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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*101*

 いや別に恋愛ジャンルが得意とかそういうわけではないですよ。
 まぁその、日常がテーマなので時々こういう甘酸っぱいのもいれたいなぁってことで。
 あとタイトルに恋愛って書いてるのにずっと重い話が続いてたじゃないですか。
 だからまぁいいかなってことなんですよ。(謎の弁解)

 苦手な人はブラウザバック推奨。
 

 さあ、このシーンは!! むうが顔が爆発するのを覚悟で書いたのだ!!
 準備OKですか?? さあ、どうぞ!
 ******


 〈仁乃睦チーム 睦彦side〉


 時々見る夢がある。
 その夢にはいつも、あの時のアイツが出てきて、何度も何度も俺を蹴る。
 なんでお前だけ幸せになって、なんで自分だけ不幸になって。
 夢が覚めるまで、ずっと、ずっと、もう死んだアイツが自分を叩く夢を。


 その夢には胡桃沢はいつも出てこない。
 あくまでその夢の登場人物は、俺とアイツの二人だけで。
 俺が望んでいるのは別れのシーンなんかじゃなくて、続くはずだった未来なのに。


 なんでだろう。もう諦めも覚悟も決まったのに、あの時の記憶が胸の中から溢れ出す。
 それも決まって、アイツと出会った頃の話。
 アイツと別れる直前の、まだ未来が続くと思っていたころの出来事。
 それがなんどもフラッシュバックして、頭の中から逃げ去ってくれない。

 提灯のほのかな灯りが闇を照らす中、右手は横の少女の手を掴んでいるのに。
 今この場において、俺と一緒に過ごしているのは胡桃沢だけなのに。
 俺の左手は、なぜかもういない誰かを探していた。



 仁乃「むっくん? ……どうしたの?」
 睦彦「え? ……あぁ。………ごめん。ちょっと、疲れちゃって」
 仁乃「無理もないよ。こんなに人が多いんだもん。休む?」
 睦彦「………いや。大丈夫」


 好物のわらび餅が入った木箱を小脇にかかえる胡桃沢が、心配そうな表情で黙りこむ。
 自分の中の黒い靄が、増えていく感じがして、俺は彼女の左手を強く握りしめた。


 仁乃「痛っ」
 睦彦「………あ、ごめん……」
 仁乃「どうしたの? なんでそんな、苦しそうなの? なにかあったの?」


 満たされているほど、将来が不安になるのはなんでだろうか。
 欲しいものもちゃんとあって、自分の存在や才能を認めてくれる人もいるのに。
 心の中に、急に冷たい風が吹くことがあるのは、なんでだろう。


 睦彦「………あの時も、今日みたいな雪が降ってたなぁって」
 仁乃「あの時?」
 睦彦「……………あの時はまだ三人だったよな」


 俺が何を伝えようとしているのかようやくわかり、胡桃沢は下唇を軽くかんだ。
 上を向く。分厚い雲から白い粉雪が、ひらひらと落ちていった。


 睦彦「……夢を見るんだよ。アイツがいなくなる夢」
 仁乃「…………」
 睦彦「……なぁ……。いいのかな、こんな………俺だけ、こんな………幸せになって……」


 アイツだって死にたくて死んだわけじゃねぇんだよ。
 殴りたくてオレを殴ったわけじゃねぇんだ。
 あの時は分かったつもりになってたけど、今は違うんだ。


 仁乃「………違うよ。むっくんだけが幸せで、他の皆が不幸せになってるなんて間違いだよ」
 睦彦「……で、でも俺は………だって……っ」
 仁乃「大丈夫だよ。嬉しかったって言ってたもん。私たちと一緒に居られて、良かったって」


 鬼殺隊に入隊するうえで、人の死に際に応対することは避けて通れないと思っていた。
 まだ当時13だった俺でも、それくらいの覚悟はしてきたつもりだった。

 でも。でもさ。
 鬼に食われて死んだんじゃない。
 病気になって死んだんだんなら、それはもう、どうしようもないじゃねぇか。


 睦彦「……アイツ、言ったんだろ!? 
   お前に好きだって、言ったんだろ!? 俺が横取りしたってことだろ!? 
   アイツの気持ちも知らずに! 勝手に自分の都合だけ……っ」


 つい三日前、宵宮の家で年越しをしていた時、「話がある」と胡桃沢に連れ出された。
 そこで打ち明けられたのは、彼女が俺に隠していた、あの日のアイツとの会話。
 なんで隠していたのか、何で打ち明けなかったのか、今ならわかる。けど、けど……!


 睦彦「……何で俺だけ……っ。
    色んな人がいるんだよ。皆が大切な人を失って、前向きになってるのに俺はまだ……」



 馬鹿だ俺は。あれだけ偉そうにタンカを切っておいて、あれだけ偉そうな態度を取っておいて。
 本当は、あれもこれも全部、自分の弱さを守るためで。
 そのくせ大事なことは後になって気づくし、無意識に他人に気を使わせて。


 

 睦彦「……あの日さ。胡桃沢は俺に言ったよな。『君の事が好き』って」
 仁乃「…………うん」
 睦彦「…………失礼だと思うけどさ。俺本当は今も疑ってるんだよ」


 
 胡桃沢の表情に迷いが生じる。泣きだしそうな瞳。きつく結ばれた口。震えている手。
 そんな顔をさせてしまったことに後悔しつつも、俺は早口でまくしたてる。


 睦彦「……胡桃沢は、本当に俺が好きなのか!? ほ、本当に俺でいいのか?」
 仁乃「むっくんがいいの!!」
 睦彦「…………なんで!?? 俺なんかのどこが――」
 仁乃「なんでも!! 私は、むっくんのことが好きなのっ!!」

 涙をいっぱいにためた目で、目の前の少女は怒鳴る。
 小さな体全身で怒りを表現して。

 睦彦「…………だって、俺はアイツを……それに、臆病だし、全然……」
 仁乃「むっくんは強いしっ、優しいしっ!! 私が、そう思いたいのっ!!」


 人の好意を、今俺は充分すぎるくらいに踏みにじっている。
 最低なことをしたと、痛いほどわかっている。
 なのに、その言葉だけではどうしても納得できない自分がいた。



 睦彦「そんなの、まやかしだ!!」
 仁乃「違う!! 私はっ、むっくんに嘘を言ったことは一度もないっ」
 睦彦「俺なんか! どこも!! お前と吊り合えない!!」
 仁乃「そんなことない! ………そんなことない……………っ」


 両目からとめどなく流れる涙を乱暴に腕で拭って、胡桃沢は真っ直ぐにこっちを見つめる。
 その透き通った瞳に、俺まで泣きそうになってしまい、慌てて涙をこらえた。



 仁乃「なんで、はこっちが聞きたいよ。なんで疑うの? 何で信じてくれないの?」
 睦彦「……………信じたいけど、信じるのが、………怖い」
 仁乃「じゃあ私が好きって言うのも嘘なの? あの時の言葉は冗談なの??」
 睦彦「………違う!! 俺は、……ずっと、お前のことが好きだ!!」


 好きなのに、好きでたまらないのに、お前を信じるのをあの日の記憶が許してくれないんだ。
 そりゃあ俺だってお前を信じたい。
 だけど、そうしてしまえば、アイツの気持ちを踏みにじりそうで……。


 仁乃「なら……信じてくれても、いいじゃん……。
    辛い事、今までいろいろあったけど、
    むっくんが頑張っているのを見て、私も頑張れたんだから。
    ずっと一緒にいたもん。今更、むっくんの弱いとこを悪く言ったりしない」


 睦彦「………アイツは俺を許さない」
 仁乃「そんなことない。……そんなことないよ。だって、むっくんのこと、大好きだったよ」
 睦彦「………怖い。ずっと怖い。家族を失った。アイツを失った。お前まで鬼化した……」
 仁乃「………あれは、………あれは……」


 どうすればいいのか分からない。何を信じていいかも、何が目標だったのかも分からない。
 これでいいのか? こんな俺をアイツは認めてくれるのか? 
 こんなにも過去にこだわっている俺を、本当にアイツは許してくれたのか?



 睦彦「………なぁ…………俺、誰を信じればいい……?」



 胡桃沢は何も言わない。ただじっと、黙って話を聞いていた。
 そして何かを呟き、そっと距離を詰めてくる。
 びっくりして一歩後ろに下がろうとする俺の手首をつかんで手元に引き寄せた胡桃沢は、強引に顔を近づけてきた。




 睦彦「………え」
 仁乃「……………女の子に二度もこんなことやらせるなんて、ビンタ百回じゃ足りないからね」



 呆れたように彼女が笑い、直後。
 唇に、甘いものが触れた。


 


  ちゅっ




 睦彦「…………………!???」
 仁乃「……………………………ん」



 至近距離でかかる彼女の髪・息を感じ、俺の中の何かが爆発した。
 数秒後、ゆっくりと離れていく彼女の身体。
 思わず自分の頬に触れると、平温をとっくに超えているのが分かる。

 そして、どんなに恥ずかしいシーンでも平静としていた胡桃沢の頬も、ほんのりと赤かった。
 

 睦彦「……………(え?? こ、これって………………うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??)」
 仁乃「…………むっくんの、ドアホっ(ボソッ)」

 仁乃「ブンッッ(渾身のキック)」
 睦彦「いっだだだだだだだ! そこ義足んとこ!! いだだだ!!」

 
 仁乃「このあんぽんたん!! バーカバーカッッ ざまあみろバーカッッ」
 睦彦「おまっ」
 仁乃「意識させてやったぞバーカッッ もともと『信じれない』とか言う権利ないんだよ!!」
 睦彦「やめッ、殴んな! やめろ!!」


 何度も何度も細い右足を突き出してくる彼女の攻撃を避けていた俺は、彼女の髪がしっとりと濡れていることに気づいた。
 泣きすぎて目のまわりが赤くはれていることも。


 仁乃「むっくんのバカッ 馬鹿ッ むっくんのバカチン!」
 睦彦「……………ごめん」
 仁乃「何かあったら頼れって言ってるのに! 男の子っていつもこうなんだから!!」
 睦彦「……………ごめんってば」


 睦彦「……………ありがと。胡桃沢」
 仁乃「今度同じこと言ったら許さな―――」





 『ばかやろー』








 二人「(バッと振り向いて)」
 仁乃「……………今、誰かが横通らなかった?」
 睦彦「……………さあな。寂しくなってこっちに降りて来たんじゃねえのか」
 仁乃「あはははははは、あははははははっ」
 睦彦「……………ふふっ あはははははは」



 
 俺は弱いです。憶病で、泣き虫で、どうしようもない人間です。
 人に誇れることなどあまりないのかもしれないけれど、そんな俺を好きだと思ってくれる人がちゃんといます。
 
 
 だから、きっと大丈夫です。
 今は闇から出られないかも知れないけど、幸せの芽を摘んでいけば、きっと出口に辿り着ける。
 だから、負けないでください。自分の力を信じて下さい。横にいる人の力を信じて下さい。
 

 そうすればきっと、何かが変わるはずだから。
 


 

 

 



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