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*78*
おはようございます。
病院って起床時間早いんですね…眠いよ。
むうは花子くんのシジマさんが好きなので今凄いシンクロしてます。
****
花子隊とかまぼこ隊が家に来て数日たったある日の夜のこと。
ボクは奥の部屋から緑茶の茶葉を取ってこようと、縁側を歩いていた。
夕ご飯の支度は、料理が得意だという交通ピアスくんに頼んでいる。
自分でやると言ったのだけど、彼は「任せて下さい!」と笑った。
有為「……今日は、月が満月だ。すごい綺麗」
夜空で煌々と輝いている丸い月の輝きに心を奪われる。
今もお兄ちゃんたちは、あの夜の暗がりにいるのかな。
なんて考えて、不意に寂しくなり、泣くまいと必死に涙をこらえた。
仁乃「うーいちゃん! やっと見つけたっ」
有為「く、胡桃沢さんっ!?」
仁乃「あ、驚かせちゃった? ごめんね。横、いいかな」
と、向こうから胡桃沢さんが駆けてきてた。
「いいよ」とも言ってないのにボクの横の縁側に腰を下ろす。
そして空を見上げ、一分前の自分と同じ感想を述べ、ニッコリ笑った。
有為「……(チラっと仁乃を見て)何の用ですか?」
仁乃「ああ、えっとね。なんか、話したくなって」
有為「他の皆さんとは?」
仁乃「炭治郎さんたちは火を起こしてるし、寧々ちゃんは料理中だし。だから私は有為ちゃんと」
有為「……そう、ですか」
仁乃「ごめんね、いきなりで困るよね」
有為「いえそんな。……話しかけてくれて、嬉しかったです」
仁乃「そう? 良かったぁ」
胡桃沢さんはいつでも明るい。
おひさまみたいな笑顔は、周りの人を巻き込む力を持っている。
でもボクは知っている。
陰陽師の人間は、生まれながらに霊力を持っている。
その力が、彼女はただの人間ではないと知らせていることを。
有為「胡桃沢さんって、本当に……人間なんですか」
仁乃「――なんで?」
有為「いえ、職業柄、そういうことにはけっこう敏感なんで」
仁乃「ふぅん」
と胡桃沢さんは呟き、直後ボクを上から見下ろす形で首の角度を変えた。
ふてぶてしい態度で彼女は言う。
仁乃「……残念。バレないようにしてたんだけどな」
有為「あなたは一体……」
仁乃「私は人間だよ。中途半端だけどね」
そう悲しそうな顔で言った直後、彼女の身体から黒い複製腕が発生する。
その腕はボクが持っていたお盆を奪う。
有為「!?(思わず錫杖を構えて)」
仁乃「大丈夫。こっちからは何もしないから」
有為「貴方は妖怪? 鬼? 皆は知ってて何も言わないんですか? なんで……」
仁乃「私は鬼化しない特殊体質でね。鬼殺隊の中ではけっこう重宝されてるんだ」
有為「鬼化しない……」
仁乃「術が使える以外は普通の人間と変わらないよ」
仁乃「なんで皆が何も言わないか? ……さあ、それは知らないけど」
有為「胡桃沢さん、怖くないの? だって―何か言われたらどうしようって……」
バケモノとか、ならずものとか。
そんなこと、言われなかったと言うことはないだろう。
仁乃「怖いよ。今でも。昔は石を投げられることもあったし、近くに住む人皆に怖がられて」
有為「……今は?」
仁乃「今は、皆がいるから、安心してる」
仁乃「(チラッと有為を見て)有為ちゃん。私ね、二年くらい前までずっとグレてたの」
有為「……え?」
仁乃「私は、どうしようもないくらい辛い時が会った時、反抗するタイプでさ。
『うるせー』とか、『見てんじゃねーよ』とか、平気で言ってたなぁ…」
意外だった。
とても横にいるこの少女がそんなことをする人間には思えなくて、ボクは目を見開いた。
有為「他にどんなタイプがあるんでしょうか」
仁乃「むっくん―ああ睦彦くんのこと―や炭治郎さんは『自分を鼓舞する』かな」
有為「自分を鼓舞する?」
仁乃「うん。むっくんは辛い事があった時はずっと、『俺は強い』って言うんだって」
皆、それぞれ対処法を持っているんだ。
慣れてるのかな。
ボクも皆のように対処法があれば、悩まずに済んだのかな。
仁乃「……辛いのは有為ちゃんだけじゃないよ。寧々ちゃんたちを除いて、この家にいるひと皆、人生の中で多くのモノを失っているから」
有為「胡桃沢さんも?」
仁乃「炭治郎さんたちは家族を。むっくんと私は家族と仲間を」
有為「仲間?」
ボクが尋ねると、胡桃沢さんは困ったように笑って。
仁乃「本当はね、私の代の同期は三人だった」
有為「でも、会った時同期は睦彦くんだけだって」
仁乃「今はね」
仁乃「一人、男の子がいたの。病気で死んじゃったけど」
有為「…………」
仁乃「確か写真が……(羽織の中から写真を取り出して)はい、これ」
渡された写真は少し汚れていて。
浅草かどこかの都会、橋の上で、二人の男の子と一人の女の子が立っている写真だった。
男の子二人は言い争いでもしてるのだろうか。
お互い対面して指を指し示している。
仁乃「これが私。ケンカしているこっちがむっくん」
有為「……こちらの男の子は?」
仁乃「瀬戸山亜門くん。ふふ、懐かしいな。任務に行く途中、写真屋さんに頼んで撮ったやつだ」
その悲しそうな笑顔の裏で、彼女は一体何を考えているのだろう。
聞いていいのか分からなくて、ボクは彼女の話に耳を傾けた。
仁乃「……この日の翌々日、瀬戸山くんが死んだの」
有為「………」
仁乃「お葬式の前日ね、私、彼に告白されたの」
有為「………は?」
仁乃「あははははは、ほんと私もその時はびっくりしちゃって」
有為「………返事は」
仁乃「うん、ゴメンねってそう伝えた。好きな人がいるからって」
その好きな人が誰なのか。
ボクはすぐに分かった。
分かると同時に、明日死ぬという日に胡桃沢さんに想いを伝えた亜門さんのことを考える。
無性にやるせなさと悲しさが胸の中からこみあげてきて、ボクは思わず拳を強く握りしめた。
仁乃「……あの時、もし『私も好き』って言ったら、何かが変わったかな」
有為「……ボクには、分からないです」
仁乃「そう、だよね」
仁乃「本当にあの日の事はよく覚えてる。……あの後、何が起こったのかも」