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6人の役者
作者: 紫桜  (総ページ数: 86ページ)
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*58*

(岳)

「いつだと思う?」

「オレよりは長い」

「・・・」

柏は答えない。
正解だったのか、間違いだったのか。

「そろそろ、来るかな」

たったそれだけ。

オレは、感情を押し殺して、無表情を作った。

盛り上がりは、遠くでしか聞こえてこない。
そのせいか、胸の鼓動がいつもより大きく聞こえた。

体も震えているんじゃないかと思うほど、大きく。

なさけねぇな、自分。

やめてくれ、なんて思っている。
苦しい、なんて感じてる。

思い浮かぶあの笑顔だけは傷つけたくなかった、なんて甘い考えが頭の中の中心に座っている。

かなりの広さをじんどっている。




本心か、殺すか。
それしか、完璧な演技はできない。

女が嘘をつくときに使う業を、オレはまだ、身に着けていない。

だから、殺すしかない。心を、感情を。



オレの目の前には、柏。
口角をあげたまま、人形のようにたっている。
目は、笑っていない。

それは、柏の演技が下手なんじゃない。

うますぎるんだ・・・。


思わず、身震いをしてしまいそうになったとき。


一番、今会いたくない人が、来てしまった。

いつもなら、会いたいって願うはずの人が。



その瞬間、オレの演技は壊れてしまった。

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