複雑・ファジー小説

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アスカレッド
日時: 2021/06/11 01:43
名前: トーシ (ID: WglqJpzk)

 ヒーローって、何だ。

  *

 《COLOR》と呼ばれる異能力が存在する社会。
 瀬川飛鳥は、10年前に自分を助けてくれた『ヒーロー』に憧れながら生きてきた。
 高校2年生のある日、飛鳥は席替えで水島青太と隣同士になる。青太は《COLOR》を持たない人間——の、筈だった。

  *

 閲覧ありがとうございます! トーシです。
 今回、初めて小説を書かせていただきます。異能力現代バトルものです。
 どうぞよろしくお願いします。

  *

目次
(☆挿絵付き ★扉絵付き)
 
プロローグ カラーボーイ
>>1

第1話 アオタブルー
>>2 >>3 >>4 ☆>>6 
>>8 >>9 >>11 >>12  ☆>>13
(一気読み >>2-13)

第2話 ミクロブラック
>>16 >>17 ☆>>18
>>19 >>20 >>21 >>22
>>23 >>24 >>25 >>26
>>27 >>28
(一気読み >>16-28)

第3話 ハイジグレー
>>31 >>32 >>33 >>34
>>35 >>36 >>37 >>38
>>39 >>40 >>41 >>42
>>43 >>44 >>46

第4話 シトリホワイト
第5話 ********
エピローグ アスカレッド

  *

その他

クロスオーバー・イラスト(×守護神アクセス)
>>10
PV(『闇の系譜』の作者さんの銀竹さんが作ってくださいました!)
>>34
閲覧数1000突破記念イラスト
>>15
閲覧数3000突破記念イラスト
>>30


  *

お客様

荏原様
日向様(イラストをいただきました!>>14)
立花様

スペシャルサンクス

藤稲穂様
水様
四季様
しろながす様

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記録

4/13 連載開始


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Twitter @little_by_litte
ハッシュタグ #アスカレッド

プロローグ ( No.1 )
日時: 2018/04/30 16:44
名前: トーシ (ID: NVMYUQqC)

プロローグ カラーボーイ

 10年前のことなんて、ある一点を除いて、ほとんど覚えていない。あの頃の彼は普通の小学生で、取りたてて珍しいこともなかった。少しは他の友達より目立つ存在だったかもしれない。けれど、本当に少し、なのだ。
 そんな彼が、10年前の夏の日、周りの子供たちより一足早く大人になった。
 大人になった、というよりは、確固たる夢を見つけた。
 その日、彼は遅くまで友達と遊んでいた。5時のチャイムはもう随分と昔に鳴ったような、そんな気がしてくるほど遅い時間まで、彼は公園の中を駆け回っていた。友達の家はその公園の近くにあって、彼の家はそこから遠い場所にあった。だから彼は独りきりで帰途についていた。
 長く伸びる影を引きずりながら独りぼっちで歩く。その日の空は、今までに見たこともないような色をしていた。ざわざわと、雑音がヒグラシの声と混じっていた。真夏なのに少年の肌は粟立ってた。
 歩いていた彼は、角を曲がったところで走り出した。
 ぱたぱたと、靴底の音が、静かな道に寂しく消えていく。早く速く。焦る気持ちに足は上手くついていかず、彼は前に倒れるように転んだ。掌と膝小僧を擦った。薄い表皮の下から血が滲み出てきて、じんじんと痛み始める。
 鼻の奥がつん、とした。自分の掌が歪んで見えて、それでも泣き出さないように、彼は唇をきつく結んだ。ふと、小さな身体に影がかかった。

「どうしたの、転んだのかい?」

 少年が見上げると、そこには男がいた。男は膝に手をついて、少年を見て笑う。ゆっくり頷くと、男は少年に手を差し出しこう言った。

「痛そうだね。ちょうど絆創膏を持っているんだ。車の中にあるから来なさい」

 男の後ろ、少し離れた道の途中に古いワゴン車が停まっていた。
 少年は男の手を取った。分厚い肉とかさついた肌の手は、思っていたよりずっと冷たかった。そこでやっと、彼はこの男について行っちゃダメだと気が付いた。

「あ、あの……僕、いいです。絆創膏なくても、帰れます」

 鳥肌は一層ひどくなった。嫌な汗が流れて、Tシャツが背中にひっつく。少年はもう男の手を握ってはいなかったが、男は少年の手をしっかりと掴んだまま放そうとしない。足を踏ん張ろうとしても、恐怖と怪我のせいで、それはよたよたと男と同じ方向に動いていく。
 こういうときは、大声をあげて助けを呼ぶか、防犯ブザーを鳴らさないといけない。それから、それから。学校で教わったことが頭の中を流れていくけれど、喉も、手も、腕も、足も動かない。ワゴン車がどんどん近くなっていって、ドアが開けられて。

「いや……だ……僕、もう帰……っ」

 彼は容易く、生温い空気が充満する車内に押し込まれた。ざらざらしたシートの上に乱暴に乗せられる。薄暗くて狭い空間。スモークガラスで外の様子はほとんど見えない。息が止まりそうになった。そして、男の方に振り向こうとした少年に、手とは違うものが触れた。それは紐だった。男の手首の辺りから生えた紐は、少年の細い腕に巻き付いて、そのまま首を捕らえて、ぎゅっと締め上げた。視界が暗闇に侵食されていく。
 しかし、次の瞬間、闇を光が裂いた。
 締め上げる力が突然になくなって、かと思えば、少年を惨たらしく締め付けていた紐まで、あっという間に粒子になって消えた。驚いてドアの方を見ると、そこに男は立っていなかった。代わりに、車体の横から車輪が回る音が近づいてきて、ドアの前でそれは止まった。あか色。車椅子に乗った男子学生は、片手にあかい炎を燃え上がらせながら、ちらりと少年に視線を投げた。

「もう大丈夫」

 不敵に笑って、そう、言った気がする。
 炎はもっと大きくなって、時折大きく揺れてはバチバチと弾ける。少年が開きっぱなしのドアから顔を出すと、路上で片手を押さえて蹲る男と少年の間を遮るような位置に、男子学生は止まっていた。

「今すぐこっから去るか、それとも『コレ』を顔面に食らうか。選ばせてやるよ」

 男子学生の背中しか見えず、彼がどんな表情をしているのかは分からなかった。男の顔が悔しげに歪み、歯軋りをしていたことを考えると、彼は尚もニヒルで好戦的な笑みを浮かべていたのかもしれない。
 男は呻き声をあげて、両眼を見開いて、体を震わせている。すると、突然手を前に突き出して、男子学生——いや、その後ろの少年へ向かって空気を抉るように紐を伸ばした。
 ボウッと巨大な炎が翻る。火の粉の中で、塵が、灰が、粒子が落ちていく。あかい炎は、紐を一瞬で焼き払った。

「そうか——俺に、焼かれたいんだなァ!」

 男子学生が吠えるのと同時、炎が、膨張して、不死鳥の翼のように空を凪いだ。大気が焦げる。けれど、少年に火の粉が降りかかることはない。
 炎がすぐに収束したのは、きっと男が逃げたからだろう。男がさっきまでいたところには、既にその姿はなかった。
 降りて来いよ、と男子学生が手を差し出してくる。といっても、彼は少年がそのまま手を伸ばしても届かない場所にいた。だから少年は1人でワゴン車から降りて、痛む足で走って、車椅子の青年の手を握った。熱い手だった。

「怪我してる……アイツにやられたのか?」
「違う。これは、自分で転んじゃって」
「ん、そうか。でも、お前すごいなあ。よく泣かなかったな」

 エライな、と空いている方の手で少年をわしゃわしゃ撫でる。その割には優しい手つきで、少年の目からついに涙が溢れ出した。男子学生は笑いながら親指で涙を拭ってくれた。

「怖かったな」

 そうやって、手を引いて家まで送ってくれた。2人並んでゆっくり歩きながら、少年は隣の青年に尋ねた。

「お兄さんは、誰なんですか」
「普通の男子高校生だよ」
「……名前は?」
「うーん。それは内緒」

 少年が不思議そうに目を瞬かせると、青年はにっと口角を上げた。

「『ヒーロー』は、名乗らないのがかっこいいんだ」

 ヒーロー。
 その言葉が、少年の見る景色とともに強く脳に焼きつけられた。あかい髪、あかい瞳の、車椅子に乗ったヒーロー。
 だからお礼はいらないぜ、と青年は手を放した。そこは少年の家の前だった。彼は手をひらひらと振ってすぐどこかに行ってしまったので、少年はお礼を言えなかった。

 ああ、でもやっぱり、助けてくれてありがとう、と伝えたかった。10年前のことを後悔したって仕方ないが、自分の人生はあの日、彼と出会ったことで大きく変わったのだから。
 そういえば、あの日の空は赤かった、とふと思い出す。
 瀬川飛鳥せがわあすかの眼には、今でも、あの『あか』が映っている。


NEXT>>2

1−1 ( No.2 )
日時: 2018/04/19 23:58
名前: トーシ (ID: NVMYUQqC)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=905.jpg

第1話 アオタブルー

1−1

 朝だというのに、空は雲に覆い隠されてくすんだ色をしている。きっと、1限目の間に降り始めるだろう。登校中に降らなかったのは幸運だったな、と瀬川飛鳥せがわあすかは片手に持った傘をちらりと見て思った。
 玄関の傘置き場にそれを置いて、飛鳥はいつものように上履きを履く。すれ違う同級生と挨拶を交わしながら、彼は自分の教室に入る。そして、一瞬動きを止めた。自分の席に自分ではない男子生徒が座っていた。座る席を間違えたのだろうか。そこ僕の席だよ、と声をかけようとして、飛鳥はそこで昨日のクラスラインを思い出した。
 この2年B組では2ヶ月ごとに席替えが行われる。進級直後の学級ホームルームでそう決めたのだ。それから2ヶ月経って、今日が初めての席替えだった。
 昨晩、クラスラインに貼られていた新しい座席表を思い出しながら、飛鳥は教室の後ろを歩いていく。確か自分の席は、と記憶を頼りに、飛鳥は教室の1番後ろで窓から2列目の机に鞄を置いた。
 
「瀬川くん、おはよう」
「おはよう、潮田さん」

 飛鳥の右隣、窓から3列目に座っていた女子が飛鳥に話しかける。彼女は、飛鳥が名前を呼ぶと嬉しそうに微笑んだ。

「私、瀬川くんと隣の席だって知って、昨日すごくテンション上がっちゃって。今日はね、学校に来るのとっても楽しみだったの」

 飛鳥はそれに薄く笑って答える。彼にとって、女子を相手にして話すのに今更どぎまぎするようなことはなく、教科書を机に入れながら言葉は自然に出てきた。

「そう言ってもらえると、僕も嬉しいよ」
「なんか、学校に来る目標ができたなあ。最近蒸し暑くなってきたから、登下校すら億劫なんだよね」
「もう梅雨だからね。潮田さん、今日から夏服なんだね」
「気付いた? 今朝、急いで出してきたの」

 アイロンとか十分に出来てないんだよね、と潮田は恥ずかしそうに自分のセーラー服を撫でた。セーラー服の上で、色素の薄い髪が静かに揺れる。

「瀬川くんも今日から夏服だよね、お揃いだね!」

 潮田はじっと、飛鳥の琥珀の目を見つめて笑った。潮田の目は鮮やかな桃色をしていた。飛鳥はその時初めて、この女子生徒の目を直視した。眼前で輝く、一対の色彩。宝石のようにも思える。こんなにもはっきりとした色をしているなんて知らなかった。飛鳥は無意識に息を止めて、しかしすぐに意識を取り戻して「そうだね」と、息を吐き出した。 
 朝から気分が重い。窓の外の空を見てしまえばもっと沈みそうで、飛鳥は潮田の声に空返事をしながら、彼女を見ないように教室を見渡す。始業までに15分はあるが、教室にはクラスメイトのほとんどが揃っていた。茶色、焦げ茶、亜麻色、橙色、金色。それだけではなく、まるでアッシュカラーで染めたような、桃色、藤色、彩度の低い緑色。
 もちろん、自由な髪染めが許されるほど、この高校の校則は緩くない。中にはこっそり染めている生徒もいるかもしれないが——大抵の生徒はそれが生まれつきのもので、あちらこちらでカラフルに煌めく目も、また同様だった。
 自分の高い背が後ろの邪魔にならないな、とついさっきまで安心していた飛鳥だったが、こうもよくクラスメイトが見えてしまうとなると、新しい席はあまりよく思えなかった。その上、隣には自分によく話しかけてくる『色鮮やかな』女子生徒がいる。
 次の席替えはまだまだ遠い。さらに2ヵ月後に思いを馳せながら、ふと、左隣が空席であるのが見えた。教室の隅の席。ここには誰が来るのだろうか。まだ登校していないクラスメイトを考えていると、突然脳裏を黒色がよぎった。真っ黒な髪の毛。そして黒く光る両目。完全な黒髪黒目が逆に珍しいこの教室で、それでも目立つことのない、大人しくて地味な男子生徒。

 ああ彼だ、水島青太みずしまあおただ。

 飛鳥は青太について、よく知っているわけではない。高1の時は別のクラスで、今年初めて同じクラスになったばかりの生徒だからだ。
 運動はまあまあできるが、勉強は少し苦手なようで、けれどどちらも平均に分類される程度。自己主張をあまりしないので、クラスの中心にはなれない存在。でも誰とでも問題なく話せるし、仲のいい友人と楽しそうにお喋りしているのをよく目にする。言ってしまえば、どこにでもいる、普通の、平々凡々とした少年。
 そしてなんとなく、彼は『無色』なのだろうなと思っていた。何の色彩も持たない髪と目は、一般的に『無色』である証拠となる。それに彼は、友人に自分は『無色』だと話していたような。やはり水島青太は『無色』なのだ。
 予鈴が鳴り響いて、飛鳥は考えるのを止めた。授業開始まであと5分。隣人はまだ来ていない。生徒達はお喋りをやめて、自分の机の上に教科書やノートや筆記用具を出し始める。カーテンがふわりと揺れる。湿った風が、教室に静寂までもたらしたようだった。
 そういえば、潮田さんとの会話はいつ終わったんだろうか。彼女をちらりと見ると、特に不機嫌な様子はなく、普通にしていた。どうやら上手く対応できていたらしい。
 また、カーテンがたなびく。雨のにおいがする。予想通り1限目の間に雨は降り出すのだろう。それで晴れたらもっと蒸し暑くなる。まあ下校の時に晴れたなら、それはそれでいいだろう。
 飛鳥が窓を閉めようと立ち上がるのと同時に、静けさを裂く足音が聞こえた。

「隣、瀬川なんだな。おはよう」

 青太が教室に入ってきて、早足で真っ直ぐこちらの方に歩いてきて、飛鳥にそう言った。目が合った。

「おはよう、水島」
 
 飛鳥は立ったまま、動けなかった。初めて青太と目を合わせた気がする。彼の目はやはり黒かったが、なぜだかその奥に青を湛えているような気がした。海の底の、青が濃くなって黒のようになったところと同じ色のような気がした。
 青太はリュックサックを机の横にかけた。そして椅子に座る前に、あ、と呟いた。

「窓、閉めたほうがいいよな」
「あ。うん、よろしく」

 青太は人のよさそうな笑顔のまま、窓枠に手をかける。その時一際大きな風が吹いて、飛鳥の前髪を煽った。自分の白い髪が揺れる向こうで、飛鳥は青太の黒髪が翻るのを見た。そうして、普段彼の耳にかかっている髪の毛の、奥の色が覗いた。
 晴れた日の海のような、濁りのない青色が覗いた。
 涼しい、と青太は零した。飛鳥にとっては、自分の顔に触れていくその風は冷たかった。 

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