複雑・ファジー小説

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ヒノクニ
日時: 2021/01/09 17:58
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

 神は滅び征くもの。
 人は死に絶えるもの。


——……それは、どんな時も。

 
 どんな経路を行こうとも、結末は変わらない。



『ヒノクニ 歴史文学■■■■■■ 著者:■■■ 』





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序章>>01 登場人物/設定>>03
壱話 「繰り返し」>>02>>4>>5>>6>>7>>8
弐話 「毒も食わば皿まで食え」>>9>>10>>11>>12>>13>>14>>15>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>23>>24
参話 「それでもあなたは甲虫」>>25>>26>>27>>28
肆話 「嗚呼、愛しき日々だった」>>29>>30>>31>>32>>33>>34>>35>>36>>37>>38>>39>>40>>41>>42

閑話「とある皇帝の独白」>>43

Re: ヒノクニ ( No.15 )
日時: 2020/06/09 20:18
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「粗悪品?」
「ああ。ありゃあ他国から流れてきたもんだ。ちゃんとした教育を受けていない……主に貧困層の人間を狙ってるんだ。このブツは体内に打ち込むことで潜在的に眠っている護法を無理矢理引き出す。粗悪品だから持続時間はそんな長くないけどな」

 わたしと繋——そして繋が助け出した侍女さんたちは殆ど崩壊した屋敷の瓦礫に座りながら話をしていた。
 話と言っても世間話ではない。状況整理と今後についてだ。
 繋は先程筒治の部下が首に打ち込んでいた小さい注射器を手の平で転ばせながらそう言った。
 彼が言うには、その粗悪品はここ数日の間にどんどん広まっていったらしい。

「持続時間が長くないってことは——……、じゃあ筒治(あいつら)まだたくさん持ってる可能性があるじゃん!」
「そう。貧困層には実験を対価に結構な金額が入る。それで盗賊連中には金銭を代価に戦力が、って感じだな。……正直、ヒノクニには酷い貧困層がいないから盲点だった。いつの間に盗賊も潜入してたんだか……」

 はあ、と繋がしょんぼりとため息をつく。
 何だか、前の宇津木の事件を皮切りに不届き者が入り込んでいる気がするな。
 でも何でかって「枳殻」にいるのだろう。もっと別の国の方が目立てただろうに。
 そう考えていると、おずおずと侍女の1人が手を上げた。

「お話の所申し訳ありません……。あの、私たちはどうすれば……? それに彲様は今どうしておられるのでしょう……!? あのお方は私達を庇って、盗賊共との乱闘の末、行方不明なのです……!」
「水薙様が?」
「行方不明?」

 わたしと繋は侍女さんの言葉に同時に首を傾げた。
 てっきり筒治に監禁されているかと思いきや、行方不明だったとは……。

「悪いな、お嬢さん方。良かったら何で盗賊共を屋敷に引き入れることになったのか聞かせちゃくれないか?」

 繋の言葉に侍女さんの1人は小さく、震えながら頷いた。

「あれは……ほんの1週間ほど前です。私たちはいつものように助け合いながら領主様のご加護の元、ささやかに暮らしていたんです。ですが急に、筒治と名乗るあの男を筆頭の盗賊団がこの都市にやってきました。……あっという間でした。制圧されるのは。もともと農業を中心に生きてきた私たちにとっては武器何てあまりなじみがありません。力を持つのは水薙様だけです。水薙様はご存知の通りとてもお強いお方です——しかし、私達民という人質とあの注射器を打ち込んだ多数の盗賊を裁きながら対処するには問題ありました……」

 話しているうちに耐え切れなかったのだろう。
 しゃくりを上げて泣き出してしまった。話せなくなってしまった侍女さんの代わりに、周りにいる1人が再び話し始めた。

「挙句の果てには、屋敷から外に引きずりだされました。盗賊共は見せしめに私たちの首を斬ろうとしました……。ですがそれを止めようと飛び出した水薙様にあの筒治(おとこ)は爆弾を……っ! 爆風で何もかも見えなくなって……そしてようやく見える様になったらもう領主様はいなかった……っ!」
「……あとは先程の通りです。筒治は私たちに言いました。『皇帝の犬が近いうちにやってくる。だから俺を領主の息子のように扱え。無駄な抵抗はするな。誰かが死ぬだけだ』と……」

 そう言って侍女さんたちは俯いてしまった。
……思ったより酷い状況だ。下着泥棒の件で来たのだけど……、正直それどころじゃない。
 上様に連絡しないと。電話。せめて黒電話さえあれば……。
 そう思ってわたしは連絡できるようなものを探して周りを見渡した。

「あ」

 殆ど、お屋敷は崩壊してしまったが奇跡的に黒電話とその電線が無事であった。
 飛びつくように黒電話の受話器を手に取ると、上様に向けてダイヤルを回し始めた。





『そういうことは速く連絡せよ。遅い』
「ず、ずみまぜん……」

 仕方ないじゃん……。戦闘中だったし、正直忘れかけてたし……。
 花緒さんから近衛長へ。近衛長から上様へ繋がった電話。開口一発、上様は呆れたようにそう言った。
 繋が持っていた受話器を取ると、

「親父……じゃなくて皇帝。だから下着泥棒の件はあとだ。枳殻が思ったより蝕まれてる。早くしないと面倒じゃすまないことになる。それに水薙様の生死が分からない」
『——……できるのか』

 一気に、上様の声音が冷たくなる。
 いつも冷静な繋も今は言葉を失ってしまっている。

『その話事実だろう。わが国に入り込んだ賊どもが地方を脅かしている、一刻の猶予もない。かといって、ただ探すだけでは時間の無駄だ。その間に奴らは小賢しい真似をしよう。策はあるのか?』
「……それは今考える」
『——急げよ、繋。あまりにも現を抜かしていると我も本腰を入れる。……我の対処の仕方はわかっていような』
「……ああ……!」

 繋がそう返事をすると、上様は何も言わなかった。
 しかし、「ん?」と呟くと、

『それもそうだがお主たち、慶司はどうした。共におらぬのか?』

 忘れてた——っ!! 
 雪ちゃんと何とか棒そういえばどこいった!? 今更だけど!

Re: ヒノクニ ( No.16 )
日時: 2020/06/17 21:11
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「夜を待て、か……」

 わたしはしゃがみ込みながらそう呟いた。
 半壊した屋敷から少し離れた空き家へと移動していたのだけど——侍女さん曰く、この空き家の持ち主は、数年前にこの枳殻から氷室へと引っ越していったのだとか。
 引っ越していく前、この空き家の住民は水薙様と大変仲が良かったらしく「好きに使ってくれや」と言ったのだそう。
 まあ、それから使うこともなく家の中は埃まみれ蜘蛛の巣だらけだが、今は我儘を言っていられない。
 今後の事を考えなくては——、と思い、先ほど上様に粗方報告した。

『ふむ……。今すぐにでも切除したいというところだが——、どちらもこの時間帯は動かぬよ。夜を待て。その時にどちらも捕らえよ。……盗賊共は生死は問わんが——下着泥棒は生きて連れて来い』

 そう言って、上様との連絡は終わった。
 わたしも繋も相談した結果、上様の言う通り夜を待つことにしたのだ。
 とはいってもただ待つだけではない。雪ちゃんの行方や、この地方の人々の安否など調査は少しでもしておく。
 それは繋が行い、わたしはあまり目立てない女中さんとこの空き家で待機と護衛だ。

「雪ちゃんまさか下着泥棒と一緒にいないよね……?」

 ふと、わたしの脳裏にそんなことが思い浮かぶ。
 いやいやいや。認めたくはないが、雪ちゃんはわたしと花緒さん以外の女性には割と紳士なのだ。
 というか人間として身内が下着泥棒の一味と加担してるとか思いたくな……。

「今日も来てくれたのか!? 褌仮面とその一味たち!!」
「ありがとう、ありがとう……! 今日も漸く食べられます……!」

 何やら外で何かが聞こえる。
 そおっと窓を開けると、わたしの視界には金貨と下着が降り注がれていた——、いや、いろいろ言いたいことはあるけれど今は止めときます。
 それを浴びる様に、感謝するように枳殻の住民たちは両手を上げて喜んでいた。
 どうして下着も振り落とすんだ……? あ、言っちゃった。
 というか……。

「下着泥棒が感謝されている……?」
「え、ええ。確かに見た目ややっていることは許容できないところがありますが、我々盗賊に全てを奪われた住民にとって彼らは救世主なのです。ほぼ毎日、食用や衣類、金貨を与えてくださいます」

 女中さんがそっとわたしに耳打ちする。
 てっきり、盗賊同様混乱を振りまく存在にしか思っていなかったけど、鼠小僧的な役割をしていたんだね。
 ん? でも、いつからこんなことを?

「受け取れ。例の物だ」
「ありがとうお兄ちゃん……? あれ? 他の人と格好が違うね?」

 とある男から食料を受け取る小さな男の子。
 男の子は下着泥棒たちの褌と下履きを体に巻き付ける服装とは違った男を見て思わず首を傾げた。
 その男は白くて長い布を頭全体に巻き付けて——黒い半纏というとっても見覚えのある格好をしていて……。

「……そういう日もあんだよ。さっさと食え」
「う、うん! ありがと!」

 そう言って男の子は足早に去っていく。
 それと同時に下着泥棒もあっという間に消えていった。
 というか! 雪丸慶司じゃん!! 何やってんの!? おい、応えてよ!!

「雪ちゃんが……下着泥棒に……!?」

 もうわけがわからないよ。如何しよう上様、繋。
 身内が下着泥棒になったらその遺族はどんな風を装えばいいのでしょうか。

Re: ヒノクニ ( No.17 )
日時: 2020/06/24 20:06
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「ゆ、雪が下着泥棒の仲間に……!?」
「うん……。顔は隠されて見えなかったけど、間違いないよ。あの服装は雪ちゃんだ……」

 衝撃的な光景から数時間後。時刻的には夕方になっていて——本当なら盗賊退治に頭を悩ませなきゃいけないのだが。けれどどうしても伝えないと思った。
 家族として。そして、繋にとっては唯一無二の相棒の雪ちゃんの現在を……。
 先程の事を包み隠さず伝えると繋は目尻に涙を浮かべた。

「……きっと……。雪にも深い事情があるんだ、きっと卑怯な手段で言うことを聞かされているに違いないさ。雪は口が悪いけど人情に篤いからな。けどきっと大丈夫だ。雪も任務の事は忘れていないしきっと夜になれば盗賊も下着泥棒も一気に退治してくれるからな。だから、成が心配する必要ないんだ」

 何か……言わなきゃよかった……。
 こんなに動揺している繋見るの初めて……。顔中汗垂れ流しだし、わたしの両肩に手を置いているけど手汗多いし——、正直私の半纏を貫通してきてじめじめしてきた。
 わたしもわたしで動揺してたけど何かあれだなぁ……。わたしより動揺している人を見ると逆に冷静になれるって言う……。
 繋の両手を下しながら、

「そう、だよね。夜までもう時間が無いし、雪ちゃんも雪ちゃんで行動すると思う。幸い、下着泥棒たちのところにいるから情報もそれなりに手に入れていると思うし」
「ああ。さっきまで調べていたんだが、盗賊も下着泥棒も『同時刻に、同じ場所』の現れているんだ」
「……!? どういうこと? その2組は協力関係だってこと?」
「いや、その逆だ。下着泥棒が出雲に来る前に、一回、枳殻で競り合ったらしい現場に行った……。けど、その場所は協力関係だとは思えないほどぐちゃぐちゃに荒らされていた」
「……! ねえ繋。もしかして下着泥棒たちって……」







「今日も何とか物資を住民たちに送り込めた。感謝する、新たなる戦士よ」
「止めろ。成り行きだっただけだ」

 褌仮面の清々しい物言いに慶司はうんざりした表情になった。
 確かに彼らは一方的な悪ではないのだろう。しかし、やっていることの半数は許容できそうにはない。
 何より理由はともあれ、皇帝を怒らせた。

「悪いが夜も協力してもらう。お前たちが昼間暴れたおかげで盗賊たちが短気を起こしそうだ。枳殻の交通手段の駅で『決着』を付けると部下から情報が入った。——力を貸してほしい」
「……まあ、下着泥棒(てめぇら)も盗賊連中もまとめてしょっ引こうと思ってたから構わねぇよ。けど、何で駅なんだ。俺はこの都市に来るまで直視できないぐらいの酷い有様かと思っていたんだが——どうやらそうでもないみてぇだ。物資やらは取り上げられちまってるが……」
「それは……」

 下着泥棒が一瞬、言葉を濁した瞬間だった。
 次の瞬間勢いよく扉が開かれた。

「伝令! 伝令! 緊急ですぜ! 盗賊の連中が……あっ!」
「!!」

 部下の1人が慌てすぎたためか、床の出っ張りに足をつまずき——、褌仮面の主軸ともいえる顔を隠していた「褌」を咄嗟に握ってしまった。
 そのまま引っ張る形で、褌は布を擦り合わせる音を立てながら解けていく。
 褌仮面の素顔が明らかになる。
 精悍な初老の男性だった。短く刈りあげられた髪に、右目に少し傷跡が残っている中々の強面の男性が姿を見せた。

「お、おい!」

 慶司は思わず声を上げた。
 それもそうだった。「よく見知った顔」だったのだから。

「何してんだよ水薙のおっさん……!!」

Re: ヒノクニ ( No.18 )
日時: 2020/07/01 19:19
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「…………」
「…………」
「何か言えよ……」

 静寂が流れた。
 慶司が知る限り、食事の時ですら騒がしかった下着泥棒一味が——、いや、褌仮面の正体がわかってしまった瞬間、世界が終わってしまったかのように空間が静かになった。
 褌仮面、いや、水薙の正体をばらしてしまった部下は顔をこれでもかとばかりに真っ青にさせた。

「ごっ……、も、も、も申し訳……ありません……!!」
 
 勢いよく土下座する部下。部下は、反応から察するに水薙が褌仮面だということは知っていたらしい——それよりも正体を露呈してしまったことを陳謝しているようであった。
 水薙は悔しそうな、何とも言えない表情を浮かべてはいたがやがて諦めたかのように小さく首を左右に振った。
 どうやら怒ってはいないらしい。

「……いや。いずれは言うつもりだった。済まないな、慶司。こんなことに巻き込んでしまって——……」
「もうどこから入り込んでいいのかわかんねぇよ……」

 慶司は遠い目をしてそう言った。
 そして思った。成葉や繋、そして皇帝に何て言おうかと——……。皇帝と水薙は会う回数は年に一回という少ない機会だが——、皇帝は実直で忠実な水薙を高く評価しているのだ。
 そんな水薙が今皇帝を酷く怒らせている組織の頭領だと知ったらどうなるか……。

「——皇帝には、酷く申し訳ないと思っている。この件が片付いたら領主の座を降りた後、この命を差し出す所存」
「やめてくれよぉ頭領!! 悪いのは全部盗賊共だろぉ!? なんでアンタが死ななきゃならねえんだ」

 水薙の言葉に部下全員が彼の体に縋りつく。
 彼らは真剣なのだろうが——慶司以外全裸に女性用下履きを巻き付けている珍妙な格好の所為か酷くどうしようもない光景となっていた。

「おい……。何がどうなってやがるんだ」
「そうだな。お前には改めて説明しなくてはいけないな。座ってくれ」

 水薙はしがみつく部下をあしらうと床にどっかりと座った。
 その流れで慶司たちも座り込む。

「もう知っているとは思うが筒治は盗賊団の首領だ。……そしてお前たちが来る前に同志たちと募ってあいつらを退治しようとしたんだがな——例の注射器と爆薬で殆どが散り散りになったよ。人質になった奴もいるだろうよ。……俺は爆薬で枳殻の森にまで吹っ飛ばされてな。正直生きているのが不思議なくらいだったが——何とか生きてたよ」
「じゃあ何でそこから下着泥棒なんかになったんだ? どんな手段でも出雲(こっち)に連絡すればよかったんじゃないのか」
「……その時全裸でな……」
「あん?」

 恥ずかしそうに言う水薙に思わず慶司は顔を顰めた。
 予想外の言葉だったからだ。

「幸運にもなぜかほぼ無傷だったんだが衣服は全部吹っ飛ばされてしまってな……。仕方なくその時は葉っぱやらで補っていた。そんで、夜に森を降りるとゴミ捨て場に褌とその……下履きがあったもんだから……。本当に……仕方なかったし、悩んだんだが……。その後直ぐに通りすがった住民に下着泥棒だと勘違いされて——そこから盗賊共の目を欺く意味でもこうなっちまった」
「……悪ぃ、水薙のおっさん……。アンタが情状酌量の余地があるのと同時に俺はもうついていけねぇ」
「……悪い……」

 気まずい雰囲気が再び流れる。
 暫く2人が黙り込んでいると、先ほどやらかしてしまった部下が「あ!」と声を上げた。

「忘れていやした頭領! 盗賊の連中が最後の仕上げに入りやした、枳殻の駅に向かってんぜ!」
「何だと!? それをさっさと言え!」

 部下の言葉に水薙は思わず叫んだ。


Re: ヒノクニ ( No.19 )
日時: 2020/07/07 19:21
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「へへへっ。もうすぐでこんな田舎ともおさらばですね、筒治さん」
「……あ? そうだな。何にもないただあるだけのこんなつまらないところさっさとおさらばしたいものだよ」

 筒治は冷たい表情で誰もいない駅に立っていた。そして、隣にあった塵箱を軽く蹴った。
 部下は再び笑うと、

「ほんっとうに退屈でしたよこの地方は。唯一『召喚陣』を大きく設置できる土地ぐらいですよ、いいところは」
「ああ。召喚陣はこの中では護法が使える私でしか使えないからな。召喚陣を設置できるのは新月である今日……。それも大きく描ける豊満な土地であるとともに広く大きくであればあるほどその効果を発揮する……。くくく……、私がこの召喚陣を設置出来たらあの忌々しい神原めを追討できるぞ!」

 筒治は心底面白いように腹の底から大声を上げて笑った。
 そんな筒治につられるように、部下たちもみんな笑いだす。
 笑いながら、筒治は長い鉄製の管を持つと、ゆっくりと歩きだした。

「さあ、さっさと設置してこんなところさっさと出てくぞ。嗚呼、つまらない。この都市も、人間も……」
「悪かったな。何も無くてよ!」
「!?」

 そんな声が聞こえたのと同時に、後方から部下の悲鳴が聞こえたとともに、バキッと鈍い音が響き渡る。
 勢いよく振り返ると、そこには慶司と水薙、そして下着泥棒の部下たちがそこにいた。
 筒治の部下の3分の1を気絶させていた。

「な……! 水薙、お前はあの時爆風で吹き飛ばされたはず……!」
「運良く生きてたよ! ……んなことよりオメェを此処で止める。さっさと都市を返してもらおうか」
「もう遅いさ」

 にい、と筒治は笑う。その瞬間、残った部下たちは全員注射器を一斉に首へと差し込んだ。
 全員刺した瞬間に、苦しそうに足元をおぼつかせていたが——ぎょろりと両目を赤く染めてこちらに襲い掛かってくる。

「さあ、時間を稼げ。人口護法使いども。命は今日までだが——皇帝の犬を殺せたという箔がつくぞ。頑張れ」
「て、めぇ……っ」

 部下の命を何とも思っていないのか。
 それを察した慶司はこちらを一度も振り向かずに走り去っていく筒治の背中を思い切り睨んだ。





「繋!! これ!!」
「……! ああ、もう雪たちは来てるみたいだ」

わたしと繋はあれから急いで枳殻の駅へと辿り着いた。ちなみに侍女さんたちは危ないので先程の空き家にて待機してもらっている。
辿り着くや否や、倒れている人たちがいて——……身なりを見る限りでは下着泥棒たちでは無さそうだ。予想するに、盗賊連中だろう。
 意識を失っているのを確認して周りを見回す。

「けど、何処に行ったんだ……?」

 繋がそう呟いた。
 その瞬間、大きな破壊音が響き渡った。

「この音からすると……列車のある待合所じゃ……!」
「行こう」

 わたしと繋はお互い顔を見合わせると、その背後から人が3人ぐらい吹き飛ばされてきた。
 彼らは壁に激突して意識を失った。
 何これ?

「クソガキ! 繋!」
「雪ちゃん!! ……と、下着泥棒の頭……え。何それ、まさか水」
「いろいろあんだよ」

 上を見上げると、屋根には雪ちゃんと……水薙さん!? ……が立っていた。
 おいおいおいおいおい。確かに水薙さんは行方不明で探してはいたけどまさかの下着泥棒なの? 嘘でしょ? いやでも服装が下着泥棒のだもん。絶対そうじゃん!
わたしの考えを察した雪ちゃんは苦々しい表情でそう言った。


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