コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- お前なんか大嫌い!!
- 日時: 2017/01/29 23:27
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」
「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」
「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」
この物語は、
世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。
超おバカな——アンチヒーロー小説である。
***** ***** *****
こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
守ってくださるとうれしいです。
1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。
以上を守って楽しく小説を読みましょう!
ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。
お客様!! ↓
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人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様
目次
キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02
第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111
テコ入れ>>112 >>113 >>114
第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210
エピローグ
>>211
あとがき
>>212
番外編
・ひーろーちゃんねる
キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74
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- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.143 )
- 日時: 2015/04/18 19:03
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
ジェットコースター、メリーゴーランド、コーヒーカップなどテンポよくアトラクションを制覇した2人だが、ついに聡里の方が悲鳴を上げた。
翔は死神であり——つまりは人間ではない為、体力も底なしなのだが、聡里は人間である。ジェットコースター、メリーゴーランドと次々とアトラクションに乗れば体に限界がくるのも当然のことだ。
3つ目のアトラクションであるコーヒーカップを終えたところでへなへなと座り込んでしまった聡里を見下ろし、翔は今までの自分の行いを振り返って後悔する。相手を思いやっていなかったか。
「悪い、聡里よ。ついはしゃぎすぎて」
「いいえ、お気になさらないでください。体力がにゃ……ない、僕の責任です」
へへ、と力なく笑う聡里だが顔が青白くなってしまっている。
このままでは聡里が力尽きてしまう。そういう訳で、いったん休憩を挟むことにした。
近くにあったメルヘンなベンチに聡里を座らせ、「飲み物を買いに行ってくるので待機していろ」と命じた。そして飲み物が売っているスタンドを目指した。
スタンドは案外早く見つかり、翔はお茶のペットボトルとミネラルウォーターのペットボトルの2本を手に取って、レジ台に置いた。
「袋はいらん」
「付加価値ついて560円になりますー」
「「…………ん?」」
そこで翔はピタリと全身の動きを止めた。取り出した財布を落としそうになったが、何とか耐えた。
ゆっくりと視線を上げると、レジ台に立つ店員の顔が視界に入ってきた。
茶色の髪の毛は帽子の中に押し込められているが、毛先は後ろで軽く結わかれている。いつものヘッドフォンは耳にないが、代わりにあるのはインカムだった。おそらくインカムで音を拾っているのだろう。小柄な体躯はカラフルな制服に包まれている。
つまり、そこには。
天敵たるヒーロー、椎名昴が立っていた。
「き、さま!! 何故ここにいる!!」
天敵を見とめた瞬間、翔は完全に素に戻った。周囲にいた客が一斉に翔を見る。ちなみに聡里とは距離がある為、彼には翔の声など届いていなかった。というよりグロッキー状態なので、翔の方すら見てもいなかった。
翔と昴の空気は一触即発状態になる——と思われたが、案外そうでもなかった。
何故なら昴が翔の頬をむぎゅっと掴んでいたからだ。おかげで翔の口はタコのようにすぼまっている。
「目立ってるからな。目立ってるからな? こんなところで問題起こしてバイトをクビになりたくないんだよ」
「むが……っ。それは俺様とて同じだ。大切な約束をここで貴様と乱闘騒ぎ起こして不意にしたくはない」
「約束……ああ、あの可愛らしい小学生みたいな男の子とデートだっけ。だからお前そんなメルヘンな格好してんだな。だけど態度隠せてねえなお前。ツラだけ女で口調は男とかどこのエロ漫画」
「今すぐ燃やし尽くされたいか。俺は構わんぞ」
昴の拘束を振り切った翔は、舌打ち交じりに精算した。千円札を叩きつけ、ペットボトル2本を強奪する。
最も会いたくない奴に会ったと内心で苛立ち、スタンドを去ろうとしたところで「おいコラクソ死神」と声をかけられる。
「あ?」
「人がせっかくアドバイスをくれてやろうって時にその態度は何だ。まあいい。一応勧めておく。お化け屋敷は結構楽しいらしいぞ」
「貴様のアドバイスを素直に受けると思うか?」
「じゃあ独り言で処理して置いてくれ。あ、いらっしゃいませ。ハイ、このカチューシャですね」
翔の次にやってきた客に、笑顔で接する昴。自分とは大違いである。
明らかに違う態度に舌打ちをした翔は、ふと昴の言葉を思い出す。
なるほど、お化け屋敷か。幽霊の類は常に見えている翔にとって、お化け屋敷など怖いものではないが考えには至らなかった。
「面白そうなら行ってみよう」
ニヤリと笑った翔は、何かを企んでいる——というより、小悪魔的な笑みだった。
***** ***** *****
『恐怖!! 少女の館!!』と銘打たれたぼろぼろの屋敷からは、甲高い悲鳴が上げられていた。
何故かこの辺りだけ暗く、じめっとしている。これもお化け屋敷の演出だろう。
古びた木製のドアの前に立つ翔の腕に聡里がしがみついてきた。これではどちらが彼女か分かったものではない。
「怖いか。やめるか?」
「い、いえ、だい、だいじょ、大丈夫です!!」
そう意気込んだ聡里だが、何故か肩が震えている。
翔は聡里の体を引き剥がして、代わりに手を握った。
「怖かったら言え。俺様が守ってやる」
「翔さん……!!」
明らかに彼女が言う台詞ではないのだが、まあ翔は男なのでよし。
従業員のお姉さんに案内されて迷路の中に通される2人。ブラックライトに照らされたその先には——
「……これは」
幽霊役の従業員に混じって、本物の幽霊がいくつも浮いていた。首吊り、頭がない、腕や足がない、床を這いまわっている……などなど。多数の幽霊がそこに存在した。
甲高い悲鳴が聞こえたのは演出ではなく、本気だったのか。おそらくそれはさして霊感がない女が上げた悲鳴だろうが、もしここに霊感を持つ女が入ったらどうなるか。
翔は口元を引きつらせ、このお化け屋敷を勧めたヒーローへ呪詛を吐く。
「あのクソヒーロー……見えていないからって……!!」
一方でヒーロー・椎名昴は。
「あ、そうだったあいつ死神だったわ」
客の波が去って暇になった昴は、遊園地のパンフレットを読んでいた。
現在のページはお化け屋敷で止まっている。その説明文にはこう書かれていた。
『本物の廃墟をお化け屋敷に改造!! 怖さ100倍!! カップルにオススメ!!』
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.144 )
- 日時: 2015/05/10 22:31
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
あげさせてください
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.145 )
- 日時: 2015/05/17 22:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)
ヒーロー殺す。
お化け屋敷を歩きながら、翔はひたすらに念じていた。そりゃもう、お化け役に徹している従業員が引くぐらいに。
翔と違って霊感0なヒーロー、椎名昴は善意でこのお化け屋敷をオススメしたのだろう。だが、翔は幽霊が見える。バリバリ見える。「霊感がある」とほざく人間どもとは比べ物にならないぐらいに見える。何故なら彼は死神だから。
では何故、幽霊が見えたらいけないのか。
「……鬱陶しい」
床を這いまわる女の幽霊をどこ吹く風で踏みつける。「ふぎゃ」という低い声が聞こえたがお構いなしだ。
ちなみにこの東翔という死神、幽霊が見えるだけではなくて幽霊の声も聞けるし触れるのだ。霊媒体質ともいう。ブン殴ろうと思えばブン殴れる。
しかし、それをやったら最後、聡里に変な奴だと思われるだろう。いや、すでに女装している時点で変な奴だとは思うのだが。それはどうか、心の中にだけ留めておいてほしい。
背後で「ヒィ!!」と悲鳴を上げながらワンピースを握る聡里を一瞥し、翔は次のステージへ続く扉を開いた。
長い螺旋階段がある、広いホールだった。どうやら螺旋階段を上って、2階へと行くらしい。天井には蜘蛛の巣が張り、螺旋階段の手すりは埃で汚れている。なかなか怖い雰囲気が出ている。
その、螺旋階段の終わり近くに。
白い少女が、佇んでいた。
「…………」
「しょ、翔さんどうしたんですか?」
「いや何でもない。何でもない」
何でもなくはないが、一般人を心配させない為にあえて「何でもない」と言った。珍しく空気を読んだ翔である。
白い少女は、ホールへ入ってきた翔と聡里へ視線をやった。本来目がある部分が空洞だった。何この子、恐ろしい。
こんな時、鎌が出せればと翔は思う。鎌が出せれば目の前の幽霊など冥途送りにしてやったのだが、あいにく今は正体を隠している。聡里に隠れて鎌を出すなどできやしない。目の前で凶器を装備すればそれこそ変な目で(以下略)。
とりあえず階段を上る。ギシ、と階段が音を立て、聡里が息を呑む。
ギシ、ギシ、と順調に階段を上っていく。最後の階段を踏んだ時、白い少女と目が合った。
髪も肌も白いが、眼だけが空洞。眼窩のみである。眼球どこへやった。ニィと裂けるような笑みを浮かべる少女。この少女、もしかして翔が見えているということを知らないのか、それとも見えていることを知って嬉しいのか。
「笑うな、癪に障る」
パァンッ!! と。
翔はこともあろうに、少女の幽霊へ平手打ちをかました。
当然ながら翔は霊媒体質。幽霊への攻撃はもちろん通る。
よもや少女の幽霊も平手をブチかましてくるとは思っていなかったのだろう。平手をよけきれずに攻撃を喰らい、ゴロゴロと階段を転がり落ちていく。
そして次にやってきた客の前に滑り落ちたのだが、そのうち1人——20代後半ぐらいの黒髪の男性が見える体質だったのだろう、「ヒッ」と驚いているようだった。
「ど、どうしたんですか翔さん?」
「虫がいた」
苦し紛れの言い訳をしれっとした顔で言った翔。
涙目の聡里はそれを信じ、「そ、そうですか」と頷いた。この子はどこまで純粋なのか。
***** ***** *****
一方、翔を追いかけて遊園地入りを果たした悠太たちは、そのまま翔を追いかけてお化け屋敷へと入った。
パーティー4人は全員見える体質。そのうち1人(悠太)は死神で当然ながら霊媒体質。そして1人(ユフィーリア)は地獄で最強の処刑人なので、幽霊をぶった切れる。出雲は悪魔なので地獄に引っ張り込むことができるし、雫の精神を狂わせる弾丸は幽霊にも通じるというチートじみたメンバーだった。
なので、こうなった。
「「「「うわ」」」」
従業員のお姉さんに案内されて屋敷へと足を踏み入れた4人は、あんぐりと口を開けた。
お化け役の人間の従業員に混じって、首吊りをした男の幽霊や床を這いまわる(何故か背中に足跡)女の幽霊が存在する。
「これ全員狩り尽くしていいかな。楽しむよりもまず先にお仕事をしたい」
ユフィーリアが模造刀だと言い張って持ち込んだ空華を握りしめる。『痛いよ!!』という空華の訴えを聞いて、ユフィーリアはさらに握力を込めたのだった。その意味には「静かにしてろ」というものを込めて。
ワーカーホリック気味なのか、悠太も鎌の代わりであるフルートを構えそうになったのだが、いかんいかんと頭を振る。ここでは4人は人間に徹しなければいけない。お客さんなのだ。埃だらけの屋敷でフルートを出してみろ、変人に(以下略)。
「でもどうしますー? こいつら鬱陶しくて先に進みたくないんですけどー」
「出雲君さー、手っ取り早く誘惑して地獄に引き込んじゃいなよ。悪魔なんだからさぁ」
「悪魔だからってできることとできないことが……いやめんどくさいからやりたくないだけで」
つまりはできるけど面倒だからやりたくない、という意味である。
悠太はそんな面倒くさがりの出雲にストレートを喰らわせて、お化け屋敷を闊歩する。従業員の人は不思議に思うだろう、何故彼らは怖がらないのかと。
本物を毎日のように見ていれば怖がることもないのである。
そして彼らは、問題の少女の幽霊がいるホールへと差し掛かる。
2階へ続く扉の前へと戻った少女の幽霊を見上げ、ユフィーリアがまず特攻。人並み外れた身体能力を活かして螺旋階段を使わず、跳躍だけで2階に上がるという反則的ショートカットをする。
驚いた少女の幽霊の、空洞となった眼窩へ問答無用で目つぶし。ユフィーリアの指は空洞を穿っただけで、眼球には触れられなかった。
「あ、やっぱ空洞かぁ」
「当たり前だろ!! 何してんだよ!!」
階段を急いで上ってきた悠太は、チョキにした自分の指先を眺めて不思議そうな顔をするユフィーリアの後頭部を叩いた。
続いて上ってきた2人の「放っておこうぜ」という台詞に、4人はスルーして先に進むのだった。
嵐のような4人を、ぽかんとした様子で少女の幽霊は見送るのだった。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.146 )
- 日時: 2015/06/03 22:31
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Ngz77Yuf)
「……ん?」
先に異変を感じ取ったのは、霊感が全くないはずのヒーロー・椎名昴だった。
お化け屋敷方面を見上げ、首を傾げる。現在は休憩中なので、お茶のボトルを片手にパンフレットを見ているところだった。別にサボっている訳じゃない。スタンドには別のお兄さんが愛想よく店番をしている。
道行く子供に手を振られたので、満面の笑みで手を振りかえしてから一言。
「なんか風が湿っぽいな……」
なんかあったっけ、雨? と記憶を探るが天気予報では雨を予想していなかったし、そんな訳ないかと結論付ける。
パンフレットへと視線を落として、ページをパラパラとめくる。
「あの死神、お化け屋敷で変なことしてねえよな」
さすがに同行者がいたから正体は隠してると思うけどなぁ、とぼやきながらお茶を飲む。
緩やかに時間は過ぎ去っていく。
***** ***** *****
一方の翔だが、出口に差し掛かったところで異変が起きた。
なんと、出口の扉がいきなり閉まったのだ。演出家と思ったが、急にである。バタンッ!! と目の前で閉ざされた。
「何事だ」
「ええ!? えええええんしゅ、演出でしょうか!?」
聡里が翔のワンピースの裾を掴む。その腕はかすかに震えている。そりゃそうだ、目の前で扉が閉まれば誰だって驚くだろう。
翔の柳眉が寄せられる。これは演出などではない。完全に幽霊の仕業だ。
幽霊の仕業と言っても、この辺りには数多の幽霊が存在する。誰が犯人なのか分からないのだ。片っ端から幽霊を狩って、冥途へと送ってもいいのだが、同行者は普通の人間だ。変に思われる。
翔の後ろを歩いていた男女のペアが追いついてきた。扉が閉まっていることを不思議に思っているようだ。
「このままではゴールにたどり着けん」
翔は扉を押した。だが、扉はピクリとも動かなかった。
畜生、向こうから押さえつけているのか。翔は胸中で舌打ちをして、ドンドンと扉を叩いた。
「おい、誰かいないのか!!」
ていうか貴様らどけ、と向こうにいるだろう幽霊へ向かって念を送ってみるが、無駄だった。扉は開かない。
男女のペアもドンドンと扉を叩いては、「開けて!!」「どうしたんだ!!」と叫んでいるが、びくともしない。蹴ろうが叩こうが喚こうが、扉は閉ざされたままである。
「聡里、少し離れていろ」
「え、翔さん何を!?」
扉を叩く男女のペアを押しのけて、翔は扉へ思い切り回し蹴りを叩き込んだ。
ガツッと扉に回し蹴りが命中するが、扉は開かなかった。何故だ。幽霊、どこまで邪魔をすれば気が済むのだ。
「しょ、翔さん大丈夫ですか!? 何があっちゃ、あったんですか!?」
「蹴れば出られると思ったのだが」
原因は分かっている、幽霊のせいだ畜生。
何とか蹴破れないものかと回し蹴ってみたのだが、翔の攻撃に幽霊は動じなかったようだ。というか、死神の脚力でも蹴破れない扉とはこれ如何に。
どうすればいい、と頭を悩ませていると、クスクスクスと笑い声が降ってきた。
怪訝な顔で天井付近を見上げてみれば、そこには眼窩が空洞となっている白い少女の姿があった。空中に浮いて、クスクスとこちらを見て笑っていた。
『あそぼうよ』
少女は言う。可愛らしい、高い声で翔にねだった。
翔は目の前に降り立ってきた白い少女を振り払う。「ふざけるな」と怒鳴ってみろ、ふざけているのは翔の方になる。
何とか名案はないか。自分の周りをうろうろと彷徨い『遊ぼう』とねだり続ける少女を無視して、考える。
『あそんでくれないならいいよ』
痺れを切らした少女が、再び浮き上がる。
次の瞬間、屋敷に地震が襲いかかった。
ガタガタと上下左右に屋敷が揺れる。男女のペアが悲鳴を上げて床に座り込み、聡里も悲鳴を上げて飛び上がる。その拍子によろめいて壁へ背中をぶつけた。
衝撃で燭台の蝋燭が倒れて聡里へと落ちる。翔は反射的に聡里へと覆いかぶさった。
激痛が背中に走る。「くっ……」と苦悶の声を漏らすが、翔は死神なので大した怪我にはならず、すぐに回復する。
「しょ、翔さん……!!」
「心配するな、ただの火傷だ」
自分の腕の中で心配そうに見上げる聡里へそう告げ、翔は白い少女を睨みつけた。
少女は楽しそうに笑っている。
ここまで我慢してきたが、もう限界だった。かの少女はヒーロー以上にムカつく存在へと変わった。翔の中にある『絶対に冥途へ送ってやるランキング』の順位が変わり、第1位の椎名昴の横に白い少女がランクインする。
この野郎、許すまじ。
すっくと立ち上がり、今にも泣きそうな聡里の頭を乱暴にくしゃくしゃと撫でてから、
「貴様なんぞ大嫌いだッ!!」
拳を握って少女へと殴りかかったのだった。
***** ***** *****
「え? 幽霊屋敷に異変が? 気のせいじゃないですか?」
インカムに入った音声に、昴は反応する。
何でも、出口の扉が突然閉まってしまったらしい。しかも開かないのだとか。外から係員が開けようとしてもびくともしないようである。
『頼むよ。椎名君、結構力持ちじゃん』
「力持ちですけど冗談じゃないッスよ。設備を壊して弁償するのは嫌ですよ?」
『この際壊さないといけないかもしれないんだよ。大丈夫だって、弁償はないと思うよ。今はお客様の安全を確保しないと』
しかも中からドカッとかボコッとか音が聞こえるし、と音声は告げる。
昴は少し考えてから、座っていたベンチから立ち上がった。スタンドへ向き直って、笑いながら接客している青年へと声をかける。
「ちょっとヘルプ呼ばれたから行ってくるな」
「いってらー」
緩い返事を受けて、昴は人混みの流れに沿ってお化け屋敷へと向かった。
頭の端に「まさかあの死神がやらかしたんじゃねえよな」と思いながら。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.147 )
- 日時: 2015/06/20 21:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Ngz77Yuf)
まさか殴りかかられるとは思ってもみなかったようで、少女は引きつった表情のまま固まっていた。
そのまま翔の拳が顔面に叩きつけられて、壁をすり抜けて吹っ飛ぶ。(※何度も言うようですが、翔は幽霊に触れる体質です)
はた目から見たら虚空を殴りつけただけのただの変人だが、今の翔にそういうことを考えている余裕などない。世間体を気にするほど、死神は神経質ではないのだ。
ひそひそと声を潜めて、「あの人やばーい」「空気殴ったよ……」とか罵っているカップルをギロリと睨みつけてから、翔はぐるりと辺りを見回した。
今のところ、視界には幽霊はいない。白い少女は顔面を殴られてから、壁の向こうだ。おそらく壁を蹴破ったところで何もないだろう。
『ひどいことをする……』
「フン、幽霊相手に手加減などするものか」
『おんなのひとなのに、なんで、こわがらないの?』
————女の人?
翔は自分の格好を見てみる。白いワンピースの上からカーキ色のカーディガンを羽織り、さらに茶色のダッフルコートという極めて可愛らしい格好である。ふむ、なるほど。確かに女子の格好だ。
だからどうした。
世の中には女装を楽しむ男もいるのだ。
「貴様に残念な知らせを2つほどしてやろう。まず1つ目だが、俺は『男』だ」
ポニーテールで結わいていた髪の毛を解き、いつもの左サイドで結び直す。
指をポキポキ鳴らしてから、首をぐるりと回して体をほぐしていく。死神に体をほぐすなど関係ないのだが、気分である。雰囲気である。
翔はゆっくりと虚空に手を伸ばした。さながら、誰かに「下がれ」と合図しているかのように、手を横へ伸ばす。その手の先に、紅蓮の炎が生まれた。
壁から現れた白い少女の眼窩が大きくなる。眼球があったら見開いて驚いていることだろう。
「2つ目だが」
紅蓮の炎が徐々に形を成していき、長い柄になる。柄の先が歪曲し、垂直に取りつけられた刃となる。
死神が魂を刈り取る時に用いる鎌だ。
聡里はポカンとしていた。もちろん、翔を変人とひそひそしていたカップルも同様に。
驚く少女へ不敵に笑った翔は、自分の正体を告げる。
「——死神に喧嘩を売ったのだ、きちんと相手をしてくれるのだろうな?」
翔の体が炎に包まれて、白いワンピースから漆黒のコートへと変わる。その姿は、先ほどの可愛らしい格好とは打って変わって、禍々しいものだった。
***** ***** *****
お化け屋敷の中が何やらうるさい。
なんか、ゴウッとかボウッとか音がして、女の人の悲鳴が聞こえる。
閉ざされた出口の扉を引っ張ってみたが、普通の力ではびくともしなかった。そう言えば、責任者の人に問い合わせてみたところ『お客様を助ける為なら大丈夫』という回答をいただいたので、本気を出すことにした。
「ほいっ」
出口の扉を、本気で引っ張った。
バキッと扉が外れた。本来なら幽霊が押さえていたのにもかかわらず、だ。
ヒーロー・椎名昴は霊感などというステキ能力は持ち合わせていない。ビルを吹っ飛ばし、河原を吹っ飛ばすほどの怪力の持ち主だ。それ以外は残念ながら非常に高いオカンスキルぐらいしか持ち合わせていないのである。
当然、死神のように幽霊の声が聞こえて幽霊の体に触れるなんて能力など持っていないので、幽霊が押さえている扉をいとも簡単に破壊できたのである。
「お客様、大丈夫ですか? 早くここから——」
逃げてください、という言葉は出てこなかった。
目の前に広がる光景が、そうさせなかった。
何故、あの憎き死神が、炎が出ている鎌をブンブン振り回しているのでしょうか。
再度言う。昴には霊感がない。なので、あのアホ死神が何と戦っているのか分からない。
だが、やることは1つだ。
昴は落ち着いてヘタリと座り込んでいるカップルを誘導して、翔の近くにいる小学生らしき紺色の髪を持つ少年の襟首をひっつかんだ。
「な、なに!? なに!?」
「いや逃げるから。あの炎に触れるとまずいから。大丈夫、お兄さんに任せてね」
少年を担ぎこんでお化け屋敷の外に避難させてから、昴は拳を握った。
お客様を逃がす為ではない。彼の成すべきことはただ1つ。
あの死神をブン殴ることだ。
「————こんなところで何してんだクソ死神ィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
助走をつけて思い切りブン殴った。
綺麗な放物線を描いて、翔はお化け屋敷の奥へと転がった。その先にお客様がいなくて何よりも安心した。
ズシャァァァ!! と背中からスライディングした翔へと、昴はさらに追撃をかます。エルボーを繰り出す為、肘を突き出した格好でジャンプ。
しかしエルボーを叩き込んだ時には、すでに翔の姿はいなかった。いつの間にか背後に立っていたのだ。
「————貴様はどこまで邪魔をするのだポンコツヒーィィローォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
巻き舌をプラスして翔は鎌を振り上げた。その先にはやはり炎が灯っている。
だが、その炎がおかしい。
紅蓮の炎ではなくて、漆黒の炎?
「え、ちょ、何それ何それ何それ何その炎え?」
「黙れ甘んじて受けろォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
昴の質問を鮮やかに無視して、翔は黒い炎が灯った鎌で昴を切りつけた。
痛みはなかった。熱さもなかった。ただ、異変はあった。
翔の後ろ。出口付近。何か浮いている。白い少女だ。ただ、その眼球の辺りは空洞だったが。
「」
言葉をなくした。息も止まるかと思った。何あの少女、こっち見てるんだけど。見て、ものすっごいきょとんとした表情しているんだけど。
グイッと翔に胸倉を掴まれて極限まで、それこそキスができそうなほどに顔を近づけられる。吐き気がしたが、それ以上に恐怖が勝っていた。
「この屋敷には、あの女みたいな幽霊が数多く存在する。それらが、客人を危ぶませるのだ」
キラリと輝く赤い瞳。
翔はいたって真剣な表情で、告げる。
「黙って俺に協力しろ。このままだと、この遊園地に幽霊がのさばるぞ」
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