複雑・ファジー小説

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アスカレッド
日時: 2021/06/11 01:43
名前: トーシ (ID: WglqJpzk)

 ヒーローって、何だ。

  *

 《COLOR》と呼ばれる異能力が存在する社会。
 瀬川飛鳥は、10年前に自分を助けてくれた『ヒーロー』に憧れながら生きてきた。
 高校2年生のある日、飛鳥は席替えで水島青太と隣同士になる。青太は《COLOR》を持たない人間——の、筈だった。

  *

 閲覧ありがとうございます! トーシです。
 今回、初めて小説を書かせていただきます。異能力現代バトルものです。
 どうぞよろしくお願いします。

  *

目次
(☆挿絵付き ★扉絵付き)
 
プロローグ カラーボーイ
>>1

第1話 アオタブルー
>>2 >>3 >>4 ☆>>6 
>>8 >>9 >>11 >>12  ☆>>13
(一気読み >>2-13)

第2話 ミクロブラック
>>16 >>17 ☆>>18
>>19 >>20 >>21 >>22
>>23 >>24 >>25 >>26
>>27 >>28
(一気読み >>16-28)

第3話 ハイジグレー
>>31 >>32 >>33 >>34
>>35 >>36 >>37 >>38
>>39 >>40 >>41 >>42
>>43 >>44 >>46

第4話 シトリホワイト
第5話 ********
エピローグ アスカレッド

  *

その他

クロスオーバー・イラスト(×守護神アクセス)
>>10
PV(『闇の系譜』の作者さんの銀竹さんが作ってくださいました!)
>>34
閲覧数1000突破記念イラスト
>>15
閲覧数3000突破記念イラスト
>>30


  *

お客様

荏原様
日向様(イラストをいただきました!>>14)
立花様

スペシャルサンクス

藤稲穂様
水様
四季様
しろながす様

  *

記録

4/13 連載開始


  *

Twitter @little_by_litte
ハッシュタグ #アスカレッド

2−13 ( No.28 )
日時: 2018/09/16 00:41
名前: トーシ ◆zFxpIgCLu6 (ID: GMnx0Qi.)

2−13

「風か」
「……風?」

 飛鳥の呟いた言葉に、海黒が訊き返す。もう1人の《COLOR》の正体だよ、と言えば、彼女は少し納得したような顔つきになった。

「地下道で海黒さんが『もう1人の《COLOR》』を迎撃した時、風が吹いたような気がしたんだ。それに風なら、目に見えなくたっておかしくはない」

 そういえば地下道で撃ち返した『目に見えない何か』は、青太の壁を貫通した後、青い粒子を纏っていた。あれはただ風が粒子を運んでいただけだったのだろう。
 おそらく風の《COLOR》を持つ方は、追い風を起こし片割れの攻撃を支援していたのだ。だから速さを得た水泡や水刃に海黒の鉄塊が押し負け、攻撃を防ぎきれなくなった。 
 つまり、風の《COLOR》を所持している方を行動不能にすれば、少なくともこの不利な状況は覆せる。
 目標は決まった。ではその過程をどうするか。手を狙うのは、海黒にも指摘された通り難しい。そして、片手だけ狙っても意味がない。できれば両手を使えなくしてしまいたい。
 飛鳥は思考する。別に手の平を狙わなくてもいい。腕、もしくは肩が動かなくなれば、それだけで《COLOR》の精度は格段に下がる。
 青太がやったように、こちらの攻撃が相手に当たればいいのだが、青太の水泡だってたまたま命中しただけだろうし、コピーする方の《COLOR》所持者が実質的な盾となっている現状では攻撃しても意味がない。
 そちらを攻撃に集中させて防御を疎かにさせる。その上で風の《COLOR》所持者の方に、片割れの動きを把握させなくする。そうすれば。

「水島、海黒さん。まだ、動けそうか」
「いけるぜ」
「大丈夫です」
「分かった。じゃあ、地下道に向かって走るよ」
「そんなことしたら、『相手』は攻撃してくるんじゃないのか」
「ああ。攻撃、させるんだよ」

 飛鳥の言葉に、2人は疑問符を浮かべた。わざと攻撃「させる」なんて普通ならおかしなことだ。しかし飛鳥は、言葉を濁さずに滔々と続ける。

「攻撃させて、こちらは迎撃する。《COLOR》同士がぶつかり合えば、光子や欠片が宙に舞って、視界が悪くなる。そんな中で《COLOR》を撃っても当たる確率は低い」
「当たらないのなら、むしろ相手は攻撃してこなくなると思いますけど」
「確かにそうだね。でも、奴らは僕たちを逃がしたくない筈だ。だから地下道の方向へ動き出した瞬間、奴らは必ず攻撃を仕掛けてくる」

 『相手』は自分たちを逃がすまいと、距離を詰めてくるだろう。そんな中で《COLOR》を使えばどこに当たるか分からない。もしかしたら仲間に当たるかもしれない。しかし攻撃を止めれば自分たちを捕らえ損ねてしまう。それにこちらが攻撃を続ければ、相手は《COLOR》を使わざる負えなくなる。
 その混戦の中で標的の腕に攻撃が当たれば、この状況を打開できるかもしれない。
 我ながら、無茶苦茶な作戦だと思う。成功率だって高くはない。しかしもう考えている余裕はなかった。

「水島は棘の方を防いで。棘が生成される時に音が鳴るから、その音に集中するんだ。海黒さんは水泡と水刃に対応して。もしかしたら、途中で海黒さんの鉄塊も模倣されるかもしれないけど、でも相手は必ず追い風を使ってくる。地下道で青い光子を纏っていたのなら、雨粒だって巻き込むはずだ。注視すれば、早い段階で防げるかもしれない」

 ——行くよ。
 飛鳥の声を合図に、彼らは動き出した。同時に前からは水泡が、後ろからは棘が襲い掛かる。飛鳥の予想通りだった。
 青太はガラスを破壊していく。間近に生成された棘はすぐに、少し離れたところに生成されたものには成長しきってから水刃をぶつければ、大量のガラス片が視界を覆った。
 海黒は上体を開いて鉄を連射する。彼女は片腕だけでバランスをとりながら、自分を抱える飛鳥を守るように、鉄塊が列なる鉄の羽を掲げている。今空中に生成されている鉄塊が、彼女の残弾の全てのようだ。
 景色はやがて霞み始める。青い光子が、黒い粒子が、ガラスの破片が、雨が視界不良を招くが、それでよかった。飛鳥は見えない分、周りの音に耳を澄ます。
 何が起こっているのかを正確に把握しているものなんて、この中にはいない。だから、ガラスの棘が誤って仲間に刺さりそうになっているのだ。
 地下道まであと10メートル。
 風の《COLOR》所持者が目の前に立っている。
 そいつは手の平をこちらに向けていたが、青太の放った水泡がそいつの左腕を打ち、ガラスの棘が右腕をわずかに抉った。相手の動きが止まる。
 粒子の晴れ間に、飛鳥は地下道への入り口を見た。いける、と飛鳥は大きく踏み出す。

 次の瞬間、爪先を棘が掠めて、瞬きする間もなく眼前に棘の障壁が現れた。
 飛鳥の身長の倍はあるガラスの壁だ。または砦のようでもあった。棘自体は透明だが、地下道の入り口から飛鳥の眼前まで幾重にも立ち並んでいるようで、奥の景色は全く見えない。
 更に飛鳥たちの横にも背の高い棘が生成されており、逃げられそうにもなかった。
 まさか、こんなに背の高い棘を、一瞬で、しかも大量に生成できるなんで思っていなかった。『相手』の体力だって青太との戦闘でかなり削がれている。だから、もう自分たちの行く手を妨げることはできないと思っていた。『相手』の《COLOR》を完全に見誤っていたのだ。
 『相手』の呼吸は荒いが、その口は下賤な曲線を描いている。そうして、模倣の《COLOR》所持者が前に出てきて、片手を掲げた。
 海黒の《COLOR》をコピーしたのだろう。空に、黒々と光る鉄の八面体が並んでいる。それらは全て、こちらに矛先を向けていた。
 海黒は「すぐに殺されるわけじゃない」と言っていた。彼女は岬紅野の妹だから、情報を聞き出す為に生かしたままにしておきたいのだろう。では、青太はどうか。岬紅野は青太に拘っているから、青太を手中に収めれば敵対勢力に有利に出られるかもしれない。
 つまり、本当に邪魔なのは自分だけ——そう考え付いた時、全ての矛先が、自分に向いている気がした。
 真ん中の鉄塊が放たれる。飛鳥は思わず目を閉じた。そして見た。

 闇を、光が裂くのを。

 一瞬にして、瞼の裏を、煌々と輝くあか色に染め上げられた。ゆっくりと目を開くと、雨が降っているというのに、炎の残映が、不死鳥が落とした羽のように舞っていた。
 こちらへ放たれた鉄塊は全て焼き払われていた。無残に落ちていく塵の向こうで、『相手』は目を見開き、喉を引き攣らせ、攻撃の構えのまま硬直している。
 『相手』は、飛鳥たちの背後にある地下道への入り口を凝視したままで、飛鳥もそちらへ視線を向けた。
 そこには、先程まで自分たちの行く手を塞いでいたガラスの棘は無かった。代わりに灰が散らばる地面と、人影があった。
 それは、車椅子に乗った青年と、それに従うパーカーの少年。駅前で2回だけ出会った、あの2人だ。
 どうしてこんなところにいるのだろう、と疑問に思う飛鳥の隣で、海黒がぽつりと零す。

「……お兄ちゃん」

 お兄ちゃん——そうか、あの2人のどちらかが岬紅野なのか。
 パーカーを着た少年は「ハイジ」と呼ばれていたから、青年の方が岬紅野なのだろう。あかい髪にあかい目をした、10年前のヒーローと似た姿をした青年が、岬紅野。
でも彼は自分を助けてくれたことを否定した。それに岬紅野は「犯罪者」だと青太が言っていた。ヒーローが犯罪者なんてあり得ない。あり得ない、筈なのに、岬紅野は10年前のヒーローではないと否定しきれない自分がいる。
 ハイジはフードを深く被って、棘の《COLOR》所持者の方へ歩いていく。その迷いのない足取りに『相手』は呆気にとられていたが、ハイジが丸腰のまま自分の攻撃範囲に入ってきたことに気が付くと、ニヤリと笑って、ハイジの眼前に棘を生成し始めた。何もしなければ、あの棘はハイジの胸を貫くだろう。
 青太が慌てて、片手に水泡を作り出す。しかし、それが放たれることはなかった。

「……無駄だ」

 ハイジは腕を伸ばして、右手の指先でガラスの棘を受け止めた。
 次の瞬間、ガラスが切っ先から灰になって崩れた。音など無かった。
 ハイジは無感動に腕を降ろして、また歩み始めた。雨でぐちゃぐちゃになった灰を靴の裏に付着させながら、一歩、また一歩と『相手』との距離を詰めていく。
 地下道の前で障壁となっていた棘も、ああやって突破したのだろう。地面に薄く積もっていた灰は、彼の《COLOR》の跡形だったのだ。
 徐ろに、彼は濡れて重くなったフードを脱いだ。灰色のような髪、血色の悪い肌、鬱血痕のような隈。まだ丸みを帯びている頬には、大きなガーゼと絆創膏が貼られている。耳元で煌めくピアスが、彼に不良じみた雰囲気を与えているが、彼の瞳は不良には不釣り合いな程に澄んでいた。カラーフィルターを何枚も重ねたような、暗くて、透明感のある目。
 それは、驚愕で動けなくなった『相手』をしっかりと捉えていた。そして一切の躊躇いなく、『相手』の髪を掴み、顔面に膝を埋め込んだ。
 口元まで鼻血で汚して倒れた仲間を見て、再び鉄塊が撃たれる。しかしハイジは、それも手を翳して灰にしてしまった。
 分が悪いと考えたのだろう。『相手』はあっさりと撤退した。追いかける必要も、体力もなかった。
 ハイジは振り向いて、今度は飛鳥たちの方に歩く。そして海黒に手を伸ばした。飛鳥が彼女を庇って前に出ようとすれば、ハイジは飛鳥を乱暴に引き剥がした。

「無様だな」

 ハイジは海黒の腕を引っ張って、無理やりに彼女を立たせた。

「力が無いのなら大人しくしてろ。無力なくせに足掻いて、このザマだなんて笑えねえ」

 海黒が悔しそうに唇を噛むのを見て、ハイジは「はッ」と嘲る。

「紅野さんの気を引きたかったんだろ」
「——うるさいッ!」

 黙って項垂れていた海黒が、ハイジの手を振り払う。間髪入れずハイジは海黒の胸倉を掴んだ。
 しかし紅野が「ハイジ」と諫めると、彼はすぐにその手を離した。

「海黒、帰ろうか」

 紅野が笑っている。その微笑みが、姉が自分に見せてくれるのと同じものだと、飛鳥は思った。それを見つめ返す海黒は、笑っているような、泣いているような顔をしていて、小さく開かれた口は酸素を求めるように喘いでいた。
 やがて海黒が歩き出した。飛鳥が呼び止めれば彼女は一瞬だけ立ち止まったが、振り向くことはなく、紅野のもとへ行ってしまう。
 ハイジは大きな傘を開いて、岬兄弟を覆うように差し出した。
 
「君は——瀬川飛鳥くん、だったか」

 突然あかい瞳に見据えられる。やはり、同じだ。岬紅野の瞳は、10年前の夏の日に自分を助けてくれたヒーローと同じ色をしている。
 
「瀬川、紅野さんと面識あるのか」

 青太が焦ったように訊ねてくるが、飛鳥にはその問いかけはもう届いていなかった。
雨音が蝉の鳴き声のように聞こえてきて、まるで世界に自分と紅野の2人きりになったような気がしていた。
 紅野は雨に濡れるのも厭わず、自ら車輪を回して飛鳥に近付いてくる。そうして立ち竦む飛鳥の目の前で止まって、臙脂色の傘を手渡した。

「使うといい」

 飛鳥は不器用に傘を受け取った。ありがとうございます、と言うべきなのだろうが、言葉が出てこない。
 手元の傘と目の前の紅野との間で視線を泳がせていると、青太が2人の間に割って入ってきた。

「久しぶり、青太」
「お久しぶりです、紅野さん」

 紅野の声は柔らかく優しい。それが一層、青太の声が緊張しているのを際立たせる。
 青太に腕を掴まれて、飛鳥は怯んでしまった。彼の手がいつもと違って冷たかった。雨のせいだというのは分かっているが、その温度が、自分を襲ってきたあの男の手を一瞬想起させた。

「……じゃあオレたち、もう帰るんで。行こう瀬川」
「俺は瀬川飛鳥くんと話したいことがあるんだけど」
「瀬川には、紅野さんと話したいことなんてないと思いますよ」
「青太」

 邪魔をするな。
 紅野の声で、青太の手から力が抜ける。紅野は呆然とする青太を退けて、飛鳥を見上げた。

「妹を助けてくれてありがとう。器用ではないけれど、真面目でいい子だから……よければ、これからも仲良くしてやってくれ。それから」

 あかい目、あかい髪。水を含んでも変わらない色彩が網膜に突き刺さるようで。それが、ずっと焦がれていたあか色であることは間違いない筈なのに、左胸の拍動の正体が分からなかった。嬉しさも緊張も恐怖も、どれもが正しくて、全て違う。
 紅野が、息を吸った。

「——大きくなったね」

 呼吸が止まりそうになった。
 何も動かない。手も、頭も口も固まってしまって動かない。眩暈、反転、何かにひびが入る音。体温が失われていくのは、冷たい雨だけのせいではないのだろう。
 ああ間違いない。海黒と青太の心を絡めとり、暗い世界へ引き摺り込んだこの男は。

 岬紅野は、あかい——紅い色をした、10年前のヒーローだ。


第2話 ミクロブラック FIN.

NEXT>>31

Re: アスカレッド ( No.29 )
日時: 2018/09/07 00:29
名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: BBxFBYlz)

 こちらでは初めまして。いつもお世話になっております、立花です。
 今日は私の推しである海黒ちゃんのお誕生日ということで、どうやってお祝いしようかなぁと一週間前くらいからずっと考えておりました。
 そして前から感想をまとめてお伝えしたいと思っていたこともあり、第2話の「ミクロブラック」がちょうど完結したタイミングでしたので是非この機会に感想をと思いまして、お邪魔させていただきました。海黒ちゃん、おめでとう。そしてこんな可愛くて尊い海黒ちゃんを生み出してくれたトーシさんに最大限の感謝を!
 私は感想を上手く伝えるのが苦手なのですが、少しでもトーシさんのこれからの創作活動の応援ができたら幸いです。





 プロローグ「カラーボーイ」
 私はトーシさんの文章を読むのは多分この作品が初めてだった気がします。トーシさんの文章は前にもお伝えしたことがあると思うのですが、言葉選びが繊細で、美しく、それでもなおカッコよくて見惚れます。上手く伝えられないのですが、情景描写が巧みで、読んでいるだけで頭の中に文章中の光景が浮かんでくる感じです。特にこのお話で好きだったところが、少年飛鳥くんがワゴン車に乗せられたシーンです。飛鳥くんの恐怖心が痛いほどわかる車の中の「生温い空気」「ざらざらしたシート」「薄暗くて狭い空間」、こちらも息が止まりそうになるくらい苦しくなりました。このお話ででてきた「あか」がこれからの物語に大きく絡んでくるのだろうなと思うとどきどきしております。個人的にヒーローの飛鳥くんに「お前すごいなあ。よく泣かなかったな」で頭わしゃわしゃ撫でと「『ヒーロー』は、名乗らないのがかっこいいんだ」が好きです。

 第1話「アオタブルー」
 成長した高校生飛鳥くんの紳士っぽいところやばいなこれやばいなと潮田さんとの会話を読んで思いました。何この子かっこよすぎないですか。あと、飛鳥くんのお姉さんの白鳥さん。弟想いの優しいお姉ちゃんで飛鳥くんが戦う姉も、バイクに乗る姉も、どちらもかっこいいが物凄く共感しました。あと、ハヤシライス。ここ大事と聞きましたので、もう気になって気になって。あと女の子の連絡先を発見した白鳥さんの嬉しそうな顔とかもう最高で、ちょっと照れたであろう飛鳥くんの紙をくしゃっと丸めたシーンがもう家族っぽくて良いなと思いました。あと何回も言ってる気がしますが心配するのは自分が無色だからと尋ねた飛鳥くんに「弟だから」と答えた白鳥さんがもう死ぬほど好きです。この姉弟は本当に尊いなと一番感じたシーンです。
 また、危ないことをしてほしくないと思う青太くんと、君には関係ないと突き放そうとする飛鳥くんの、この最初の話のすれ違いがもんもんとしてしんどかったです。守りたい少年と守られるだけにはなりたくない少年がああああああ、こういう関係性が好きですありがとうございます。
 無色であることがコンプレックスのように感じている飛鳥くんの気持ちが酷く胸に突き刺さって、私も同じように苦しくなりました。それに対しての無色になりたかった青太くん、二人が全くの正反対で、歯がゆかったです。
 海黒ちゃんと飛鳥くんの会話。彼女の少し歪な雰囲気が文章内でふんわりと感じ取れて、彼女の笑顔が貼り付けられた笑顔と表現されていて、きっと彼女がこの先何か大きな事柄にかかわってくるのだろうなと思いました。
 海黒ちゃんの「私を助けてくれるのは、飛鳥先輩しか、いないから」とか「絶対に、すぐに、戻ってきてくださいね。私のところに、戻ってきてください」とかの台詞回しがもうすごく好きです。だんだん飛鳥くんを奪い合う関係になっていった海黒ちゃんvs青太くんのシーンを読んであれ、飛鳥くんめっちゃヒロインじゃんって思った立花の脳みそを誰か叩き割ってやってください。
 白鳥さんの「君の≪COLOR≫は、きっと誰かの役に立つ。いや、絶対に」という台詞がもうかっこよすぎて、でも飛鳥くんの気持ちを考えると、この台詞は青太くんじゃなくて自分自身に言ってほしかった言葉だったんだろうなとしんどくなりました。

 第2話「ミクロブラック」
 最初の飛鳥くんと青太くんの距離感の描写が好ぬほど好きです。ナニコレトーシサンスキ。
 駅前について電車じゃなくて歩いていこうぜっていう青太くんが最高すぎて、呆れたであろう飛鳥くんの気持ちがめちゃくちゃわかります。私は歩いて40分とか絶対無理です(笑) でもその理由をちゃんとわかってる飛鳥くんも優しくて、そんでもって理由が「2人で話がしたくて」っていう青太くんが可愛すぎて、このシーン読んでて物凄く癒されました。
 あと癒されたシーンといえば、白鳥さんが自販機で飲み物を買うときに「コーヒーでいいの?」と聞いた理由が「眠れなくなっちゃうかもしれないじゃない」ってのが、もう! なにこの姉弟尊い。 あと白鳥さんと青太くんが楽しそうに話してると飛鳥くんがむっとするシーン。ここも好きです。青太くんが白鳥さんの名前を舌の名前で呼んだ時に「馴れ馴れしく下の名前で呼ばないでくれるかな」って、自分のことじゃないのにもう、なにこの嫉妬! 可愛すぎて吐血しました。
 海黒ちゃんの台詞の中にあった青太くんへの感情が「劣等感」ではないか、という考察にきっと飛鳥くん自信が一番わかっていて、苦しんでいる。無色だから、無力だから、大人しく流されておいたほうがいい、海黒ちゃんの言葉はきっと正しいのでしょうが、飛鳥くんのことを考えると胸がとても痛かったです。
 あとパンケーキを食べる瀬川姉妹も良かったです。「姉さんと一緒に帰れるなんて、嬉しいな」って白鳥さんの前でだけ見せるこのデレが良い。可愛い。
 十年前、助けてくれたヒーローにようやく再会できたのに、覚えていないと突き放されたシーンはとても悲しかったです。でもそのシーンでようやくハイジくんがでてきて個人的に嬉しかったです。トーシさんのイラストで見た感じほんとドストライクです。かっこいい。
 自分が弱くて脆くて惨めだということも十分に理解したうえで、それでも海黒ちゃんを救いたいと思う飛鳥くんは、やっぱりかっこよくて、きっと今までにもずっとずっと苦しんできているはずなのに、それでも助けたい、守られるだけじゃなくて守る側の人間になりたいと願う飛鳥くんこそ本物のヒーローだと思いました。そこからの青太くんの「オレが、瀬川を守る」がもう最高でした。本当に飛鳥くんのことを大事に思っていて、きっと青太くん自身も飛鳥くんに救われたんだろうなって、この二人の関係性がやっぱり歯がゆくてちょっと泣きそうになりました。
 強がっていた海黒ちゃんが、傷つけて突き放そうとしていた海黒ちゃんが、ようやく「助けて」と飛鳥くんに言ったシーンは、胸がジーンとしました。海黒ちゃん自身も言ってることめちゃくちゃだってわかってて、それでもどうすればいいのかきっとだんだんわからなくなって、「独り」でずっと苦しんできたんだなと思ってしんどかったです。
 海黒ちゃんのお兄さんが、紅野さんが、あの時助けてくれたあのヒーローで、「大きくなったね」の一言が、私も呼吸が止まりそうになりました。海黒ちゃんとハイジくんの関係がもう気になって気になって仕方がないです。飛鳥くんに言っていたあの言葉はずっとハイジくんに「言われていた」言葉なのではないかなと思い、きっと彼女が今まで突き放すために言っていたあの言葉は同じくらい自分を傷つけていたのではないかと。しんどい!

 第3話はハイジくんがもっと出てくるのかな、楽しみだなと今からうきうきしています。文章をまとめるのが下手っぴで、長くなってしまって本当に申し訳ないです。これからも更新楽しみにしています。頑張ってください。

2018,9/6 立花

イラスト ( No.30 )
日時: 2018/09/11 22:11
名前: トーシ ◆zFxpIgCLu6 (ID: MneHsijM)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1010.jpg

 閲覧数が3000を突破しました! 記念にイラストを描きました(URLより)。3000回も読んでいただけたということで、とても嬉しいです。
 まだまだ拙い作品ではありますが、頑張って書いていこうと思うので、第3話以降もよろしくお願いします。

   *

以下、お返事。

>>29 立花さん

 この度は、感想ありがとうございます。たくさん書いていただいて、本当に嬉しいです!
 立花さんが挙げてくださったセリフや場面は、わたしの好きなセリフや場面でもあります。
 わたしは瀬川兄弟が好きなので、「馴れ馴れしく下の名前で〜」のところとかは、うきうきしながら書きました(笑)
 飛鳥と青太の関係にしろ、飛鳥と海黒の関係にしろ、簡単に一言で表せるものではないので、そういった曖昧なものを表現できていたらと思います。
 第3話は、さっそくハイジのメイン回なので、楽しみにしていてください!  
 お返事が短くてごめんなさい。これからも読んでいただければ嬉しいです!

3−1 ( No.31 )
日時: 2018/09/24 00:40
名前: トーシ ◆zFxpIgCLu6 (ID: CW6zBFcM)

3−1
 
 スマホのバイブレーションで目が覚めた。
 カーテンの隙間から白い朝日が差し込んでいる。半袖から出た腕に触れる空気は乾いても湿ってもいなくて、少し冷たかった。携帯端末の画面を見れば、数字は中途半端な時刻を示していた。
 階段を下りると、丁度玄関で靴を履いていた白鳥と鉢合わせる。寝癖のない白い長髪は背中にさらりとかかっていた。

「おはよう、飛鳥」
「おはよう姉さん。今日も早いんだね」
「まあね」

 ぼうっと立っていると白鳥に手招きされる。近寄って屈むと、白鳥は飛鳥の頬に手を添えて親指で目の下を撫でた。

「隈、できてるかな」
「ううん、大丈夫よ。……やっぱり寝てないのね」
「寝てないわけじゃないよ。最近は思うような時間には起きられてないけど」
「眠りが浅くなってるってことじゃない」

 白鳥は微笑んでいたが、声は苦々しいものだった。飛鳥が目線を落とすと、白鳥の手が頭に乗せられる。その温かみがなぜか居た堪れなくなって、飛鳥は僅かに身を引いた。

「母さんから、この前、飛鳥がびしょ濡れになって帰って来たって聞いたの」
「傘を忘れただけだよ」
「傘を忘れたからって、飛鳥は、濡れ鼠になって帰ってくるような子じゃないでしょ」
「……風邪はひいてないから」
「そういうことじゃないの」
「ちゃんと学校には行った」

 咄嗟に反論して返って来たのは溜め息だ。白鳥は飛鳥が逃げないように腕を掴むと、飛鳥の眼を真っ直ぐに覗き込んだ。
 白鳥の眼を見ると心がざわつくようになったのは、最近のことだ。それは普段の飛鳥と同じ琥珀色をしているが、その中には橙色も黄色も茶色もあって、透明な球体の中に絵の具のそれらが浮遊しているように見える。薄いコンタクトレンズに着色されただけの、飛鳥の偽物の琥珀とは全く違うものだ。
 
「飛鳥。明日は確か、塾はなかったよね」
「うん」
「明日の夜、絶対に帰ってくるから、だから……大事な話をしよう」

 うん、ともう一度頷いた。

「それじゃあ……いってきます」
「……いってらっしゃい」

 白鳥の姿が扉の向こうに消えて、外からの光が閉ざされた時、飛鳥は胸の奥が波打っているような気がした。
 真冬の海の、灰色の波が押しては返すような感覚。朝日に網膜を焼かれてしまったのだろうか、温かい色をしていた筈の扉が、飛鳥の瞳孔にはモノクロに映る。
 耳奥で響く波の音に体が突き動かされて、飛鳥は急いで自分の部屋に戻ると、スマホを手にしてメッセージアプリを開いた。
 彼とのやりとりは、相手からの返信で終わっていた。
 彼からのメッセージは、雨の中で彼らと逃げた『あの日』の晩に送られてきた。クラスのグループラインから見つけ出した連絡先を前にして、何を言えばいいのかベットの上で考えあぐねていた時、「怪我してないか」という言葉が届いたのだ、すぐに既読をつけてしまったから、何か答えなくてはと思って慌てて「大丈夫」とそっけない返事をしてしまった。
 本当は、自分が最初に送るべき言葉だったのだろう。
 「よかった」と、1分もしない内にメッセージが表示されて、続けて「オレも何とか怪我はしてないみたい」と送られてきたから、飛鳥はもう何も言えなくなってしまった。心配する言葉も、謝罪も、感謝も、どれも違うような気がしてしまった。
 あの夜は無言のままアプリを閉じて、スマホを投げ出して、暗闇の中で改めて彼の優しさを思い知った。ただの優しさじゃない。彼の優しさは、自分がいかに矮小なのかを明らかにしてくる優しさだ。
 今、4つのメッセージしか表示されていないトーク画面を見て、飛鳥はキーボードの上で指を彷徨わせていた。しかし右上に表示されている時刻に気づいて、我に返りスマホを机に置く。
 こんなことをしている場合じゃない。早く学校に行く準備をしなければ。そもそも、こんな朝からメッセージを送ったって、彼にとっても迷惑だろう。
 1階に下りて、洗面台に向かう。顔を洗って鏡を見れば、そこには『薄茶色』の眼をした自分がいる。カラーコンタクトをつければ簡単に琥珀色になる。脱色と染髪を繰り返して傷んだ白髪は、枝毛が増えてきた。だから毛先が頬に刺さると痛い。
 リビングに行けば母親がいて、飛鳥に朝ごはんを出してくれた。時計はやはりいつもより遅い時間を示していたが、母親が飛鳥を急かすことはなかった。飛鳥も味噌汁を啜りながら、急がなくてもいいか、なんて思い始めていた。どうせ早く行ったって窓際の隣人はいない。会えないのなら、早く行く意味もないだろう。姉と違って、飛鳥が薄い隈を作っていたところで彼は気付かないだろうが、彼の優しさにどこか期待していた。 
 温かい味噌汁を体の中に流し込みながら、飛鳥は優しい青太のことを考える。考えても考えても、胸の奥のざわめきは止まなかった。

NEXT>>32

3−2 ( No.32 )
日時: 2018/09/29 07:15
名前: トーシ ◆zFxpIgCLu6 (ID: 14pOvIO6)

3−2

 水島青太はやはり優しい人物で、クラスメイト全員分の英語課題を運ぼうとしていた飛鳥に、「手伝おうか」と当然のように声をかけてきた。
 テスト期間に入ったこともあって、放課後だというのに廊下にある人影は疎ら(まばら)だ。教室に残っている生徒も既に自主勉強を始めている。緊張感が張り詰める校舎内はとても静かだった。
 職員室に40人分のノートを運び終わったところで、青太は飛鳥に問いかけた。

「瀬川って日直だったっけ」
「違うよ。今日の日直が早く帰らないといけないからって、代わりを頼まれたんだ」
「ああ、そうだったのか」

 職員室の前に置いていたリュックサックを背負い直しながら、結構重かったな、と呟く青太に、そうだねと返す。通学鞄を肩にかける飛鳥を見て、青太は再び口を開く。

「瀬川も帰るのか?」
「いや、図書館に行って勉強するよ」
「真面目だな」
「テスト期間中じゃないか」

 呆れて言えば青太は困ったように笑った。隣の席で彼の解答を見る機会ができたからこそ分かることだが、彼は英語が苦手なようだった。語彙力は一定の水準に達しているが、文法や文章構造を理解するのに時間がかかるらしい。塾で教わったことや参考書に書かれていたことを噛み砕きながら説明すれば、彼は素直に感謝し、飛鳥を褒めた。
 最近は脳の回転が鈍っているような気がして、教師の話を聞くことだけで精一杯になってきている。以前とは違ってどの授業も苦痛だった。しかし、英語の授業で隣と机をくっつけて解答を確認し合う時間だけは、今でも楽しい。
 英語くらいは教えてもいいかな、とふと思った。
 飛鳥は図書館に行くために、そして青太は生徒玄関に行くために、2人は階段を降りる。踊り場の大きな窓ガラスの向こうには、大きな水溜まりができた校庭が広がっている。それから、目を凝らしてようやく視認できるような細い雨が降っていた。

「水島は帰るのかい」
「帰る、けど」
「けど?」

 突然言葉を詰まらせた青太を、飛鳥は数段下から見上げた。

「これから、警察署に行くんだ」

 警察、と聞いてぞっと鳥肌が立つ。まさか数日前の戦闘が警察にばれたのだろうか。
 だが青太はすぐに、この前のことじゃないと否定した。

「瀬川と一緒に警察署に行ったときに、『抑制器具』の話しただろ」
「《COLOR》を抑制するために、支給される物……だったっけ」
「うん。それの話を、もう一度聞きに行こうかと思ってさ」

 青太の《COLOR》は強力だが、彼は《COLOR》を過剰に出力してしまう傾向にあった。《COLOR》を高出力のまま使い続ければ、暴走し、他者を傷付けてしまうかもしれない。かつて《COLOR》の暴走を経験している青太は、勿論抑制器具を受け取るだろうと飛鳥は思っていた。
 しかし彼は、意外にも、抑制器具は受け取らないと答えた。

「あれって、自分の意思で装着はできるけど、検査を受けて矯正されたのが認められないと解除されないんだ。でも、もしもの時に、それは困るだろ。だから、自分でどうにかしようと思うんだ」

 青太は自らの開いた右手を見つめていた。彼はそこから目を逸らさない。
 どうにかすると言ったって、自力でやれることには限界がある。それに《COLOR》を使用するということは、その分身体に負荷をかけることになる。負荷が蓄積すればいずれ腕や肩が壊れてしまうだろう。
 だから理性的に考えれば、青太は抑制器具を受け取るべきだ。けれど飛鳥は、彼の考えを否定することができなかった。
 青太に守ってもらわなければならないのは事実だ。青太の強力な《COLOR》がなければ、飛鳥だけではなく青太まで怪我をするかもしれない。彼から《COLOR》という「盾」を奪うことはできなかった。そして何より、青太自身が、飛鳥を守るための「矛」を捨てはしないだろう。
 考えている内に1階に着いた。生徒玄関の方へ歩いて行く青太の背中を見て、飛鳥は言わなければならない言葉を思い出した。

「水島っ。あの、さ」

 普通に、自然に、友達のように。直前まで「言える」と思っていた言葉が、青太が振り返った瞬間喉から出てこなくなってしまった。彼の両眼の深海に真っ直ぐに捉えられる感覚は、やはり慣れない。
 言い淀む飛鳥に、青太はそういえばと声を被せた。

「海黒ちゃん、ちゃんと学校来てるのかな」
「……海黒さん、学校来てないのか?」
「少なくとも、今日はな」

 先程職員室で1年生の連絡ボードが目に入った時に、欠席者の欄に海黒の名前を見つけたらしい。
 海黒と最後に連絡をとったのは、海黒が電話をかけてきたあの雨の日だ。その日の夜と翌日の放課後にはこちらから電話をかけたが、どちらも繋がることはなかった。その上、巨大な鏡高校でクラスも知らない海黒を探し出すのは難しく、海黒を探していることが青太に察知される可能性も高い。彼は、飛鳥を海黒に——その背後にいる岬紅野に近づけさせたくないようだから、海黒を案じての行動だとしても、きっといい顔はしなかっただろう。

「水島は海黒さんのこと、心配してるのか」
「……ちょっと気になっただけだ。岬海黒からアクションがないなら、こっちも下手に動くべきじゃないし」

 ややあって、そうだね、と頷く。それ以外の言葉は、蛍光灯に照らされる廊下のどこを探しても見当たらなかった。
 また明日、と言って遠ざかっていく青太の背を見送った後、飛鳥は図書館の方に歩き出す。
その時、鞄の中でスマホが震えた。その画面に表示されているのは『岬海黒』という文字列で、突然の海黒からの着信に飛鳥は急いで通話ボタンを押した。しかし、海黒の声が聞こえてくることはなかった。

「——こんにちは、瀬川飛鳥くん」

 それは、男の声で——間違いなく、岬紅野の声だった。

「海黒からではなくて残念だったかな。妹は今体調を崩していてね。足のこともあるし、しばらく学校を休ませていたんだけど、明日からは登校させるつもりだ」

 一瞬で思考は停止した。透明な水に紅い絵の具を溶かすように、静止した世界に、意識の中に、紅野の声が流れ込んでくる。

「すぐに電話に出てくれる程、海黒を心配していてくれたんだね。兄としても嬉しいよ。ありがとう」

 さて、と彼は息を吐いた。まるで、今までのことはどうでもいい、と言い放っているかのようだった。

「瀬川飛鳥くん、これから、うちに来てほしい」
「……え?」
「俺の自宅に来てほしいんだよ」

 予想外の誘いに飛鳥は困惑した。当然、岬紅野の自宅に1人で行くなんて危険だ。青太にも迷惑がかかるだろう。迷惑だけならまだましだ。これ以上彼に無駄な被害を被らせることはできない。 
 飛鳥は間を置かず、行かない、と返そうとした。その返事を、紅野は狙っていたかのように自らの声で遮った。

「当然君は警戒しているだろう。けど俺は誓って何もしない。俺は海黒から君の報告を受けているんだ。君が模範生であることも知っている。真面目な優等生が家に帰らなければ、周囲は1日とおかず怪しむだろう。青太は間違いなく俺の仕業だと考えるだろうさ。それで警察に通報されでもしたら、困るのは俺たちだ。君を傷つけたり殺したりしても、何のメリットもない。デメリットしかない。だから君を害することはしない」

 それから、と彼は付け加える。

「もしうちに来てくれたら、君が知りたいことを、できる限り教えてあげよう。海黒とも会える。君だって、自分の目で海黒の無事を確かめたいだろう」
 
 裏門にハイジを待たせている、と言い残され、一方的に通話を切られてしまう。有無を言わせないその態度は、裏を返せば、飛鳥の行動を全て読んでいるということだった。
 彼の筋書き通りに行動してはいけない。しかし、彼から提示されたメリットは大きい。もし、青太や海黒を取り巻く闇の全容が分かったら。もし、彼らを救い出す糸口を手繰り寄せることができたら。
 もし、紅野が犯罪者ではないと、憧れのヒーローそのものであると確信できる何かを得ることができたら。
 事態は好転するのではないか。

 裏門では、ビニール傘を差した男子生徒が立っていた。蒸し暑い中で、彼は鏡高の学ランを着ていた。襟に着けられた一本線のエンブレムが、彼が1年生であることを示している。
 ピアスは全て外されているが、傷の多さは変わっていない。灰がかった髪に、血色の抜けた肌。目の下に刻まれた隈。そして、長い前髪の下から覗く、暗い瞳。
 飛鳥に気付いたハイジは黙ったまま、視線だけを飛鳥に向けた。

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