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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*5*


 〈師匠の家〉


 へとへとになりながら先生の家に着いたとき、時刻は既に夜。
 とにかく体中が痛くてたまらない。
 心もとうに疲弊しており、本当のことを言えばだれとも話したくない。


 睦彦「…………ただいま……」
 先生「おや、おかえり睦彦。生きて帰れたようで何よりじゃ」
 睦彦「…………あざっす」


 先生に検索されないように、努めて明るい声を出したつもり。
 それでも、二年も一緒に過ごした弟子の様子がいつもと違うことくらい、先生は分かっていた。


 
 睦彦「あ、ああ、今日は浩平は来てないんですね。良かったですアイツどうにも苦手で」
 先生「睦彦」
 睦彦「ああ、ほら、いっつも俺に引っ付いてきてムカつくって言うか、子供ってどうにも」
 先生「睦彦」
 

 大丈夫だ、俺は普通に選別に行って、普通に帰ってきただけ。
 だから何も思うことなんてない。
 そう、普通に、笑っていればいいんだ。

 泣くことなんて、ない。


 先生「なんかあったのか。元気がないぞ」
 睦彦「そ、そんなこと」
 
 先生「……まあいい。お前、おでんとすき焼きどっちがいい?」
 睦彦「………どっちでもいいです」
 先生「…………疲れているようだから、先に風呂に入っておいで」



 睦彦「分かりました」


 結局、俺は逃げるようにその場を後にしてしまった。
 俺の肩に止まった鎹鴉—封仙(ふうぜん)と名付けた—が不思議そうにこっちを見る。



 睦彦「何見てんだよ、バカガラス」
 封仙「…………」


 ダメだ。ダメだダメだ。ダメだ。
 涙をこらえるのに必死になってしまった。
 先生の優しさに甘えたくなってしまった。


 思わず奥歯をぎゅっと噛む。
 誰にも言えない。先生を困らせたくない。だから相談はしない。



 ……胡桃沢に、心配をかけてしまったことも後悔している。
 本当のことを言えば、今すぐ彼女に会いに行きたい。
 また、「むっくんってどうしようもないなぁ」とか、呆れて笑ってほしい。



 湯船につかりながら、俺の頭の中は亜門のことばっかり浮かんでは消えた。
 あんなに殴られ蹴られたのに、やり返してやろうとか思わないのは、なんでだろう。
 

 睦彦「(なぁ胡桃沢、お前ならどうした?)」


 誰とも仲良く接することができるお前なら、上手くやれるのだろうか。
 今、無性にお前の声が聞きたい。



 『お前なんか大っ嫌いだ!!』
 『世の中には、才能に恵まれない人もいるんだよ! それなのにお前は!!』



 お風呂から上がり、部屋着に着替えて俺は足早に自分の部屋に駆け込んだ。
 選択され、ノリがパリッと利いた布団にもぐりこみ、小さく呟く。
 
 睦彦「………仲良くできると、思ったんだけどな……」


 どうしよう兄ちゃん。
 はじめっから上手くいかなかった。カッコよく目立てなかった。嫌いって言われた。


 どうしよう父ちゃん。
 俺、失敗してしまったみたい。
 死んだ父ちゃんの分まで、しっかりしなきゃって思ってたのに、無能でごめん。


 どうしたらいいんだろう。どうすれば正解なんだろう。どうするのが優しいんだろう。
 何で俺はこんなにあいつのことを考えているんだ?
 嫌いなのに。大嫌いになったのに、俺は何がしたい?


 仲良くなりたい。一緒に仕事をしたり、趣味を共有したり、美味しいものを食べたりしたい。
 たった3人の同期なんだから。


 でも、果たして俺にはそれが出来るだろうか?
 もしかしたら「こんにちは」さえ言えないかもしれない。ずっとこのままかもしれない。
 友達になんて、なれないのかも、しれない。



 睦彦「……………ふっ。うああ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……!!」


 なにもなくことなんてないのに、両目から涙がこぼれて来た。
 泣くのは今日で二回目。
 こんなのカッコ悪い。慌てて服の袖で目元を拭おうとして。


 隣に、温かい感触がした。
 恐る恐る横を見ると、封仙が横にもぐりこんでいた。

 
 封仙「泣キ虫ダカラ、一緒ニ寝テヤルヨ」
 睦彦「うっせー。バカガラス!!」


 そう言いながら、俺はまた泣いた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・



 有為「……………空気、重っっっっ!!」
 睦彦「言ったろ、楽しくない話だから覚悟しとけって」


 有為「それで、その亜門さんとはその後どうなったんですか?」
 睦彦「待て待て話を急かすな」
 有為「急かしてない!!」


 睦彦「あの後、お互い任務で各地へ散って、二人とは一年ずっと会えなかったんだ」
 有為「そうなんですか」
 睦彦「でも、胡桃沢はその一年の間に亜門に会ったみたいで、ここから先は聞いた話になる」


 睦彦「胡桃沢は、この話を俺にして、こう言ったよ」



 仁乃『………瀬戸山くんと仲良くならなくてもいい。だけど、ちゃんと知ってあげて』
 睦彦『……?』
 仁乃『瀬戸山くんは、むっくんが大好きだよ』


 

 有為「好き? だって、その方は睦彦くんのことを嫌ってたんでしょう?」
 睦彦「俺もおかしいと思ったんだけどな。亜門の本当の気持ちは、よく分からない。だけど」
 有為「だけど?」


 睦彦「秘密」
 有為「なんだそれ」
 睦彦「そう怒るなよ。ここから先話すのは、胡桃沢に聞いたこと。それを聞いて考えればいい」

 有為「仕方ないですね。分かりました」
 睦彦「お前らしいぜ。じゃあ、話そうか。このあと、何が起こったのか」



 ネクスト→次回は、仁乃sideでお送りします。次回もお楽しみに。

 
 

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