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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*16*


 今日は頑張って第1話完結させよう。
 よし、全集中。

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 亜門の熱は、あれからずっと下がらない。
 俺は時間がある限り、胡桃沢と足しげく彼の家にお見舞いに行った。
 そして今日も、俺は彼の家の一室で亜門と向かい合っている。


 亜門「なんだよ、また来たのかよ。風邪うつっても知らないからな」
 睦彦「俺今まで風邪ひいたことないんだ」
 亜門「……なんとかは風邪ひかないってな」
 
 おい、俺のことを今遠回しに馬鹿って言ったよな?
 悪かったな馬鹿で。そーだよ俺は馬鹿だよ!
 
 頭から布団を被った亜門の顔は、昨日よりも火照っていてかなりしんどそうだった。
 時折ゴホゴホとせき込んだりもした。
 食欲がないと言って、食事もとってないらしく、彼はだんだん痩せて来ていた。

 少し触っただけでも崩れそうなほど細い腕を見て、俺は急に怖くなった。
 親戚も母さんも、親父も兄ちゃんも、俺の周りの人はみんな俺を置いていく。
 
 睦彦「………いなくなったりとか、しないよな?」
 亜門「何言ってんだお前。お前に心配されるほどヤワじゃないよ」
 睦彦「………だ、だよな。なんか、ごめんな」

 でも、なんでだろう。さっきからずっと胸が痛いのはなんでだろう。
 早く良くなってほしいと思う。
 また胡桃沢を入れた三人で、一緒に仕事をしたいと思う。
 
 できるかな?
 あれ、なんで疑ってるんだ俺は。治ったらできるじゃんか。あれ、可笑しいな俺。


 亜門「ごめんな、刻羽。心配かけて」
 睦彦「ああいや、俺の方こそ、さっきも……その前も、お前に迷惑かけて、……ごめん」

 本当はずっとずっと謝りたかった。
 今までごめんって、仲良くしようって、たったその一言がどうしても言えなくて。
 
 相手には相手の事情があって、自分がどうこうできるわけじゃないけど。
 俺も自分勝手な理由で相手を傷つけてごめんって、ずっと伝えたかった。


 ああ、やっと……。
 一年もかかってしまうなんて、ほんとうに馬鹿だな、俺って。


 亜門「……僕もごめん。いきなり殴って。痛かっただろ? ……本当に悪かったよ」
 睦彦「ああ、すげー痛かったよ」
 亜門「……やっぱり」
 睦彦「だから、殴ってくれてありがとう」


 俺がお礼を言うとは思ってなかったのだろう。
 亜門がびっくりしたように顔を上げ、俺の顔をまじまじと見つめた。


 睦彦「だって、実際あのことがなければ、俺は一生お前と話さなかったと思うし」
 亜門「……ほんと、お前は嫌いだ」
 睦彦「知ってる」


 目をそらしてそう呟く。
 と、不意に肩に重い感触を感じる。
 慌てて顔を上げると、布団から這い上がった亜門が、俺の背中に腕を回していた。


 睦彦「おい、離れろよ。ちょっと、恥ずかしいんだけど」
 亜門「………っ」
 睦彦「ああもう、ほんとーに仕方ないなぁ!」


 何泣いてんだよ、馬鹿。

 めんどくさそうにそういうと、俺は亜門の長い髪に手を伸ばす。
 癖のないその髪を手で梳き、優しく彼の頭をなでる。


 睦彦「おーきなおやまのこうさぎは〜。なーぜにお目目が赤うござるー♪」
 亜門「音痴」
 睦彦「うるさい。 おやまのー木の実を食べたとてー♪ そーれでお目目が赤うござるー♪」


 小さいころ、この子守唄を歌いながら、母さんは俺をあやしていたらしい。
 俺は男だし、腕の中のこいつは赤ん坊でもなんでもないけど、この歌を歌おう。
 

 睦彦「ごめんな、亜門。そして、ありがとな。好きだよ」
 亜門「馬鹿やろ……僕も、本当は、お前の事、ずっと………っ」
 睦彦「知ってるよ」

 
 大きなお山の子ウサギより、目をはらした亜門が俺の背中に回した腕にさらに力を籠める。
 あったかいなと、ただそれだけを思った。


 俺は彼が泣き終わるまで、ずっと彼の頭をなで続けていた。
 泣き止むと、亜門は少し笑った。


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 睦彦「じゃあ、そろそろ帰る。風邪、ちゃんと治せよ」
 亜門「ふん」


 和室のふすまに手をかけて振り返る。
 亜門は布団の中に入ったまま、視線も合わせずに鼻を鳴らした。


 可愛げのない奴だ。
 まあそれが、この瀬戸山亜門という人間なのだけど。
 
 俺たちは、ちゃんと友達になれただろうか。
 少し遠回りをしすぎたけれど、行きつくべき場所に辿り着けただろうか。
 それともまだ、道の途中なのかな。

 それでもいい。また、ゆっくりと進めばいい。
 また、今度会った時に、笑って話しかけよう。


 亜門「刻羽。ありがと」


 部屋から出る寸前、布団の中から聞こえた彼の言葉を反芻する。
 今日に限って「またな」がなかった理由を、俺はここで分かったら良かったのだろうか。
 分かったとして、その理由が正しいのかと、俺はちゃんと彼に聞けただろうか。


 睦彦「じゃあな、亜門。また明日」


 また明日。
 この言葉を聞いたとき、亜門は何を感じたんだろう。


 今日、彼が生きててくれる。
 それだけで、明日もきっと生きててくれると思ってしまうのは悪いことなのだろうか。
 明日、彼が生きている確証は、どこにもないのに。


 
 

 
 
 

 

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