コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 勇者パーティーです。【3話更新中ー】
- 日時: 2012/12/11 17:35
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
雪かきは重労働です。でも不思議と寒くない。
とか思っていたら予想以上に汗を掻いていてなんか脱水症状になっていたりしました。
皆さんも気をつけてください(笑)
というのはどうでもいい話。
はじめまして。
つたない文章ですが、ゆっくりと見守ってくれるとありがたいです。
感想、アドバイス等は遠慮なくおっしゃってください。
では以下、プロローグということで。
◆プロローグ
私たちは偶然か必然か——多分偶然だと思いますが——長い旅に出ることになりました。
あまりに“それらしくない”人たちの取り合わせ。これも偶然でしょう。
その偶然が私にもたらしたもの……これが成長というに値するものか、私には分かりません。けれど、それは私にとって大切なものです。これだけは確か。
だから私は、らしくも無く神様に感謝します。
それから、今までの仲間にも。
出来れば誰にも語らず、大切にとっておきたいんですけどね。特別ですよ?
みんなが知っている、美化された話じゃない、本当の物語。
それはこんなお話です。
◆◇◆
以下、登場人物。随時更新するかも。
◆フェルート
勇者の妹。主人公。
◆フィルザッツ
聖剣の勇者。めんどくさがりでだらしが無くて適当。フェルート曰く野生児。
◆ライクス
フィルザッツに同行する神官。毒舌家で人嫌い。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.34 )
- 日時: 2012/11/26 15:10
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「フェルート」
「は、はい……!」
すう、と息を吸って準備。杖をもつ手に力が入ります。
集中することはもちろん必要ですが、私のこの間は自分に対する戒めの意味が強いです。
では。
「“炎よ、その形は矢。業を切り裂く数多の矢となれ”——」
今回は火を灯すだけの魔法ではなく、れっきとした攻撃用の魔法。今回の役目に最適な技だと判断しました。
とはいっても、さほど難易度の高くないものですけど。
呪文がすらすら口から出ます。
「“精霊よ、われらに慈悲と加護を与えたまえ”」
ふわ、と風が体をなでるような感覚。多分これは魔力の動きなのだと、勝手に思ってます。
それは私が指定した場所、つまり一番近くにある穴の少し入ったところに収束し。
バチッ、と大きな音を立て燃え盛る火球へと変化しました。
……この時点で想定より大きいです。ある意味想定内ですが……。
火球はゴウ、と空気を吸い込む音を立てて数本の矢へと姿を変えます。
矢、といっても硬さのあるものではなく、うねりつつ細い形状を保つもの。一瞬それはぴたりと動きを止め。
まばたきする間も無く、穴の奥へと飛んで行きます。
一拍あけて。
爆音。
「うわっ!」
近くの穴から熱風と砂が飛び出し思わず身をすくませます。耳が痛いです。ばしばしと砂が自分の顔に当たり、とっさに腕で顔を覆います。
そこからだけではありませんでした。
至る所の穴から、風が吹き出し、地面が揺れます。
自分でやっといてなんですが、身動きできません。危険です。加えて息が、しにくい……。
「おい」
ぐいと、突然後ろからローブのフードを引っ張られ、強制的に後ろへ移動。
途端に呼吸が楽になりました。
勢い余ってしりもちをつきそうになるところを、今度は後ろからドンと突き返されます。
「あ……ライクスさん……」
振り返ってみると、そこには当たり前のようにたたずむライクスさん、と。
その背後に、半透明な灰色の壁が見えました。
見回してみるとどうやらその壁は、私たちをすっぽり覆う半球状をしているようです。
「簡単な物理障壁だ。急ごしらえだから、長くは持たないが」
「そ、そうですか。……ありがとうございます」
「お前のためじゃない」
無愛想に言うライクスさん。その視線は外を向いていました。
あ、そういえば魔物とお兄ちゃんは?
「いた。生きてるな」
「ど、どこですかっ!?」
ライクスさんは杖の先で答えを示します。
見てみると、魔物が砂埃の中、じったんばったん暴れまわっているのが見えました。
ちらりとお兄ちゃんの姿も。
お兄ちゃんは砂まみれになりつつも、動きは軽やかです。怪我は見えません。
「どうやって倒すんでしょうか……」
「さぁな」
こんなときでも、ライクスさんは無表情。黒い目で静かに事の成り行きを眺めています。私も、もう出来ることはありません。
おそらくあれに魔法を当てることが出来たとしても、硬い殻に阻まれてしまうでしょう。
そのとき、お兄ちゃんに動きがありました。
またもや頭突きをしてきた魔物の頭を踏み台にし、体にひらりと飛び乗ります。
直後、剣を突き立て、
それは遠目に見ても明らかに、魔物の体に刺さっていました。
「えっ?」
ずっぷりと、お兄ちゃんはそれを剣の柄ぎりぎりまで押し込みます。
何故でしょう?あそこももちろん、硬い殻に覆われているはずでは。損傷しているようにも見えませんが。
首をひねっている間に、お兄ちゃんは一気に剣を引き抜き、暴れだした魔物から飛び降ります。
じったんばったんのた打ち回る魔物。砂埃が舞い視界が悪くなります。
ですがそれもすぐに弱くなり、やがて魔物は動きを止めました。
砂埃に混じり、変質した魔物が黒い粒子となって飛び散ります。
最後はあっけないな、と思っていると灰色の障壁が砕け散りました。
「ふぃー、終わったぜー」
割ったのは砂まみれのお兄ちゃん。障壁はガラスの破片のようになった後、空気に溶け込むように一瞬にじみ、消えていきます。
ライクスさんは小さく舌打ちをしました。おそらく術者であるライクスさんに障壁が壊れた反動が来ているのでしょう。わずかに顔をゆがめています。
何でお兄ちゃんはわざわざ壊して……いえ、一つしか思い当たりませんね。
面倒だったのでしょう。
「ぶつ切りは無理だったけど、見たか! ちゃんと勝ったからな!」
「苦戦していたようだが」
「遊んでただけだ」
「魔物相手に遊ばないでよ! それより、最後は何で刺さったの?」
「あ? 簡単な話だよ」
お兄ちゃんは剣を一振り、二振り、余計に振ってから、鞘に戻します。
「殻の節目を狙ってみた。あんなうねうね動いてたら、切れ目があるか、あそこだけ脆いかの二択だろ?」
至極あっさり言ってのけるお兄ちゃんですけど、節目を正確に狙うって結構難しいことなのでは。
というかまず最初に、あの暴風の中で普通に戦ってたことが驚きなんですが。
我が兄ながら、ちょっとすごいです。
……もちろん、口に出すわけ無いですけどね。
ライクスさんがふう、とため息をつき、軽く右手を振ります。
何をしているのかと思った瞬間、私の体からレモン色に光の粉が舞い上がるのが見えました。
「えっ? な、何ですか?」
「魔物に狙われにくいよう術をかけていた」
なんでもないかのように言うライクスさん自身からも同じように光の粉が舞い上がり、空気中に霧散します。
「え。い、いつの間に?」
「草原に出てかなり最初のほうだが」
全然気付かなかったです……。
「そ、そうですか……ありがとうございます」
「お前のためじゃない。先にお前が倒れたら、フィルザッツもやりにくい。魔物が倒せない。だからだ」
「おいー、そんなつまんない話してねぇで、もう街に帰ろうぜ。全身じゃりじゃりするし」
だるそうにお兄ちゃんが口を挟んできます。
そんなことって何、といいたいところですが、正直私も同じです。大量の砂が服の中に侵入しています。
私たちは主に私の魔法のせいで歩きにくくなった草原を、街に向かって歩きました。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.35 )
- 日時: 2012/11/27 19:02
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「大丈夫!? なんかすごい音が聞こえたけど! それにそんな砂まみれで……」
ノイルさんは先ほどまでの気落ちした様子も吹き飛んだようでした。
驚きつつも繭尻の下がった心配顔で駆け寄ってきます。
待っていてほしいと言ったわけではありませんが、ずっと街の入り口にいてくれたようです。
よく考えるとノイルさんがいないとあっさり迷子になってしまうので、これはありがたいですね。あ、でもライクスさんなら覚えているでしょうか。
そんなことを考えていると、お兄ちゃんが今気付いた、と言う風に口を開きます。
「あ、そうだった。今日はお前んちに泊めて貰うんだったな。わりぃ」
いいながら、汚れた自分の頬をごしごし擦ります。
「いや、それは別にいいよ! そういうことが言いたいんじゃなくてですね」
「あ? じゃあ何が言いたいんだよ」
「外で何があったのかってことですよ! なんか爆発したり魔物が出てたりしたみたいだけど……」
「気にすんなー。そういうこともたまにはあるだろ」
「無いよ!」
お兄ちゃんが真面目に説明する気が無いと分かったのか、ノイルさんはこちらに視線を向けてきます。
「ねぇ、何があったの?多分街の人みんな気になってると思うんだけど」
「あー……その、まぁ」
ちらりと視線を向けると、ライクスさんは小さくため息をつきました。
いかにも、仕方が無い、と言うように。
「気にするな。フェルートが魔法の練習をしていただけだ」
押し付けられた!?
「えっ? フェルートちゃん魔法が使えるの?」
「え、あ、はいまぁ、少しは……」
「個人の遊び程度だ。期待するほどでもないぞ」
ぐさりと来る一言。
それでもすごーい、と目をきらきらさせるノイルさん。い、居心地が悪いです。
ですがここで「魔物を倒した!」とか言うとさらに面倒なことになるので、我慢です。
魔法は誰にでも使えるわけではありませんが、少しの素質と簡単な呪文さえ知っていれば、割とあっさり使えます。もちろん低級なものならですけど。強力なものほど使える人は少ないです。そしてたいてい、その強力な魔法を使える人は、ある程度魔法を学べる環境が整っている富裕層に多いのです。その中でもずば抜けた力のあるものが王に使える宮廷魔術師などになります。
以上、ライクスさん談。
つまり少しくらい魔法を使えると言っても、怪しまれる心配はないと言うことです。あくまで少し、ですが。
たった三人で相当有名になっていた様子の魔物を倒したと言うよりは、はるかにいいです。
「そっかー。確かに言われてみると服装がそれっぽいよね!」
私が着ているのは真っ赤なローブ、片手に杖とかなり分かり易い格好をしています。
今気付くのは遅いんじゃないでしょうか……。
「でもかなり音大きかったよね? フェルートちゃんもしかして強いの? それに何でわざわざ魔物のいるところで……って、もしかして」
「よし、もう黙れ!」
お兄ちゃんは大声を上げると、ノイルさんの目の前に拳を突き出します。
「うわっ、なに!? え、何ですか?」
「これやるからもう追求するな。めんどい。腹減った」
手のひらを上に向け、お兄ちゃんが手を開いて見せます。
その瞬間、ノイルさんは目を見開き、息をするのも忘れたように動きを止めました。
「こ、これ……」
内心、私も同じ気持ちです。
ライクスさんですら、隣でわずかに息を飲んだ気配がしました。
その手のひらにあったのは指輪。文字が彫られ、それ以外の装飾は特に見当たらない、綺麗な銀の指輪でした。
ノイルさんの反応から、それがあれなのだろうと言うのは分かります。
「フィ、フィルザッツさん、これ……」
「探してねぇぞ。確かに探すのは断った。でも、偶然見つけたのを無視するのもおかしいだろ!」
何故かいらだったように、指輪をノイルさんの眼前に突きつけます。
「ほら! これだろ、お前が探してたの!」
「ああ、あ、あ、ありがとうございます!フィルザッツさんやっぱり」
「違うからな、探してないからな! 落ちてたんだよ!」
お兄ちゃんは感極まった様子で手を握ろうとするノイルさんを全力で振り払います。その必死さが嘘っぽさに拍車をかけているんですが、今言わなくてもいいですよね。
まぁ、嘘かどうかは知りません。いつ拾ったのかも気が付きませんでしたし。
あのめんどくさがりのお兄ちゃんが自分から探すとは思えませんが、偶然見つけると言うのも考えにくい話です。お兄ちゃんの視力なら、偶然見つけ出す、と言うのもありえないことではない気がしますが。
「……結局お人好しか」
ぼそりと、ライクスさんが呟きます。まったくその通りです。
結局お人好しで、人が困っているのを見ると自分の胸が痛むから、お兄ちゃんは人を集めたくないし、力をひけらかしたくない。
限界があると分かっているから……なんて。
お兄ちゃんがそこまで深く考えているとは思いませんけど。めんどくさいというのは自分に正直なようで正直でないんです。
ほんとに、馬鹿ですよね。
次の日、つまりノイルさん宅に一泊させていただいた翌朝。
私たちは早々に街を出ることにしました。
構わないと言ったのですが、ノイルさんがお見送りしてくれています。
「指輪は、兄貴の服のポケットにこっそり入れといたよ。驚いてたなぁ」
ノイルさんは楽しげに笑って言います。
「本当にありがとうございました。なんとお礼を言っていいか。僕自身も助けてもらって、指輪まで見つけてくれるなんて」
「だぁから、助けようと思って助けたんじゃねぇし、見つけようと思って見つけたんじゃねぇ!」
「何度お礼を言っても足りません。本当にありがとうございます」
「聞けよ!」
お兄ちゃんに怒鳴られつつも、ノイルさんは尊敬のまなざしをお兄ちゃんに向けています。
そこにしっかり釘を刺すライクスさん。
「街では噂になるかもしれんが、俺たちのことは下手に話すなよ」
「あ、はい。と言っても特に何も聞いてないしね」
快く返事をするノイルさんに、いまさらながら申し訳なくなってきます。
偶然助けられたとはいえ、ここまで親切にしてくれるのはありがたいことです。
「ノイルさん、見ず知らずの私たちを泊めてくださって、本当にありがとうございました」
「いいよ別に。結果的に助けてもらってばかりだしね」
それに、とノイルさんは言葉を続けます。悪戯っぽく笑顔を見せて。
「いい兄弟仲って言うのも間近で見れたしねー」
「な、何の話ですか……」
「いろいろ勉強になったよ。ありがとう!」
なんか嬉しくないんですけど。
「気をつけてね。もしまた近くに来たら寄っていってよ」
「はい」
「おう。元気でな」
挨拶はしっかりするお兄ちゃん。
ふとライクスさんのほうを見てみると、無表情ながらに何か言いたそうにノイルさんを見ていました。
ですが結局視線をそらし、ぼそりと別れを告げます。
「……光神の加護があらんことを」
珍しくちゃんとした挨拶をです(に、似合わない)。
理由は……まぁ、あれですか。
ライクスさんの珍しい黒髪や、黒い瞳に関し、ノイルさんが何も言わなかったからでしょう。視線が集まるのを避けるために、わざわざ別行動までとっていましたから。なんだかんだでお人好しなんですね。……誰かさんみたいに。
多分私よりも。
こうして……。
私たちは緩やかな風が吹く草原へ、歩き出しました。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.36 )
- 日時: 2012/11/28 18:57
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
閑話「転寝」
俺は強くない。うん。そうだな。
旅に出てから何度も思ったけど、やっぱ今もそう思う。
割と余裕で魔物と戦えるのは剣のおかげってこともあるし、何より師匠には一度も勝てたことがねぇ。勝てそうになったことすらない。
だって言うのに、どいつもこいつも強い強い、すごいすごいって言ってくる。ってか、あれは俺に言ってるんじゃなくて「聖剣の勇者」に言ってるんだよな。剣に選ばれたんなら誰でもいいんじゃねーか、って話。俺ごときですごいとか言ってる奴、死ぬぞ。
確かに、これは選ばれた奴じゃねぇと持てないらしいけど、だからって何でそんな憧れられなきゃなんねぇんだか。
何で選ばれたのかもわかんねぇんだから。褒められたって何も嬉しくねぇ。
神のお導きとか言う奴もいたが、ちょっと笑える。
俺はど田舎育ちで、外に出るまではそこが田舎だってことも知らなかったくらい世の中がどうでも良かった。ま、今もどうでもいい。
それがまぁ、なんて言えばいいんだろな。
師匠は、人を理解しようとするのは一生かかる、とかいってた。
だから上辺だけで俺をとやかく言う奴はうざい。
いや、そりゃ俺のこと全然しらねぇ奴が言うんだからしょうがねぇんだろうけど。
でも、今までやってきた良いこと悪いこと、一切合財無視して都合よく俺を扱おうとするのは気持ち悪い。むかつく。
逆に、敵意満点の奴もたまにいた。こいつもうざい。しかも弱い。
そりゃさー、毎日勉強とか商売とかやってた普通の人よりは強いだろ。何せ俺は師匠に預けられてから、毎日修行したり狩りに出たり畑仕事したりしてたんだからな。それが普通の毎日だった。
世の中、正当に評価されるのって難しいんだなー、とか珍しく真面目なことを思ったりする。
俺は強くない。別にそこまで強くなりたいわけじゃないけど。でも、師匠には一度でいいから勝ってみたいし、何より力は道具だ。あれば便利。
けどま、それを利用しようとする奴も結構多かった。
そんなん自分で何とかしろよ、って言いたくなるようなことを頼まれることもあった。聖剣の勇者だから、ってだけでな。
子供の名前とか自分で考えろ。祝福なんてしらねぇよ。そんな雑魚棒切れあれば倒せるだろーが!
さっき会ったノイルって奴。あいつも困ってるんだろーな。俺を頼ってきてもまぁ、おかしくない。
なんだかんだ言って兄貴のことを考えてる、いい奴。うちの妹とは大違い。自分で街の外に出て捜すとこまでしてるのは、珍しく俺も感心した。間違いなく無謀だけどな。
命は大事だ。間違いなく。けどそれは助けるかどうかとは別問題。
俺は強くない。だから何でもかんでも好きなことが出来るわけじゃないし、やりたいことが出来ないことだってある。
いちいち頼まれたことをやろうとするのは無理だ。限界が来る。めんどくさいし。失敗しても責任はとれねぇし。
……と思うと苦い薬を飲んだみてぇに胃のあたりが重くなる。
だからやなんだ。
うちの妹は、そういうの平気そうな顔してる。
師匠は強かったけど、子育てには悩んでいたらしい。特にフェルートには。
別にフェルートが昔からこまっしゃくれたガキだったってわけではなく、単純な話師匠が女の育て方が分からなかっただけだ。
師匠は女だけど、女って思わなくていいと思う。
っていったら殴られたことがある。だからだっつーの。
師匠はフェルートを「女の子らしく」育てようとした、らしい。だから俺ほど狩に連れてかなかった。代わりに村の人に預けて、自分でも出来ないこまごました家事を覚えさせようとした。
それはかなり失敗だったと思う。
ってか、だったらなんであいつに魔法なんて教えたよ。あいつの脅威5割り増しじゃねぇか。
あと不思議なんだが、あいつさりげなく放ってくる一撃が地味に痛い。どこで学んだよ。
しかも、ライクスの毒舌も結構聞き流してるし。
そう、ライクス。こいつもうざい。
初対面から今と変わんない感じだった。
しばらく一緒にいて分かってきたのは、あいつの毒舌は挨拶みたいなもんだってことか。
俺らが息するような感じで言葉がぽんぽん出てくる。
……ん?でも、この街に入ってからあんまきいてぇねぇな。ま、聞かなくてすむんなら万々歳だけど。
今頃ノイルの兄貴って奴に会ってんのかな。あの結婚指輪無くした兄貴に。
……あー……もーさー、めんどくせぇ。だめだ。寝る。
そう思ってうとうとしだした矢先。
「って痛ぁ!?」
腹に衝撃が走った。
とっさに起き上がろうとして、此処が屋根の上だってことを忘れる。
ずるっ、と手が滑って、屋根の上から落っこちた。
「っ!」
とっさに体勢を立て直す。
何とか着地で着たけど、何だ?さっきの衝撃は?石でもとんできたみてぇだったけど……。
そう思っていると、ノイルに声をかけられた。
……はぁーあ。なんか俺ってお人よしなのか?いや、それだったらこんなへこんだりしないよなぁ。
ま、何でもいいか。やりたいことは基本やる、じゃなきゃ人生何も出来ないからな。よし。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.37 )
- 日時: 2012/11/29 19:15
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
閑話「考え歩き」
俺の黒髪は特異らしい。
そんなのは昔から何度も聞いた。否、聞かされた。
今こうして歩いていても、街に住人に盗み見されている。気のせいだろうか、と思ってみるも、経験上人の視線には敏感だ。
先ほどの少年、確かノイルと名乗った少年は、俺の容姿に関しては一切触れなかった。これは珍しい。
確かに前の村でも何かを言われることはなかったが、あれは俺たちに期待していたからだ。機嫌を損ねるわけにはいかない。
あの少年のような人は稀だ。たいていの人は不躾な視線を向けてくる。いつものことだがな。
何も言わないといえば、フィルザッツもフェルートも、初めて会ったときこの容姿には触れなかった。
いや、あれはあの2人が世間知らずすぎたのだろう。あいつらは人のたくさんいる街に来たのは初めてだといっていた。
世間知らずといえば、あの二人は常識というものが偏りすぎている。
特にフェルートは、魔法を使うというのに知識が少なすぎる。下手をすれば俺のほうが詳しい。
何故俺が教師の真似事をしなければならないのだろう。俺には向いていないにもほどがある。
あいつらといると容姿の事はまるで気にならないが、別の意味で気苦労が多い。
フィルザッツはあれだ。一言で言うと馬鹿だった。短絡的過ぎる。
今頃どこで何をしていることやら。
時折怪物じみた動きをするのにも驚かされる。あいつの師匠とやらはどんな人物だったのか、疑問は募る一方だ。
フェルートは妙なところで抜けていると言うか……俺がこうして単独行動をとっている理由も気付いていないだろう。
わざわざ言うことでもないので言わなかったが、俺たちは珍しい旅人と言うことでかなり視線を集めている。
加えて俺は黒髪に、黒い瞳だ。
あの少年が無駄な詮索をされないといいがな。
……いや、それこそ余計な心配か。俺がそこまで気を使ってやる必要もないだろう。
なんにせよ、教会に用があるのは本当だ。
2時間といったが、時間が余ったら本でも読むか。旅に出てからはなかなか機会に恵まれないからな。
あぁ、その前に、教会の奴らの疎むような視線が面倒だ。
黒髪、それだけだと言うのに。くだらない。
だから人付き合いは嫌いなんだ。
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なんかすごく短くなってしまった・・・。
はい、これで2話は終了です。
順次3話を更新していきたいと思います。
次はですね・・・なんか変な人たちが出る、かも。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.38 )
- 日時: 2012/12/10 20:25
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
3話「旅人と夜の帳」
事は突然起こりました。
それは、私たちが浅い川に沿って歩いているときのことです。少し前までは見晴らしのいい草原だったのですが、進んでいくにつれちらほらと木が生えてきています。そのうち森に入るのでしょうか。
小休憩を取りつつ進んで、太陽がもうすぐ真上に来る頃。そのときに。
「…………あ?」
と、お兄ちゃんが何かを発見します。
それは人でした。おそらく男性です。
川原に寝転び、のんびり昼寝をしているように見えます。まずそこからおかしいです。
ここでももちろん魔物は出ます。と言うか、魔物の活動が活性化してから出ない場所のほうが少なくなっています。ですからこうして1人で無防備に、川原でお昼寝なんておかしいんです。
よほどの強者か、馬鹿か。
そしてもう一つ変わっているのが、その人の格好でした。
髪の色は何と言うか……紫紺、と言うのでしょうか。青みがかった紫です。おそらくは腰のところまであるであろう長さの髪を、草の上にばさぁと広げています。惜し気もなく日光にさらされている様子は、まるで高い扇のようです。
服装は黒っぽい色で統一されています。動きやすそうな、簡素な服装ではあるんですが、なんと言うか逆に洗礼され過ぎていると言うか。ちょっと上品な雰囲気です。
「何やってるんでしょうか、あの人」
思わず疑問を口にすると、ライクスさんがそっけなく返してきます。
「自殺志願者にかまっている暇はないが」
「おーい、それでも神官かお前」
「神は誰にでも成功と再生の機会を与えられるそうだが、それを拒否するものにかまっているほど暇でもないだろう」
「勝手に教えを歪めんなよ」
話しながらだんだんそちらに近づいていくと、不意に。
むくりとその人が体を起こしました。
「あ、起きたぞ」
「起きましたね」
「あぁ」
自然と私たちの歩みはゆっくりになります。旅の間、警戒心と言うものの大切さを学ぶ機会も多くありましたからね。
その男性は、のんびりと体を伸ばしました。併せて、さらさらと紫紺の髪が揺れます。
「っ、くあぁ……あ、っと」
長い髪を邪魔そうに掻き揚げ、至極自然な動作でこちらを振り返ります。
まるで、最初からこちらの存在に気付いていたようでした。
眠そうに何度か瞬きを繰り返して、ようやく口を開きます。
「あいつはまだ戻ってこねぇしよぉ。あんま俺を待たせんなよな……」
知りませんよ、と言いたくなるような言葉です。その人は私たちの反応を待たずに言葉を続けます。
「で、お前ら誰だ? 変わった三人組じゃねぇか。黒髪に黒い目? 見たことねぇ」
「…………」
あ。隣でライクスさんの眉根にわずかながら皺がよりました。
それに気付かず、男性は続けます。いえ、気にせず、でしょうか。
「んで、そっちのガキは剣持ってるし。もう1人なんだよ。派手すぎだろ」
にっ、と男は1人で唇を吊り上げます。
消して爽やかとは言いがたい、荒々しい笑み。綺麗な歯並びが見えます。
それは思わず友好的な受け取り方をしてしまいそうなものでしたが。
「暇つぶしにはなるか?」
そういったのとほぼ同時に、その男は地面から飛び上がりました。
ダンッ、と言うすさまじい音が、この人が地面を蹴った音だと気付くのは一瞬遅れて。私たちの頭上高くで、紫紺の髪が踊っています。
は?と、思わず口から声が出ていました。
確かにあの人は膝を曲げ、飛び上がるような動作はしました。ですがこの飛距離は何ですか。
ありえません。あの二つが頭の中で結ばれません。
それが解消されないうちに、男は降りて、いえ落下してきます。
気が付いたら、お兄ちゃんに突き飛ばされていました。
「どけっ!」
「えっ、わっ!」
「ちっ……!」
お兄ちゃん自身も私と反対側に飛び退き、次の瞬間その姿が男に遮られます。
蹴り、だったらしいです、今のは。
「お、だよな。これはかわしてくれないと困る。手加減できねぇって直前で気付いたから」
「何なんだよお前!」
当然の疑問。お兄ちゃんは剣に手をかけながら男をにらみました。
男は私に背を向け、「あ?」とわずかに頭を傾げます。
あわせて、腰まで届いている長い紫紺の髪が、揺れ。
「ただの暇つぶしだ。付き合え」
「はぁ!? ふざけてんのか!」
答える代わりに、男は回し蹴りを放ちます。
無駄もなければ躊躇いもない。当たり前の、挨拶のように。
「くっ……!」
お兄ちゃんは剣から手を離し、両手で防御。男は楽しそうに、もう一撃。
ですがお兄ちゃんがやられっぱなしなわけありません。
迫り来る三発目を屈んでかわし、男の懐にもぐりこみ、顎に向け拳を振り上げます。
が、男のは軽々と後ろにかわしました。
「ちょっとおせぇ」
「このっ、野郎っ!」
お兄ちゃんの攻撃はことごとくかわされます。
完全に熱くなってきているお兄ちゃん。駄目ですあれじゃあ、冷静にならないと。
私が何か出来ないかとその戦いを見守っていると、いつの間にかライクスさんが近くにいました。
取り乱してはいませんが、どこか困惑したふうに顔をしかめています。
「何なんだあいつは。蹴りが挨拶など、どこの文化圏の出身だ」
言葉が刺々しいのは仕方ないでしょう。見事のライクスさんの言われたくないことを突いていましたから。
いえ、今はそれどころじゃありません。
「ライクスさん。何とかしないと!」
「何とかとは言うが……俺の聖法術は人に害を成すものではない。魔物相手ならやりようがあるが」
「それじゃ、」
つまり、あの男をとめることは出来ないと。
ですがそれじゃあ……。
「……ライクスさん」
「気にするな。周りに人も居ない。火事にもならんだろう」
「へ、下手するとあの人死んじゃい……ますよね……?」
「死んでいなければ治療してやるが」
さらりと怖ろしい見通しを持ってライクスさんは言います。お、怒ってますね、地味に。
その間も、お兄ちゃんは劣勢です。攻撃は掠りすらしません。時折入る男の蹴りは防いでいますが、あの一撃は辛そうです。
ばしっ、と言う重い音が聞こえます。
「……あいつは剣を抜かないんだな」
「お、お兄ちゃんは対人戦が嫌いですから。えと、でも当たるんですかね?広範囲に攻撃できる魔法だと私たちも巻き込まれかねませんし」
「そうだな。かといって個人を攻撃する魔法では……あの身体能力を鑑みるに、かわされる、か」
「お兄ちゃんが囮になれば……?」
言いかけるのと同時に、一際大きくお兄ちゃんの呻き声が聞こえました。
どさりと重いものが地面に倒れこむ音。冷たいものが背筋を走ります。
倒れたお兄ちゃんを、男が見下ろしていました。
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