複雑・ファジー小説

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ヒノクニ
日時: 2021/01/09 17:58
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

 神は滅び征くもの。
 人は死に絶えるもの。


——……それは、どんな時も。

 
 どんな経路を行こうとも、結末は変わらない。



『ヒノクニ 歴史文学■■■■■■ 著者:■■■ 』





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序章>>01 登場人物/設定>>03
壱話 「繰り返し」>>02>>4>>5>>6>>7>>8
弐話 「毒も食わば皿まで食え」>>9>>10>>11>>12>>13>>14>>15>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>23>>24
参話 「それでもあなたは甲虫」>>25>>26>>27>>28
肆話 「嗚呼、愛しき日々だった」>>29>>30>>31>>32>>33>>34>>35>>36>>37>>38>>39>>40>>41>>42

閑話「とある皇帝の独白」>>43

Re: ヒノクニ ( No.1 )
日時: 2020/04/23 17:19
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「ヒ」の恩恵を強く受ける帝国——ヒノクニ。
 技術も、文化も流通、そして国の統率においても他国に比べても他の追随を許さないその国は、人間と人為らざる者——「異形」と共存を両立させていた。
 ……まあ、人であろうと人でなかろうと千差万別、意思を持つ限り色々と問題があるのは変わりないのですが。

 此れはそんなトラブルを取り除き、国の平穏と調和の存続のために奮闘する物語だ。







「……報告は以上です。問題は見られませんでした」
「——そうか。もう下がってよいぞ」
「はっ」

 ヒノクニの都に聳え立つ巨大な城——そこにこの国を統治する皇帝は君臨する。
 聡明にして、冷徹。強靭にして鉄血である皇帝は高い壇にある大きな玉座にて鎮座する。
 鎧を身に纏った屈強な兵士の報告を聞くと、表情を変えずに冷静に受け答える。
 兵士が立ち去るのを目だけで見送った皇帝は少し下の段にて何やら書き物をしている赤い半纏に、茶髪のお団子頭の少女の方へ顔を向ける。

「——成葉、昨日言っていた市場の予算についてだが——……」
「おのれ傲慢と怠惰の限りを尽くす悪逆非道の皇帝め!! 覚悟——っ!!」

 突如、玉座真横の窓を割って侵入する1人の男。
 黒い布で全身を包み、その容貌は窺えないが、両手には短刀を持っている。首を掻き切る気でいるのだろう。
 しかし、皇帝はおろか、少女すら特に驚いた様子を見せることなく——……。

「もう出来てますよ上様! 花緒さんと集計しても去年と同じ、少しの誤差も無く。今日の夕方にも銭の用意を致しましょう」

 ドゴッと、鈍い音を立てながら少女は左手に持っていた身の丈ほどの棍棒を男に投げ飛ばす。
 男は悲鳴を上げる暇もなく、自分で割った窓から吹き飛ばされてしまった。
 カン、カン、カンと先程投げ飛ばした棍棒は天井や壁にぶつかりながら少女の手元に戻っていく。
 棍棒を掴み取ると、少女は呆れたようにため息をついた。

「上様玉座の横にある窓無くしません? 週2間隔で来られても修理が追い付かないんですけど!」
「はっはっはっ。そう言うでない成葉。我を殺せるほどの猛者なら喜んでこの国を明け渡すというものだ。……無理だと思うがな」
「うっわ! ……うっわ! ……なんていうか〜……性格悪い上様!」
「ちょっとお主不敬じゃない?」

 皇帝こと「上様」。少女こと「成葉」は主従。
 上様側仕えの文官は今日も今日とて忙しい。








 

Re: ヒノクニ ( No.2 )
日時: 2020/04/23 17:20
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

いっけな〜い! 殺意殺意! 私、雪丸成葉! 幼いころから兄と一緒に皇帝のお城に奉公してる割と頑張ってる18歳女子!
 昨日も徹夜で書類整理していたのに、今日も早朝3時に無理矢理起こされてわけがわからないまま立派なお屋敷に引っ張られたの〜! これで賞与がなかったら有罪物語だよね!? そんなわけで今日も1日身を粉砕して頑張りま〜す!






「いやっ! いやっ! 嫌よ! この服もあの服も全部気に入らないわっ! もっと真面な衣服はないわけ!?」

 わたしの目の前でふんわりとした黒くて長い髪を持つ少し童顔の、可愛らしい女の子が半泣きで衣類を投げ飛ばしていた。
……確かに、可愛らしいのだけれど、甲高い声で暴れまわっている女の子を見ると逃げ出したくなるんだよなぁ、怒髪天3秒前の花緒さんを彷彿させるというか。
 ちなみにわたしを連れてきた兵士たちはまた元の配置へと戻っていった、お疲れ様です。他人事とは思えない。

「お嬢様、先ほどのお召し物もとても似合っておいでです。どうか気を治めてくださいまし!」
「冗談を言わないで! あの『烏天狗』とのお見合いなの、変な物を着て行ったら、何を言われるかわからないのよ!?」

——そう、ここは女天狗のお屋敷。
 由緒高い歴史と栄華を誇る血筋のこの家は、少し離れたお屋敷の「烏天狗」の一族に嫁入りしたり、婿入りさせたりと密接な関わりを持っている。
 そうすることで、より強い天狗が生まれるからだ。
 でも、女天狗は希少とされている一方、烏天狗——いや、男の天狗は同種の女よりも人間の女性を好む傾向があるため、婚約破断されたり、駆け落ちされたりすることもザラではないのだとか。

 それで、お嬢様も興奮して荒々しくなっているのだろう。
 名家のお嬢様が一方的に婚約破棄されて、置き去りにされるなど、屈辱でしかないはずだ。宥めようとする女中の手も振り払っている。
 かくいう成葉(わたし)も先程表面上の話しか聞いていないのでこれからまた事情を聴こうと思うのだが。
 というか何で上様に奉公しているお前が一お嬢様の面倒見るのかって? 簡単簡単。この婚約が成立すれば周りに回って上様の、いや、国にお金が回るからだ。わっしょい!

「こ、紅(こう)様! 真皇(しんおう)様のお付きの方がいらっしゃってくれましたよ! きっと私たちの婚約に期待してくださっています!」
「お付きぃ〜〜!?」

 紅(こう)と呼ばれたお嬢様がわたしを下から怪訝な眼差しで見る。というか眼光が異常様じゃなくてどちらかといえばヤク……、いや、お嬢様です。
 というか、女中の方々、敷居を高くわたしの紹介をしないで! 確かに期待はしてる! 天狗って資金いっぱいあるもん!

「……何よ。私と同じぐらいの年齢(とし)じゃない。本当にあの偉大なる真皇様のお付きなの? 信じられない」
「上様は実力主義ですからね。事務作業に暗殺者撃退(まどしゅうり)何でもこなせないと宮仕えできないよお嬢!」
「アンタ今後半何て言った!? 様を付けなさいよ!」

 おっといけない、先ほどの眼飛ばしがお嬢様のものとは思えなくてついね。
 いけないいけない。余所行きの礼儀を忘れかけていた!! 申し訳ございませんお嬢様!!
 怒っていたような彼女は、予想外にも、少しずつ笑っていった。

「ふふふ! あなた、堅苦しい宮仕えだと思っていたら面白い人なのね。気に入ったわ、婚約するまで私に尽力してくださいな」

 そう言ったお嬢様は今度は綺麗に、可愛らしくそれで本当の意味でお嬢様らしく微笑んだ。

Re: ヒノクニ ( No.3 )
日時: 2020/04/23 18:15
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

雪丸成葉/ゆきまる なるは
18歳女子。昔見知らぬおっさんからもらった何とか棒と生まれつきの怪力で事件を解決する物理人間。護法は幼いころは使えていたが何とか棒を手に入れたらなんか使えなくなった。

雪丸慶司/ゆきまる けいじ
22歳男子。成葉の兄。ぶっきらぼうで義理堅い。成葉とは対照的に技術と繊細な護法のコントロールで妹を転ばす。ヒノクニで最強と言われている。
力も成人男性以上はある。

士門繋/しもん つなぐ
27歳男性。冷静で度量も大きい理想の人間。普段は温厚だが、慕っている兄妹にあからさまな危害を加えようとする奴を海に沈めようと考えている。上様の嫡男。

上様
神仙と呼ばれる仙人の中の仙人。ヒノクニを1000年以上治める皇帝。自然現象も含む護法を操る超人。

玉露/ぎょくろ
今は亡き皇妃。慈悲深く、美しく、非常に心が強い女性だったという。死ぬ瞬間まで成葉は彼女に仕えていた。

花緒/はなお
猫又の500歳の女性。繋のことが好き。テンション高めで毒舌、守銭奴だがしっかり者で聡明なお姉さん。美女。慶司とは犬猿の仲。成葉とは仲がいい。

神原燠/かんばら おき
19歳男子。最近ヒノクニを騒がせている黒い外套の男。戦闘能力が非常に高く、あまり表情がない。

銀星/ぎんせい
18歳男子。皇帝直属の近衛隊副隊長。隊長と同様戦闘凶で常識人という矛盾した青年。

近衛長/このえちょう
本名はあまり名乗らない99歳のおじいちゃん。
その通りなの通り、皇帝の側近である。戦闘凶気味。護法は全く使えないが圧倒的体術で敵を屠る。


紅/こう
ヒノクニでも有数の「女天狗」であり、そのお嬢様。気が強くておてんば。秦の婚約者。

秦/しん
烏天狗の末裔で将来を有望視された次期当主。紅の婚約者。



設定
ヒノクニ:東方の国。全体的に技術力が高い。一番の大国であり、多数の人間と異形が共存する国でもある。

異形:人間ではない者たち。見た目が特徴的だったり、生まれつき護法を扱える者が多い。大半は人間とうまく共存しているが中には敵対している者もいる。

護法:生きる生命、果てには植物にまで備わっている「生きる力」。護法はあってもそれを使いこなせるものは多くない。扱う者によってその力は千差万別だが、仙人か神でもない限り、「火を起こす」「風を発生させる」などといった自然現象は決して扱えない。

文官:成葉の地位。元は王妃とともにこの役職を担っていたが,亡くなったため成葉が全般を担う。国民の連絡網と事務作業が主な仕事。雑用係とは言ってはいけない。

近衛隊:皇帝を護る兵士とはまた異なった役職。精鋭中の精鋭がそろっている最強の人員。

何とか棒:成葉の武器。怪力の成葉だからもてるが棒自体は100キロぐらいある。重い。

Re: ヒノクニ ( No.4 )
日時: 2020/04/24 19:37
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「私(わたくし)、今回も結婚はしたいけれどしたくはないの」
「……? どゆこと、紅?」

 お屋敷の縁側に座り込む私と紅。最初はお嬢様と呼んでいたのだが、紅自身が余所余所しいから「紅」と呼べと言ったのだ。
 時間が経ち、お日様が出てきて少し体が温まる。

「——私が、いえ、この一族が女天狗の家系なのは知っているわよね?」
「もち!」

 天狗といえば、長い鼻に鳥の翼、念動力に高い下駄を思い浮かべるのだろうが、女天狗は「見た目は優美な人間」なのだ。
 しかし、普通に天狗なので念動力が使える。

「私、生まれて50年ぶりの逸材なんですって。飛べるし、念動力も使えるから……。今までは飛べるか、念動力が使えるかのどっちかだったみたい。……あ、でも勿論神皇様に比べたらたいしたことないのだけれど」
「いや上様と比べないほうがいいと思う。あの人片手で国を亡ぼすから!!」

 本当だよ? 小さいころ上様が玉座からずり落ちた時にうっかり天井を吹き飛ばしたのを見たあの時の光景は一生忘れない。
……ちなみに、紅たち天狗は念動力と言っているのをわたしたちは「護法」と呼んでいます。
 詳しいことはまた後で。

「そう、そうね! ……話を戻すわ。私の婚約のお相手、秦(しん)様と言うのだけど」
「秦!? 秦ってあの、天狗界の貴公子にして次世代を背負うって言われてる?」
「ええ」

 そう言えば少し前に花緒が言っていたのを思い出した。
 顔は見たことが無いのだけど。

「私、幼いころ秦様と遊ばせていただいた時期があったのよ! ……あの方はもう忘れていらっしゃるだろうけど……、私は忘れられない。初恋だった。この家に生まれて恋愛結婚なんてできないのはわかってる。でも、今回の婚約で、お見合いで……あのお方といられるなんて運命だと思った」
「……じゃあ何でさっきみたいに不安になったの?」
「わかってるはずよあなたも。……秦様、人間の娘が好きな様なの」

 悲しそうに紅は微笑んだ。
 
「それは本当に?」
「確証はないのだけど……、噂で。実際に見た人もいるって話もあるの」
「あくまで噂じゃん。それに明日改めて顔合わせがあるんでしょ? 今更人間の女の子に行くかなー」
「でもわからないじゃない! 明日突然『この結婚の話は無しにしてくれ』だなんていわれる可能性もあるのよ!?」
「うーむ……」
 確かに、紅が言うことにも一理ある。
 例えそんなこと言っていても、きっと財力で何だかんだなってしまうのが天狗のこわいところでもある。
 戦ったら強いし……!

「でももう今更言っていられないわ! 話を聞いてくさてありがとう。私、同じ年代のお友達もいなかったし、周囲の圧力もあって最近ぴりぴりしていたけど……。少し楽になったわ」
「それは何より」
「……それとね、一緒に……明日の着て行くもの、選んでくれる?」
「——……いいよ! ばっちり決めたげる! 明日いい日にしようぜ!」

 わたしがそう言うと、紅は幸せそうに微笑んだ。
 明日は戦争、戦国時代。しっかり相手の命(たま)取って来いよな、紅!


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