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26話「天の抱擁」
「…空竜…。」
小さく拳を握り、キクをしっかりと見据える。
気のせいか、キクの目が赤い。
「俺は、キクだ。」
「私は、ウェンディです。」
「名前なんてどうでもいい。…妹を、助けるためにお前を倒す。」
「妹…?っきゃあああ!」
いきなり風が吹き、ウェンディが吹き飛ぶ。
それをシャルルが掴んだ。
「ごめんねっ、シャルル!」
「大丈夫よ。」
靴をならして、キクが近づいてきた。
気のせいだろうか、彼からは哀しみが溢れている気がする。
「……天があるから、空がある。誰だろうな、そう考えたの。」
「え?」
「空があるから、天が生まれた。…空は、原点なんだ。」
ウェンディはすぐに立ち上がり、キクの懐に入る。
「天竜の砕牙!!」
「っく…!」
腹を斬られ、中々のダメージを追ったのかふらついている。
その隙を狙い、ウェンディは思いきり空気を吸い込んだ。
「天竜の、咆哮!!!」
「滅竜奥義!」
ウェンディの咆哮をよけ、キクは腕に魔力をこめた。
「竜空命!!」
「っうああああああ!」
腕の魔力はとてつもないもので、ウェンディは地面をすべる。
だが、それからキクの様子が変わる。
「っはー…、はー…。」
「っ!?なん、で……。」
―竜空『命』!
「!!!貴方、まさかっ!!」
「…そうだ。俺は自分の命で、力を得ている。人工的な…滅竜魔導士。」
「魔水晶を使わない、命を削って使うなんて……!」
「アンタ、おかしいわ!」
シャルルの叫びに、キクは自嘲気味に笑った。
「…死んだ妹を助けるなら、本望さ。」
「妹…ですか?」
「俺は死んだ妹を生き返らせるんだ。妹の、体の時を戻して。」
パァン、と小気味のいい音が響く。
キクはしばらくしてから、頬に痛みを感じた。
叩かれた、と気づく。
目の前には息を荒くし、涙を流す少女。
ウェンディは、キクを優しく抱きしめた。
「死んだ妹さんはっ、貴方が死んだらよろこびません!!」
「っ…!」
「たとえまだ貴方が生きていても、今の貴方は!!」
「人を、傷つけてる!そんなの、妹さんも苦しむだけじゃないですか!」
「っじゃあ、俺はどうすればいい!!?」
キクは、幼い頃から自分が悪いという自責が強かった。
そのせいで、妹が死んだのも自分が守れなかったからだと嘆いて。
「こんな色々なものを持って!俺は、どうすりゃあいい!?」
「……。」
「辛いんだよ!全部投げ捨てたい!何年俺は、生きればいい!!」
「…『妖精の尻尾』は辛い何かをもつ人達がいます。」
「それ、が…?」
「仲間同士で、支えあってるんです。少しでも楽になるように。」
「…俺には、仲間が居ない。」
「これから、です。これから、つくればいいんです!!」
「……でも、」
「私がなります、貴方を助けます。…だから、何時までも死者を追い続けないで。」
「………ありが、とう…。ありが、とう……!!」
ボロボロと泣き出すキクを、優しく抱きしめる。
天は、全てを愛せるのだ。
空さえも、全て。
「…『我はノア、空の契約が解除された。』」
「ウェンディか!すげぇな!」
「…アイリは、すごく強いのね?それにアリアが加わったら最強ね…。」