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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*7*

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 〈亜門side〉


 僕は、貧民街で育った。
 天井に穴が開いた家で一人取り残されて、誰にも見つけてもらえないことがあった。
 捨て子の僕にとって、家族と呼べる存在はいなかった。

 毎日、乾いた握り飯にかじりついて、人からの暴言に耐えた。
 どんなに飢えても苦しくても、僕を可哀そうだと思ってくれる人はいなかった。
 そもそも可哀そうだなんて思われることが嫌だった。

 そんな自分を拾ってくれたのが、元柱の育手。
 僕は先生の元で暮らす代わりに、鬼殺隊に入るという条件で剣の修行を始めた。


 だから僕には分からないのだ。


 たとえもう今はいないのだとしても、温かいご飯が食べられて、親の愛情で育った人のことが。
 お金のない生活に無縁の人の事が。
 才能や環境に恵まれて、のうのうと暮らしている人の事が、僕には分からない。


 そして同じように、そう言う人には僕の気持ちなんか分からないのかもしれない。
 予想することが出来ても、それは分かるとは違うことだ。
 

 だからだろうか、僕と刻羽の関係が、上手くいかないのは。


 まぁ確かに、急に殴ったのは悪かったよ。
 だから僕が信じられないのも、大嫌いなのも分かる。
 でも僕はお前が嫌いだし、お互い様じゃないか。



 仁乃『もう嫌われてるって、その考えに縛られたままで貴方はいいの?』

 

 前に、胡桃沢さんにそう言われたことがある。
 彼女は僕より年下なのに、ちゃんとしっかりとした意思を持っている。
 何事にも動じない強い自分がある。


 亜門「なんとかしたいって、思うけど、あいつは……」



 今更、何て返せば正解なんだろう。
「殴ってゴメン」? 「仲よくしよう」?
 そんなことを言って、あいつがすぐに許すはずがないだろう。


 だって、僕はあんなにあいつを痛めつけて、苦しめて、傷つけてしまったんだ。
 今更、仲良くなりたいだなんて、伝える権利なんて、ないじゃないか。
 それに加害者がそんなことを思うのは、きっと間違っている。


 仁乃『私の事は、嫌いじゃないでしょ。相談してよ』
 

 何を? 
 借金を返せないこと? 刻羽と上手くいかない事?
 そんなこと、君に話して何が変わる?

 それとも、そんなことを思ってしまう僕が悪いのだろうか。
 

 僕とあいつがギクシャクしてるのを、黙って見て、君はショックだったんだろ?
 君も僕のこと、嫌いなんだろ?
 だったら、なぜ君は相談を受けようと思うんだ?



 亜門「………仲良くなりたくないわけではないけど、この気持ち、何ていえば……」


 僕が刻羽に抱いているのは何の感情だろう。


 あいつの存在が妬ましいと思う嫉妬?
 あいつより、見かけだけでも強くなりたいという虚栄心?
 持ち上げられて、膨れ上がった自尊心? 
 それとも、彼と比べて無性に小さく思える自分への嫌悪感?


 ………僕はお前が嫌いだよ刻羽。
 お前だけ強くて、お前だけ明るくて、お前だけ優しくて、お前だけ勇敢で。
 こっちばかり比べてて、こっちばかり気にしてて、こっちばかりムキになって。


 こんなの、僕が全部わがままみたいじゃないか。
 

 亜門「………『いつか、また』なんて来ないと思う……」



 いつかまた、変われる日が来るのだろうか。
 ……きっと、待っているだけじゃ何も変わらない。
 じゃあ、僕は何をすれば、前へ進めるんだろう。



 亜門「………ゴホッゴホッ」


 もともと体が弱くて、選別前から吐き気がした。
 それでも誰かの期待に答えたくて、誰かの期待に添えるような人間になりたくて。


 亜門「おい鴉。刻羽の場所が分かるか」
 金剛「当タリ前ジャ、カアカア」
 亜門「大嫌いな人からの手紙だって言っとけ。これ、あいつに届けて」
 金剛「素直二ナレナイナ、オタガイ二」


 亜門「ほっとけ」



 僕は鴉の首周りに、手紙をくくりつける。
 変わらなくちゃいけない。でも、相手からの反応が怖い。
 
 アイツは悪くないんだ。一つも悪くないんだ。
 悪いのは、自分を相手と比べてしまう、どうしようもない僕なんだ。


 仲良くしよう、って言ったらあいつはどう答えるだろうか。
 怒るかな、泣くかな、笑うかな。
 

 僕はずっとお前になりたかったんだよ刻羽。
 お前みたいに、強くなりたくて、お前に勝手に憧れちゃったんだよ。
 やっぱり、全部お前のせいだ。お前のせいじゃないけど、お前のせいだ。


 なんだそりゃ、って思うけど多分僕の中で、これが正解だ。
 だから手紙には、たった一行しか書いていない。


 僕は素直じゃない。それはあいつも同じだ。
 たとえ胡桃沢さんが間に入っても入ってくれなくても、僕等の根本的な部分はきっと変わらない。
 
 だけど、目立ちたがりのお前のことだ。
『目立つ目的を間違えてんじゃねえ』って? よく言うよ。
 本当にムカつく同期だよお前は。


 だからたった一行の手紙をお前に送るよ。
 返事なんて送らないでくれよ。
 まあ、どうしても書きたいって言うなら、見てやってもいいけどさ。





 「拝啓 刻羽へ。 お前は、やっぱり凄いな」



 
 


 

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