死に方を知らない君へ。
作者/杏香 ◆A0T.QzpsRU

一章 「理想と現実」-2
「私……どうしてこんなに役立たずなんだろう」
小さく呟き、いつもと変わらない道を歩いていく。
お母さんは、たった1人で私の為に頑張ってくれているというのに。
少しでもお母さんに喜んでもらいたいと思い、家のお手伝いをしたり、勉強を頑張ったりしても、お母さんの期待に届くころはほとんどない。
このままお母さんに迷惑をかけ続けるなら、いっその事死んでしまおうか。
そう考えたことは、何度もあった。
でも、私は死ぬ事すら怖くてできない。
私は、弱くて役立たずだ。
(……いっその事、誰か私を殺してくれないだろうか)
心の中で私はそう呟き、辺りを見回した。
もしかしたら運良く、死ねることができるかもしれないと。
だけど現実は、そんなに甘くはない。
景色は、いつもと変わらないままだ。
ぶつかってくる車も、不審な人物も、落ちてくる物もない。
それが当たり前だと分かっていても、私はこう思うことしかできなかった。
もしここで死ねたならどれだけ楽だったろうか、と。
そのまま歩き続けること、数分。
気付けば、家まで後少しの目印が、すぐ横にあった。
その目印は、昔仲が良かった友達の家だ。
壁は白で、屋根は灰色の大きな一軒家。
庭は広く、花壇や、木で作られた、小さなブランコがある。
私は立ち止まることもなく、その家を通り過ぎた。
私はその家を見ると、昔の友達の事を思い出す。
そして、いつも複雑な気持ちになった。
懐かしいような、恨めしいような。
昔を思い出し、溜め息を吐いたその時。
突然、強い風が吹いて私の頬を撫でた。
周りにある木の枝からは、枯れた木の葉が落ちてくる。
木の葉が舞うのを目で追いかけていると、その先に2階建ての小さなアパートが見えた。
そこは、私の家。

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