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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*15*


 さて、この話から、本当に書きたかった部分を書ける!!
 作者、ファイト。

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 俺のけむり玉の攻撃をきっかけに、紫苑戦が終わった。
 飴屋にいなかったという女の子の弟がどうなったのかは、分からない。
 ただ、生きている可能性がとても少ないことだけは言える。

 失っても、失っても、いずれ立ち上がらなきゃいけない。
 どんなに苦しくても、痛くても、時間は何事もなかったかのように通り過ぎていく。
 
 途中で誰かが叫んでても、泣いてても、かまわず世界は廻っていくんだ。
 だからあの女の子が、今は辛くても、いずれ笑って話せるようになることを祈っている。


 睦彦「はぁ。終わった………」
 仁乃「お疲れ様。このあとみんな用事ある? ないなら一緒に夕飯食べに行かない?」
 睦彦「いいな! 亜門は家にでも帰ってろ。俺は胡桃沢と行く」


 ちょっと意地悪だったか?
 でもこいつと同じ場所で、隣り合って同じものを食べると思うと複雑な気分になる。
 ……別に、食べたくない訳じゃないけど。


 睦彦「おい亜門、ごめんってば。俺が悪かったよ、だから黙り込むなってば」
 亜門「(ぐらっ)」
 睦彦「お、おい、大丈夫か!? どうした?」


 さっきからずっとだんまりを決め込んでいる亜門の態度に苛立って、俺は声を荒げる。
 と、亜門の体が横にぐらりと傾いた。
 とっさに両手で彼の体を受け止める。


 亜門は、苦しそうに肩で息をして、ぐったりと俺の腕の中で目を閉じてしまった。
 さっきまでは元気だったのに、どうして突然……。


 睦彦「だ、大丈夫か? 熱っ! 凄い熱だ……どうしよう」
 仁乃「瀬戸山くんの家の場所なら知ってる。ここからそう遠くないよ」
 睦彦「分かった。案内頼む」


 額に当てた手から、彼の熱が伝わってくる。
 俺は亜門をおんぶすると、胡桃沢を先頭に、亜門の家に向かって歩き始めた。


 
 『体が弱いから、医者にほどほどにしとけって言われてんだよ!』


 前に確か、自分でそう言ってた気がする。
 ほどほどにと念を押されるほど、身体が弱いのか。
 任務に行っただけでしんどくなってしまうのか。

 
 『世の中には、才能に恵まれてない奴もいるんだよ!』


 こう言うことか。
 お前がなんであんなことを叫んだのか、ちょっとわかった気がした。
 理解すると同時に、心の中に去来する罪悪感。


 亜門「う……うん……」
 睦彦「寝とけよ、熱高いんだから。言っとくが好きでやってるわけじゃないからな」


 嘘だ。今、俺は心の底から亜門をなんとかしてあげたいと思っている。
 なのに口から出た言葉は正反対で、思えば俺は彼に本音を言ったことがあっただろうか?

 情けない。本当に、カッコ悪い。
 自分が嫌になる。嫌われても仕方ないと、そう思ってしまう。



 亜門「…………刻羽」
 睦彦「なんだ?」
 亜門「どうしたら、お前みたいになれるのか、教えてほしい」


 亜門が俺を大嫌いだといった理由はつまり。
 彼は俺に憧れていたのだ。
 彼にとって、俺の存在は目標でありライバルで、実力のある人に見えたから疎ましく思った。
 
 だから、「お前は凄いな」という手紙をよこした。
 だから、どうやっても俺みたいになれないことを悔やんで俺を殴った。
 生まれつき弱い体でも、俺みたいになれることを願っていた。


 睦彦「俺は、どうやったらお前みたいになれるのか、教えてほしい」


 お前が俺になりたいと思うように、俺もお前になりたい。


 俺がお前にとって大きな存在でごめん。
 でも俺は、亜門みたいに丁寧に剣を振れないし、亜門みたいに体も弱くない。
 お前が何を考えていたのかもっと早く分かれば、無駄な時間を使わなくて済んだのに。
 
 もしお前と俺が同じ立場にあったら、最初から仲良くすることが出来たのかな。
 それとも、人生には谷が必要だよってことで済ませれば、全部よく思えたりするのだろうか。



 亜門「……お前は、僕みたいにならなくていいよ」
 睦彦「じゃあ言わせてもらうけど、お前も俺みたいにならなくていい」
 亜門「……ちょっと走っただけで熱が出る体なんか嫌だ」
 睦彦「俺も、雑で天邪鬼で虚勢張って目立ってる性格が嫌だ」


 睦彦「ああもう、話が平行線で進まねえ」
 仁乃「むっくんはむっくんで、瀬戸山くんは瀬戸山くん。これで完了でしょ」
 亜門「……そんな、あっさり……」


 仁乃「だって、ありのままの自分って、素敵じゃない? 例えば、むっくんの不意打ち苦手なところも、瀬戸山くんの直情径行も、見方を変えれば長所になるんだから」


 胡桃沢は、至極当たり前のような口調でそう言って、「ね?」とニッコリと笑った。
 俺が困った時、お前の言葉にいつも救われている。

 睦彦「いつもありがとな、胡桃沢」
 仁乃「友達だもん。お互い様でしょ。悲しみも嬉しみも分け合わなきゃ損だよ」
 睦彦「……あ、ああ、友達。友達な!」


 亜門「……なんで、そんなに挙動不審なんだよ……。分かりやすい奴だな」
 仁乃「ん? むっくんは友達のままの関係が嫌なの? え、ってことはむっくん、さては……」
 睦彦「ち・が・う!! 揃っておちょくるのはやめろ!!」


 前に、胡桃沢から亜門の話を聞いたとき、彼女はこう言った。
「瀬戸山くんは、むっくんが大好きだよ」と。
 その時は、なんでそんなことを感じたのかよく分からなかったけど、今は理解できる。


 だって、俺もこいつのことが好きだから。
 だから、俺はニッコリ笑って、俺なりの「大好き」を伝える。


 睦彦「………やっぱりお前は、嫌いだよ」





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 〈有為side〉

 有為「けっこう、亜門さんと上手く言ってるじゃないですか。でも……ああ、なんですね」
 睦彦「ああ、亜門はもういないよ」


 睦彦くんは、何度、その言葉を飲み込んで理解したんだろう。
 すらすらと言葉を並べた彼をみて、ボクはつい泣きそうになってしまう。


 有為「……亜門さんは、睦彦くんにとってどんな存在だったんですか?」
 睦彦「お前、そりゃあ……大っ嫌いだよ。ずっとずっと、大っ嫌いな人だったよ」

 そう言う彼の表情はイキイキとしていて。
 彼と亜門さんの中では、「嫌い」という言葉こそがお互いを支え合うものだったんだなと思う。
 

 睦彦「もうそろそろ、この話も終わるけど、宵宮は続きが待ちきれないみたいだな」
 有為「茶化さないでください。いいところで話を終わらせるからいけないんだ」
 睦彦「まあまあ。分かった。……でも、いっこだけ俺と約束な」


 有為「なんでしょう?」
 睦彦「俺が話してる途中にもし泣いてしまったら、からかわないでくれよ」


 やっぱり、睦彦くんはずるい。
 そんなに寂しそうな顔で言われたら、断るなんてできるわけないじゃないか。


 有為「把握しました。涙で前が見えなくならないでくださいね」
 睦彦「フラグ立てるのやめろよオイ。よし、それからの話を始めるぞ」



 亜門さんの命日まで、話の中ではあと2日だ。

 
 
 

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