コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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勇者パーティーです。【3話更新中ー】
日時: 2012/12/11 17:35
名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)

 雪かきは重労働です。でも不思議と寒くない。
 とか思っていたら予想以上に汗を掻いていてなんか脱水症状になっていたりしました。
 皆さんも気をつけてください(笑)

というのはどうでもいい話。

はじめまして。
つたない文章ですが、ゆっくりと見守ってくれるとありがたいです。
感想、アドバイス等は遠慮なくおっしゃってください。

では以下、プロローグということで。



◆プロローグ

 私たちは偶然か必然か——多分偶然だと思いますが——長い旅に出ることになりました。
 あまりに“それらしくない”人たちの取り合わせ。これも偶然でしょう。

 その偶然が私にもたらしたもの……これが成長というに値するものか、私には分かりません。けれど、それは私にとって大切なものです。これだけは確か。

 だから私は、らしくも無く神様に感謝します。
 それから、今までの仲間にも。

 出来れば誰にも語らず、大切にとっておきたいんですけどね。特別ですよ?
 みんなが知っている、美化された話じゃない、本当の物語。

 それはこんなお話です。


◆◇◆



以下、登場人物。随時更新するかも。
◆フェルート
 勇者の妹。主人公。
◆フィルザッツ
 聖剣の勇者。めんどくさがりでだらしが無くて適当。フェルート曰く野生児。
◆ライクス
 フィルザッツに同行する神官。毒舌家で人嫌い。

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Re: 勇者パーティーです。 ( No.19 )
日時: 2012/09/30 15:37
名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: 2UNjVzAV)

 と、歩き出したとたんに目的のものを見つけることが出来たので、なんだか肩透かしを受けた気分でした。
 どういうことかというと、歩き出してすぐ前方に光が見えてきて、そのまま真っ直ぐ進んでいくと広いホールのようなところに出たのです。
 なかなか大きいです。一軒家三つ分くらいでしょうか。いやに明るいと思って上を見てみると、そこに岩石の天井はありませんでした。自然の産物でしょうか。この広間は吹き抜けになっており、直接太陽の光が差し込んでいたのです。

 そんな広間の隅に、子供たちはいました。

「おい、あれ」

 お兄ちゃんもすぐ気が付いたようです。そちらへ駆け寄っていきます。私も後へ続きました。
 元はきれいだったのでしょうが、薄汚れた服を着た子供たちが固まって座り込んでいます。衰弱している感がありますね……。
 私たちを見るととても驚いたようで、全員に注目されました。が、反応する気力もないのか、騒ぐ子供はいません。
 子供は騒ぐもの、というのが私の固定概念なので、これはとても異常です。

「えっとー……大丈夫か?」
「お兄ちゃん。どう見ても大丈夫じゃないから」
「いやそうだけど。他になんて声かければ良いのかわかんねぇじゃん。助けに来たぜ!とか自分から言うのもむなしくならね?」
「今は心底どうでもいい」

 こんな状況でも真面目になれないんですね、この人は……。
 後ろからきていたライクスさんが、冷静な声を飛ばします。

「全員いるか?」

 私はあわてて子供の人数を確認します。1、2、3……。

「……5。全員います」
「そうか」

 大して喜ぶわけでもなく、あっさりうなずくライクスさん。大人ですね……それともただ冷たいだけでしょうか。
 子供の様子を見てみると、全員疲れきったかのように座り込んでいます。警戒しているのでしょうか。誰も口を開きませんでしたが、一人の女の子が代表するように問いかけてきます。

「……お兄ちゃんたち、誰? 村から来たの?」
「そ。俺たちは村のやつらに頼まれてお前たちを連れ戻しに着たんだ」
「じゃあ、帰れるの?」

 これはまた別の子供です。お兄ちゃんはめんどくさそうに言います。

「帰るんだよ、今から。俺早く休みてーし」
「でも……変な化け物がいるんだよ」
「いまいねぇし。早く行こうぜ」
「……歩けない」
「はぁ?情けない事言ってねぇで、気合入れろ気合」
「ちょっと、お兄ちゃん……」

 少し手加減してくださいよ。子供がなきそうになってるんですけど。
 それを見てさらにめんどくさそうな顔になったお兄ちゃんの前に、ライクスさんが割り込みました。
 もちろんこの人が子供の扱いを心得ているわけもなく、にこりともしません。仏頂面です。子供は更なる見知らぬ大人の出現に、怯えているようです。
 その反応すら無視して、ライクスさんは子供の額に手を当てます。

「……何やってるんだ?」

 おそる、おそるというようにお兄ちゃんが聞きます。ライクスさんが子供の心配などするわけがないと思っているので、本当に何をしているのか分からないのです。

「生命力の残留量の確認だ。相当少ないな……」
「へぇ。お前そんなんも分かるのか」
「ということは、魔物はそういう種類のものだと?」
「そう考えて良いだろう。……だが」

 ライクスさんは言葉をとぎらせ、子供の顔を見回します。

「どうした?何か問題でも?」
「……生命の力の保有量は大人と子供によって違うんだが、こいつに残っているのは全体の約4割といったところだ」
「それが?」
「生命の維持に必要な最低限の量は残っているが、体を動かすのには足りない」
「え?」
「つまり、こいつらは動けない」
「……こんなに担いでけねぇーぞ」
「だろうな。俺もそうする気はない」
「じゃあ、どうするんですか?」

 当然の疑問です。それに対し、ライクスさんは淡々と答えます。

「回復させるしかないだろう」
「そ、そんなこと出来るんですか」
「出来るから言っているんだ」
「うわぁ。お前神官だけど回復系の術とか似合わなそう」

 お兄ちゃん、失礼ですけど同感です。

Re: 勇者パーティーです。 ( No.20 )
日時: 2012/10/08 19:27
名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: 2UNjVzAV)

 ライクスさんは自覚があるのか反論しませんでした。

「少し時間がかかる。見張りでもしていろ」

 かわりにそれだけ言うと、子供の頭上に手をかざします。
 その後、呪文詠唱でもするのかと思いきや、何の前触れもなくその手の平に白い光が生まれました。
 無詠唱です。さすが、といったところでしょう。
 普通、魔術や聖法術を行うときは呪文の詠唱を必要とするのですが、中にはこういう人もいます。もちろん、普通に行うときよりも難易度は高いですね。
 さて、私たちは見張りをしていろ、とのことでしたが……。ここの広間は障害物が何もなく、隠れるところなどありません。明るいのでなおさらです。加えてここに続いている道は、私たちが通ってきた通路とその反対側に一つ、続きのようにあるもののみ。見張るのもそう大変なことではないでしょう。

「あーあ。暇になっちまったな……」
「じゃあ、お兄ちゃん。子供を見るのと真ん中に立って通路を見てるの、どっちが良い?」
「……通路見てくる」

 さっき泣かせかけたからでしょうか。子供を避けましたね、この人。私もどちらかというと子供は苦手なのですが……仕方ないでしょう。
 私は順番待ちとなっている子供のほうへ歩み寄りました。

「えーっと……お腹空いてない?」

 とりあえず話しかけてみると、子供のうち2人は俯いたまま、1人が顔を上げこちらを見て、1人はゆっくり顔を横に振りました。
 顔を振った子が、地面に落ちているいくつかのつぶれた果実を指差します。

「兎みたいなやつが運んできたの」
「へぇ。そうなんだー」

 生かそうとした、ということですよね。なかなか凄いです。食料まで運んでくるとは。

「みんな食べた?」
「うん。だってお腹が空くんだもん」
「そっか」
「それでね……」

 子供は声を潜めて、上目遣いでこちらを見てきます。

「ご飯を食べると、そのあとおっきいのが来るの」
「おっきいの?」
「うん。黒くて毛むくじゃらなの」
「へぇ、兎とは違うの?」
「ううん。もっと大きい。」

 おっきいの……ですか。なんか、あれですね。いやな感じがします。
 早くここを出たいです。

「それで……そのおっきいのは何をするの?」
「わかんない。けどなんか……」

 言葉を捜すように黙り込む子供。やがて言いました。

「なんか、すごく疲れるんだ」
「……なるほど」

 つまり、そいつがこの子達の生命力を食べていたと。それにその風貌からして、群れの頭、なのではないでしょうか。
 絶対に会いたくないですよね。

 その後、私たちは時間を潰し、ライクスさんが4人目の回復を終えたところで、異変が起こりました。

「おい」

 先にそれを察知したお兄ちゃんが厳しい声を発します。
 ライクスさんは治療を中断し、軽く舌打ちしました。
 私はとりあえず大人しくしていてもらった子供たちを集め、お兄ちゃんの視線の先を見ます。

 お兄ちゃんが見ていたのは私達が来たのとは反対側の通路。暗く、先はよく見えません。けれど目に映るより先に、耳がその異変を捉えました。
 ずうぅん、という重い音。それが反響しこの広間まで届いています。ずうぅん、ずうぅんと音は続き、だんだんこちらに近づいてきているようです。

「おい、どうするよ?」

 言いながら、お兄ちゃんは剣を抜きます。見た目は普通の剣ですが、神の加護を宿す“聖剣”。
 子供たちは異様な雰囲気を察し、今にも泣きだしそうです。
 いえ、訂正、1人泣き出しました。

「子供を守りながら戦うのは難しいだろう。お前が一人担げ。ほかはもう動ける」
「あいよ了解」

 お兄ちゃんは素早くまだ回復されていない子を肩に担ぎ上げ、私たちが来たほうの通路へ向かいます。
 私もほかの子供たちを誘導しようとしたのです、が。

「げっ……!」

 お兄ちゃんのいかにも「やばい」といような声に、思わずそちらを振り返りました。
 そこで視界に入ったのは……兎、です。

「え?何あれ……」

 しかも大量の。
 私たちが通ってきた通路から、大量の兎が流れ込んできていました。大群です。
 どう考えても通れません。

「くっそ! どっから湧いてきやがった!?」

 お兄ちゃんはあせった表情でこちらに戻ってくると、ひとまず子供を下ろします。
 ライクスさんは再び舌打ちしました。

「挟まれたか」
「おい、どうする!? 全部相手なんてできねぇぞ!」
「ああ。だろうな。となると——」

 考えるように間を空けるライクスさん。その目と、ばっちり視線が合います。

「お前しかいないわけだが」
「えっ……えええっ?」

 突然な話の流れに思わず声を上げて驚きます。確かに言いたいことは分かりますけど……。

「でも……ここで使ったら」
「それ以外に方法がないだろう」
「そうですけど! その、ほんとに全滅するんじゃ」
「食い殺されるぐらいならそのほうがマシだ」

 あっさり言い切るライクスさん。お兄ちゃんを見ると、こちらも「ま、確かにそうだな」とあっさりうなずきます。軽いですよこの人たちいいい……。

「って言うか、あっちからも来たぞ!」

 お兄ちゃんが示すのは、兎の大群の反対側。ずうぅんとひときわ大きな音を立て、暗闇から巨大な前足が現れました。
 続けて、頭が現れ、胴、後ろ足、と続きます。
 前進黒い剛毛で覆われたその動物は……いえ、魔物は、まさしく「熊」。その姿かたちをしていました。
 ただ、普通の熊よりも前足が長く太く、全体の調和が取れていないように見えますね。

「……俺、もうやだな。帰りたい」
「倒せば帰れるぞ」

 そっけなく言って、ライクスさんは冷静に言います。

「一番簡単なものでいい。そうだな……蝋燭に火をつけるくらいで良いだろう」
「う、うぅ……でも……」
「フェルート」

 急に名前を呼ばれ、びっくりして目を見開きます。ライクスさんは相変わらず淡々と、言葉を紡ぎます。

「俺は死にたくない。可能性があるなら、何故全力を尽くさない? 何かあっても、何とかする……フィルザッツが」
「う、うううう……分かりました」

 どうやらこれは決定事項のようです。逆らえません。私だって死にたくないですし。ライクスさんさり気なく人に投げてるし。でもこれは……ああ、もうどうにでもなってください!
 腹を括って、というかうやけくそになって、私はすっと息を吸いました。

Re: 勇者パーティーです。 ( No.21 )
日時: 2012/10/09 10:57
名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: 2UNjVzAV)


「——“一雫の炎よ。其れは私たちに安穏を与える”……」

 頭の中に思い描くのは、ライクスさんの言ったとおり蝋燭の炎。小さな小さな火。詠唱は問題なく進みます。昔から幾度となく口にしてきたものですから、間違えるはずもありません。同時に、何かが私の近くでうごめいている感覚。これも慣れています。

「……“精霊よ、われらを闇より護りたまえ”」

 簡単な魔法なので、詠唱も一瞬。それを終えた途端、体の近くでうごめいていたものは、広間の中央へと流れていきました。視認は出来ませんが、感じます。そしてそれが一点に収束し、そこから生まれたのが……。

「……やはりそうなるか」

 後ろでライクスさんがぼそりと言いました。やはりって何ですか、と言いたい所ですけど、言えません、言えるはずないです。
 そこから生まれたのは、蝋燭のような火、ではなく……『灼熱の業火』でした。
 明らかに……私の思い描いたものよりも大きな炎。圧倒的な熱量。殺人的な光力。一気に広間の気温が上がり、熱風が吹き荒れます。ごうごうと、音を立て燃え盛るそれは、悪魔のよう。真っ赤な中ににやりと笑う裂けた口が見えた気が。
 私は予想通り過ぎる展開に、思わずつぶやきました。

「……すいません」

 私たちは子供を壁際に押し込め、その前で壁になるように立ちます。子供?全員泣いてますけど何か。私のせいじゃないです魔物のせいです。
 炎はすでに私にはどうにも出来ません。つまり言い換えると……暴走、ですかね。制御不能です。今あの業火は場の中心でうねり、かと思うと生き物のように兎の大群を呑みこみました。おそらく炭化してますね、あれ……。そして、広間の壁にぶつかると跳ね返り、あの熊の方へと向かいます。驚いたように前足を持ち上げる熊。しかしその口が開かれ、何かを叫ぼうとした瞬間、炎はそれをも飲み込みます。自分でやっといて言うのもなんですが、哀れ、熊。登場即退場とは。

「おいおい……あれ」

 お兄ちゃんの焦ったような呟き。
 炎は熊をも捕食し、再び壁にぶつかるとうねり、蛇のように渦を巻きます。そして最後の獲物……まぁ、つまりは”私達の方”へと——

「こっち来るじゃねぇか……!」
「フィルザッツ、出番だぞ」
「ふざけんなーっ! あれをどうしろと!?」

 ライクスさんは焦った様子もなく、お兄ちゃんを前に押し出します。いえ、ここまで来ると感心しますね。あれを出した張本人である私ですら……いろいろ諦めたんですが。ライクスさんは相変わらず無表情。汗一つかいていません。
 お兄ちゃんは騒ぎまくってます。

「何でもいい。消せ」
「無理だろ? 無理だろ!? 俺剣しか持ってねぇから!」

 本当にすみません。お兄ちゃん。まさかこんな所でこんな理由で旅が終わるとは……。でも仕方ないじゃないですか。他に方法がなかったんですから。
 迫る炎。それを目前にし、お兄ちゃんが吹っ切れました。いえ、キレました。
 雰囲気が激変し、炎を睨みそして、剣を構えます。
 何をするつもりでしょうか。聖剣とはいえ、それは魔物に対してのみ効力を発揮する物。私の魔法には意味がないはず……。

「ふざけんなよ、こんの……バカ野郎おおおおおおおおおおおおっ!」

 何に対する罵倒か分かりませんが。炎の巻き起こす轟音の中でもはっきり聞こえるほど大声で叫び、剣を振り上げます。そのとき、不思議な感じがしました。なんというか、お兄ちゃんの剣が風をも巻き込んで動くような、そんな感じ。ただの力任せの一撃じゃ、ない……何か。
 次の瞬間、その違和感は明確な形を持って目の前に現れます。いえ、形というか結果として。
 お兄ちゃんが振り下ろした剣。それはあの業火を”真っ二つに切り裂き”ました。

「え……」

 思わず呟きます。ライクスさんはほう、と感心したようにそれを眺めていました。
 二つに裂かれた炎は拡散。上昇気流に乗るように上へ昇ると、そのまま空気に溶け、消えていきます。大量の魔物を葬った業火の、あっけない最後でした。
 残ったのは、炭と熱気。そして、泣きじゃくる子供五人と、あっけにとられている私、それから相変わらず涼しい表情のライクスさんと……得意満面のお兄ちゃん。

「俺すごくね?」
「…………」

 一気に緊張が解けた私は、そこに座り込みました。

「なぁなぁ、今のすごくないか? あの炎切ったんだぜ?」
「うん。そうだね……」
「どうやったんだ、フィルザッツ」
「いや、なんか鎌鼬? 神空派? とかそんなやつ。師匠に教えてもらったんだけどな、出来るとは思わなかったなー!」
「師匠? お前の?」
「あ、はい。お兄ちゃんには剣の師匠がいまして……私たちの育ての親でもあるんですけど……。はぁ、なんか疲れました。何で二人とも普通に話せるんですか……」

 魔法を使ったせい、というよりも、これは精神的なものですね。だめです、今回は無計画過ぎます。帰ったら反省会ですよ、もう。

 ……なんて考えていたんですが、それも甘かったです。だから、今回は後先考えなさすぎなんですようう……。

Re: 勇者パーティーです。 ( No.22 )
日時: 2012/10/19 19:39
名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)

◆◇◆

 さて、問題が起こったのは次の日です。
 私が目を覚ますと、ライクスさんはすでに起きていたようで、部屋に居ませんでした。これはよくあることで、前に一度様子を見てみたところ何かを呟きながら外に居ました。どうやらお祈りをしているようです。
 お兄ちゃんは爆睡中です。なんかやたらと酒臭いんですが、飲んでませんよね?……もし飲んでいたら殴ります。
 昨日村に戻ったところ、村長さん方は大喜びでした。祝宴を催してくださるということでしたが、私とライクスさんは辞退。何気に一番の功労者でもあるお兄ちゃんが一番元気に参加していました。呆れます。
 私はすぐに寝ました。

 顔でも洗おうと部屋を出て廊下を彷徨っていると、エレナさんと出くわしました。
 びっくりした顔のエレナさん。ですが礼儀正しく挨拶をしてくださいます。

「あ、おはようございます」
「おはようございます、エレナさん。すみません、勝手に歩き回ってしまって」
「い、いえ……」

 ……あれ。なんだか様子がおかしいですね。頑なに目を合わせてくれないんですが。
私の疑問をよそに、エレナさんは言葉を続けます。その様子も妙によそよそしいです。

「あの、朝ごはんの準備は出来ています。今、起こそうかどうか迷っていたところで」
「あ、そうですか。ライクスさんは外に出ているので、今呼んできます。お兄ちゃんも起こしてきますね」
「い、いえ! 私が呼んできます! フェルートさんは先に食堂へどうぞ……」
「……え」

 なんかすごい……あれですよね。丁寧になってませんか、扱いが。エレナさんもなぜか緊張しているようですし……本当にどうしたんでしょう。視線が昨日のにこやかなものではなく、丁寧ではあるけれど余所者を見る目……いえ、確かに余所者なんですが、なんと言いますか『畏れ多い』って感じのものなんです。

「えっと……もしかして昨晩お兄ちゃんが何かしましたか?」
「え? いえいえそんなこと! 勇者様方にはなんとお礼を言ったらいいか……!」
「そ、そうですか……」

 ふむ。では他に何かが?子供たちの様子が芳しくない、とかでしょうか。しかしライクスさんに限ってそんな失敗はしないと思うんですが。他に……私はすぐに寝てしまったのであまり心当たりがありません。お兄ちゃんあたりに聞いてみましょうか。

「……いえ。少し待ってください」
「は、はい。どうかなさいましたか?」
「えーっと……ちょっと、ちょっと待ってくださいよ」
「はぁ」

 困り顔のエレナさん。ですが、今はそれどころではありません。
 何でしょう。今すごく重要なことを聞き逃した気がするんですが。
 お礼なんて昨日も言われたことですから……では、何でしょう?何でとめたんでしたっけ。だめです。混乱しています。頭が完全に目覚めていません。
 今私は、お兄ちゃんたちを呼びに行くのをとめられて……おにいちゃんは何もしていないらしい、と。それから?それから……。
 そこでようやく気付きます。流してはいけない一言に。

「……えーっと、もしかしたら聞き間違いかもしれませんが……エレナさん今、『勇者様方』って言いました?」

 ありえません。エレナさんが知るはずないんですから。聞き間違いに決まって居ます。
 ……分かってます。現実逃避ですね、こんなの。

「は、はい……」

 案の定というかなんと言うか、エレナさんは遠慮がちにうなずきます。
 ああ……なんてことでしょうか。何でばれたんでしょう。私はごくごく普通に振舞っていたはずです。何で……いえ、それよりも、正体がばれたということは……。

「昨日、子供たちが今までのことを話してくれて。それで、皆さんがとてもお強いと分かったんです。フィルザッツさんは剣の腕がすごかったって……。フェルートさんも、その、普通ではありえない規模の魔法を使うそうで」

 制御できてませんけどね……。昨日は完全にやりすぎでした。お兄ちゃんも、私も、です。
 見ているのが子供だからって油断していました。

「なんだか噂に聞いていた話に似てるなぁ、って思ったんです。よくよく考えてみると、フィルザッツさんの容姿は、聞いていたそのとおりで、そのときようやく気付いて」

 気付かなくてよかったんですけど……。そういうのには敏感な方なんですか。
 聞けば聞くほど悶々としてきますがしかし、エレナさんの次の言葉で、私の中の何かがぶちぎれました。

「一番の理由は昨日の夜フィルザッツさんがぽろっと漏らしたことなんですけど」
「…………」

 あんのバカ兄貴……!最低です!戻ったら文句言いまくってやります!説教(暴力)です!
 私は顔の筋肉を引きつらせながらも、何とか胸のうちに湧き上がった衝動を押し込めます。後で必ずぶつけてやる、と自分に言い聞かせながら。そうでもしないと押さえられないです。
 そんなことには気付かず、エレナさんはおずおずと口を開きます。

「フィルザッツさんが“聖剣の勇者”様……ですよね。ライクスさんがかつて神童と呼ばれた神官様。それで、フェルートさんが……」

 言いにくそうに口ごもり、エレナさんは一際小さな声で言いました。

「“紅蓮の悪魔”と呼ばれる、魔法使い様……ですか?」

Re: 勇者パーティーです。 ( No.23 )
日時: 2012/10/19 19:52
名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)

◆◇◆


「最悪……誰が悪魔さ……私はただの人間だよ……。そもそも誰?そんな恥ずかしい二つ名つけたの。紅蓮?悪魔?意味分かんない。ほんと無い、もう無い……」
「うるせぇ」

 私が鬱々と繰り返す呪詛のような言葉を、お兄ちゃんはばっさり切り捨てました。

 現在、私たちは村を出て、森の中を歩いています。細い街道に沿って歩けばやがて森を抜け、さらに歩くと街が見えてくる、と村の方が教えてくださいました。
 無駄に尊敬と憧れの入り混じった視線を向けつつ、です。
 あの後、正体のばれた私たちは早急に村を出ました。そもそも長居する理由もありませんでしたしなにより、私たち三人の中にあの状況を好むような人は居ませんからね。
 お兄ちゃんの正体はばれましたが、結果として子供たちは全員無事で、直接お礼まで言われましたので、全体としてはよしとするべきでしょう。
 現在そのお兄ちゃんにはいつものような元気は無く、茶色の髪はぐしゃぐしゃ。時々痛そうに頭を押さえています。さて、それはお酒のせいでしょうか、とある魔法使いの鉄拳のせいでしょうか、どちらでしょうね……?

「お前も過剰反応しすぎだろ。悪魔って言われたくらいで……」
「お兄ちゃんはバカとか言われ慣れてるから分からないんだよ……私の気持ちが」
「主に言ってるのはお前だけどな」

 お兄ちゃんの言葉も、今は半分も耳に入りません。精神的な負担がかなり大きかったようです。
 だって、15歳の女の子に悪魔って。もちろん自分の容姿が整っているのなどと生まれてこの方一度も思ったことはありませんが、それにしても悪魔って……。
 もうこの羞恥心と怒りと苛立ちとその他様々なものが入り混じった胸のうちをどうしていいか分かりません。

「もうほんと……死にたい……」
「そもそもそれはお前が魔法を暴走させるからだろう。あのときは屋外だからこそよかったが」

 ライクスさんの言葉はこんなときでも容赦ありません。確かにその通りなんですけど……。

「加えてあの炎を観客のほうにけしかけるとは。城の魔法使いが居なかったらどうなっていたことか」
「う……ううぅ、すみません」

 思わず口から出た謝罪の言葉を、ライクスさんは軽く鼻で笑います。黒髪黒目のライクスさんがやると、陰湿さが三割増しです。

「俺に謝ってどうする?個人的な感想を言わせてもらうと、あれはなかなか見物だったぞ」
「…………」

 もう何か、いろいろだめですよね。神官としても人としても。

「あの時は俺も大変だったなー。お前危うく牢屋にぶち込まれるところだったじゃん」
「もう言わないで……」

 完全に他人事、そして笑い話として「あのときのこと」を語る二人。当事者としてはたまったものじゃありません。

 あれはお兄ちゃんが勇者に選ばれ、剣を王より授かり、旅に出る少し前のことでした。
 本来旅に出るのはお兄ちゃんとライクスさん、そしてもう1人、私とは別の魔法使いさん、のはずだったのです。
 ところが、お兄ちゃんは今回の魔物退治の旅と並行してあることをしようとしており、その旅にどうしても私は付いていきたかったのです。いえむしろ、付いていかなければならなかったのでしょう。何せ発案者私でしたから。
 もちろん、ただの村娘を同行させるなど易々と許可が降りるはずなく、もういっそこっそり行ってやろうかと思っていたところで、お城のほうからある提案がありました。
 私が魔法を使える、ということは伝えていたのですが……そこで、私の実力を見る、と言い出したのです。それで王様方を納得させることが出来れば同行してもよし。無理ならば……という話。
 どうしようか少し悩みました。しかし、付いていくためにはそうするしかないでしょうし。魔法を見せろと言い出したのはあちら側ですし……と、半分ほど自棄になって魔法を披露。その結果が……言わずもがな。
 中庭の芝は見事に焦げ、城壁に焦げ跡を作り、王様方を危うく焼き殺すところでした。ですがそこはさすが護衛兼宮廷魔法使いの方々。水の障壁を作りいとも容易く炎を打ち消してしまわれました。さすがです。そしてありがとうございました。
 結果として、私は騎士の方々に剣を突きつけられ、畏怖が込められた視線を浴び。あれがただの演出だったと言い張らざる得ない状況になり、とても苦労しました。
 その後、同行する許可が下り、もう1人の魔法使いさんは、旅から辞退しました。どうやらあの場に居たそうなんですが、詳しいことは聞いていません。っていうか聞けません。
 そしていつの間にか流れだ渾名が“紅蓮の悪魔”……この名で呼ばれるたびに嫌な事を思い出します。

「ほんと……あれは後生語り継ぐべきだろ。見てたやつらのあの顔……」

 思い出し笑いしているお兄ちゃんのわき腹に、とりあえず肘を叩き込んでおきます。

「ぐぼ……ぷっ、はははっ」
「笑い事じゃなかったんだよ、あの時は!旅に出る前にあんな障害にぶつかるとは思ってなかったよ……それにしてもないよ。いくらなんでもその名前はない。あり得ない……」
「いやー、ほんとお前、魔法下手だよな。何であの大きさしか出ないんだよ」
「知らないよ、もう。何やっても直らなかったんだし、しょうがないじゃん」

 ほんとにそうなんです。何度練習しても直らなくて……非常に使い勝手が悪く、広い場所でしか使わないようにしています。今回は非常事態だったんですが。

「お前があれだと、実質まともな戦力って俺だけだよな。なぁ、ライクス、お前なんか知らないの?」
「何がだ」
「いや、こいつの魔法が暴発する理由」

 ライクスさんは感情の分かりにくい黒い瞳でこちらをちらりと見やり、そっけなく答えます。

「さぁな。悪魔にでも取り付かれているんじゃないのか」
「ぷはっ」

 再び噴き出すお兄ちゃん。ひどいですね二人とも……。

「……何せその兄は頭に重大な欠陥があるようだからな。何があったとしても不思議じゃない」
「あんだと?」
「……あー、そういえばライクスさん」

 いきなり言い争いを始めそうな二人の間に、私はあることを思い出して割って入ります。すっかり忘れていましたが、これを蔑ろにしてはいけませんよね。
 こういう場合はたいてい放置している私なので、怪訝そうな顔をするライクスさん。また突飛なことを言い出すとでも思っているんでしょうか。前例があるのであまり文句は言えませんけれども。
 私は歩くのをやめて、ライクスさんに向け軽く頭を下げました。

「昨日はありがとうございました」
「…………」

 ライクスさんは面食らったように黙り込んでしまいます。あれ、意味が伝わらなかったんでしょうか。

「えーと、あの、昨日魔物から助けてくれたじゃないですか。覚えてます?洞窟で」
「……そんなこともあったな」
「はい。それに対してのお礼です、今のは」
「お前のためにやったわけじゃない」
「そうかもしれませんけども、まぁ、実際ライクスさんが居なければ確実に怪我していたわけですから。やっぱりお礼は言うべきですよ」

 ライクスさんは新種の動物でも目の前にしたような、複雑で少し困った様な表情を浮かべます。
 ですがすぐに軽く鼻を鳴らし、ふいっと顔を背け先に歩き出してしまいました。ほぼ同時にボソリと一言呟いて。

「足を引っ張るようなら今後どうなっても知らないからな」

 ……余計な一言を。
 そのままどんどん先を歩いていってしまいます。あれ、呆れられました?変なこと言ったつもりじゃないんですけど。本当に難しい人ですね。
 隣でお兄ちゃんがけっ、と笑って頭の後ろで手を組みます。

「うざいな、あいつ」
「そうかな。口が悪いだけだと思うよ」
「そこがだめなんだろ」

 それから、どうでもよさそうに、本当についでっぽく言いました。

「でもま、いい性格してるよ」
「それはほんとに同感だね」

 私たちは、ライクスさんの後ろをまた歩き始めました。
 次の目的地は森を抜けた先です。そう遠くはありません。今日のお昼はどうするんだろう……そう考えながら。


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