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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*6*

 仁)空気重いねむっくん。第1話でこの話して良かったのかな?
 睦)仕方ないんだよ、言ったろ、楽しくない話なんだって!
 仁)そうだね。でも私たちで、この話を頑張って盛り上げていかないとね。
 睦)さっすが胡桃沢! よし、あとは任せたぞ!

 むう)この話はキャラの心情を書くのがすっごく重要になってくる。頑張ります。


 ***************


 〈仁乃side〉



 あれから一年がたった。
 むっくんとは、あれから顔を合わせてはいない。
 いや、正直に言えば、藤の花の家紋の家でチラッと顔を見かけたことはあった。
 けれども、遠目で見る彼の顔には、いつもの元気がなかったように思う。


 瀬戸山くんがむっくんを嫌っているのは知っている。
 実際、二人の関係は鬼殺隊の中でも有名で、この前も知らない先輩から声をかけられた。



 先輩『キミ、刻羽と瀬戸山の同期?』
 仁乃『は、はい』
 先輩『あの二人、けっこうギスギスしてるから、大丈夫かなぁと思ってよ』
 仁乃『……そうですね……』


 欲を言えば、私は二人に仲良くなってもらいたいよ。
 だってあの二人、色んな所が似てるんだもん。


 相手のことを「お前」って呼ぶところとか。
 普段はズバズバ自分の意見を言う癖に、些細なことで気分が落ち込むこととか。
 考えるより先に体が動いてしまうこととか。
 本当は、すっごく気を遣うタイプだったりするところとか。
 


 仁乃「………会いたいなぁ、むっくん」


 道を歩きながら、誰に言おうともなく呟く。
 今日私は任務での疲れを癒すため、鴉の案内で藤の花の家紋の家に向かっていた。
 

 仁乃「元気にしてるかなあむっくん。私のこと、ちゃんと覚えてるかな…」
 

 彼がどんな気持ちでいるか考えてたら、ちょっと気分が上がった。
 自然と、下を向いていた顔が上がる。


 その時、私は見た。
 目の前を、黒い袴を着た、すこし髪の長い少年がツカツカと歩いていたのだ。


 

 瀬戸山くんだ。




 仁乃「せ、瀬戸山くん!!」
 亜門「(振り返って)……なんだよ」
 仁乃「げ、元気にしてた? わ、私のこと覚えてる? え、えっと、えっと…」



 ダメだ、緊張してしまって言葉が出てこない!
 普段ならこんなことないのに、なんでだろう。
 やっぱりむっくんのことで色々あったからだろうか。


 仁乃「え、えっと、瀬戸山くんは、なんか用事でもあるの?」
 亜門「……ここ、真っ直ぐ行くと、僕んちがあるから帰る」
 仁乃「そうなんだ。良かったらご一緒してM」
 亜門「あっち行け。くんな」


 ………なんで、そんなこと言うの?
 別にいいじゃない、一緒に歩いても。
 そう言い返そうと口を開いたその時、瀬戸山くんが振り返ってこっちを見た。





 彼は、今にも泣きそうな表情で、私を見つめていた。




 亜門「くんな!!」
 仁乃「ご、ごめんなさいっ」


 私は慌ててその場を離れると、路地に回り込んで塀の陰から瀬戸山くんの様子を見張った。
 なぜそんなことをする気になったのか、よく分からないけれど。
 瀬戸山くんは、何かを我慢しているような感じだったのだ。



 彼が私と一緒に歩くのを嫌がった理由は、すぐに分かった。



 少年A「あ、亜門だ」
 少年B「本当だ。おーい亜門!!」
 亜門「…………」


 道を歩いている瀬戸山くんに、家の前で遊んでいた同い年くらいの男の子が、揃って声をかけた。
 瀬戸山くんは何も言わず、顔を俯けて歩いている。
 その拳がぎゅっと握られていた。


 少年C「おーい借金かえせたかー?」
 少年A「無視すんじゃねえよ馬鹿ー!!」
 少年B「何で貧民街育ちのお前が、元柱の先生に拾われるんだよバーカ!! あっち行け!」


 少年が道に落ちていた小石を拾い、彼めがけて投げつける。
 石を投げられても、瀬戸山くんは、何も言わない。


 その様子を見て、心の中にしまっていた嫌な思い出がどっと脳裏に流れ込んできた。
 ………思わず私も、両手の拳をぎゅっと握りしめる。


 『死ね、バケモノ! あっちへ行け!』
 『バケモノが金持ってんじゃねえ、よこせ!』
 『人間は、あんな変な術なんか使わない!』
 

 少年B「大体さぁ、こいつ体弱いから隊士に向いてないだろ」
 少年A「だよなあ。あいつより、俺ら兄弟子の方が絶対強いよなー」
 少年C「ていうかアイツの剣って錆びてんじゃねえの。きっと選別で一体も倒せなかったんだ」



 ああ、待ってあげられなくてごめんなさいなんて、全く私は思わなかった。
 考えるより先に、私の口が体より先に動いていたからだ。


 仁乃「…………なんで、そんなこと言うの」
 少年一同「あ゛? なんだお前」


 少年たちは首をかしげて挑発し、瀬戸山くんは目を見開いて私を振り返った。
 こんなこと、見過ごすわけにはいかない。
 私は少年の鋭い視線にひるむことなく、言葉を続ける。


 仁乃「あなたたちは、そんなことをして楽しいの!? 悪口を言って満足するの!?」
 少年A「なんだよ、お前には関係ねぇじゃねえか」
 仁乃「じゃあ、あなたたちだって、瀬戸山くんとは何の関係もないじゃない!」


 仁乃「あの子があなたたちに何かしたの? あの子はあなたたちを虐めたの?」
 少年B「……いや」
 仁乃「じゃああなたが瀬戸山くんを悪く言う権利なんてないじゃない!!」


 仁乃「生まれた環境だけで悪く言うなんて、ホント最低!!」
 亜門「お、おい…」
 仁乃「人は生まれながら平等、でも神様はいつも不公平」


 仁乃「何の不自由もなく暮らせる人がいれば、お金に困って小さな家で凍えてる人もいる」
 少年C「………も、もう悪かったよ、いいだろ、もう」


 仁乃「瀬戸山くんの人生を、あなたたちの勝手な想像で決めつけないで」
 亜門「お、おい、胡桃沢さん…」
 少年一同「………っ」

 仁乃「むっくんだったらこう言う!!『至極ダサい。目立つ目的を間違えてんじゃねえ』って」
 亜門「!!」
 少年一同「さ、さよならっ(ダッと駆け出して)」



 私だって、特殊体質のせいで石を投げつけられたことがある。
 近所の人にすら、人間と見てもらえなくて、ひとりの夜に押しつぶされそうになったことがある。
 彼らに、そんな私の気持ちが分かってたまるか。



 仁乃「大丈夫? 瀬戸山くん」
 亜門「あ、ありがと。なんか、ごめん……」
 仁乃「あなたなんか嫌い!」
 亜門「……え」


 してやったり。
 私は心の中でニンマリとほほ笑む。
 しかし心の中の気持ちとは裏腹に、目には、涙が溢れていた。
 

 
 仁乃「何か抱えてるなら、相談すればいいじゃない。なんでしないの!?」
 亜門「そ、それは」
 仁乃「むっくんが嫌いなのも、色々大変なのも分かる。だけど」


 仁乃「私のことは、嫌いじゃないでしょ。頼ってよ」
 亜門「………なんで?」
 仁乃「なにが?」

 亜門「なんで、胡桃沢さんは僕に優しくするの? 僕は刻羽を殴ったんだぞ!」
 仁乃「それがどうしたって言うの? 確かにあなたはむっくんを傷つけた。それは許さない」
 亜門「………」
 仁乃「仲良くして、なんて分かったようなこと、私言わないよ。でもその代わり」




 仁乃「私のこと、たくさん頼ってもいいんだから」
 亜門「………考えとく」


 彼はそれだけ言い残して、足早にその場を去ってしまった。


 瀬戸山くんは、「うん」とも「いいえ」とも違う、中間の意見を取った。
 こういうところは、むっくんと違う所。

 きっと色々、瀬戸山くんの中で我慢していることがあるんだろう。
 むっくんはむっくんで、彼との関係に悩んでいる。
 
 なら私が、なんとかしなくちゃダメじゃない!
 むっくんも瀬戸山くんも、絶対いい子だよ。
 誰がどういおうと、私は二人のことを信じているよ。



 だから今はむりでも、きっといつか、二人がお互いを支え合える関係になれること。
 陰からしっかり、見守っておくからね。


 



 
 

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