二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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LOVELESS×××【VanaN'Ice中編集】
日時: 2013/03/25 11:42
名前: 月森和葉 (ID: BsB4CdF8)

はじめまして、またはこんにちは。
月森和葉です。
VOCALOID、特にSCLproject(natsuP) feat.VanaN'Iceの中編集です。
LAST COLOR SCLproject(natsuP) feat.VanaN'Ice収録曲です。

※注意です。
・VOCALOID小説のくせに初音ミクが出てきません。
・結構シリアスです。
・落ちの後味悪すぎ。
・メインキャラクターが全員男という男の花園(薔薇小説ではありません。念為)。

目次
13943号室 Track 07
本編>>1-35
CAST・歌詞>>36
番外編>>37-39
バナナイス対談 >>40

眼 Track 01   
本編>>41-58
扉絵>>40
CAST・歌詞>>59 

LOVELESS××× Track 02
本編>>61-

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【VOCALOID】眼【VanaN'Ice中編集】 ( No.49 )
日時: 2012/10/28 18:25
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

 少年は敵の本拠地であるテントの中まで一気に走り込むと、大将であろうと思われる男の首にナイフを突きつけた。
「あんたが『LESS』の親玉?」
 単身敵地に乗り込んできた少年に、男は大層驚いたことだろう。
 横に控えていた二人の側近のような男たちも驚いた顔をしている。
「お前……!」
「もしや……コードネーム『Me』か!?」
「だったらどうする?」
 口元に笑みを浮かべるこの少年は、世界を破滅に追い込む事さえ出来る。
「馬鹿な……! この周辺を、何人の兵士が取り囲んでいたと思っているのだ!?」
「馬鹿はそっちでしょ? そんなの、全部倒しちゃったよ」
「何!?」
「お前のような子供にか!?」
「やっぱり馬鹿だねぇ。俺は『Me』だよ? 『LESS』なんてメじゃない。勿論、おじさんもね?」
 そう言うと、ナイフを男の首に突き立て、思い切り手前に引いた。
「がっ……!」
「大将!!」
 叫ぶと、悔しげにこちらを睨み付ける。
「貴様……こちら側の大将がこのお方だけだと思うなよ」
 『Me』の少年は、ゆらりと立ち上がると、にこりと笑って言った。
「おじさん、じゃあ俺も言わせて貰うけど、『Me』が俺だけなんて思わないでね?」
 その次の瞬間、二人の側近の喉に小さなナイフが飛んでいく。
 小さな凶器は真っ直ぐに宙を横切ると、綺麗に二人の喉に突き刺さる。
 ナイフを回収すると、少年は至って普通にテントから出てきた。
 まるで近所の店から出てくるような、気軽な仕草だ。
「終わった?」
 誰もいない空間に話しかけると、二人が暗闇から現れた。
「ああ。大方、片付けた」
「こちらもです」
 そう言う彼らの回りには、累々と死体が横たわっている。
 目にも止まらぬ早業だった。
「では、帰りましょうか」
 とても戦場から帰るときの台詞ではないが、彼らは頷き合い、自ら議会本部へと戻っていった。

【VOCALOID】眼【VanaN'Ice中編集】 ( No.50 )
日時: 2012/11/02 19:43
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「ただいま、防衛長さん」
「お望み通り、『LESS』は全て倒してきました」
「私達の望を叶えていただける約束でしたよね?」
 楽しげにこちらを見つめてくる三人は、今は大人しくしてるが、実は羊の皮を被った狼だ。
 油断は、決してならない。
「……いいだろう。連れて行け」
 そう横にいた秘書らしき男に言うと、男は黙って三人に付いてくるように促した。
 自分達が居た所とは別の地下牢へ導かれる。
 その先には、たくさんの女達が眠るとも無しにそこに居た。
 正気を保っている者や、保ちきれずに奇声を上げている者もいる。
「何、これ?」
「この中からお好きな者をお選び下さい」
「へぇ?」
「これを選んだら、僕達は一生牢の奥で二人きり?」
「……此処にいる者は、何らかの事情があって此処に居ります故……」
 面白げに一つしかない眼を閃かせる彼らは、本当に喜びしか感じ取っていないかのように見える。
 鉄格子に顔を近付け、暫く中にいる女達の顔を楽しそうに眺めている。
 やがて、一人の少女が涙を流しつつ近づいてきた。
 歳は少年と同じくらいだろうか。白い肌に、ただ涙を零している。
 その少女の細い顎をとってまじまじと眺め、少年は言った。
「決めた。俺、この子にする」
「……」
 男は無言で頷くと、他の二人にも促した。
 二人もそれぞれ報酬を選ぶと、以外にも大人しく自分の牢の中へ戻っていったのである。

Re: 【VOCALOID】眼【VanaN'Ice中編集】 ( No.51 )
日時: 2012/11/23 14:44
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「で、看守さん」
 少年は鉄柵越しに看守に言った。
「向こう、行っててくれる?」
「——それは、自分の業務に反します故……」
 すると、今度はにっこりと笑って言った。しかし、その言葉は甘さも何も感じられない。
「でもさ、君、ここで起きる惨劇を眼にしたいの? あんまり良いもんじゃないと思うけどね」
 看守は突然青くなり、深く一礼してその場を去った。
 その姿が遠くに消えると、少年は口を開いた。
「……あんた」
 少女の身体がビクリと震える。
「どっか遠くに行って良いよ」
「……?」
「俺達『Me』は、本当は精神異常者でも何でもない。そりゃあ実験によって戦闘能力なんかは桁外れだけど、もとはあんたらみたいな人を救う集団だったんだ。それを政府は邪魔に思ったから今みたいになってるんだ」
 捕らわれの少女は茫然と呟いた。
「……そんな……こと……」
「初めて聞いた? そりゃそうだ。今の議会の奴らも知らないことだから。『Me』しか知らない。俺達はもうDNAに刻み込まれてる記憶だから、決して消えることはない。あんたに言ったのは、誰かに知って欲しかったからだ。それに、俺はあんたを救いたい」
 真っ直ぐに見つめてくる瞳には、嘘や冗談は感じられない。
「……でも……」
「多分、もうすぐ他の奴らが連れていった女達がこっちに来るはずだ。だから、あんたはそれと一緒に逃げろ。大丈夫、看守は居ない」
「……でも……」
 もう一度呟き、少女は俯いた。
 冷たいコンクリートの床に熱い涙が落ちる。
「……私に、家族も、帰る場所も、有りはしません……」
 次々と流れる涙が、床に不規則な模様を創っていく。
(奴隷貿易、か……)
 大方、戦争で家族が死んだか、継母に追い出されたかしたのだろう。
 この時代、少ないことではない。
 やがて、少年がパンと膝を打った。
「よし、じゃあ俺らと逃げようか」
「……?」
 少女が濡れた頬を上げた。
「俺も、ここから脱獄する。そして、あんたらを無事なところまで送り届けよう。それじゃ駄目か?」
 片方しかない眼がこちらをじっと見つめている。
「……いいえ……」
「よかった」
 そう言って笑うと、年相応の可愛い顔になる。
「でも、貴方は……」
「俺は、あんたらを送り届けたら此処に戻る。どっちみち指名手配されて此処に戻るしかないんだから。なんせ、俺は世界一危険な生物兵器だからな」
 困ったように笑う顔はどこか寂しげで、儚く淡い。
「……駄目です」
「え?」
「駄目です! 私だけ逃げるなんて! みんな、みんなで逃げなきゃ……!」
 少女の目に再び涙が堪っていく。
「あんた……」
 『Me』の少年は何も言わずに少女の頭に手を伸ばした。細い指が、涙をすくい取っていく。
「分かった。俺達も一緒に行こう。でも、俺達は特異能力者には変わりない。それでも良いのか?」
「良いです。むしろ、その方が好都合です。追っ手からは逃げやすいでしょう?」
 少年よりも獰猛に笑うその顔は、もう絶望は見えなかった。
 彼女の心を、今は希望が満たしている。
「じゃあ、行こうか」
 少女の手を取り、立ち上がる。
「え? でも、鍵は……」
「忘れてない? 俺は『Me』だぜ?」
 その言葉の通り、手で触れると冷たい鉄格子の戸はいとも簡単に開いた。
「すごい……!」
「さあ、早くあいつらと合流しよう」
 少女と手を繋ぎ、終身刑の囚人は堂々と牢の外を歩いていく。
 その仕草に少女は、嬉しそうに笑って繋がれた手に力を込めた。

Re: 【VOCALOID】眼【VanaN'Ice中編集】 ( No.52 )
日時: 2012/12/09 15:01
名前: 月森和葉 (ID: ngsPdkiD)

「なんだ、君も来たのかい?」
 難なく牢から抜け出していた、二十代後半の青年が言った。
「みんなで此処を出ようぜってなったんだ。もう一人は?」
「なんだ、僕が最後か」
 後ろを向くと、もう一人が至って普通に立っていた。
「やっぱりそうなる?」
 『Me』の三人は、示し合わせたように同じ事を彼女らに言ったようだった。
 それを聞き、彼らが本当に危険であるはずはないと、普通の精神を持った人間なら思うだろう。
 しかし、それを世間に公表することは危険すぎる。
 肯定派の人々が、否定派の人々に『悪人を庇う』と言われ、自分の居場所をなくすことにもなりかねないからだ。
「いいか、あんたたち。俺達は、これからあんた達三人を逃がすために脱獄する。俺達と一緒にいるとあんたらも追われることになるが、恐らく俺達と離れれば追われることはない。それで、あんた達に頼みがあるんだ」
 少年は、これまでにないくらい真面目な顔で三人を見つめた。
「あんた達がいつか、自分で生きられるようになったとき、さっき牢の中にいたような女達を二度とつくらないで欲しいんだ」
「私達は自分が楽しむために人を殺すのではない。自分が生きるために、人を殺すのです」
 一番年上の青年は、握った拳をじっと見つめて呟いた。
 それは、彼らの本心だったようで、『Me』達は黙ってしまった。
 冷たい地下牢に充満した、濃密な死の臭いと沈黙。
 それらが猛然と彼らに襲いかかる。
 誰も何も言わない。
 嫌と言うほど覚えがある雰囲気の中、彼らはのろのろと行動を再開した。
「……とりあえず、地上に出よう。俺達はこの前上に出たから、道は分かると思う……多分」

Re: 【VOCALOID】眼【VanaN'Ice中編集】 ( No.53 )
日時: 2013/01/06 11:21
名前: 月森和葉 (ID: PdhEocoh)

 必要以上に重くなってしまった空気の中、六人は固まって移動を開始した。
「……俺達は、両親の記憶がないんだ」
 唐突に、少年が語りだした。
「気が付いたら、身体中に管が繋がれて、ガラスの筒の中に何かの液体が満たされた所に浮いていた。俺達に、遺伝学上の親は居ない。居るのは、精子と卵子の提供者のみ。俺達の外見はそのDNAによって決まるけど、結局の所、性格なんかの固体情報は遺伝しない。科学者達は今までの研究通り、決められた情報を刻んでいく。だから、俺達の意志は消えない。研究者達が馬鹿で、助かったよ」
 そう言って心底馬鹿らしそうに笑った。
「ほんと……助かってるよ……」
 再び静かになる。
 何を思ったか、少女は『Me』の三人に問うた。
「あのっ、もし、ここから出られたら……何をしたいですか?」
 少年は蒼い眼を見張り、次に嬉しそうに微笑んだ。
「どうしてそんなことを聞くのかな?」
「だって……貴方達だって生きているんです。望がないはず、無いじゃないですか」
 少女が言うと、三人は思っていた以上に真面目に考え出した。
「うーん……」
「あ、あの……」
 驚いて少女が声を掛けようとすると、少年は年相応の顔になって言った。
「そうだな、俺は、別の国へ行きたいな。観光とかしたい。あ、でも今は世界情勢的に無理か……うーん、いや、どうだろ……」
 真剣に考え込む姿が面白くて、思わず笑ってしまった。
「な、なんだよ……」
「いえ、だって……」
「貴方が年相応に見えたので嬉しいのですよ」
 年上の二人が眼を細めて答える。
「では、私達は貴方達の為に最善を尽くすとしましょうか」
 『Me』の中でも最年長の青年がそれを言った女性を抱き上げると、一気に駆け出した。
 他の二人もそれに続く。
「え……!?」
「きゃ……!」
「ちょおっと我慢しててね。飛ばすよ!」
 まさに風のようで、六人はあっという間に遠ざかった。
「すごい……!」
 初めて見る高いところからの景色と、全身を激しく打つ風が言いようもないくらい気分が良かった。
「どうだい!? 綺麗だろう!」
「ええ!」
 風に負けないように大声を張り上げる。
 なんと綺麗な景色だろう。
 遠い森の向こうから差し込む朝日も、飛び立つ鳥の群も、何もかもが眼に新しい。
「綺麗……」
 それを見つめる瞳も、口から思わず溢れる言葉も、全てが輝いている。
「こんな世界があったのか……」
 その言葉を発したのは、『Me』の、二十歳ほどの青年だった。
「私達は戦場以外は殆ど外に出たことがないからね。美しいものだ、この世界とは……」
 青年もそれに賛同する。
 六人は暫くその場に立ち止まると、美しい朝日に心を奪われていた。


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