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〈亜門side〉
僕は、貧民街で育った。
天井に穴が開いた家で一人取り残されて、誰にも見つけてもらえないことがあった。
捨て子の僕にとって、家族と呼べる存在はいなかった。
毎日、乾いた握り飯にかじりついて、人からの暴言に耐えた。
どんなに飢えても苦しくても、僕を可哀そうだと思ってくれる人はいなかった。
そもそも可哀そうだなんて思われることが嫌だった。
そんな自分を拾ってくれたのが、元柱の育手。
僕は先生の元で暮らす代わりに、鬼殺隊に入るという条件で剣の修行を始めた。
だから僕には分からないのだ。
たとえもう今はいないのだとしても、温かいご飯が食べられて、親の愛情で育った人のことが。
お金のない生活に無縁の人の事が。
才能や環境に恵まれて、のうのうと暮らしている人の事が、僕には分からない。
そして同じように、そう言う人には僕の気持ちなんか分からないのかもしれない。
予想することが出来ても、それは分かるとは違うことだ。
だからだろうか、僕と刻羽の関係が、上手くいかないのは。
まぁ確かに、急に殴ったのは悪かったよ。
だから僕が信じられないのも、大嫌いなのも分かる。
でも僕はお前が嫌いだし、お互い様じゃないか。
仁乃『もう嫌われてるって、その考えに縛られたままで貴方はいいの?』
前に、胡桃沢さんにそう言われたことがある。
彼女は僕より年下なのに、ちゃんとしっかりとした意思を持っている。
何事にも動じない強い自分がある。
亜門「なんとかしたいって、思うけど、あいつは……」
今更、何て返せば正解なんだろう。
「殴ってゴメン」? 「仲よくしよう」?
そんなことを言って、あいつがすぐに許すはずがないだろう。
だって、僕はあんなにあいつを痛めつけて、苦しめて、傷つけてしまったんだ。
今更、仲良くなりたいだなんて、伝える権利なんて、ないじゃないか。
それに加害者がそんなことを思うのは、きっと間違っている。
仁乃『私の事は、嫌いじゃないでしょ。相談してよ』
何を?
借金を返せないこと? 刻羽と上手くいかない事?
そんなこと、君に話して何が変わる?
それとも、そんなことを思ってしまう僕が悪いのだろうか。
僕とあいつがギクシャクしてるのを、黙って見て、君はショックだったんだろ?
君も僕のこと、嫌いなんだろ?
だったら、なぜ君は相談を受けようと思うんだ?
亜門「………仲良くなりたくないわけではないけど、この気持ち、何ていえば……」
僕が刻羽に抱いているのは何の感情だろう。
あいつの存在が妬ましいと思う嫉妬?
あいつより、見かけだけでも強くなりたいという虚栄心?
持ち上げられて、膨れ上がった自尊心?
それとも、彼と比べて無性に小さく思える自分への嫌悪感?
………僕はお前が嫌いだよ刻羽。
お前だけ強くて、お前だけ明るくて、お前だけ優しくて、お前だけ勇敢で。
こっちばかり比べてて、こっちばかり気にしてて、こっちばかりムキになって。
こんなの、僕が全部わがままみたいじゃないか。
亜門「………『いつか、また』なんて来ないと思う……」
いつかまた、変われる日が来るのだろうか。
……きっと、待っているだけじゃ何も変わらない。
じゃあ、僕は何をすれば、前へ進めるんだろう。
亜門「………ゴホッゴホッ」
もともと体が弱くて、選別前から吐き気がした。
それでも誰かの期待に答えたくて、誰かの期待に添えるような人間になりたくて。
亜門「おい鴉。刻羽の場所が分かるか」
金剛「当タリ前ジャ、カアカア」
亜門「大嫌いな人からの手紙だって言っとけ。これ、あいつに届けて」
金剛「素直二ナレナイナ、オタガイ二」
亜門「ほっとけ」
僕は鴉の首周りに、手紙をくくりつける。
変わらなくちゃいけない。でも、相手からの反応が怖い。
アイツは悪くないんだ。一つも悪くないんだ。
悪いのは、自分を相手と比べてしまう、どうしようもない僕なんだ。
仲良くしよう、って言ったらあいつはどう答えるだろうか。
怒るかな、泣くかな、笑うかな。
僕はずっとお前になりたかったんだよ刻羽。
お前みたいに、強くなりたくて、お前に勝手に憧れちゃったんだよ。
やっぱり、全部お前のせいだ。お前のせいじゃないけど、お前のせいだ。
なんだそりゃ、って思うけど多分僕の中で、これが正解だ。
だから手紙には、たった一行しか書いていない。
僕は素直じゃない。それはあいつも同じだ。
たとえ胡桃沢さんが間に入っても入ってくれなくても、僕等の根本的な部分はきっと変わらない。
だけど、目立ちたがりのお前のことだ。
『目立つ目的を間違えてんじゃねえ』って? よく言うよ。
本当にムカつく同期だよお前は。
だからたった一行の手紙をお前に送るよ。
返事なんて送らないでくれよ。
まあ、どうしても書きたいって言うなら、見てやってもいいけどさ。
「拝啓 刻羽へ。 お前は、やっぱり凄いな」