コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 勇者パーティーです。【3話更新中ー】
- 日時: 2012/12/11 17:35
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
雪かきは重労働です。でも不思議と寒くない。
とか思っていたら予想以上に汗を掻いていてなんか脱水症状になっていたりしました。
皆さんも気をつけてください(笑)
というのはどうでもいい話。
はじめまして。
つたない文章ですが、ゆっくりと見守ってくれるとありがたいです。
感想、アドバイス等は遠慮なくおっしゃってください。
では以下、プロローグということで。
◆プロローグ
私たちは偶然か必然か——多分偶然だと思いますが——長い旅に出ることになりました。
あまりに“それらしくない”人たちの取り合わせ。これも偶然でしょう。
その偶然が私にもたらしたもの……これが成長というに値するものか、私には分かりません。けれど、それは私にとって大切なものです。これだけは確か。
だから私は、らしくも無く神様に感謝します。
それから、今までの仲間にも。
出来れば誰にも語らず、大切にとっておきたいんですけどね。特別ですよ?
みんなが知っている、美化された話じゃない、本当の物語。
それはこんなお話です。
◆◇◆
以下、登場人物。随時更新するかも。
◆フェルート
勇者の妹。主人公。
◆フィルザッツ
聖剣の勇者。めんどくさがりでだらしが無くて適当。フェルート曰く野生児。
◆ライクス
フィルザッツに同行する神官。毒舌家で人嫌い。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.24 )
- 日時: 2012/10/21 15:20
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
ということで、1話はこれで終わりです。次からは2話と言うことで。
そのうち主人公以外の人の視点もちょこちょこ入れます。
あと、プロローグを追加しておきました。
あ、あと一話目の題名もつけました。
こんな感じですね。
ではでは、今後もゆっくり更新していきます。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.25 )
- 日時: 2012/10/29 20:31
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
2話 草原と結婚指輪
程よい日の光とそよ風。今日はいい天気です。
周りに広がっているのは草原。丈の短い草が一面に生えており、見晴らしは良好。
加えて、魔物は基本的に人里はなれたところに住むので、街に近いここは、危険の少ない地域です。
基本的には、ですけどね。
「あー、次の街ってもうすぐだっけ?歩くの飽きたな」
「なら走ってけば良いよ」
「そんなバカみてぇな元気ねぇよ」
どうでもいいことを話しつつ、私たちは歩きます。お兄ちゃんは本当に退屈そうに、グダグダ喋っています。
魔物が少ないのが原因かもしれませんが、たぶん魔物が出てきたら出てきたで「弱い」「手ごたえがない」等グダグダ言うんでしょう。
どっちにしろうるさい人です。
そんなことを思っていると突然、ライクスさんが立ち止まりました。
「……?どうしました、ライクスさん」
ライクスさんは黙ったままです。目を細め、そこに何かがあるのかのように空中を見つめています。
遅れて足を止めたお兄ちゃんも振り返り、「どうしたよ?」と問いかけます。ですがライクスさん、これも無視。
どうしたものかとお兄ちゃんと顔を見合わせると、出し抜けにライクスさんが口を開きました。
「気をつけろ。どうやら何かいるらしい」
「は?」
「はい?」
あまりに唐突過ぎて、お兄ちゃんは気の抜けるような声を出します。私も首を傾げました。
「何かって、何ですか?」
ライクスさんは簡潔に一言。
「魔物だ」
「……は?何で?」
わけが分からない、といった風な顔で、お兄ちゃんは首をひねります。私もです。何を根拠に言っているのでしょう。
私たち二人から疑問のこめられた視線を向けられても、ライクスさんは表情を変えずに言います。
「いるものはいる。西の方角だ」
……まったくわけが分かりません。とりあえず西を見てみると、そこにいたのは……人?に、見えます。
私と同い年くらいでしょうか。どう見てもただの町人という、何の装備もしていない状態で、きょろきょろと辺りを見回しています。何をしているんでしょう。
街の近くとはいえ危険があります。丸腰で散歩に出るような場所ではないはずですけど。
お兄ちゃんもそう思ったのか、訝しげに呟きます。
「何やってんだ?あいつ」
「危険だな」
言葉の割にはライクスさんの表情は動きません。
その人……おそらく少年は、しきりに何かを探しているようです。何かなくしたのでしょうか。
そう思っていると、その少年はこちらに気付いたようでした。驚いたように動きを止めてから、こちらに小走りでやってきます。
「……なんかあいつこっちに来るけど。魔物はどこにいるんだよ?」
「さぁな」
「さぁなって、おい」
自分で言い出しておいて、ライクスさんの言葉は投げやりです。お兄ちゃんがさらにライクスさんに詰め寄ろうとします。
が、そのとき。
「あっ」
私は思わず声を上げてしまいました。
お兄ちゃんもライクスさんもそれに気付き、口論をやめます。
先ほどまで確かにいた少年。その姿が突然消えたのです。一瞬まばたきした間に,ですよ。
「あ?どこいったんだ?」
「……隠れる場所などない筈だが」
その通りです。ここは見晴らしのいい平原ですから、突然消えるなんて出来るはずないんですが。
お兄ちゃんは用心深く剣を抜きました。銀色の刀身がきらりと光ります。それを持って、慎重に歩いていきます。
私とライクスさんも後ろから続きました。
果たして、そこで見たものは……。
「……なんだこりゃ」
「…………」
私もお兄ちゃんと同じ感想でした。
少年は、そこにいました。ただ、穴に落ちて見えなくなっていただけです。
穴の深さは、結構あるようです。斜めに続いているらしく、先は真っ暗です。少年はずり落ちないために、迂闊に動けなかったらしいですね。
かれはこちらに気付くと、とてつもなく焦った様子で手を伸ばしてきます。
「お願い引き上げて! 早く!」
……何なんでしょうね。
お兄ちゃんは少し警戒を緩めつつも、顔をしかめて少年を見下ろします。
「何やってんだよ。ってかこの穴、何? 落とし穴?」
「いいから早く! 早くしないと食べられちゃうよ!」
「食べられる? どういうことだよ」
言っていることがよく分かりません。
説明してもらおうにも、少年の慌てぶりには、口を挟ませてもらえそうな余地もありませんし。
現状を、把握するのは大切です。お兄ちゃんの剣の師匠に当たる方も言っていました。「相手が何かも分からずに戦って、勝てるはずがない。よしんば勝てたとしても、得るものは何もない」と。つまり。
「お兄ちゃん、とりあえず引き上げるべきなんじゃない?」
「……えー。めんどくせぇな」
不満を漏らしつつも、お兄ちゃんは少年の手をつかみます。よほど慌てていたのか、いきなり手を引っ張られ、お兄ちゃんは少し前のめりになりました。
「うわっと」
反動をつけて、少年を引き上げるお兄ちゃん。
少年は服を泥だらけにしながら、穴から出てきました。
さて、これでようやく事情が聞ける、と思ったんですが……。
「っ……逃げなきゃ! 早く逃げないと!」
立ち上がった少年は、今度はいきなり走り出す格好です。もう何なんでしょうか。
誰一人として言った通りにしない私たちを見て、少年はもどかしそうに足踏みします。
「走って! 街まで行けば安全だから!」
「いや、だから何なんだよ」
代表で問いかけたお兄ちゃんに対し、少年は時間が惜しいとばかりに言葉を返します。
「何って魔物だよ、魔物! 早くしないとここまで着ちゃう!」
「魔物?」
私とお兄ちゃんは顔を見合わせ、それからライクスさんを見ます。
ライクスさんが言っていた魔物とは、この人が言っているものと同じものなんでしょうか。
それを聞いたライクスさんは、得意げになるわけでもなく、淡々と喋ります。
「だから言っただろう。魔物がいると。それとお前、ずいぶんあわてている様だが」
少年はやはりもどかしそうに足踏みしていましたが、次の一言を聞いてぴたりと動きを止めます。
ライクスさんはどこか気だるそうに、わずかな諦観の念を言葉に滲ませて言いました。
「おそらくもう、遅い」
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.26 )
- 日時: 2012/11/06 18:43
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
え、と私も思わず動きをとめます。
「それってどういう……」
「下がれ!」
お兄ちゃんに突然腕を引っ張られ、私はほぼ突き飛ばされるようにして後ろに下がりました。こ、腰を思いっきり地面で打ちます。
顔を上げると、そこには私の前に立っているお兄ちゃん。剣を構えています。臨戦態勢です。
ライクスさんは私のすぐ後ろに立っていて、少年はいつの間にかいなくなっていました。逃げたのでしょうか?
ですが、逃げるって何から……と。あ、れ?
地面についていた手に、何かの振動を感じました。
最初は小さなものでしたが、だんだん大きくなっていきます。まるで……。
そのゆれの原因が近づいてきているのかのように。
ぼこんっ、と土が砕ける音。
同時に目の前の目の前の地面から、何かが飛び出しました。
「うわっ!」
飛んできた土からとっさに手で顔を守りつつそれを見ます。
太陽を背に浮かび上がる影。それは細長いです。
地面から突然生えたそれは、私たちに覆いかぶさるように伸び上がります。
長い。とにかく長いです。
シャシャシャ、と何かを擦り合わせるような耳障りな音。
「はっ。ほんとに出てきやがったなぁ!」
真剣味のある、しかしどこか生き生きとした声で、お兄ちゃんが言います。
私としては楽しくもなんともありません。近すぎます。一刻も早く後退させてください。
その魔物の体は節目があり、節目で区切られた区間ごとに一対の細長い枝の様な腕が生えており、全体的に茶色く土で汚れていて、細長いからだの先端には口と思わしき窪みがあってその目にはまさしく虫のような目が。
ッて言うか無理です。無理無理無理。なんか妙に虫っぽいんですけど。怖いです気持ち悪いです。
もちろんそんなことはお構いなく、魔物は一番近くにいるお兄ちゃんに向かって頭ごと突っ込みました。
巨大な体による上からの攻撃。
お兄ちゃんはそれを受けようとはしません。横っ飛びにかわします。
つまりは、私のつま先のすぐそばに、その頭がめり込むわけで。
どこん、という土をえぐる鈍い音。
「いっ……!」
驚きと恐怖で、私の体は硬直します。
「動くなよっと!」
声が聞こえるや否や、お兄ちゃんは魔物の頭に向けて、剣を突き出し。
ですが。
ガキイィィッという耳障りな音。直後お兄ちゃんの顔が驚きで塗りつぶされます。
魔物はぎょろりと目玉を動かし、おそらくはつつかれた程度にしか思っていないであろう攻撃を放った人物のほうを向きます。
ち、とお兄ちゃんが舌打ちすると同時、私の後方から冷静な声が飛びました。
「目を突け、フィルザッツ」
ライクスさんです。
お兄ちゃんはとりあえず下がろうとしていたからだをぐっと止め、一瞬遅れて剣を突き出します。
そしてそれは、ちょうど地面から頭をもたげようとしていた魔物の顔を突きました。
先ほどとは変わり、眼球の辺りを。というかそのど真ん中へと向かって。
思わず目をつぶりました。
次の瞬間、聞こえたのは魔物の悲鳴に似た音。がしゅがしゅと、全身の足を擦り、ぶつけ、痛みに悶えているのでしょう。
「まっだまだだぜ」
余裕そうなお兄ちゃんの声。
魔物は大きく体を仰け反らせ、空中で体を振り回しています。
魔物が暴れたせいで多量の土塊が、そこらじゅうに飛び回ります。
お兄ちゃんはわずかな動きでそれを避け、再び魔物にかかって行こうとした所で。
一期は大きな声……いえ、音を出しながら、魔物は驚くべき速さで穴の中へと引っ込みました。
「ちょ、おいっ!」
慌てた様子で声を出すお兄ちゃん。
それが魔物の逃走だと気付いた頃には、地震のような揺れは完全に消えていました。
「くっそ逃げやがったあのムカデ野郎。次会ったらぶつ切りだぜ」
さりげなく恐ろしいことを呟くお兄ちゃん。まだ警戒しているのか、剣を仕舞おうとはしません。
私は安堵したと同時にため息をついて、ようやく立ち上がりました。
驚いていた足腰は頼りなく、自分で分かるほど動きがぎこちないです。
「び、びっくりしたー……」
「おい、生きてるか?」
「どう見ても生きてるでしょ……。ほんとにびっくりしたなぁ、もう」
「ったくよー。少しは自分で動けっての。怪我するぞ」
「無理だよ今のは……。お兄ちゃんみたいな野生児とは違うんです」
「それは同じとこで育った兄弟に言うことじゃねぇよな?」
同じところで育ってもこんなに違う人ができるんです。人間って不思議。
お兄ちゃんは言うまでもなく体を動かすことが得意ですが、私はめんどくさいです、正直。
いえ、いくらがんばったところで音や匂いを頼りに敵の接近に気が付けるほどにはなれないと思うんですけどね。
「っつか、目を突けとかさりげなく卑怯な感じの助言だよな」
「魔物に騎士道精神でも振りかざすつもりか?お前は面白い師匠に習ったようだ」
「あ?いや、師匠は小細工するほど弱くないし、強いやつとは戦わなかったな」
「……その辺りにお前たちが億劫屋になった原因がありそうだな」
……可能性は否定できませんけれども。
「で?どうすんだよ。あの魔物追うのか?」
「どうやってだ。この広い草原で追えるわけないだろう。相手は地中を移動するようだしな」
「……こうやって話してたら戻ってきませんか?」
「囮を使うにしても、目を潰された直後だ。思うようには動けないだろう」
もちろん囮作戦を提案したわけではなく、私は行くんならさっさと街に入ってしまおうと言いたかったのです。
と、その時。
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明日も更新できそうです♪
もっと更新頻度が上げられるようにがんばりたいです。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.27 )
- 日時: 2012/11/07 17:25
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「あのぉ……」
いかにも自信のなさそうな、おずおずといったかんじの声が掛けられました。
声はライクスさんの後ろのほうです。誰でしょう。
少し体をずらしてみてみると、そこにいたのはさっきの少年でした。
あれ、まだいたんですね。
「あん?まだいたのかよ」
「…………」
「そ、そのっ。助けてくれてっ、ああありがとうございます!」
「は?」
怪訝そうに……というかいっそ迷惑そうな顔になるお兄ちゃんにかまわず、少年は勢いよく頭を下げます。
「すっすすごいです!〈草原の足枷〉を追い払ってしまうなんて!」
「……は?」
今度はよく分からない単語が出てきたからか、お兄ちゃんの返事が一瞬遅れます。
おそらく、先ほどの魔物の呼び方なのでしょう。
ライクスさんがぼそりと「またくだらない名前を」と呟いています。
「あいつが出てからというもの、人もろくに寄り付かなくなっちゃって……。あなたは救世主です!」
「は!?」
「ぷっ!」
救世主!それはまた新しい角度からの切り込みですね!思わず噴き出してしまいました。
いや、救世主ですかー。際限なく似合わな……ふふふ。
「いやいや、ちょっと待て。俺はお前を助けたわけじゃねぇし魔物はまだ倒してねぇし俺は救世主でも勇者でもなんでもない!よし!」
何がよしですかお兄ちゃん、混乱しすぎて口が滑ってますよ?
「いえ!あの魔物は今まで何人の戦士が挑んでもかなわなかったんです!それを退けただけでも尊敬に値します!あなたもしかして、本当の勇者様では!?」
ぎっくぅ、と思わず心の中で呟きます。お兄ちゃんの顔に一瞬焦りの色が浮かびます。何やってるんですか。
といってもこの少年、おそらくほぼあてずっぽうなので、ここは強く否定しておくに限りますね。
……初対面なのでその仕事はライクスさんに譲りますが。
「お前はこの男が勇者に見えるのか?」
「え?……えっと……」
少年はそこで口ごもります。見えないんですね。
「……お前なんかむかつくな」
「え!?」
「よーし、んじゃあさっさと街に入っとくか」
「ええー!」と叫ぶ少年をよそに、お兄ちゃんはさっさと歩き出そうとします。拗ねたんでしょうか。いえ、拗ねましたね。
少年は慌ててその前に立ちはだかります。
「ちょっと! ちょっと待ってください!」
「何だよ」
「その……そう、お礼!お礼をさせてください!」
「だからお前を助けたわけじゃねぇっつってんだろ」
「そんなこと言わずに!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ出した二人の後ろで、私とライクスさんはこそこそ言葉を交わします。
「どうしますか、この人」
「大人しくお礼というやつを受け取っておいたほうが無難だと思うが。正体さえばれなければいいんだろう」
「そうですね。お兄ちゃんが一番ばらしそうで心配なんですけど」
「そのとき人に詰め寄られて困るのはこいつだ」
「確かに……子供に名前をつけてほしいって言われて一番困ってたのもお兄ちゃんでしたね」
少し前のことを思い出し、二度と同じ間違いを犯すものかと心に誓います。
何はともあれ、お兄ちゃんが今の……なんでしたっけ。名前がつけられるほど有名な魔物を追い払ったと知られたら、無駄に注目を浴びることになります。口止めは必至です。
「お兄ちゃん、こんなにしつこく……じゃなくて、せっかくここまで言ってるんだからそう邪険に扱うものじゃないよ」
「あん? 何だよ珍しいな。人見知りを自称してるくせによ」
「ほらほら、師匠も言ってたよ。『もらえるものは貰っとけ』って」
「……お前たちの大雑把さの原因はその辺りにありそうだな」
ライクスさんの呟きも今は聞き流します。
「……っはぁ、しょうがねぇ、のか?」
「そ、それは良かったです!もう本当に!」
目をきらきらさせつつも、なぜか安心した風に少年は言います。
「とりあえず街に行きましょう。僕の家があるので。あまり裕福なわけはないんですけど、出来ることはさせてもらいます!」
それから思い出したように付け足しました。
「あ、僕はノイル。えっと、そちらは?」
「俺はフィルザッツなー」
「私はフェルートです。よろしくお願いします」
「そっちの仏頂面はライクスな。一応言っとくと性格悪いから」
「お前の頭ほど重症ではないがな」
「あ?」
自己紹介中も喧嘩が勃発するという、これ以上ないくらい分かりやすい自己紹介が行われます。
お兄ちゃんは『聖剣の勇者』として名前は発表されていないので、普通に名乗っても大丈夫です。私も同様ですね。
ライクスさんの場合はなんだかよく分からないんですが、この旅に出る以前から一部の人の間では有名だったらしく。まぁ、本人に確認はしてませんけれど。少年……ノイルさんは知らなかったようですね。良かったです。
私たちはこうして、思わぬ出来事にぶつかりつつも、無事街に入ることが出来ました。
- Re: 勇者パーティーです。 ( No.28 )
- 日時: 2012/11/08 18:41
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
◆◇◆
話をしてみると、どうやらノイルさんは私よりも年上らしいということが分かり、敬語はやめてもらいました。
不当に丁寧な態度で接されるのは、いろいろやりにくいです。
「へぇ、フェルートちゃん15歳なんだ。そんな子がこのご時世旅に出てるなんて、すごいや!」
ノイルさんは素直に感心したように言いながら、街角を一つ曲がりました。
進むにつれ似たような形の民家が増えていきます。住宅地ですね。平べったいレンガ造りの家がたくさん並んでいます。
道は石畳。平らで歩きやすいところもあれば岩肌と変わらないようなところもあり、気をつけないと転びそうになります。
……いえ、すでに転びましたけど。
「は。ただ足引っ張ってるだけだっつの。すごいことなんてねぇよ」
「た、たまには貢献してるよ!」
「たまには、だろ?」
「っ……!」
むかつきますこの兄……。
いつもなら蹴飛ばしてやるところですが、歩きながらは難しいです。
もちろん諦めません。持ち越すだけですよ?
「あは。仲がいいんだねぇ」
「どこがですか……?」
ノイルさんが雑な感想を呟きます。
「僕も兄弟と暮らしてるんだけどさ。もう兄貴が怖いんだよ。怒らせると特に」
「怖い?」
「うん……魔物の比じゃないね」
「魔物ねぇ。命の危険があるわけじゃねぇだろ」
「それでもさ。最近結婚して家を出てくとか言ってたんだけど、正直ほっとしてる……。ほんとに怖いんだよ」
大真面目な顔でノイルさんは繰り返します。
「お兄さん、結婚するんですか?」
「うん。多分小さい式になると思うけどね。結婚相手の人はまだ一回しか会わせてもらってないけど」
「おめでとうございます」
「この魔物が多い時期に結婚とは、まためでてぇな」
「こういう時期だからこそ愛を信ずるべきだ!とか言ってたよ。何はともあれ、出て行ってくれて清々するって感じだけどね」
結構仲が悪いのでしょうか。ノイルさんは苦笑いしながら言います。
「そういえば、何でノイルさんは街の外を出歩いてたんですか? 危険なんですよね?」
「あぁ、うんそれはちょっと、探し物をしてて」
「探し物? ってなんだ?」
「……ははは」
突然意味もなく笑い出すノイルさん。言いにくいことのようです。
まぁそこまで興味があるわけではないので深くは突っ込みませんが。
……と思っていたら、ノイルさんは自分から口を開きました。
「あ、兄貴の…………を」
「あ? 何だって?」
聞き取れずお兄ちゃんが聞き返します。
ノイルさんは足元に転がっていた小石を蹴飛ばし、もう一度。
「いやそれが……兄貴の結婚指輪を、探してた……」
結婚指輪?というとあの、結婚するとき交換する指輪ですよね?
「……それって、結構大切なものなんじゃないですか?」
「つーかかなり大事だろ」
「うん……」
ははは、と乾いた笑いを形だけは浮かべながら、ノイルさんは俯きます。
「いや、僕が無くしたわけじゃないんだけどね……。兄貴が酔っ払って、調子に乗って街の外に出てさ。そこで落としたらしいんだけど、正確な場所も分からないし、外には魔物がいるしで、どうにもなんないんだよ」
「お兄さんに頼まれたんですか」
「いや、そういうわけじゃないけど。結婚目前にしてようやくお金をためて買った指輪を無くしたなんて、本人は誰にも言ってないはずだよ。あの人が言えるはず無いね」
「結婚相手にもか?」
「たぶん。って言うか一番言いたくないでしょ」
「だから1人で黙々と探していたというわけですか」
「そういうこと。……はあぁ」
憂鬱そうなため息。
相当参ってるみたいです。ですが——
「それって……」
私とお兄ちゃんが言葉を発したのはほぼ同時でした。
「結局仲いいんじゃねぇか」
「結局、そのお兄さんのために探してるのでは?」
あれ、被ってしまいましたね。
「え?」
きょとんとした顔でこちらを見てくるノイルさん。
お兄ちゃんはかなりどうでも良さそうに続けます。
「つまり兄貴の大事な無くし物を探してやってるってだけだろ。嫌いな奴のために頑張れるかよ」
「……え?えーっと」
ノイルさんは口ごもり、困ったように頬を片手で掻きます。戸惑ってますね。
「そう……なのかな。考えたこともなかったし」
「なるほど……」などと呟きつつ、ノイルさんは1人で何度もうなずきます。
いや、少し他人に影響を受けすぎな感じがしますけど、大丈夫でしょうか。
「……やっぱり君たちは仲が良いよね」
「何でそうなるんだよ」
「何でそうなるんですか……」
その後、お兄ちゃんとノイルさんが兄弟仲に関しなかなか壮絶な議論を展開し始めたので、いったん会話の輪から外れさせてもらいます。
代わりに。
「ライクスさん、ちょっと訊きたいことが」
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