複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ヒノクニ
- 日時: 2021/01/09 17:58
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
神は滅び征くもの。
人は死に絶えるもの。
——……それは、どんな時も。
どんな経路を行こうとも、結末は変わらない。
『ヒノクニ 歴史文学■■■■■■ 著者:■■■ 』
000
序章>>01 登場人物/設定>>03
壱話 「繰り返し」>>02>>4>>5>>6>>7>>8
弐話 「毒も食わば皿まで食え」>>9>>10>>11>>12>>13>>14>>15>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>23>>24
参話 「それでもあなたは甲虫」>>25>>26>>27>>28
肆話 「嗚呼、愛しき日々だった」>>29>>30>>31>>32>>33>>34>>35>>36>>37>>38>>39>>40>>41>>42
閑話「とある皇帝の独白」>>43
- Re: ヒノクニ ( No.25 )
- 日時: 2020/08/19 19:53
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「……ふむ……。珍しく尿意で朝早く目覚めてしまったから気紛れで城の外に出てしまったが……。やはりあまり人はいないな」
早朝——わかりやすく言えば午前4時。
簡易な着物で城下をうろつく浮世離れした仙人、いや、この国の皇帝はそんなことをぼやく。
眠いような眠くないような。皇帝は帰ろうかどうか悩んでいると子供の声が2つほど聞こえてくる。
「どうしよう……。僕の家もダメだって……。『もしそれが飛び回って小便漏らしたら豆腐が無駄になる!』って言うんだ……」
「えーっ! 瑛太の家がダメならこの兜虫(かぶとむし)行き場をなくしちゃうでやんすよ!!」
「しっ……。声が大きいよ和人!」
一つ目の、色白の少年「瑛太(えいた)」は色黒で半そで短パンが特徴的な「和人(かずと)」の口を慌てて塞ぐ。
豆腐のように肌が白い瑛太は豆腐屋を営む豆腐小僧の息子。かたや和人は製菓店の小豆洗の一人息子であった。
皇帝は彼らの手元を見ると小さな籠を持っていた。その中身をよく見ると——漆黒のつやつやとした、頭頂部の立派な角が特徴的な昆虫がそこにいた。
「ほう。それが夏の子供たちの流行り、兜虫か。なかなかに興味深い。さて、これがどうかしたのか?」
「そうでやんすよ! せーっかく昨日森でこの大きい兜虫を捕まえたのに母ちゃんが虫嫌いなせいで飼えなくて、頼みの瑛太の家も飼えないでやんす。もうどうしたらいいのか……」
「か、か、かかかかかかか和人っ!!」
皇帝の顔を見て真っ青にした瑛太は思い切り和人の顔面を叩く。
その衝撃と痛さに思わずしゃがみ込む和人。暫くして起き上がった彼は怒りに満ちた形相で瑛太の顔を睨みつけた。
「何するでやんすか瑛太!! 痛いでやんすっ!!」
「前! 見てよ!!」
「ん?」
瑛太の声に和人は皇帝の顔を見る。
それで漸く彼の言葉の意味がわかったのか、和人は思わず尻餅をついた。
「し、しししし、真皇様!?」
「うむ。皇帝である」
子供たち2人の面白い反応に皇帝は大いに満足したようだ。
※
「それで——。お前たちはその虫を飼いたい。けれど親がそれを許さないとな」
「そうなんです。僕の親も、和人の親も良くも悪くも我が強い人だから。説得するのは難しいんです」
「真皇様何とかならないでやんすか!?」
どうやら2人はこの行き場の無い兜虫を案じて朝早く相談をしていたようだ。
和人は縋るように皇帝の顔を見上げる。
それを窘める様に瑛太は腕を引っ張った。暫くして瑛太は悲しそうに、
「……こうなったらもう仕方ないよ。和人……この兜虫、森に帰そう? このまま放置するのもかわいそうだよ……」
「い、いやでやんすよ! せっかく捕まえたのに!」
「でも……!」
言い争いになりそうな2人に少し皇帝は考え込んだ。
暫く、口を閉ざしていたが——……。
「なあお前たち。だったらその虫、我が貰い受けよう。城には全てのものが揃っているし、世話する分には申し分ない。だったら何だ。成葉にでも今どうしているか報告させよう。異論あるか?」
「い、いいでやんすか!?」
「でも迷惑じゃ……」
子供たちの嬉しそうな返答に皇帝は微笑を湛えながら答えた。
「何、我も個人的に興味あるというだけの話。色を変えたりもっと大きくならないか研究でもしてみようよ」
- Re: ヒノクニ ( No.26 )
- 日時: 2020/08/27 20:12
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「は、ははははは……。ようやくだ、ようやく書類が無くなった……。そして昨日から今日へだと。おはようございます。ですがまあいい。これさえ終わればわたしはお休みです。働いた分だけ寝ればいいだけのお話。さ、そろそろ執務室にやってくる上様に確認を……」
「成葉—っ! 大変なんだ!」
「ぎゃ——っ!」
すぱーんと思い切り執務室の襖が開かれる。急に大きい音が聞こえてきたためわたしの耳は耐えられなかった。
そんなわたしの都合など露知らず、襖を開けたわたしと年齢の近い体格のいい好青年——、いや、銀星(ぎんせい)は遠慮なく部屋に入ってくる。顔は目鼻立ちがすっきりして可愛い顔しているんだけど……身長が高くて気に食わない。
皆様恐らくお察ししているかとも思うのだが、銀星は上様を守護する近衛隊の若くして副隊長になった男だ。常識人と戦闘狂が入り混じった摩訶不思議な性格をしているが、戦闘能力を始めとした実力は一級品である。
「……わたしこれから休暇なのだけど」
「真皇様がいないんだ!!」
「話を聞け畜生!!」
相当銀星は混乱しているらしく激しくわたしの肩を揺さぶった。
き、気持ち悪い……。徹夜で疲れたわたしの頭には残酷の所業だぞ……。
何とか銀星の攻撃から逃れると、
「厠じゃないの……? 時間かかるときだってあるし」
「さっき確かめたけどいなかったんだ。でもこんな時間だし……、隊長はこのこと知ったら確実に僕を殺ってくる。爆睡してる慶司さんを起こすと怖いし、繋さんは他の仕事で立て込んでるし。それに僕、早朝の当番なんだ! これ以上怒られるのは避けたい! お願いします成葉! 御蔵堂(おくらどう)の茶碗蒸し特大級奢るから!」
「近衛隊副隊長たる者が何たる無様か! 恥を知れ!!」
……と、言ったものの、わたしは茶わん蒸しと奢るという言葉に負けてしまいました。
恥を知りますとも。とほほ……。
※
「ん……?」
あれから、わたしと銀星は何時間も探し回った——……わけではなく、駄目もとで上様の部屋に行ってみると丁度、探し人が座布団の上で鎮座していた。
「……本当によく見たの? 上様いるじゃんか」
「本当だってば! 城中探し回ったんだよ」
嘘でもついたのか? そう思いわたしは肘鉄で銀星の脇腹に打ち込む。
弁解でもするかのように銀星は必死な形相でそう言った。わたしたちの気配に気が付いたのか、上様は視線をこちらに向ける。
「もう仕事か? 関心関心。丁度良かった、お前たち。急な話だが……これから当番制で兜虫育ててくれない?」
「はい?」
上様の急な申し出に銀星は呆気にとられる。きっと意味が解らないのだろう。
わたしも解らない。唯一わかったことは上様の手にある籠の中身——そこには兜虫が1匹、入っていた。
「町の子供たちがな、家の事情で飼えなくなったらしくてな。我が研究がてら育てると言ったのはいいものの、我毎日忙しいから1人だと限界があるわけだ。そこで、お前たちに協力してほしいのだが……」
これは……。一体……?
- Re: ヒノクニ ( No.27 )
- 日時: 2020/09/03 19:32
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「兜虫、とな……」
短髪の白髪に厳かな雰囲気、そして素人目線からでもはっきりとわかる只者ではない気配。
そう、このお方銀星と同じように名前だけ出されていた近衛長(このえちょう)である。
銀星の上司——もとい、上様を護衛する近衛隊の総責任者、近衛長である。強者と言わんばかりの証拠に鋭い真紅の眼光だけで人を殺せそうだ。いや、できるんですけど。
ちなみにこのお方、今年で御年99歳である。年齢を感じさせない体術でわたしたちを圧倒させる。
……言わずもがな怒らせると本当に恐ろしいのです。
近衛長は上様から渡された兜虫の入っている籠をまじまじと見つめる。
しばらく見つめ合っていると兜虫は何も衝撃が無かったのにもかかわらず、仰向けに転がってしまった。
まるで降参でもしたかのように。
「申し訳ありません、皇帝よ。儂は今まで人生を戦いに置いてきた故、兜虫の育て方など知りえませぬ。迂闊に触れば殺しかねない」
「うーむ。全員で世話すれば負担も軽くなるだろうと思ってな」
「私、虫駄目なんです! 申し訳ないですが他の当たって下さいまし」
花緒さんは真っ青な顔でそう言うと、足早に上様のお部屋から出ていった。
残ったのはわたしと銀星、近衛長そして運の悪い雪ちゃんだ。
雪ちゃんも寝起きで厠に行くところを上様一向に捕まったのだ。
静かになってしまった空間にいたたまれなくなったのか、銀星は「まあまあ」と切り出した。
「でも、兜虫って犬猫みたいに散歩に連れて行かなくてもいいんだし。兜虫の土を入れて、兜虫用の味付きこんにゃくを渡してそのまま様子見て行けばいいんでしょ?」
「馬鹿野郎!!」
「ええっ!?」
寝起きの雪ちゃんは動きが緩慢だ——なのに関わらず、銀星の発言を断として大声で否定した。
だがその発言には兜虫育成家でもあるこの雪丸成葉も全円的に同意だ。そんな蟻みたいな手入れじゃすまないのだ。いや、蟻知らんけど。
それよりも兜虫育成家を説明しろって? いやいや、読んで字のごとく、ですよ……。
「今は夏場だ! 兜虫の種類に合った温度で管理して直射日光を避けんのが基本中の基本だろうが!」
「さっき近衛長が威圧で兜虫を転倒させてしまったけれどひっくりかえると立ち上がれないから木材とかも準備しておかないと!」
「飼育する頭数にも気を配らねぇとならねぇ。2頭以上いると喧嘩しちまって弱るからな。できるだけ1頭にしろ」
「そうそう! あと、兜虫を入れる土やオカクズが乾燥したら霧吹きで湿らせないと。もちろん兜虫にもだよ!」
「他にも言うとはあるが今は大体このぐらいだ」
次々と兜虫情報を吐き出すわたしと雪ちゃんに周囲は何も言えなくなっていた。
でもこれ基本だよ? 暫く口を閉ざしていた近衛長が、
「——……皇帝。どうでしょう。ここは、この2人に任せてみては。少なくとも我々よりは知識も経験もありそうです」
「そうだな。我も時間あれば面倒見るけど。その時間以外は頼んだぞ」
「はい!!」
この兜虫を死なせるわけにはいかない。
雪丸兄妹、夏の大戦争の始まりだ。
- Re: ヒノクニ ( No.28 )
- 日時: 2020/09/11 20:32
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
——わたしたちは育てた。必死に育てた。
毎日、いや、時間があるときや仕事が終わってから大体兜虫にかかりっきりで面倒をみた。
餌やオカクズなどこまめに変えながら——、時には餌の事で雪ちゃんと喧嘩したり、時には中身を見たくて解剖しようと思案した上様を説得したり——忙しくもあり、割と充実した日々だった。
けれど、別れは突然訪れた。
※
「ええっ!? 何で成虫がまた蛹になってるでやんすか!?」
「退化した……?」
和人と瑛太にわたしたち兄妹は兜虫の定期的な報告をしていたのだが——実は前日の夜からおかしな出来事が起きたのだ。
成虫であるこの兜虫——名前は「紋次郎(もんじろう)」は蛹になったのだ。本来成虫で、これ以上の成長はないはずなのだが——なぜかこうなってしまったのだ。
ちなみに、紋次郎は上様は命名した。名前の由来は「何となく」。
そのことを2人に言うとやはり、酷く驚いていた。
「兜虫研究家であるわたしにもわからないなんて……不覚」
「研究家かどうかはさておき——……、こいつ、異形だろ」
「へ?」
はー、と深くため息をつく雪ちゃん。
最後の最後で異形だと判断した兄は少しショックだったようだ——純粋な兜虫ではなかったのだから。
その瞬間、わたしが持っていた兜虫の籠が黄金に輝き始めた。
あまりの眩しさに目を閉ざすと、光は消えていく。
再び目を開けると、
「ありがとう。心優しき者」
穏やかな低音がわたしたちの耳に入る。わたしの両手に座っていたのは——、兜虫の角をつけた雪ちゃんと同世代くらいの男だった。
え? 何これ。どうなってるの?
「うわああああああああああああああっ!!」
「不審者でやんす!! 逃げるでやんすよ瑛太!!」
子供たち2人は力の限りそう叫ぶと、凄まじい速度でその場から逃げていった。
正しい判断だ——……。そしてよくも騙してくれたなこの兜虫もどき。
思い切り変質者じゃねえか!!
雪ちゃんも同じことを思っていたらしく、怒りの形相に満ちている。
「殺す」
「どうしてそう言われないといけないのかわからないが——。ありがとう。お礼を言いたくて。僕はあの森で、少年たちに捕まるまで酷い怪我をしていてね……。君たちに世話してもらったお陰でこの通り元気になった」
「え——……」
変質者だけどそんな事情が……。少しお気の毒だ。確かに、育て始めた紋次郎(仮)は弱っていた。嘘ではないのだろう。
「僕は紋次郎という名前を貰った。嬉しいことだ。でも、僕には帰るべき——、いや、護るべき森がある。出来ることであればこのまま日々を過ごしたかった——けれど、僕にはそれが許されない」
紋次郎は悲しそうな顔をした。
先程まで怒髪天だった雪ちゃんもさすがに極まりの悪い顔をした。
そしてそっぽを向きながら、
「……行けよ。手前には手前の帰る場所があんだろうがよ。第一手前を連れてきちまったのは人間の勝手だ。いちいち気にしてんじゃねえ」
「慶司……」
そうだね……。いろいろ言いたいことはあるけれど、帰りたい場所があるのなら。
お世話人として見送って上げなくちゃ。
「大丈夫。和人や瑛太、上様にはわたしたちから言っておくよ。だからもうお帰り。森のみんなも心配しているよ」
「……ありがとう。成葉。慶司。本当に、本当に——……」
そう瞳を潤ませた紋次郎は背中から翼を出し、青空へと羽ばたいていく。
でも、1つだけ。
「紋次郎! 君の名前は何て言うの!?」
「僕の名前は深山(みやま)。深山だ——」
「ぜんっぜん被ってねえ……」
雪ちゃんはげっそりとした顔でそう言った。
何だかんだで紋次郎——いや、深山の姿は見えなくなった。
こうして、今年の夏と兜虫は終わりに向かっていく。
そして——……。
「何それ。紋次郎兜虫ではなかったのか? はー、しんど……」
以上のことを上様に報告すると、酷く哀しみを隠し切れなかった上様は暫く拗ねてしまった。
- Re: ヒノクニ ( No.29 )
- 日時: 2020/09/17 21:31
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「雨だ」
上様住まうお城の屋根を無数に叩くような音が絶え間なく聞こえる。
ヒノクニでは雨が降ることは滅多になく。かと言って、田畑に影響を及ぼすような頻度の低さでもなく。
あくまで「晴に比べると少ない」程度なのだ。
本日は珍しくわたしも仕事が休みで、いつものように急にまた仕事が舞い込んでくる気配もない。
なので、買い物に行こう。大好きな茶わん蒸しを買いに。濡れてしまうけれど、たまにはいいだろう。
傘を持ち、外に出ると、
「成。どこか行くのか?」
「繋! うん。久しぶりに茶碗蒸し食べたくてさ」
「茶碗蒸しって言うと……。御縁堂のか。俺も丁度そのあたりに買いたいものがあったんだ。一緒に行ってもいいか?」
「もちろん!」
こうしてわたしと繋は2つ、傘を差し、雨が降り注ぐ街に向かい歩き出した。
※
「やっぱりこんな強い雨だもんなぁ。人はあまりいないや」
「そうだな。今週いっぱいは雨だって親父も言っていたし」
やはりというべきか、いつもなら賑わっている街も今日は疎らであった。
濡れるのが億劫なのであろう。
歩き出して暫くしても、通りすがった人間は5人ぐらいなものだった。
それでも何気ない、街の風景。どの通りすがりの塵箱から唸るような声が聞こえた。
「う、うううううう〜……。此処はいずこか……。城はどこなのだ……」
洗濯物のように、塵箱の縁に干してある——、大きさは子供ぐらいだろうか。まあ、そのの物体がそこにいた。
そいつはわたしたちの気配を悟ったのか、勢いよく起き上がった。
見た目はわたしたちのような普通の人間、そして背中にある鳥の様な真っ白な羽が特徴的な異形であった。見た目だけで言えば女の子の様な。
「おい、そこの人間たち。この国の皇帝が住んでいる城はどこだ」
口が結構悪いな。理由はともあれ「あそこです」なんて簡単に言えはしない。
この異形の体躯からはあまり想像できないが、万が一刺客とも限らないからだ。
「悪いけど、見ず知らずの奴に教えられない。それに、出雲に住んでいる住民だったら入れないしろ、場所ぐらいはわかるはず」
「……知らぬ」
「もしかしてお前、『鵜宮(うのみや)』か?」
思い当たることがあるように、じっと繋はそいつを見て呟いた。
鵜宮って……。出雲の森深く、その更に深くにあるといわれている湖——通称森の海を常に守っている精霊のこと?
滅多に森から出ないとされている鵜宮がなぜこんな街のど真ん中に……。
「……左様。男。私は鵜宮の明松(かがり)。本来ならばこのような俗世じみた場所に等、来ようとは思わなかったが——最早そんなこと言ってはいられぬ。救っていただきたいのだ。皇帝の皇妃、『玉露(ぎょくろ)』様に」
その瞬間、わたしの心臓が一瞬止まったような気がした。