複雑・ファジー小説

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ヒノクニ
日時: 2021/01/09 17:58
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

 神は滅び征くもの。
 人は死に絶えるもの。


——……それは、どんな時も。

 
 どんな経路を行こうとも、結末は変わらない。



『ヒノクニ 歴史文学■■■■■■ 著者:■■■ 』





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序章>>01 登場人物/設定>>03
壱話 「繰り返し」>>02>>4>>5>>6>>7>>8
弐話 「毒も食わば皿まで食え」>>9>>10>>11>>12>>13>>14>>15>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>23>>24
参話 「それでもあなたは甲虫」>>25>>26>>27>>28
肆話 「嗚呼、愛しき日々だった」>>29>>30>>31>>32>>33>>34>>35>>36>>37>>38>>39>>40>>41>>42

閑話「とある皇帝の独白」>>43

Re: ヒノクニ ( No.10 )
日時: 2020/05/07 19:39
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

——掃除開始から1時間。
 何事もなく終わるかと思われた亡き皇妃様のお部屋掃除、早速問題発生です。
 下着が。皇妃様の下着がありません。
 おかしい。おかしすぎる。先月の掃除の時はちゃんと寸分狂わずあったのに。

「どうした、成葉。棚の掃除が終わったら次の掃除に入れ。我は本棚を整理する」
「ハイ」
「……様子がおかしいな。さては何か問題でもあったのか」

 げえっ! 何ですぐわかったの!? 何でこういう時だけ勘が鋭いの。割といつもだけど。
 でも言えない。絶対に言えない。
 馬鹿正直に全部言ってみろ、近衛隊および廻皇隊を総動員させて犯人を捕まえた挙句には酷い拷問をして、ぼろ雑巾を扱うがごとく殺戮をするのが目に見えてる。
 
「どうした? 言えない事実でもあったのか。それとも——……」

 上様の瞳の奥がきゅっと細くなる。
 危ない、危なすぎる。下手したらわたしにも被害が及ぶ。黙っている時間はあまりない。
 どうしたら——……。

「キャー——っ!! 私の下着を返してぇ!!」
「わたし盗んでません!」

 窓の外から女性の切実な悲鳴が聞こえた。
 切羽詰まって意味が解らないことを言ってしまったが——……、ん? 下着……? 返して……?
 上様とほぼ同時に窓を開けて声がしたと思われる下を見る。
 
「上様! あそこ!!」
「……あれは——……」

 下——、つまり、街であるのだが、ガヤガヤと大騒ぎになっていた。
 女性だけでなく——男性までもが被害にあっているようだ。
 わたしはとある怪しい人物を見つけ、そこを指差す。上様はそれを目を細めて訝しげに見る。
 わたしと上様が見る人物は、高い建物の屋上に堂々と立っていた。
 姿かたちからして男性であろう——……褌で目だけを出す様に顔を覆い、いくつもの女性用下履きで体全体を覆っていた。
 いやいやおかしい。何で戦利品みたいに自分の衣服にしてんだ。絶対それ盗品だろ! 

「——……あやつ、変態なのか?」
「当たり前でしょう! あれで素面(しらふ)だったらこの国はもうおしまいです!!」

……そうだった……。上様、変態(ああいう人種)は直に見たことないもんな……。
 そうなる前に部下(わたしたち)が対処するから……。
 どう説明しようか。
 悩んでいると、褌男は誇らしげに大きな声で叫んだ。

「俺の名は褌仮面!! この世に真実と愛を施す物なり!! 今さっきの下着拝借はただの予告状。今度は右方都市「枳殻(からたち)」へ潜入し、腐敗した大名共を成敗してくれる!!」

 下着拝借ってなんだ。いや、それどころじゃないけど!
 なんで下着なんだよ、そこは普通にお金でいいだろ! あれ。上様何か静かじゃない……?
 おそるおそる横目で上様を見る。

「……ふむ、枳殻か。確かにあそこは最近大名共のきな臭い噂が立って居った。以外に見る目はあるような。それにしても一体その情報をどこから仕入れてきたのやら」
「……それは、確かに」

 半分不快、半分納得。
 わたしもさっきの話は先月、宇津木の件で報告した時に聞いたばかりだ。
 兵士でもない褌仮面がなぜ……?
 しかし、わたしの考えとは裏腹に褌仮面はまた叫んだ。

「——先日、皇帝住まう居城にて下着を拝借した! 罪深く、悍ましい行為だとわかっている! しかし、俺は己の目的のために鬼になってでも目的を遂行する! 賛同するもの、俺の元へ集え!!」

 やっぱりお前か——っ!! 悍ましいどころじゃねぇ——っ!! というか鬼に失礼だわあいつら今は7割ぐらい慎ましく生きてるんだよ反省しろ!!
 褌被る変態に同志なんているわけ……。

「俺は行く! あの男の生き様をもっと間近で」
「オレもだ!」

 10人ぐらいの男たちが褌仮面の元へ走っていく。
 おいおい本気かよ……。この国ある意味で平和だぜ……。

「成葉」
「はい上様」
「あの者……」

 上様は目線は褌仮面から外さないまま呟いた。

「下着……。先月、我は自分の部屋の棚の中に異変はないと知っている。つまりあ奴は……。玉露の下着を盗んだということか?」

 あっ……。しまった、聞き逃していなかったんですね上様……。
 上様の顔と雰囲気は確実に怒っている。
 わたしは地雷を踏まないように一回だけ、静かに頷いた。

Re: ヒノクニ ( No.11 )
日時: 2020/05/12 20:27
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

——枳殻(からたち)。それはヒノクニ右方都市の名前。
 ヒノクニは皇帝住まう中心部で有り、なくてはならない首都、「出雲(いずも)」から成り立っている。
 技術、流通、学問、交易ほぼすべてが出雲にはあり、その他の都市は「出雲では気候・土地柄できないこと」を担ういわば翼のようなもの。
 出雲が鳥の心臓であるなら他の都市は翼。鳥は翼が無いと飛べないから。

 右方都市「枳殻」は一定した気候で安定した農業、畜産を中心に。
 上方都市「氷室(ひむろ)」は夏であっても雪が降る寒冷な気候を生かして夏には欠かせない氷や冷凍技術を中心に。
 左方都市「霹靂(へきれき)」は他国の流通や広大な海に面するのを活かして行業などを中心に。
 下方都市「具足(ぐそく)」は出雲でも生産できない機械の部品や技術、護法の研究などを追及する。

 出雲なくしてヒノクニが有り得ないように、地方都市無ければ「ヒノクニ」も成り立たないのだ。
 そんな持ちつ持たれつでやってきたのだが——先ほどもあったように最近「枳殻」であまり芳しくない情報があった。

——最近出てこなかったはずの盗賊集団が枳殻に暴虐を強いている、と。






「近衛隊及び、廻皇隊全ての総力を費やし先程の下劣な変態めを我の目前に連れて来い。これは絶対である」

——……こんな日はそうそうない。
 監視の兵士及び、近衛隊、廻皇隊全ての戦力が皇帝の目下に集っている。
 こんなのは9年前に見たきりだ。
 おっかなかったりはっちゃけたりする皇帝がここまで冷たくなる日も珍しい。
 上様の一声で全員敬礼を取っている。

——……いや、目標が下着泥棒だって点を除けば締りがいいのだけど……。

「おいクソガキ、何がどうなってる……」
「そんなのわたしが知りたいよ……」
「下着泥棒1人を真顔で捕まえるって言う玉じゃねぇだろお上」
「おう……」

 眉間に皴を寄せながら我が兄慶司こと、雪ちゃんはボソッとわたしに耳打ちする。
 わたしにも事情が2割ぐらいしかわからないよ。
……まあ、後半のは亡き皇妃様の下着が盗まれたってのが大きいけど。

「近衛隊は出雲全域と各都市の入国前線までの捜索、定期的に報告せよ。廻皇隊は問題のある枳殻に至急調査せよ。賊については生死は問わん。容赦なく叩き潰せ」
「御意に!!」

 堂々と、冷酷に。
 上様がそう告げると、あれだけ集まっていた人たちが一瞬のうちにいなくなった。
 もう任務は始まっている。
 かといって、一文官であるわたしはこの城で待機だろうけど……。

「さ、行くぞ成」
「? 何で? わたしは近衛隊でも廻皇隊でもないけど」

 わたしの肩を背後にいた繋がぽん、と叩く。
 謎の言葉にわたしは首を傾げるけど——、正直嫌な予感がした。
 そんなわたしに繋はあっけらかんと、

「ん? 親父に聞いてなかったか? この任務においてだけ、成。お前は廻皇隊に配列されたんだよ。早急解決のためにな」

 う、嘘だろ神……。

Re: ヒノクニ ( No.12 )
日時: 2020/05/20 18:25
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

……本当に来ちゃったよ……。
 まだ手を付けていない書類や印を押してない書類もあったのに……。帰った後が恐ろしい。今すぐ帰りたい。
 わたしの抵抗も虚しく、枳殻行きへの列車に乗せられた。

「ぐだぐだしてねぇでさっさと降りろ。もう着いたぞ」

 嫌だ嫌だと思っていても時間は無常である。あれやこれやとあっという間に枳殻の駅へ辿り着く。
 ぶっきらぼうに言う雪ちゃんを遠目に、重い腰を上げて歩き出す。
 駅を降りて思ったことが1つ。

「特に変化は無いね」
「まぁここは国境の近くだからな。迂闊に暴れたら親父(皇帝)にすぐ情報が行くだろ」
「それもそっか」

 あっけらかんとして言う繋に頷く。
 盗賊が暴虐を強いているという情報とは裏腹に、人々は和やかで静かだ。
 もともと、枳殻という都市は他の都市ほど目立つところが無いのだが——どこよりも治安が良く、文字通り「人々が支え合って生きている」ところなのだ。
 病気で動けない人がいれば地域で救け、事故や病気で両親を亡くした子供がいれば地域で育て——気候による災害で農作物の収穫量が少なく、食糧が不足している人がいれば地域で提供したり。
 あらゆる意味で温かい都市。

「まずは領主に会おうぜ。今回の事は一番よく知っているはずだからさ」
「ああ」

 そう言ってわたしたち3人は領主の住まう屋敷へと足を運んだ。





「出雲からはるばる……。本当にありがとうございます」

 屋敷にて出迎えたのは数人の侍女と30代前半らしき男性だった。
 少し長い銀髪を一つまとめにしていて——印象としては上品というべきだろうか。訪れるなり、わたしたちが上様の使いだと理解するとすぐに広間へと案内してくれた。
 侍女が茶をすべて出した、そんなときに言葉を発した。
……けど、疑問が一つ。

「枳殻の領主は50代後半の——いえ、水薙(みずち)様だと認識していますが」
「これは失礼しました。ご存知かとは思いますが、父は最近の事件で具合を悪くしてしまって……。代理として息子の私が領主をしています。父のようにうまくはいかなくて……」

 彼は筒治(つつじ)と名乗った。
 確かに、あの水薙様が盗賊による暴虐を1ヶ月も放置しているわけがない。領主なり立ての経験不足からなのか。
 ともあれ、下着泥棒と盗賊の件同時進行で解決しなくてはならないのだ。
 けれど、彼にはもう一つ疑問が——……。

「おい」

 今まで口を開かなかった雪ちゃんが唐突に口を開いた。
 雪ちゃんの妙な威圧感に筒治さんは少し冷や汗を流していたが、気にすることなく机に足を乗せた。
 行儀が悪い! 繋を見習え! 見てよこの上品さを。

「——……テメェが盗賊団の首領だろ」

 ——……あ。
 やっぱり、雪ちゃんもそう思っていたんだ。どうやら繋も同じことを思っていたようで、居心地悪そうに肩を竦めている。
 まさかこんな初っ端から堂々と言うとは思わなかったのだろう。
 しかし、筒治さんは動じることなく。

「思ったよりも面白い方なんですね。廻皇隊の雪丸慶司さん。どうしてそう思ったのかはわかりませんが——、私は領主である水薙の息子です。盗賊とは縁がありませんよ」
「そうかな」

 今度は繋が口を開いた。
 雪ちゃんがぶっちゃけた以上、隠す必要もなくなったのだろう。

「まずおかしいのは出迎えの仕方だ。普通領主ってのは皇帝が来訪する以外出迎えは侍女や召使に任せる。それで呼ばれたら領主が行くもんだ。俺が思うに、目を離した際に俺達に情報が漏れるのを阻止したかったんだろう?」
「何をおっしゃられる。確かに、いつもならそうします。ですが今回は状況が状況ですし、それに、皇帝の息子である繋様が来られたのです。私が出迎えないわけにはいきませんよ。父もきっとそうしますとも」

 ニコニコとしながら答える筒治さん。
 けれど——……アンタは一つ余計なことを話した。
 水薙様は繋には、

「水薙のおっさんは繋を『皇帝の息子』だっていう特別扱いはしないんだよ」
「——……っ!!」

 雪ちゃんの射貫くような言葉に思わず筒治さんは立ち上がった。
 水薙様は豪快で皇帝の息子だからといって恭しい態度を取られたくない繋の性格を察して一宮仕えのような扱いをするのだ——よってそれは当然息子には言い聞かせているはずだ。いくら、それが失礼な態度だったとしても。

「それに、水薙様の息子さんは超が付くほどの自由人だからこの国には年に一回程度にしか帰らない! 世界中旅してるからね。領主の息子なのに!」

 わたしがそう言い放つと、筒治さんは力なく、再び座り込んだ。
 そして、くつくつと不気味に笑いだす。

「——……私も焼きが回ったか——、というかあーあ。やっぱり付け焼刃の息子設定は上手くいかねぇな……。おい手前ら!!」

 筒治がそう叫ぶが否や、思い切り障子を開けられた。素早く、武器を装備した——盗賊らしき人物が数十人わたしたちを取り囲んでいた。
 筒治が先程の上品さとはかけ離れた胡坐を掻くと、高見を見物でもするかのように、

「殺せ! 殺して皮なり内臓抉り取って他国に売れば大した金になる。そんで——……今回の計画の邪魔が消える」

Re: ヒノクニ ( No.13 )
日時: 2020/05/26 18:03
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「ちょっと待ってちょっと待て。これ以上部屋に入られると密度が……。今あんまり人との接触は避けた方がいいと思うんだわたしは。だって変な病気に」
「成! 避けろ!!」

 繋の一声でわたしは左に飛び、避ける。上から刃の分厚い槍が思い切り振り落とされたのだ——その威力を示すかのように、床は深く穴が開いていた。
 わたしに攻撃したのは筒治の真横にいる大柄な、甲冑を着込んだ男だった。ただの盗賊があんな高等な装備手に入れられるはずがない。きっと、彲様から奪い取ったのだろう。
——かといって、いくら武器を揃えてもわたしたち3人には勝てない。
 なぜなら。

「——……護法(ごほう)が無い俺達に勝ち目はないってか?」
「…………!」

 わたしの、いや、わたしたちの考えを見透かしたかのように筒治は意地悪そうに口角を上げた。
 何か、あるのか。

「確かに俺達は真面な教育を受けてないから護法なんて0から1までも知りはしない。けどな、護法は使えなくても『無理矢理出す』方法ならあるんだよ。……おい、やれ!!」

 真面な教育を受けてない? そんな馬鹿な話があるか。ヒノクニは多少の貧富の差はあっても、特別貧乏だとか特別お金持ちな人間は存在しないし、国民全員に教育は行き渡っている。
 それは、それだけはわたしたちと上様が全力でやっている。すべての地域に足を踏み入れて調査したとも。上様がとことん管理している。
 つまり、こいつらは。

「アンタらこの国の人間じゃないね! 誰に雇われた!?」

 筒治の一声で部下たちは何かしようとしている。
 そうする前にわたしは何とか棒で横殴りにする。一気に10人ほどは吹っ飛んだだろう。
 しかし、筒治以外の部下は小さい注射器のようなものを取り出し——……首に思い切り刺したのだ。

「ぐっ……、ぐぁ、あ……。ああああああああああああああああっ!!」

 部下たちは額に血管が浮き出る程、藻掻き苦しんだかと思えば次の瞬間、1人の男の体中から濃い灰色の煙が発射された。
 それはみるみる部屋中に広がり——、筒治たちの姿もぼやけてきたのだ。

「おいこら逃げんな——っ!」
「止まれ! クソガキ。……この煙吸うな。毒じゃねぇが有害だ。ずっと吸ってると気管支がやられるぞ」
「ブフッ」

 筒治を逃がすまいと追おうとしたわたしの口に手ぬぐいを突っ込む雪ちゃん。言われた通り、よく観察すると有害なのが見て取れた。臭いキツイし。
 ……でも雪ちゃんは生まれつき毒とか効かないんだよね、ずっと前に上様に宛てられたお祝いの品に毒入っててもそのまま食べてたし。
 おかしくね?
 そんなことを考えていると甲高い悲鳴が聞こえた。声の主からして出迎えた侍女たちであろう。

「や、止めてください! 私達は約束を守ったでしょう!? この時間だけあなたたちの言うことを聞けばこの屋敷から出ていくと……!!」
「事情が変わったんだよ! 来い! 逆らうと蜂の巣にするぞ」

 姿は見えないが、きっと侍女を人質としてまた別の場所へ連れていく気だろう。
 しかし、次の瞬間にはゴッと鈍い音がした。気配からして雪ちゃんが筒治の部下を殴りつけたのだろう。

「うるせぇ。女に集る(たかる)ぐらいなら潔く潰れやがれってんだ」
「あ、ありがとうございます!」
「雪ちゃん! 他の侍女さんたちは……」

 この屋敷の侍女はパッと見でも10人ぐらいはいたはず。
 残りを探るべく雪ちゃんに叫ぼうとした次の瞬間、地面が大きく揺れた。
 それはもう立ってはいられないほどに。
 そして、地面が、いや、屋敷が真っ二つになった。

「クソガキ!」
「雪ちゃん——っ」

 お互い手を伸ばすが、一層濃い煙で覆われ、その手を掴むことは無かった。
 まずい、というか今立ってるの壁? 床? 全然、見えない——……?
 その瞬間、わたしの手を掴む人がいた。

「成! しっかりしろ、立てるか!?」
「繋! 雪ちゃんと、侍女の人が——……」

 繋は、わたしの手を力強く握って立たせてくれる。
「ちょっと待ってろ」と繋が言うと、ふうッと強く煙に息を吹きかける。すると、雲一つない大空の様に一瞬で煙が消え去った。
 ようやく視界が晴れた。

「え。何これ」
「……すまん。正直俺も今は分かりかねないな……」

 思わず絶句した。
 だって視界に広がっているのはわたしと繋、そして10人ほどの侍女たちと——……全壊した屋敷だったから。
 筒治とその部下、そして雪ちゃんと雪ちゃんが助けた部下はこの場所にいなかった。

「あー———っ!!」

 そして一番びっくりしたのが……。わたしの武器、何とか棒が無くなっていたことだった。ずっと握っていたのに!

Re: ヒノクニ ( No.14 )
日時: 2020/06/02 19:00
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「おい、何だこりゃあ……」
「すまぬ皇帝の遣いよ。俺らの隠れ家の道順を覚えられるわけにはいかないからな」

 慶司は鉢巻状の布で両目を覆われていた。
 あの衝撃の後、慶司は謎の人物に両目を覆われ、神輿のように数名に担ぎ上げられここまで拉致されてきた。
 正直、慶司自身も状況を把握できていない。

(成葉たちはどうなった……? そもそもこいつらは敵か、それとも……)
「だがもういいだろう。今鉢巻を外す故」

 しゅるっと、視界を遮っていた鉢巻が外される。
 暫く、暗闇だったからか、酷く眩しく感じた。反射的に目を細める。
 そして段々慣れてきた慶司の視界に入ってきたものは……。

「ようこそ! 下着叛逆の総会へ!!」
「世界は君を歓迎している!」
「強引な手で済まないな。新入り。緊張するかもしれんが……」
「今すぐ潰していいか?」

 心の底から、慶司はそう思った。拉致された挙句、開けた視界に己の国の皇帝が血眼になって探している下着泥棒の巣窟だったなんてどんな意味でも嫌気がさす。
 目の前に広がっていたのは——、慶司の目の前には出雲を騒がせた下着泥棒の長らしき人物。そして左右には仲間らしき男たちが10人ほど。
 何より気になるのが、みんな服装が褌で顔を隠し、女性用の下履きで衣類のように体中を覆っている。きっと盗品だろう。

「落ち着け。皇帝がご立腹なのは重々承知している。何せ、亡き皇妃の下着を盗んだのだ。無理はない。しかし、今からする話はお前にとっても意味があるものの筈だ。潰すのはその後でもいいだろう?」
「……仲間にはなんねぇぞ。そんな珍妙な格好も女の下着盗るのもごめんだ」
「無理強いはしないと誓おう」

 下着泥棒たちの長——、褌仮面は真剣な声音で慶司に言った。
……いや、見た目は真剣ではないのだが。

「単刀直入に言おう。皇帝の遣いよ。我々と協力し、あの忌まわしき筒治ら盗賊を共に討伐して欲しいのだ」
「——……どういうことだ?」

 慶司は眉を寄せる。
 てっきり「いい女の家知らない?」とか聞かれると思ったのだ——全く予想外な言葉、いや、勧誘だった。
 その言葉を皮切りに、騒がしかった褌仮面の仲間たちも一気に静まり返る。

「此処だけの話、我々はこの枳殻に強い縁のある人間たちなのだ。……聞いているとは思うがこの地方は本来豊かで穏やかな場所だ。それは今もこれからも変わらないはずだった、盗賊共が来るまでは。アイツらはこの地方を短時間で踏み荒らし、危ない薬まで大量に持ち込み——……この国を混乱に陥れようとしている」
「おいおっさん。それが本当だとしてそりゃ無理だ。この国には近衛隊と廻皇隊がいる。例えそれをぶっ飛ばしたとしてお上には文字通り死んでも勝てねえよ」
「勿論それは知っている。しかしその混乱の矛先が民衆に向けられていたらどうする? 皇帝は民衆の平穏を希望している。放っておけるはずないだろう、その隙を狙うとしたら流石の皇帝も穴ができる」

……確かに、認めたくないが褌仮面の言っていることも事実。
 先程の護法を無理矢理引き出す注射器を目撃している。強く否定はできなかった。
 すると、勢いよく扉が開かれた。
 入ってきたのは褌仮面の仲間と思われる男。洗濯した盗品を籠に入れていたようだ。

「親分! 洗った戦利品干しておきますね!」
「今大事な話だ! でもあんがとな! さっき持ってきた棒で干せ! 太くて重くて1人じゃ持ってこれなかったが、5人がかりでもってこれた。お前ら! 手伝ってやれ」
「……あ?」

 慶司が目にしたのはまたまた見たくない光景だった。
 その洗濯に使おうとしている棒は成葉が愛用している武器「何とか棒」であった。思わず凝視してしまったが——割と価値が高いものなのだ。

(……お上が週一感覚でクソガキに「折るなよ」って言ってるあの棒が……。下着干す棒になるたぁ……)

 世も末である。
 そして流れるような動作で、男たちは棒を用いた洗濯を終わらせた。


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