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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*4*

 続き行きまーす!
 話の都合上どうしても暗くなるのは許してね。
 

 ***************


 睦彦「(なんだコイツ……。俺の手を叩きやがって)」


 亜門の第一印象は、俺の中で最悪だった。
 空気の読めない自分勝手な奴。たった数分間で、彼の印象はそれで定着してしまっていた。
 

 睦彦「(そもそもお前と身長ほぼ変わんねえだろ。チビはお互い様だろうがクソッ)」


 イライラをこらえながら、俺はその後の隊服の採寸や鋼玉選びをした。
 そしてその間も亜門は、横目で俺をジッと睨んでいた。



 黒髪「それでは最後に、皆様には鎹鴉をつけさせていただきます」
 白髪「鎹鴉を通じて、皆様に任務の指令が届きます」



  カァァァァァァ——————!!


 睦・亜・仁「うわっ!」
 鎹鴉「カァ———!(睦彦の肩にとまって)」


 睦彦「えーーっと、かすがい、がらす?」
 鎹鴉「ケケケ」
 睦彦「けけけって……」


 仁乃「え、鴉? ……雀じゃない?」
 鎹雀「チュンチュン!!」
 仁乃「まぁ、可愛いからいいか。これ、名前はもうついてるの?」


 白髪「ついているものもいますがその鎹雀には名前はありません」
 黒髪「ご自由に付けていただいて結構でございます」

 仁乃「そっかぁ。君オス?」
 鎹雀「チュンチュン!」
 仁乃「じゃあ、豆みたいに小さいから、豆吉ね!」
 豆吉「チュンチュン! 仁乃、ヨロシクネ」


 亜門「チッ。おい鴉。お前の名前は何て言うんだ?」
 鎹鴉「ワシノ名前ハ金剛(こんごう)ジャ」
 亜門「………似合わねぇ、絶対それ強力の男の名前だろ」 
 金剛「ツツキマースゾ」


 そんなこんなで、無事選別後の用事が一通り終わった。
 あとは師匠の家へ帰って、受かったことを報告するだけか。



 睦彦「(先生、喜ぶだろうなぁ。頑張って良かったぁ…!)」


 しみじみと、先生の元で修業した日々のことを思い出していると。
 亜門がまたも俺をジッと見つめているのに気づく。
 何か言いたそうな雰囲気。



 睦彦「何だよ」
 亜門「………ちょっと面貸せ」

 
 仁乃「…………」



 胡桃沢が心配そうな目で一瞬俺を見たが、俺はその視線をサラッと受け流した。
 どうせ、大したことは起こらないと、そう思った。
 そして、その予測は結果的に大きく外れたのだ。



 ・・・・・・・・・・・・・・・


 人目のつかない神社の裏へ連れ出して、亜門は俺を真正面から見つめて言った。


 
 亜門「お前なんか大っ嫌いだ」
 睦彦「………へ?」

 
 何を言われたのか、一瞬理解が追い付かなかった。
 今、何て言った? 嫌い? 俺のことが?

 初対面で何故そのように言われなければいけないのか分からず、目を見開く。
 亜門は鬱陶しそうに俺を斜めから睨んだ。

 亜門「僕には何のとりえもない。剣士になることだけが唯一の夢だ。それなのに」


 彼は顔をしかめて、言いにくそうに無理やり口の奥から言葉を絞り出した。


 亜門「最終選別で、鬼は皆お前が倒しちゃったじゃないか」
 睦彦「…………お前が倒せないのが悪いだろ」


 ……そんな彼に、俺はたいして何も考えずにそう言ってしまった。
 鬼を倒すのが条件で、それが分かっているのに倒せなかったなら、お前の努力が足りてない。
 そう言うことだろ、と念を押すように俺もまた亜門を睨む。


 俺の言葉を受けて、亜門の表情に衝撃が走った。
 彼の手が俺の肩に伸び、あっと思った時には、俺の腹めがけて彼の細い足が伸びていた。

 
 亜門「……世の中には、才能に恵まれてない奴もいるんだよ!! それなのにお前は!!」


  〜ガツッ〜


 対して対策もしなかった俺は、あっけなく自分の腹を思いっきり彼の足で蹴られる。
 焼けるような痛みを感じ、受け身も取れないまま俺は砂利の地面に倒れこんだ。


 睦彦「う゛っ!」
 亜門「この害悪! 害っっ悪!! 害悪!!(ガツッ ガツッ ガツッッ)」



 彼が、なぜそんなに俺を嫌っているのか分からなかった。
 なぜいきなり俺を攻撃するのか分からなかった。
 
 睦彦「う゛っ あ゛っ、ぐっ」
 亜門「お前なんか大っ嫌いだ! お前なんか嫌いだ!!」



 脚を俺めがけて振り下ろす亜門は、泣いているように見えた。
 何かを必死で我慢するように、その口元はきつく結ばれていた。


 睦彦「俺も、お前なんか嫌いだ!! 当たり前だ、いきなり殴ってくる相手を好きになれるか!」
 亜門「黙れッッ(ガツッッッ)」
 睦彦「う゛ッ!!」


 一方的に痛めつけれたこと、それ以上の侮辱はなかった。
 殴られ、痛みに耐えながら、俺は頭の中で必死に考えた。

 何が悪かった? 何が許せなかった? どうしたら好かれる? どうしたら変わる?
 どうしてお前はそんなに泣きそうなんだよ。
 どうしてお前は俺に執着するんだよ。上手い奴ならもっといっぱいいるだろうが。
 お前は俺を殴ってどうしたいんだ?
 この場限りの鬱憤を晴らすために俺を殴るなら、お前も鬼だ。鬼だお前は鬼だ。


 お前なんか嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い、大っ嫌いだ!!



 亜門「じゃあな。ド三流」
 睦彦「お前なんか大っ嫌いだぁぁぁぁぁ!! 何なんだよお前ぇぇぇぇぇぇ゛ぇぇ!!」


 言葉とは裏腹に、両目から熱い水滴がこぼれ落ちた。
 ……最悪だ。生き延びれたのに、勝ったのに、それがこんなことで最悪な日になるなんて。


 痛みに顔をしかめながら起き上がる。
 親父の形見の巫女装束はよれよれになっていて、腕にも顔紙も足にも擦り傷が出来ている。
 ……しごく、ダサい。


 仁乃「むっくん! 姿が見えないから来てみれば、どうしたのその傷!!」
 睦彦「胡桃沢……」
 仁乃「何があったの!? 誰にやられたの!?」
 睦彦「………」


 仁乃「………教えて。何があったの」


 駆けつけてきた胡桃沢の真剣な様子に、俺はしぶしぶ事の顛末を説明した。
 亜門が俺を連れ出すなり、自分のことを嫌いと言った挙句、俺を殴ったと。
 そう伝えた。


 仁乃「………あの人、一体どういうつもりなの。嫌いだからって、そんなこと……」
 睦彦「……気持ちはわかるけど、あまり検索はしないでやってくれ」
 仁乃「でも、むっくんはあの人に」
 睦彦「……俺のせいだから。な、お願い」




 仁乃「………分かった。また何かあったら、ちゃんと言うんだよ」


 全部俺が悪いってんだろ、亜門。
 仕方ないよな。わがままで虚勢張って目立ってる奴なんか、ウザったらしくて当然だ。
 それにお前は俺と比べてしまったんだろ。
 仕方ないよ、俺が自分にうぬぼれてたから、腹が立ったんだろ。



 ………もう、帰ろう。
 本当は分かっていたんだ。
 鬼殺隊はアレでも一部の組織なんだから、人間関係だってちゃんとある。
 自分を好ましく思う人と思わない人がいる。
 そんな常識的なことを、俺が分からなかった。それだけのことだ。



 睦彦「……………大変だな」



 もう帰って寝よう。
 帰って、先生に沢山褒めてもらって、今日の悲しいことは嬉しいことで上書きしよう。
 それがいい。


 何かあったと聞かれても、「何もない」ってそういえばいい。
 だから、今日一日はせめて、楽しいことが悲しいことより多くありますように。



 ネクスト→先生の家に帰った睦彦。次回もお楽しみに。



 



 
 

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