複雑・ファジー小説

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AnotherBarcode アナザーバーコード
日時: 2020/12/07 18:30
名前: ヨモツカミ (ID: 6fVwNjiI)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12746

 生きていれば。生きてさえいれば、いつか幸せになれると思っていた。
 私だって、生きてても良いんだって。誰かと一緒に笑う事も出来るんだって。
 そんな夢を、見ていた。
 それが幻想だとわかっていても。私達は望まずにはいられなかった。
 普通に朝を迎えて、普通に誰かと過ごして、そして普通に1日を終えて、普通の明日を待つ。そんな幻想に酷く焦がれたところで、永久に叶うことはないのに。


………………………………


これは、継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。

こんにちは、ヨモツカミです。以前からオリキャラ募集して、話だけ練ってたのですが、ようやくスレ立てすることができました。
本編では明かさなかった事とかオリキャラ募集で投稿頂いたキャラなどが主に活躍します。つぎば本編も読んでいるともっと楽しめるんじゃないでしょうか。本編読んでなくてもなんとなくわかるような説明も入れるつもりですが。


【目次】>>15
よくわかんない投稿の仕方してるので、1レス目から見るとかじゃなくて、目次見たほうがわかりやすいと思います。

【キャラクター関連】
登場人物詳細その1>>16
桜色の髪の少女>>1 ロスト>>21
ロティス>>2 レイシャ>>24
アイリス&シオン>>6


【軽い説明】
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当のバケモノだと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード駆除専門の軍隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

【お客様】
メデューサさん


2018年2月6日スレ立て

Re: AnotherBarcode -アナザーバーコード- ( No.10 )
日時: 2020/12/07 15:45
名前: ヨモツカミ (ID: 6fVwNjiI)

【番外編】No.04 べにいろバーコード

 名前も知らないのに、きれいだね、と言う。
 数メートル先を征く少年は、聞こえた声に振り返ってから、ようやく自分が1人で歩いていたことを知ったらしい。5歩分ほど後ろで立ち止まって、道に咲いた花を見つめるわたしを、半ば呆れたように見ているから、少しだけ申し訳なくなる。
 そのまま先に行ってしまうわけにも行かない彼は、わたしの側まで近寄ってきて、それから深く溜息をついた。

「君さあ、そんなことしてるから皆とはぐれるんだよ? わかってる? 鳥を追いかけてたら迷子になったなんて聞いたときは、ホントに馬鹿なんじゃないかと思ったよ」

 というか馬鹿でしょ、と彼は更に追い打ちをかけるようにぼやいた。
 わたしと殆ど歳は変わらないはずだし、身長だって親指の先っぽ程度しか変わらないのに、少年は上から目線でそんなことを言ってくる。ムッとして、彼の幼い顔立ちを睨もうとしたけれど、実際わたしが鳥を追いかけて迷子になって、仲間達皆で捜索して、やっと彼が見つけてくれたのだ。完全にわたしが悪いし、馬鹿なのも事実なので何も言い返せない。
 眉を下げて、肩を竦めながらごめんなさい、と返すしかなかった。
 けれど彼は腰に手を当てて、少し冷たい声で言う。

「僕に対するごめんなさいはさっき聞いた。何度も謝ればいいって話じゃなくて、君がちゃんと反省することに意味があるんだよ? だから、今君がしなくちゃいけない事は、無事に皆のところに帰って、みんなを安心させて、それからちゃんと謝ることだ。いいね?」

 仲間達がとても心配していた、という話は、彼に見つけてもらったときに聞かされた。わたしがいなくなったと気付いた彼らが大慌てで捜しに出てくれたらしい。その事実に、きゅっと胸が痛む。
 小さく頷いて項垂れるわたしを見つめて、彼がもう一度深く息を吐きながら、今度は少し優しげな声で問う。

「なんで鳥なんか追いかけたの」
「青い、きれいなトリだったの。見つけたらしあわせになれるって、前きいたから……」
「追っかけてどうするつもりだったのさ。投石でもして撃ち落とす気だった?」
「そんなかわいそうなことしない。ただ、ハネを……」
「毟り取る気だったの?」

 そんな酷いこと、もっと考え付きもしなかった。慌てて首を横に振って否定する。あんまりに激しく振りすぎて、自分の真っ赤な長い髪の毛が顔をベチベチと叩く。
 確かにわたしはどうしたかったのだろう。あんなに綺麗な鳥は初めて見た。だからって、考えなしに喜び、舞い上がって、皆と一緒にそれを分かち合いたくて、追いかけて。でも、その結果迷子になって、心配をかけてしまった。
 掌を強く握り締めて、唇を噛み締める。戻ったら、皆はどんな顔してわたしを迎えるだろう。

「わかんない。でも、ごめんなさい」

 返事は無かった。
 顔を上げるのが怖くて、わたしはしばらく足元の砂利を見つめていたけれど、彼の影が揺らめいたのが見えた。何だろうと思って視線を上げると、少年の手がにょきりと伸びて来て、わたしの頬を摘む。ほっぺを引き千切られる! そう思ってキュッと目を瞑った。
 でも、いつまで経っても警戒した痛みが頬を襲うことはなく、軽く摘まれた頬を緩く引っ張られた程度だった。
 恐る恐る少年の顔を見ると、優しい笑顔が浮かべられていた。クス、と微かに笑って、彼は口を開く。

「青い羽根があれば幸せになれるから。皆に幸せになってほしかった……とか。そんなところだろ? 馬鹿だけど優しいね、君は」
「…………」

 どうしてだろう。彼の笑顔が、何処か悲しそうにも見えたのは。
 そういえば、彼がわたしを見つけたとき、一瞬だけとても怖い顔をしていたのを思い出した。怖いと言っても、怒っているのとは違う。あの氷のような眼差しは、敵に向けるときのものによく似ていて。敵というよりも、もっと──。でも本当に束の間の事で、わたしと目があった瞬間には、さっきのような悲しそうな笑顔に変わっていた。
 あれはどういう意味だったのだろう。
 戸惑うわたしを他所に、頬を弄んでいた彼が、そのまま道脇に咲いた花に視線を落としたので、わたしもつられて花を見る。ラッパ形の薄くて優しい青色をした花だ。寄り添うように5輪で固まって咲いていた。近くに同じ花が咲いているということはないので、群れて咲いてるはずなのに、寂しそうに見える。

「これ、リンドウっていうんだよ」

 ちょっと驚いて、目を瞬かせた。彼が花に詳しいなんて、少し意外だったのだ。ものしりだね、と感心したように伝えれば、彼はそれを首を振って否定する。

「偶々知ってたんだ。僕も好きだから、この花」

 わたしの頬から手を離すと、少年は花の側に屈み込んで、軽く花弁を撫でる。ぼんやりと、何処か遠くに視線を彷徨わせながら。なんだか、懐かしんでいるように見えた。
 それから此方に顔だけ向けて、摘んでく? と、短く訊ねてきた。

「ううん。お花だって生きてるんだから、かわいそう」

 そ。短く返して、彼は緩慢な動きで立ち上がって、先に進もうとした。けれど、一歩踏み出してからちょっと固まって、わたしの顔をじっと見つめてくる。
 彼が何をしたいのかわからないわたしは、目を瞬かせて首を傾げてみせる。どうしたの、と声をかけると、少し迷うように視線を彷徨わせたあと、彼はわたしの手を緩く握りしめてきた。あまり暖かくない手の平だった。日が落ちて、少し冷えてきたから。わたしを探し回っている間に、彼の手も冷えてしまったのかもしれない。

「もうはぐれないように。また気になるもの見つけたら、立ち止まってもいいから」

 ちょっと照れ臭そうに目を伏せながら彼はそう言った。ああそっか。手の冷たいヒトは優しいんだって、仲間たちに聞いたことがあったのを思い出す。この温度が、彼の性格をよく表していた。
 離さないように握り返して、わたしは笑いかける。

「ありがと」

 彼は緩く口角を上げて、わたしの手を引いた。
 彼が一瞬だって氷よりも冷たい目をした理由も、すぐに悲しそうに笑った意味も、わたしは本当は知っていたかもしれない。あの目は殺意。あの笑顔は迷いと、優しさ。彼はきっと、わたしや仲間たちに言えない、どす黒くこびり着いた何かを背負っている。でもそれを共有することはできないのだろう。誰だって抱えているんだ。わたしたち、人間じゃないから。
 皮膚と皮膚の隙間から、誰にも言えない苦痛が溢れてしまわないように、体中に縫い合せの跡をいっぱい隠したわたしたちは、手を繋いで歩く。お揃いの傷を抱えているのに、繋いだ手と手は別の身体だから、心からわたしたちが繋がることって、無いんだろう。だから彼の手を強く握りしめてみる。痛いよなんてぼやかれて、ごめんねって返す。
 近いのに遠い。距離は埋りそうもないけれど。

「皆アケを待ってるよ。帰ろう」

 こんなわたしでも受け入れてくれるヒトが、わたしが帰ることを望んでくれるヒトたちがいるから。いつか、あなたがもっと打ち解けてくれる日が来るといい。

「ジンくんのこともまってるよ、みんな」
「そう。そうだと、いいね」

 いつか、あなたも帰るべき場所になるといい。


***
雑談掲示板で浅葱と共に開催してる小説練習企画の、第6回 せせらぎに添へて、に投稿したものです。
本編の1年くらい前、ジンがタンザナイト(ニック、マリアナ、アケ、ローザ、カルカサの元カイヤナイト達+ジンとアイリスで構成された群青バーコードの集団)にいた頃の話。
ジンから向けられた殺意になんとなく気付いても、仲間でいようとするアケと、その殺意に迷いが生じたジン。てゆーか年齢差的にこの2人、おじいちゃんと孫ですね。
リンドウの花言葉ですが、「あなたの悲しみに寄り添う」です。

Re: AnotherBarcode -アナザーバーコード- ( No.11 )
日時: 2020/12/07 15:46
名前: ヨモツカミ (ID: 6fVwNjiI)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=11117

【コラボ】 No.01次元 最強次元師バーコード!!

(コメディ・ライトより、瑚雲さん著、『最強次元師!!』とのコラボ企画です)


クラウス「いきなり台本書きの文章が始まって、しかもオレがメタ発言しまくってて、困惑した読者も多いと思うし、こういうノリ苦手なヒトはオレから謝っとく! めんご!
今回はずっとこんな感じでやってくし、しかも主人公のジンは! 主人公のくせに! 今回出番ありませーんザマア!」
ジン「……でも裏で見張ってるから、発言には気をつけなよ?」

クラウス「なんか出番無しさんの声が聞こえた気がするけど気にしなーい! さーて、今回はタイトルを見ればわかると思うけど、さいじげとのコラボ企画だぜ!
もうなんか、部屋の入り口で待機してるゲストが待ちきれなくてワサワサ動いてるのが見えてるなー。すっごい、若草色の髪がワサワサしてる。これ以上待たせんのも悪いし、呼んじゃうか! ゲストの登場でーす、お願いしまーす!」

 クラウスが合図すると、膝まで伸ばした若草色の髪を揺らしながらな元気よく、少女が部屋に飛び込んできた。

ロク「はーい! どうも初めましてっ! コメライ板ってとこの『最強次元師!!』からきました、ロクアンズ・エポールです! よろしくお願いしまあす!」
クラウス「わー来たのが可愛い子でよかった! オレはクラウス! よろしくなー」
ロク「わー! よろしくねクラウス! 気軽にロクって呼んでねっ」

クラウス「おっけ! じゃあロク、早速質問なんだけど……お前文字読める? ジンにカンペ渡されたけど、オレ読めなくって、どうしよっかなーって思っててさあ」
ロク「文字なら読めるよ! まかせて!」
クラウス「おー、よかった。じゃあコレカンペだから、頼む」

 そう言って、クラウスは司会進行役のくせにゲストにカンペを押し付けるのだった。

〈カンペ〉
〜わくわく! クラウス&ロクアンズの始まる前から大事故トークショー!!〜
・自己紹介(名前とか年齢とか職業とか)
・最強資源師のふわっとした世界観とかあらすじの説明
・文字数に余裕があればフリートーク

クラウス「最初なんて書いてある?」
ロク「ええっと〜……わくわく、くらうすあんどろくあんずの、はじまるまえからだいじことーくしょー……ってなんじゃこりゃー! まだ事故ってないよ!! 信頼がなさすぎだ!!」

クラウス「大事故トークショー? おい誰だよカンペ用意した奴! ロクはどうだか知らねーけど、オレがいるんだから大丈夫に決まってんだろっ」
ロク「ほんとだよね〜〜、クラウスもこう言ってるんだから安心できるし、あたしもいるしでもう2倍でだいじょぶ! なんもこわくないね!」

クラウス「だな! そしたら改名しなきゃだよな。“わくわく、クラウス&ロクアンズの終わりまで安心安全トークショー”だ!」
ロク「それだー! よ〜し安全第一でいくぞ〜!

【わくわく☆クラウス&ロクアンズの終わりまで安心安全トークショー】

ロク「……で、なんだっけ?」
クラウス「カンペ、カンペ。次なんて書いてある?」
ロク「次はね、自己紹介だって! えっと、名前と年齢と職業か……。名前はロクアンズ・エポールで、年齢は12歳だよ! 職業は〜、ええっと……次元師、かな?」

クラウス「12かー。ジンと同じくらいなんだな(同じとは言ってない)
で……なんだ、じげんしって?」
ロク「じん?? よくわからないけど、そうだよ!(同じとは言われてない)
次元師っていうのは、あたしたちの世界の中で、たった100人しかいない『異次元の世界から武器や魔法などの異質の力を取り出せる人たち』のことを言うんだ! お仕事かって言われたらちがうかもだけど……」

クラウス「おー……? そういう能力が、ロクにもあるってことか?」
ロク「そうそう! あたしのは『雷皇』って言って、雷を操ることができる力なんだ〜! ねえねっ、クラウスにもそういうのあったりするの?」
クラウス「か、雷……コワ。えっ、オレの? ふっふー、見たい??」
ロク「見たい見たいっ! クラウスはどんなことができるの!?」
クラウス「よーし、よぅく見てろよー……どろん!」

 と、言った瞬間、クラウスの姿が空気に溶けるように消えてしまう。

ロク「わあああ!? えっ!? く、クラウスどこーッ!?」
クラウス「お・ま・え・のー……後ろだー!!」

(6つも年下の女の子にイタズラするクソみたいな男、クラウスの図)

ロク「ぎゃあああ! ──雷撃ィっ!」

 ロクアンズがそう叫ぶと、彼女の掌から火花のような閃光が迸って、驚いたクラウスが姿を表す。

クラウス「ぎゃあ! わあああ! ホントに雷出た! 怖ぇええ!」
ロク「もうっ! クラウスが驚かすからあっ!」

クラウス「だって、オレの〈能力〉驚かすのに向いてるから……。今のがオレの〈チェシャー〉っていう、透明になれるお化けみたいな能力。今くらいの時期だと、どっかの国では夏っていう季節で、夜になるとお化けとか幽霊が沢山出るって言うし、季節感もばっちし!」

ロク「透明になれるなんて、クラウスがもしあたしの敵だったら厄介だっただろうな〜……。あわわ、危ない危ない!
へえ〜! 今の時期ってそうなんだ! きせつかん、はよくわからないけど、クラウスもまぎれちゃえるってことだよね! ……あれ、でもクラウスは死んでないわけだから、幽霊とはいっしょに遊べないのか……? クラウス、ひとりぼっちじゃん!?」

クラウス「安心しろよ、敵じゃなくてゲストと司会者の関係だから!(ただし文字は読めない)
オレもよくわかんないけど、こういうの、季節感がばっちグーって言うらしくて……え! オレぼっちなのか! なんか急に寂しくなってきた」

ロク「それもそっか〜〜! じゃあだいじょぶだ!
きせつかんがばっちぐー、っていうの? うわあなんかいいねそれ! 帰ったらみんなに教えよーっと!」
クラウス「おう、多分みんなにキョトンって顔されると思うけどな。
さて、そろそろ次行ってみるか! ロク、カンペよろしく!」

〈カンペ〉
〜わくわく! クラウス&ロクアンズの始まる前から大事故トークショー!!〜
・自己紹介(名前とか年齢とか職業とか)
・最強資源師のふわっとした世界観とかあらすじの説明 ←
・文字数に余裕があればフリートーク

ロク「ええっ? そうかなあ……みんな喜ぶと思ったんだけどなあ……。まっ! 気を取り直して次ね! 次!
えっと〜……あれ、いままでなにしゃべってたのかな? 自己紹介? じゃあ次は……さいきょうしげんしのふわっと……ふわっ!? し、資源師ぃ!? なにこれどっから来たの資源の要素!」
クラウス「ああ。作者の……ヨモツカミのいつもの誤字だと思うから、気にするな!
で、最強資源師のふわっとしたあらすじ? やっぱ資源大切に〜、みたいな。リサイクル活動とかしてんのか?」

ロク「そうだな〜……任務の中には資源配達とかーうちの隊でもいつなにが起こるかわからないからそなえがどうとかって言ってたから、資源は大事にしなきゃってことだよ、クラウス!」
クラウス「あれっ。マジで資源を大切にする話なのか、さいじげって。地球に優しいんだな……」
ロク「? いや、ちがうけど。あれ、でもどこの作品でも資源大事にしてない? の?」
クラウス「してないんじゃねーの? ジンはこないだビーカーに入った水をヒトの顔面にぶち巻いたから、水を大切にしない悪い奴だし」
ロク「ほえ〜。そのじんって人、水がきらいなのかな……。クラウスちゃんと言ってあげた?」

クラウス「別に、ジンと喋りたいとも思わないから言ってないけど。
てかめっちゃ話逸れたな。うん、文字数の関係で厳しそうだから、さいじげが気になった方は是非URLをクリックして下さい、ということで!」
ロク「ええ〜しゃべったげなよ! そっちのが楽しいよ、きっと!
もうお別れの時間なのかな? また機会があったらおしゃべりしようね、クラウス!」

クラウス「えー……うー……まあ、気が向いたら……。
おう! 今日は来てくれてありがとうな! ロクと話せて楽しかったぜ」
ロク「こちらこそ呼んでくれてありがとうー! あたしもすっごく楽しかったよ! あ、最後に言っとくけど、あたしたちの出てる作品は『最強次元師!!』だからねっ! もうまちがえないよーに!」

クラウス「あー(笑)その辺のイジりは悪かったわ、ごめん。『最強次元師!!』でさいじげな。
機会があればまた来てくれよな、ロク」

 と言って、ハンドシェイクを求めて左手を差し出す。

ロク「うんっ。またぜひ呼ん……、? なにこの手?」
クラウス「え? 握手。……もしかして握手知らない?」
ロク「アクシュ!? クラウスの国にはそういう文化があるの!? へええ〜おもしろいね!」

 と言って、ロクアンズは差し出されたクラウスの手を握り返した。

クラウス「ロクの国、握手無いのか! じゃあ覚えとけよ。コレはお別れの挨拶とか、大切だと思ったヒトにやるんだって」
ロク「へえ〜! そうなんだっ。すてきな文化だねっ! 大切な人かあ……帰ったらみんなとアクシュしーよっと! 今日はいろんなこと教えてくれてありがとね、クラウス!」

クラウス「以上でわくわく☆クラウス&ロクアンズの終わりまで安心安全トークショー開幕ー! ありがとーございましたー!」
ジン「……閉幕でしょ」
クラウス「閉幕!!」


***
こぐもさんありがとうございました!
私がロクちゃん好きで、こぐもさんがクラウス好きで、そしたらもうやることは1つ。コラボですよ。
またいつか、他の作者様とこう言ったクロスオーバーのようなことをやらせてもらうかもしれないです。
さいじげはファンタジー苦手な人でも世界観掴みやすくて、読みやすくてオススメです! 私は特にさいじげの世界の街並みが好きです。ストーリーも勿論好きです。楽しくなる!
そして今回ゲストで来て頂いたロクちゃんが、凄く応援したくなる子で、もー、読んでいて楽しいので、コメライの最強次元師!! を皆さんも寝る間も惜しんで読んでみてください!
ちなみに資源師は下りは、私がガチで誤字しちゃって申し訳なかった(笑)あと開幕もガチミス。
こういうことやるの初めてで、本当はフリートーク(虫)とかもやりたかったんですが、割と文字数がいい感じになってしまって……。また機会があれば虫の話もしたいです!

Re: 誓イハ焼ケ爛レ5-1 ( No.12 )
日時: 2020/12/07 15:48
名前: ヨモツカミ (ID: 6fVwNjiI)

 空気の焦げる匂いがする。炎が自分や母や、匿ったバケモノごと、家の骨組みを焼き尽くそうとしていた。
 息を吸い込むと、焼け付くような熱気と煙が肺を満たして苦しくなるから、直ぐに噎せ返る。寝室にはまだ火が回っていないらしくて、閉ざされた扉の向こうから激しく燃え盛る炎と崩れゆく家の節々の悲鳴、煙の臭い、それに混じって、何か……考えたくない程酷い異臭もして、眉を顰めた。
 扉の先には母がいた筈のリビングがあって、多分開けたら火の海が広がっているのだろう。“バケモノの家族”を断罪する業火みたいだ。
 きっと村の誰かが火を放ったのだ。前から脅されていたし、いつかこうなると、思っていたし、そうなる理由なんて、分かりきっていた。

「ルーカスは、逃げないの」

 床に蹲っていたバケモノが、そんな事を口にする。
 彼の幼い顔立ちだけ見れば、ただの10歳前後の子供だと言えただろうが、その肌の至るところを覆う深緑の鱗と、大きな蜥蜴の手足や尻尾は、見る者を怖気立たせるには十分で。そんな見た目で生まれてきたのだから、村の者達は少年と兄とその母親を“バケモノの家族”と呼んだ。そうして、村で迫害し、蔑み、最終的に火を放った。悪かったのは、母と、生まれてきてしまったバケモノだけなのに。


【番外編】 No.05 誓イハ焼ケ爛レ


「放火……か」

 中性的で聞き取りやすい声が、ぽつり。
 机を挟んだ向かい側の椅子に腰掛ける、暗い赤色の長髪を緩く結んで前に流している男は、俯きがちに声を漏らした。伏せられた睫毛の下、深緑の瞳が思い詰めるように揺れている。
 彼は中身が半分くらい減ったグラスに手を伸ばし、ゆったりと自分の口元へ持って行った。傾けたときにカラン、と氷と硝子の触れ合う音がする。

「俺にも弟がいた」

 彼、ルートがぽつりと言う。ルートが自分のことを話し出すのは珍しいことだった。彼が負けず嫌いで人に弱みを握られたくないからか、思い出したくない出来事ばかりだからか。バーコードを駆除するために結成された、バーコード殲滅部隊ハイアリンクに所属している時点で、まともな過去を持った人間の方が少ないだろうが。

「俺の場合は放火ではないが、炎を操るバーコードに、家を焼かれて。家族を失った。弟と俺は生き残ったんだがな、その数年後に再び同じバーコードに襲われ──弟を失った。この火傷もその時のものだ」

 思い出しているのか、少し遠い目をしながら、悲しげに笑う。けれど、微かに優しさを窺わせる笑み。
 ルーカスはそれをどことなく羨ましく思った。
 ふと思い出して、愛情や優しさを感じさせるような、そんな顔ができる存在など、ルーカスにはいない。握り締めた右手の平がじわりと痛む。爪が食い込むほど、手を握り締めてしまっていたらしい。

「へえ。んじゃ、オレにはその痛みは分かんねぇな。だってオレの弟は、死んでいい弟だったから」
「……死んでいい人間なんて、」
「人間じゃない」

 思いのほか大きい声が出て、ルーカス自身、少し驚いた。
 ルートは少し考える素振りを見せたが、直ぐにハッとして翡翠、と喉からか細い声を漏した。

「そ。オレはバケモンの兄貴なんだ。気持ち悪ぃだろ」

 バーコードの父親と、人間の母の間に生まれた弟。どうしてルーカスと弟の父親が違うのか。あるとき姿を眩ませた弟の父親はどうなったのか。何故、母親は弟のようなバケモノを、最期まで愛したのか。それを母が生きているうちに教えてくれることは無かったが。でもきっと、相当に頭のおかしい女性だったのだ。
 ルーカスが弟を思い出して抱く感情は、身を焦がすような憎悪や憤怒ばかり。愛情や優しさなんて、微塵もない。ルーカスの中では、直向きな復讐心だけが、あの日家を焼き尽くした豪火よりも激しく燃え盛る。


***


 バーコード殲滅部隊ハイアリンクである、ルーカスとルートはソレイユという街に来ていた。同行していたもう1人の女性と、群青バーコードに街の見回りを任せて、2人は宿で今回の任務内容について話し合っていたところだ。 

 ルートという男は、細身で小柄で、中性的な顔立ちをしており、更に少し癖の付いた長髪といった容姿のせいで、一瞬女性に見間違われる事もあるが、26歳の若さで班長を任される程の実力者である。
 ルーカスは、ルートよりも先にハイアリンクに加入した先輩であり、彼の4つ上で、実力もそこそこあったはずだが、感情的に動いたり、仲間との連携が不得意であったりして、上の人間からは責任感が無いと評価されていた。ルーカス自身も、そんな面倒な役職を担う事に必死になって、バーコードを仕留め損ねでもしたらなどと考えているため、自らそういった役割を任されそうになると、蹴っていた。
 だが、ルートとしては、先輩であったルーカスに命令する立場になったことに抵抗感を持っていたため、作戦会議中も、不自然に敬語を混ぜたり、命令口調に戻してみたり。とてもではないが、ルーカスとしても集中して話し合いを進めることができなかった。

 現在、一通り任務内容の確認が終わって、話すこともなく、2人の間に沈黙が続いていた。
 ルートは今回の任務の目撃情報等の書かれた資料にぼんやりと視線を落としている。どうせ真面目なルートのことだから、出発前に何度も目を通して、内容を空で言えるくらいに把握しているくせに。対するルーカスは、宿の店主が出してくれたお冷の入ったグラスの表面をなぞってみたり。つまるところ、2人して暇を持て余していた。

「あー、班長」

 無言の空気が気まずくて、ルーカスは話題も浮かばないまま、彼を呼んでみる。ルートは顔を上げると同時に、目元にかかる髪を軽く払った。

「何だ」
「……良い天気だな」
「ああ、そうだな」

 会話終わった。
 2人して視線を合わせたまま、無言が続く。ルートが少し困ったような顔をした。気不味い。
 ちょっと間が空いてから、再びルーカスが口を開く。

「……ところで、前から気になってたんだけど、首のそれ。オレのと一緒だよな」

 言いながらルーカスは、肌見放さずに着けていた右の黒い革手袋を外してみせる。その下からは赤黒く変色し、引き攣った痛々しい皮膚が覗く。ルートはそれを凝視して、顔を強張らせた。それから視線を落として、首元に巻いたスカーフをきゅっと握り締める。その拍子に前髪に隠れていたルートの金色の左眼が覗いて、ルーカスは彼がオッドアイであったことを思い出す。
 そういえば、ルートはオッドアイなんて珍しいもののせいで、バーコードと勘違いされ、バケモノ扱いされて虐げられ、それが理由でハイアリンクに志願した、なんて噂を聞いたことがあった。
 ルーカスも過去にバケモノ扱いされていたため、一方的に親近感を抱いていた。ただ、それだけではないのだろう、とも思っていた。以前、ルートがいつも首に巻いている黒いスカーフを緩めたとき、その首筋に皮膚の引きつるような跡を見たことがあったのだ。

「一応隠しているつもりだったんだがな。俺の火傷、知っていたのか」
「まあ。……悪ぃな、あまり触れちゃいけない話題だったか?」
「いや。ルーカスさんも、同じなんだろう?」

 バケモノと呼ばれた過去と、火傷の跡。きっと彼も復讐のために戦うハイアリンクなのだ。だからか、ルーカスは自分のことを話したいと思った。

「……興味なんかねぇかも知らんけど、ちょっと昔話していいか」
「いや。是非聞かせてほしい」

 ルートの方から食いついてくるとは思わなかった。ルーカスは少し瞠目してから、苦笑で顔を歪ませる。
 火傷の跡が痛々しい右手に、力が篭もる。思い出せば、豪火の如くその怒りがルーカスの焦げ茶色の瞳の中で燃ゆる。気がつけば、机の表面に爪を立てていた。

「あれは、オレが18歳の頃だったな」

 燃え盛る炎の熱気。爆ぜる木の音。焦げていく大気の匂い。
 それから、弟の存在。

Re: 誓イワ焼ケ爛レ ( No.13 )
日時: 2020/12/07 15:49
名前: ヨモツカミ (ID: 6fVwNjiI)


***


 爬虫類らしい琥珀色の双眸は、ぼんやりとルーカスを捉えていた。あの眼は嫌いだった。半分と言えど血の繋がりがあるせいか、自分と目元が似ている。だから兄弟であることを自覚しなければならない。けれど、その瞳は人間とは程遠い、バケモノのそれで。ルーカスの目玉だけを入れ替えたら、こんな感じなのだろうと思った。

 カシャン、と甲高い騒音が響いて、ルーカスは思わずそちらを見る。バケモノが何かを窓に叩きつけたことで、蜘蛛の巣状にヒビが入っていた。もう1発。どうやら尻尾を使っていたらしく、今度の衝撃で、窓は激しい音を立てて砕け散った。
 バケモノはふう、と息をついてからこちらを振り返り、割れた窓ガラスを指差した。その向こうには曇った夜空が広がっていた。

「ここから出られる」

 そう言ったバケモノにズカズカと近寄っていくと、ルーカスは彼の頬を手加減無しの拳で殴りつけた。その衝撃で壁に叩きつけられたバケモノが、頬を押さえて顔を歪める。

「てめぇのせいだろが、出られるじゃねぇよ!」

 バーコードがいなければ、こんな事にはならなかった。ルーカスは歯を食いしばってバケモノを睨み付ける。

「うん。だから、俺はここで……」

 自分のせい、という自覚はあったのだろう。バケモノはルーカスを無表情に見上げて、それだけ言った。
 言葉の続きを想像したたけでも、ルーカスの胸の中は怒りやら恨みやら悔しさが轟々と渦巻いて激しく燃え盛る。
 ルーカスの心中など知りもしないバケモノが、ふらりと立ち上がって、また表情も抑揚もない声で、口を開く。

「母さん、死んだみたいだ」
「あ?」
「肉の焦げる臭いがする」

 ルーカスは表情を強張らせた。ずっと、煙や木の焦げる臭いに混じって、吐き気を催すような異臭がしていた。考えないようにしていたその正体を言葉にして突き付けられては、否定のしようがない。

「だから、ルーカスも早く」

 感情のやり場が無くて、思わず拳を振り上げた。その動作に肩を震わせ、目を固く閉じたバケモの姿を見ると、遣る瀬無くなって、行き場を失った怒りは炎の音に紛れて霧散する。
 殴られないと分かった弟が黙ってルーカスを見上げる。鱗に覆われた皮膚の中に嵌め込まれた、琥珀色の目玉が揺れている。そこにどんな感情が渦巻いているか、ルーカスにはわからない。

「なんでてめぇが、オレを助けんだよ」

 ルーカスの不幸の全てが、バケモノのせいだから。今まで、何度も怒りをぶつけてきた。暴力を振るって、罵詈雑言を浴びせて。本気で殺してしまいたいと思ったときもあった。そんなルーカスを、何故弟は助けようとするのか。
 何故。なんで。どうして。
 ルーカスはふらりと寝室とリビングを繋ぐ戸のドアノブに手をかけた。炎で熱されたそれは当然の様に高温で、熱さを通り越して冷たくすら感じた。

「!? 何してるんだ!」

 だが、すぐに弟に腕を捕まれ、止められてしまった。それを振り払う。心配そうにこちらを見上げる、気持ちの悪いバケモノの瞳を見たくなくて、ルーカスは視線を落とす。
 助けられたくなんてなかった。ルーカスは幾度となく恨みをぶつけて来たのだから、弟にも同じように、自分を恨んでいて欲しかった。
 ルーカスは弟と向き合い、彼の頬に手を伸ばした。鱗の肌に触れてみる。人間とは似ても似つかない肌触りが、気持ち悪い。

「バケモン、ばっかりだ。お前も、村のヒト達も、お母さんも。あのヒトは、こんな気持ち悪い蜥蜴ニンゲン育ててたんだ。なんだよ、オレの弟が蜥蜴って。オレは人間だ。お前なんかとは違うんだ……ふざけんなよ、気持ちワリィ」
「ごめん。ルーカス」

 吐き捨てるように口にしたルーカスの言葉を聞いて、彼は、掠れた声を返す。
 なんのための謝罪だろう。弟は俯いて、痛々しげな表情で、言葉を絞りだす。

「生きてて、ごめんなさい。生まれてきて、ごめんなさい」

 瞬間、ルーカスの中で、家を包み込む豪火よりも激しく感情が揺らめいて、バケモノの左頬を殴り付けていた。更に、バランスを崩して倒れ込む彼の腹部を容赦無く蹴り上げる。床に蹲って数回噎せ返るバケモノを忌々しく睨み付けて、ルーカスは声を荒げた。

「謝って何になるんだよ! てめぇがいたからオレは、オレは……ッ!」

 蔑むような視線。
 心無い陰口。
 謂れのない暴力を受けた事もあった。バケモノの家族だから。バーコードを匿っている家だから。お前も見た目に変化がないだけでバーコードなのだろう、と言われたこともあった。お前もバケモノなのだろう? と、疎む視線に晒されて、ルーカスの内側で静かに燻る炎は、ただ只管に、弟に対する激しい憎悪となり。
 握り締めた拳の中、爪が自分の掌の皮膚を突き破った。視界が霞むのは薄い酸素と煙のせいか、或いは。

「許されようとしてんじゃねぇよバケモノッ!」

 バケモノの瞳の中で、一瞬瞳孔が揺らいだ。だが、それだけで、表情の変化などは殆ど無く。
 彼は俯いて、ぽつりと言葉を零した。

「許さなくていい。俺も、俺が嫌いだ」
「…………」

 吐き捨てるみたいだった。

「ここで、母さんと一緒に逝く。俺を愛してくれていた。ちゃんと、母親として。あのヒトだけだった。俺には、他には何もないし、ルーカスの言う通り、誰にも許されないから」

 でも、少しだけ怖いな。燃え盛る炎をぼんやりと見つめながら、弟は小さく笑った。

「……トゥール」

 いつからだろう。弟を、バケモノとしてしか見られなくなったのは。ルーカスがもっと幼い頃、母と共にまだ赤子のバケモノを見つめて、笑っていた日のことを思い出していた。

『オレ、おにいちゃんだから!』

 “どんな姿でも、世界にたったひとりの弟で、大切な家族だ。”
 そんなふうに思ったことだって、確かにあったのだ。
 息がしづらくなってきたのは、火事のせいだけでは無かった。
 いつの間にかこの部屋にも炎が回ってきていた。自分たちの周りを耐え難い熱気とオレンジ色の光が包む。部屋に充満する煙で噎せてしまう。

「ルーカス、早く出ないと」

 弟に腕を引かれて、窓の側まで連れて来られていた。
 窓枠には所々鋭い硝子片が付いていたため、窓枠に触れないよう、飛び込むような形で外に脱出した。上手く受け身を取れずに、ルーカスは地面に肘やら背中を打ち付けて、おまけに落ちていた硝子の欠片で腕に切り傷ができた。
 立ち上がろうと、地面を押した瞬間、右手に激痛が走って、初めて自分が酷い火傷を負っていたことを知る。
 ルーカスはなんとか立ち上がって、家の中を見た。煙に噎せながらも、バケモノは炎を背に佇んでいて。

「……おい、バケモノ。ちょっと来い」

 呼ばれると、素直に窓枠に寄ってきたバケモノを見つめて、それで、自分がどうしてそんな行動を取ったのか。薄い酸素のせいでまともな判断をできなかったのかもしれない。
 気が付いたら、ルーカスは無理矢理バケモノの腕を掴んで、自分の方に引き寄せていた。

「ちょっと、ルーカス痛い、やめて、痛っ」

 無理に引いたせいで、窓枠の硝子片で体の至るところに傷を作りながらも、バケモノも家の外に転がり出ていた。
 痛みに顔を歪めながら、バケモノはルーカスを困惑したように見上げる。

「なんで、助けたりなんか」
「ちげぇよ。オレは、オレの手でてめぇを殺したいんだ」

 バケモノは黒目がちな目を見開いて、言葉を失っていた。驚いたときの、瞳孔の開いた爬虫類の瞳は相変わらず気色悪いと感じた。

「早く行けよ。村のヒト達、お前が生きてんの見たら殺しにくるぞ」

 深夜であっても、これだけの炎だ。既に数人の野次馬や、火を消そうと奮闘する人影もあった。火の手が薄いこちら側ですら、恐らく窓の割れる音を聞いて寄ってきたのか、離れたところからこちらを見守る人間もいた。
 バケモノはルーカスを一瞥してから、ぱっと何処かへ走り出して行った。そうして、火の粉の舞う闇夜に消えていく。

 ルーカスは焼け爛れた右手を握り締めて、バケモノの消えた方向を睨みつけた。
 この誓いが果たされる日は来るのか。自分がバーコードを殺せる立場になれるのか、それまであいつが生きているのか。微かに脳を過る可能性を、一々気にしているようでは復讐は遂げられないだろう。
 必ずいつか、このバケモノを。トゥールを殺す。燻る憎悪と怒りを秘めて、ルーカスは闇夜を寡黙に睨み続けた。

Re: AnotherBarcode -アナザーバーコード- ( No.14 )
日時: 2020/12/07 15:51
名前: ヨモツカミ (ID: 6fVwNjiI)

【番外編】No.06 さよなら、幸福。またいつか。

(No.02読後に読むことをおすすめ致します!)

 こんな、薄い布を被っていても肌寒い夜。それでも母が隣で寝てくれるから、寒さなんて気になったことはなかった。
 先に布団に横になって、目を閉じていたのに、母が来る気配は無い。薄暗い部屋でぼうっとしていると、突然、耳を劈くような、甲高い悲鳴が聞こえてきて、クラウスは思わず跳ね起きた。
 なに、いまの。
 耳を澄ませていると、酷い騒音が続き、得体の知れない音が怖くて、クラウスは、きゅっと薄い布団を握り締めてじっとしていた。悲鳴。これは母のものだ。そこに知らない誰かの笑い声が交じる。床や壁を殴りつけるような音。また悲鳴。
 怖くてたまらなかったが、じっとしていられなくなって、クラウスは音の正体を確かめに玄関に向かった。

「おかーさん」
「来ないでクラウスッ──」

 母の背中と、その奥で知らない男が、身の丈程もある大きな刃物を振り下ろすのが、見えた。それが母の右肩から、胸を通って腰に振り切られる様子。クラウス側に崩れ落ちた母の、限界まで目を見開いた恐ろしい顔が、こちらを見ていた。

「…………おかあ、さん?」

 血走った金色の瞳は、急速に光を失っていって。鉄錆の臭いの中に沈んだ体は、ピクリとも動かなくなった。
 瞬間、足の感覚が無くなって、立っていられなくなる。指先が冷える。心臓が痛いほどに跳ね回る。体中がガタガタと震えて動けそうもなかった。

「ああ、子供がいたのか」

 男はそう言って、深く息を吐き出すと、持っていた大きな剣を放り投げた。床にぶつかるガシャ、と無機質な音がして、刃先についていた赤色がそこらじゅうに散った。母親から溢れ出るものと同じだということくらい、クラウスにも理解できた。この色彩が母の中から失われていって、多分もう動かないこと。10歳を超えたばかりのクラウスでも、それくらいのことはわかった。だが、“死”というものは、明確に理解できなかった──というより、しようとしなかったのかもしれない。
 ぼくはどうなるのかな。おかーさんと、おなじように動けなくなっちゃうのかな。母の遺体の顔を覗き込みながら、ぼんやりとそう思った。
 男はその場に膝を付いて、両手で顔を覆った。それから、苦しそうに歯を食いしばって、しばらく唸っていた。押し殺すような、引き攣った声が、感情が内側から溢れて塞き止められないみたいに。
 ごめん。ごめんなあ。上擦った声を聞いて、ようやく男が泣いていたことを知った。クラウスは横たわった母と嗚咽を堪える男の姿を、黙って見ていた。このヒトはどうして泣いてるのか。おかーさんはなんでこんなことになっているのか。狼狽するクラウスの様子を気にすることもなく、男はただ、謝罪を繰り返した。

「……おれだって誰も殺したくなんかない、おれにも妻と子供がいたんだ、もう生きてるかどうかも、覚えてないけれど、もしかしたらおれが殺したのかもしれないけど、殺したくないのに、楽しいんだ、わからなくなる、おれがもうひとりいるんだ、そいつはこうやってヒト殺して笑ってるようなやつで、おれじゃない、違うんだ、ああ、ごめん、本当にごめん、おれはこんなこと、こんなこと……ああ、楽しくて、しかたない」

 男が自らの顔を覆っていた両手をそっと離した。優しげな向日葵色の瞳が、潤んで揺れていた。彼の顔は、母を動けなくさせた人物とは思えないほど、穏やかだった。

「逃げて、くれないか」

 男は腕を震わせながら、先程放った大剣を握り締める。

「すぐに逃げて、近くの大人に言うんだよ。紅蓮バーコードに、殺されそうになったって。いいね? そしたらおれはそれを追いかけて……追いかけて、追いかけて、追いかけて、ころ、す、ころす、から」

 優しげだった男の表情が、一瞬で豹変するのをクラウスは見た。巨大な刃物が振り上げられる。

「ひぃ……っ」
「早く逃げろや餓鬼ぃぃぃ! アハハハハハハ、は」

 恐怖に竦んだ両足は、見えない誰かに掴まれているみたいに上手く動かすことはできなくて、自然と力が抜ける。尻餅をつくような形で倒れ込んで、クラウスはそのまま動けなくなった。

「逃げろって言ったのにおれの言うことが聞けねぇのかよアハハッアハハッハハッ」
「や、やだ、たすけて」

 銀色にギラリと光る刀身が振り上げられる。その勢いで付着していた赤色が滴る。こわい。こわくてたまらない。だがもう、いつも守ってくれていた母は動かない。歯がガチガチと鳴る。
 涙で濡れた頬を無理矢理吊り上げて笑う男の顔は、泣くよりもずっと辛そうに見えた。

「──いたぞ! 紅蓮バーコードだ!」

 不意に、男の背中側から知らないヒトの声が響いた。

 それから、鼓膜を震わせる破裂音が、1発。続けて3、4発。
 耳を塞ぐ間もなく響いた音が銃声だと気が付いたのは、男の額、それから左胸、右腕、右肩、左太腿。点々と赤い色が着いていて、それがじわじわと、紙の上に水を垂らしたときみたいに侵食していったのを見てからだ。
 ガラン、と甲高い悲鳴を上げて男の腕から落ちた大剣は、男が膝をつく頃には消失してしまって。傾ぐ彼の体は、母の遺体に重なるようにして倒れた。

 その後、唖然とするクラウスの元に、ぞろぞろと大人のヒトが集まってきて、「もう大丈夫」とか「怖かったね」なんて、優しい言葉をかけてくれて、わけがわからないままに何処かへ連れて行かれて、知らないヒト達に何度も同じような質問をされて。クラウスにはシンセキやミヨリの言葉の意味も分からず、ただ、困惑していた。

「ねえ、おねーさん」

 連れてかれる途中に、俯いていた青い首輪を付けた女性に声をかけたのは、彼女が比較的若くて話しかけやすそうだと思ったからだ。
 クラウスに見上げられていることに気が付くと、ブロンドアッシュの肩に付くくらいの髪を耳にかけながら、彼女は薄く笑った。優しげな顔立ちのヒトだった。彼女はできるだけ穏やかな声色を作って、クラウスに問う。でも、声は微かに震えていた。

「……どうしたの。不安かい」
「うん。ねえ、ぼく、これからどこに行くの? おかーさんとは、いつ会えるの?」

 一瞬目を見開いてから、彼女は困ったように笑った。その笑顔が、僅かに母と似ている、と思った。
 彼女は後ろ手に隠していた物を腰のホルダーに仕舞い込んでから、クラウスと目線が合うように屈むと、柔らかく髪を撫でてくれた。

「悪いね。私も詳しいことはわからないんだ。でも、独りが怖かったら、私もできるだけ側にいてあげるから。そんな顔しないで。ね?」

 灰色の瞳は優しく細められていたが、彼女は微かにあの男と同じ──鉄錆の臭いを纏っていた。


***
本編No.02の加筆修正していたらふと書きたくなった話。突発的だからなんか雑な感じしますね()
この時点でのクラウスは死というものを理解しきってないでしょうけど、でも、確実にこの日のことはトラウマになっているんたろなと思って書いてました。本編より7、8年くらい前の話。


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