完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~ 80~ 90~ 100~ 110~
*6*
仁)空気重いねむっくん。第1話でこの話して良かったのかな?
睦)仕方ないんだよ、言ったろ、楽しくない話なんだって!
仁)そうだね。でも私たちで、この話を頑張って盛り上げていかないとね。
睦)さっすが胡桃沢! よし、あとは任せたぞ!
むう)この話はキャラの心情を書くのがすっごく重要になってくる。頑張ります。
***************
〈仁乃side〉
あれから一年がたった。
むっくんとは、あれから顔を合わせてはいない。
いや、正直に言えば、藤の花の家紋の家でチラッと顔を見かけたことはあった。
けれども、遠目で見る彼の顔には、いつもの元気がなかったように思う。
瀬戸山くんがむっくんを嫌っているのは知っている。
実際、二人の関係は鬼殺隊の中でも有名で、この前も知らない先輩から声をかけられた。
先輩『キミ、刻羽と瀬戸山の同期?』
仁乃『は、はい』
先輩『あの二人、けっこうギスギスしてるから、大丈夫かなぁと思ってよ』
仁乃『……そうですね……』
欲を言えば、私は二人に仲良くなってもらいたいよ。
だってあの二人、色んな所が似てるんだもん。
相手のことを「お前」って呼ぶところとか。
普段はズバズバ自分の意見を言う癖に、些細なことで気分が落ち込むこととか。
考えるより先に体が動いてしまうこととか。
本当は、すっごく気を遣うタイプだったりするところとか。
仁乃「………会いたいなぁ、むっくん」
道を歩きながら、誰に言おうともなく呟く。
今日私は任務での疲れを癒すため、鴉の案内で藤の花の家紋の家に向かっていた。
仁乃「元気にしてるかなあむっくん。私のこと、ちゃんと覚えてるかな…」
彼がどんな気持ちでいるか考えてたら、ちょっと気分が上がった。
自然と、下を向いていた顔が上がる。
その時、私は見た。
目の前を、黒い袴を着た、すこし髪の長い少年がツカツカと歩いていたのだ。
瀬戸山くんだ。
仁乃「せ、瀬戸山くん!!」
亜門「(振り返って)……なんだよ」
仁乃「げ、元気にしてた? わ、私のこと覚えてる? え、えっと、えっと…」
ダメだ、緊張してしまって言葉が出てこない!
普段ならこんなことないのに、なんでだろう。
やっぱりむっくんのことで色々あったからだろうか。
仁乃「え、えっと、瀬戸山くんは、なんか用事でもあるの?」
亜門「……ここ、真っ直ぐ行くと、僕んちがあるから帰る」
仁乃「そうなんだ。良かったらご一緒してM」
亜門「あっち行け。くんな」
………なんで、そんなこと言うの?
別にいいじゃない、一緒に歩いても。
そう言い返そうと口を開いたその時、瀬戸山くんが振り返ってこっちを見た。
彼は、今にも泣きそうな表情で、私を見つめていた。
亜門「くんな!!」
仁乃「ご、ごめんなさいっ」
私は慌ててその場を離れると、路地に回り込んで塀の陰から瀬戸山くんの様子を見張った。
なぜそんなことをする気になったのか、よく分からないけれど。
瀬戸山くんは、何かを我慢しているような感じだったのだ。
彼が私と一緒に歩くのを嫌がった理由は、すぐに分かった。
少年A「あ、亜門だ」
少年B「本当だ。おーい亜門!!」
亜門「…………」
道を歩いている瀬戸山くんに、家の前で遊んでいた同い年くらいの男の子が、揃って声をかけた。
瀬戸山くんは何も言わず、顔を俯けて歩いている。
その拳がぎゅっと握られていた。
少年C「おーい借金かえせたかー?」
少年A「無視すんじゃねえよ馬鹿ー!!」
少年B「何で貧民街育ちのお前が、元柱の先生に拾われるんだよバーカ!! あっち行け!」
少年が道に落ちていた小石を拾い、彼めがけて投げつける。
石を投げられても、瀬戸山くんは、何も言わない。
その様子を見て、心の中にしまっていた嫌な思い出がどっと脳裏に流れ込んできた。
………思わず私も、両手の拳をぎゅっと握りしめる。
『死ね、バケモノ! あっちへ行け!』
『バケモノが金持ってんじゃねえ、よこせ!』
『人間は、あんな変な術なんか使わない!』
少年B「大体さぁ、こいつ体弱いから隊士に向いてないだろ」
少年A「だよなあ。あいつより、俺ら兄弟子の方が絶対強いよなー」
少年C「ていうかアイツの剣って錆びてんじゃねえの。きっと選別で一体も倒せなかったんだ」
ああ、待ってあげられなくてごめんなさいなんて、全く私は思わなかった。
考えるより先に、私の口が体より先に動いていたからだ。
仁乃「…………なんで、そんなこと言うの」
少年一同「あ゛? なんだお前」
少年たちは首をかしげて挑発し、瀬戸山くんは目を見開いて私を振り返った。
こんなこと、見過ごすわけにはいかない。
私は少年の鋭い視線にひるむことなく、言葉を続ける。
仁乃「あなたたちは、そんなことをして楽しいの!? 悪口を言って満足するの!?」
少年A「なんだよ、お前には関係ねぇじゃねえか」
仁乃「じゃあ、あなたたちだって、瀬戸山くんとは何の関係もないじゃない!」
仁乃「あの子があなたたちに何かしたの? あの子はあなたたちを虐めたの?」
少年B「……いや」
仁乃「じゃああなたが瀬戸山くんを悪く言う権利なんてないじゃない!!」
仁乃「生まれた環境だけで悪く言うなんて、ホント最低!!」
亜門「お、おい…」
仁乃「人は生まれながら平等、でも神様はいつも不公平」
仁乃「何の不自由もなく暮らせる人がいれば、お金に困って小さな家で凍えてる人もいる」
少年C「………も、もう悪かったよ、いいだろ、もう」
仁乃「瀬戸山くんの人生を、あなたたちの勝手な想像で決めつけないで」
亜門「お、おい、胡桃沢さん…」
少年一同「………っ」
仁乃「むっくんだったらこう言う!!『至極ダサい。目立つ目的を間違えてんじゃねえ』って」
亜門「!!」
少年一同「さ、さよならっ(ダッと駆け出して)」
私だって、特殊体質のせいで石を投げつけられたことがある。
近所の人にすら、人間と見てもらえなくて、ひとりの夜に押しつぶされそうになったことがある。
彼らに、そんな私の気持ちが分かってたまるか。
仁乃「大丈夫? 瀬戸山くん」
亜門「あ、ありがと。なんか、ごめん……」
仁乃「あなたなんか嫌い!」
亜門「……え」
してやったり。
私は心の中でニンマリとほほ笑む。
しかし心の中の気持ちとは裏腹に、目には、涙が溢れていた。
仁乃「何か抱えてるなら、相談すればいいじゃない。なんでしないの!?」
亜門「そ、それは」
仁乃「むっくんが嫌いなのも、色々大変なのも分かる。だけど」
仁乃「私のことは、嫌いじゃないでしょ。頼ってよ」
亜門「………なんで?」
仁乃「なにが?」
亜門「なんで、胡桃沢さんは僕に優しくするの? 僕は刻羽を殴ったんだぞ!」
仁乃「それがどうしたって言うの? 確かにあなたはむっくんを傷つけた。それは許さない」
亜門「………」
仁乃「仲良くして、なんて分かったようなこと、私言わないよ。でもその代わり」
仁乃「私のこと、たくさん頼ってもいいんだから」
亜門「………考えとく」
彼はそれだけ言い残して、足早にその場を去ってしまった。
瀬戸山くんは、「うん」とも「いいえ」とも違う、中間の意見を取った。
こういうところは、むっくんと違う所。
きっと色々、瀬戸山くんの中で我慢していることがあるんだろう。
むっくんはむっくんで、彼との関係に悩んでいる。
なら私が、なんとかしなくちゃダメじゃない!
むっくんも瀬戸山くんも、絶対いい子だよ。
誰がどういおうと、私は二人のことを信じているよ。
だから今はむりでも、きっといつか、二人がお互いを支え合える関係になれること。
陰からしっかり、見守っておくからね。