二次創作小説(新・総合)

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≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き
日時: 2023/03/04 20:10
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: o/NF97CU)

       
 ご注意
◯死ネタが含まれます。
◯グロ注意
◯これは二次創作です。本家とは一切関係ございません。
◯ポケバは、アニメ方式で表現させて頂きます。
◯誤字脱字、私の語彙力不足での分からない所は、紙ほかの裏の陰謀についてでも、ここのスレでも大丈夫です。

《閑話》
【2022年夏】カキコ小説大会 二次小説(映像・紙ほか合同) 金賞
【2022年冬】カキコ小説大会 二次小説(映像・紙ほか合同) 銀賞
読んでくださってる方々、心の底から本当にありがとうございます!!!(´;ω;`)


──

プロローグ

ここは地球。
この星に住む、不思議な不思議な生き物。
──ポケットモンスター 縮めてポケモン
彼らは 空に 海に 大地に…さまざまなところに分布している。

この物語は… この世界の… この星の"裏"で生き残る少年の物語である…






  ──覚悟はできてるんだよね?──






 【記憶】

イチ─仕事場─ >>1-11
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ニ─恋バナ─ >>12-13
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
サン─双子─ >>14-24
───────────────
ヨン─リゼ─ >>25-30
───────────────
ゴ─3柱─ >>33-44
───────────────
束の間の刻 >>45
───────────────
ロクーチャーフル・ジーニアの英雄譚ー 
>>48-58
────────────────
ナナー嵐の前の静けさー 
>>61-65
────────────────
ハチークズレハジメルー
>>66-
────────────────
番外編 腐れ縁のユウとレイ、リウとフジ
>>63
────────────────

   ・・・

『オリキャラ、お客様リスト』

暁の冬さんーリゼ >>20
女剣士さん
――――――――――――――――――

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.64 )
日時: 2022/07/26 21:59
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: oBSlWdE9)

「あんた……邪魔何だけど」

 スイさんと初めて会ったのは、自分が瀕死になっている時だった。慣れないポケモン狩りをさせられ、まともな食料にもありつけず、そのまま餓死するはずであった。
 そんな中、踏みつけてきたのはスイさんであった。

「ぁ……うぁ」

 もう言葉もでなかった。ここで終わるのかと、諦めていた。スイさんが尖った石を自分に突きつけると……

「こら、スイ!」

 黒髪の少女がスイさんの手を掴んだ。スイさんはプクッと頬を膨らましたが、直ぐにそっぽ向いた。黒髪の少女は片腕をバキッと折った。そこで、自分はもう意識が薄れてそこで気を失ってしまった。

 自分が目が覚めると大岩が重なり合った間の空間に居た。そこには葉の絨毯や すり鉢、木の実等様々な道具が揃っていた。数年この施設に居るのだから知らない場所は無いはずだが、ここは見たことない景色の場所であった。確か、当時のリーダー……2代目レイがナワバリにして誰も近づかない場所があった気がする。そこだけ知らないため多分そこだろう。

「あ、目が覚めた? これ、食べなさい。」

 そして水色がかった白髪のスイさんに何かの腕を差し出された。白い肌にプリプリの腕のような肉。凄く食欲をそそられた自分はすぐさまその腕を食べ始めた。肉は弾力があり、とれたてのように新鮮な肉は人生で食べた中で1番美味しかった。何の肉だろうか、ポケモン? いや、ポケモンの肉がこんな白く綺麗なわけが無い。ならばスイさんの肉だろうか。にしては小さい気がするし、スイさんの両腕は健在だ。きっとさっき死んだ奴隷市場出身の人間の肉だろう。外の世界から来ただけあって肉質が良かった。食堂の肉も奴隷市場の肉を使えばいいのに……
そう思っていたらあっという間に食べ終わってしまった。骨は流石に残して、スイさんに私た。スイさんは溜めていた水で洗い流し

『ボキッ』

 骨を喰らい始めた。スイさんもお腹すいてたのだろうか? 今ではそう思うが、当時の自分でもその様子に引いてしまっていた。

「ん? あぁ、これ。レイの骨だから食べてるのよ。」

 意味が分からない。え、レイって、あの2代目レイ? リーダーで裏の頂点に立ってるあの恐ろしい2代目レイ?!
 自分は何てものを食べてしまったのだろう。多分殺される。というか、何故2代目レイの肉をスイさんが持っていたのだろう。でも、美味しかった。

「で、レイの肉を食べたのだからこの先ぶっ倒れないなんてことはないでしょうね?」

 スイさんが刺々しく自分に言う。自分は『はい』と答えた後、スイさんは『着いてきなさい』と言って、外に出た。自分もそれに続く。

「はーい。今から緑の実力底上げ訓練を始めまーす」

 するとスイさんが無気力にそう言った。その様子はとても楽しそうには見えなく、まず自分に向けられる殺気量が半端でなく腰が抜けそうであった。現在の3代目レイの殺気といい勝負である。
 そして、緑とは、自分の名前だろう。名前なんて持っている人などほとんど居なければ、自分は緑髪だったため、妥当だと思った。

「え、実力底上げ……って、え?」

「は? 聞いてなかったの?」

「聞いてましたが……え、何故実力底上げを?」

「あー、説明めんどくっさ。はい、そこのボーマンダ殺りなさい」

 するの目の前には通常サイズとな思えない程の巨大なボーマンダが居た。このサイズは数年生き残ってきたポケモンで、4柱でも協力して倒すレベルのポケモンだ。柱でもない自分が単独で勝てるポケモンじゃない。

「こ、こんなポケモン柱が居ないと……」

「あ、私柱だから命は保証してあげる。3柱のスイよ」

「ええ?!」

 その時初めてスイさんに出会った。ランキングで名前だけは知っていたが、同年代でこんな小柄な女子なんて思っていなかった。
 というか、3柱とは信じられなかった。何故3柱が自分を助けて実力底上げ訓練をさせようとするのだろう。

「はい戯言は終わり早く殺りなさい」

「えっちょ?!」

 そう言うとスイさんはジャンプして一瞬で消えてしまった。え、自分一人で倒せってこと? 無理無理無理! 僕は腰を抜かし目の前のボーマンダに足をガタつかせていた。するとボーマンダは腹に何か力を溜めて宙に放った。その1つの力が幾つもの岩に分かれ雨のように降ってきた。りゅうせいぐんである。
 自分は必死でかわした。足に力が入りすぎて転けそうになるが何とか両手を使って逃げた。数センチ後ろに岩が落ちる音がする。それでも必死の覚悟で逃げる。逃げる。しかしボーマンダは懲りずに追いかけてくる。

「くっ、来るなぁー!」

 自分はそう叫んでもボーマンダは止まらない。すると横の木々をつたってスイさんが現れる。

「あのボーマンダ殺せないと私が貴方を殺すわよ」

「どちらにしろ死ぬじゃないですか!」

「何言ってるのよ。ボーマンダの相手は命の保証するから」

「じゃあスイさんはボーマンダ殺せるんですか?!」

 するとスイさんの目が泳いだ。殺せないのだろう。ふざけるな……自分がボーマンダに挑んで柱は何の得があるのだ。
 でも命は保証してくれるのならば……殺るしかない。
 自分は振り返りボーマンダと対面した。ボーマンダは目を赤く光らせ突撃してきた。逆鱗である。
 自分はジャンプしてかわそうとするが、ボーマンダが早く、低空飛行していたため、ボーマンダの背中を転がる形でかわすことになった。
 かわすことは出来たが、次同じことが出来るとは限らない……ならどうしようか。こういう場合は相手の顎を突いて頭の中を潰したら良い。しかし、ボーマンダに近づくことすら出来ないのだから、まずは体の部位を消さなければ行けない。
 生憎自分には一緒に居るポケモンは居ない。1人でやらなければならない。
 まずは羽を片方もごう。自分は狙いを定めた。
 そして、1歩前に踏み出し羽を掴もうとしたが、近づいた瞬間に羽に吹き飛ばされてしまう。
 口の中に血の味が広がる。

「グギャァッ!」

 怯んだ隙にボーマンダが一気に間合いを詰めて、自分の腕に噛み付いてくる。
 腕の肉に無理やり数本の鋭い異物が入り込んでくる感覚と共に激痛が走る。

「うあぁぁっ!」

 その後に腕が呆気なく「ポキッ」と折れる音がした。自分は直ぐに距離を取るが立てずに倒れて足と腕、胴を必死にじたばたさせた。
 別に腕の中身は痛くない。違和感があるがそんな激痛では無い。しかし、ボーマンダに噛み付かれたことによってえぐれた肉の部分が痛い。
 電気が走ったような感覚と、自分の意識を入れる暇もなく襲う激痛。
 今の状況等すっかり忘れただ俺は跳ねていた。
 次の瞬間。目の前には大口を開けたボーマンダが居た。自分は死を覚悟してもう動かなかった。

「くはっ……」

 腹の半分がボーマンダにかじられる。
 痛い。熱い物を直接流し込まれているように痛い。しかしもう疲れてかわいた声しか出なかっまた。
 スイさんの嘘つき。命の保証なんてしてくれなかったじゃないか。
 かすれた景色。そこにはボーマンダの顔がドアップで写っていた。ふと、後ろから白い影が降りてくる。

「ふんっ!」

「グギァヤァァァ!」

 ボーマンダが受けた何かの衝撃が自分にも伝わる。ボーマンダはビクンと跳ねた後、自分から離れて、地面でのたうち回る。
 よく見ると背中の羽が生えてる部分に1メートル程の裂けた生々しい傷跡が見える。
 スイさんは俺の前に立ち、片手には氷の長い何かを持っている。
 ボーマンダが腹に力を溜めた後、また空から複数もの大きな岩が落ちてくる。スイさんは自分を片手で抱えて岩を交わしていく。
 あっという間にボーマンダの顎下へ来ると、スイさんが持った氷がボーマンダの顎を貫いた。
 ボーマンダは、何も言わずに倒れた。

「ふはぁ……」

 スイさんは軽く方を回す。スイさんの体は冷たく、まるで死体のようであった。しかし、それが熱された傷口を冷やしてくれるため気持ちがいい。

「意外と強いのね。アンタ」

 スイさんにそう言われた。自分は傷を抑えつつスイさんの顔を除く。スイさんは少し微笑んでおり、それをみて胸が熱くなった。

「あ、ありがとう……ございます」

「まっ、柱から見たら? まだまだだけど? 鍛えがいはありそうね」

 スイさんのイタズラっ子のような笑顔に自分は惹かれた。ずっと1人で居た、氷った心を溶かされたようだった。

「あ、ありがとうございます……」

「じゃあ次行くわよ!」

「ちょっ、待ってください! 自分もうボロボロで……」

「今柱の中で誰が1番強い子を育てられるか勝負してるの! ここでへばられたら困るわ!」

「……」

 スイさんは最期まで自分の事は見てくれなかった。最初も最後も自分は周りと張り合うための道具でしか無かったのだ。
 でもそれでもいい。スイさんと一緒に居られるのなら。

「頑張ります」

 自分は一部欠けた体にムチを打って立ち上がった。

 その後、ボーマンダの時と同じようなことを何回もやらされた。死にかける事もあったけど、今思い出すと楽しかった。
 強い子を育てる事は、2代目レイが発端で起こったらしく、いつも2代目を取り合い、喧嘩をしていた柱に呆れた2代目は、『自分の実力でなく、弱いやつを育てて1番強かった者が勝ち』というルールを決めたようだ。
 そのため定期的に柱の弟子の自分達が集められた。ユウとフジとはそこで初めて会い、ユウはドクの弟子。フジは何故か参加していた2代目の弟子だった。
 昔から力関係は今とあまり変わらなく、毎回1番強いのはフジで、2番、3番を入れ替わっていたのはユウと自分だった。
 正直自分は力比べなど興味無かったが、スイさんと一緒に過ごせることが嬉しかった。ずっとこんな時間が続けばいいのにと何回も思った。

 ─スイさんは死んだ

 いつも新人奴隷が送り込まれる際に開かれる適当な集まりで、脱走未遂があったことを教えられた。
 自分は他人事かと思っていたが、次の発言で一気に地獄へと落とされる。

「脱走未遂者はレイ、アーボ、ドク、スイ、ダミ、フジの6名だ。死亡者はレイ、アーボ、ドク、スイ。未遂者はフジ、ドク。未遂はこのようになる」

 
 職員が無慈悲に言い放った。自分はその言葉を聞き逃さなかった。2代目レイが死んだと言われた時から他人事ではないと耳を傾けていたからだ。
 するとスイさんの名前が出てきた。スイさんが死んだと言われていた。
 それだけで思考が追いつかないのに、職員はドクとフジを放り投げた。
 ドクは全身青色だったり紫色だったり、腫れていたり、真っ赤だったりと、痛々しいカラフルな肌の色をしていた。笑えない……
 殴られた痕跡や骨折した痕跡。赤く晴れているのは火傷だろう。見てるこちらまで痛々しかった。
 しかし、問題はフジだった。
 フジに関しては名前を言われないと分からなかった。全身真っ赤で目は剥き出し、皮膚らしきものは見あたらず全身爛れている。
 足や腕に関しては一部抉れている。

 俺らはポケモンと人間のキメラ。そしてドクは人間。それはスイさんから聞かされていた。人間は治りのスピードが遅く、骨折しただけで早くても70回仕事をしないと治らないらしい。
 しかし、自分達キメラは骨折しても長くて数時間で治る。皮膚も破れただけではどうってことは無い。痛いが。
 それなのに、同じキメラである筈なのに。フジは再生されず、酷い有様でいた。
 要するに今見える症状以上のことをされたのだと想像がつく。そう考えただけで手に、足に力が入らない。
 スイさんは? スイさんもキメラだ。なのに死んだということは……フジよりも酷い目にあって死んだと言うことでは……

 周りがザワザワと騒いでいる。所々では悲鳴や笑い声、怒りの声も聞こえる。
 それがBGMのように片耳から持つ片方の耳に抜けていく。

「脱走。それはとても愚かな行為だ。それを踏まえ、仕事場に行け」

 俺らは職員のその言葉に絶望しながらも、仕事場へ向かった。

 ◇◇◇
 
 もしかしたらさっきの言葉は嘘かもしれない。それか、スイさんの事だ。スイさんより圧倒的に強い2代目の事だ。
 本当は死んでないかもしれない。もう2代目もダミもアーボも死んでいても良い。スイさんだけなら。スイさんだけ……

 そう必死に思いながら仕事場を駆け回った。ポケモンなんて無視して駆け回った。澄んだ綺麗な川。不自然に揃った食べれる木の実が成った木の実林。
 ここら辺は環境が良いため強いポケモンが集まる。すると自然にそこに強者の仕事人が集まる。しかし、いつもここに柱とリーダー入るのに居ない。どこにも居ない。
 自然と自分の足はリーダーの縄張りに向いていた。大岩が重なり、中はふわふわな藁の塊や木の実、凹んだ石などの不思議な代物が揃っている。
 いつもは誰もいない。たまに居る時は誰かを柱が癒しているときだ。だけど、今回は誰か居た。
 スイさんか? そう高まる心臓の音を抑えながら全力で走った。しかし、近づくにつれスイさん出ないことがわかった。
 居るのは黒髪の少女と藁の塊の上に寝ている白髪の男だ。

「……ドク、ユウ?」

 自分は中に入って呟いた。ドクは最初の集まりと変わらず悲惨な姿で横になっていた。
 ユウは隣で凹んだ石の中に木の実を入れてすり潰している。
 自分の気配に気づいてユウはこちらを向く。ユウとは思えないひしゃがれた目に、涙を貯めている。
 こんなユウの顔は初めてみた。

「これ……」

「何の用」

 自分が言うとユウが鋭い言葉で自分を刺す。何の用と言われても、スイさんを探してるとしか言えない。
 しかし、今のユウにそんなことを言ったら、ユウの何かが溢れ出そうな気がして何も言わなかった。

「リョクか」

 ドクは目を閉じてかすれた声で自分の名前を呼ぶ。自分は絞られた声で『はい』と言った。

「フジを……見たか?」

「フジなんてどうでもいいだろう!」

 ドクが今にも死にそうな声で自分に聞くが、ユウがヒステリックな声でドクに言った。

「頼む……フジを探してくれ」

「フジなんて死なせてればいいだろうっ!」

 ドクはずっと『フジ、フジ』と呟いている。それに対してユウは泣き叫びそれを必死に黙らせようとする。
 自分はあんな強かったドクの変わりように、いつもと違うユウの様子。集まりで見かけたフジとは思えない姿。
 自分は放って置けなく、すぐ外へ走った。
 フジはどこにいる? さっき仕事場を回ってもフジは見かけなかったぞ。というか走れるのか? いや、移動できるのか? もしかしたらポケモンに食われてるのでは……
 そんな考えが何回もよぎった。あの状態で移動できるとは到底思えない。なら、入口にいるのでは無いのだろうか?
 自分はもう行く宛てが無かったため、入口に走った。思惑通り入口には手足が生えた肉の塊があった。
 ついでに言うとキバゴやヤミガラス等の小さいポケモンが肉の塊を貪り食っていた。
 自分は慌ててポケモンを追い払い肉の塊─フジと思われる人物を抱えた。

「フジか? 生きてるか?!」

「ふ……はぁいぬあぅ……」

 フジは口をパクパクさせ、何かを言っている。口の中を見たら生えかけの歯が並んでいる。
 歯も抜かれたのか……?!
 確実にフジである。自分はフジを抱え、急いで戻った。
 その間ポケモンに貪られていた部分から血液が流れ出し、自分の腕も服もベトベトになった。
 それでもフジを離さなかった。今離したらドクが悲しむし、スイさんの事を聞ける人が少なくなってしまう。
 全力で走り、大岩の重なる場所に着いた。

「フジ……フジか?!」

 初めにフジに気づいたのはドクだった。ドクは立ち上がろうとするが、上手く立てず藁から転げ落ちてしまう。それでも地を這ってこちらへ向かおうとする。
 ユウは持っていた石を落として、瞳孔を開いてこちらを睨みつける。

「何 故 フ ジ を 連 れ て き た ?」

 唸るように威嚇するユウを見て、本能的に近づいては行けないと感じた。しかし、ドクもフジも悲惨過ぎて離せなかった。

「フ……ジ」

 さっきまで閉じていた目をかっぴらきにさせてこちらへ這ってくる。その様子がこの世のものとは思えなかったが、そっとフジを差し出す。
 ドクはフジの悲惨な姿を見た後、不気味に笑いだした。ドクとは思えない高音を、叫び声を出し辺りを響かせた。
 もうその様子を見ていられなかった。自分達が殺しているポケモンも泣いたり、断末魔を上げたりするが、ドクの迫力は違った。
 もうこの場を離れたかった。

「リョク。どけ。殺す」

 ユウが奥から鋭い石を取り出すとフジの頭に突き刺そうとする。それを自分は必死に止めた。ユウの力は強く、ユウの腕を止めている自分の腕はプルプルと震えている。
 今のユウには話が通じない。なら仕方ないと自分は全力でユウの腹を殴った。

「ぐっ……かはっ」

 ユウは口から唾を吐き出しそのまま倒れた。ユウは速さと力は高いが防御力は低い。それを突いた。

「あぁ……ぁ……」

 ドクは完全にぶっ壊れている。今声をかけても何も伝わらないだろう。自分はフジの方が重症だったため、ドクが寝ていた藁にフジを寝かせた。
 フジは目を剥き出しにして口をパクパクさせている。寝かせたのは良いがこれからどうすれば良いのだろう。
 自分はスイさんから生き物の治療法等教えられていない。

「どうしたらっ」

「オレンのみ、カゴのみ……復活草を潰せ」

 ドクがもう声にならない声を絞って伝えた。瞳はあちこち向いていて向けることが出来ないだろうという向きにまで向くようになっている。
 外見からでも分かるぐらい可笑しくなっていたがドクは必死でそれを抑えている。
 ドクの精神力の強さと異常さに気圧されながらも自分は奥から材料を取り出してフジの治療を始めた。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.65 )
日時: 2022/08/01 22:42
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: eldbtQ7Y)

 ドクがたまに聞き取れない言葉を発しながらも、自分に治療の仕方を教えてくれる。それに従い木の実をすり潰したり、置かれていた塗り薬を塗ったりして治療をしていた。
 材料が無くなった時はかなり困った。リーダーの縄張りで誰も近づかないからと言っても、異常をきたしている3人を放って置けないし。途中からやってきたユウの相棒ニンフィアもユウと同じ状態で、フジを襲った。取り敢えず気絶させたが余計その場を離れられなくなった。
 ドクの相棒のポリゴン2は姿が変わってやってきた。目が黄色で渦を巻いている。挙動不審でまんま今のドクのようだった。
 最後にやってきたのはフジの相棒ゲコガシラだ。ゲコガシラもかなり重症だったが、木の実や水、薬草を取ってきてくれていた。
 ゲコガシラは精神的にはまだ動ける状態であったため、五人の患者を二人で介護することになった。

 それで仕事が一回終わった。フジは皮膚や歯は生えてきたものの、身体中青、赤、紫とカラフルになり、動けないのは変わらない。
 ドクは喋れるようになっているが、挙動不審である。ユウとニンフィアは隙あらばフジを襲おうとするためゲコガシラと何回も止めていた。

 ─疲れた

 正直フジもユウもドクも放っておけば良いが、死なれたら気分が悪いし、スイさんの事を聞くことが出来ない。
 それにいつもの仕事と比べれば簡単である。皆が部屋に戻った後、フジの身体に巻くための布を探すために2代目の部屋にドクと向かっていた。

「大丈夫なのか」

「喋れるし歩ける」

 自分が聞くとドクは機械のようにそう答えた。それは見れば分かる。精神的、肉体的にに大丈夫かを聞いているのだ。
 しかし、この答え方をするということは大丈夫じゃないということだ。
 2代目の部屋を開ける。2代目の部屋は他の部屋より一回り大きかったが、机と敷布団1つという素朴な部屋だった。
 敷布団は使われてないぐらい綺麗だったが、椅子はもうボロボロだった。

「レイの部屋に着いたは良いが……何もなさそうだな」

 布は貴重だ。柱でもそんなに持っていない。しかし、リーダーなら、外の世界に行ってる2代目ならかなり持ってると思ったのだが、的はずれだったようだ。
 するとドクが敷布団をどかす。そして、床の板を1枚づつ触ると、1枚動いた。ドクはそれを無音でスライドにさせると、そこには小さな箱ほどの大きさの穴があり、中には様々なものが入っていた。
 しかし、武器等はなく、丸められた草や本、紙などのゴミだった。そこには布がかなり置いてあったため、自分はそれを拝借したが、ドクはゴミを漁り始めた。
 何してるんだ とでも聞こうと思ったが、その様子を黙って見ていた。ドクは一通り漁り終えたら、ゴミを元の場所に戻し、数冊の本だけ取り出した。

「なんだそれ」

「……日記」

 自分が聞くとドクがボソリとそう答えた。ドクはその日記を大事そうに抱えるが、1冊落ちてしまった。
 自分は拾い際パラパラっと中身を見たが、直ぐに閉じた。そのまま本を足に落とした。落としたというか、力が抜けた。

 え、今の何だ? 見間違いか? いや、そんなはずが無い。内容は単語数個しか見なかったし文字のかたちも不揃いなだけだった。
 けれど、恐ろしかった。
 自分の触っては行けない部分を全て逆撫でされるような恐ろしさであった。
『毒』『薬』『実験』そんな非現実的な単語しか並べられていなかったが、文字の形が当時の2代目の気持ちをダイレクトに表していた。
 今のドクにこれは見せてはいけない。自分は日記は絶対に見るなとドクに釘をさしてフジの部屋へ向かった。

 部屋に戻ると目を閉じて顔がしっかりと見える、肉の塊にからフジに治っていた。しかし、変わった点が1つ。髪が生えていたが、いつもの黒髪ではなく、白髪だった。肌も綺麗な肌色から薄茶色になっていた。
 一瞬人違いと思ったが、顔つきがまんまフジであった。
 戸惑いつつフジの身体に布をまく。痛そうだが、フジは何も言わず目を閉じていた。
 フジの隣には複数ベットがあり、隣りにドクが横になった。自分はこの場から離れる訳には行かないため寝ないでずっと2人を見ていた。
 フジがいつの間にか寝ていた。しかし、ドクは寝ていない。眠れていない。

「レイが死んだ」

 ふとドクが呟く。ドクも精神は回復してマシになっているが、今そのことについて話したら余計悪化するのでは無いだろうか。
 まあスイさんの話を聞けたらいいし黙って聞こう。

「俺は最初で離脱したから、レイやスイ、ドク、アーボが死んだ所に居合わせていない。けど、確実にオレとフジ以外は死んだ」

 ドクは瞬きをしない。目が充血していてそのまま淡々と話した。
 薄々分かっていた。けれど確信したくなかった。

 ─スイさんは死んだのだ

 その後ドクは徐々に発言が支離滅裂になっていく。それでも無理やりにでも聞き出した。特にスイさんの事について。
 そこで知った。計画は元々フジだけを脱走させるための物だったこと。フジの為に全員犠牲になるつもりだったこと。スイさんを犠牲にしたのに、フジは脱走出来なかったこと。全ては2代目の計画だったこと。
それを聞いて、多分生まれて初めて怒りを覚えたと思う。スイさんが死ぬだけでも苦しいのに、スイさんが命をかけてまでフジを守ろうとしたのにフジは脱走しなかった。そして、フジの為だけに他の人も巻き込んだ2代目。
 フジも2代目も、心の底から恨み始めた。

「スイさんが死んだ? フジのせいで? 2代目のせいで!」

 自分は思わずドクの胸ぐらを掴んだ。ドクは何もしない。ずっと目をかっぴらきにさせて口を一の字に結んでいる。
 
 ムカつく
 ムカつく
 ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく

 ドクを殺したい。フジを殺したい。2代目を殺したい。
 アーボもダミも、計画に関わったやつ全員殺したい!

 自分は自分の中でふつふつと湧き上がる大きな感情に身を任せ拳を振り上げた。
 ドクに逃げられないように睨みつけるが……
 自分は拳を失敗した紙飛行機のようにヒョロヒョロと落とした。そして、掴んでいた胸ぐらも力が入らなくなり放した。
 ドクは何も言わず乱れた胸をただす。
 殴れるわけが無いのだ。あんな地の底に引っ張られるような不気味な濁った瞳をされては。何もかも諦めたような力ない顔をされては。

 自分は声にならない声を叫び、勢いよく部屋の外へ出ていった。

◇◇◇

「レイ! 見て見て! ボーマンダ殺れたよっ!」

 黒髪に女と間違えるような体格をして、2代目がそのまま成長したような見た目をした少年がレイに向かって笑いかける。
 レイは微笑みながらシュウの頭を撫で、桃髪と水髪の双子がシュウを称える。紫に琥珀の瞳をした少女は呆れながらその様子を見ている。

『僕は─俺はレイだ。フジでもありレイでもある。恨むなら、俺を恨め』

 自分は話そうとしても離れない頭にへばりついている言葉に耳を傾けた。自分も、リーダーも、ユウも、レイも皆大切な人を失った。もう二度と会えないのだ。
 なのに、レイとリーダーは2代目に似ているだけのシュウという人物に誑かされている。2代目の代わりとして見ている。
 憎たらしい。自分もユウも大切な人とはもう会えないと判断してるのに、2人は……
 失うものは何も無い自分達が1番恐れるもの。それは与えられることだ。与えられたら、いずれ必ず失う。
 これ以上レイを、リーダーを壊すつもりかホウチャク シュウ

「そんなにシュウを見ちゃって〜 惚れた?」

 いつの間にか自分の後ろに立っていたユウが自分をからかう。ユウもヘラヘラとしているが、分かっているはずだ。シュウがリーダーにとって、レイにとって悪影響だということを。

「何故シュウを放っている」

「レイが楽しそうにしてるんだよ? 私もレイからシュウを引きはざすほど鬼じゃないよ」

「前にシュウを殺そうとしてただろ」

「……へぇ。見てたんだ」

 前に急にポケモン達が大移動した時があった。何かあったのかと思い探してみると大樹の前でロリースしたユウがシュウ達と戦っていた。『弱いやつに加担すると思う?』そう言ってユウはシュウ達と戦っていたが、ユウぐらいなら見ただけで相手の実力は大体分かる。
 なのに戦いを挑み、更にロリースまでするのは確実に殺しに行ってる。

「あれだけ騒いでたら嫌でも目につく」

「迂闊だったなぁ」

 ユウはケラケラと笑いながら頭をかいている。それでも目が笑っていない。

「何故今シュウを放っている。泳がしてる訳でも無いだろ」

「んー……レイのガードが思ったより固くてさ。殺せそうにないんだよ」

「レイは殺れなくても、シュウぐらいなら殺せるだろ。そんなに劣ったのか?」

 ユウがギロッと自分の方を見る。3柱の中で、昔から1番強いのはレイだ。自分もユウもレイに勝てたことは無いが、レイの目を盗んでシュウを殺すぐらいならできるはずだ。

「私が劣ったことは否定しないけど、レイが思っより強くなってる……」

「どういうことだ」

「私のロリース発動を一瞬で退けたんだよ。無理ゲーって思ったね」

 ユウが笑いながら肩を竦める。残念ながら自分はユウとシュウ達が戦闘している一部分を見かけただけで、ユウとレイが戦闘したことを知らない。
 そしてユウのロリースを一瞬で退けた? レイが爆発的に強くなってることが分かる。レイがレイと名乗り始めた頃はお互い全力を出し合い、削り合いようやく勝敗ができたぐらいなのに……
 いや、振り返ってみると最近俺たちをレイは軽くあしらってる気がする。微笑み、余裕で俺たちをあしらっていた。気づかない間にレイが強くなっていたて……?
 
 俺は少しの間考える。楽しそうにはしゃぐシュウ。それを優しい目で見つめるレイ。
 きっとこの様子は、フジが、レイが昔から望んでいた光景なのだろう。ずっと2代目を守りたいと言っていたのだから。だとしても、自分がやることは一つである。
 レイがシュウにのめり込む前に、やるべき事。

「自分は戻る」

「……何する気?」

「別に、何も」

 伊達にユウとは昔から一緒に居なため、察しが良い。けれど、自分ははぐらかしてその場を去った。

 ◇◇◇

「っと言うことがあったんだよね」

 私こと、情報屋のユウは、仕事終わりにいつものようにダミの隠し部屋に居た。シュウ、リゼ、タツナ、ミソウ、ダミが私の話を真剣に聞いている。
 勿論。私がシュウを殺そうとしたことみたいな私が不利になることは言ってないし、リョクの2代目とフジに対する憎悪も軽く教えただけである。

「それが脱走と何の関係があるんだよ」

「無駄話は要らない」

 タツナとミソウが私に向かって言った。リゼとシュツも同じことを思っているのか、疑問の視線を私に向ける。
 しかし、アンドロイドと言っても、さすがオリジナルのコピー。ダミは私の話をよく理解していた。

「いや、これは結構大問題だよ」

「どういうことですか?」

 ダミが真剣な顔で言うと、リゼが首をかしげる。私はゆっくりと口を開いた。

「リョクはシュウを消そうとしてる」

『っ?!』

 シュウとリゼ、双子はようやく事の重大さに気づいたようで真剣な顔になる。
 リョクのはシュウを鬱陶しく思っている。それは、レイとリーダーを思っての事だ。
 こんな環境で人の事を思える余裕があるのならピラミッドになることに集中したら良いものの……
 リョクはいつまでも愚かだ。

「消そうとしてるって……」

「そのままだよリゼ。リョクはシュウを殺そうとしてるんだ。邪魔だからね」

 ダミが言うとリゼと双子に冷や汗が流れる。そういう私も結構焦っている。
 リョクは伊達に施設のNo.3じゃない。シュウを殺そうと思えば殺せるし、レイが立ちはだかってもロリースしたらシュウだけなら殺せるだろう。
 まず、レイはかなり強くなってることを知るに、リョクはシュウ単独の時だけ手を出してくるだろう。
 それに、まだ分からないが、リョクも脱走計画のことを知ってるかもしれない。多分知らないと思うが、知ってる可能性もある。
 それをレイに言って脱走計画を潰す可能性もある。

 要するにレイ、シュウVSリョクの構図を作ると、結構危ないということだ。リョクが脱走を知ってるかは分からないからこそ、安易にこの構図を作っては行けない。
 ならば、作るとしたら タツナ、ミソウ、リゼ、シュウVSリョクの構図だ。しかし、リョクならシュウだけを殺すことは安易にできる。
 最悪私が割り込んでも良いが、柱同士の戦いでレイが気づくわけが無い。
 リーダーが居ないことが唯一の救いだが、それでも厳しい……

「まあ、好都合じゃない?」

 ダミがめちゃくちゃ生き生きした顔で笑っている。嫌な予感がする。この顔はダミのマッドサイエンティストスイッチが入った時の顔だ……
 主に新薬開発の実験や、人体実験をする時にこの顔をする。大体被害者は2代目だったが、2代目が死んだ後実験が出来ていなかったのだろう。
 めちゃくちゃいい笑顔である。

「こ、好都合ってどういうことだい?」

 私はひきつった笑顔を向けながらダミに言う。ダミは頬のニヤニヤを抑えるために手で頬を揉んでいる。

「脱走する時に柱とリーダーが初めの場所で脱走者を取り押さえるのを知っているかい?」

 ダミの言葉で皆が頷く。私は勿論。シュウ達も脱走計画の時に聞かされている。

「なら今リョクを殺してしまえばいいんだよ!」

 ダミが『名案だ!』と嬉しそうに言った。私は顔から血の気が引いた。
 リョクから殺されないための話をしていたはずなのに、リョクを殺せる戦力があるなら最初からそうしている。
 ダミもそれを分かっている筈なのにこんなことを言うことは、リョクを殺せる案があるということなのだ。
 そして、リョクが殺されると思うと、暗闇の底に叩き落とされた感覚に陥る。別にリョクもレイも殺されようが関係ないと高を括っていたのに……
 あぁ、ダメだ。リョクが愚かだとか言ってたのに、私も同じじゃないか。

「殺すって……どうやって……」

 シュウが焦りながらダミに聞く。ダミはよくぞ聞いてくれましたという顔をする。

「シュウがリョクを殺すんだよ」

『はぁ?!』

 ダミのその言葉に誰もが驚いた。というか何ふざけたことを言ってるんだという顔であった。

「それは、シュウ対リョクのタイマンを貼るということですか?」

「うん。そうだね」

「さすがに無茶だろうダミ!」

 私はダミに怒鳴った。というか焦っていた。
 確かにシュウとリョクのタイマンを貼れたら必要以上に騒がないためレイも気づくのが遅くなるが、戦力差が大きすぎる。

「そう言って、師に勝った人物がいたよね」

「2代目は別だろう」

 ダミはヘラヘラと笑うが私は静かな声で言う。
 師に勝った人物……2代目レイの事だ。師はアーボでのことで、当時の戦力差は今の双子とリョクぐらいあったはずなのだが、2代目が勝った。
 しかし、あれは2代目がおかしいだけでシュウが同じとは限らない。

「そうだね……あれは2代目がおかしい。けれどシュウは2代目の双子だ。潜在能力はかなりある」

「双子だから2代目と同じとは限らないだろう」

「限る限る。だってさ。表出身のシュウが、生きて、ランキングに載ってるんだよ?」

 ダミと私が言い合うが、ダミの言葉で私は口ごもってしまう。
 特に考えてなかったが、よく考えると表出身で素人同然のシュウがこんな短時間で生き残り、ランキングに載ることは異常なのである。
 シュウの潜在能力は2代目レベルだ。

「……確かに、シュウの潜在能力が高いのは認めよう。だからといってリョクに勝てる理由にはならない」

 私は淡々と言った。タツナもミソウもリゼも私と同じ意見なのだろう。冷たい視線をダミに向けていた。

「シュウ。いけるかい?」

「無理無理! 出来るわけ無いじゃんっ!」

 ダミがシュウに聞くと、シュウは慌てて否定する。そりゃそうだ。私でもリョクに勝てないのに施設に来て間もないシュウが勝てるわけが無い。

「言い方を変えよう。シュウなら2代目レイを越えられるかい?」

 何言ってるんだダミは。私はもう驚きを越えて呆れていた。シュウもすぐ否定するだろう。そう思ってシュウを見たが、シュウは目をまん丸くしながら黙っていた。そして、口元が三日月の形になると。

「勿論」

 自信満々な笑顔でシュウは笑った。
 その笑顔は恐ろしいほど綺麗で、不気味だった。


            終

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.66 )
日時: 2022/08/09 19:39
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 8ZwPSH9J)

ハチークズレハジメルー

「さて、シュウ君。リョクを殺すと言っても相手は3柱だ。今の状態じゃ敵わないだろう」

 ダミが腕組みをして僕こと、シュウに向いて言う。そりゃあ僕でもリョクに敵わないことは分かっているが、何かダミに策があるのだろう。

「敵わないって、ならどうすんだ」

「シュウが死んだらお前の責任」

 双子がいつもより鋭い声でダミを非難する。しかし、ダミは表情1つ変えない。

「シュウは負けないし、死なない。仮に勝負に負けたとしても、シュウが一声レイを呼んだら来てくれるだろうし」

 レイの扱いがかなり雑になっている気がする。まあ、リーダー不在の今、レイが施設で1番強いから頼るならレイだろうけど……

「今のシュウなら勝てない……特訓でもするんですか?」

「リゼ君良い質問っ! 特訓もいいけど、残念ながらそんな時間は無い。」

「ならダミ。どうするつもりだい? シュウの相棒のモココに何かしら頼むと言うのかい?」

 ユウが何も思いつかないようで腕組みをしてダミをジトッと見る。

「あっ、もうデンリュウに進化してるよ」

「そうか……えっ、祝ったりしなかったのかい?」

 僕が言うと、ユウは少し驚いたように僕のことを見る。リゼも双子も忘れてたというような表情をする。

「そういえばデンリュウに進化したなら祝わないと行けないな」

「えっ、祝うって、タツナどういうこと?」

 僕が素直に聞く。以前モココに進化した時は忙しくて結局声もかけられてない。最近デンリュウは仕事の道具になってる気がする。

「相棒が最終進化を遂げた時、ここまで生きていけたって事で祝い事をするんだよ。1回だけ仕事中に仕事場にある食料を集めて騒ぐんだ。」

 ユウが言うと僕はデンリュウの事を思い浮かべた。基本この施設ではポケモンは相棒という立ち位置で、ペットという感じがしない。お互い利用し合ってる感じである。そして、仕事人の殆どはキメラの為、1部にポケモンと話せる人物も存在する。
 そのため、それぞれ相棒に悟られないように来ている。
 リゼのサーナイトは例外である。
 それでも、相棒を想った祝い事があるなんて意外だ。まあ、いつもの流れ的に2代目が作ったのだろう。さすがチャーフルである。
 確かに、前デンリュウと仕事をしていた時、デンリュウが寂しそうな目で僕を見ていた。

「そう……だね。別にそんなことはしなくていいかな」

 僕はあっけらかんと言い放った。ユウとダミは意外そうな顔をして、リゼは何も言わなかった。というかいつも無表情の為何考えてるか分からない。双子は凄く顔が歪んだ。

「相棒が進化したんだぞ。……祝わないのか?」

「うん。だってそこまでデンリュウの事想ってないし、それよりチャーフルとレイの方が大事だよ」

 ミソウが困惑した表情で僕の服の裾を掴む。その手を僕は包み込み笑顔で言った。ミソウは余計表情が歪んだ。

「おめでたい事だぞ? 祝った方がデンリュウも喜ぶだろ」

「デンリュウを喜ばせる労力を使うなら脱走に全振りするよ」

 タツナも少し困ったような表情をして僕に言うが、思ってることをそのまま僕は吐いた。双子は困惑してお互いの顔を見ていた。

「……初めの方はもっとデンリュウの事を想って無かったかい?」

「あはは。あんなん邪魔でしかないよ」

 ダミがこちらを伺うように言うが、僕はそれを笑って跳ね除けた。
 勿論、施設に来る前はメリープと楽しくしていたけど、それは表世界のポケモンバトルに使ってスムーズに生きていけるようにするためであって、施設に来て仕事をするようになったら要らない。
 確かに、最初の方はかなりメリープに助けられたが今となっては僕の方が強いため足でまといでしかない。

「……シュウって、表世界出身だよね」

「そうだよ? え、どうしたの?」

「適応力が高い……と言うべきなのか」

 ダミが僕に質問をしたため、僕はそのまま思ってることを吐いた。その後ボソッと考えたがら呟く。質問の意図が分からないが、まあ問題は無いだろう。

「……そうか。ダミ話の続きを頼む」

 ユウはさっきからの少し真剣な顔を崩し、いつもの不敵な笑みに戻った。ダミは口を1文字に結んだ後、話を続けた。双子は少し困惑しているが、知ったことではない。

「そう……だね。シュウがリョクを殺すのは不可能では無い。けれど、経験の差が多すぎるんだ。ならどうするか─」

 ダミがそこで少し黙る。僕達は1粒汗を流しながらダミを見つめる。ダミは気分がいいのか、腕組みをして少し足を開き腰を曲げ、カッコイイ格好をする。

「そう力で『ゴリ押し』だよ」

 呆れた。これだけ溜めといてそれかよ。
 おっと、ダメだ、今僕が癇癪を起こす訳には行かない。が、ジト目でダミの事を見ていた。

「ゴリ押しって……脳筋では無いのですから」

 リゼが僕たちが思ってることをそのまんま代弁してくれる。その通りである。まず3柱相手にゴリ押し出来るならば最初から困ってないのだ。

「ゴリ押しか……まあ1番現実的な方法ではあるのかな」

 ユウは少し考える素振りをしながら言った。
 正気か?僕は自分の目を疑った。

「そんな顔をしないでくれ。まず、戦いで重要なのは思考力と力と防御だ。思考力は経験の差から縮められないと思っていいだろう。防御もあちらの方が硬い。となると、力でゴリ押すしかないだろう。力さえ相手より高ければ思考力も防御もねじ伏せて……まあ倒せる。
 けれど、本来ならば長い年月を掛けて手に入れる代物だ。現実的ではあるが、それと同時に非現実的だ」

 ユウが冷静に説明する。僕が勝つための筋道はゴリ押し……しかし、それを実現するのは非現実的。
 ならどうしろと言うのだ?

「という訳で、シュウを強化しようと思うんだよね」

 ダミが隣の様々な薬や実験薬が置いてある部屋に行く。僕達は数十秒黙っていると、ダミが何かを取ってくる。小さい細長い、ライターと同じぐらいの大きさの木箱だ。

「ロリース……? シュウにロリースをさせるのか?!」

 ユウが焦り混じりに言う。ダミはニコニコしながら頷く。
 ロリース、それは素となったポケモンの力を引き出す。所謂キメラ専用ドーピング剤みたいなものである。力が倍増し、ポケモンの技まで使えるようになる。その代わり寿命が縮んでしまう物だ。
 この際寿命なんてどうでもいいが、ロリースをするのは少し不安である。

「ロリースをさせる……というと少し違うかもしれないね」

「どっ、どういうことだ?」

 タツナがダミに聞く。するとダミは所々にヒビが入って、今にも崩壊寸前ですと言わんばかりのボロボロの黒板を持ってくる。

「まず、2代目のロリースを見たことはあるかい? ユウ君!」

「えっ?! み、見たことはないけど……」

「ああ。僕もだ。恐らく外の仕事でもロリースは使ってないだろう。それは何故か?! はいリゼ君!」

「えっ、え?! それは……えっと……体の負担が通常より大きいとか?」

「ブブー! 残念! 正解はロリースする必要がないからだよ」

 その言葉に僕達は疑問しか浮かばなかった。ロリースする必要がない? ならその薬は? なぜする必要がないのか?
 答えを探るより、疑問が出てくる量の方が多かった。

「まず、大前提として、君達の場合のキメラは遺伝子を組み替えられたポケモンと人間の素を組み合わせて作られている。そのため生まれながらにポケモンの力を持ち合わせているが、それを発揮できないだけ。
 ドーピング剤は、君達の遺伝子一つ一つの底にあるポケモンの遺伝子を無理やり引っ張り出している。要するに一時的に遺伝子の形を変えているんだ」

 ダミがボロボロの黒板に遺伝子の形や図を書いていく。字は汚いが図が綺麗である。それにしても、何故ここに住んでいるダミがそんなことを知っているのだろうか。この下にある研究所の資料を見たのだろうか。

「けれど、シュウと2代目は違う。キメラとキメラの子供だ。2人は自然界にとっても、僕ら人間にとってもかなりイレギュラーな存在だ」

 ダミがチョークを僕に向けてそう言った。自然界にとって、イレギュラーな存在は分かる。キメラも人工的に生まれたため自然界のイレギュラー的存在だろう。しかし、人工的にイレギュラーとは、どういうことだ?

「人間にとってもイレギュラーなのですか? 人間の手によって生まれたのでしょう?」

 リゼが首を傾げながらダミに言う。

「君達。施設で奴隷同士の子を見たことはあるかい?」

 そう言われた時、僕は首を横に振った。僕は入ってきて日が浅いから見たことがないのはたまたま見かけてないだけかもしれない。
 しかし、ユウもリゼも双子も首を横にふった。

「そうだろう。それは何故か。理由は単純明快。ただキメラは子を作れないだけだ」

『ッ?!』

 一同が声にならない声を出す。子を作れないなら奴隷同士の子が居ないのは分かるが、なら僕とチャーフルはどうやって生まれてきたのだ?
 父も母もポケモンのキメラであるし、さっきダミも僕とチャーフルはキメラ同士の子であると明言していた。

「子というのは、親の遺伝子が同じか、限りなく近くないと出来ない。1%でも遺伝子が違うと、子なんて出来ないんだ。君たちキメラは一人一人産まれる前に遺伝子が、組み替えられているが皆一緒に組み替えられてるわけじゃない。遺伝子にも個人差がある。
 だから通常は出来るはずが無いんだ」

「でも、僕はここにいるし、母さんも父さんもキメラだよね?」

「それはシュウの母。No.9802が特別なんだ。君の母はなんのキメラだい?」

「えっと、ミュウツー……」

「ミュウツーとは、なんのポケモンだい?」

「えっと、伝説の……言い伝えられてるポケモン?」

 僕はダミが何を言いたいのかさっぱり分からないため回答を迷走しながら答える。しかし、ダミの表情は変わらないため僕の回答は外れていることが分かる。

「まあ、それも間違いではないんだけど。
 ミュウツーはミュウと言うポケモンから作られたミュウのクローンだ。まあ人工ポケモンだよ」

 ダミがミュウと思われしき小さな可愛らしいポケモンを描き、矢印で下にミュウツーを描いた。
 ってことはだ?ミュウというポケモンから作られたクローンであるミュウツーを使ってキメラである母を作り、母と父が僕達を産んだってこと?  えぇ?!
 僕達の起源がかなり繋がっている事に驚いてしまった。

「そして、ミュウは研究者に取っては抜いてはならない特色がある。それは『全てのポケモンの遺伝子を持っている』と言われている事だよ」

 全ての……遺伝子。
 あぁ。そういうことか。ようやくダミの言いたいことが分かった。

「だからこそ、ミュウは様々なポケモンに化けたり、全ての技を覚えられる。そのクローンであるミュウツーを素に産まれたのがNo.9802だ。ミュウからの過程で変化はあるかもしれないが、No.9802は全ての生物の遺伝子を持っていただろう。それでシュウ達を産めた……というのが仮説だ。しかし、キメラは子を産めないのが常識だから、誰もそんなことは予測してなかった。あと、純粋にNo.556……アーボとの遺伝子が近かったと言うのもあるかもしれないけどね。
 だからこそ、シュウ達は予測されなかった子。イレギュラー的存在なんだ」

 僕はそう言われてもイマイチ ピンと来ない。チャーフルが特別な存在なのは分かる。特別だ。チャーフルができるこは全てできる僕も特別なのは分かるがチャーフルほどではない。しかし、それは実力的な面である。神秘的な面で特別と言われてもピンと来ない。

「イレギュラー的存在だからこそ、研究者も僕も君達の生態を把握できてないし、研究者はシュウの生態を把握する事より大事なことがある。
 だから、僕なりに2代目と実験をしていたんだ。ロリース剤はそれの副産物だよ。キメラの子はポケモンの遺伝子が濃い。だからこそ、ロリース剤無しでもロリースができるんだ。」

「えっ?!」

「あ、ごめんね。天才の僕でも何故ポケモンの遺伝子が濃いかは時間がなくて研究しきれなくって……」

「そういうことで驚いたんじゃないよ?!」

 ダミは天才と自負している自分の顔に手を当て困ったような顔をするが、僕はそれを一刀両断にした。

「ロリースが、ノーリスクってことは寿命が縮まらないってことか?」

「ロリース剤も要らないってことは好きな時に……ロリースできるのか?!」

 双子が驚きながらダミに詰め寄る。ダミは苦笑いしながら双子を落ち着かせる。

「サンプルが少ないから2代目がそうだっただけで、シュウも同じことができるかは分からないけど。キメラの子は腕を動かす程度の感覚でロリースができるんだよ。しかも任意で」

「でも、僕そんなこと出来たことないよ?」

「シュウ。自分の足の親指と中指をくっつけてみて」

「えっえ?」

「いいから」

 ダミがそういうと僕は一生懸命足の指に力を入れた。付けそうで付けられない。感覚がどんどん複雑になっていき何をやってるのか分からなくなってきた。

「感覚が分からないだろう?」

「当たり前じゃないか……」

 ダミはニコニコ笑いながらいうと、僕は負けた気がしながらも出来ないと認めた。

「まあ、出来ないのは感覚が掴めないからだ。腕を動かす時も、歩くもきも『〇〇をする』なんていちいち思わないで無意識でやってるだろう? それと同じでロリースも、感覚を掴めれば体を動かす感覚でロリースができるんだ。そして、感覚を掴むために、このロリース剤を使う。
 無理やりポケモンの遺伝子を引っ張りださなくても、そこら辺に散らかっている遺伝子を集めるだけだから体の負担もないからノーリスクだよ」

 そう言われダミにロリース剤を渡された。僕は木箱を振るとカラッコロと乾いた高い音がする。そんなに入ってる訳では無いようだ。

「今夜はずっと僕の部屋で特訓をしてもらうよシュウ君」

 ダミはとても楽しそうな笑顔で僕に言った。

「……シュウとレイと俺らって部屋同じだけど。どうやってレイを誤魔化すんだ?」

 タツナの言葉に、僕もダミも固まる。部屋が違えば大丈夫だろうが、同じのため僕がいなかったらレイは僕を探すだろう。

「なら、私の部屋に居ることにしよう。私とシュウだけじゃ色んな意味でレイが心配するだろうから、リゼも来るといい」

「それもっと心配されません?」

 ユウが自分の胸を叩き、リゼに言うとリゼは不安がっている。そうなると僕がユウとリゼとやましいことをしてるように見えてしまうんだけど……
 せめて男にして欲しいが僕の知り合いに男はタツナとリーダーとレイしか居ない。
 仕方ないからそういうことにしておこう……

「うん。お願い」

 僕がそういうとユウとリゼは黙って頷いた。そして、今日の話し合いは終わり、ユウとリゼとタツナとミソウは部屋に戻ってしまった。

 ─そして、僕の地獄の1晩が幕を開けた。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.67 )
日時: 2022/08/24 21:35
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 10J78vWC)

僕とダミ以外が外に出ると、僕は改めてダミの方を見た。ダミは腕を組んで顔のニヤニヤを必死で抑えている。
 その様子が不気味すぎて鳥肌が立ってしまった。

「じゃあ、こっち来て」

 ダミが奥の薬や道具が置いてある部屋に入って手招きをする。ずっとダミに入らないように言われていた部屋のため少し躊躇いながら入る。
 
 中はツンとした刺激臭がして、窓際にはフラフコにカラフルな液体が入っている。壁際には小さい引き出しが沢山着いている巨大な棚に、所々何かの草や木の実がはみ出している。
 そこまでは良かった。危険だけれど、まさに実験室のようでワクワクした。
 問題はその奥にある細長い、リーダーぐらいの身長の流さの台と、拘束器具がついている鉄の椅子である。血がべっとりと着いてたり、床には人体の1部が落ちている。
 あからさまに危険な実験をしましたと分かる様子だ。

「はい、ここ座って〜」

 ダミが人体の欠片を広いながら、血がびっとりとついた鉄の椅子に誘導する。
 僕は座れるわけがなくただその様子を見て棒立ちをしていた。

「座るわけないじゃないか……」

「なんでだい?」

「あからさまに危険な実験をしました見たいな椅子に座れるわけないじゃないかっ?!」

 少しづつ、この特訓が危険なんじゃ無いかと思えてきた。最悪死にそうになったら逃げようかな……

「大丈夫大丈夫死にはしないから」

「怪我とかしない?」

 僕は疑いの目をダミに向ける。ダミは何も言わずにニコッと笑い、10秒ほど間を開ける。
 なんだろうこの不自然な間は。

「とにかく座ろうか」

「否定してよっ!」

「大丈夫大丈夫君次第だから」

「余計不安なんだけどっ!」

 ダミはあははと愉快そうに笑うが、こっちは怖すぎて必死で座ることを拒否している。こんなことをしても時間の無駄だということは分かるが、どうしても座りたくない。
 その気持ちを察したのかダミは少し考える素振りをする。

「この血とか人体の1部ってさ、全部2代目の物なんだよね」

「何してるんだいダミ?早くしてよ」

 僕は素早い行動で鉄の椅子に座っていた。ダミは僕が立っていた所に目を向けており、僕が居ないと知るのは僕が声をかけた後だった。
 急いでダミが僕の方を向く。

「……え、もしかしてシスコン?」

「ん?」

「いえ、なんでもないです」

 ダミがちょっと引き気味に声をかけるが、僕は笑ってその空気を吹き飛ばす。その顔を見てダミは顔を背けて素早く何かの準備をする。
 さっきのダミの威勢は一気にどこかへ行ってしまったようで、少しざまぁみろと思ってしまった。
 
 数分経つとダミは様々な道具を持ってきた。何かのベルトに鉄……多分拘束器具であろう。あと、注射器に先程のロリース剤だ。それと、なんか危なそうな鉈、猟で使うような猟銃、細い腕ぐらい太い針。
 凄く物騒である。本当に僕死なないよね?

「そんな不安そうな顔をしないでよ」

 ダミが笑いながら素早く僕を拘束器具で椅子に固定し始める。その動きが素早く、慣れてることがすぐに分かった。
 ただ、僕だって施設仕事場の端くれだ。これぐらいの器具では僕を固定できない。
 そう思い力を入れてみるが、何故かビクともしない。焦って全力で力を入れてみても全く動かなかった。
 これではいざと言う時に逃げられない。

「あぁ、無理無理。それ2代目も壊せたことないから」

「どういう仕組みっ?!」

 ダミは僕を拘束し始めてから凄くウキウキして、さっきの威勢をすっかり取り戻している。
 2代目レイは世界一強いと言っても過言では無いのだ。彼女が壊せない物が世界に存在するのかと驚いてしまった。

「繊維を特殊な編み方で作ったり、形を変えただけだよ。力の向け方によってはひ弱い人間でも壊せるけど……」

 僕はその言葉で様々な方向に力を入れてみるが、ガチャガチャと音がするだけで全く外れない。
 ダミはその様子を見てゲラゲラと笑い始める。

「無理だってぇ〜」

 ダミは僕をからかうのを心の底から楽しそうにしていた。めちゃくちゃ悔しい。

「さて、冗談は辞めて、そろそろ始めようか」

 ダミの顔が急に引き締まり、それと共に部屋の雰囲気がガラッと変わる。
 この顔を見ると、リーダーの弟だなと分かる。ロボットだけど。
 
 ◇◇◇

 「うああぁぁぁっっ!」

 部屋中に僕の空気を切り裂くような悲鳴が響いた。その声は沸騰した時に鳴るやかんの音に近く、自分で叫んでおいて鼓膜が破れそうだ。
 しかし、それと同じぐらいの違和感が僕の腕にあった。

「うるさっ」

 ダミはロボットだからなのか、少し怯むが僕ほどでは無いようだ。しかし、それ以外の景色は何も見えなかった。ブラックアウトに近い状況である。

「気絶しないでよ、これからが本番なんだから。あっ、意識しちゃだめだよ」

 そう言ってダミはロリース剤を取り出す。"意識してはいけない"その意味を僕はすぐに分かったが、意識したら気絶してしまいそうなため、何も考えない事にした。

 するとダミが無理やり僕の口の中に錠剤を押し込んだ。別に錠剤は大きくもないため水はないが普通に飲み込む。
 飲み込んでも特に何も体に異常は起こらなかった。

「もういいよ、自分の腕を見て」

 僕はそう言われてもあまり見たくなかった。けれど、時間が経つにつれどんどん意識させられてきたため、左腕に目線をうつした。

「あっ、あぁ…ああぁっっ!」

 さっきの声とは違う。僕の地声とがなり声が混ざった汚い声が辺りに響き渡る。
 僕の目線の先には綺麗に切り取られた腕があった。血が大量にでてきて、指も手もない。
 そこでようやく痛みがやってきた。腕の中に溶岩を無慈悲に流し込まれているような熱さと激痛。
 そんなのに耐えられるわけがなく、身体全体で暴れた。

「おーちついて。大丈夫大丈夫。ゆっくり呼吸をして」

「ハッ、ハッ、ハッハッ」

 僕は必死に呼吸を整える……といってもしゃっくりのように荒い呼吸が止まらない。
 目頭から大粒のいくつもの涙が頬をつたう。
 嫌だ!助けて!お願いだから!
 ずっとずっとそんなことを思っている。
 何でもするからこの痛みから解放して!

 そんな気持ちで必死にダミに目で訴えるが、ダミはずっと僕を冷たい目で見ている。

「2代目ならできたんだけど」

 その言葉に、僕の頭は急激に冷やされる。
 勿論腕の痛みは変わらないが、そんなの意識の外へと放りだされた。
 呼吸も整っていき、視界も開けてきた。

「いいね。それで、自分の腕を生やす感覚を掴もうか」

 自分の腕を生やす感覚。聞けば意味がわからない。腕を生やすことなんて普通は出来ないのだから。
 しかし、僕は自然とその感覚を想像することが出来た。まあ、別に感覚なんてどうでも良いんだろう。自分で考えた、思い込んだ感覚=腕が生えると体に錯覚させれば良いのだから。
 
 グニュッ

 肉を揉みこんだ時のような音、ハンバーグを捏ねている音と言った方がわかりやすいだろうか。
 そんな気持ちが悪い音が僕の腕からしたと思うと、僕の左腕はいつの間にか生えていた。普通に手も動かせ、切れた跡もない。完全回復である。

「……今すぐ回復しろなんて言ってないんだけど」

 ダミは呆れながら僕の方を見る。
 ここからダミは僕に丁寧に教えて腕をゆっくり生やすつもりだったのだろうが、僕はそれを一瞬で成し遂げてしまった。

「2代目でさえ数時間かかったのになぁ……」

「そりゃ、僕はチャーフルの双子の兄だからね」

「……君の2代目への思いの入れ具合は想像以上で驚異に思うよ」

「それはどうも」

 僕はチャーフルを越えられたことと、ダミに一泡吹かせられたような気がして満面の笑みをダミに向けた。
 ダミは冷や汗をかき、口元が歪んでいた。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.68 )
日時: 2022/09/25 13:31
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: pD6zOaMa)

少々休載させて頂いてるベリーです。

小説大会2022・夏二次創作掲示板……金……賞?
あ、銅賞でなく?金賞……? と驚愕しております。
投票してくださった方々本当にありがとうございます。
ポケモン二次創作が賞に載るの何年ぶりだ? 最後はガオケレナ様だった気がしなくもないぞ?と思い振り返ると3年ぶりでした。
これをポケモン二次創作と言っていいのかはかなり怪しいですが受賞ありがとうございます。


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