完結小説図書館
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*4*
なんとか買ったものを鞄に詰めて外に出ると、レジ袋を片手に持って手を降るマシュの姿が見えた
「ごめん、待ったかな?」
「いえ、私も済ませてきたところです」
「...じゃあ、行こうか」
「はい」
いつもの道を通り、アパートへと到着する
正直ここに招くのも申し訳ないが...私の給料ではここがやっとだった
「どうぞ、狭い部屋だけどごゆっくり」
「お邪魔します」
玄関を越えた私は袋を開けて買ってきたものを確認する...卵1パック、玉葱2個、合挽き肉300グラム、買い忘れもなし、と
食材を丁寧に冷蔵庫に入れている最中、マシュは私の汚れた台所を見渡していた
「先輩はいつも自分で料理を作っているんですか?」
「まあね、あの子にコンビニ弁当ばかりは可哀想だし外食もあまり出来ることではないから」
「ジャックさんの為にですか?」
「...おかしいかな?」
「いえ、素晴らしいと思いますよ」
なんて優しい後輩なんだ、私の上司は口を開けば残業がどうとか奴隷が何だとか、私やジャックを見下すような事ばかりしか言わないというのに
「ハンバーグ、私も一生懸命作ります」
「ああ...作り方は知ってる?」
「いえ、本である程度見たことはあるんですが」
本当に料理の事は知らないようだ、最大限気を使えばマシュの身に何か起きることもないだろう
「よし...じゃあ、作ろうか」
「はい、よろしくお願いします先輩!」
初めてだな...誰かと一緒に料理をするのは。
親離れして早2年、最初は生きていく為だけに料理について簡単に学んだだけだったが...
「先輩、まずは何をすれば?」
「あ、うん...まずは玉葱を冷水で冷やして微塵切りにしようか」
「はい」
...
「そろそろいいか...マシュ、玉葱を取り出して」
「はい」
マシュは私の台所から包丁を取り出し、玉葱を立て慎重に切り始める
その間に私はボウルを用意し、冷蔵庫から砂糖、塩、胡椒、牛乳...そしてパン粉を用意する
本当はにんにくも欲しいのだが予算的に足りなかった
「先輩、どうして玉葱を冷やしたんですか?」
「玉葱を切ると涙が出るって聞くかな?前にテレビで見たけど冷やしたらそういうのが無くなるそうなんだ」
「へぇ...だからこんなに手が進むんですね」
「一応指、気を付けてね」
「お気遣いすみません」
マシュが刻んだ玉葱をすくい、私はフライパンで黄金色になるまで炒め上がる
「マシュ、玉葱を炒め終わったらそこのボウルの回りの材料を入れるぞパン粉、牛乳、砂糖、塩、胡椒の順番で」
「分かりました」
私は玉葱に限らず野菜を炒めるのは少し苦手だ、朝のキャベツも少し焦がしてしまったくらいだ
だがジャックが待ち望んでいるハンバーグな以上、焦がすわけにはいかないな...じっくりとフライパンを動かして混ぜていくと、どうにか綺麗な黄金色になっていった
「マシュ、玉葱入れるよ」
「はい!」
フライパンから玉葱をいれ、調味料を入れて二人で握るように混ぜ合わせる
「こうやって調味料と混ぜ合わせるように握っていって...混ざったら練るようにかき混ぜる」
「こうですか?」
「そうそう、こんな風に...」
...ふと後ろを向いたら扉の隙間からジャックが覗いていた、何?嫉妬?私そういうのではないからね、ただ料理してるだけだから、うん
とにかく冷静に、練り終えた肉を三等分に分けて取り出す
「この後は片手から片手へ軽く投げて形を整える...聞いたことあるかな?」
「はい、確かこうやって...」
「じゃ、マシュに任せて今のうちに味噌汁の為の玉葱でも切るかな」
不思議だ...最初はただ、生きていくためだけ、ちゃんと栄養をとるために手料理を始めた...
だがジャックが来てからは、あの子が美味しそうに私の作った料理を食べてくれるのを嬉しく感じて、もっと頑張るようになって...
「...ああ」
そして、一緒に料理を作る相手がここに居る
料理をすることって、こんなに楽しい事だったのか...
「形、整いました!」
「よし、あとは焼き上げるだけだ!」
こんな毎日を...生きていたい