コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 俺様メイド?!!-無事完結しました!!-
- 日時: 2011/05/29 16:34
- 名前: 山下愁 (ID: GlvB0uzl)
「お帰りなさいませ、お嬢様」
今、私の前にいる奴は。
メイド服を着た、男です。
***** ***** *****
初めまして、の人も。
見たことあるって人も。
こんにちはー、山下愁です。
今から書く小説は、恋愛4コメディ6の『あほのような恋愛小説』です。
ではでは、注意書き行っちゃいましょう!
そのいちです!☆誹謗、中傷的なコメントはマジで止めてください。
そのにです!☆荒らしもマジで止めてください。
そのさんです!☆恋愛無理、コメディ無理、山下愁無理な人はUターン。
そのよんです!☆神的文章が読みたい人もUターン。
そのごです!☆何でもあるけど、それでもOKですか?
はい、残った人は手ぇ挙げて!
……よく残ってくれました。ありがとうございます。
では。読んじゃってください!
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☆発表系〜
オリキャラ募集用紙>>14 ※終了! ありがとう!
リクエスト募集&お大募集&キャラへの質問>>53
人気投票実施中>>108
お客様↓ ありがとうございます!
野宮詩織様 メデューサ様 菫様 まりも様 だいこん大魔法様 らら*゜ 様 ゆめねこ様 友美様
狗派様 かにゅ様 らるか様 月読愛様 そらね様 優香様
☆目次的な物
プロローグ>>01
登場人物>>02
第1話>>03 2部>>04
第2話>>07 2部>>08 3部>>09
第3話>>10 2部>>13 3部>>22
第4話>>23
第5話>>24 2部>>25
第6話>>26 2部>>27
第7話>>30 2部>>31 3部>>32 4部>>33
第8話>>34 2部>>35 3部>>40
第9話>>41 2部>>44
第10話>>45 2部>>46 3部>>49
第11話>>50 2部>>51 3部>>52
第12話>>62
第13話>>65 2部>>66 3部>>67
第14話>>68 2部>>69 3部>>70 4部>>71 5部>>72
第15話>>82 2部>>83 3部>>84 4部>>85
第16話>>87 2部>>88 3部>>89 4部>>90 5部>>96
第17話>>100 2部>>104 3部>>107 4部>>116 5部>>120 6部>>127
第18話>>151 2部>>152 3部>>153 4部>>154 5部>>155 6部>>156 7部>>157
第19話>>158 2部>>159 3部>>160
最終話>>161 2部>>162
あとがき>>163
☆小ネタ小説
バレンタイン>>46
夏休みなのに宿題が終わってない…(メデューサ様より)>>59
卒業式>>63
番外編『俺様メイド×おいでませ、助太刀部!!』>>73 >>74 >>75 >>76 >>77 >>78 >>79
俺様メイド?!! で、悪ノ娘、召使。お知らせ>>111
本編>>130 >>131 >>132 >>133 >>134 >>135 >>138 >>139 >>143 >>145 >>146 >>147
☆プロフィール
瀬野翔>>47
相崎優亜>>64
深江恵梨>>80
結城博>>81
堂本睦月>>86
裏設定>>119
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- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.131 )
- 日時: 2011/05/10 18:19
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第1話
18世紀、歴史あるバラク地方。
『アルセーヌ王国』では、王女の優亜・オルヴェ・ヴリリアントの誕生祭が開かれていた。
当然、あちこちからも客人は来る。街はパレードで賑わっていた。
そんな中、賑わっているパレードを見下ろす人物が1人——。正体は青年だった。
歳は17歳かそこら辺を思わせる。暗い部屋に溶け込む、少し汚れた黒く長い髪。ボロボロのTシャツに足が全て隠れるほどのズボン。殺風景な部屋にあるのはベッドと柄の赤い鎌だけだった。
青年は下で行われているパレードを睨みつけている。
「……優亜・オルヴェ・ヴリリアント……」
青年の口から紡がれたのは、この国の王女の名前だった。
愛おしそうに、まるで愛する人の名前を呼ぶかのように。だがすぐに、青年は舌打ちをした。
そう、青年はただの民だ。彼が王女の隣はおろか、間近で姿を見る事も叶わない。
すると、誰かが青年の部屋をノックした。面倒くさそうに視線を投げると、ドアを開いて入って来たのはこの部屋を貸してくれている大家だった。
「また優亜様を見てるのかい? パレードは今日だけなんだよ、行ってきたらどうだい?」
「……うるせぇな。嫌われ者の俺が行ったところで何になる? 優亜様信仰の奴らに追い返されるだろう」
青年はそっぽを向く。
大家はため息をつき、青年が着ている服の襟首を持ち、外へと突き出した。
「行ってきたらどうなのッ!! うじうじした性格は、あんたには似合わないわ」
「余計なお世話だ、クソババア」
青年は言葉を乱暴に吐き捨て、部屋に立てかけてあった鎌を手に取って外へと飛び出した。
その表情は、とても嬉しそうだった。
「まったく……素直じゃないねぇ」
大家は苦笑いを浮かべて、青年の部屋から出て行った。
***** ***** *****
優亜・オルヴェ・ヴリリアントは退屈だった。
どこへ行っても、どこを見渡しても人ばかり。しかも周りに居るのは優亜信者ばかりと来た。皆して「優亜、優亜」と叫んでいる。
いい加減うんざりしてくるのだが、このパレードに出ないと父が怒る。怒られるのだけは免れたい優亜なので、仕方なく参加しているのだ。
「優亜様……?」
「あ、あぁ。なぁに、恵梨?」
傍に控えていた専属のメイド、恵梨・ゼリスは心配そうな表情をしていた。
優亜は恵梨の気持ちを察したのか、笑顔を作り「大丈夫よ」と答える。
「そうですか。退屈だからと言ってまた脱走されるのかと思い……ハラハラしました」
「そんな事しないわよ。ただちょっと、人混みがもう嫌なの」
ふぅ、とため息をつき、優亜はもう1度辺りを見渡す。
やはり人だらけ。こうもわーきゃー騒がれると、何かもううっとおしくなってくる。
その時だ。いきなり優亜が乗る馬車が急停止した。
「な、何事?!」
恵梨が馬車の前まで行くと、男が転んだらしく馬車の前に倒れていた。
優亜は怪訝そうに眉をひそめ、恵梨に命令する。
「その男、助けてあげなさい。起こしてどこか安全な場所へ連れて行ってあげて」
「ハイ。かしこまりました」
恵梨はお辞儀をすると、男を抱き起こして道の端に連れて行った。
同時に優亜を乗せた馬車が発進する。
「優亜様、本当にお優しい心の持ち主ですね」
「それほどでもないわ。当然の事をしたまでよ」
優亜は嬉しそうに笑った。
そんな優亜を狙う、1人の影が——。
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.132 )
- 日時: 2011/05/11 17:31
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第2話
優亜の背後でナイフを構えた男は、真っ直ぐにそして静かに走り出す。
そんな事も気付かないで、優亜の馬車はゆっくりと走っている。
男は思った。これはチャンスかもしれない、優亜の全てをこの手に——!!
誰かが叫ぶのが聞こえた。でも構わない、男は優亜の元へと突き進んでいく。
「え、あ、」
優亜はナイフの光を見た瞬間、固まってしまった。
声が思うように出ない。つまり悲鳴をあげれないのだ。
「優亜様!!」
恵梨の声が聞こえた。
兵士を飛び越え、男は優亜へと近づく。そしてナイフを振り上げた時、
どこからか飛んできた鎌に、遮られた。
***** ***** *****
家を出た時、目に入ったのは優亜が殺されそうな瞬間だった。
青年は反射的に持っていた鎌をぶん投げ、見事に男の手首に命中させる事が出来たのだ。
最初は外れるかもしれない、と思っていたがそんな事も吹き飛んだ。
「て、テメエ……!!」
男は手首を押さえながら、青年を睨みつける。
人混みを掻きわけ、優亜が乗っている馬車の前にまで来た青年。男を一瞥し、そして落ちていた鎌を拾い上げた。
「お前、優亜様を刺そうとしたな?」
「ハッ……だとすれば、どうした。俺は優亜様が好きだ、大好きだ! だから、だからこの手で優亜様を!!」
おかしい。考えが狂っている。
青年は優亜の表情をチラリと覗いてみた。
完全に怯えたような表情を浮かべて座っている。目で確認できるかどうか分からないが、微かに震えているような感じがした。
呆れた青年は、大きなため息を吐き出した。
「好きならば、もっと他に方法があるだろう? パレードを見守っといてやるとか、そんな……」
「うるせぇ!! おおおお俺はただの町民だから……優亜様に何か、見てもらえる訳がねぇだろ?!」
叫ぶ男。目が据わっていて、どこを見ているのかが分からない。痙攣しているようにガタガタと震えている。
やがて、騒ぎを聞きつけてきたのか、優亜を守る護衛隊であろう奴らが駆けつけて状況を見ていた。
本体なら護衛隊に任せるべきだろうが、青年はそうは考えなかった。むしろ、こいつを倒してやろうとも考えていた。
「あ、の。優亜様?」
護衛隊の1人が優亜に「あいつ、どうします?」と訊いた。
優亜は「そのままにしておいて」と答える。
「優亜様に近付けると思うなよ、げすが!!!」
青年は鎌を振るい、男の脳天に叩きこんだ。
ガツンという何か硬い物に当たる盛大な音と共に、男は地に倒れ伏す。
優亜に害なす人物を倒したと言うのに、青年に浴びせられたのは野次だった。
「流れ者が優亜様に近付いてんじゃねぇよ!!」
「早く離れなさい!」
「どっかに行ってろよ、嫌われ者が!」
「大体、お前も優亜様に害なす人物だろうが! 死にたいのかお前も!」
青年はうっとおしそうに辺りを見回し、フンと鼻を鳴らして優亜に背を向けた。
分かっていたのだ、そんな事は。自分がこうなる事は。
すると、優亜はそんな青年に声を掛けた。
「助けてくれて、ありがとうございます」
浴びせられる野次の中で言われた、唯一の感謝の言葉。
青年はふと、優亜の方を向く。
さっきの怯えた表情は完全になくなっていて、代わりにあったのはにっこりとした笑顔だった。
「別に……」
本当は嬉しいのに、そっぽを向いて笑いそうになるのを堪える。
「お名前、教えてもらえませんか?」
「な、名乗る程の奴じゃ、ないんで……ッ!」
恥ずかしさに耐えきれず、青年は駆けだした。
優亜は「待って!」と叫んだが、青年の耳には届かなかったようだ。
「どうしましょうか、優亜様。追いかけます?」
護衛隊長の博・キリファンムは優亜に訊く。
優亜は首を振って否定の意を示した。だが、笑顔でこう言う。
「自分で、探してみせるわ」
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.133 )
- 日時: 2011/05/13 17:06
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第3話
あの日以来、優亜は自分を助けてくれたあの青年を探すべく、城の書庫に籠りっぱなしだった。
住民登録表(城に置いてあるもの)を読み、覚えている限りで青年の顔を探す。しかし、青年の情報はどこにも載っていなかった。どうやら、あの青年は流れ者らしい。
優亜はため息をついて、ページから目を上げた。
「このまま、見つけられないのかな……?」
静かで、そして寂しそうな声が書庫の中に響く。
すると、外から叫び声がした。何かと思って、優亜は窓の近くまで行く。
そこで見つけたのは、あの時助けてくれた青年が護衛隊に連れられて城の中に入って行くところだった。
***** ***** *****
それは、ほんの10分前の事である。
青年はいつもよりか遅い10時に目が覚めた。眠い目をこすり、ボロボロのベッドから這い出る。
カーテンが閉まった窓に近付き、カーテンを思い切り開ける。朝日が大量に差しこみ、暗かった部屋が一気に明るくなった。
青年は顔をしかめた。低血圧なので、朝が嫌いなのだ。
「もう1度、寝るか……」
シャッとカーテンを閉め、再び眠りにつこうとベッドに向かったその時、突然ドアが叩かれた。
叩かれた、というよりは何かに殴られた音の方が近い。
青年は面倒くさそうにドアへ向かい、外の様子をうかがった。
殺風景な廊下に、血の跡がある。それらを目で追うと、その先に大家が倒れていた。
「ババア!!」
青年は大家に駆け寄った。
誰かに頭を殴られたようだ、額から血を流している。
「ババア、しっかりしろ!!」
「んだようるせぇな……。ん? お、お前……大家さんを……!!」
青年の隣にある部屋のドアが開き、中から男が出てきた。
男は倒れている大家と青年を交互に見て、そして口を大きく開けてわなわなと震えだす。どうやら青年が大家を殴ったという事になっているらしい。
青年は首を振って否定の意を示した。
「俺はやってねぇ!!」
「だったら、そこに落ちてる鎌は何なんだよ?」
震える指先で、青年の向こうを示す男。
青年はその方向に目をやると、そこには血の付いた鎌が落ちていた。それは青年がいつも愛用している柄の赤い鎌である。
何故ここに落ちているのかが分からない。だが、青年は「やってない」と叫んでいた。
しかし、男は信じてもらえず廊下に据え置かれていた電話を手に取り、どこかに連絡し始める。
身の危険を感じた青年は鎌をひっつかみ、その場から走り出した。
階段を駆け降り、入口をダンッと開ける。そして青空が輝く外へと逃げ出した。
「やって、ねぇっ……ての」
裏路地に逃げ込んだ瞬間、ドンッと誰かにぶつかった。
「痛ェ……、何するん……ッ!」
青年の目に映ったのは、城の護衛隊隊長の博と、副隊長の雛菊・カシアルだった。
博は首を傾げて、息を荒げている青年に問いかける。
「どーかした? 何かあったのか?」
「隊長、この人おかしいです。何か罪でも犯したような、そんな感じがします」
雛菊は鋭い視線を青年に注ぐ。
「そんなもんか?」と博は頭を掻き、答えた。
青年は2人に背を向け、逃げ出すように走り出す。護衛隊になんか捕まったら殺される騒ぎじゃない。
誰にもばれずに処刑されるなら、青年は必死になって逃げないだろう。というか、青年は犯罪など犯してはいないのだ。
ただ、この罪が優亜にばれたくないから逃げるのだ。
「待ちなさいよー、何があったのか話してくれてもいいんじゃないのー?」
博が後ろから追いかけてくる。
青年はチッと舌打ちをすると、手に持っていた鎌を握り直し、博と向き直った。
「……お前ら、お偉い護衛の人は……俺の話なんざ、聞かないだろ」
「んー、話してくれるの? じゃぁ」
後から追い付いた雛菊は、警戒するように剣を抜いたが博に「収めな」と言われる。
渋々雛菊が剣を収めたところで、博はにっこりと笑った。
「とりあえず、城においでよ。お話ぐらいは聞いてあげる。それからだよ、俺らを殺すなり逃げるなりするのは」
「……分かった」
青年は鎌を下ろし、素直にうなずいた。
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.134 )
- 日時: 2011/05/14 17:43
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第4話
博は青年にコーヒーの入ったカップを差し出した。
並々と淹れられたコーヒーを見つめ、青年は素直に受け取った。
「で、話してくれるかな? 理由次第では、俺は優亜様に報告したうえでお前を処刑しなきゃなんないけど」
「……俺は——」
青年は話し出した。今朝、自分が巻き込まれた事件について。
朝に弱い青年が聞いた、誰かが殴られた音。
ドアを開ければ自分の鎌が落ちていて、大家が倒れていた事。
やってもいないのに隣人に犯人だと疑われ、逃げ出した事。
ちなみに言うと、青年達が住む家は共同でしかもセキュリティーなんてないので鍵なんかついていなかったらしい。1度寝ると、ちょっとやそっとの物音では起きないので、部屋に侵入し鎌を取る事なんて簡単である事——。
全ての話を聞き終えた博は、コーヒーを啜って一言。
「何の為に大家を殴ったんだろうねー」
「お前、馬鹿なの?」
青年は訝しげに訊く。
博は「馬鹿だよ」と自分で認めた。潔いな、お前。
「おそらく、俺を処刑してほしかったのか追放してほしかったのか……どちらかの選択だろうね」
青年はカップをギュッと握り、唇を噛みしめた。
「でも、どうしてですか? 暴行というリスクを冒してまであなたを処刑したいと言う理由が分かりません。第一、あなたは優亜様を助けてくれた本人です。何故追放したいのでしょう?」
雛菊は青年に問いかけた。
コーヒーを一気に飲み干し、青年は博にカップを突きだす。
「俺は流れ者だ。3年前にここに流れ着いた異国者だ。当時は戦時中でしかも敵から流れ着いた奴だと思ったんだろうな。おかげで嫌われ者だ」
青年は皮肉を込めた言葉を言い放つ。
その台詞に2人は反論しなかった。何も言い返す事はなく、ただ黙っていた。
「話はこれで終わりだ。隊長殿、俺の処分を決めてくれ」
「あ、あー……その、何だ? お前さ、パレードで見たんだけど、超強いだろ?」
博は苦笑いを浮かべながら、青年に訊いた。
「ちょっとさ、雛菊と腕試しをしてみてくんない? 実力を見たくてね」
青年は雛菊を一瞥し、仕方なく「分かった」と告げた。
博はにっこりと笑顔を浮かべると、雛菊と青年を連れて城にある修練場に向かった。
***** ***** *****
優亜はバンッと勢いよく、護衛隊のが集う部屋のドアを開けた。
部屋には誰1人護衛隊はおらず、がらんとした雰囲気だけがあった。
「……あの、人は……」
書庫から全力疾走だった優亜は、その場にズルズルと座りこんでしまった。
ドレスが汚れる事もお構いなし。優亜の瞳からは涙があふれ出す。
せめて、もう1度だけあの人に会って、ちゃんとしたお礼が言いたかった。
「あれ、優亜様。こんなところで何をなさっているのです?」
優亜は慌てて涙をぬぐい、後ろを振り返った。
心配そうな博。少しイライラしてるように見える雛菊。そして、あの青年がそこに立っていたのだ。
「優亜様、あの……こんなむさ苦しいとこに居ない方がよろしいかと……優哉様にも怒られますし」
「博、雛菊! あなた達が見つけてくれたの?!」
優亜はばねのように立ち上がり、歓喜の声を上げる。
何が何だか分からない2人は首を傾げ、揃って「誰の事でしょうか?」と訊いた。
「嬉しい……また、また会えました」
「えっと、俺?」
声が青年に向けられていると知り、青年は自分を指差して尋ねた。
優亜は嬉しそうに何度も何度も首を縦に振る。
「優亜様、こいつ気に食わないです。強すぎます」
雛菊は機嫌が悪そうに言う。
「知らねぇよ。全力で来いと言ったのはお前だろ? だから俺は全力でお前を倒したまでだ」
「だからって……私は女の子なんですよ?! そりゃぁ護衛隊の中でただ1人の女子で男らしい一面もありますが……これでも、立派な、女の子なんです!!」
雛菊と青年の軽い舌戦が勃発する。今にも2人して喧嘩を起こさんという勢いだ。
慌てて博が止めるが、2人はますますヒートアップ。
優亜はけらけらと笑っていた。
「面白い人……。ねぇ、あなた。名前は何て言うんです?」
「え、あの……」
青年は名乗るのを躊躇っているようだ。(え、何で?)
「俺、自分の名前が嫌いで……本当、嫌なんで……。俺の名前を聞いたところで、何もならないし」
「いいの。私が聞きたいから、名前を教えてちょうだい」
ぼそぼそと言う青年の言葉を一蹴し、優亜は答えた。
青年は「あー」とか「うー」とか唸った後、渋々と自分の名前を口にした。
「……翔・ルテ・アラスベルク……」
「そう。翔って言うのね」
優亜は満面の笑みを浮かべると、青年に向かって言い放った。
「じゃぁ翔。あなたを、私の召使にします」
「……ハァ?」
街で嫌われ者だった青年、翔・ルテ・アラスベルクは、本日を以て優亜の召使になったとさ。
……いきなりの命令かい。
- Re: 俺様メイド?!!-クライマックス突入!!-更新再開 ( No.135 )
- 日時: 2011/05/15 18:45
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 第5話
どこからどう見ても朝である。澄み切った青い空の下、とある1つのドアの前で行き来するメイドが1人。
長く艶のある黒髪はポニーテールで束ねられ、純白と漆黒の2色で統一されたメイド服を着ている少女——否、青年である。
そう。青年、翔・ルテ・アラスベルクは自分の主である優亜・オルヴェ・ヴリリアントを起こしに来たのだ。
メイド長である恵梨に「優亜様を起こしに行って来て」と言われ、仕方なく翔は優亜の部屋に来たのだが、
「う、うぅ……」
今まで女の子との馴れ合いがない翔にとっては至難の業である。相手が男ならば、げんこつを1発叩きいれて「起きろ」の一言で済ませる事が出来た(←家賃を稼ぐ為に警察みたいな仕事をした事がある)
翔は大きく息を吸い、そして決心したようにドアをノックした。
乾いた音が2、3回鳴り響く。
「……優亜様。お目覚めのお時間でございます」
返事はない。まだ寝ているようだ。
翔はこのまま放っておこうかと思ったが、それでは恵梨に怒られる。仕方なくドアノブを手に取り、捻った。
まだカーテンが閉められた広い部屋。翔が住んでいた部屋よりか、何倍も広い。
「まだ寝てる……」
天蓋付きのベッドを覗き込み、翔はため息をついた。
ベッドの中で未だスースーと寝息を立てる優亜。理性が保てるか心配になって来た。
が、翔はシャッとカーテンを開く。
暗かった部屋が一気に明るくなり、優亜の表情が苦しげに歪んだ。
「おはようございます、優亜様」
冷静な声で言う翔。
優亜はうっすらと瞳を開け、そして翔を見てつぶやいた。
「……誰?」
「……ハァ」
昨日の今日で覚えられるのはまだ早いと思った翔である。
***** ***** *****
「ねぇ、翔」
朝ごはんを終え、食器を運んでいるところを翔は零音・ポーラに呼びとめられた。
ぐらつく食器を持ち前のバランス感覚で支えながら、翔は「何?」と答えた。
「あなたは、何でメイド服を?」
翔は自分の格好に目を落とす。
自分は男のはず——なので、執事服を着る予定だったのだが。何故か彼が身につけているのはメイド服。これはどうしてだろうか?
理由は優亜にあった。
「優亜様は、男が嫌いなんだそうだ」
「……そう」
零音は悪い事を訊いたな、みたいな表情を浮かべていたので「気にするな」と翔は言っておいた。
「俺は別に、気にはしていない。拾ってもらえただけでもありがたいさ」
「……そう。私は、家柄の関係で、ここに居るだけ」
「家柄の関係なら別に良いじゃないか。俺は町民から成り上がった野郎だぜ」
「……それでも、いいの。私は、何もないから」
零音は悲しそうにつぶやくと、パタパタという可愛らしい足音を立てて去って行った。
翔は首を傾げて、零音が言った台詞の意味を探していた。
すると、どこからかどなり声が聞こえてきた。
「なん————つを、やと————」
(誰だろ……)
食器を抱えたまま、どなり声が聞こえてくるドアに耳を立てる。
話の内容は、何と翔の事だった。
「何で町民で、しかも街の嫌われ者を召使として雇っているんです?」
「これは娘の優亜が決めた事だ。だから仕方がない事なのだ」
「何故、娘の優亜様の意見を——。ハァ、親馬鹿にも程がありますよ」
「親馬鹿ではない!!」
翔はそっとドアから離れると、スタスタと調理場へ向かった。
やはり、自分は嫌われ者だ。嫌われて当然の、流れ者なのだ。
「……ハァ」
本日何度目かのため息を漏らし、翔は廊下を進んで行った。
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