コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 勇者パーティーです。【3話更新中ー】
- 日時: 2012/12/11 17:35
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
雪かきは重労働です。でも不思議と寒くない。
とか思っていたら予想以上に汗を掻いていてなんか脱水症状になっていたりしました。
皆さんも気をつけてください(笑)
というのはどうでもいい話。
はじめまして。
つたない文章ですが、ゆっくりと見守ってくれるとありがたいです。
感想、アドバイス等は遠慮なくおっしゃってください。
では以下、プロローグということで。
◆プロローグ
私たちは偶然か必然か——多分偶然だと思いますが——長い旅に出ることになりました。
あまりに“それらしくない”人たちの取り合わせ。これも偶然でしょう。
その偶然が私にもたらしたもの……これが成長というに値するものか、私には分かりません。けれど、それは私にとって大切なものです。これだけは確か。
だから私は、らしくも無く神様に感謝します。
それから、今までの仲間にも。
出来れば誰にも語らず、大切にとっておきたいんですけどね。特別ですよ?
みんなが知っている、美化された話じゃない、本当の物語。
それはこんなお話です。
◆◇◆
以下、登場人物。随時更新するかも。
◆フェルート
勇者の妹。主人公。
◆フィルザッツ
聖剣の勇者。めんどくさがりでだらしが無くて適当。フェルート曰く野生児。
◆ライクス
フィルザッツに同行する神官。毒舌家で人嫌い。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.39 )
- 日時: 2012/12/11 17:30
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「あ、お、お兄ちゃん!」
思わず走り出しそうになる私の肩を、ライクスさんが押さえます。
「待て」
「あ、え、でも!」
ぐ、と肩の手に力がこめられます。
もう一度お兄ちゃんの方を見てみると、どうやら出血はしていないようです。気絶、でしょうか。いえ、昏倒している?とにかく意識はないようです。
「あー……潰れた。弱い。今度はそっちが相手か?」
邪魔そうに髪を払い、男の人はこちらを振り返ります。もうお兄ちゃんに用はないといわんばかりに。
自分から手を出しておいて、もう興味が無いというように。傍若無人にもほどが、あります。
ライクスさんはもう一度、手に力をこめ小声で告げます。
「隙は一瞬だ」
その顔は無表情。至って冷静です。
私が何か言うよりも先に、男の前に進み出ます。
「お。お前……なんだっけ?神官、だよな、その服。杖まで持ってるし。そいつが俺の相手してどうすんだよ。勝てんのか?」
挑発めいた笑みを浮かべる男を軽く一瞥し、ライクスさんは杖を前に差し出します。
隙は一瞬?どういうことでしょう。いえ、何をするつもりでしょうか。聖法術は使えないのでは?
「……めっずらしい眼だよなぁ。お前には何が見えてるんだろうな?」
ライクスさんは杖を掲げたまま動きません。
男はそれを見ていましたが、とうとう痺れを切らしたようにライクスさんをねめつけます。
「何だ。はったりか? ならこっちから行くが……」
そういって一歩前に出た瞬間、ごつ、と硬い音がしました。
男が、ライクスさんが瞬時に作った対物理障壁にぶつかった音でした。
「……おい、何だよこれ」
男は不思議そうに何度かそれを小突きます。見たことがないらしいです。
5回目辺りで、拳に力を入れ殴ると、あっさり障壁は砕け散りました。
わずかにライクスさんの背が揺れます。
それを見て、あ、と思いつきました。
そうです、一瞬ですね。では、準備です。
「これだけ、か?つまんねぇ」
男はもう、ライクスさんにも興味はなくしたみたいでした。
一気に片付けようと、軽快な動きでライクスさんに肉薄します。
ライクスさんに蹴りが到達する寸前、ライクスさんはわずかに後ずさりながらもう一度障壁を、自分と男の間に作ります。ですが急ごしらえのそれは脆いです。
ぱりんっ、と割られる音。そもそも手加減されていたらしい男の蹴りが、それで勢いを殺されます。
ライクスさんは脇に避けますが。
これで男が追撃すればかわせません。
ですが、その一瞬の時間差。決定的とも言える隙。
「————!」
それで、私の詠唱は終わります。
「なっ!?」
男の驚いた声。
ゴウッ、と心なしいつもより激しく燃えさかる炎の玉が、生まれます。
牛一頭分ほどの大きさ。まっすぐ男に向かって飛びました。
何とかかわそうと男が動きます。が、間に合いません。それを悟ったのか、すばやく腕で防御の姿勢に入った、
その瞬間。
バリバリバリッ、と。
すさまじい音を立てて、その攻撃は阻まれました。
「はぁ!?」
思いもよらなかった出来事に、思わず声が出ます。同時に、すっと体温が下がります。
……いや、ほんとに寒いです。
男の前にはきらきらと光を受けて輝く、氷の壁が出来ていました。
一瞬でした。じゅっ、と火球が命中しても崩れることなく、より一層きらきら輝きながら。
高さは大人の人2人分ほど。横幅は、この攻撃を防ぐために出てきたにしては大仰過ぎます。
この人、魔法を使えるんですか!?だとしたら相当……かなり、やばいです。
壁越しでは景色が歪み過ぎて、向こうの様子は分かりません。けど、どうすれば……。
ライクスさんも忌々しそうにその壁をにらみつけています。万事休す、ですか?
その時。
「——何やってるんですかあなたはーっ!」
混乱に陥りかけた私の耳に、よく通る声が響きました。
全然知らない声です。とっさに振り返ると私の後ろから、人が歩いてくるところでした。
ずんずんと、すごい勢いで。
しかも、鬼の形相で。
怒っていると一目で分かります。
そしてその人も、不思議な容姿をしていました。
瞳は空色。髪の色はこれが変わっていて、白いんですが、毛先に近づくほど水色がかっていき、毛先に到達するころには瞳と同じ鮮やかな空色になっているのです。服装は全体的に白。男とは対照的。
少し長く、後ろで無造作にまとめている髪を振り乱し、その人は氷の壁の方へ駆け足気味に歩いていきます。
誰ですか?と聞ける雰囲気じゃありません。冷たさすら感じさせる怒気を纏っていました。黙ってそれを見守ります。
その人が氷の壁に向かって軽く手をかざすと、空中から氷の槍が現れ、その壁を砕きました。
それでようやく向こうが見えます。
男の、さっきまでの余裕は何処へやら。なんだか悪戯を見つかった子供みたいな顔で、そこに立ち尽くしていました。
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.40 )
- 日時: 2012/12/12 20:21
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「よ、よぉハクギ、戻ったか」
出来ればすぐさま立ち去りたいんだけど、それが出来ない、と言う感じで、あははと乾いた笑いを浮かべてます。
対するその人は、さっきの氷みたいな冷気を纏って言いました。
「戻りましたよ、ご覧の通り。 それで、あなたは何をしてらっしゃるんですか?」
「え、いや、えーっとぉ、ちょっとした戯れと言うか……」
「一人のびてますけど? それに、相手が本気で魔法攻撃してくる戯れって何なんですか!?」
「は、ははは……たまには本気で動かねぇと、なまっちまうし……」
語気が弱くなる男と、反対に強くなるその人。
「何がなまるですか! ことあるごとに破壊活動繰り返してますよね? 周りに影響与えたらだめなんですってば!」
「う……だが今のところまだ何も壊してねぇだろ」
「今のところって何ですか! それに、あそこで人が倒れてますけど!?」
「ま、まだ生きてるし……」
「こんな魔物の出るところで倒れてたらそれも時間の問題ですよ!」
「あ、う、いやその……すまん」
最終的に謝った男の人。水色の目の人は男の正面から退き、私たちの方をちらりと見ました。
氷のような目線をもう一度男のほうに向け、憮然とした態度で言います。
「どうぞ?」
「……ここは謝っておいてやろう」
「ちゃんと謝ってください」
言った途端、男の人の足元でぴしり、と音が鳴ります。
いつの間にか、男の足に霜が降りていました。
「ちょっ、ハクギ冷たい、いや痛いし! 足が死ぬから!」
「ちゃんと、謝ってください」
もう一度まったく同じことを言っている間も、その下は男の足をだんだん上へと上り、侵食していきます。
魔法、のようです。
「だあぁー! 痛い痛い! わかった俺が悪かった突然蹴りかかってすいませんでした!」
「はい、そうです」
満足げに言いながら、その人は男の足に向け何かを払うような動作をします。すると一瞬で、霜が消えました。
どうやら、魔法を使っているのはあの人らしいですが……。
なんか、勢いで謝られました。結局この人たち何者で、何がしたいんですか。
ライクスさんのほうを伺ってみると、やっぱり胡散臭げな目でその人たちを見ています。
「うぉ……まだ足がしびれる感じがすらぁ」
「ほうっておけば治るじゃないですか。まったく、あなたは私が目を離すとすぐこれなんですから」
「子供か俺は」
「子供だったら今頃懲罰牢にでも放り込んでいますよ、まったくいつもいつも問題ばかり起こして」
そのまま説教に突入しそうだったその人は、あっと気が付いたようにこちらを向きます。
「あぁ、あの……ご無礼をお許しください! この人は決して悪気があったわけでは……あったわけでは……あったかもしれませんが」
言って、深々と頭を下げるその人。
……返事に困ります。
「この人は暇になるとすぐ回りのものにちょっかいをかける人でして、その、本当にすみません」
困ったように言葉を続けて、その人は倒れているお兄ちゃんの方に視線を向けました。
男の人が慌てて弁明します。
「たいした怪我はさせてねぇよ」
「させていたら、その分の痛みをあなたに移しますよ」
「いや、それよぉ。前やったとき明らかに倍だったよな」
「4倍です」
「ひでぇ」
その人は男の人となにやら恐ろしいことを話しながら、お兄ちゃんの方に歩いていきます。
私も慌てて、お兄ちゃんに駆け寄ります。
「お兄ちゃん! 生きてる?」
返事は無し。呼吸はしてるんですが……。
骨とか折れてませんかね。確実にまた痣が出来るでしょうし。
水色の瞳の人はお兄ちゃんのそばに膝をつき、困ったように呟きます。
「治癒魔法はあまり得意じゃないんですが……」
「退け」
そこにずばりと遠慮なく口を挟んでくるライクスさん。心なし、いえ明らかに不機嫌そうです。
お兄ちゃんの近くにやってきます。
聖法術は攻撃的な術が少ない代わりに、回復系の術が充実しています。
ライクスさんは無言でお兄ちゃんに向けて手をかざします。ふわりと、静かにその手に宿ったのは若い葉のような、黄緑色の光です。
それはライクスさんの手からお兄ちゃんの方に広がると、お兄ちゃんのからだへと染み込んでいきます。
それ以外、目に見える変化はありません、が。
「っ……、ん?」
お兄ちゃんが身じろぎしました。
「あ、お兄ちゃん。生きてる?」
「……見りゃあ分かんだろうが」
だるそうに言って、お兄ちゃんは上体を起こします。
状況が飲み込めないらしく、きょろきょろ周りを見てから、長い髪の男の人へと視線を定めました。
睨んでますけど。
「ちくしょー。いってぇんだよこの野郎」
「お兄ちゃんちょっと待って。なんかいろいろあるみたいだから」
その気持ちは分かりますけど。何はともあれ、いつも通りのお兄ちゃんです。
少し余裕が出てきた私は、その不思議な2人へちらりと視線を向けました。
1人。最初に蹴りをかましてきた男は、長い紫紺の髪。瞳の色は、深い深い紺色。夜の空みたいな色です。さっきの戦いでだいぶぼさぼさになった髪を、現在手櫛で整えています。いきなり蹴りをしてくるような変な人ですけど、こうしてさり気なく身だしなみを気遣っている姿は、何処と無く高貴な、と言うか、位の高い……いえ、偉そうな感じがします。
もう1人、止めに入ってきたような感じの人は、白と空色の混ざり合う髪。瞳は空色。お目付け役って感じです。男に比べるとこの人のほうが「良家の息子」と言う、おしとやかな雰囲気があります。さっきの鬼の形相は怖かったですけど。
あと、先ほどの氷の魔法。あれはこちらの人が使っていたようですが……。あの使いこなし方は無詠唱。しかも、あまり詳しくない私でもはっきり肌で感じられるほど、強い魔法です。私とは違う、本物。
こんなご時世ですから、こんなところを出歩いてる人なんて大抵は腕利きなんでしょうけれど、それにしても、という人たちです。
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.41 )
- 日時: 2012/12/13 20:55
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「本当に、ご迷惑をおかけしてすみません。怪我は……」
「いや、ねぇけど。治したのか?」
お兄ちゃんの問いに、ライクスさんは無言で頷きました。その視線は、ずっと変な2人組みに向けられてます。
警戒か、怒りか。黒い目には何の表情も浮かんでいません。
「あなたも謝ってください。ほら」
「すいませんでしたー」
実に適当な感じで謝る男の人。状況が良く分かってないお兄ちゃんは、何で謝ってくるのか分かってませんね。怪訝そうな顔です。
ですがこっちも説明してほしいわけでして……。
それを代弁するように、ライクスさんが口を開きます。
「何なんだ、お前たちは」
長い髪の男はそっぽを向きます。話をするのはもう一人に丸投げするつもりらしいです。
そのもう一人はやはり困った顔で曖昧な言葉を呟きます。
「何というとただの旅人です。ご迷惑をおかけしたことは本当に申し訳……」
「ただの旅人が、氷の上級魔法など使うわけがない。あれは宮廷魔法使いほどの者がようやく習得できるものだぞ。それに、もう一つ、そこの男も何なんだ。礼儀の無さはともかくとして、動きが人間離れしている」
淡々と、決して語気を荒げることなく言い切るライクスさん。
う、とその人は言葉に詰まります。
「……いえ、これは、その。そんなに大したものでは」
「無詠唱で発動させるのがか」
珍しく、ライクスさんが人の事情に突っ込もうとしています。
まぁそうですよね。自分に危害を加えてきて、しかもそれが正体不明じゃ、どうやったって気になります。
と、そこへ男の人がややけんか腰で口を挟んできました。
「それを言うなら、お前らだって何者だよ。そいつが使ったさっきの魔法、結構な威力だった。それに神官が子供の二人連れってだけで相当怪しいぞ」
「自分から手を出しておいて何を言う」
むっとするライクスさん。
いや、そうでした。この人たちが不思議すぎて一瞬忘れていましたが、私たちも正体隠してるんでしたね。
もしかしなくても、いきなり攻撃してきたってことを除けば、互いの立ち位置って似たようなもの、ですか。
つまりこの人たちにとって、私たちは『普通の旅人にしては過剰戦力の人たち』。逆もまた叱り、という。
……心情的に言わせて貰えばこの人たちのほうがよっぽど怪しいんですが。
「そのくせそのガキはやたら弱いしな。後そっちのメスガキは狙いが甘い。魔法を使うときに隙がありすぎる。神官に至っては戦力外だ」
「ユーグ様! 今するべきことはそんな無駄な添削することじゃありません!」
水色の人は長髪の人の肩を掴むと、半ば強引に後ろを向きます。
そのまま説教を始めてしまいました。声は潜めていますが、所々聞こえてきます。
「——は——き——です!」
「で————あや——って! ——なん————け——だ—!」
「それ——は————で——す!——な—」
「————かよ! ——は————場合じゃ——」
お兄ちゃんはそれを聞きながら立ち上がり、ぐるぐる腕を回します。完全に回復しているようです。
それにしても……さっきあの人メスガキとか言ってませんでしたか?私、15歳になってからそんな呼び方されたのは初めてなんですけど。
「何なんだよこいつら? かかわらないほうが懸命じゃねぇ?」
む。お兄ちゃんにしてはまともな意見です。
ライクスさんは腕を組み、無表情な視線を2人組みの背に投げかけます。表情は無いんですが、なんと言うか……雰囲気が閉ざしてる、と言うか。人を寄せ付けない何か。
怒ってるんでしょうか。
「フィルザッツ、お前から見てあの男はどうだった?」
「どうって、いや、強かったけど。一撃一撃馬鹿みてぇに重い。力だけなら師匠に勝ってるかもな」
「俺が会ったこともない師匠を引き合いに出されてもまったく伝わってこないんだが」
「お兄ちゃん、師匠は女の人だから。あの人と比べるのはどうかと」
「いやお前、素手で木を切り倒してくる奴を女扱いする必要ねぇだろ。あの人が家事するの見たことねぇし」
「料理作ってくれたことがあったよ」
「あいつどんな食材でも直火焼きじゃねぇか」
「とりあえず、お前たちの師匠がどんなに女性らしくなかったかは分かった」
ライクスさんは小さくため息をつきます。
た、確かに、女性らしくは無かったですけど……。
「でも、あの人たちが何者かって、そんなに気にすることですか?」
「出会い頭に問答無用でとび蹴りして来る蛮人だぞ」
「そうですけど。本気じゃなかったみたいですし。やっぱりもう関らないほうがいいんじゃないでしょうか」
楽で。それに、下手を打って正体がばれるのも面倒ですし。
少しぐらい魔法が使えたり、身体能力が高くて礼儀知らずの野蛮人でも、いいと思うんですよね。
あれ。こんな話をすごくすごく身近で聞いた気がするんですけど。
と、話し込んでいた2人が振り返り、水色の髪の人は控えめに口を開きました。
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.42 )
- 日時: 2012/12/14 23:21
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「すみません。ご迷惑をおかけしたお詫びとして、一つ提案させていただいてもいいでしょうか」
答えかねるようで、その言葉に誰も答えません。その人はそれを是として受け取ったようです。
「皆さん、この後の予定などはおありでしょうか。具体的には目的地など」
「それを聞いてどうする」
警戒気味の言葉を返され、その人は申し訳なさそうに少し視線を下げます。
「はい。私たちはご覧の通り多少の荒事には慣れております。なので、近くの村までご一緒させていただけないかと」
「あ? それってどういう意味だ?」
お兄ちゃんはむかつくからそういうふうに答えたわけではなく、本当に分かってません。
つまり、手を出した代わりに近くの街まで護衛させてほしいと言うことでしょう。
いや、手を出した代わりに護衛って。多分この人、すごい真面目な人なんですね。そういえば師匠も「人様に迷惑かけるならその分恩を返せ」と言っていました。
ライクスさんは予想外の申し出だったのか、返事にわずかな間が空きます。ですが。
「悪いが断らせてもらう。見ず知らずの他人を信用するわけにはいかない」
「それはもっともですが……どうかお詫びさせていただけないでしょうか?」
「こいつらがいいって言ってんならいいんだろ、ハクギー」
「あなたと言う人は。自分がしでかした事の責任ぐらい取ってください。いえ、まず責任を感じてください!」
あぁ……たぶんこの人は、あの男に振り回されて苦労しているんじゃないでしょうか。なんとなくそんな気がします。
再三頭を下げ、その人はもう一度言います。
「そう遠くない距離です。少しの間だけ、私たちに機会をいただけませんか?」
ち、とライクスさんはちいさく舌打ちをします。完全にしつこいと思ってますね。
そこでちょっと意外なことに、お兄ちゃんが口を挟みました。
「別にいいんじゃね?」
ライクスさんも水色の人も、お兄ちゃんのほうを見ます。ちなみの長髪の人は、何か面白いものを見つけたのかあさってのほうを見ていましたが。
「そう遠くないんだろ?それにさー、そっちの奴が本気じゃ無かったってのも分かるし」
とてもめんどくさそうに喋るお兄ちゃん。なんか、こうして話してるのが煩わしくなってきた、とでも言いたげですね。
だからって、言ってることがさっきと逆なんですけど。
ライクスさんは怪訝そうに一瞬黙ります、が。
「フェルートはどう思う」
「……え? 私ですか!?」
いきなり話を振ってきました。
とっさにライクスさんの目を見返し、お兄ちゃんを見、それから変な2人組みを見てから、ちょっと考えます。
この人たちはいい人そうに見えるでしょうか。うん、真ん中ぐらいですね。
ライクスさんの言うとおり、初対面であまり信用できないのは分かりますが、その……なんと言うか。
説教したりされたりしているこの人たち、能力は人並み以上ですけど、やってることはただの仲がいい人というか。
水色の人がやや低姿勢な感じはしますが、それ以外は普通の、気心が知れた友人。
……という感じがする、気がします。
「えっと。いいんじゃないでしょうか」
ライクスさんはちょっと驚いたように眉を上げ、けれど過ぐに無表情にもどります。
あ、私も結局逆のこと言ったんですね。なんかすいません。
「だそうだ。言っておくが、もしものことがあった場合は切り捨てる」
ライクスさんも渋々ながら承諾したようです。最後の一言はまぁ、おまけですね。
水色の人はほっとしたように表情を緩ませ、わずかに笑みを浮かべました。
「ありがとうございます。申し遅れましたが、私はハクギ。えっとこちらは」
「名乗りぐらい自分でする。俺はユーグ。まぁ、よろしくと言っておこうか」
いつの間にか長髪の人、ユーグさんはこちらを向いていました。
ハクギさんは困ったようにため息をつきます。
「ユーグ様、そんな偉そうな挨拶しなくても……」
「いいだろ。俺は偉いんだからな。なんたって」
「ちょっ、黙ってくださいユーグ様!」
……ちょっと後悔してます。
この人たちとしばらく一緒で、大丈夫なんでしょうか?
◆◇◆
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.43 )
- 日時: 2012/12/17 17:19
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「うわー。やっぱりその黒髪は珍しいよな」
「触るな。離れろ。近寄るな」
「いだだだ、離れろとか言いながら腕捻るな!」
「おい、邪魔だから前出て来んなよ」
「いって……別にいいだろ。触ったくらいで怒るなよな」
「おーい、聞いてんのか」
「お? あぁ、聞いてる聞いてる。俺は今年で303歳だけど」
「聞いてねぇじゃねぇか! 誰が歳聞いたよ! しかもさらっと嘘つくな!」
想像以上にうるさいです。
前を行くお兄ちゃん、ライクスさん、ユーグさんの喧騒を見て、隣でハクギさんが小さくため息をつきます。
「ちょっとは礼儀を弁えましょうよ……」
「大変そうですね」
思わず、そんな言葉が口をついて出ます。すると、困ったような微笑がこちらを向きました。や、さっきから思うんですけど、この人の仕草はいちいち上品と言うか優美と言うか……。平民の出じゃないですね。
「えぇ、まぁ。あの人はちょっと力が有り余っている人でして」
「そうなんですか」
あっさり相槌を打つと、会話が途切れてしまいました。
それを気にしたのか、ハクギさんが話を振ってくれます。
「フィルザッツさんとフェルートさんは兄弟なんですか?」
「あ、はい」
「よく似てますね」
「え……そうですか?」
気配り上手なんでしょうか。気まずい沈黙になることは無いようです。
そのせいで苦労してそうなのがなんともまぁ。
「はい。髪や目の色はもちろんですが、その、煩わしそうな表情が特に」
「……」
嬉しくないです。あんなお兄ちゃんに似ていると言われても。
しかも煩わしそうな表情って……。
「あ、すみません。特に意味があっていったわけではないんですが」
「大丈夫です。そういえば、ハクギさんは魔法が上手ですね」
思い出すのは、先ほどの氷の壁。
引き起こす現象が大きければ大きいほど、魔法の難易度は上がります。例外もありますが。
つまり、あれは結構強力な魔法のはずです。
得意な魔法の属性はその人の内面によって変わりますから、「炎」を扱う私と「氷」を扱うハクギさんでは、逆の性格をしている……と、一瞬だけ考えましたが。
なんか話が合いそうなんですよね、この人……。
ちなみに私は杖を持っていますが、ハクギさんは手ぶらです。実際魔法を使うのに杖は必ずしも必要というわけではありません。ちょっとした補助装置のようなものです。それがあってなお、私はこの有様なんですけれど。
「いえ、そんなことは。フェルートさんもなかなかお上手でしたよ。炎の上級魔法なんて」
「いやあれは、なんと言うか……」
言うか言うまいか、ちょっと考えてから口を開きます。
自分の弱点を晒す事になりますが、大丈夫な気がします。もし仮に、正面からぶつかるようなことがあっても勝てるとは思いませんし。
「うまく制御できてないといいますか。あの時本当は手の平ぐらいの火の玉がでるはずだったんですよね……」
「制御できない?」
ハクギさんは空色の目を丸くして聞き返します。馬鹿にしたような色が一切無いのが好印象です。
「それで、あの威力ですか……。ちなみに、得意な属性をお聞きしても?」
「炎です」
「それはまた……」
考え込むように少し黙るハクギさん。
いえ、そんなに真剣に考えていただかなくてもいいんですけれど。なんだか申し訳なくなってくるので。
ハクギさんは細い指を顎に添え、ゆっくりと口を開きます。
「珍しい事例です。私が見てきた中で、魔法をうまく扱えない人は、そもそも発動すらしなかったんですよ」
「えっと……つまり、どういうことでしょうか」
「分かりません。初めての事例です」
くり返し真剣な声で呟き、ハクギさんは目を伏せます。
えっと?私そんなに重要なこといってないと思うんですが。
もしかしてさっきの口ぶりからすると、ハクギさんは魔法に詳しい人だったりするんでしょうか。そうですね、例えば宮廷魔術師や、学校の教員とか。雰囲気からすると、どれも有り得そうですね。
いえでも、だとしたら何でこんなところにいるのか分からないわけで。
「——精霊が?まさか……」
「あのー……」
自分の世界に行きそうになっていたハクギさんは、声をかけると慌てて顔を上げました。
水色と白の髪がばさばさ揺れます。
「あぁ、すみません、つい。ちなみに、魔法はどなたに習ったのですか」
「師匠です」
「師匠?」
返事は思わず出てしまいました。あぁ、これじゃ伝わりませんね。あの人を師匠と呼ぶのは今のところ私とお兄ちゃんだけですから。それにハクギさんは会ったことが無いどころか、存在すら知りませんし。
「えっと、お兄ちゃんの剣の師匠で、私に魔法を教えてくれた人がいるんです」
「なるほど。その方は教師だっのですか?それとも、神官か何か」
「あ、いえ……世捨て人です」
「え?」
「すみません、訂正します。ただの村人です」
ちょっと変わり者のきらいはありましたが。
思わず、という感じでほうけたような声を上げたハクギさんは、取り直すように何度か頷きます。
「なるほど、村人ですか。しかし、村人が魔法を教えることが出来るだけの知識があると言うのは……」
「変ですよね」
言いたいことは分かったので、先回りして言います。
まぁ、私たちがそれに気付いたのは村を出てから、この旅に出てからのことなんですけどね。
貴族でもない平民が、そんなものを学んでいる暇は本来無いです。習うためには、それなりにお金のかかる施設に行かなければなりません。
それを私にあっさり与え、読み書きなどの面倒も見てくれた師匠。
今思うと、相当謎のある人でしたねぇ。
「帰ったら聞いてみたいです。話してくれたらですけど」
「……話してくれたら、ですか」
なぜか私の言葉を復唱して、ハクギさんは不意に微笑みます。
どこか上品な、控えめだけど暖かい笑顔でした。
「……えっと。どうしましたか?」
特に面白いことを言ったつもりはありませんけど。
おそらく不思議そうな顔になっていたであろう私を見て、ハクギさんは楽しそうに言葉を紡ぎます。
「いえ。会ってまだ少ししか経っていませんが、なんとなく、フェルートさんは優しいと思いまして」
……脈絡が無さ過ぎます。何を言うかと思えば。
私が優しいなんて、見当違いもほどがある、と思います。
15年生きてきた中の、たった一瞬に立ち会ったぐらいで。
「そんなことありませんよ。上辺だけで人を判断するのは良くないです」
「人を見る目には自信があるんですよ」
ハクギさんの見た目は大体20歳前半といったところです。その歳で、審美眼がどうといってもあまり説得力はありません。
ですがその言葉は、やけにすんなり届いた気がしました。
気のせいですかね。
「おい、さっきからちょろちょろ前を歩くな。目障りだ」
「後ろ歩いてるとお前が邪魔なんだよ。俺より背がでかいのもむかつく」
「知るか。分かった、前を行くのは勝手にしろ。だが前を向いて歩け。こっちを見るな癪に障る」
「お前人に礼儀がどうとか言っておいてその態度はどうなんだよ! しかも神官だしな!」
「神官であることと俺の礼儀に何の関係がある」
「開き直るのかよ! なぁ、チビガキ、こいつの性格酷いな」
「誰がチビガキだ、誰が」
「お前以外にいないだろ?」
「あと5年たったらお前らの背なんか追い越すかんな!」
ちなみに、ユーグさんの外見年齢は20歳後半。騒いでいるのがすごく大人気なく見えます。
ライクスさんは確か……あれ。そういえば聞いたことが無いです。見た目だけだと20歳前半ほど。
後お兄ちゃん、「お前ら」とか言ってますけど、ライクスさんは何も言ってないですよ。
「すみません。なんか騒がしくしてしまって」
「いえ、大丈夫です。普段から割りとあんな感じなので」
1人分増えたくらいなら、まぁなんとか。
私たちの道中はそんな感じで、とても賑やかなものになりました。
けれどその間、「何者なのか」とか「何故旅をしているのか」とか。どうやらあちらも聞かれたくないらしいことには、一切触れることがありませんでしたが。
◆◇◆
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