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6人の役者
作者: 紫桜  (総ページ数: 86ページ)
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*57*

(岳)

柏は、スマートフォンをいじって、ぶらぶらしていた。
でも、オレを見つけると、すぐに立ち止まり手招きした。

オレは不思議そうな顔をしながら、近づいた。

スマホを、慣れた手つきでズボンの後ろポケットに入れると、柏は空を見上げた。

「晴れた空だな。やんなるほど」

「・・・そう、だね」

「あれ、お前は好きじゃなかったっけ、こーゆーの」

「え」

そうだっけ。

「・・・俺たちに送られてきたわりには、けっこう経験が浅そうだな」

急に、柏の声が低くなった。
そばには華。華の事、こいつ、忘れてそうなんだけど。

「経験?」

華が、首をかしげてたずねる。
でも、その顔はいつもと違った。

「役者歴何年なわけ」

「役者・・・」

柏と華はにやりと笑った。

この人たちの口から、役者なんて言葉は聞いたことがなかった。
けど、その言い回しがなぜかオレは気に入った。

「2年半ってとこか」

「まあ、そんぐらいだな」

柏のよみはあたった。
でも言えない。あっていても、正解だ。と、はっきりは言えない。

「いつから気づいていた」

聞いているのに、聞いていないように言うのは、オレの癖だ。悪い。

「いつからでしょう」

「初めて、雫とあった日」

「正解」

こいつは、はっきりと言える。
その違いは、今の立場だろう。

「じゃあさ」

オレの質問は、少なからず柏の心に響いたようだ。



「柏たちは、いつからやっているわけ」



オレには、まだ、真似できない。
心を読み取られない表情。

柏は、それをマスターしていた。

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