コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 勇者パーティーです。【3話更新中ー】
- 日時: 2012/12/11 17:35
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
雪かきは重労働です。でも不思議と寒くない。
とか思っていたら予想以上に汗を掻いていてなんか脱水症状になっていたりしました。
皆さんも気をつけてください(笑)
というのはどうでもいい話。
はじめまして。
つたない文章ですが、ゆっくりと見守ってくれるとありがたいです。
感想、アドバイス等は遠慮なくおっしゃってください。
では以下、プロローグということで。
◆プロローグ
私たちは偶然か必然か——多分偶然だと思いますが——長い旅に出ることになりました。
あまりに“それらしくない”人たちの取り合わせ。これも偶然でしょう。
その偶然が私にもたらしたもの……これが成長というに値するものか、私には分かりません。けれど、それは私にとって大切なものです。これだけは確か。
だから私は、らしくも無く神様に感謝します。
それから、今までの仲間にも。
出来れば誰にも語らず、大切にとっておきたいんですけどね。特別ですよ?
みんなが知っている、美化された話じゃない、本当の物語。
それはこんなお話です。
◆◇◆
以下、登場人物。随時更新するかも。
◆フェルート
勇者の妹。主人公。
◆フィルザッツ
聖剣の勇者。めんどくさがりでだらしが無くて適当。フェルート曰く野生児。
◆ライクス
フィルザッツに同行する神官。毒舌家で人嫌い。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.29 )
- 日時: 2012/11/10 11:18
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「……何だ」
少し歩く速度を落とし、私たちの後ろをただ黙々と、一言も話さず影のように歩いていた隠密顔負けのライクスさんの横に並びます。
ライクスさんは今までの会話には一切口をはさまず、本当に何もせずについてきているだけでした。
また具合が悪くなったのか、あるいは……です。
ちょっと心当たりがあります。
「あの、あまり重要なことではないんですが」
「…………」
なら訊くな、といわんばかりに無言。そして無表情です。
表情がなくても分かるくらいの圧力ですよ。
訊きますけどね。
「さっき魔物が近くにいるの、お兄ちゃんよりも早く気付いてましたよね」
「だから、何だ」
「いえ、どうしてかな、と思っただけです」
「…………」
沈黙が返ってきました。そのまましばらく歩きます。
歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、私が先に折れました。
「あの、すみません。やっぱり良いです、言わなくて」
ライクスさんが黙り込むなんて、ほんとに珍しいことです。よほど言いたくないんでしょうか。
まぁ、良いですけどね。興味が無いと言えば嘘になりますが、人の事情にそこまで深く突っ込むつもりもありません。
誰にも言いたくない事の一つや二つ、あるものです、きっと。
「さっきの魔物、お兄ちゃんの剣が通じませんでしたよね」
「そうだな。あの剣が通じないとなると、相当あの殻は硬いようだ」
表情を変えずに、ライクスさんは冷静に先ほどの魔物を分析します。
今のやり取りは無かったことにするつもりらしいです。
「倒せるんですか?」
「倒せなければお前たちの義務が果たせないだろう。俺も仕事だからな」
「仕事って、ライクスさん……」
「事実だ。俺はそれ以外この旅に意味を感じていない」
いつに無く冷たい言葉を並べるライクスさん。機嫌を損ねてしまいましたかね。
大人気ない、なんてことはこれっぽっちも思いませんよ、はい。
「さっきの魔物、追い詰めたらまた地面に潜って逃げてしまいますよね」
「そうだな。目を潰しはしたが、地中で活動するのなら最初から重要な器官ではない可能性も高い。怒りを買っただけだ」
「……問題山積みですね」
「そうでもないぞ。あいつを地中からおびき寄せる方法は一つある」
「囮、ですか?」
「それでは逃げられた場合後を追えないだろう。別の方法だ」
別の方法?何でしょうか。
私が口を開きかけたのと同時、前を行く2人が立ち止まりました。
「ほら、ついたよ。ここが僕の家」
ノイルさんが立っていたのは、一軒のレンガ造りの家の前。ご近所と同じ、平べったい箱のような家です。
「とりあえず入って。兄貴はたぶん仕事でいないと思うけど」
「ふーん。じゃ、お邪魔しまーす」
私たちは言われるままに中に入りました。
少々雑多な印象はありますが一応片付けはされています。
大きなテーブルのある部屋まで来ると、ノイルさんは私たちに席を勧めました。
「親はいないけど。散らかっててごめんね」
「お仕事ですか」
「いや、そういうんじゃなくてね……。ま、気にしないで。お茶でも持ってくるよ」
曖昧に笑いながら、ノイルさんは奥へと小走りで消えていきます。
「……それで、ライクスさん。別の方法って何ですか?」
「あ?何の話だよ」
「さっき話してたんだよ。お兄ちゃんの剣はあの魔物に通じないし、地面に潜って逃げられたら追えないでしょ」
「だったらまた出てくるまで待てば良いんじゃねぇの?」
「馬鹿か。いつまでこの街に留まるつもりだ?長居すれば長居するほど目立つだろう」
「そもそもこの魔物の多いときに、私たちみたいな子供が出歩いてるってだけでも好奇の的だからね」
「あー……めんどくせぇ」
お兄ちゃんは早くも話を投げると、テーブルに頬杖をつきます。
「で、方法って何だよ。って言うか何の方法?」
「地中に逃げた魔物を引きずり出す方法だ。こちらはほぼ問題ないだろう。お前、あの魔物を倒せるか」
「あ?」
お兄ちゃんはその質問自体が不快だといわんばかりに、上目遣いでライクスさんを睨みます。
「倒す。倒すに決まってんだろ。次はぶつ切りだっての」
「そうか。なら問題ない」
「いやあの、そんなあっさりしてていいんですか?」
「いいもなにも、出来るといったのはこいつだからな。失敗して被害を被るのもこいつだ」
「失敗?あのムカデ野郎相手に?誰がそんな馬鹿な真似するかよ」
何一つ安心できないんですけど。
今ひとつ安心できない私をよそに、2人の話し合いはなぜか白熱し、口論へと昇華されていきます。
「ふん。最初に剣を弾かれて面食らっていたのはどこのどいつだ?」
「てめぇはずっと見てただけじゃねぇか」
「状況判断という、お前には出来ないことをしていただけだが」
「力がねぇいい訳がそれか?あ?」
「神官に戦闘能力を求めるな、馬鹿らしい」
「開き直んじゃねぇよ!」
と、そこにノイルさんがお盆に載せたお茶を持って、苦笑しながら戻ってきます。
「はは。そこの2人も仲がいいんだね」
「だから、どこをどう見ればそうなるんだよ!」
「寝言は寝ながら言ってもらおうか」
お兄ちゃんもライクスさんも、不満そうです。
2人から同時に否定されても、ノイルさんは笑って聞き流していますけどね。
「それで、みんなは何で旅なんかしてるの?」
「こっちの事情だ。ほっとけ」
お兄ちゃんはそっけなく答えます。
「事情って何?」
「だからほっとけっつってんだろ」
「まぁその、あまり追求しないでください……」
いつにも増して不機嫌そうなお兄ちゃんの言葉を補足しておきます。
「ふーん?」とノイルさんはあまり納得していないように頷きますが、それ以上追求はしてきません。
「どのくらいこの街にいる予定なの?」
「うーんと、どのくらいでしょうね?」
「……そうだな、食料やその他備品の補充も考えると、2,3日というところか」
「じゃ、じゃあ、その間は僕のうちに泊まっていってよ。無駄に広いからさ」
なぜか少し緊張した風に、ノイルさんは勢い込んで言いました。
突然どもってますし。
「いえ、いいですよ。悪いですし」
「全然悪くないから!ほら、お礼するって言ったでしょ?」
「しかしそれは、お前の兄弟にも許可を取らなくてはいけないと思うが」
「ぐっ……大丈夫、何とかするから!」
どうしても泊まってほしいようです。どうしたんでしょうかね。
「まぁ、泊まることがいやなわけじゃねぇけどよ」
「やっぱりお兄さんに話してから考えたほうがいいと思います」
「う、うん……分かった」
ちょっと残念そうにノイルさんは頷きます。
みんなの反応を見てみると、別に問題はないようでした。
もちろん、普通に宿をとってもいいんですけどね。
「じゃあ、兄貴に事情を話してくるよ」
「今からですか」
「うん。早いほうが良いでしょ。そうそう、君たちはこの街に来るの初めてだよね」
「そうだなー。俺こんな平べったい家はじめて見た」
「はは。じゃあついでに街を案内するよ」
これはありがたい申し出です。
先ほどライクスさんが言ったとおり、買出しのための店も探さなければなりませんでしたから。
私たちはお茶を頂くのもそこそこに、また街へと繰り出すことになりました。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.30 )
- 日時: 2012/11/14 18:50
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「あそこが剣とか槍とか売ってるところだよ」
「あー?しばらく武器はいらねぇな」
「直接攻撃してるのお兄ちゃんだけだしね」
「隣で鎧とかも売ってるけど?」
「間に合ってますね」
「うーん。ちなみにそれの隣から花屋さん、ソルイト衣装店、ゴルドー商店」
「花も衣装も要らんだろう」
「えっと、食料品とかは?」
「それならもうちょっと行った所かな。僕の兄貴が働いてるところを過ぎた辺り」
「そうなんですか」
「後で案内するよ……ってフィルザッツさんが消えてる!?」
「あれっ?ほんとですね」
「……まったく、あいつは」
きょろきょろと辺りを見回すと、確かにお兄ちゃんの姿が見当たりませんでした。いつの間に。
この街は魔物の影響かそこまで人が多いわけじゃないんですが、それでもお兄ちゃんを見つけることは出来ません。
あの年にまでなって人とはぐれるとは。心配ですね……。
もちろんこの心配はお兄ちゃんが何かやらかさないかが心配なのであって、お兄ちゃん自身はあまり心配ではありません。
いえ訂正、全然心配ではありません。
「どうせそのうち戻ってくるので、気にせずそのお兄さんの店に行っていましょう」
「だ、大丈夫なの?この町来たの初めてなんだよね?」
「あの人は見知らぬ山から生還できる人なので、心配する必要もないです」
「そ、そうなんだ……」
驚きのなかにどこか尊敬の念を滲ませて、ノイルさんは呟きます。
「やっぱりすごいなぁ、フィルザッツさんは」
「そんなに感心されるような人ではないと思いますけど……」
「えー?そんなことないよ!だってあの〈草原の足枷〉と渡り合えるほどの実力なんだよ?」
厳密に言えば聖剣の恩恵を受けていますけどね。
魔物にのみその効力を発揮する聖賢。一見するとただの剣ですが、いわばそれは、魔物にのみ作用する猛毒が塗られた剣です。
そう考えると、なかなか恐ろしいものがありますね。
「あの魔物はいつごろから現れるようになったんですか?」
「うーん、3週間前ぐらいからかな。あの、氷弓の勇者様が近くまで来たのよりも後のことだったから」
「ああ、あの。この街には来なかったんですか」
「うん。そのときはここも平和だったからね、比較的には」
比較的。
これよりひどい被害を受ける街なんてたくさんあることを、知っているようでした。
「運が悪いって、兄貴も言ってたよ」
「お兄さんは何のお仕事を?」
「……大工の手伝い。というか、見習いってやつ?」
「修行中なのですか」
「修行というかね、まぁそんなところ。ほら、もうそこだよ」
ノイルさんが指差したところには、こじんまりとしたレンガ造りの建物がありました。
壁の色はくすんでいて、結構古いようにに見えます。
「えっと、じゃあ、二人は外で待っててくれるかな。勝手に中に知らない人入れると怒られちゃうんだよ」
「あ、はい分かりました。あの、できればお兄ちゃんが魔物を退けた辺りのことは、あまり大げさに話さないでください」
「え?大げさに言わなくても大げさなことじゃない。僕の命の恩人だもの」
「そうかもしれませんけど、まぁできる限りは……」
「……?まぁ、良いけど」
ノイルさんは不思議そうな顔をしながらも、建物の中へと入っていきました。
「……おい」
と、黙って立っていたところへ、ライクスさんが突然声をかけてきます。
ノイルさんの前ではやはり口数の少ないライクスさんだったので、ちょっと驚いてしまいました。
「あ、はい」
無駄にびくりと体が震え、いぶかしむような顔をされましたが、まあお気になさらず。
「どうしました?」
「……俺は教会に行ってくるが」
「教会、ですか?場所は」
「さっき歩いているときに見かけた。場所は覚えている」
「そ、そうですか」
……さっき歩いているときにありましたっけ、教会?ノイルさんに案内されているだけだったので気付きませんでした。
「えっと、この後は全員自由行動ということで良いんでしょうか?」
「そうだな。お前はその間にフィルザッツと合流しろ。二時間後に街の入り口で集まればいい」
「……なんで入り口なんですか?」
「決まっているだろう」
そう言って、ライクスさんはその言葉どおり、当然のように続けました。
「仕事だ」
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.31 )
- 日時: 2012/11/17 11:31
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「やったね、兄貴が泊めても良いってさ!……ってあれ、また1人いなくなってる!?」
よほど嬉しいのか、弾むような足取りで建物から出て来たノイルさんはそののままの勢いで大げさに驚いてくれました。
「ライクスさんは教会に行くそうですよ」
「あ、そうなんだ。フェルートちゃんはどうするの?」
「二時間後に街の入り口に集合するそうですから、それまでにお兄ちゃんを見つけないといけません」
「2時間後?……入り口って、何かするの?」
「……えっと」
正直に話して騒がれてしまうのも困りますしね……。かといって嘘を吐くのも良心が咎めます。
見ず知らずの他人、それも今後二度と会うことの無いような人ならば少しぐらいは許せますが、ノイルさんは私たちを家に泊めてくださるわけですし。
「あのー、あれです。野暮用」
「野暮用って、フェルートちゃん言葉が男らしいね……」
「え、そうですか?」
師匠はわりと普通に使ってたんですけれど。
これはもしや、私の認識に多大な偏りが生じているのでしょうか?
それはいけません。
「私の身近な女性は普段から使っていたんですけれど」
「それ、あんまり女の子っぽくは無いよ。もしかして、身近な女性ってお母さんとかじゃないよね?」
「……いえ、違います。お兄ちゃんの剣の師匠です」
「え、師匠? しかも女の人!?」
それからノイルさんはぱっと顔を輝かせ、嬉々として質問してきました。
「フィルザッツさんの師匠ってどんな人だったの!?」
「え……どんな、といいますと?」
「いやほら、あんな強い人の師匠ってどんな人なのかなー、って。気になるんだよ!」
「そ、そうですか……」
ノイルさんの勢いに少し気おされながら、私は少し、私たちが育った村での暮らしの記憶に思いをめぐらせます。
村を出てから、結構たってるんですよね。みんな無事でしょうか。
魔物とかに襲われてないといいんですけど。
……いえ、あの人たちなら襲われても大丈夫でしょうね。
「なんと言うかまぁ、とりあえず強かったんでしょうね」
「うんうん。それで?」
「……えっーと」
ノイルさんはきらきらした目で期待を膨らませています。まだ話してほしいようです。
でも、これ以上何を言えば……。剣の師匠として、ですよね?
「とりあえず初めて会った時は、強い、以外の印象が残らない人でしょうか。」
「へぇー!なんかかっこいいね!」
必要以上に盛り上がるノイルさん。ほとんど何も話してないんですけど、いいんでしょうか?
まぁ、いいでしょう、はい。
「それで、お兄ちゃんを探しに行かなければいけないんですが」
「あ、そうだったね。どうする?どこ探そうか」
「えっと、ではとりあえず今まで来た道を戻ってみたらどうでしょう」
「分かった」
先に歩き出したノイルさんの後ろを付いて、私も歩き出しました。
さっきも思ったのですが、やっぱりこの街は人が少ないです。と言うか、活気が無いんですね。
しんみりした空気が街全体を満たしています。
街の入り口近くに魔物が現れたら、こうなっても仕方ないんでしょうけれど。
中までは特に被害は見られないものの、誰だって魔物が近くにいたら怖いんでしょう。商人などが寄り付かなくなっては、物流も遮断されてしまいます。
仕方が無くはあっても、やはり寂しいものは寂しいなぁ……などと思いながらしばらく歩いていたら。
「……ノイルさん、ノイルさん」
「ん? どうしたの?」
「お兄ちゃんいました」
「え、どこに?」
きょろきょろと辺りを見回すノイルさんに、指差すことでお兄ちゃんの居場所を教えます。
それはこの街の中で比較的高い建物、の上。
まるで野良猫のように寝そべっている姿が見えました。
名前を呼んでみますが、聞こえていないのか無視しているのか、まったく反応がありません。
おっと、ちょうど足元に手ごろな大きさの石が。
「え? ちょっとフェルートちゃん、何で結構大きめの石を構えてるの!?」
「いきます」
なんとなく宣言して、それを思いっきり投げました。
それはきれいな弧を描き飛んでいくと、
「って痛ぁ!?」
「おお……命中です」
「フェルートちゃん……」
奇襲成功です。なんか悲鳴をあげつつお兄ちゃんは屋根から転げ落ちます。
が、そこで地面に激突することは無く、空中で体をひねって見事着地。やっぱり野生児ですか。
「ってぇ、びっくりしたぁ。どこから飛んできやがった?」
「あー、フィルザッツさん」
きょろきょろしていたお兄ちゃんに、ノイルさんがおずおずと声をかけます。
「ん? おぉ、ノイルじゃん。何でこんなところに」
「お兄ちゃんを探してたんだよ」
「あぁ? なんで? ってかそういえば、お前の兄貴はなんて言ってたんだ?」
「泊めてもいいって言ってました!」
「はぁん。そりゃ良かったな」
なぜか他人事なお兄ちゃん。眠そうにあくびをしながら、がしがしと短髪を掻いています。
「えーっと、で? 何だっけ」
「お兄ちゃんを探してたの。2時間……もう無いけど、その後ライクスさんと集合だから」
「あぁ?……ほんとだ居ねぇ。どこ行ったんだよ」
「教会だって。また報告書を書いてるんだと思うけど」
「え? 報告書って?」
……うっかりしてました。ここにはノイルさんが居たんでした。
思わず自分の口を覆いそうになるのを我慢します。
報告書というのは、勇者としての仕事内容を知らせる手紙のことです。訪れた街、倒した魔物などを書いて送ります。
とは言っても魔物の場合、書かれるのは一部の強力な魔物のことだけですが(ライクスさんの判断で)。
そして手紙といっても人が運ぶわけではなく、一部の貴族や神官でしか使えないような転移魔法を使用します。
勇者の特権ともいえるかもしれません。送る先は決まっていますが。
もちろんこれは、勇者である事実を隠している以上、言えない事です。
「そ……その、お気になさらず」
「あー、なるほどな。で? どこ集合で何すんだよ」
おそらく偶然でしょうが、良い具合にお兄ちゃんが話題を変えてくれました。
……ってあれ。それも言えない事なんですけど。
「え、っと、まぁその、それは行ってから話すよ。街の入り口集合だから」
「あぁー……そう。まだ時間あるんなら寝てるな、俺」
「それは駄目」
くるりと後ろを向いたお兄ちゃんの襟を、力任せに引っ張ります。
結構力を入れたんですが、お兄ちゃんはびくともせず、鬱陶しそうに振り返るだけでした。
「どぉせこの後働くんだろ?今寝ててもいーじゃん」
「……」
一応、今後の予定は気付いてるようですね。
ですが。
「それとこれとは話が別なんだよ」
その後、お兄ちゃんの眠気が覚めるまで根気強く会話したり説得したり口論したりしていたところ時間がすっかり潰れてしまいました。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.32 )
- 日時: 2012/11/19 18:32
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
渋々といった様子のお兄ちゃんを連れて、私たちは集合場所に行きます。
どうやらライクスさんはまだ来ていないようでした。
私たちがさっき一悶着あった草原を遠目に見ながら、ライクスさんを待っていると。
「あのー……えっと、フィルザッツさん」
急に改まった雰囲気で、ノイルさんが口を開きました。
俯きがちにお兄ちゃんの正面に立って、なぜか緊張した風に体を強張らせています。
眠りを妨害され珍しく不機嫌そうに黙っていたお兄ちゃんが、ぞんざいな仕草でノイルさんのほうを向きました。
「なんだよ」
「……そのですねー。実は一つ、お願いがあるんですが……」
どうやら真面目な話らしく、ノイルさんは口ごもりながらも話しています。
私は黙って聞いていました。
「お願い?」
「はい。……その、指輪を……」
いったん言葉を切ってから深呼吸するように一息ついて、ノイルさんは意を決したように言葉を発します。
「結婚指輪を、探してほしいんです」
ふぅ、と大きく息を吐き出してから反応をうかがうノイルさん。
それに対するお兄ちゃんの答えは簡潔でした。
「断る」
「え……そんな」
「でもまぁ、安心しろ」
ノイルさんはさぁっと顔色を曇らせます。
この草原で指輪一個を探し出すのは、かなり骨の折れる作業でしょう。何せ範囲が広すぎます。
それに一番の問題は、あの魔物の存在。あれがいる限り、ノイルさんは満足に草原を探し回ることも出来ないという話です。
だからこそ今日会ったばかりのお兄ちゃんにこんな頼み事をしているのでしょう、が。
ですが、お兄ちゃんは何のためらいも無く返答しそれから何の重みも無くどうでもよさそうに言葉を続けて。
「お前が俺に頼る理由はもうすぐ無くなるからよ」
「……何故あいつはああも暗い気を振りまいているんだ?」
「いえ、多分お兄ちゃんの言葉じゃ伝わらなかったんだと思います」
ようやくやって来たライクスさんは(本人いわく時間通りらしいです)、がっくり肩を落とし暗雲がたちこめそうな顔で落ち込んでいるノイルさんを見て、僅かに顔をしかめました。
ですがまぁ、それは時間が解決してくれるでしょう。おそらく、きっと。そう思いたいです。
「で、結局作戦はどうすんだ? なんか考えがあるんだろ?」
なぜか先ほどよりさらに不機嫌になっているお兄ちゃんが、刺々しい口調でライクスさんに訊きます。
ライクスさんは顔色一つ変えませんが。
「先に言っておくが、これから話すのはあの魔物を倒す作戦ではない。地面から引きずり出すための作戦だ」
「だからなんだよ」
「あいつが地面に出てきてからは、お前にすべてかかっているわけだが」
「あぁ? わかってるっつーの、んなこと。さっさと話せよ」
「……いいだろう」
いつもより険のこもった言葉に、一瞬何か考えるように間を空けたライクスさん。どうやら触れないことにしたようです。
そこでライクスさんは、私のほうを向きました。
え、何故こちらを。
「フェルート、お前の魔法は威力の制御が出来ていないが、それ以外……たとえば発動させる場所や指向性は任意で変えられるな」
「え、はい。おそらく出来ると思いますが……あの、もしかして魔法を使うんですか?」
「そのつもりだが」
……まぁ今回は広い場所なので前よりはマシですけど……。狭い場所だと指向性……つまり向かう方向の制御も上手くいかないんです。
でもあれ、使う側も怖いんですよね。
「えっと、どういう風に使うんですか?」
「簡単な話だ」
ライクスさんは草原のほうにちらりと視線を投げます。
「あの穴のなかで魔法を発動させる」
「……なるほど」
なかなかえぐいこと考えますね。
自分で言うのもなんですが、私の制御できない魔法はそこそこの威力があるので……蒸し焼き、でしょうか。
あ、だめです。考えただけで気持ち悪……。
「その後はフィルザッツがあの魔物に止めを刺す」
「ってちょっと待て」
黙っていたお兄ちゃんが急に口をはさんできます。
「お前、そいつが魔法使ったらそこの原っぱ一面火の海じゃねぇか!」
「そうは燃え広がらないだろう」
「俺が! そこで戦うんだろ!?」
「出来るとさっき言っただろう」
「聞いてねーよ!」
言ってませんでしたよね、ライクスさん。
「喚いてないで行くぞ」
しかも取り合う気が無いようです。
「いや……お前マジで鬼か」
「神官だが。今まで何を見ていたんだ」
「お前のひでぇ行いの数々だよ……」
もはや起こる気力もないのかお兄ちゃんはぐったりとした口調で呟きます。
が、その直後がばっと体を起こして、
「だぁったく! やればいいんだろやれば!」
「だからさっきからやれといっているだろうが」
何かしら吹っ切れたおにいちゃんに対するライクスさんの言葉が冷たいです。
まぁ何はともあれ、本気でやってくれるのはいいことですね。
では、行きましょうか。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.33 )
- 日時: 2012/11/23 19:12
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
街の外に出て改めて周りを見てみると、いたる所にぼこぼこと穴が空いていました。あの魔物の出入りした跡ですね。
私たちはその間を縫うように歩き回ります。
異変に一番早く反応したのはお兄ちゃんでした。
「おい、来るぞ」
直後に、地面が振動し始めます。
だんだんと大きくなるそれは、あの時と同じ。
ですが、すでに剣を抜いているお兄ちゃんの顔に楽しそうな表情はありません。先ほどからずっと不機嫌そうだったので、その分魔物の討伐には力が入ることでしょう。
私たちは魔物がどこから出てくるのか分からないため、自然とひとかたまりになって備えます。
地面の揺れがひときわ大きくなり、じっと立っているのが難しくなったそのとき、ぼこんっ、と。
土のはじける音。
私はとっさに後ろを振り向きます。
「は、来たなムカデ野郎!」
そこで視界に入ってきたのは、やはりあの時と同じような光景。
青い空を背にそそり立つ虫のような魔物でした。
違うことといえば、片目が閉ざされているのか土で汚れているのか茶色くなり、透明な汁のようなものが染み出ていることでしょうか。
しゃっ、と全身の足を擦り合わせ、耳障りな音を奏でる魔物。私は距離をとります。足をもつれさせないよう、気をつけつつ。
隣でライクスさんが、無造作に杖を魔物に向けました。
私の持っている杖とは違い、細く様式美を感じさせる金属製の杖。
詠唱は無しです。その先に青い光がぼうっと灯ります。
「————、」
無言のライクスさん。ですが光は意思を持つように広がり、薄い青色の膜に姿を変えました。
ふわ、とそれは何の抵抗も感じさせない動きで魔物を覆います。
同時に、魔物の体に染み込むように消える青い光の膜。
確かこれは、ライクスさんの使う聖法術の一つ。「魔物の動きを鈍らせる術」です。正確な術名までは思い出せませんが。
一瞬魔物は不思議そうに体をくねらせます。が、すぐ気を取り直し片目で獲物を捕らえました。
それは今回の場合も、一番近くにいるお兄ちゃんのこと。
「余計なことすんなよな!」
「そんなことは勝ってから言え」
「あぁ!? だから絶対負けねぇってい……って!」
言葉の途中でお兄ちゃんは左にに飛びのきます。
ちょうど今まで立っていた位置に落下する、魔物の頭。砂埃が舞います。
ライクスさんの術のおかげでしょうか、予備動作が鈍く、攻撃が見切りやすくなっています。
「くっそ、うぜぇ!」
ガキッと言う耳障りな音。同時に、砂埃の中で火花が散ったような気が。
学習するべきなんじゃないでしょうかね。
おそらく繰り出されたであろうお兄ちゃんの一撃をものともせず、魔物は再び頭をもたげます。
一際頭を高く上げ、再び突進してくるるかと思いきや……。
しゃしゃ、と足を擦り合わせさらに嫌な音を出します。何でしょう。
隣で成り行きを見守っているライクスさんが、わずかに目を細めて呟きます。
「出てくるぞ」
「うわっ……」
その言葉を裏付けるかのように、ぐらりと揺れる地面。
倒れそうになりましたが、節くれだった私の杖を地面に突き立て、何とかこらえます。
魔物は全身の足を動かし、穴の中からずるりとその身を引き抜きました。
「な、何あの大きさ……」
そして何ですかあの気持ち悪さは……。
見える足の数が増えたことにより一層精神的な疲労が増すんですが。
体は尻尾の方に近づくにつれ細くなっていて、その分そこに生える足も小さくなっており、ブラシみたいな足みたいな物がうにょうにょしてるのはさすがにもう無理です直視出来ません。
「はっはー、本気出してくれてうれしいぜ……」
いつの間にか魔物から少し離れたところにいたお兄ちゃんの顔は、まだ余裕そうです。
魔物はお兄ちゃんを見つけると、今度はその全身の足を動かし、お兄ちゃんに向け突進しました。
ぴし、と表情を固め、横に走り出すお兄ちゃん。
突進の軌道を逸れたすれすれのところを、魔物の巨体が掠ります。
魔物が通った後は畑を耕したときのように、地面がぐちゃぐちゃに踏み荒らされ土がむき出しでした。
もし巻き込まれていたら……言うまでも無いですね。
「地上での移動も問題無しか」
淡々とライクスさんが呟く中、魔物は方向転換しもう一度お兄ちゃんへと向かいます。
再びすれすれでかわすお兄ちゃん。きりが無いですね。
お兄ちゃんもそう思ったのか、横っ飛びに飛んだ直後体勢を立て直し、剣を構えました。
まだ魔物との間に距離がある、ということは。
そう思った直後、お兄ちゃんが剣を振るいました。
「お、らよっ!」
縦に振り下ろし、そこから横凪に一閃。
“鎌鼬”。見えざる衝撃の刃、です。ぶわ、と砂埃が払われました。
ガツン、という鈍い音が二回続けて。魔物は見えない何かに殴られたかのように、身を仰け反らせます。
「いったい何をどうしたらあんな化け物じみた技が習得できるんだか……」
興味深そうにライクスさんが言います。完全に見物決め込んでますね。
私もですが。
お兄ちゃんは手応えを感じ、暴力的で満足げな笑みを浮かべます。
「もう一発!」
宣言どおり、ガツンという鈍い音。魔物は完全にひっくり返りました。
うわ、足の数が……。
ぞわりと思わず全身に鳥肌が立ちます。
お兄ちゃんはそんな事ものともせず、その腹の上に勢いをつけて飛び乗ります。
すごいです、良くこんなこと出来ますね。尊敬できます。
と、思ったのもつかの間。
お兄ちゃんが魔物の腹に突き立てようとした剣は、ガキッとまたもや空しく火花を散らしました。
どうやら腹部に至るまで硬い殻で覆われているようですが、そこまで近づいたんならよく観察するべきでしょう……。
「くそっ!」
小さく毒づくお兄ちゃんを振り落とすように、魔物が体を回転させます。
体の上下が戻った魔物は、思っていたよりもお兄ちゃんが近くにいることに驚いたのでしょうか。
先ほどと同じように頭を振りかぶり、どん、と地面にたたきつけます。もちろん当たりません。
そして。
「ふざけんなよな!」
明らかに八つ当たりです。
お兄ちゃんは間近にある魔物の顔。その開いている片目。
それを容赦なく剣で突きました。
ぎゃああ、と。悲鳴が聞こえた気がしました。それほど激しく体をもだえさせる魔物。ぐらぐらと地面が揺れます。
次の瞬間その長い体をくねらせ、魔物は地面に潜り込みました。
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