死に方を知らない君へ。
作者/杏香 ◆A0T.QzpsRU

一章 「理想と現実」-5
私はそう思ってからすぐに、ランドセルを開けて本を取りだした。
そして、本のページをパラパラとめくる。
しおりが挟まれているページには、すぐに辿り着いた。
それから私は本に挟まっていたしおりをテーブルの上に置き、視線を本に戻す。
すぐに私はまだ読んでいない行を見つけ、その行から本を読み始めた。
ふと鳴り響いた鐘の音に、私ははっと我に返った。
そして、今は何時なのかを慌てて確認しようとした。
が、この部屋に時計がないことを思い出してますます焦る。
仕方がないのでこの鐘が何時を示すのか、というほぼ忘れかけていたことを必死で思い出す。
この鐘は、多分小学生が家に戻って居なければならない時間(季節によって変わる)に鳴る。
今の季節でいうと、その時間は――四時半。
(そうだ、四時半だ)
そのことが分かった瞬間、もし5時半や6時だったら……という不安はシャボン玉のように弾け跳んだ。
(良かった……5時になる前に気付いて)
私はほっと胸を撫で下ろしながら、テーブルの上にあるしおりを取った。
それからそのしおりを本に挟み、本を閉じてテーブルの上に置いた。
なぜ、5時半や6時だとダメなのか。
その理由は、その時間帯にお母さんの手伝いをしなくてはいけないから。
お母さんの手伝いをしなさい、と直接言われた事はない。
でも、お母さんの手伝いをしなければお母さんは嫌味を言う。
"あんたは良いわよね、黙ってるだけでも食事が出てくるんだから"と。
そんな嫌味を、進んで言われたい人は居ない。
だから、実質強制されているようなものだった。

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