・・・あった」

 龍斗の言葉に自分の手の甲を見ると、左手の甲にあった。

「よし。じゃあそれに力込めれば変身できるぞ」
「了解。じゃあ、行こう!」
「おう!」

 僕と龍斗は手を胸の前まで持っていき、力を込めた。
 そして、僕たちは変身した。

Re: 心を鬼にして ( No.12 )
日時: 2016/07/03 21:57
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第3話「一緒に戦えない?青鬼の秘密」4

 自身の周りを覆った氷が割れると、気付けば青い服が体を包んでいた。
 顔を上げると、さっきまで走っていたサッカーボールのダゴビキ?は転がる突進にチェンジしており、ゴロゴロとこちらに向かって来ていた。

「転がるとかアリかよ!?」
「文句言う暇があるならさっさと避けろ!」

 僕は叫びつつ、横に跳んだ。
 二回目とはいえ、やはりまだ慣れず、飛びすぎて、なんとか立ち止まろうと地面に足をつけたら腰から下だけの速度が止まり、それより上の威力は止まり切らず、頭を地面に打ち付け、何度も地面を転がって、なんとか止まった。
 鬼というものはかなり頑丈なのか、痛みはあまりない。
 龍斗は慣れているようで、すでにダゴビキを斬っている最中だった。

「何やってんだよ氷空!アホか!」
「ご、ごめん。まだ慣れてなくて」

 僕は謝りつつ拳銃を抜く。
 拳銃は遠距離用の武器だ。無理に近づくより、遠くから射撃した方が良いだろう。
 とはいえ、拳銃の扱いなんて慣れていない。あんな混戦状態じゃ、下手したら龍斗に当たってしまう。

「何をやっているアオ!」

 その時、声がした。眼球だけ動かして見ると、手乗りサイズの青鬼が宙に浮いていた。

「なっ・・・・・・」
「なんで早く撃たないアオ!今お前の仲間はピンチなんだぞ!」

 コイツは、馬鹿か?下手したら、龍斗に当たってしまうかもしれないんだぞ?

「もし標準を誤ったら・・・・・・龍斗に、当たってしまうかもしれない。そうしたら・・・・・・」
「いつからお前はそんなに臆病になっちまったんだよ!」

 遠くから声がする。顔を上げると、龍斗が刀でダゴビキを受け止めながら、叫んでいた。

「お前は失敗を恐れて行動しないような、臆病者じゃなかったッ!お前は、たとえどんなに劣勢な試合の時でも、失敗するかもしれない指示でもとにかく出して、チームを優勝に導いてきたじゃないか!全国大会の時は、ちょっと失敗しちまったけどよぉ。あの時は俺のミスもあったから、気にすんな!」
「お前・・・・・・よくその状況でそんなに喋れるな」
「気にするところそこかよ!?そんなもん、気合でどうにかしてるに決まってるだろ」
「気合って・・・・・・」
「とにかくだ!自分を信じろ!俺に当たってもちょっとやそっとじゃ死なねぇよ!」

 熱血論というか、精神論というか。ハッキリ言って、無茶苦茶だ。
 でも、覚悟はできた。失敗したら、その時はその時だ。
 僕は拳銃を構え、ダゴビキの足元に標準を定める。そして、撃った。
 弾丸は真っ直ぐに、ダゴビキの足にヒットし、奴の体を揺らがせた。

「よしっ!」

 僕は小さくガッツポーズをした。
 龍斗は力が弱くなったのか、ダゴビキを思い切りぶった切って蹴り飛ばした。
 サッカーボールであるダゴビキは無様に転がり、ちょうどサッカーゴールに入って行った。

「おー。ゴールゴール。俺1ポイントな」
「でも試合運びを完璧にしたのは僕。だから、功績の八割は僕ね」
「でもゴールしたのは俺だから!」
「・・・・・・懐かしいね。このやり取り」

 僕が笑うと龍斗も白い歯を見せ、「そうだなっ」と笑った。
 僕は拳銃を肩にポンポンと置き、「じゃあさー」と話を切り出す。

「あのダゴビキを先に倒した方が勝ちで、どう?」
「おっそれ乗った。じゃあ負けた方が勝った方にジュース奢るってことで」
「おっけい」

 僕と龍斗は、ダゴビキに向き直る。
 ダゴビキはちょうどゴールにはまり、動けない様子だ。

「お前ずりぃよなぁ〜。拳銃だから、ここからでも攻撃できるんだから」
「運が無かったね。龍斗。ジュースは僕のものさ」
「そうはいくかっ」

 僕が拳銃を構えるのと同時に、龍斗は刀を構えダゴビキに迫る。
 僕は目を瞑って、前回やったように僕の中の怒りの感情を、拳銃に込める。
 引き金を引くと、青い弾丸が二発、ダゴビキの体に吸い込まれていく。
 そして、奴の体は凍り付いた。
 そこに、刀に炎を纏わせた龍斗が突進し、ダゴビキの体を切り裂いた。
 奴の体は燃え尽き、崩れ去った。

「ふぅ。終わったか。僕のおかげでね」
「待て待て待て」

 拳銃をしまいながら呟いた僕に、龍斗が近づいてくる。
 僕は首を傾げた。

「なに?」
「最後に手を下したのは俺だ。つまり倒したのは、お、れ」
「でも僕のおかげでしょ?大体、僕が撃ったおかげでああやってゴールにはめて動けなくできたんだし」
「おいおいおい。ルールが違うじゃないか。先に倒した方が勝ちだろ?誰のおかげかじゃなくてさ。つまり、倒した、俺の、勝ち。ОK?」
「それを言ったら、最後に技を食らわせたのは僕だ。だから、僕の勝ち」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 気付けば、空は夕陽で赤く染まり、カラスが鳴いていた。
 僕たちがそれに気づくのは、結局両方が折れ、引き分けという話になる、今から十分後のことだった。

Re: 心を鬼にして ( No.13 )
日時: 2016/07/04 21:31
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

第4話「青鬼の復帰!始動する期末テスト」1

「あっはははは!カッコつけて2回も出動して、どっちもダメでやんの!」

 腹を抱えて笑うキモンに、クドツのこめかみの辺りからブチッという音が聞こえた。

「今回は計算が狂っただけだ!次こそは・・・・・・」
「次こ、そ、は?おいおい。人に偉そうに言っといて、自分には次があるとちゃっかり思っちゃってんのかよ!」

 キモンはさらにゲラゲラと笑うと、真顔になり、自分の首に自身の人差し指を当て、軽く横に弾いた。

「俺等はなぁ?あくまで、桃太郎様の部下でしかねぇのよ。分かるかな?」
「・・・・・・」
「あくまで報酬が貰えるから一緒にいるだけ。役に立たなきゃすぐに、くびにされちまう。今はジーケが別の所で活動してるから、まだ多めに見てもらえてるだけなのかもしれねぇ。でも、もしアイツが帰ってきたら、失敗続きの俺等なんざぁ、すぐにお払い箱だ」

 ジーケ、という言葉に、クドツの眉はピクリと動く。
 それを見たキモンはニヤリと笑い、「嫌だよなぁ?」と言って、ククッと喉を鳴らした。

「んじゃ、失敗続きのクドツ先輩は休んでてくださいよ。今回は、俺が行きますから」

 ソファから立ち上がったキモンはそう言うと、スタスタとドアのところまで歩いて行った。
 クドツはその中で、俯いたまま微動だにしなかった。

−−−

「今日からサッカー部で一緒にプレイすることになりました。蒼井 氷空です。サッカー歴は小4から中3までですが、最近ちゃんとプレイしていませんでしたので、足を引っ張ってしまうこともあるかもしれませんが、その時は、厳しく指導してやってください。よろしくお願いします」

 長ったらしい挨拶を終えた氷空は、そう言ってぺこりと頭を下げた。
 それを見たサッカー部の皆は、パチパチと拍手をする。もちろん、俺も。

「じゃあ新入部員も増えたことだし、これから県大会に向けてもっと厳しくしていくからな。みんな覚悟してろよ?」

 監督はそう言って、ニカッと無邪気な笑みを浮かべた。
 ついに氷空とサッカーができるんだ!と、俺の体は喜びに震えた。
 監督からその他諸々の指示があり、ついに練習は始まった。

 氷空は、正直に言えば本当に引退してから自主練習以外まともなプレイをしていなかったのかと思うほどに上手かった。
 1年のディフェンス陣をいとも簡単に抜き去り、シュートの威力も鋭さも、中3の頃から衰えてはいなかった。
 イケメンで勉強もできて、しかもサッカーもできるなんて、と最初は主に1年が嫉妬の念を込めた視線を向けていた。
 しかし、氷空は気配りもできて、他の1年生たちにもしっかりと、それも分かりやすいアドバイスなんかもしていて、次第にその嫉妬などは薄くなっていた。

「いやぁ、氷空はすげぇな。マジ完璧」

 練習が終わって、グランド整備をしながら俺はなんとなく氷空に話しかけてみた。
 氷空は恥ずかしそうにはにかんだ。

「そんなことないさ。ただ、練習とかを頑張ってただけ」
「でもさぁ、その辺の1年とかよりも断然上手いもん。これは、今の3年が引退したらレギュラー入りもできるんじゃね?」
「おいおい。俺を忘れられたら困るぞ」

 その時、後頭部をバシンと叩かれた。
 見ると、健二がやってやったぜみたいな笑顔を浮かべ、そこにいた。

「何すんだよ」
「お前らがなんか面白そーなこと話してるから来てみれば、その辺の1年って俺も含まれるんだろ?参っちゃうね〜。入ったばかりの新人君に負けてるなんて言われると」
「でも、事実だし」
「ストレートに言うなぁ」

 ははは、と苦笑する健二。
 でも、ハッキリ言えば事実だ。氷空は、健二なんかよりもずっと上手いしな。
 その時、ちょんちょんと肩をつつかれた。見ると、氷空が笑顔を浮かべていた。

「龍斗さぁ、サッカーも良いけど、大事なこと、忘れてないよね?」
「ん?何がだ?」
「そりゃ最近忙しいけどさぁ・・・・・・

 ・・・・・・明後日、期末テストだけど、勉強してるよね?」


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