コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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俺様メイド?!!-無事完結しました!!-
日時: 2011/05/29 16:34
名前: 山下愁 (ID: GlvB0uzl)

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 今、私の前にいる奴は。

 メイド服を着た、男です。


***** ***** *****

初めまして、の人も。

見たことあるって人も。

こんにちはー、山下愁です。


今から書く小説は、恋愛4コメディ6の『あほのような恋愛小説』です。
ではでは、注意書き行っちゃいましょう!


そのいちです!☆誹謗、中傷的なコメントはマジで止めてください。

そのにです!☆荒らしもマジで止めてください。

そのさんです!☆恋愛無理、コメディ無理、山下愁無理な人はUターン。

そのよんです!☆神的文章が読みたい人もUターン。

そのごです!☆何でもあるけど、それでもOKですか?


はい、残った人は手ぇ挙げて!
……よく残ってくれました。ありがとうございます。
では。読んじゃってください!

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☆発表系〜
オリキャラ募集用紙>>14 ※終了! ありがとう!
リクエスト募集&お大募集&キャラへの質問>>53
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☆目次的な物

プロローグ>>01
登場人物>>02
第1話>>03 2部>>04
第2話>>07 2部>>08 3部>>09
第3話>>10 2部>>13 3部>>22
第4話>>23
第5話>>24 2部>>25
第6話>>26 2部>>27
第7話>>30 2部>>31 3部>>32 4部>>33
第8話>>34 2部>>35 3部>>40
第9話>>41 2部>>44
第10話>>45 2部>>46 3部>>49
第11話>>50 2部>>51 3部>>52
第12話>>62
第13話>>65 2部>>66 3部>>67
第14話>>68 2部>>69 3部>>70 4部>>71 5部>>72
第15話>>82 2部>>83 3部>>84 4部>>85
第16話>>87 2部>>88 3部>>89 4部>>90 5部>>96
第17話>>100 2部>>104 3部>>107 4部>>116 5部>>120 6部>>127
第18話>>151 2部>>152 3部>>153 4部>>154 5部>>155 6部>>156 7部>>157
第19話>>158 2部>>159 3部>>160
最終話>>161 2部>>162
あとがき>>163


☆小ネタ小説
バレンタイン>>46
夏休みなのに宿題が終わってない…(メデューサ様より)>>59
卒業式>>63
番外編『俺様メイド×おいでませ、助太刀部!!』>>73 >>74 >>75 >>76 >>77 >>78 >>79
俺様メイド?!! で、悪ノ娘、召使。お知らせ>>111
本編>>130 >>131 >>132 >>133 >>134 >>135 >>138 >>139 >>143 >>145 >>146 >>147

☆プロフィール
瀬野翔>>47
相崎優亜>>64
深江恵梨>>80
結城博>>81
堂本睦月>>86

裏設定>>119

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Re: 俺様メイド?!! ( No.31 )
日時: 2011/01/25 17:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第7話 2部

 翌日。翔はいつも通り、つか優亜が登校した後にやってきた。
 なるべく会いたくないのだ。
 優亜に会うと、調子が狂う。
 いつものメイド服に着替えながら、翔は軽くため息をついた。

「……ため息なんかついてる場合じゃないな」

 翔は自分に言い聞かせるようにつぶやき、更衣室を出た。
 すると、自分を呼ぶ声がしたので、その場で立ち止まり振り返った。自分を呼んだのは、燐だった。

「昨日の病気。あれは仮病でしょう」
「……言わないでくださいね」

 言いませんよ、と燐は苦笑を浮かべて言う。
 翔は燐に背中を見せ、仕事場につこうとした。
 燐はそんな翔の背中に、こう言った。

「本当は、苦しいんでしょう?」
「……黙れ」

 翔は男口調で、燐に言う。顔は向けずに、ただ淡々とした言葉で。

「あなたは、自分を押しこめているだけです。そんなんじゃ、優亜様は気付かない」
「……黙れって言っている」
「本当の気持ちを隠して優亜様の近くにいるの、辛くないですか?」

 次の瞬間、翔は鎌を持って燐の首筋に突き立てていた。
 それを見て、燐はのん気にへらへらと笑っていたが、翔の腹には確かに銃口が向いていた。

「それ以上言うなら、このままお前の首をはねるぞ」
「でしたら、僕もこのまま銃の引き金を引きましょうか。そして、そのまま優亜様も殺してしまいましょう。心中、なんてどうです?」

 燐は丁寧な口調で喋っていたが、目が笑っていない。
 無言のまま静かに時が過ぎ、翔は鎌を燐の首筋から外す。そしてツイと顔をそらし、そのまま何も喋らず、スタスタとどこかへ行ってしまった。
 銃をしまって、燐は腰につけた懐中時計を見やる。
 短針が10と11の間にある。そろそろ、掃除をしなくては間に合わない。

「さて、雫さん。そこに居るのでしたら、屋敷の周りを掃いてください」
「……分かっていたんですか?」
「えぇ。ずっと見てましたね」
「それなら言ってください。私の手にかかれば、あんな奴——」
「良いんですよ。あの人はあのままで」

***** ***** *****

 そして、優亜は帰宅する。後ろに居るのは、少し背の高いスポーツマンの様な青年。もちろん、優亜の彼氏である。
 家のドアを開け、いつものメイドの名を呼ぶ。

「翔、ただいま」
「ハイ。お帰りなさいませ、優亜様」

 大広間の掃除をしていたようで、翔はモップを片手にペコリとお辞儀をした。そして、彼氏を一目見て、優亜に問う。

「そちらのお方は——」
「あ。紹介するね、彼氏の菱川彰(ヒシカワ/アキラ)先輩」
「どうも。初めまして、優亜から話は聞いています。何でも出来るメイドさんのようで」

 優亜から紹介を受けた翔は、彰に向かって一礼をする。

「では、彰様。ゆっくりなさってくださいな」
「ありがとうございます」

 翔はまた忙しそうに、大広間へ戻って行った。
 優亜は首を傾げて、彰と共に自室へと向かう。

「あのメイドさん、名前あるの?」
「ありますよ。翔って名前です。後他に、燐さんと言う執事と雫さんと言うメイドさんがいます」
「へぇ、会えると良いなァ」

 彰はにっこりとした笑みを浮かべ、優亜に言う。
 優亜もつられて笑みを浮かべた。そこへ、翔に何かを言われたのか、燐が入ってきた。

「初めまして、僕は久遠燐と申します。どうか、優亜様をよろしくお願いしますね」
「あ、ハイ」
「ねぇ、翔はどうしたの? お掃除が忙しいの?」

 優亜は、翔を気遣うような口調で、燐に訊いた。
 燐は苦笑を浮かべて、優亜にこう答えた。

「えぇまぁ。大広間のお掃除が終わりましたら、お呼びしましょうか」
「……うん。昨日の病気、まだ治ってないかもしれないから、遅くても良いから」

 翔に伝えといて、と優亜は燐に伝言を頼み、彰と談笑に入る。
 燐は恭しく頭を下げ、そして部屋を出た。

「菱川彰——知ってるぜ」
「……居たのですか」

 いつの間に居たのか、優亜のドアの死角に、翔が腕を組んで立っていた。
 燐は少しだけ驚き、翔に問う。

「どうして知っているんですか?」
「情報網が速いとでも言うか。奴は危険だ、優亜が知らない間に始末でもした方が良いだろう」

 翔がそう言った時、優亜が部屋から出てきた。
 話を聞いていたのだろうか、心なしか優亜の表情が固まっている。瞳の奥が震え、表情から『嘘だ……』と読みとれる。
 優亜は翔の腕を掴んで、上ずった声で叫ぶ。

「彰先輩は、危なくない!」
「優亜様……」

 燐が仲裁に入ろうとしたが、翔が優亜を嘲笑を含めた言葉を吐く。

「お前は誰彼構わず信じるんだな。害があっても、それを隠してさえいれば」
「なっ……!! だって、本当だもん!」

 優亜は彰を守るように、必死に弁解をする。彰は危なくない、怪しくないと、叫ぶ。
 しかし、翔は聞く耳を持たず、あいつは危ないとだけを言い続けた。

「彰先輩に謝って!」

 ついカッとなってしまったのか、優亜は翔の頬に平手打ちを叩きこんだ。
 パシンッと音がして、翔の頬が赤くはれ上がる。
 思わず翔を殴ってしまった優亜は、自分の手のひらに目を落とす。

「ご、ゴメン……」
「そんなに、あいつが大切なら——」

 翔は頭につけていたカチューシャを優亜に投げつけ、どなった。

「あいつの元に行け! 俺はメイドを辞める!」
「え……どういう事よそれ。あたし、許さないよ!」

 優亜は翔に手を伸ばして引き戻そうとしたが、翔は優亜の手を払い、背を向ける。うんざりしたような声で、優亜に向かって吐き捨てた。

「もう嫌なんだ。お前の傍にいるの、うざいんだよ!」
「……ッ。何よ! 女装してるくせに、こっちこそ辞めてもらって清々するわ。さっさとどこかに行っちゃえばいいのよ!」

 優亜はそう叫び、部屋に入って扉を思い切り閉める。
 翔は舌打ちをして、更衣室へと向かった。
 そんな翔を止めようとしたのか、燐は翔に向かって声をかける。

「あれで良いんですか?」
「……あいつが幸せになれるのならば、俺は離れるね」

 翔は燐の方に向いて、こう言い残した。

「優亜を、守ってやってくれよ」

 その瞳は、やけに悲しそうな色をしていた。
 燐はその後、引きとめもせず、ただ出て行く翔を見ているだけだった。

Re: 俺様メイド?!! ( No.32 )
日時: 2011/01/25 21:37
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第7話 3部

 今更後悔しても、もう遅い。翔は、優亜の元から離れてしまった。
 部屋に戻って、誰も入らないように鍵を閉める優亜。でも、その表情はやけに沈んでいた。
 翔はもういない。自分の隣に居るべき人が、居ないのだ。

「う、うぅ……」

 優亜は、大粒の涙を落して泣きだした。
 そんな優亜を見て、彰は優亜を後ろから抱きしめる。そして、耳元で低く囁いた。

「大丈夫だよ、僕が君の傍に居るから——」

 その低い声で思い出す、女装をしながらも自分の傍に居てくれたメイド。
 低い声で自分の耳元で囁き、いつも自分をドキドキさせる。
 でも、今日からは————

***** ***** *****

 翔がいなくなって何日か経った放課後、優亜は翔の住むマンションの下に来ていた。
 謝りたい。戻ってこなくてもいいから、せめて翔に謝りたいと思ったのだ。
 エレベーターに乗り込み、そして12階のボタンを押す。
 もし自分が、翔に会いに来たら本人は何と言うだろう。きっと、帰れとか言うのかな、なんて思いながら。
 ぴんぽーん、とチャイムを鳴らす。すると、マイクから声がした。

『ハイ、どちら様?』

 女の人の声だった。
 優亜は一瞬だけ震え、そしてその声に尋ねる。

「あの、相崎ですけど——」
『もしかして、翔が勤めてた家の……。ゴメンね、翔は今留守なの』

 女の声は、けらけらと笑いながら言う。
 誰? もしかして彼女?
 会いに来たのが、いきなり馬鹿に思えてきた。何だか泣きたくなる。
 その時だ。

「邪魔」

 一言だけ、冷徹に言い放たれた言葉。それは、優亜がずっと聞きたかった声。
 振り向けば、そこに居たのは本を1冊持った翔の姿だった。いつものメイド服ではなく、白いパーカーに黒いTシャツ、そして黒いジーンズというラフなスタイルで立っていた。

「あ、の——」
「何か用?」

 翔は機嫌が悪そうに、優亜に問う。笑顔など浮かべず、無表情を優亜に向けて。
 優亜はビクッと怯えたように震えたが、それでも翔に言う。

「翔に、謝りたくて……あの、ね」
「迷惑だから」

 優亜に降ってきたのは、冷徹で無感情な翔の声。
 震える瞳で見上げれば、うざそうな表情を浮かべた翔の顔がそこにあった。

「……ゴメンね。やっぱり、迷惑だったよね」

 泣きそうになるのをこらえて、優亜はその場から逃げるように駆けだした。
 エレベーターが他の階に行ってしまったので、優亜は階段を駆け下りる。
 翔はそんな優亜の背中を見つめ、インターホンに向かってため息交じりの言葉を吐いた。

「また来てんのかよ……」
『来ちゃ悪い? それより、あんた女の子に何て酷い事を言ってんの! 謝ってきなさいよ!』
「嫌だ。あれぐらい、言って当然だと思う……」
『……翔。あんた、後悔してる?』
「してない。それより開けろ」


 優亜はマンションから飛び出し、そして空を向いて大声で泣いた。
 何で自分はあんな事をしてしまったのだろうか? 何で自分は翔にあんな事を行ってしまったのだろうか?
 後悔が胸の中を溢れて、涙として流れて行く。

「うあ、うぁあぁぁぁぁ————」

 謝る事も許されない。

「優亜? どうしたの?」
「恵梨ぃ、博ぉ……。うわぁぁぁ!!!」

 偶然通った、4人の友人に飛びつき、優亜は泣いた。
 どうしたのと恵梨が問うても、優亜は答える事もなく泣いた。ただずっと、泣き続けた。
 後悔と、謝罪の思いを、涙として流しながら。
 その光景を、翔は12階の廊下から見ていた。
 泣く優亜を慰めてやりたい、あの場で抱きしめてあげたいが。
 そんな資格は、もう自分自身にはない。

「あーぁ、泣かせちゃってぇ」
「うるせぇ」

 翔はうざったそうに、自分の隣に居る女性に言った。
 青空に舞う、短い翔と同じような黒髪。漆黒の瞳は人形のように大きく、そして楽しそうに優亜を見ていた。身長は優亜と同じぐらいの大きさだろうか。
 その女性は、翔に笑顔を向けてこう訊いた。

「あんたは、後悔してない?」

Re: 俺様メイド?!! ( No.33 )
日時: 2011/01/26 16:42
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第7話 4部

 1週間。
 この数字は、優亜が翔に会っていない期間。
 食事をとるのも上の空、いつもため息ばかりついている。翔が心配なのだろう。
 そんな優亜を見て、燐と雫はぼそぼそと話しあう。

「やはり、翔を無理矢理にでも引きずり出してきた方がよろしいのでは?」
「無駄ですよ。昨日それを実行しました。そしたら、本気で向かってきましたよ。流石に引きずり出すのは無理そうですね」
「でしたら私が——」

 雫が何かを言おうとした瞬間、優亜はガタリと椅子から立ち上がり、早足でどこかに走って行ってしまう。
 燐は小さなため息をつくと、虚空に向かってつぶやいた。

「さて、優亜様は一体どっちに縋るのでしょうか? 雫さん、賭けますか?」
「何をです?」

 燐は楽しそうな表情を浮かべ、雫に言った。

「今の優亜様に必要なのは、どちらかですよ——」

***** ***** *****

「どうしたんだよ、最近元気がないみたいだけど?」

 彰は心配そうな表情を浮かべ、優亜の顔を覗き込む。
 優亜は慌てた様子で、彰に笑顔を見せた。

「大丈夫です。少し、少し疲れただけで——」
「ふーん。休んでくる?」
「ハイ。すみません、先輩」

 良いよ、と彰は笑顔を浮かべて、去って行く優亜を見送った。
 優亜の姿が見えなくなったところで、彰は不敵な笑みを浮かべる。さっきの晴れやかな笑顔とは、180度違う表情だった。

「ふふふ、優亜はあんなんだけど、もうすぐであいつの心は僕のものだ」

 誰もいない事を良い事に、彰は大きな声で笑った。
 そんな彰を見ていた、1人の影。長い黒髪をたなびかせ、冷ややかな瞳で笑う彰を凝視していた。
 影は小さく舌打ちをして、その場を離れて行った。


 優亜は彰と共に、家へ帰宅した。
 燐が笑顔で優亜を迎え、彰に一礼をする。

「お帰りなさいませ、優亜様。そして彰様、ようこそいらっしゃいました」
「優亜ね、少し気分が悪いみたいなんだ。休ませてあげて」

 僕も付き添うよ、と彰は言った。
 燐は優亜と彰の鞄を持ち、優亜の自室へと案内する。

「では、彰様。よろしくお願いしますね」
「お任せください」

 彰は燐に向かって敬礼をすると、優亜をベッドへと導く。
 天蓋付きの、クイーンサイズのベッドに優亜を寝かせ、そして笑顔を浮かべた。

「安心して良いよ。僕が君を守るから」
「ありがとうございます、彰先輩——。あの、少し良いですか?」

 優亜は嫌な予感がして、彰に訊いた。
 何だい、と彰は首を傾げて優亜に言う。

「何で、あたしの上に覆いかぶさっているんですか?」

 優亜の両腕は彰に押さえられ、逃げられないようになっている。そして何故か、笑顔が妙に怖い。
 彰はけらけらと笑い、優亜にこう言った。

「何って——君は僕の彼女だよ? あのメイドなんかにやるもんか、君は僕のものだ」

 ギリッと彰は、優亜の腕を持つ手に力を込める。
 痛みが走り、優亜は少しだけ呻いた。足に力を入れても、彰はびくともしない。蹴りあげようとしても、足が動かない。
 彰は優亜の耳元に顔を近づけ、そして低い声で囁いた。

「安心して良いよ? 僕は、優しいから——」
「嫌! 嫌ぁぁ! 来ないでよ、来ないでよぉぉ!」

 優亜は暴れて彰の拘束を振りほどき、ドアの鍵を開けようとした。
 しかし、手が震えて鍵が開かない。そうこうしているうちに、彰が優亜の腕を引っ張った。
 翔が言っていたのは、本当だったんだ——。
 本当に、心から謝りたいと思った。だから、もう1度戻ってきて!

「しょぉぉぉぉおおおおう!!!!!!」

 その時だった。
 窓ガラスが割れ、部屋にメイドが飛び込んでくる。
 白と黒のメイド服。夕焼け空にたなびく黒い髪。粉々に割れたガラスを踏みつけて入ってきたのは、少し怒ったメイドだった。
 あぁ、戻ってきてくれた。彼女、否彼は——戻ってきてくれたのだ。

「な!! 君は、あの時の——」
「優亜様。お呼びでしょうか?」

 メイド、翔は彰を無視して、優亜に訊いた。もちろん、いつもの笑顔を浮かべて。
 優亜は腹から声を出し、翔に向かって命令をした。

「こいつをやっつけて!」

 命令を受けた瞬間、翔は走り出した。そして、跳躍。宙で綺麗に一回転をして、彰にかかと落としを叩きこむ。
 哀れ、かかと落としが顔面に叩きこまれたので、彰は鼻血を出して気絶する。
 翔はまだついている小さなガラスを払い、優亜に背を向ける。

「……言っておくが、お前の為に戻ってきた訳じゃないから」

 夕焼けの性なのかそうじゃないのか、翔の顔が赤くなっているような気がした。
 え、まさかのツンデレ?

「俺は、仕事の為に戻ってきたんだから。勘違いすんなよ」
「……してないよ」

 優亜は翔に抱きつき、にっこりとした笑顔を浮かべて言う。


「居てくれるだけで、良いから」


「あっそ」


「そうだよ。辞めたら、許さないから」


「……じゃぁ、優亜がまた彼氏を作ったら撃退してやろう」


「どういう事よ! あたし、結婚出来ないじゃん!」


「婚約者がいるだろうが。いい奴探せ」


「えー」


 彼女の元に、彼が戻ってきた。
 絶対的に守ってくれて、誰にも負ける事のない『騎士』が——。

Re: 俺様メイド?!! ( No.34 )
日時: 2011/01/28 17:21
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第8話

 ある放課後の事だった。
 いつも通り、優亜は恵梨と博と雛菊と零音と共に、下校をしようとした時だった。
 校門のところで、誰かが倒れている……。

「……あれ、誰?」

 零音はボソリとつぶやき、首を傾げた。海の様な髪が、横にサラリと滑った。
 倒れているなら救急車か警察。常識!
 優亜は安全を確認する為に、倒れている人に近付いた。

「大丈夫ですか?」
「……あ、ゴメン。おい、もう天国に召されるわ……。助けてくれた天使さん、ここまでご苦労様ですわー」

 虚ろな瞳で空に向かって言葉を紡ぐ、金髪碧眼少年。学ランを着ているから、きっと黒金高校の生徒だろう。
 優亜は焦って人に助けを求めたが、不幸にも誰も目を合わせてくれない。
 黒金高校の生徒だからって、こんな仕打ちはないんじゃない?!!
 そこへ、迎えに来た翔が優亜に近寄った。

「どういたしましたか?」
「あ、翔! 大変、この人が……」

 翔は金髪碧眼少年を見るなり、目を細めそして胸倉をつかんだ。
 何をするのだろう、と翔を見守っていた優亜だが、衝撃の光景を目の当たりにする。
 なんと、翔はその少年に、往復ビンタを叩きこんだのだ。

「な、な、何をやっているの?!! その人、倒れていて……」
「いえ、平気ですよ。この人は」

 翔はにっこりとした笑みを浮かべながら、少年にビンタを叩きこんでいた。
 すると、少年はいきなり飛び起きて、空を仰ぎ見て絶叫した。

「惚れてまうやろおぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

 どこかで聞いた事がある台詞だぞ?
 金髪少年は、翔の手を取って、キラキラとした瞳で翔を見た。

「お姉さん。おい、あんたに惚れた! おいの女王様になってくださいお願いしますあのビンタが効きました!」

 この金髪少年、相当のドMらしい。
 翔はにっこりとした笑みを崩さず、金髪少年にチョップを喰らわして、気絶させる。そして、優亜達に向かってこう言った。

「とまぁこんな感じの人ですので、近付かない方がよろしいかと思われます」
「あ、そうなの……」

 優亜は半分引きながら、うなずいた。

「翔さあぁぁぁん! 会いたかったですぅ!」
「私は別にどうでもよかったです。単刀直入に言うのなら……消えろお前」
「俺、最近頑張っているんですよ。翔さんの為に、空手や柔道やテコンドーを始めたんですよ!」
「そうですか。それでも、私には近づけませんね」

 翔と博はそんな事を話していたが、優亜は金髪少年が気になってしょうがない。
 近付かない方がいいと言われていたが、優亜は少しだけ近付いた。
 その時だ。気絶していた少年がいきなり立ち上がり、翔に抱き付いた。

「惚れた! おいを舎弟にしてください姐さん!」
「ぎゃぁぁぁ! 離れろぉぉ!」

 いきなり抱きついてきたのに驚いたのか、翔は少年に向かって回し蹴りを叩きこむ。

「な、な、何ですかあなた! 変態ですか!」
「変態や! おいはドMやからな!」

 少年は胸を張って、大きな声で言った。
 そんな少年にムカついたのか、博も負けじとどなった。

「翔さんは渡さないぞ!」
「……ほぉ、このメイドさんって翔って名前なんやな。覚えた」
「このバカ……」

 翔はため息をつき、額を押さえた。
 博は少年を指さして、そしてさらに大きな声でどなった。

「俺は結城博! 翔さんを狙うんだったら、この俺を倒せ!」
「ほぉう。天下の不良校である黒金高校に喧嘩を売るなんて、いい度胸してんやな、お前」

 少年は笑って、金髪をヘアバンドであげて、口に棒付き飴をくわえた。

「おいは堂本睦月(ドウモト/ムツキ)や。黒金高校2年A組……ついでに言うなら、あの最強の不良『東』の親友や」

Re: 俺様メイド?!! ( No.35 )
日時: 2011/01/30 16:31
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第8話 2部

「おいは堂本睦月や。黒金高校2年A組……ついでに言うなら、あの最強の不良『東』の親友や」

 その言葉を聞いて、その場にいる全ての人の時が止まった。
 この、金髪碧眼で弱そうな少年が、最強の不良『東』の親友? いや、そんなの嘘に決まっているだろう。

「……何や、その目」

「信じられません」

 優亜は怪しい商品を見るような目で、睦月を見上げた。
 信じられないと言われた事が気に障ったのか、睦月は優亜に向かってどなる。

「信じられないとは何や!! 嘘なんてついて、何になるって言うんや。おいは嘘は大嫌いなんや!」

「じゃぁ、その『東』って人はどういう人なんですかどういう格好をしているんですかどういう性格をしているんですか!!」

 優亜は声を張り上げ、睦月に質問をした。
 睦月はため息をついて、不良『東』について語り始める。

「『東』が出てきたのはな、かの有名なスケ番『彼岸菊』の後や。喧嘩相手を必ずと言って病院送りにしてしまうんや。あぁ、ちょうどそこにおるゴスロリちゃんと同じような感じの」

「雛菊ちゃん?」

 優亜、恵梨、博、零音の4人が、一斉に雛菊へ視線を移す。
 当本人は、自分で作った猫のぬいぐるみと腹話術で話していた。妙に怪しい。

「でな、おいもその『彼岸菊』に病院送りにされた事がある。仕返しがしたくてたまらんかったが、誰かがあっさり倒したんや。それが『東』や」

「へぇ。その『東』って強いんだな」

 博は小声で「俺の方が強いんじゃね?」と言っていた。
 睦月は博の言葉が聞こえたのか、嘲笑を含めた声で告げる。

「そこの坊ちゃんは自分が強いとか思うとるけどな、『東』の方が数倍強いで。何せ、中国拳法と棒術をマスターした、死神やもん」

「死神?」

 零音が、睦月に訊いた。
 睦月は零音に視線を向け、「そうや」とうなずいて見せる。

「『東』のあだ名や。喧嘩相手を病院送りはもちろん、自分の友達とかが怪我したら、怪我をさせた相手を必ずボコす。その喧嘩の姿が、まるで死神のようだから、つけたあだ名が死神なんや」

 そして、睦月は傍でぼーとしていた翔を指差し、

「そうそう。姐さんと同じような顔や。それで黒ラン着て、鎌でも持ってりゃ、完璧『東』や」

 こう告げた。
 その場の空気が、少しだけ冷える。
 翔は睦月に向かって笑顔を浮かべ、冷静に言い放った。

「あら。人違いではありません? 私、そんな不良に会った事無いですし。似てるなんて言われる覚えありません」

 相も変わらず辛辣な言葉。
 翔はペコリとお辞儀をして、スタスタと来た道を戻って行った。その後ろに、優亜達が続く。
 何も言わずただ歩く翔を、優亜は見上げた。
 いつもと変わらない、精悍な少年の顔。これで制服を着ていれば、完璧に高校生だ。

「翔……」

「どうかいたしましたか?」

 翔は1度立ち止り、優亜の方を振りかえる。いつもの笑顔を浮かべて。
 優亜は言うのを戸惑ったが、翔に訊いた。

「翔って……まさか『東』だったりしない?」

「まさか。似てるだけですよ。私は体術が得意なだけですから」

 翔は首を振って否定し、また歩き始める。
 優亜は、少しだけ安心した。まさか、翔が睦月が言っていたような事をする訳がない。
 すると、後ろから零音が声をかけてきた。

「……雛菊が、いない」

「え——?」

 優亜は後ろを振り向き、メンバーを確認する。
 恵梨、博、零音。確かに、いるはずの雛菊の姿が見当たらない。

「翔! 雛菊が……雛菊がいない!」

「え? では私が探してきます、優亜様達は先に屋敷へ戻っていてください」

 翔はスカートを翻し、学校へ戻って行く。
 その後ろを、優亜達がついて行った。

「何でついてくるんです? 屋敷に戻ってくださいと言ったはずです」

「あたし達も行く。雛菊ちゃんは……あたしの友達だもん」

「えぇ。ここで見捨てるなんて真似は出来ません。お邪魔かもしれませんが、お手伝いしたいんです」

「……お願いします。手伝わせてください」

「翔さんは俺が守ります!」

 個々の意見を述べ、4人は雛菊を探しに学校まで駆けだした。
 その背中を見て、翔は小さくため息をついた。そして、遥か頭上に広がる空を見上げた。
 どこまでもどこまでも広く、無機質で、単調な綺麗な空。本当に、あの時と何も変わらない。

「……ハァ……」

 翔は再度ため息をつき、優亜達が走って行った方向へ歩き出した。


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