死に方を知らない君へ。
作者/杏香 ◆A0T.QzpsRU

一章 「理想と現実」-4
リビングから部屋までの距離は、5秒あれば十分すぎる程に近い。
なので当然だが、私はすぐに部屋の前に着いた。
そして、部屋にそのまま入る。
ドアを開けなかったのは、そもそもドアがないからだ。
そのため部屋が丸見えだし、おまけに家の中だというのに寒い。
でも、この部屋は空いたスペースを使って作られたものだし、仕方ないのだ。
本音を言うとちゃんとした部屋が欲しかったが、そんな贅沢はとても言えない。
それに、わざわざちゃんとした部屋にする必要なんてない。
(寒いのはジャンバーを着ればいいし、狭いのは工夫すればいいんだ)
私はそう自分に言い聞かせ、いつものようにランドセルをテーブルの上に置く。
そのテーブルは部屋の真ん中に置かれているもので、学習机の代わりになっている。
結構な広さがあるので、ランドセルを置いても邪魔にならない。
だからそのテーブルの上には、鉛筆削りなどの文房具が置いてある。
いつもならこの時間に宿題を終わらせてしまうのだが、今日は宿題そのものが出されていない。
何をして暇を潰そうか、と思いながら部屋を見渡す。
すると、部屋の一角に置かれている本棚が目に入った。
(本棚……そうだ、読書しよう)

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