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*59*
〈ミツバside〉
僕は困っていた。
ただでさえ運動は得意じゃないのに、それもよりによって借り物競争。
しかもそのお題は、「可愛い人」。
………これってさぁ……。
ミツバ「僕以外に可愛い人なんているわけないでしょぉ!! この、変態ッ!!」
押し殺していた感情が爆発して、つい口が滑る。
大声に反応して、テントで競技を観戦していた生徒や先生たちが、一斉にこっちを見た。
しまった、ちょっと声がおっきかったかな。
まあ、こんなに大勢の人を振り向かせられるのも、僕が可愛いからだよね!
なにせ僕は七不思議三番!
可愛くて七不思議の力も使えるなんて、すっごいでしょ!
褒めてくれてもいいんだからね?
って言ってるバアイじゃないよ。
どうしよう、可愛い人って条件なら、このままコーナーを曲がって係員に「僕が一番可愛いんで!」と言えばいいだけなんだろうけど……。
チラッと、コーナーの外側で借り物があってるかチェックをしている、ある人物を視界に留める。
借り物競技の係員は、四人。
生徒会の神崎アオイ先輩と、蒼井茜先輩、レミリアさん、それに源くんだ。
レミリアさんや源くんはともかく。
いつだってカリカリタイプの神崎先輩と、「7番様許さない」オーラプンプンの蒼井先輩……。
多分絶対OKもらえそうにない。
~予想 アオイver.~
『僕って絶対可愛いんでぇ』
『……………(ドン引きの顔)』
~予想 茜ver,~
『僕って絶対可愛いんでぇ』
『だから何? 言っとくけどね、君なんてまだ中の下だから。
アオちゃんに比べれば君なんて僕にとっては空気と同じ。
わかった? そんなくだらないこと言うあたり、やっぱり怪異って嫌いなんだよね』
それに……。
もっけ「にのむつ、ころすぅぅぅぅぅぅ――――――!!(ズドドドドドドドド)」
仁乃「うぎゃあああああああああああ!! 助けて誰かぁぁぁぁぁぁ!!」
睦彦「胡桃沢、大丈bァァァァァ――――――!!」
寧々「えーっと、…………は、花子くん、これって一体……」
善逸「どういうこと!? ねえこれどういうこと!?」
さっきから、ずっともっけって言う怪異が胡桃沢さんと刻羽くんを襲おうとしてるし……。
こ、この運動会本当に大丈夫なのかなあ……。
それに、つかさくんも一緒にいるんだし……。
『一度作ってみたかったんだよねー。人造人間』
『はーい、どうどう。これはミツバを守るためなんだよ? ちゃんと制御して』
『俺言ったんだよねー。ミツバは此岸にとどまれないくらいに弱っちいから、強い怪異を倒して、食べなきゃダメだよって』
………いやいや、それはそれ、これはこれ!!
今は借り物を探すことに集中しないとッ。この、可愛い僕がちゃんとやるんだっ!
まぁ、一番近くにいる女の子でも捕まえて、一緒に走ってもらえばいいかな。
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ミツバ「あ、あの、ちょっといい?」
有為「…………は、はい?」
僕が声をかけた相手は、この子。
宵宮さん。ストレートの白髪が特徴の、一コ下の女の子。
陰陽師の子孫って聞いてるから、多分源くんとだいたい同じような立ち位置なんだろう。
竈門くんたちとよくつるんでるけど、陰から見守ってるって感じで積極的に話には乗ってない。
なんか、ちょっとだけ自分と似てるかも。
ああ、あくまでも可愛いのは、『この』僕なんだからね!
ただ、キミは2番目ってこと!
ミツバ「え、っと……。初めまして、僕はミツバ。同じ色だよね。よろしく」
有為「あ、え、えっと。よ、宵宮有為(よいみやうい)です、どうも。何の用で?」
ミツバ「ああ、借り物競争。ちょっと、助けがかりたくて。か、可愛い人ってお題で」
その言葉に、宵宮さんは大きく目を見開いた。
透き通った二つの瞳で、僕をまっすぐに見つめる。
霊夢「あら、珍しい組み合わせね。そう思わない? 魔理沙」
魔理沙「確かになー。でも根本的な意味だと、似てるもんだと思うぜ」
メイ「あのお二人はけっこう、めんどくさいですからねぇ。まあ睦彦くんや七番様もそうですが……。ひねくれ者、ツンデレ、カッコつけ、秘密主義」
炭治郎「秘密主義? 花子くんが?」
無一郎「確かに何考えてるか分からないし、はっきり言ってめんどくさいよね」
花子「う゛っ」
茜「7番様はスケベで下劣なガキって噂ですよね」
花子「また……また言われたよ……初対面でも言ったよね、そのセリフ……」
茜「え? 何言ったか聞こえませんでした。もう一回どうぞ。スケベで下劣な七番様」
花子「………き、聞こえてるじゃん………」
ああ、やっぱり七番様って、好き嫌い分かれてんなぁ……。
僕? 僕はまあ、普通だよ。好きでも嫌いでもないし。
まあ、ちょっと下品なのは認めるけど、なんだかんだ言っていい人だから。
《好き派》寧々 光 ヤコ 土籠
《嫌い派》茜 輝 メイ
茜「あー、3番? 僕のアオちゃんになんか手出したらマジで許さないから」
ミツバ「ギャ―――! やめて、金属バットはやめてぇぇ!!」
葵先輩が好きすぎて、彼女のことになると止まらなくなるのが先輩の悪癖だ。
苗字がアオイアオイになるって言われたとかで、只今0勝2451敗だとか。
有為「………あの、ミツバくん」
ミツバ「は、は、はいッ」
有為「………さっきの言葉、本当ですか?」
え、さっきの言葉って、なに?
意味が分からず首を傾げた僕に、宵宮さんは俯きながら小さな声で答える。
有為「………可愛い人って」
ミツバ「あ、あーあ、え、っとさ、もう時間ないし。そ、それにっ」
ミツバ「……ぼ、僕が1番でっていう前提としてだけど、キミもけっこう、可愛いから」
有為「~~~~〇×△◆!!!???」
宵宮さんの顔が次第にリンゴのように熟れて、彼女は言葉にならない悲鳴をあげた。
そして僕も、自分で言った言葉に我に返り、同じく耳まで赤くなる。
ミツバ「と、と、とにかく行こっ! は、速くいかないと刻羽くんたち行っちゃうから!」
有為「あ、う、うんっ」
と、足を踏み出したとき、足元に硬い感触を覚える。
小さい何かが、靴先に当たったようだ。
もーなんだよ、こっちは急いでんのに………。
そう思い、その感触が何なのか確かめようと、かがんでみた。
パチリ、と目が合う。
そしてそいつは、手にしたアメをバリバリボリボリと音を立てながら飲み込む。
コーナーをピョンピョン跳ねていたもっけを強引に捕まえると、自分の腕の中に引き寄せ。
「ばーか!」
ニコッと、あどけない表情で少女―七不思議が1番ミライは笑った。